健全性規制の動向

 

ニッセイ基礎研究所の荻原邦男さんが
「生保会社の健全性規制の動向(1)」というレポートを出しています。
(1)とあるので、何回か続くのかもしれません。
ニッセイ基礎研HPへ

第一回目のテーマは、
「日米欧の健全性規制で現在何が問題となっており、
 それはどのような歴史的経緯によるのか」
でした。

詳しくはレポートに譲りますが、EUでは
・ソルベンシーⅡが円滑なスタートを切れるかどうか
・ソルベンシーⅡの同等性評価による他国への影響
に注目とのこと。

他方、米国では「ORSA(Own Risk and Solvency Assessment)」
というリスクとソルベンシーの自己評価制度の導入について
紹介しています。

荻原さんが米国ORSAに注目する理由は、次の通りです。

・米国の監督規制は基本的にルール・ベース(細則主義)色が強い。
 ORSAはプリンシプル・ベース(原則主義)の規制であり、
 どのように運営がなされるのか。

・リスクの自己評価は、つまるところソルベンシーⅡにおける
 経済価値的評価につながるもの。
 「従前路線の踏襲」とどのように併存していくのか。

・どの国にも共通するが、ORSAの実施は民間だけでなく、
 監督サイドに相当な資源が必要になるものと考えられ、
 米国がどのように対応するかも焦点のひとつ。

さすが荻原さん。鋭いコメントだと思います。

※いつもの通り個人的なコメントということでお願いします。

※日本の郵便制度は英国を参考にしたそうですが、
 ポストの色まで参考にしたのかどうかは不明です。
 最初(1871年)の日本のポストは黒かったようですし、
 英国で赤いポストが登場したのは1874年とのこと。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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ロイズのネッシー保険

 

ロイズについて調べ物をしていたら、米山高生先生の
著書「物語で読み解く リスクと保険入門」のなかに、
ネス湖の怪獣ネッシーを捕獲した際の懸賞金の補償を
ロイズが引き受けたという話が載っていました
(ちなみにそれを調べていたわけではありません^^)。

米山先生はこの件について、
・保険集団による危険の分散ができないのに
 ロイズはなぜリスクを引き受けることができたのか?
・このようなリスクの引き受けを保険契約と呼べるか?
という疑問を持ったそうです。

「1つめの疑問はロイズの資本力と再保険ネットワークで
 解決できるとして、ネッシー保険のような保険集団を
 構成しない保険を保険契約と考えるのは妥当なのか」

米山先生は2つめの疑問への暫定意見として、
「保険会社が保険契約の様式でリスク移転の契約を行えば、
 そのリスクをどのように手当てしたとしても保険契約である
 と考えるのが自然」
と述べられていますが、皆さんはいかがでしょうか。

リスクマネジメントという観点からすると、
私の関心はやはり1つめの疑問にあります。

ロイズは「スペシャリティ」と呼ばれる企業向けの
特殊な保険を引き受けることが強みの一つとなっています。
ある程度はモデル等で管理できる部分もあるとはいえ、
基本的にはハイリスク・ハイリターン型のビジネスです。

この本によると、ロイズはギャンブル性の高い契約をしていた
一部のアンダーライターと決別するなど、市場としての規律を
保つための継続的な努力が行われてきたとのこと。

それでも個人が無限責任を負う長年の仕組みは
さすがに困難となり(1990年代初めの「ロイズ危機」)、
現在はほとんどの出資者が有限責任となっています。

ロイズ市場の運営も各シンジケート任せというわけではなく、
コーポレーション・オブ・ロイズがシンジケートを管理し、
リスクを分析しているようです(公表資料を参照)。

ただ、このビジネスの特性を考えると、最後は各シンジケートの
アンダーライターによるところが大きいのだとは思います。

 

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今でも建設ラッシュ

 

2008年の金融危機で英国の金融機関は大きな打撃を受け、
ロンドンの金融街シティーでは大リストラが実施されました。
シティーで活躍する金融機関は英国勢だけではないので、
欧州債務危機の影響も無視できません。

例えばBloombergの記事をみると、英国の金融サービス業界では
昨年だけで約5.8万人の人員削減があった(=世界最多とのこと)とか、
スクエアマイル(=シティー)の雇用が8.5%減少したとか出ています。

しかし、金融街を歩くと、意外にもクレーンがあちこちで見られ、
建設ラッシュが続いているような印象でした。

一つには、オフィスから高級マンションへの改築があるようです。
シティーのオフィス需要は低迷しており、貸すにも売るにも
このままではどうしようもないということなのでしょう。
加えて税金対策という面もあるとか。

ただ、もう一つは、好況時の開発計画を止められない、
ということかもしれません。1990年代後半の東京がそうだったように。

それにしても、ロンドンを歩くと新しいビルが目につきますね。

 

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ワークショップの「作法」

 

海外でワークショップなどに参加すると、
報告者が率先して説明中に質問を受け付け、
実際に参加者から多くの質問が出ます。
今回のスイスでの会合もそうでした。

日本では、報告者の話をすべて聞いてから、
最後にまとめて質疑応答を受け付けるというのが
一般的なワークショップや研究会の「作法」だと思います。

この「作法」の悪いところは、議論が深まりにくいことでしょう。
単なる発表会になってしまいがちです。

それでは海外の「作法」が優れているのかといえば、
これもケースバイケースだと思います。

例えば発表内容について一定の知識があり、
発表の全体像を踏まえたうえでの質問があれば、
質疑応答を通じて議論が深まるかもしれません。

ただ、これまでの経験からすると、
途中で「どうしてそれを今聞くの?」という質問が入り、
その結果、時間が足りなくなり、最後は駆け足で終わる、
というパターンも結構多いような気がします。

最後に質問しようとのんびり構えていると、
下手をすると時間切れです。それでは困るので、
仕方なく質疑応答に参戦することになりますが、
このタイミングが結構難しいんですよね。

こうなってくると、議論が深まるというよりは、
むしろ議論が拡散してしまうかもしれません。
表面的に「活発な質疑応答が交わされた」というだけでは、
そのワークショップは成功したとは言えないでしょう。

ということで、どこで質疑応答をするかが本質ではなく、
議論を深めるために報告者がどのような工夫をするか、
なのでしょうね。

※7年ぶりのロンドンです。

 

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スイスの多言語文化

 

週末にムルテンという小さな町を訪れました(写真)。
ベルンから電車で1時間弱のところです。
たまたま月1回のフリーマーケット(?)をやっていて、
多くの人で賑わっていました。

このムルテンは中世の姿が残っているというだけでなく、
ちょうどドイツ語圏とフランス語圏の境目に位置しており、
町の名前がムルテン(独)/モラ(仏)と二つあります。
住民はどちらの言葉も不自由なく使えるのでしょうか?
どんな生活をしているのか気になりますね。

スイスが多言語文化の国ということは昨年も紹介しました。
「スイスの存在感」
ドイツ語が約6割と最大で、フランス語が2割、
イタリア語とロマンシュ語はさらに少数派のようです。

ところが近年、ドイツ語圏ではフランス語などの国語より、
英語を優先して教える傾向が強まっているとか。
確かに仕事の世界では英語が共通語となっているので、
そうなってしまうのも理解できる話です。
ただ、フランス語圏など少数派には面白くないでしょうね。

スイスという国は自治権をもつカントンの集合体として
歴史的に形成されてきました。
ドイツ語を使うカントンやフランス語を使うカントンがあり、
カントンどうしがおたがいを尊重してやってきたため、
今の多言語状況があるようです。

言葉の問題でこじれると、カントンどうしの結びつきが
弱まってしまうおそれもあるのでしょうね。
一介の旅行者の感想にすぎませんが。

 

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再びベルンへ

 

1年ぶりにベルンにやってきました。
世界遺産の町並みは相変わらず美しいです。

欧州ソブリン危機が深刻化しているとはいえ、
ちょっと町を歩いただけでは全くわかりません。
そりゃそうですよね。

それにしても、ホテルでも町なかでも、
中国人と思われる集団が目立ちますね。年々そう感じます。
他方、日本人とはまだ出会えておらず、さびしい限りです。

今回初めてスイスがワインの生産地ということを知りました。
生産量が少ないので、ほとんど国内で消費してしまうとか。
さっそく赤ワインを調達し、部屋で味わいました。

 

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歴史的低金利

 

ドイツ・米国の長期金利が過去最低水準を更新しています。

 独10年債利回り=1.17%、30年債利回り=1.67%
 米10年債利回り=1.45% 30年債利回り=2.52%

ドイツの30年債利回りはなんと日本(1.78%)を下回っているのですね
(いずれもBloombergより。6/1時点)。

日本では歴史的低金利がもう10年以上続いていますが、
ドイツや米国では少し前まで長期金利が3%以上ありました。
保険アナリストとしては欧米保険会社の経営への影響が
気になるところです。

かつての日本の生保とは違い、一般に欧米の保険会社では
ALMを意識した資産運用を行っていると聞きます。

とはいえ、AXAやAllianzのEV(エンベディッド・バリュー)をみると、
金利感応度はそれなりに大きいようです。

例えばAXAでは、金利水準が1%下がると、生保のEEVが
34億ユーロ減少します。これは生保EEV381億ユーロの約9%です
(2011年末時点)。

Allianzでは影響がもっと大きく、金利1%の低下によって
MCEVは73億ユーロ減となり、MCEVは35%も減ってしまいます
(同)。

両グループはリスク管理態勢に定評があり、高格付を維持しています。
他の保険会社はどうなのでしょうか。

米国の変額年金も気になりますね。

米国では最低引出保証(GMWB)のついた変額年金が人気のようで、
終身保証も多いとか。
保証期間が長くなれば、金利による影響も大きくなるでしょう。

公表されている「Milliman Hedge Cost Index」によると、
終身保証のGMWBのヘッジコストは、すでに昨年後半以降、
リーマンショック後の2008年末の水準に匹敵しています。
金利要因による上昇が大きい模様ですが、詳細はよくわかりません。
MillimanのHPへ

材料不足でまだ何とも言えませんが、資産価格の下落だけではなく、
歴史的低金利による影響も無視できないかもしれません。

※昨日(2日)は横浜の開港祭でした。

 

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主要生保の2011年度決算

 

「12生保が増益」(日経) 「生保大手、全社増益」(朝日)
「生保決算 8社すべてで増益確保」(NHK)

25日(金)に出そろった生保の2011年度決算について、
メディアは基礎利益が増えたことに注目したようです。

基礎利益が増えた説明として、
「3月末にかけて株価が上昇し、運用成績が好転したためだ」(日経)
というのはややミスリードのように感じます。

大手4社の基礎利益は約1800億円増えていますが、
変額年金等の最低保証に係る影響は約400億円だけです。
それに基礎利益には株式の売買損益や評価損は入りません。

「全社とも増益となった理由の一つは、東日本大震災の
保険金支払いが震災直後の見込みより少なかったため、
多めに用意しておいたお金が戻ってきたことだ」(朝日)

2010年度には東日本大震災に係る支払備金の計上があり、
2011年度にはその影響がなくなったうえ、上記の理由から
全社増益になったという説明をするべきなのでしょうね。

Bloombergには、日本生命は「実質減益の厳しい内容だった」
というコメントが載っていました。BloombergのHPへ
保有契約高の減少が続き、第三分野の年換算保険料が
あまり増えていない現状を考えると、他社も胸を張って増益
という感じではなさそうです。

ただ、同じBloombergの記事によると、明治安田生命は
「それを除いても増益」だったそうです。
同社の場合、銀行窓販を中心に保険料収入が急増し、
資産平残が2兆円以上増えたことが影響しているのかもしれません。

ところで、以前このブログで大手生保の債券運用に関して、
「同社が『その他有価証券』の公社債をどんどん増やしている」
と書きました。生保の4-12月期決算から

今回も気になったので、さっそく12月末と比べてみると、
「その他有価証券」が急減し、「満期保有目的債券」が急増していました。
四半期決算もなかなか役に立ちますね。

※写真は旧東海道です(左が台町、右が軽井沢)

 

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損失発生をどう考えるか

 

前回のブログで、大手損保の自然災害に伴う発生保険金について、
次のように書きました。

 「かなり大きな金額のようにも見えますが、大手損保の純資産は
  やや減ったとはいえ4兆円近くあります。異常危険準備金も約2兆円です」

 「過去最大級の自然災害に伴う発生保険金といっても、その程度
  (=株価が10~15%下がった程度)のインパクトということです」

各社も投資家等に対し、具体的な説明をしています。

 「“資本バッファ”は直近で5500億円レベルを上回っており、絶対額としては
  低いレベルというべきものではありませんが、減少したことも事実ですので、
  保有リスクの削減を従来以上に加速することを検討しております」
  (MS&AD、2/13)

 「2011年9月末のサープラスは約6900億円だったが、その後の要因を
  勘案するとサープラス5000億円程度まで縮小している」(NKSJ、1/27)

多額の支払いで余裕がやや減ったとはいえ、財務基盤は揺らいでいない、
といったところなのでしょう。

ただ、JPモルガンの損失発生をめぐる一連の報道を見ていると、
損失発生による影響を余剰資本の範囲内に収めただけでは、
リスク管理として十分ではないことがうかがえます。

10日にJPモルガンが発表した損失は約20億ドルです。
JPモルガンのTier1コア資本は1220億ドルもありますし、
損失が多少膨れても、期間損益で十分吸収できるレベルでしょう。

しかし、今回の件がJPモルガンの今後のビジネスに与えた影響は
計りしれません。

報道されているだけでも、次のような「衝撃」がありました。

・リスク管理に定評のあった大手銀行による損失発生だった
・金融規制強化の流れのなかでデリバティブ損失が発生してしまった
・特定市場におけるポジションが大きくなりすぎており、
 それを経営陣が十分把握していなかったとみられる
・VaRモデルによるリスク評価の難しさが表面化した
 (モデルの見直しによる影響が報道されています)  など

今回の損失はいまのJPモルガンにとって、
発生させてはいけない損失だったと思われてなりません。
言い換えれば、経営陣がとるべきリスクを間違えたのではないか、と。

リスクの洗い出しとリスク選好(アペタイト)はERMを構築するうえで
極めて重要な要素ですが、そう簡単ではないことがわかりますね。
あのJPモルガンの経営陣でさえ間違えるのですから。

リスク管理の世界は奥が深いです。

※写真は鶴見の総持寺です。初めて境内に入りました。

 

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大手損保の2011年度決算

 

「損保の本業 最悪の赤字」「タイ洪水など打撃」(日経)
「損保 赤字膨らむ」(朝日) 「タイ洪水で5000億円支払い」(NHK)

大手損保の2011年度決算は、2011年4-12月期決算よりも
株価が上昇した分だけよくなったという印象です。
ただ、自然災害に伴う保険金支払額が大きかったためか、
例年よりメディアの扱いも大きかったようです
(もっとも、読売の記事は見当たりませんでしたが...→ 見つけました)

タイ洪水の話は以前書いていますね。2/18のブログへ
自然災害に伴う発生保険金としては過去最大級だと思いますし、
過去に日本の損保が経験したことのないタイプのものでした。

2011年度はタイに加え、国内でも台風など自然災害が多発し、
発生保険金額は、東日本大震災のあった2010年度の2倍以上
(家計地震保険を除く)となりました。
単体合算ベースで約6000億円といったところでしょうか。

損益上は異常危険準備金の取り崩しで緩和され、主に未払保険金
(≒支払備金に繰り入れた部分)だけが損益を圧迫するのですが、
財務上のインパクトとしてはやはり約6000億円と見るべきでしょう。

かなり大きな金額のようにも見えますが、
大手損保の純資産はやや減ったとはいえ4兆円近くあります。
異常危険準備金も約2兆円です。

別の視点から見てみましょう。
大手損保が保有する株式の時価は約5.5兆円です(単体合算)。
株価が1割下落しただけで5000億円以上も目減りしてしまいます。

2012/3末のTOPIXは854、5/18は725なので、▲15%です。
損保の保有株がTOPIXとどの程度連動しているかにもよりますが、
財務上のインパクトは2011年度の自然災害に匹敵しそうですね。

逆に言えば、過去最大級の自然災害に伴う発生保険金といっても、
その程度のインパクトということです。

なお、グローバルな損保市場では、多額の支払いが発生すると、
日本のように「損保は自然災害で大変だ」と騒ぐだけではなく、
「市場がハード化(=料率上昇)し、収益力が改善するのでは」
という見方も浮上するようです。
料率引き上げが日本市場よりも実現しやすいのでしょうね。

※写真は善福寺公園と東京女子大です

 

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