大手生保の米CRE関連投資

最初にご案内です。アドバイザーを務めているRINGの会がオープンセミナーを7月15日(土)に横浜で開催します。
今回は対面開催なのですが、650人限定となっています(コロナ前は1500人規模でした)。おそらくそう遠くないうちに定員に達してしまいそうなので、保険会社目線ではない保険流通の世界を知りたい方は、すぐに申し込んだほうがよさそうですよ。
申し込みはこちらです。

さて、主要生保の2022年度決算が出そろいました。
ヘッジコストの上昇や米国の銀行破綻など、米FRBの金融引き締めと金利上昇によって、低金利時代のひずみが出てきている感があります。日本の生命保険会社はどう対応しているのでしょうか。

大手4社(日本、第一、住友、明治安田)の決算資料によると、ヘッジ付き外債の残高を減らしたという点では共通している模様です(ただし明治安田生命は1-3月に限れば増加?)。
第一生命は年度を通じて残高を大幅に縮小。住友生命は特に下期に残高を大きく減らした模様です。

他方、米国の相次ぐ銀行破綻を受けて、米国のCRE(商業用不動産)のリスクに注目が集まっています。
FRBは5月8日に公表した報告書のなかで、CREローンについて触れ、生命保険会社の資産のうちCREローンを含む流動性の低い資産の割合が増えていると指摘しました。

日本の大手生保は近年、海外クレジット投資を進めるとコメントしていた(報道ベース)ほか、4社のうち3社は米国に中堅規模の生保子会社を持っているので、CRE市場の今後とその影響が気になるところです。
ところが、これまでのところ、そもそも各社のCRE関連エクスポージャーの現状を知る手掛かりを示しているのは第一生命だけでした。第一生命HDはIR資料のなかで第一生命の外貨建債券と米国子会社の運用資産の内訳をそれぞれ示し、さらに米国子会社については第一四半期決算の開示後に詳細を説明するとしています。

保険会社の「重要なリスク」に関心があるのは上場会社の株主だけではありません。相互会社の社員(契約者)も、意識がそこに向かわないだけで、本来は必要な情報です。どうしてこんなことになっているのでしょうか。

※写真は等々力渓谷(東京)です。

 

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ソニーが金融事業を分離

ソニーグループは18日、完全子会社であるソニーフィナンシャルグループを2、3年後に分離独立させるという構想を発表しました。
Bloombergの記事
NHKの記事

18日の経営方針説明会で、十時COO兼CFOは次のようにコメントしています。

「金融事業には成長投資とともに、財務の健全性も強く求められ、多くの資本を必要とします。ソニーグループ全体のキャピタルアロケーションという観点では、拡大していくエンタテインメント、イメージセンサー事業などへの投資との両立は容易ではありません」

「(パーシャル・スピンオフにより)金融各社の社名、ブランド、グループ内での位置付けなどを変えることなく、金融事業を上場し、独自の資金調達能力を備えて、中長期でのさらなる成長を指向することができると考えています」

ソニー生命の手掛ける生命保険事業が多くの資本を必要とするのは、2020年に約4000億円かけて完全子会社とした際にもわかっていたことだと思います。財務の健全性が強く求められるというのもそうです。

そう考えると、あくまで推測ですが、グループとして株主が期待する高い資本効率を達成するにはソニー生命の資本対比リターンをより高める必要があるものの、それにはソニー生命のビジネスモデルを見直さなければならず、それは困難だと判断したのではないでしょうか。
過去には「(金融事業が)リーマンショック以降のソニーが最も苦しかった時期にグループを支えた」(吉田CEOのコメント)ということはあったにせよ、それはあくまで経営陣の目線であって、株主からするとそのような「保険」はいらないということなのかもしれません。

ところで、私は本件で読売新聞の電話取材を受けまして、19日の朝刊に次のコメントが載りました。

「福岡大の植村信保教授(保険論)は『上場にあたっては経営の透明性が一段と求められる。遠藤氏(元金融庁長官の遠藤俊英氏)を起用する理由をステークホルダー(利害関係者)に、より丁寧に説明する必要がある』と指摘している」

スピンオフを中心にいろいろとコメントしているのですが、使われたのはこの部分でした。
とはいえ、スピンオフの結果、遠藤さんが上場会社のCEOとして株主と対峙し、自社の成長戦略や資本効率について説明することになるかもしれないのですね。
保険アナリストとしては、上場生保グループが増え、かつ、IFRSで決算を行うというところにも注目したいです。

※今年もきれいに咲きました!

 

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感染症リスク引き受けの難しさ

週末は一橋大学で対面開催された日本金融学会の春季大会に参加していた(つまり東京にいた)ので、ブログはInswatchに寄稿したコラムのご紹介です。
今週のInswatch Vol.1184(2023.5.15)に掲載されました。
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「みなし入院」への支払いが終了

ご承知のとおり、5月8日から新型コロナウイルス感染症の法律上の位置付けが5類感染症となったことを受けて、各保険会社はいわゆる「みなし入院」でも入院給付金を支払う特例措置を終了しました。
社会的要請に応える形で2020年4月に導入したこの特例措置ですが、感染力の強いオミクロン株の登場によって感染者数が急激に増えてしまい、例えば生命保険業界だけで約1兆円という多額の給付金を支払う結果となりました。生保業界全体の保険金等支払金は年間30兆円前後、21年度末の純資産は約27兆円なので、健全性が揺らぐような支払いではないにせよ、22年度決算を圧迫したのは間違いありません。

感染症リスクの特徴

支払いがここまで増えた理由の1つは、変異株の出現による感染者数の増加を事前に予想できなかったことが挙げられます。ウイルスが変異するということは知られていても、それがどのタイミングでどの程度感染者数を増やすのかを事前につかむのは、現在のところ不可能だと思います。
保険会社にとって感染症は、保険として引き受けるのが非常に難しいリスクです。保険を提供するには、保険金や給付金を支払うべき出来事の発生率をある程度把握したうえで、契約者から集める保険料を決める必要があります。新型コロナは文字通り「新型」なので、参考となる過去の観測データはありませんでしたし、過去に生じた他の感染症の事例を参考にしたとは思いますが、限界があります。
加えて、保険会社は通常、発生率の不確かさを補うため、様々な工夫をしています。例えば生命保険や自動車保険では、大数の法則を活用するため、リスクを広く大規模に引き受けることで、発生率の安定を図っています。ところが感染症の場合、いくらリスクを広く大規模に引き受けても、感染が広がってしまえば感染者が一気に増えてしまい、大数の法則が働きません。グローバル展開をしていても、世界的な流行ともなれば、リスク分散の効果も得られません。

1兆円をどう見るか

保険会社は「みなし入院」への支払いを検討するに際し、頭を抱えたのではないでしょうか。新たにコロナ保険を販売するのではなく、既存の医療保険の保障対象を広げるという話なので、リスク管理に失敗した場合の影響は甚大なものとなりえます。
おそらく各社はストレステストを実施したのではないかと想像します。ただし、どこまで深刻なストレスシナリオを設定できたでしょうか。感染者数が1日数百人という時点で、1日2万人以上が新たに感染するという事態を織り込むことができたかどうか。できたとしても、自社だけが特例措置を行わないという経営行動に踏み切れたかどうか。
そう考えると、やや遅れたとはいえ昨年9月に「みなし入院」への支払い対象を絞ることに成功し、結果として約1兆円の支払いにとどまったのは、もちろん関係者の努力があったにせよ、不幸中の幸いだったと言えるのかもしれません。
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※前回に続きソウルの写真です。

 

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韓国のカフェ

海外渡航の再開第2弾は韓国でした。出入国時にコロナ関連の手続きが不要となったので、ほぼコロナ前の状態に戻りました。
ただし、再入国の税関手続きにはがっかりしました。紙ではなく電子手続きを選んだところ、羽田空港の端末でスマホのQRコードとパスポートの両方を同時にスキャンしなければならず、さらに顔認証もあります。直前に同じこと(パスポートのスキャンと顔認証)をするので、重複感が強いです。紙なら渡すだけだったのに、かえって面倒になりました。

韓国は2020年1月以来の訪問です。いまさらですが韓国にはカフェが多いですね。スターバックスに代表されるチェーン店は町のあちこちにあります。調べてみると、スタバの数は日本よりも多いそうです(出典はこちら)。参考までに韓国の人口は約5100万人です。
テイクアウト専門の店も町のあちこちで見かけます。おしゃれな(=SNS映えする)カフェもソウルにはたくさんあって、おそらく若い人でにぎわっているのでしょう。かつてはインスタントコーヒーが出てくる喫茶店が普通にありましたが、時代は変わりました。

せっかくなので、今回私が訪問したソウルのカフェ(喫茶店)を2つご紹介します。

THE ROYAL FOOD & DRINK

近年人気エリアとなった解放村(ヘバンチョン)にある絶景カフェです。幸運なことに眺望のいい席を確保できました。
解放村は朝鮮戦争の時に北から避難してきた人々などが山の斜面に住み着いたところで、近くには米軍基地があり、独特な雰囲気を感じました。歴史をさかのぼると米軍基地の場所には日本軍の施設があり、周囲には日本人が多く住んでいたそうです。
カフェからの景色だけではなく、周囲の散策もおすすめです。

伝統茶院(耕仁美術館)

仁寺洞(インサドン)という、やはり人気のエリアにある韓屋カフェ(茶店)で、こちらでは韓国の伝統茶を楽しむことができます。美術館と併設ですが、入場料などはかかりません。
下の写真はなつめ茶(テチュチャ)で、甘くて飲みやすかったです。他にもお馴染みの柚子茶(ユジャチャ)や、赤くてきれいな五味子茶(オミジャチャ)なども飲めたのではないかと思います(ハングル表記だけだったので未確認です)。

 

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FRBの「失敗」報告書

前回のゼミでは「失敗を生かす」というテーマで、まずはゼミ生に(他人に語れるような)失敗談を披露してもらいました。
入浴中にスマホを水没させてしまったとか、家のなかで骨折してしまったとか、肉じゃがを作ったつもりが煮詰めすぎて照り焼きになってしまったとか、皆さんいろいろな失敗をしているのですね。
私も「お湯張りをして風呂に入ろうとしたらお湯が入っていなかった(栓がずれていて、お湯がたまっていなかった)」という失敗談を披露しました(笑)

個人はともかく、組織において失敗は隠すべきものではなく、次に大きな失敗を起こさないための重要な手掛かりとなりうるものです。また、不幸にも大きな失敗をしてしまったときには、表面的な責任追及ではなく、真の原因にどこまで迫れるか、どうやって迫ればいいか。このような話をしてみました。

米FRBが、3月に破綻したシリコンバレー銀行(SVB)の検証結果を公表したというニュース(例えばこちら)を見ると、失敗してしまったのは問題だけど、それを生かそうという国としてのガバナンスはしっかりしていることがうかがえます。
もちろん大きな失敗をすると被害が大きくなるので、その前に対応すべきではありますが…

ちなみに原文はこちらです。ご関心のある方はぜひご覧ください。

※JR九州のクイーンビートル号です。

 

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正常性バイアス

以前このブログで『人はなぜ逃げ遅れるのか』という書籍をご紹介したことがあります。15日に起きた岸田首相襲撃事件の映像を観ていて、この本に書かれていた「正常性バイアス」を思いだしました。正常性バイアスとは「これくらいなら大丈夫だろう」とリスクを過小評価してしまいがちであるという、心理学の用語です。

岸田首相に向かって何かが投げられたときの、警護をしていた和歌山県警のかたの反応は見事なものでした。緊張感をもって任務を遂行していただけではなく、おそらく日ごろから訓練などもしているのでしょう。
他方で、冷静に考えれば、首相にとって危険と考えられる何かは、そこに集まっていた聴衆にとっても危険なものである可能性が高いので、首相と同じようにその場からできるだけ速やかに逃げるのがベストな行動だと思います。
しかし、爆発物が爆発した直後の映像を観ると、何かが投げ込まれてから爆発まで1分近くあったにもかかわらず、多くの人がその場に残っていました(写メを撮っている姿もあったような…)。犯人の取り押さえに人々の注意が向かってしまったのかもしれませんが、もし爆発物の威力が大きければ、人的な被害が出ていたでしょう。
現場にいて危険を速やかに察知し、行動に移すことの難しさを改めて感じました。

私自身も2011年の東日本大震災で似たような経験をしています。これも以前のブログで紹介していますが、学会主催のイベントに参加した際に地震に遭遇し、しばらくしてから会場のシャンデリアが落下したということがありました。
地震発生でTさんのスピーチが止まったあと、私も含めて会場にいた数百人の参加者はそのまま座っていました。私は天井のシャンデリアが揺れているのには気がついていた(自分の頭上ではなかった)ものの、「この程度の揺れで落ちることはないだろう」と思っていました。まさに正常性バイアスが働いたというべきでしょう。学会メンバーのKさんが「シャンデリアの下にいる人は席を離れてください」と叫ばなければ、おそらく怪我人が出ていたはずです。

正常性バイアスから逃れることはできないにせよ、まずは事件や事故、災害などの際にはこのような心理が働くということを知っておきたいものです。

※写真は武蔵小杉のタワーマンションです。

 

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韓国信用市場の動揺

今月に入りIMFは最新版の国際金融安定性報告書(GFSR)のなかで、保険会社を含むノンバンク金融仲介機関の脆弱性が増しているという報告を行いました。報告書の2章を確認したところ、ケーススタディとして「2022年の英国年金基金の流動性危機」「Commodity-trading firms」「Private Credit Markets」とともに、「最近の韓国で生じた信用市場の動揺」というトピックが載っていました。
恥ずかしながら最近の韓国で金融市場の動揺があったことをフォローしていなかったので、IMFの報告書のなかで、昨年11月から12月にかけて、短期の信用スプレッドが200ベーシスを上回ったというグラフを見つけて驚いた次第です。これはリーマンショック以来の高水準となります。

私が「低金利下における生命保険会社の金利リスク対応ー日本・台湾・ドイツ・韓国の事例から考える」を論集に発表した2020年ころまでの韓国は、金利水準の低下局面が10年以上も続いていました。しかしその後、0.5%だった政策金利の引き上げが2021年8月から始まり、直近では3.5%となっています。
そのような金利上昇局面で起きたのが「レゴランド問題」です。エコノミストOnlineの記事によると、テーマパーク(春川のレゴランド)建設の資金調達にプロジェクトファイナンスを活用していたところ、債務保証をしていた地方政府が、いざ履行が必要となった際(2022年9月)に履行しないと言い出したことで、金融市場は大混乱に陥りました。大型開発案件の資金調達が厳しくなっただけではなく、優良企業の社債市場にも混乱が波及し、政府が社債やCPを買い入れるという、緊急の資金供給を実施するに至りました。

日本は金利上昇局面に入ったとまでは言い難い状況ですが、米国のシリコンバレー銀行の破綻を含め、金融市場が大きく動いた際には、何も起きないということはまずないと考えておくべきなのでしょう。

※写真は福岡・大濠公園です。

 

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保険商品の特殊性

今週のInswatch Vol.1180(2023.4.10)に寄稿した記事をご紹介します。
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原材料を仕入れなくても販売できてしまう

保険が他の商品と異なる点として、保険会社は事前に原材料を仕入れなくても保険を提供できてしまうということがあります。
例えば自動車メーカーは、事前に原材料である鉄やゴム、ガラスなどを仕入れることができなければ自動車を製造・販売できません。ですから、原材料価格がよくわからない段階で自動車を販売するようなことはなく、あくまで仕入れが先で、販売が後になります。
レストランも同じです。事前に食材を調達しなければ顧客に食事を提供できませんし、食材の価格が上がれば、メニューの値段を上げるのは当然です(もちろんマーケティング上の理由などから、原材料価格の上昇を承知のうえで値段を維持することはありえます)。

ところが、保険会社が保険金を支払うのは将来のことであり、かつ、将来支払う保険金額は販売時点で確定していません(保険事故が起きなければ支払わないこともあります)。このため、事前に原材料を仕入れていなかったり、原材料価格のことを十分に理解していなかったりしても、保険会社は保険を提供できてしまいます。
とりわけ販売競争が激しくなると、販売数を伸ばすために価格競争に陥りやすく、原価割れの危険が高まります。

販売停止となるのはなぜか

保険会社が保険を提供するにも、やはり原材料が必要です。保険は保険事故が生じた際、契約どおりに保険金を支払うという商品なので、特に長期の保険の場合、保険会社は保険料を受け取れば十分というのではなく、金融市場から将来の保険金支払いに備えたキャッシュフロー(無リスク債券)を仕入れる必要があります。加えて、保険会社は将来の保険金支払いの不確実性というリスクも抱えています。
もしも原材料を仕入れる前に金融市場の変動により原材料価格が上がってしまったり、原材料価格の適切な把握に失敗(例えばパンデミックのリスクを過小評価)してしまったりすると、保険会社の経営に深刻な影響を及ぼすこともあります。

保険を販売する皆さんにとって、売れ筋商品の販売停止はできるだけ避けたい事態だと思いますが、保険会社がしばしば保険商品の販売を停止するのにはこうした背景があるからです。すでに提供してしまった保険を無効にはできませんので、販売停止に踏み切ることで、これ以上傷口を広げないようにしているのです。

販売停止も簡単ではない

保険会社の目線に立つと、実のところ販売停止によるリスクコントロールもそう簡単ではありません。
自動車メーカーなら「100台限り」と決めてしまえば、それ以上売ることはありませんし、レストランも「ランチは30食限定」とすれば、原価割れの値付けだとしても、そこで止まります。いずれも事前に原材料を用意していなければ提供できないからです。

ところが同じことが保険では難しいのです。保険会社は顧客への配慮などから、ただちに販売停止という対応ではなく、「○○日で販売停止」とするので、売れ筋商品であれば必ず駆け込み需要が生じてしまいます。引き受け金額の上限を定めていたとしても、前述のとおり、保険は原材料を仕入れずとも販売できてしまうので、結果として上限を大幅に上回ってしまうこともありえます。
日本の例ではありませんが、昨年、台湾の損害保険業界がコロナ関連保険のリスク管理に失敗し、多くの会社が資本不足に陥りました。現地で確認したところ、その一因として売り止め前の駆け込み需要が殺到し、上限コントロールが実質的に機能しなかった点も挙がっていました。

皆さんが取り扱っている保険という商材にはこうした特殊性があることを改めてご認識していただければと思います。

※今回は共著である『経済価値ベースの保険ERMの本質』(金融財政事情研究会)の一部を参考にしました。
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※大学から博多駅や福岡空港が近くなりました!

 

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クレディ・スイス

経営危機に陥り、同じスイスを拠点とするUBSに買収されることとなったクレディ・スイスの報道を見ていると、この銀行の投資銀行部門が荒っぽいビジネスを行うのは30年前と全く変わっていないことがよくわかりました。
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クレディ・スイスでは近年、ブルガリアの麻薬組織によるマネーロンダリング(資金洗浄)を巡る有罪判決、モザンビークでの汚職への関与、元従業員と幹部が関与したスパイ・スキャンダル、顧客データのメディアへの大量リークなど不祥事が相次いでいた。
これに加え、破綻した英金融ベンチャー、グリーンシル・キャピタルの創業者レックス・グリーンシル氏や、破綻に至ったアルケゴス・キャピタル・マネジメントとの関係が明らかになったことで、内部統制の甘さが浮き彫りになった。この結果、多くの顧客が同行に見切りをつけ、2022年後半に前例のない規模の顧客流出が進んだ。
2023年3月16日のBloombergより)
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30年前のほうは、一昨年に話題となった『金融庁戦記 企業監視官・佐々木清隆の事件簿』にいろいろと記述がありますので、一部を引用しましょう。

「(1999年に不良債権の『飛ばし』スキームについて調べたところ)一番派手にやっていたのがクレディ・スイス・グループだった。(中略)英当局が自慢した収益力の源泉は『飛ばし』の幇助によるものだった」(66ページ)

「クレディは山一や長銀、日債銀など大手の金融機関に売り込む一方、国際証券グループを手足に使って列島の隅々まで『飛ばし』デリバティブを売りつけた」(73ページ)

「二月に入って、三重県信用組合が国際証券の仲介でクレディの『飛ばし』商品を買っていたことが明らかになった。含み損のある7億円余の株式を飛ばしたのだが、それが二十億円以上の損失になって舞い戻ってきて、三重県信組は債務超過に陥った。損失を隠すつもりが、結局、自らの首を絞めることになった」(74ページ)

「(金融庁がCSFPの銀行免許を取り消したことを受けて)クレディ・スイス・グループの社員の多くがこのとき退職を迫られた。だが、儲かる日本を彼らがみすみす見逃すはずはなかった。一部は香港やシンガポール、スイスに散り、日本向けビジネスの捲土重来を期すことになった」(81ページ)

当時のクレディ・スイス・グループの事例では、株主はむしろ執行サイドの食い物にされたというべきかもしれません。支配株主が存在するからといって、株主からの経営への規律付けが働くとは限らないわけでして、とりわけ金融ビジネスでは健全な企業文化を育てることが重要なのだと思います。

※4月ですね!

 

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外資系生保のガバナンス

インシュアランス生保版(2023年3月号第4集)に寄稿したコラムをご紹介します。3月13日にInswatchに寄稿したコラムと同じく、外資系生保のガバナンスについて書きました。
他の視点として、グループの採用する統治スタイル(中央集権型/分権型)も関係してくると思います。
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2013年以降、政府が成長戦略の一環として進めてきた日本のコーポレートガバナンス改革は、主として上場会社を対象にしている。
日本では支配株主を有する上場会社も少なくないとはいえ、総じて言えば、上場会社では所有(株主)と経営が分かれており、経営が株主の期待どおりに行動しないという問題(狭い意味でのエージェンシー問題)を解消するため、社外取締役の活用や指名委員会等の設置など、ガバナンスを強める取り組みを行ってきた。上場会社が取り組むべき行動原則を取りまとめた「コーポレートガバナンス・コード」では、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出には従業員や顧客、取引先、債権者、地域社会といった様々なステークホルダーとの適切な協働が不可欠としているものの、基本的には株主からの経営への規律付けを念頭に置いている。

ところで生命保険業界に目を転じると、株主のいない相互会社は5社に限られる一方、全28社・グループのうち、実に20社・グループが特定の親会社・グループの傘下にあり、支配株主を持たない保険会社の数は少ない。親会社の傘下にある保険会社では、経営は親会社の選んだ経営者が担うので、所有と経営が実質的に分かれておらず、前述のような狭義のエージェンシー問題は生じにくい。
事業会社に比べると、保険会社など金融機関のガバナンスには大きな特徴がある。それは、株主以外からの経営規律が働きにくいことである(規制当局を除く)。事業会社の債権者といえば銀行や社債の投資家だが、保険会社の債権者の多くは契約者であり、単なる顧客ではない。だからこそ、保険会社の経営が破綻してしまうと、契約者が損失を被ることになるのだが、経営危機時を除き、契約者は通常、加入している保険会社経営への関心は低く、情報も劣位にある。

こうした特徴は支配株主の有無とは関係がない。ただし、親会社を持つ保険会社では、親会社である株主からの規律が働きやすいがゆえに、かえって契約者の利益が守られにくい面もあるのではないか。
グループにおける当該事業の重要性によって、子会社の経営に求める管理水準には違いが見られる。例えば、日本の事業がグループの中核を占めるほど重要であれば、子会社の持続的な成長には契約者をないがしろにするような経営は本来ありえないはず。しかし、それほどの重要性がなく、関心も低ければ、グループとしては一定の数字さえ出してくれれば十分であり、そうなると子会社の経営者は求められた数字を出すことに集中する。最近、外資系生保が相次いで行政処分を受けたのは、背景にこのような構図がある。

上場会社や相互会社のガバナンスだけではなく、親会社を持つ保険会社のガバナンスを強めるにはどうしたらいいかも真剣に考える必要がありそうだ。
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※東京の桜もきれいでした。

 

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