2つのESR

先日、保険業界の皆さんに新たなソルベンシー規制について説明する機会がありました。そこで出たのが、2つのESR(経済価値ベースのソルベンシー比率)をどう使い分けたらいいかという質問でした。
これまでも規制が求めるソルベンシー・マージン比率と内部管理用のESRの2つを開示していた会社も多かったのですが、規制でも「ESR」という名称が出てきて、はじめて健全性指標が2つあるのに気づいたということなのでしょう。業界内部の皆さんは、業務で関わっていなければ、意外に社外に出している情報を知らないのかもしれません。

先週までに発表された生保決算では、ざっと見たところ、これまでソルベンシー・マージン比率が載っていた決算資料には新たな比率の記載はなく、各社が独自に作成した説明資料の中にESRに関する情報を載せているようです。
例えば主要生保の開示状況は以下の通りです。

・日本生命:内部モデルESR(連結)と規制ESR(連結と単体、速報値)を開示
・第一生命:グループESR(概算値)を開示(規制ESRは後日開示予定)
・住友生命:連結内部管理ESRを開示(規制ESRは6月下旬に開示予定)
・明治安田生命:内部モデルESRと標準モデルESRを開示
・大樹生命:規制ESRの概算値を開示
・朝日生命:内部管理ESR(連結)と規制ESRの暫定値(連結?)を開示
・T&D:内部管理ESR(グループ)を開示
・富国生命:内部モデルESR(連結と単体)と標準モデルESR(単体、速報値)を開示
・ソニーFG:内部管理ESR(連結とソニー生命)を開示
・かんぽ生命:ESR(規制ベースの暫定値?)と大量解約リスクを除いた比率を開示

現時点では、以前から開示していた内部管理用のESRだけを開示している会社と、規制ESRの暫定値もあわせて開示した会社に概ね分かれるようです。ただし、内部管理ESRについては、各社とも比率の推移に加え、関連する情報(分子・分母の内訳や感応度など)も開示していますが、規制ESRを開示した会社では、開示したのは前期末の比率だけというところが大半でした。おそらくディスクロージャー誌が出そろう7月末から8月上旬までには、規制ESRと関連情報を公表する会社が多いのではないかと思います。

冒頭の質問に対する回答は、「規制ESRはあくまでも100%を下回ることのできない制約要件」「規制ESRは各社のリスク特性を反映したものではないので、経営管理指標としては内部管理ESRを重視すべき」「いずれも高ければ高いほどいいというものではない」というものです。
もっとも、内部管理ESRの関連情報の開示は多くの会社で十分とは言えない状況なので、規制ESRの関連情報(=こちらは規制で開示内容が決まっています)を参考にすることになりそうです。ここまで説明するとかえって質問者を混乱させてしまうので、実際にいろいろな数値が出てきたら、それを使った説明ができるといいですね。

※写真は東京・杉並の妙法寺です。

 

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規制が新しくなったのですが…

この週末は長崎に滞在していまして、短めのブログです。

5月22日の日経電子版に「生命保険会社選び、健全性や信用力を吟味 破綻時の影響も注意」という記事が出ていました。このタイミングですから、新たなソルベンシー規制を紹介する内容、あるいは少なくとも規制見直しについて触れていると思いますよね。
ところが読んでみると、確認すべき代表的な指標として最初にソルベンシー・マージン比率(SMR)が挙がっているのですが、

「値が高いほど健全性が高いといえ、一般的に200%超なら一定の安全性があるとされる。2025年3月末時点で200%を下回る生命保険会社は無く、最も高い会社は3000%超、最も低い会社は500%台だ。国内大手生保4社の平均は835%なので一つの目安になるだろう」

という記述。旧SMRの数値を紹介し、新規制への言及が全くないということは、おそらく筆者のかた(外部ライター)は規制が変わったことをご存じないのでしょう。日経にこうした記事がそのまま載ってしまうことにも驚きましたが、金融庁は規制が変わったことを一般にもっと伝えたほうがいいのではないでしょうか。

もちろん、実際に新たな数値が出てこないと、ピンとこないというのもわかります。上場保険会社グループの決算発表では内部管理上のESR(経済価値ベースのソルベンシー比率)の開示は続いているものの、規制比率も同時に開示した会社は少ないようです。実際にもっと数値が出てきたら、それらを取り上げる媒体も出てくるのではないかと期待しましょう。

なお、5月11日に始まったダイヤモンド保険ラボの連載「新規制ESRの衝撃」は、先週の森本祐司さんによる論考「『経済価値ベース』とは何か」に続き、今週もありますのでご期待ください。

 

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重要なのは含み損益ではない

5月11日(月)からダイヤモンド保険ラボで「新規制ESRの衝撃」という特集が始まりました。3回目の15日は「保険業界人必読のESRとの付き合い方、『7つの疑問』に専門家が回答」でした。今週はキャピタスコンサルティングの森本祐司さんにバトンタッチ。有料媒体ですが、これまでのところ新規制に関する一般向けの情報がほとんどでていないので、ぜひご覧ください。

さて、保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1328(2026.5.18)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
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新たなソルベンシー規制の導入

保険流通に関わる皆さんは、この3月末から保険会社向けの健全性規制がガラッと変わったのをご存じでしょうか。
先週から始まった「ダイヤモンド保険ラボ」の連載でも述べていますが、約20年間の検討期間を経て、26年3月末から「経済価値ベースのソルベンシー規制」と呼ばれる新たな健全性規制の適用が始まりました。ただし、これから保険会社の決算発表がピークを迎えますが、そこでは内部管理上の比率の公表が中心で、規制比率の公表はおそらく夏以降になるのではないかと思います。
新しい比率は従来の水準から大きく下がると見込まれます。だからといって、保険会社の健全性そのものが悪化したわけではないということを、念のためお伝えしておきます。冷静に考えれば、規制見直しによってモノサシが替わっただけなので当たり前なのですが、過去にはそのような報道もありましたので、ご注意ください。

重要なのは資産の含み損益ではなく、「適格資本」の状況

昨年度は株価が大きく上がり、かつ、国内金利も大きく上昇しました。その結果、株式含み益が一段と膨らむとともに、生命保険会社が保有する国内債券の含み損が拡大しました。
しかし、これは「これまでの超長期債への投資が裏目に出た」「(国内債券だけではなく)株式を持っていればよかった」という話ではありません。金利の上昇は資産だけではなく負債にも大きな影響があります(保険負債の時価が総じて小さくなります)し、新たな規制の下ではソルベンシー・マージン(適格資本)にも反映されます。もともと保険会社の経営を見るうえで、資産側だけに着目するのは正しくなかったのですが、新規制の導入によってそのことがより明確になりました。
重要なのは資産の含み損益ではなく、経済価値ベース(時価ベース)で見た適格資本の状況です。

ちなみに、資産のみを時価評価して算出する「実質純資産(額)」「実質資産負債差額」などと呼ばれた健全性指標も、新規制の導入とともに廃止されました。これは、リスク管理の観点から負債の金利リスクを資産(債券)で適切にヘッジしている会社ほど、金利上昇時に数値が極端に悪化してしまい、リスク管理の妨げとなっていたからです。この点からも、資産側だけに着目する意味はなくなりました。

含み益経営の亡霊から脱するべき

以上のように、資産の含み損益は健全性指標としての役割を名実ともに終えました。他方で、含み損益が実現益・実減損になると(あるいは減損処理を行うと)、会計上の損益に影響を与えるのは確かです。
ですが、2年前の本誌で述べた通り、株式の売却益を計上すると一見、儲かったように見えるかもしれないけれど、実際は株式を現金と交換しただけなので、売却益は会社の価値を高めません。同じく1年前の本誌で述べた通り、売却損を出して債券を入れ替えても、今後の利息収入が増えるだけで債券投資のリターンは向上しません。つまり、生保がリターンを目指す投資家であるならば、会計上の損益は全く参考にならないということです。
強いて言えば、メディアが会計損益しか報じないので、含み益は会計損益を安定させるために重要と生保の経営者が考えてしまうのかもしれません。契約者への還元をあまり増やしてこなかった生命保険会社の経営を見ると、ついそう疑ってしまいます。とはいえ、それなりにリスクをとっているのであれば、そもそも安定した損益を期待するのは理にかないませんよね。
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※週末は新潟でした。

 

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なぜ債券含み損にこだわるのか?

どうも日経記事は生保の含み損益に過度に注目する傾向がある(あるいは、一般勘定で株式投資をするべきだと言いたい?)ようです。
5月9日にアップされた「金銭詐取疑いで揺れるソニー生命 含み損処理で新たな火種(会員限定)」では、「ソニー生命は保有債券の含み損が多い。解約増で売却を迫られれば、収益への影響は大きい」と報じ、大手4社では株式含み益と債券含み損が打ち消しあっているのに対し、ソニー生命は債券偏重なので含み損が大きいという図表を示しました。

では、営業職員による金銭詐取が発覚し、販売活動の自粛を続けているプルデンシャル生命(POJ)はどうなっているのでしょうか。
親会社プルデンシャル・ファイナンシャルは4月21日に、POJの既契約からの利益が2026年には最大10%、2027年には最大15%減るという見込みを公表しましたが、ソルベンシー比率やキャッシュフローへの大きな影響はないとしています。
さらに、5月6日開催のIRミーティングでは、1-3月期における販売自粛による損益への影響は1.3億ドル(約200億円)で、このうち、0.5億ドルが顧客対応、0.5億ドルが営業職員への手当で、販売自粛と解約に関する損失は0.3億ドル(約46億円)とのことでした。POJもソニー生命と同じく、多額の債券含み損(昨年12月末時点で8950億円)を抱えていて、この0.3億ドルに売却損が含まれている可能性もありますが、そうだとしても大した金額ではありません。影響は2月からなので、さらに膨らむのは確実とはいえ、IR資料や質疑応答からはPOJの保有契約が急減しているとは読み取れませんでしたし、債券含み損に関するアナリストからの質問もありませんでした
(むしろ、「POJでは保有契約からの利益が全体の90%を占めるので脆弱ではない」とコメントしています)。

確かに解約が殺到すれば、保有債券の売却を迫られ、売却損を計上することもありうるでしょう。ただし、平準払いの商品を中心に販売してきた生保では、手元のキャッシュのほか、既契約からの保険料が常に入ってきますし、保有債券の償還もあります。公表資料によると、ソニー生命は既契約から毎年約1兆円の保険料収入がありますので、解約が多少増えても、ただちに保有債券の売却とはなりません
(ちなみに近年ソニー生命の解約返戻金が増えているのですが、他社動向を踏まえると、おそらく経営者向け保険の解約が増えたためではないかと思います)。

それに、この件で解約が殺到するという確率は極めて低いでしょう(新契約が取れなくなる可能性はあると思いますが…)。
仮に、担当した営業職員が犯罪に手を染めていたとしても、平準払い商品の場合、そもそも保障が必要だから加入しているので、「裏切られた。解約だ!」とはなりにくいです(特にソニーやPOJは義理人情ではなく、コンサルティングセールスを標榜してきました)。
しかも、他社に乗り換えたくても、加入してから時間がたっていなければ解約控除がかかりますし、時間がたっていれば被保険者の年齢が上がっていて、新たな保険に加入しにくくなっているはずです。

3月28日のブログ(生保解約返戻金の増加)と同じく、この時点でソニー生命の債券含み損にことさら言及するのは、やはりミスリードと言わざるを得ません。

※横浜・山下公園のバラです。

 

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自賠責保険の料率引き上げ

メディアでも報じられた通り、4月30日開催の自動車損害賠償責任保険審議会での了承を受けて、11月1日から自賠責保険の基準料率が平均6.2%上昇することとなりました。内訳は純保険料率が1.9%の引き上げ、付加保険料率(社費と代理店手数料)が4.3%の引き上げです。
詳しくはこちら(損害保険料率算出機構のサイト)をご覧ください。

業界のかたには釈迦に説法かもしれませんが、同じ自動車保険でも、自賠責保険と任意保険では支払保険金の内訳が大きく異なります。
自賠責保険は対人賠償責任しかカバーしていないので、当然ながら支払保険金は自動車事故による死亡や後遺障害、傷害への賠償責任に限られます。これに対し、任意保険では支払保険金の約8割を車両保険と対物賠償責任が占めています。両者の保険金の大半は修理費なので、近年の物価上昇の影響を強く受けていることがわかります。

では、物価上昇の影響を受けにくいはずの自賠責保険の料率がなぜ上げるのかというと、付加保険料部分(主に物件費)が物価上昇の影響を受けているのと、料率引き下げに活用してきた滞留資金の残高調整が必要になったためだそうです。自賠責保険はノーロス・ノープロフィットの原則で運営されていて、社費部分も当てはまります。

ちなみに、2020年の民法(債権法)で法定利率が年5%から3%に下がり、支払保険金が増加するとみられていました(逸失利益の計算で割引率が小さくなるため)。ただし、料率算出機構「自動車保険の概況」を見るかぎりでは、2021年に死亡保険金の単価がやや上昇したものの、その後は高齢者割合の増加などに吸収され、大きな影響を及ぼしてはいない模様です。

※船旅と在来線特急の旅を楽しみました

 

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「第2の柱」の実効性

プルデンシャル生命の営業職員による金銭詐取問題をはじめ、近年、保険会社や代理店による不祥事が後を絶ちません。そのなかで、「金融庁は何をしていたのか」「検査で見抜けなかったのか」など、金融庁の監督に対する社会の目線も厳しくなっているように感じます。

金融庁のリソース不足については2024年にIMFが指摘していますし、ブログでも何回か触れてきました。例えばこちら(金融庁のリソース拡充を)やこちら(過度の便宜供与)、こちら(日本の保険行政)などです。
ただし、リソース不足だけではなく、主として銀行を念頭に置いた検査・監督の見直しが、保険行政にはむしろ裏目に出たとも考えています。最近になって、2024年12月に日本保険学会・関東部会で報告した「ソルベンシー規制『第2の柱』の実効性に関する考察」の論文のPDFファイルが公表されました。この論文の「おわりに」で私は次のように述べています。

以下、少し長いですが、該当箇所を引用しましょう。
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この間、金融庁は検査・監督の大幅な見直しを行った。(中略)いわゆる重箱の隅をつつくような検査ではなく、「モニタリング・データや随時のヒアリング等により金融機関の分析を行い、金融機関の特性を把握し、その内容に応じて検証の重点を判断し、重点的な課題の性質に応じてオンサイト(立入検査)とオフサイト(立入を行わないモニタリング)、個別金融機関のモニタリングと水平的なモニタリング(同一課題についての金融機関横断的なモニタリング)等を使い分けていく」とした。実際、定期検査中心のモニタリングから、オン・オフ一体の継続的なモニタリングに移行し、検査局もなくなった。
この改革は、銀行監督についてはともかく、保険部門の監督に関してはうまく機能していない可能性がある。もともとのリソース不足に加え、少数の専門性の高い人材を新たなソルベンシー規制(特に経済価値ベースの健全性指標の開発)に配置せざるをえないなか、周期的な立入検査をなくしたことにより、リスクの把握が難しくなった点は否めない。方針転換とともに、保険行政としては、立入検査に代わるリスク情報の収集と分析の枠組みを確立すべきだったが、その取り組みが進まなかったのであろう。加えて、保険会社の経営情報はわかりにくい、理解が難しいとされる(特に生命保険会社)。2年程度のローテーション人事では、いくら優秀なスタッフであっても、しっかりした枠組みがなければリスク情報の分析は難しい。
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それでも保険行政の現場は何とかがんばっているのですが、現場だけで取り組めることは限られています。せっかく7月から監督局が2つに分かれ、銀行行政に引きずられにくくなるのですから、ぜひ機会を生かしてほしいところです。

※福岡に嵐が来ました(私は会っていません)

 

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他業禁止規制の見直しを提言

昨年度からSBI金融経済研究所の「次世代金融インフラの構築を考える研究会・分科会C(金融産業構造の未来像)」に参加しています。分科会Cではこの3月末に第一次提言として、「金融業における業務範囲規制のあるべき姿」を公表しました。

政府は銀行や保険会社、あるいは金融持株会社(ここでは銀行持株会社・保険持株会社)に対し、厳格な業務範囲規制(他業禁止規制)を設けています。近年では規制緩和が進み、例えば第一生命によるベネフィット・ワンの買収、東京海上によるID&Eホールディングスの買収など、保険グループによる非保険事業への参入も目立ちますが、当局の認可・承認といったプロセスを含め、まだまだ制約が大きいのも確かです。
他方で楽天やイオン、KDDIなどは一般の事業を行いつつ、銀行や保険の分野に参入できています(ソニーは昨年、金融事業を分離しましたが…)。それが可能なのは、金融持株会社に該当しなければ、他業禁止規制を課せられないからです(銀行・保険主要株主という取り扱い)。言い換えると、楽天やイオン、KDDIなどは、金融持株会社の判定基準と子銀行・子保険会社の議決権比率をコントロールすることで、金融持株会社に該当しないようにしているというわけです。
この結果、銀行や保険会社が金融以外の事業に参入するのは他業禁止規制の壁があるのに対し、事業会社は金融持株会社と判定されなければ銀行・保険分野に参入できるという妙なことになっていて、これを見直すべきというのが提言の柱となっています。

もっとも、楽天やイオン、KDDIは参入できているとはいえ、全体として事業会社が銀行・保険分野に参入しやすいかといえば、おそらくそうではないでしょう。今年度はこのあたりについてもさらに考えていきたいと思います。

※写真は「大手町の森」です。中には入れないのですね。

 

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日本の生保経営

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1324(2026.4.13)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
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香港で「集中講義」

最近、香港で保険ビジネスに関わる皆さんに対し、保険会社経営に関する「集中講義」を行う機会がありました(ちなみに日本語でした)。
日本でも近年、貯蓄性の強い生命保険の販売が伸びています。とはいえ、変額保険を除けば、総じて利率固定型の商品です。これに対し、香港の生命保険は投資連動型が多く、保証部分(利率固定)と非保証部分(運用実績に応じた契約者配当あり)を組み合わせた保険が主流となっているそうです。米ドル建てが中心で、保険会社は保証部分については主に公社債で運用し、非保証部分は株式やオルタナティブ投資などで高いリターンを目指します。
ただし、運用実績をそのまま配当に反映させるのではなく、スムージングを行うとか、割り当てられた配当の多くが確定したものではないとか、なかなかに複雑な商品だと感じました。

日本の生保の資産運用

もっとも、日本の生命保険会社の資産運用についても、合理的に説明するのが難しい点はいくつもあります。
例えば、「円建ての保険を提供しているのに、なぜ外国証券が運用資産の約3割をも占めているのか」という質問に、どう答えたらいいでしょうか。歴史的な低金利が長引くなかで、利回りの高い外債投資や外国籍のオルタナティブ投資を増やしていったという説明になるのかもしれませんが、そもそも日本の生保が為替リスクのコントロールに長けているという客観的な証拠はあるのでしょうか(むしろ過去には円高で損失を出した印象が強い)。
一般勘定での株式投資も、政策保有であろうと純投資であろうと、株主には説明するのが難しいです。拙著『保険ビジネス』でも記したとおり、株主は自分で株式投資ができる存在なので、株式投資に強みを持つと思わせてくれる経営者でもないかぎり、わざわざ税引後のリターンしか期待できない保険会社に株式投資をしてもらいたいとは考えないはずだからです。

他方で、ネットでは「日本の生保は安定志向が強すぎて(あるいは、政府を助けるために)、国債ばかり保有しているのでリターンが低い」といった論調をしばしば見かけますが、これは誤解です。超長期にわたり利率を保証する商品を提供すると、保険会社は必然的に金利変動リスクを抱えることになります。超長期国債の購入は、あらかじめ保険負債の金利リスクをヘッジすることで、長期保障をより確実なものにするといった考えに基づいての行動です。
生保の資産運用は、どのような商品を提供するか、つまり、どのような特性を持つ保険負債を抱えるかによって決まるのであって、単に集まってきた資金を運用すればいいというものではありません。

なぜ契約者配当が少ないのか

香港で保険ビジネスに関わる皆さんからすると、日本の生保による契約者配当の少なさも理解が難しいポイントのようです。
確かに、第一ライフグループやT&Dグループの株主還元(配当と自社株買いの合計)の水準に比べると、株主のいない日本生命や明治安田生命などの個人向け保険の契約者配当の水準はかなり見劣りします。団体保険では危険差益の大半を契約者に還元しているとみられますが、個人向け保険の配当は非常に抑制的で、何のために金利や株式、為替変動等のリスクをとっているのか、私も説明するのが難しいと考えています。
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※6年半ぶりの香港でした。

 

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RIS2025の論文集

先日、RIS(全国学生保険学ゼミナール)のサイトに昨年度の論文集をアップしました。福岡大学植村ゼミの研究報告はこちらでご紹介したとおりですが、同じ福岡大学の田中義孝ゼミ1班の報告「ESG投資の環境側面が企業価値に与える影響」が今回の優秀論文の1つに選ばれました。おめでとうございます!
論文集には「リスクと保険」を学ぶ全国の大学生(主に3年生)がどのような問題意識を持ち、どのような学びをしているかをうかがうことができますので、ぜひご覧ください。

私は今回から編集委員長(といっても各ゼミの論文ファイルを取りまとめただけですが…)を務め、編集後記を書いています。そこにも記したように、私が初めてRISと出会ったのは2006年と意外に古く、当時は格付会社のアナリストとして関東ブロックのキックオフでお話をさせていただきました。
あれから早くも約20年。「リスクと保険」を学ぶ学生の全国レベルの研究発表大会が続いているのは素晴らしいことだと思いますし、私も今は教員の一人として、RISの今後の発展に少しでも貢献できればと思っています。

RISの運営は各教員が担い、金銭的には学生・教員の参加費のほか、賛助団体の皆さまからの協賛金に支えられています。主な使い道はこの論文集の作成と全国大会の運営費、学生の旅費支援です。昨今、宿泊費の高騰などにより、学生の負担が増える傾向にありまして、彼らの学びをサポートしていただけるかたがいらっしゃいましたら、ぜひご一報願います。

次回のRIS2026全国大会は12月12日(土)から13日(日)にかけて行う予定で、会場は京都府の同志社女子大学・京田辺キャンパスです。京都から約30分、大阪からでも1時間弱でアクセスできるようですので、実務家の皆さまのお越しをお待ちしています。
担当教員としては、13日のゼミがRIS2026のスタートとなります。今度の3年ゼミはどのような展開となるのか、今から楽しみです。

※春ですね。

 

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生保解約返戻金の増加

3月26日の日経に「生保解約金3.8兆円 最高に(会員限定)」という記事が出ていました。「金利上昇を受けて、既存の生命保険を解約して新しい商品に乗り換える動きが広がっている」とのことで、見出しには「投信・国債にマネー流出」とありました。
ちょっと気になったので自分で調べてみたところ、次のようなことがわかりました。

25年10-12月の解約返戻金が3.8兆円に達したのは記事のとおりです(生命保険協会のサイトで確認できます)。直前の7-9月期が2.9兆円だったので、1兆円近く(正確には9,324億円)増えたことになります。
そこで個社の解約返戻金の動きを確認したところ、増加した約1兆円のうち、5社だけで全体の75%を占めていることがわかりました。この5社とは多い順に日本生命、第一フロンティア生命、三井住友海上プライマリー生命、メットライフ生命、マニュライフ生命です。

日本生命を除く4社はもともと銀行等を通じた一時払いの貯蓄性商品の販売が多く、かつ、数年前までは外貨建てが中心でした。外貨建ての貯蓄性商品は円安が進むと解約が増える傾向が見られます。25年10-12月期は円安が進んだので、おそらく同じことが起きたのでしょう。
他方、日本生命の解約返戻金が25年10-12月期になぜ急増したのかは、公表資料だけではわかりません。ただ、同じ期の保険料収入も急増していて、なかでも営業職員チャネルでの保険料収入が数千億円増えた模様です。これは25年9月に一時払終身保険の予定利率を1.0%から1.5%に引き上げたことが大きいとみられます。したがって、この期の解約増加と保険料収入の増加は何らかの関係がありそうです。

ということで、個別にはいろいろあるとしても、どうも全体としては「円金利の上昇に伴い、生保マネーが投信・国債に流出している」という話ではなさそうですし、この材料で「保有する債券を売却する必要に迫られる」「解約に伴って含み損を抱えた債券の売却が増えると、計上する損失額は膨らむ」とまで書くのはむしろミスリードだと思います。

※写真は京都の大徳寺大仙院の庭園です。

 

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