ガバナンス改革とメディア

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1264(2025.1.13)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。前回のブログ記事(次期社長の選任)がやや舌足らずだったので、同じテーマを取り上げました。
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次期社長の選任

皆さま、本年もよろしくお願いいたします。
さて、新年最初の個人ブログ(保険アナリスト植村信保のブログ)では、気になるニュースとして日本生命保険の社長人事報道を取り上げました。
日本生命は2022年にコーポレートガバナンス体制を刷新し、監査等委員会設置会社に移行するとともに、社外取締役が過半数を占める「指名・報酬諮問委員会」を設置しました。つまり、社長選任のプロセスが従来とは大きく変わったはずなのですが、残念ながら今回の社長人事でも、「現社長から『次を頼む』と告げられ、即断した」という記事はあっても、新たな選任プロセスを踏まえた報道は見当たりませんでした。

「社長が社長を選ぶ」でいいのか

読者の皆さんのなかには、今の社長が次の社長を選ぶのは当然と考えているかたが多いかもしれません。しかし、コーポレートガバナンスの観点、すなわち経営者への規律付けという観点からすると、現社長が次期社長を選ぶのは好ましくありません。現社長が有能な後継者を選ぶとは限りませんし、社長OBがいつまでも社内で力を持ち続けることになりかねません。
社長やCEO(最高経営責任者)の選解任は取締役会の仕事であり、持続的な成長のためには無能な経営者を選ばないように、客観性・透明性の高い手続きが求められています。

上場企業の行動原則を定めた「コーポレートガバナンス・コード」には、「取締役会は、CEOの選解任は、会社における最も重要な戦略的意思決定であることを踏まえ、客観性・適時性・透明性ある手続に従い、十分な時間と資源をかけて、資質を備えたCEOを選任すべきである」(補充原則4-3(2))とあります。

ガバナンス改革とメディアの役割

日本生命は上場企業ではなく、コーポレートガバナンス・コードの適用対象ではありませんが、相互会社に該当しないと考えられるものを除き、ガバナンス・コードの各原則のすべてを実施しているとのことです。日本生命が任意に設置した指名・報酬諮問委員会は、社長の選解任を支援する機関であり、ガバナンス・コードに沿った取り組みでもあります。
しかも、日本生命の社外取締役で、指名・報酬諮問委員会の委員長を務めている牛島信弁護士のインタビュー記事によると、前回の社長選任でも社外取締役との打ち合わせが何度も行われたそうなので、今回もガバナンス上、きちんとしたプロセスを踏んで社長を選任したのではないかと思います。

問題はこうした選任プロセスを報じないメディアの姿勢です。もちろん、詳細な説明をしない会社にも問題はありますが、メディアは記者会見などでもっとガバナンスに関する説明を求めるべきです。
ガバナンス改革が進み、形式面だけではなく実体を伴っているかが問われているなかで、メディアはいつになったら「社長が社長を選ぶのを当然視したかのような報道はおかしい」と気づくのでしょうか。
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※今年最初の海外旅行はソウルでの学会発表でした。

 

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次期社長の選任

皆さま、本年もよろしくお願いいたします。
例年とちがい、今年はこの土日まで正月休みのようでいいですね。明日(6日)からは通常運転に戻らなければ。

さて、多忙な12月にスルーしてしまった「気になるニュース」に、日本生命の社長人事の報道がありました。何が気になったのかと言うと、次期社長選任のプロセスについての報道が従来と変わっていなかったからです。
日本生命のニュースリリースには取締役会の決定事項しか掲載がなく、記者会見でも質問がなかったためか、社長選任プロセスに関する報道は相変わらず以下のようなものでした。

「『次を頼む』。日本生命保険の朝日智司副社長は11月下旬、清水博社長から次期社長の打診を受けた」
(2024年12月19日の日経新聞)

「清水氏から後任を打診されたのは11月下旬。数々の出資・買収を主導し、事業拡大の土台づくりにめどを付けた清水氏から『次を頼む』と告げられ、『果たす役割があるなら全力を尽くしたい』と即断した」
(2024年12月22日の時事通信ニュース)

「国内保険事業に精通した朝日氏の登用で、着実な成長を続ける狙いがある」
(2024年12月19日の朝日新聞)

「清水氏は『多面体を広げていくには中心がしっかりしていないといけない。その中心は国内生命保険事業だ』と強調。営業経験が豊富な朝日氏を後任に選び、人口減少で市場の縮小が見込まれる国内保険事業についても強化していく構えを鮮明にした」
(2024年12月19日の毎日新聞)

日本生命は2022年にコーポレートガバナンス体制を刷新し、監査等委員会設置会社に移行するとともに、社外取締役が過半数を占める「指名・報酬諮問委員会」を設置しました。つまり、次期社長は現社長が決めるのではなく、指名・報酬諮問委員会の審議を経て、取締役会が決め、総代会の決議を求めるという流れのはず。清水さんが社長になったとき(2018年)とは選任プロセスが変わったはずなのですが、残念ながらその違いが外部からは全く見えませんでした。

同委員会の委員長を務める牛島信弁護士は約1年前、2023年12月19日のNIKKEI Financialのインタビュー記事で前回の社長人事について、「当時の筒井社長が次期社長の選任にあたって、社外取締役と話し合わないといけないと強く考え、3〜4回、話し合いの場を持った」と語っています。
さらに、「(新体制でも次の社長は)取締役会で決めることになるが、指名・報酬諮問委員会の考えが重視されるだろう」とも述べています。しかし、今回の人事について日本生命からは今のところそのような説明はなく、メディアもまるで現社長が次期社長を決めたかのような報道を続けています(もしかしたらそうなのかもしれませんが)。

詳細な説明をしない会社にも問題はありますが、メディアは記者会見などでもっとガバナンスに関する説明を求めるべきです。特に日本生命は相互会社形態で株主が存在しないので、こうした機会にメディアがしっかり見ていかないと、経営への規律が働きにくいということを理解してほしいですね。

ということで、本年も引き続き週1くらいのペースでブログを更新していくつもりです。
お付き合いいただければ幸いです。

 

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火災保険のモニタリング高度化

12月24日に金融審議会「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」報告書が公表されました。
すでに12月10日のブログ「損保WG報告書案が判明」で触れているので、それとは別の観点から2つコメントします。

1つは保険業法だけではなく、「改正金サ法」(2023年に改正された「金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律」)や「顧客本位の業務運営に関する原則」に関する記述が盛り込まれていることです。
金融審の市場WGでは主に家計における資産形成を念頭に議論が進められ、実際、WGのオブザーバーに損害保険関係の業界団体は入っていませんでした。しかし、今回の報告書を読むと、「保険募集人全般においてもその(=顧客本位の業務運営の)定着が望まれるところであるが(後略)」「改正金サ法により、保険募集人を含む全ての金融サービス提供事業者に対し、顧客等の最善の利益を勘案して誠実かつ公正に業務を遂行する義務が明記されたことも踏まえ(後略)」と、損害保険代理店でも顧客本位原則の採択が当然視されています。

もう1つは、火災保険の赤字構造の改善等のところで、リスクに応じた適切な保険料の設定等が確保されるための態勢をモニタリングしていくとあるのですが、報告書ではそもそも「あるべき姿」としてどのような態勢を念頭に置いているのか気になりました。
21ページの注記には、モニタリング高度化の具体例としていくつか書いてありますが、かなり漠然とした内容です。第1線の営業部門・業務部門による引受規律を期待しているのか、あるいは第2線のリスク管理部門の機能に期待しているのかなども気になりますし、リスクベース・プライシングなのに「資本コスト」「再保険」といった記述が出てこないのも不思議です。
さらに言えば、仮に態勢ができていたとしても、実行されているかどうかを外部からモニタリングするには、かなりの専門性が必要となるように思います。

※今年は飛行機によく乗りました。

 

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今年の卒論から

11月下旬から12月中旬にかけて学生の論文や報告資料の確認に追われる日々が続き、ようやく一段落しました
(福岡大学商学部の卒業論文は12月中旬が提出期限なのです)。

今年の卒論で興味深かったものを2つ紹介しましょう。

1つは保険会社によるBCP策定支援サービスに関するものです。火災保険の赤字が続くなかで、保険会社はリスク移転の手段として保険を提供するだけではなく、リスクそのものを軽減するサービスの提供に力を入れていると言っているので、実際に自然災害の影響を受けた九州のある地域の中小企業数社を調べてみたところ、BCP策定支援サービスはほとんど普及していなかったというものです。
火災保険の収支改善には料率引き上げだけではなく、リスク軽減策との組み合わせが有効なはずですが、何らかの理由によって、現場ではそれほど進んでいないのかもしれません(=最後は私の感想です)。

もう1つは大学経営に関するものです。私立大学の支出の大半は人件費と教育研究経費なので、収支改善のために支出を減らすと「教育の質」が落ちると考えたのですね。そこで現役の学生(3年生または4年生)が大学の教育に何を期待しているかを調べたところ、そもそも学習意欲の高い学生はあまり多くはなく、入学当初から、あるいは入学後しばらくしてから講義内容よりも単位取得の容易さを優先していることがわかったというものです。つまり、多くの学生は「教育の質」を求めていないということになります。
入学の時点で学ぶ意欲がなければ、それを現場の教員が変えるのは簡単ではありません。ただし、入学後しばらくして学習意欲が下がってしまう学生が多いのであれば、こちらは工夫のしようがありそうです(=最後は私の感想です)。

※写真は博多駅のイルミネーションです。

 

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関東部会で報告しました

13日(金)に開催された日本保険学会・関東部会で「ソルベンシー規制『第2の柱』の実効性に関する考察」を報告しました。
当面の間、学会サイトで報告レジュメをご覧いただけます。

今回の報告は、IMFが概ね5年に1回行っている金融セクター評価プログラム(FSAP)の保険行政に関する報告書から、日本の保険行政(特に健全性政策)の現状をつかもうというものです。
2024年のFSAP報告書は日本の保険行政についてかなり辛口な評価となっているのですが、報告書の記載をそのまま鵜吞みにするのではなく、すでに2011年に経済価値ベースのソルベンシー規制を採用し、進んだ保険行政とされるスイスと、日本のように長期固定利率商品が多いドイツのFSAP報告書と比べたり、日本の保険会社(大手・中堅7社)へのヒアリングを実施し、FSAP報告書の記載を確認したりしました。
ただし、報告まで時間がなかったため恥ずかしながら未完成のところもあり、論文として出すまでには完成度を高めるつもりです。

金融庁の保険行政を批判するのが本研究の目的ではなく(現場の皆さんは多くの制約のなかで職務に尽力されています)、新たな健全性規制の導入を契機として、少しでも「あるべき方向」に向かうにはどうしたらいいかを考える材料を提供できればと考えています。

※今年の秋は短かったですね。

 

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損保WG報告書案が判明

少し遅くなりましたが、保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1260(2024.12.09)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
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日経新聞にコメント掲載

報告書案の概要は金融庁のサイト、あるいは本誌をはじめ報道等でご覧いただくとして、ここでは6日付の日本経済新聞に載った自分のコメントについて解説したいと思います。
紙の新聞に載ったコメントは次のとおりです。

(企業向け保険の問題について)福岡大学の植村信保教授は「企業の意識が変わらなければ取引慣行も変わらない」と指摘する。

電子版のほう(会員限定)にはもう1つコメントが載っています。

(損保会社に加え、大規模代理店への監督を強める方針について)植村氏は「金融当局のリソース不足も大きな壁になっている」と話す。

取引慣行を変えるチャンス

ご想像のとおり、取材の際にこの2つしか話さなかったということではありません。紙面の制約もありますし、むしろボツにならなくてよかったと前向きにとらえています。大学の宣伝になるかもしれませんので(笑)
そのうえで、記者さんにお伝えした内容を簡単にご紹介します。

そもそものご質問は、当然ながら「今回の制度改革が損害保険市場や業界を変えることにつながるか」でした。そこで、全体としては前向きにとらえていることを伝えました。保険金不正請求事案にしても保険料調整行為事案にしても、もちろん起きてはならないことです。ただ、両事案が明らかになったことで、かつての規制時代に形成され、その後も温存してきてしまった「いびつな取引慣行」から損保業界が脱却する絶好のチャンスとなっていることは間違いありません。
それぞれの施策がどの程度の実効性を持つかどうかは今後の制度設計によるところが大きいので、あまりコメントしませんでしたが、大規模乗合代理店への規制・監督の強化や保険契約者等への過度な便宜供与の禁止など、改革の方向性は理解できるところです。

改革案に盛り込まれていないこと

そのうえで、今回の制度改革案には必ずしも盛り込まれていないように見える3つの点をお話ししました。
1つめは、企業のリスクマネジメント意識を変えることにつながるような対策がほしいという点です。リスクマネジメントの一環として保険購入があるという当たり前のことを企業経営に理解してもらうには、どうしたらいいのでしょうか。
2つめは、「金融当局のリソース不足も大きな壁になっている」というコメントのとおりです。
3つめは、火災保険の赤字構造の改善について、もう少し踏み込んだ議論をしてほしかったという点です。グループとして、リスク管理の進化形と言われるERM経営を標榜していた損保会社が、現実にはリスクに応じた適切な保険料を顧客に提示できなかったのはどうしてなのでしょうか。これに対し、金融庁による「態勢整備状況のモニタリングを高度化していく必要がある」とありますが、これまでのモニタリングをどう変えていくのか、外部からは全くわかりません。
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※今年のRIS2024も大盛況でした。

 

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予定利率の引き上げ

報道のとおり、日本生命が2025年1月から、平準払いの終身保険や個人年金保険の予定利率を約40年ぶりに引き上げると発表しました。日経報道によると、富国生命も終身保険で予定利率を引き上げる方針とのこと。
背景には、今後の超長期金利が1%を割りこむようなことはもうないだろうという判断と、これまでの内部留保や資本増強などで健全性の面でも不安がないという判断があるのだと想像しますが、実際のところ、どのような議論があったのか興味深いです。

例えば、日本生命が公表している内部管理上の連結ESRは227%と、リスク量の2倍を上回る支払余力を確保しています。富国生命のESRも250.5%とのことです(いずれも2024年9月末)。
拙著『経済価値ベースのソルベンシー規制』でも書いたように、ESRは高ければ高いほどいいというものではありません。相互会社の社員(契約者)は株式会社の株主よりも破綻リスクへの許容度が低いとしても、破綻リスクを極力減らすために支払余力の拡大を続ける経営を求めているとは考えにくいです。なぜなら、同じ保険市場に株式会社と相互会社があるなかで、相互会社の存在意義は、株式会社よりも実質的に安い保険料(契約者への配当還元を含む)で保障を提供することにあるからです。
予定利率の引き上げは今後獲得する新契約に適用されるものなので、既契約者(特に近年の低い予定利率の契約者)への還元についてどのような議論がなされたのか、外部に示してほしいところです。

主要生保の4-9月決算を確認すると、貯蓄性商品の動向でわかりにくいものの、保障性商品をはじめ各社が主力とする商品の販売は引き続き低調だった模様です。おそらくコロナ前の水準を回復できていないのではないでしょうか。
そのようななかでの利率引き上げという判断が、単に営業現場の要請を受けて、あるいは営業現場のてこ入れを主眼としてなされたとしたら、何とも寂しいかぎりです。

※福岡と東京・横浜の湿気の違いにびっくりです。

 

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RIS2024全国大会

早いもので今年もRIS(全国学生保険学ゼミナール)の全国大会が近づいてきました。
今年のRIS2024の会場は日本大学商学部のある東京・世田谷区の砧キャンパスです。昨年は福岡大学での開催だったので、皆さんをお迎えする準備だけすればよかったのですが、今年は自分の学生を引率しなければなりません(といっても現地集合ですが)。
おそらく新宿で小田急線に乗り換える学生が多いはずなので、念のため下見に行ったところ、写真のとおり大工事をしていて、私も迷ってしまいました。
まあ、そうは言ってもスマホがあれば、何とかたどり着けるでしょう。

大会要綱によると、今年のRIS2024には13大学15ゼミが参加し、12月7日(土)午後から8日(日)にかけて、2日間にわたり報告を行う予定です。
昨年もお伝えしたとおり、RISの大会は大学生と教員だけで閉じられたものではありません。毎年多くの実務家にご参加いただき、報告への質問・コメントをいただいています。土曜日の夕方には懇親会もありますので、リスクと保険を学ぶいまの大学生に触れる貴重な機会となるかもしれません。
現在、大会参加の申し込みを受け付けていますので、ご興味のあるかたはぜひご参加いただければ幸いです。詳しくは大会要綱の7ページをご覧ください。

肝心の報告内容ですが、植村ゼミは3班とも本番直前の今になっても、データ収集や分析、考察に取り組んでいるという状況でして、時間との戦いとなっています(討論ゼミの皆さまにはご迷惑をおかけしてすみません)。

自分の指導力のなさを棚に上げたうえで、今年に限らず、そもそも課題を見つけるのが苦手な学生が多いように思います。さすがに大学生なので「少子高齢化」「AI」「SDGs」「地域活性化」といった今どき?の知識はあるものの、あくまでも学校などで学んだ知識(というか用語)であって、知識が体系的に身についていないというか、頭の中でうまく整理されていないのですね。だから、いろいろとヒントを出しても引き出しから何も出てきません。
これは推薦入試の面接試験でも感じることでして、今の高校では「総合的な探求の時間」など社会課題を見つけ、解決策を探るといったこともやっていて、自分たちが何をしたかを説明することはできます。しかし、その説明に関して何か質問すると、途端に回答に詰まってしまう生徒が目立ちます。知識量の問題ではなく、それぞれの知識がつながっていない、あるいはつなげて考える習慣がないということなのでしょうか。

大学の教員ができることは限られているとはいえ、RISの活動を通じて少しでも彼らが成長してくれればいいですね。

※新宿西口です!

 

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企業内代理店への対応

15日に開催された金融審議会「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」(第4回)では企業内代理店のあり方について議論が行われ、資料として金融庁による企業内代理店の実態調査の結果(の一部?)が示されました。調査対象は損保大手4社の委託先のうち、収入保険料で上位300社とのことです。

・名寄せベースの代理店数:736社
・うち企業内代理店:256社
・うち旧基準適用対象:173社
・規制見直しの対象(広義):73社

特定契約比率規制を見直した場合、規模の大きい企業内代理店のうち、少なくない数の代理店が影響を受けるという結果が示されました。
金融庁はこうした数量的な把握だけではなく、取引実態を把握するため、企業内代理店やその親会社の担当者等に対してヒアリングを行ったそうです。

これらを踏まえて出てきた金融庁の考え方が、「一定の実務能力を有し、企業にとってなくてはならない保険リスクマネジメント分野に貢献している代理店もある」「企業内代理店の多様な実態を鑑みれば、当該規制を一律に適用するのは適当とは言えない」「代理店としての『自立』の確保および『保険料の割引の防止』に問題がない企業内代理店は規制の適用除外とする」だそうです。

所用につきワーキンググループでの議論を傍聴できていないのですが、納得できる考え方ではありません。
代理店としての自立というのは、保険募集を行う組織として適切かどうかという話であって、どうしてこれが特定契約比率を適用するかどうかの判断基準となるのか理解できません。自立していない代理店は企業内代理店であってもなくても、そもそも廃業させるべきでしょう。
「保険料の実質的な割引の防止」というのも同じです。保険会社から見て、代理店として対価を払うべき仕事をしているかどうかという話が、どうして規制適用の判断基準になるのでしょうか。

そもそも企業のリスクマネジメントは本来、企業自身のコストで行うものですし、リスクへの対応手段は保険だけはありません。いくら企業内代理店がその企業の(保険)リスクマネジメントに貢献しているとしても、そのことを踏まえて規制の適用除外を認めるのであれば、企業のリスクマネジメントにかかるコストを保険会社が代理店手数料という形で負担することになり、理屈に合いません。

むしろ、こうした適用除外を設けてしまうと、他の保険代理店やブローカーとの競争が妨げられてしまい、ゆがんだ市場が続いてしまうのではないかと危惧しますが、いかがでしょうか。

※先週末も東京で登壇してきました。

 

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金融庁が新たな健全性規制の法令案を公表

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1256(2024.11.11)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。主に保険流通に関わる皆さんにも知っていただきたい内容です。
アクチュアリー会の年次大会(2日目)は対面・オンラインのハイブリッド開催でしたが、予想以上に対面参加のかたが多く、パネルディスカッションが盛り上がってよかったです。
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新規制の導入が秒読み段階に

金融庁の動向と言えば、保険流通に関わる皆さんには、金融審議会の作業部会で議論が進む制度改革の行方が気になるところだと思います。
他方で金融庁はこの10月末に、「経済価値ベースのソルベンシー規制」と呼ばれることの多い新たな健全性規制の導入に向けて主な法令等の改正案を公表し、意見募集を開始しました。
今回の改正は、現行のソルベンシーマージン比率を中心とした健全性規制を30年ぶりに大きく見直すというもので、規制が求める支払余力の厳格化や、経済価値ベースの考え方の採用など、現行規制の弱点を克服する内容となっています。2025年度決算から新規制に基づく報告が始まる予定なので、保険会社にとって残された時間はそれほど多くありません。
先週都内で開催された日本アクチュアリー会(ア会)の年次大会では、新規制に関連したセッションがいくつもあり、私もその1つ(パネルディスカッション:経済価値ベースのソルベンシー規制の原点に立ち返る-新規制を有意義なものにするために-)で進行役を務めました。

保険数理の専門家・アクチュアリー

アクチュアリーとは、確率や統計などの手法を用いて、将来の不確実な事象の評価を行い、保険や年金、企業のリスクマネジメントなどの多彩なフィールドで活躍する数理業務のプロフェッショナルです(ア会のサイトより引用)。超長期の保障を提供する生命保険や、多様で複雑なリスクに備える損害保険が成り立つには、アクチュアリーによるリスク分析が欠かせません。
24年3月末現在、ア会の会員数は5601人で、このうち2273人が生命保険会社に、863人が損害保険会社に所属しています。一般に「アクチュアリー」とは正会員のことを指し、難関とされるア会の資格試験に合格し、正会員として認定されているのは2121人だけです。
ちなみに私自身はアクチュアリーではなく、主にア会の専門委員会(ERM委員会)のアドバイザーとして関わっています。

保険会社のリスク管理高度化を目指して

話を新規制に戻しましょう。会員向けの年次大会の内容について多くを語ることはできないのですが、私たちのパネルディスカッションでは、「規制が求める新たなソルベンシー比率(ESR)を守りさえすればいいという話ではない」「経済価値ベースの考え方をいかに社内や社外(メディアなど)に浸透させるか」「保険会社のアクチュアリーは何をすべきか」といった議論を行いました。
健全性規制の主な目的は、保険会社の経営が悪化し、契約者が不利益を被るのを避けることです。それには単に規制を厳しくするというのではなく、保険会社自身のリスク管理の高度化を促すべき、というのが近年の健全性規制の考え方となっています。しかし、規制当局が本当に保険会社の経営行動を変えることができるのかという「そもそも論」もあって、今回の新規制にしても、保険会社が「規制が求めるESRを守りさえすればOK」と考えてしまうと、リスク管理の高度化にはつながりません。どのようなことでも、他者に何かを促すというのはそう簡単ではありませんよね。

なお、新規制導入の経緯や規制の本質などに関心のあるかたは、10月末に発売した拙著『経済価値ベースのソルベンシー規制』(日本経済新聞出版)をご覧ください。2008年に出版した『経営なき破綻』の続編という位置づけで、副題に「生保経営大転換を読む」とありますが、新規制のもとでの損保を含めた保険会社経営のあり方について述べています。難しい数式などは一切使っていませんので、ご安心下さい(笑)。
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※実家でタコパ!久しぶりに3兄弟が集まりました。

 

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