書評『戦国日本VSヨーロッパ』

週刊金融財政事情(2026年7月14日号)に載った書評「一人一冊」を当ブログでも紹介します。今回は『戦国日本VSヨーロッパ グローバルヒストリーで読み解く信長・秀吉・家康の対外戦略』を取り上げました。

以下、引用となります。
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教科書には載らない戦国史の事実

長崎観光の定番スポットである大浦天主堂(グラバー園の近く)は、現存する日本最古の教会で、国宝に指定されている。その正式名称は「日本二十六殉教者聖堂」で、16世紀末に豊臣秀吉の命令で処刑された26人の殉教者(1862年に聖人となった)に捧げた教会である。堂内には19世紀に描かれた「日本二十六聖人殉教図」も展示されている。

かつて日本史を学んだ人は、長崎に行ったことがなくても、織田信長と同じくキリスト教を擁護していた秀吉が一転してバテレン(宣教師)追放令を出したことを覚えているだろう。そして前述のとおり、宣教師とキリシタン26人を長崎で処刑したと記憶しているのではないだろうか。
ただし、私たちが学校で学んだ歴史は、キリシタン勢力の拡大に手を焼いていた秀吉による「(日本における)新興宗教への対応」であった。一方、大浦天主堂や隣接するキリシタン博物館の展示は、当然ながら「弾圧を受けた宗教者の目線」によるものだ。いずれも「政治や侵略の色」は薄い。

ところが本書によると、そもそもキリスト教化と植民地化はスペインの海外戦略の両輪で、実際、当時の長崎はイエズス会の支配下にあった。強大な軍事力を持つ日本を武力で征服するのは難しいため、キリシタンを増やし、キリスト教の国にする思惑があった。秀吉はその野望に気付いたため、キリシタン対応を一転させ、その中で殉教事件も起きた。驚くべきことに、スペインがこの事件を口実にして武力に訴え、世界戦争となる可能性もあったという。

本書は、2020年に放送された『NHKスペシャル戦国〜激動の世界と日本〜』を書籍化したものだ。地球規模での人やモノの動き、文化の伝播に着目する「グローバルヒストリー」の視点で戦国史を見直し、この時代の日本が世界史に影響を与える存在だったことを明らかにしている。
例えば、戦国最後の戦いである大坂の陣(1614〜15年)で、徳川方がオランダ製やイギリス製の大砲を使ったことはよく知られている。では、「豊臣方にカトリック勢力が協力した」「徳川方の勝利に貢献したオランダが日本の銀を得てスペインに対抗した」「平和になった日本で失業した侍をオランダが傭兵として植民地争奪戦に活用した」といった話をご存じだろうか。

本書には資料に裏打ちされた興味深い話が次々と登場する。戦国日本は、豊富な鉱山資源を持ち軍事的にも強大で、世界史の最前線にいたのだと分かる。
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中小企業の地震リスク対応

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1336(2026.7.13)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。写真は昨年ゼミで訪問した熊本地震の現場です。
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中小企業の地震保険加入率は低い

先日、私のゼミ(大学3年生と4年生の約20名)で、熊本に本拠を置く保険代理店の皆さんに熊本地震の体験を踏まえた講義を行っていただきました。その際に、2016年の熊本地震を受けて、熊本県では家計向け地震保険の加入率が急上昇する一方、中小企業の多くは地震をカバーする損害保険に加入していないという話になりました。
日本損害保険協会は21年から中小企業を対象に「リスク意識・対策実態調査」を行っています。直近の25年調査によると、企業を取り巻くリスクとして多くの会社が「自然災害(地震・風水災等)」を挙げ、約8割が地震危険補償特約を「知っている」「聞いたことがある」と回答したにもかかわらず、勤務先が地震危険補償特約に加入している割合は30.9%でした。しかも、調査のたびに加入割合が下がる傾向にあります。
参考までに、火災保険は58.6%、休業補償保険は11.3%、会社役員賠償責任保険は9.1%、サイバー保険は8.8%でした。

自分のところは大丈夫

調査では、地震をカバーする保険に加入していない理由も聞いています。回答の上位は「わからない・特に理由はない(38.2%)」「リスクが発生する可能性は低いと考えているため(26.0%)」「対策をする費用に余裕がないため(10.5%)」「リスクによって生じる影響・損失がわからないため(8.0%)」となっていて、火災保険と同じ傾向でした。
興味深いことに、21年調査や22年調査では「対策をする費用に余裕がないため」という回答が、「リスクが発生する可能性は低いと考えているため」を上回っていて、「保険料を他のことに使いたいから」という回答も上位を占めていました。当時は新型コロナ禍の影響で業況が悪く、当時に比べれば業況が回復したということでしょうか。
22年3月の福島県沖地震、24年1月の能登半島地震のように、その後も多額の保険金を支払うような地震が発生しています。「リスクが発生する可能性は低いと考えているため」という回答は、単に「自分のところは大丈夫だろう」というだけで、地震リスクをそれほど深刻に受け止めていないのかもしれません。

公助への過度な期待?

中小企業が地震リスクをそれほど深刻に受け止めない背景の1つとして、おそらく「何かあったら政府が助けてくれる」という意識もあるのではないかと見ています。
熊本地震では、被災した中小企業の施設・設備の復旧を支援するグループ補助金が提供されました。復興のリード役となりうる2社以上がグループを構成して復興事業計画を策定し、県の認定を受ければ、復旧費用の75%の支援を受けられる制度でした。能登半島地震でも、補助率75%の「なりわい再建支援補助金」があり、さらに、自己負担分に使える5年間無利子の特別融資もありました。
補助金申請には一定のハードルがあるとはいえ、こうした近年の事例が、結果として公助への過度な期待を生じさせている可能性はありそうです(チャリティ・ハザードと言います)。公助には限界があり、自助を促すような公助のあり方を模索すべきなのでしょう。
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生命保険の加入状況

大学のゼミの関係で、生命保険文化センターによる「生活保障に関する調査」で生命保険の加入状況について確認する機会がありました。
生命保険の加入状況の調査といえば、同じく生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査」が有名ですが、「生活保障に関する調査」でも個人ベースの加入状況を調査しています。いずれも3年おきの調査です。

例えば次のようなことがわかります。

【加入率】
・2025年の生命保険・生命共済の加入率(個人年金やグループ保険を除く)は80.0%で、この20年間は概ね横ばいで推移。
・いわゆる保障中核層にあたる30代男性、40代男性の加入率がいずれも低下傾向なのに対し、60代男性と60代女性の加入率が上昇傾向。

【2025年の加入状況・加入意向】
・払込保険料(一時払を除く生命保険・個人年金)は平均17.8万円で、一貫して減少傾向が続く。
・生命保険加入金額は996万円(男性1,439万円、女性661万円)で、一貫して減少傾向が続く。
・他方、必要と考える死亡保険金は30代男性が平均3,025万円、40代男性が2,728万円。
・死亡保障に対して「準備意向あり」は、30代男性が67.6%、40代男性が74.1%と意外に高い。

【直近加入契約の加入のきっかけ】
・30代男性、40段男性は「家族や友人などにすすめられて」「結婚をしたので」「子どもが誕生したので」などが上位。
・60代男性、70代男性、70代女性は「営業職員や窓口ですすめられて」がトップ。

【直近加入契約の加入チャネル】
・男女ともに「営業職員」がトップだが、30代男性と40代男性は「保険代理店」も多い。50代男性と60代男性は「営業職員」が回答の過半数。
・情報入手経路でも、50代男性と60代男性は約4割が「営業職員」と回答。
・今後の加入意向のあるチャネルは、50代男性と60代男性・女性は「営業職員」で、他の年代は「営業職員」「通信販売」「保険代理店」が拮抗。

以上、ざっとデータを眺めたところ、営業職員チャネルは30代や40代にうまくアクセスできておらず、チャネルとしての認知度も必ずしも高くはなく、結果として営業活動の中心が50代以上(おそらく既契約者が中心)となっているようです。だから一時払終身なのでしょう。
営業職員への回帰どころか、ビジネスモデルの機能不全が着実に進行しているのではないでしょうか。

※写真は築地市場に向かう貨物線の遺構です。

 

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新契約ANPの内訳開示を

このグラフは大手生保4社の個人保険の新契約年換算保険料(ANP)の推移を示したものです。このところ総じて好調に見えますが、第一生命を除き、近年の新契約ANPは保険料を一括して支払う一時払保険の販売動向が大きく寄与しています。
なかでも2025年度の増収は、営業職員チャネルによる一時払保険によるものとみられます。

もっとも、大手生保はチャネル別の新契約ANPを任意に開示しているとはいえ、一時払いと平準払いを分けていなかったり、グループベースの開示だったり、さらには数年ごとに定義が変わったりするので、利用者としては一苦労です。各社が任意開示した保障性商品や銀行窓販の動向なども参考にして、何とか全体像が浮かび上がるといったところでしょうか。

新契約ANPは保険料収入や新契約高に比べれば、各社の業績を知るうえで有益な指標です。しかし、現在の「個人保険」「個人年金保険」「うち医療保障・生前給付保障等」というくくりだけではなく、業界統一でより詳細な内訳を開示すべきではないかと思います。
1月18日のブログ「生命保険市場の変化」でお伝えしたように、生命保険協会では商品別、払込方法別、通貨別のデータを取りまとめ、「生命保険事業概況」のなかで外部に提供しています。ここまで詳細ではないにしても、決算発表時には少なくとも一時払いと平準払いに分けた開示と、通貨別の開示は必須ではないでしょうか。

例えば、24年度の新契約ANPの上位5社は次の通りです。

・日本:2340億円(うち一時払が562億円)
・第一フロンティア:2294億円(同2292億円)
・ニッセイ・ウェルス:2043億円(同1986億円)
・ソニー:1808億円(同306億円)
・かんぽ:1752億円(同1105億円)

参考までに、平準払の上位5社は日本、ソニー、アクサ、第一、大同で、一時払の上位5社は第一フロンティア、ニッセイ・ウェルス、三井住友海上プライマリー、かんぽ、TDFでした。一時払保険は保険料が大きくなるので、両者をまとめてしまうと、平準払の保障性商品の動きを見失いがちです。
関係者の皆さんは、ぜひ正しく理解してもらうための環境整備をお願いします。

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【7/2加筆】
某保険会社アクチュアリーのかたから、「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する保険業法施行規則の一部改正」のなかで、2025年度から「平準払、一時払について、保険種類の区分ごとの、通貨別の新契約年換算保険料及び保有契約年換算保険料」の開示を求められるようになったというご指摘をいただきました。開示はこれからのようですが、できれば前倒しで決算発表時にも開示があるといいですね。
ご指摘ありがとうございました。
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ちなみに6月17日の日経電子版に「生保販売「営業職員」経由に回帰(会員限定)」という興味深い記事が出ました。主要生保9社にアンケート調査を実施し、新契約ANPを主要な販売チャネル別に集計したところ、2025年度は営業職員チャネルの新契約ANPが金融機関の窓販チャネルを3年ぶりに上回ったというものです。
こうした独自調査の記事は大歓迎なのですが、できれば元データそのものも数表として出してほしいところです。インシュアランス統計号がなくなり、週刊東洋経済の保険特集号も(昨年だけかもしれませんが)出なくなってしまったなかで、残るメディアには取材活動とともにデータを含めたファクトの提供をぜひ頑張ってほしいです。

なお、この日経記事に関して言えば、25年度の営業職員チャネルの増収約1300億円には、日本生命と明治安田生命の一時払保険の販売拡大がかなり寄与していると見ています(おそらく約1000億円)。他方で25年度には両社の解約返戻金が急増しているのですが、これが円安に伴う外貨建保険の解約なのか、あるいは営業職員チャネルの一時払保険の販売増加と関係があるのか、証拠不十分で何とも言えず、気になるところです。
より本質的には、こうした大手生保の営業戦略が持続可能なのかという疑問もありますが、それは別の機会にしましょう。

※福岡でプラネタリウムの国際会議が開催されていました。

 

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『ディスクロージャー虎の巻』の改訂

生命保険協会が6月12日に生命保険募集人の呼称として「生保ナビゲーター “ソナエルジュ”」を公表しました。自分が選ぶ側にいたらと思うとコメントが難しいですが、そう考えると「ライフプランナー」という呼称は(今は厳しいですが)よくできた呼称だと思いますね。

生命保険協会は同じ日に「生命保険会社のディスクロージャー~虎の巻」の改訂版を公表しました。生命保険会社のディスクロージャー誌(名前は「統合報告書」「XX生命の現状」など)を解説した冊子で、1998年から作成しています。今回の改訂はソルベンシー規制の改正などに対応したものです。
ちなみに、日本損害保険協会でも同様の冊子「損害保険のディスクロージャーかんたんガイド」を作成していますが、改訂版はまだのようです。

さっそく改訂版「虎の巻」を見てみると、8~12ページに新たなソルベンシー規制の詳細な紹介がありました。
ここではソルベンシー・マージン比率の説明に続き、計算方法がどう変わったのか、適格資本(支払余力)や所要資本(諸リスク)の主な構成など、専門的な内容をできるだけかみ砕いて解説してあります。規制として数値基準だけではなく「3つの柱」の考え方が採用されていることや、新規制導入の意義についても述べていて、さらには、

・ソルベンシー・マージン比率とあわせて確認することが有用な情報
・経済価値ベースのソルベンシー規制導入後の保険会社のソルベンシー・マージン比率が低くなったように見えるのはなぜ?
・会社によっては複数のソルベンシー・マージン比率を開示しているのはなぜ?

といった説明も出ています。

ちなみに、13ページの「参考」のところには、旧版では早期是正措置とともに、実質資産負債差額(=純資産額)、含み損益の3つが掲載されていましたが、改訂版では早期是正措置の説明だけとなりました。廃止となった実質資産負債差額だけではなく、含み損益も削除されたということを、関係者はよく理解していただきたいです
(資産の含み損益だけを見ても意味がないということです)。

※写真は長崎です。

 

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大手損保グループの決算資料から

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1332(2026.6.15)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
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自動車保険の契約台数が減少

5月下旬に公表された決算関連資料およびIR資料から、大手損保グループの主に自動車保険に関するデータを確認してみました。
まず、近年の料率引き上げを反映し、2025年度の大手4社(東京海上日動、三井住友海上、あいおいニッセイ同和、損保ジャパン)の収入保険料はいずれも高い伸びとなりました。ただし、前年度と違い、契約台数の落ち込みが目立ちます。損保ジャパンは微減にとどまったものの、他の3社は1~2%程度の減少で、ここまで減ったのは過去10年間で初めてです。

その一方で、東京海上ダイレクト(昨年10月にイーデザイン損保から商号を変更)と三井ダイレクト損保(来年4月に三井住友海上ダイレクト損保に商号変更予定)の収入保険料が急増しています。東京海上の場合にはブランド変更に伴う効果もありそうですが、物価上昇が続くなかで契約者の一部がダイレクト型損保に移っている可能性があります。
東京海上とMS&ADのIR資料からは、個人向けには従来よりもダイレクトチャネルで対応しようという姿がうかがえます。物価上昇で契約者が価格に敏感になっているというだけではなく、(そうは書いてありませんが)自立していない代理店の顧客にはダイレクト型への移行を促すなど、ポスト損保問題におけるチャネル戦略の一環として、グループ内のダイレクト型損保を再定義したのかもしれません。

収支改善は道半ば

ただし、これだけ料率を引き上げてきたにもかかわらず、自動車保険の損害率は高止まりしたままです。
ざっくりした収支動向をつかむため、EIベースの損害率(既経過保険料に対する発生損害額の割合)と事業費率を加算したコンバインドレシオを見ると、前年度よりも下がったとはいえ、25年度も東京海上日動を除く3社で100%超となりました。前年度は自然災害の影響もあったので、実質的にはほとんど下がっていないと言えます。支払保険金の約8割は車両保険と対物賠償責任保険なので、事故件数が横ばいのなかで、インフレによる修理費単価の上昇が続いている模様です。

手数料率の低下を見込む

他方で、事業費率は低下しました。自動車保険に限った事業費の内訳は公表されていないので、全社ベースとなってしまいますが、25年度は収入保険料に占める「諸手数料及び集金費(=大半が代理店手数料)」の割合が各社とも一段と下がりました。
3グループともに今後も事業費率の低下を見込んでおり、そのなかには代理店手数料率の低下も含まれています。IR資料によると、東京海上は「新たな業務分担&手数料体系で代理店手数料の総額は減少」、MS&ADは「品質を重視した手数料体系へのスムーズな移行により、手数料合計の削減を見込む」。SOMPOは「高リスクセグメント契約や長期契約に対する基準手数料の引き下げ等を通じ、リスク実態に見合った適正なコスト構造へ転換」とありました(一部記述を修正)。
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※写真は大村(長崎県)です。

 

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プルデンシャル生命の決算

5月26日に公表されたプルデンシャル生命の決算資料を見てみました。同社は金銭不祥事等の発覚を受け、2月9日から新規契約の販売活動を自粛しています。

まず、1-3月期のみの新契約指標を計算したところ、新契約年換算保険料(ANP)は前年同期に比べて48%減少、個人保険の新契約件数は63%減少、新契約高は56%減少でした。4-6月期はさらに減っていることでしょう。
なお、保険料収入(保険料等収入ではありません)の減少が16%と緩やかなのは、同社は一時払いの契約が少なく、保険料収入の多くが月払いまたは年払いの既契約からの収入となっているためです。

解約動向も気になるところですが、公表されているのは損益計算書の解約返戻金だけのようです。1-3月期の解約返戻金を計算すると1784億円で、これは前年同期(1124億円)の約1.6倍となります。ただし、仮にこの水準の解約が1年続いたとしても、解約失効率はおそらく15%程度で、2割とか3割とかにはならないのではないかと思います。
この程度の流出であれば、資金繰りの面でも含み損を抱えた公社債の売却を迫られるようなことはなく、実際、同社の国債等債券売却損は通期で36億円にとどまっています。

他方、日本の会計基準では今回の金銭不祥事等による損益への影響はほとんどつかめません。2026年3月期の当期純利益は前期比52%の減少でしたが、これは前年度に再保険取引に伴う臨時損益(約290億円)があったことの反動減であり、特別損失として顧客への補償費用47億円を計上したにもかかわらず、実質的にはほぼ横ばいでした。
こちらのブログで紹介したように、同社の親会社Prudential Financialは5月6日開催のIRミーティングで、「1-3月期における販売自粛による損益への影響は1.3億ドル(約200億円)で、このうち0.5億ドル(約80億円)が顧客対応、0.5億ドル(同)が営業職員への手当で、販売自粛と解約に関する損失は0.3億ドル(約46億円)」と公表しています。
しかし、日本基準の決算からは、約200億円の影響があるとは全く読み取れません。同社は「十分な利益水準を維持しております(同社の決算ニュースリリースより)」と述べるのではなく、親会社が示した「200億円」が決算にどのように反映されているか(あるいは反映されていないか)を一般に示すべきではないでしょうか。

※写真は北越の小京都と言われる加茂の町です。

 

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2つのESR

先日、保険業界の皆さんに新たなソルベンシー規制について説明する機会がありました。そこで出たのが、2つのESR(経済価値ベースのソルベンシー比率)をどう使い分けたらいいかという質問でした。
これまでも規制が求めるソルベンシー・マージン比率と内部管理用のESRの2つを開示していた会社も多かったのですが、規制でも「ESR」という名称が出てきて、はじめて健全性指標が2つあるのに気づいたということなのでしょう。業界内部の皆さんは、業務で関わっていなければ、意外に社外に出している情報を知らないのかもしれません。

先週までに発表された生保決算では、ざっと見たところ、これまでソルベンシー・マージン比率が載っていた決算資料には新たな比率の記載はなく、各社が独自に作成した説明資料の中にESRに関する情報を載せているようです。
例えば主要生保の開示状況は以下の通りです。

・日本生命:内部モデルESR(連結)と規制ESR(連結と単体、速報値)を開示
・第一生命:グループESR(概算値)を開示(規制ESRは後日開示予定)
・住友生命:連結内部管理ESRを開示(規制ESRは6月下旬に開示予定)
・明治安田生命:内部モデルESRと標準モデルESRを開示
・大樹生命:規制ESRの概算値を開示
・朝日生命:内部管理ESR(連結)と規制ESRの暫定値(連結?)を開示
・T&D:内部管理ESR(グループ)を開示
・富国生命:内部モデルESR(連結と単体)と標準モデルESR(単体、速報値)を開示
・ソニーFG:内部管理ESR(連結とソニー生命)を開示
・かんぽ生命:ESR(規制ベースの暫定値?)と大量解約リスクを除いた比率を開示

現時点では、以前から開示していた内部管理用のESRだけを開示している会社と、規制ESRの暫定値もあわせて開示した会社に概ね分かれるようです。ただし、内部管理ESRについては、各社とも比率の推移に加え、関連する情報(分子・分母の内訳や感応度など)も開示していますが、規制ESRを開示した会社では、開示したのは前期末の比率だけというところが大半でした。おそらくディスクロージャー誌が出そろう7月末から8月上旬までには、規制ESRと関連情報を公表する会社が多いのではないかと思います。

冒頭の質問に対する回答は、「規制ESRはあくまでも100%を下回ることのできない制約要件」「規制ESRは各社のリスク特性を反映したものではないので、経営管理指標としては内部管理ESRを重視すべき」「いずれも高ければ高いほどいいというものではない」というものです。
もっとも、内部管理ESRの関連情報の開示は多くの会社で十分とは言えない状況なので、規制ESRの関連情報(=こちらは規制で開示内容が決まっています)を参考にすることになりそうです。ここまで説明するとかえって質問者を混乱させてしまうので、実際にいろいろな数値が出てきたら、それを使った説明ができるといいですね。

※写真は東京・杉並の妙法寺です。

 

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規制が新しくなったのですが…

この週末は長崎に滞在していまして、短めのブログです。

5月22日の日経電子版に「生命保険会社選び、健全性や信用力を吟味 破綻時の影響も注意」という記事が出ていました。このタイミングですから、新たなソルベンシー規制を紹介する内容、あるいは少なくとも規制見直しについて触れていると思いますよね。
ところが読んでみると、確認すべき代表的な指標として最初にソルベンシー・マージン比率(SMR)が挙がっているのですが、

「値が高いほど健全性が高いといえ、一般的に200%超なら一定の安全性があるとされる。2025年3月末時点で200%を下回る生命保険会社は無く、最も高い会社は3000%超、最も低い会社は500%台だ。国内大手生保4社の平均は835%なので一つの目安になるだろう」

という記述。旧SMRの数値を紹介し、新規制への言及が全くないということは、おそらく筆者のかた(外部ライター)は規制が変わったことをご存じないのでしょう。日経にこうした記事がそのまま載ってしまうことにも驚きましたが、金融庁は規制が変わったことを一般にもっと伝えたほうがいいのではないでしょうか。

もちろん、実際に新たな数値が出てこないと、ピンとこないというのもわかります。上場保険会社グループの決算発表では内部管理上のESR(経済価値ベースのソルベンシー比率)の開示は続いているものの、規制比率も同時に開示した会社は少ないようです。実際にもっと数値が出てきたら、それらを取り上げる媒体も出てくるのではないかと期待しましょう。

なお、5月11日に始まったダイヤモンド保険ラボの連載「新規制ESRの衝撃」は、先週の森本祐司さんによる論考「『経済価値ベース』とは何か」に続き、今週もありますのでご期待ください。

 

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重要なのは含み損益ではない

5月11日(月)からダイヤモンド保険ラボで「新規制ESRの衝撃」という特集が始まりました。3回目の15日は「保険業界人必読のESRとの付き合い方、『7つの疑問』に専門家が回答」でした。今週はキャピタスコンサルティングの森本祐司さんにバトンタッチ。有料媒体ですが、これまでのところ新規制に関する一般向けの情報がほとんどでていないので、ぜひご覧ください。

さて、保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1328(2026.5.18)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
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新たなソルベンシー規制の導入

保険流通に関わる皆さんは、この3月末から保険会社向けの健全性規制がガラッと変わったのをご存じでしょうか。
先週から始まった「ダイヤモンド保険ラボ」の連載でも述べていますが、約20年間の検討期間を経て、26年3月末から「経済価値ベースのソルベンシー規制」と呼ばれる新たな健全性規制の適用が始まりました。ただし、これから保険会社の決算発表がピークを迎えますが、そこでは内部管理上の比率の公表が中心で、規制比率の公表はおそらく夏以降になるのではないかと思います。
新しい比率は従来の水準から大きく下がると見込まれます。だからといって、保険会社の健全性そのものが悪化したわけではないということを、念のためお伝えしておきます。冷静に考えれば、規制見直しによってモノサシが替わっただけなので当たり前なのですが、過去にはそのような報道もありましたので、ご注意ください。

重要なのは資産の含み損益ではなく、「適格資本」の状況

昨年度は株価が大きく上がり、かつ、国内金利も大きく上昇しました。その結果、株式含み益が一段と膨らむとともに、生命保険会社が保有する国内債券の含み損が拡大しました。
しかし、これは「これまでの超長期債への投資が裏目に出た」「(国内債券だけではなく)株式を持っていればよかった」という話ではありません。金利の上昇は資産だけではなく負債にも大きな影響があります(保険負債の時価が総じて小さくなります)し、新たな規制の下ではソルベンシー・マージン(適格資本)にも反映されます。もともと保険会社の経営を見るうえで、資産側だけに着目するのは正しくなかったのですが、新規制の導入によってそのことがより明確になりました。
重要なのは資産の含み損益ではなく、経済価値ベース(時価ベース)で見た適格資本の状況です。

ちなみに、資産のみを時価評価して算出する「実質純資産(額)」「実質資産負債差額」などと呼ばれた健全性指標も、新規制の導入とともに廃止されました。これは、リスク管理の観点から負債の金利リスクを資産(債券)で適切にヘッジしている会社ほど、金利上昇時に数値が極端に悪化してしまい、リスク管理の妨げとなっていたからです。この点からも、資産側だけに着目する意味はなくなりました。

含み益経営の亡霊から脱するべき

以上のように、資産の含み損益は健全性指標としての役割を名実ともに終えました。他方で、含み損益が実現益・実減損になると(あるいは減損処理を行うと)、会計上の損益に影響を与えるのは確かです。
ですが、2年前の本誌で述べた通り、株式の売却益を計上すると一見、儲かったように見えるかもしれないけれど、実際は株式を現金と交換しただけなので、売却益は会社の価値を高めません。同じく1年前の本誌で述べた通り、売却損を出して債券を入れ替えても、今後の利息収入が増えるだけで債券投資のリターンは向上しません。つまり、生保がリターンを目指す投資家であるならば、会計上の損益は全く参考にならないということです。
強いて言えば、メディアが会計損益しか報じないので、含み益は会計損益を安定させるために重要と生保の経営者が考えてしまうのかもしれません。契約者への還元をあまり増やしてこなかった生命保険会社の経営を見ると、ついそう疑ってしまいます。とはいえ、それなりにリスクをとっているのであれば、そもそも安定した損益を期待するのは理にかないませんよね。
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※週末は新潟でした。

 

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