相互宝の運用終了

加入者どうしがリスクをシェアし、万一の際には助け合うという仕組みをネットの世界で実現したP2P保険の成功例として紹介されてきた中国の相互宝が、1月28日をもって運営を終了するそうです。詳しくは片山ゆきさんによるこちらのレポートをご覧ください。

2018年のサービス開始からわずか1年間で1億人の加入者を集めたというのもびっくりしましたが、中国当局がオンライン金融事業への規制を強めるなかで、運営終了に追い込まれてしまったというのも驚きです。
片山さんはレポートのなかで、中国当局が昨年になってオンライン金融事業についても既存の金融機関と同様の規制を適用する姿勢を示したなかで、相互宝が保険商品と同様の規制や、保険会社のような厳しい監督・管理を受けていなかった(そもそも当局が保険として認めなかった)ことを述べたうえで、「従来より官(主務官庁)と足並みを揃え、厳しい規制の中で成長した保険会社(民)と、莫大なユーザーを背景に異業種から参入したITプラットフォーマー(民)では、官(主務官庁)との協働関係のあり方に本質的な違いがあったのであろう」とコメントしています。中国ビジネスにおける政府リスクの存在を見せつけられた感があります。

最近のニッセイ基礎研レポートといえば、前金融庁長官の氷見野良三さんが総合政策研究部エグゼクティブ・フェローとして書いたこちら(「金融機関のシステム障害」)も興味深く読みました。
某社のシステム障害についてコメントしたものではなく、「剛構造主義」「ゼロ許容度」から「柔構造主義」「オペ・レジ主義」への転換について述べたものです。私もリスクマネジメントを検討するなかで同じことを時々考えますが、氷見野さんのおっしゃるとおり、社会全体で変わっていく必要があるでしょうね。前回のブログで示したように、そう簡単なことではなさそうですが。

※筑後川昇開橋です。なんと係のかたが橋を動かしてくれました。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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リスクをどう伝えるべきか

今週のInswatch Vol.1119(2022.1.10)に寄稿した記事をご紹介します。リスクマネジメントは奥が深いですね。

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新しい年になりました。本年もよろしくお願いいたします。

リスクをどう評価するか

読者の皆さんの多くは保険ビジネスに関わっているかただと思いますので、一般の人に比べると「リスク」や「リスクマネジメント」について、より深く理解されているのではないかと思います。
ご存じのとおり、リスクマネジメントを行うにはリスクを認識し、何らかの形で評価する必要があります。
もし、リスクによって生じうる損失や利益の大きさと、そのリスクの発生頻度がわかれば、リスクの大きさを数値で表すことも可能です。例えば3メガ損保グループはいずれも、グループの直面する主要な経営リスクを数値化し、自己資本(広義)と対比するリスクマネジメントを行っています。

2つの思考システム

問題は一般の人がリスクをそのようにとらえているか。つまり、専門家と同じようにリスクを評価するかという点です。

リスク心理学を専門とする中谷内(なかやち)一也先生の著書『リスク心理学』によると、私たち人間の判断や意思決定は「二重の思考システム」に支えられているそうです。
このうちシステム1は、すばやく自動的に働き、大雑把にとるべき方向性を判断するというもの。システム2は、時間がかかるものの意識的に思考し、精緻な判断をしようというもの。そして、日常の判断はシステム1で行われがちだといいます。

論理的な思考を行うシステム2によってリスクを評価するには、多くのデータと、データを分析する技術が必要です。これらがなくても人間が太古の昔から生き残ってきたのは、物事を直感的にざっくりと捉えるシステム1が有効だったからだと考えられます。

ただし、システム1には「思い出しやすい事象は発生する確率が高いと判断しやすい」「ある数値を一度基準として考えてしまうと、無関係な意思決定に影響を及ぼしてしまう」「自らの感情を手掛かりにリスクや便益の判断を行いやすい」などのクセがあり、結果としてリスクを過大に、あるいは過小に評価することにもなりかねません。

例えば、2011年に発生した東日本大震災では、沿岸各地に10メートルを超える巨大津波が押し寄せ、多くの犠牲者が出ました。この「10メートル」という数字が人々の意識に刻み込まれてしまったため、避難すべきと考える津波の高さが大震災の前後で変わってしまい、50センチや1メートル程度の津波であれば避難しなくてもいいと考える人が増えてしまったそう
です(震災前は50センチや1メートルで避難するという人が多かった)。
津波のエネルギーは1メートルでもすさまじく、リスクの過小評価が起きている可能性があります。

システム1の存在を踏まえた伝達を

皆さんをはじめ、専門家による定量的なリスク評価はシステム2によって生み出されます。専門家は一般の人に対し、システム2によって理解され、判断に生かされることを期待して、様々な説明を行います。
ところが多くの場合、提供された情報は人々のシステム1によって処理されてしまうため、リスクが過小評価されたり、過大評価されたりします。

では、どうしたらいいのでしょうか。専門家がリスク評価の考え方を一般の人にわかりやすく説明するというのが正攻法ですが、まずは人間の2つの思考システム(特にシステム1の存在)を知ったうえで、システム1に響くように伝える工夫が求められているのだと思います。
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※写真は「のだめカンタービレ」のロケ地です。

 

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保険会社経営の方向性

日本共済協会の月刊誌「共済と保険」に、昨年9月の講演内容が掲載されました。
講演では大手生損保グループの2020年度決算を解説したうえで、私が注目している保険会社経営の方向性として、次の3点についてお話ししました。

(1) 足元の経営課題への対応
(2) 外部ステークホルダーを重視する経営へ
(3) デジタル社会への対応

ごく簡単に紹介しますと、まず(1)の足元の経営課題としては、生命保険会社では「出口が見えない超低金利下での商品戦略」、損害保険会社では「火災保険の収益改善」を挙げました。
次に(2)では、株主や契約者、その他債権者に対して経営戦略をきちんと説明できるような経営を指向する動きが見られるとして、具体的には第一生命ホールディングスと明治安田生命の事例を取り上げました。
最後の(3)では、同じデジタル化でも「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」では違うことを説明し、後者のデジタライゼーションでは保険ビジネスがこれまでと全く違うビジネスモデルになるかもしれないという話をしました。

ところで、同じ号に「業績回復で明暗分かれた生損保 ー2021年度上半期決算より-」というジャーナリスト高見和也氏の記事があり、何をもって明暗が分かれたとしているのか興味を持ちました。
読んでみると、高見氏は「業績」という言葉をかなり柔軟に使っていることがわかりました。生保では新契約年換算保険料の数字をもとに「4グループのなかでは国内での業績の回復が最も早い」「本体の業績がまだ戻りきってはいません」などと書いている一方で、損保では各社が正味収入保険料や純利益などの予想を変更したことをもって「3メガ損保グループは2021年度末の業績予想を変更」と書いています。実質的に違うものを比べて「明暗が分かれた」と言われても、読者としてはとまどってしまいますね。

上場企業が業績を上方修正したといえば、まずは利益指標の上方修正を指すのが一般的です。売上高を含むことがあっても、業績イコール売上高という人はほとんどいないと思います。
しかし、生保業界では基礎利益が登場するまで利益指標をみる習慣がほとんどなかったためか、業績という言葉が新契約など契約動向を示す言葉として使われてきたという経緯があり、それが混乱のもととなっているのではないかと思います。

※博多の櫛田神社にお参りしました。

 

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2022年の保険行政

あけましておめでとうございます。年末年始は横浜の自宅で過ごしています。

さて、2022年ということで、前回のブログでも言及した「経済価値ベースのソルベンシー規制」について、検討が順調に進めば、金融庁は制度の基本的な内容を暫定的に決定することになります。
少し長いですが、昨年9月開催の生命保険協会との意見交換会で金融庁が示した規制に関するコメントをご覧ください(金融庁は同月開催の日本損害保険協会との意見交換会でも概ね同じコメントを提示)。
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〇経済価値ベースのソルベンシー規制(ESR)については、保険会社における新制度への必要な準備期間を考慮し、2022 年に標準モデルを中心とした制度の基本的な内容を暫定的に決定できるよう検討作業を進めていく。生命保険業界においては、生命保険協会内にワーキンググループを設け、当庁に提言すべく議論いただいていると承知しているが、金融庁としても、引き続き透明性をもって検討状況を示していき、各保険会社との対話も一層密にしてまいりたい。

〇また、ソルベンシー規制の検討と並行して、経済価値ベースの指標を使ったモニタリングの高度化を進めていく。その際、不要となった報告データについてはスクラップアンドビルドを行うなど、各社の負担にも配慮していく。このほか、情報開示の枠組み等についても論点整理を進めていく。

〇これらの取組みの目指すところは、保険会社を取り巻く環境変化が進む中で、将来にわたって保険会社が保険契約者の様々な期待に応えつつその経営管理を高度化していくよう促す監督の枠組みを作ることである。各社におかれては、引き続き様々な検討作業への協力をお願い申し上げるとともに、現状の実務を不断に見直し、必要な態勢整備を着実に進めていただきたい。
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その後金融庁から進捗状況に関する情報発信はありませんが、「引き続き透明性をもって検討状況を示していき」とありますので、遅くとも6月までには何らかの発信があるのでしょう。

保険流通に関しては、金融庁(財務局)は代理店へのヒアリングを開始したようですね。11月の意見交換会資料によると、「公的保険の説明に関するベストプラクティスの収集や、法人向け保険の販売に関する実態把握などを行う予定」「事業報告書の提出代理店に限らずにヒアリングを行うことも想定」とのことです。
検査ではなく、あくまでヒアリングですので、初めてヒアリング対象となった代理店も特段心配する必要はないと思います。

※この年末も実家で栗きんとんを作りました。

 

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生命保険事業への提言

インシュアランス生保版の年末特別企画「生命保険事業への提言」に、いつものコラムより長めのものを寄稿しました(2021年12月号第4集に掲載)。
私のほか、佐々木光信さん(保険医学総合研究所代表取締役)が「新型コロナから考える医療環境の変化と業界への示唆」を、原口典之さん(NGA代表取締役CEO)が「今後の生保業界はリアルとデジタルの二刀流を目指せ」を、宇野典明さん(元中央大学商学部教授)が「真の意味での顧客第一主義を目指せ」を、それぞれ執筆しています。

私が寄稿したのは「新たなソルベンシー規制への対応」という題の文章です。

1.経済価値ベースのソルベンシー規制とは
2.自己規律が試されている
3.保険会社が取り組むべきこと

新たなソルベンシー規制について、今のソルベンシー・マージン比率の計算方法が経済価値ベースに置き換わる点だけに注目するのは正しくありません。金融庁は保険会社にも「3つの柱」の考え方に基づく健全性政策を採用しようとしていて、保険会社の自己規律がこれまで以上に問われるようになります。
3つの柱を組み合わせた規制で先行した銀行業界では、銀行の自己規律に委ねていては健全性を維持できないという考えが規制当局の間で広まってしまい、第1の柱に重点を置いた規制に移ってしまいました(バーゼルIII)。

今のところ保険会社向けの健全性政策は、国際的にも国内的にも、保険会社の自主的な管理を促そうという考えに基づいているように見えます。しかし、何かをきっかけにして、自己規律が働かない業界だというレッテルを張られてしまえば、銀行と同様に事業への制約の強い規制に手足を縛られ、産業としての発展が見込めない世界となってしまいかねません。
このような危機感を共有していただきたいと思い、寄稿しました。機会がありましたらぜひご覧ください。

※津和野の夜景です。今は雪景色かもしれません。

 

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新契約ANPの減少傾向

前回のブログ(Inswatch掲載記事の紹介)では、「(大手生保の)営業職員チャネルによる個人向け販売はまだコロナ前には戻っておらず、ざっくり言って8割程度と見るのが妥当かと思います」と書きました。
コロナ禍による落ち込みからの回復度合いとしてはこれでいいのだと思いますが、時系列で見ると、2017年度あたりから新契約年換算保険料(ANP)は減少傾向にあります。つまり、新契約ANPの減少傾向はコロナ以前からの動きでして、4-9月期で減少傾向に歯止めがかかったかどうかは微妙なところです。

この背景には、前回触れた「経営者(法人)向け保険」の影響のほか、日銀のマイナス金利政策と長期金利の低下を受けて、予定利率が下がった影響も大きいと考えられます(2017年4月に一時払い保険以外の標準利率が1%から0.25%に下がりました)。
予定利率の引き下げで貯蓄性のある商品の販売が難しくなり、税制見直しで経営者向け保険の販売がダメージを受け、第三分野に注力することで新契約価値を確保しようとしてきたのが、ここ数年の大手生保の姿だと言えそうです(ただし、この4-9月期に2019年度の第三分野ANPを上回ったのは4社のうち明治安田のみ)。とりわけ新人層にとって、ドアノック商品がなくなり、コロナで顧客訪問もままならないというのは厳しい環境でしょう。

保険料明細表の廃止

ところで、保険分析業界(?)で愛用されているインシュアランス生命保険統計号に、令和元年版から「払込方法別収入保険料明細表」の掲載がなくなったことに(今さらですが)気が付きました。金融庁に提出する様式のうち「保険料明細表」が廃止されたためだそうです。
この統計には「初年度保険料」と「次年度以降保険料」の区分や、初年度保険料に占める「一時払」「年払」「月払」といったデータが示されていて、タイムラグを考慮する必要がある(未経過保険料も計上されるため)とはいえ、貯蓄性保険や経営者向け保険の販売動向などを知る貴重な手掛かりでした。
おそらく各社ディスクロージャー誌の「保険料明細表」と、生命保険協会の「生命保険事業概況(CD版)」があれば、引き続き個社データを取ることはできそうです。ただ、金融庁が様式を廃止したというのが気になります。他の統計と重複しているのであれば廃止は妥当ですが、果たしてそうなのでしょうか。

※小倉駅のモノレールです。駅ビルに入っていく姿はどこか「近未来」を感じさせます。

 

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生命保険会社の4-9月期決算から

今週のInswatch Vol.1115(2021.12.13)に生保決算に関する記事が載りましたので、ご紹介いたします。
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11月に各社の決算発表がありましたので、今回は主に新契約年換算保険料(新契約ANP)のデータから、長引くコロナ禍における各社の業績がどうだったのかを探ってみました。

大手生保:営業職員チャネルはコロナ前の8割程度か

昨年度のこの時期(2020年4-9月期)は営業活動の自粛により業績が大きく落ち込んだため、今回のデータを前年と比べてもあまり意味はありません。では、コロナ前の一昨年度(19年4-9月期)と比べればいいかといえば、ご存じのとおり、19年2月の「バレンタイン・ショック」で法人向け保険の販売が大打撃を受けた時期にあたります。足元の回復状況をつかむには、もう少し長い期間を見て判断する必要がありそうです。
そこで、まずは営業職員チャネルを主力とする大手生保(日本、第一、住友、明治安田)について、個人保険の新契約ANPを20年度、19年度、18年度、17年度と比べてみました。

【日本】 159  111  88  65%
【第一】 230   96  88  71%
【住友】 136   84  70  66%
【MY】 126  103  72  89%

日本生命の場合、新契約ANPが昨年度よりも59%増え、19年度と比べても11%増えています。しかし、18年度対比では12%少なく、17年度対比では35%も少ない状況です。19年度に比べるとコロナ前まで回復したように見えますが、日本生命は法人向け保険の販売に積極的だったので、それが落ち込んだ19年度対比でプラスになったと考えられます。
第一生命は昨年度の営業自粛期間が長かった影響が20年度対比の数値に表れていて、18年度対比では12%減、17年度対比では29%減でした。住友生命や明治安田生命は本体で銀行窓販に力を入れているため、その影響も考慮する必要があります(明治安田生命はチャネル別の数値を公表)。
いずれにしても、営業職員チャネルによる個人向け販売はまだコロナ前には戻っておらず、ざっくり言って8割程度と見るのが妥当かと思います。

損保系生保:回復は遅い

【あんしん】 132  132  61  51%
【MSA 】 111  94  53  69%
【ひまわり】 116  109  73  72%

同じように損保系生保3社のデータを見ると、18年度や17年度対比では、先ほどの大手生保よりも低い水準です。
損保系生保の主力チャネルは損保代理店のクロスセルに加え、生保プロ、保険ショップです。生保プロを中心にバレンタイン・ショックの影響を強く受けて以降、それを補うほどの業績を挙げられていないとうかがえます。
ただし、第三分野の新契約ANPは18年度や17年度対比で伸びている(MSA生命は17年度対比のみプラス)ので、収益性はむしろ高まっているものと考えられます。

非対面販売へのシフトは進んでいない?

昨年の4-9月期は自宅にいる消費者が多かったためか、いわゆるネット生保が業績を伸ばしました。この4-9月期を見ると、アクサダイレクト生命の新契約ANPは前年対比で17%増と2ケタ成長を続けたものの、ライフネット生命はほぼ横ばい、SBI生命は7%減でした。他にもネット販売に注力しているとみられる会社の業績は軒並み低調でした(ネット販売が低調だったかどうかは不明です)。
当時の「第1波」に比べると、21年4、5月の「第4波」や7-9月の「第5波」のほうが、感染者数がはるかに多かったのですが、生命保険の巣ごもり需要は高まらなかったようです。日本では幸いコロナによる死者数が国際的にみて少ないがゆえに、コロナで生命保険のニーズが高まるようなこともなく、ネットで保険加入という流れが続かなかったと考えられます。

9月に公表された直近の「生命保険に関する全国実態調査」(21年4~5月調査)によると、今後加入するなら「インターネットを通じて」という回答が17%と過去最高となり(18年調査では12%)、「保険代理店の窓口や営業職員」という回答(12%)を上回っています。
チャネル別の業績データがないので、ネット販売に注力する会社の決算数値などからの推測ですが、潜在的にはネット加入のニーズがあるとはいえ、コロナを契機に非対面チャネルへのシフトが急速に進んでいるという状況ではなさそうです。
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※写真は博多駅です。

 

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損害保険ダイレクト事業に関する考察

土曜日(12月11日)は日本保険学会の九州部会例会が対面で開催され、福岡大学に約40人の研究者や保険関係者が集まりました。報告テーマは「生命保険の自殺免責について」「地震インデックス保険」で、どちらも興味深い内容でした。
今回も残念ながら懇親会はありませんでしたが、久しぶりに同業の皆さんと直接お会いして、意見交換などをすることができました。オンラインの学会では報告や質疑応答はできても、オフィシャルではない情報交換が難しいのですよね。

※同じような構図でも前回ブログの写真とは雰囲気がだいぶ違いますね^^

自動運転と等級制度

損保総研の専門誌『損害保険研究』の直近号(2021年11月)に掲載された、損害保険料率算出機構OBである大島道雄さんによる論稿「損害保険ダイレクト事業に関する考察」を興味深く拝読しました。
自動車保険を中心としたダイレクト事業の現状を公表資料から詳細に分析し、今後の動向や市場への影響を探った力作です。

大島さんが本稿で提案している「国内損保・外国損保の区分なく一つの市場と捉えること」「損害保険市場の新たな区分が必要であること(=個人市場および企業市場の区分を設けること)」は私も同感です。前者は保険業法の問題というよりは、業界団体が2つに分かれていることから統計が一本化されていないということかもしれません。後者は格付アナリストの時代から業界にリクエストしてきた話でして、大島さんも「損害保険の事業分析も企業向けと個人向けとに分けて行うほうが、より市場特性とその市場に対する個々の企業の対応が明確に把握できる」と述べています。

先週のRISで植村ゼミの学生が発表した「自動運転」に関する話もありました。なかでも、事故防止機能の普及・進化がノンフリート等級別料率制度に影響を与えるというのは、近い未来の話として大きなテーマではないかと思います。
この制度では事故の有無(保険金請求の有無)をもって運転者のリスクの大小とみなしていて、結果として事故を未然に防ぐ機能があります。ところが、レベル3以上の自動運転車が自動運転中に起こした事故は運転車の責任ではなく、原則としてシステムの責任となります。現時点で保険会社はレベル3以上の自動運転中の事故を等級制度の対象外としているようですが、自動運転が広まっていくと、運転者のリスクはどんどん小さくなり、等級制度が不要となるのかもしれません。
大島さんは「高度の事故防止機能を備えたASV等を被保険車両として初めて自動車保険を契約する場合、果たして現在の6等級から開始し、無事故であれば1年毎に等級を挙げるという制度が車の事故防止機能に適合的といえるかどうか」「完全自動運転車に近づくほど20等級以上の安全運転の能力を有している車も発売されるであろう」と述べています。

1年経てば損保総研のサイトから無料でアクセスできるようになるのですが、すぐにご覧になりたいかたは損保総研にオーダーしていただくか、図書館などで探していただければと思います。

※旧プールの跡地に「向月台」ができていました。

 

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RIS2021全国大会に参加

12月4日から5日にかけて、リスクを学ぶゼミ学生が全国規模で集う「全国学生保険学ゼミナール(RIS)」の全国大会が京都・同志社女子大学で開催され、私のゼミも初めて発表を行いました(大学からオンラインで参加)。
当日は13大学31ゼミの報告があり、社会人を含めて300人規模の参加者があったようです。

初参加の教員としては、何とか発表までこぎ着けたというところでしょうか。3年生のゼミは4月から発表に向けて準備を進めてきたとはいえ、先輩という道しるべもなく、テーマを決め、いざ調査を進めると壁にぶつかり、他の道を探るとまた落とし穴にはまる…といった試行錯誤の連続でした。

植村ゼミの発表は次の2つでした。

一班:九州の医療費が高いのはなぜなのか
・国民健康保険について調べていたら、福岡県をはじめ九州各県の医療費が全国平均よりも軒並み高いことを発見。そこで、医療費を高めている要因を可能なかぎり探りました。会場からは「日本の医療市場が供給主導となっているから」というコメントなどをいただきましたが、他の発表であった「医療分野でキャッシュレスが普及していない」というのも、根っこは同じなのかもしれません。

二班:自動運転と未来のリスクマネジメント
・自動運転車が活躍する世界はもはや未来ではなく、分野によってはすでに実用段階にあることを紹介したうえで、自動運転の事故事例に着目することで、今後の自動車保険市場の姿を探りました。流行りものをテーマにすると大変だとわかっていたのですが、案の定、情報がありすぎて、発表直前までゴールが見えずに内心焦りました。

難しかったのは、教員としてどこまで内容に関わるべきかどうかで、これは最後まで迷いました(まだ終わっていないので、現在進行形です^^)。すべてを学生に委ねるというやり方もあり、それはそれで有意義だとは思いますが、うまく回らなければ単なる放置となってしまいかねません。とはいえ、内容に踏み込み過ぎてしまうと、極端に言えば、学生は出された課題をこなすだけで終わってしまいます。
こうして振り返ってみると、ゼミの学生以上に教員としての私が鍛えられた1年だったのかもしれません。関係者の皆さま、ありがとうございました。

来年はクリスマスの東京開催ということで、いまの2年生を中心に臨むことになります。今度は先輩もいますし、また違った試行錯誤となるのでしょうね。

 

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生保の資産運用方針(続き)

生保の資産運用方針シリーズの仕上げとして、4月に報じられた大手各社の運用計画と、先週公表された4-9月期決算を比べてみましょう。

【日本生命】
「円債のほか、通貨スワップで円金利化した外国社債を含む『国内債券等』を積み増す方針を示した。また海外金利上昇とヘッジコスト低下を受け、為替リスクを取らないヘッジ付き外債を増やす一方、オープン外債の残高は減少させる」(2021年4月23日ロイター


10年超の国債が増え、オープン外債の残高も減っていました。ただ、「通貨スワップで円金利化した外国社債」「為替リスクを取らないヘッジ付き外債」はどちらもヘッジポジションに含まれてしまうので、決算資料からはわかりません。

【第一生命】
「25年に予定される経済価値ベースでの新たな資本規制導入に向けて金利と株式のリスク削減を進める一環として、円債の残高を積み増す一方、国内株式は減少させる方針を示した。一方、収益力強化とリスク分散の観点からオルタナティブ投資を強化する」(2021年4月22日ロイター


決算資料では10年超の国債が増え、国内株式の減少も確認できました。オルタナティブ投資は外国籍なら「外国株式等」でしょうか。6月末にはかなり増やしたようですが、その後は一転して減少しています。

【住友生命】
「為替リスクをとらないヘッジ付き外債を1000億円単位で減少させる一方、オープン外債は利回りがとれる国を中心に1000億円単位で増加させる。一方、国内債券は金利リスク削減のため、超長期債をメインに数千億円規模で残高を積み増す方針」(2021年4月22日朝日新聞(元はロイター)


為替ヘッジのポジションが1000億円程度減り、為替ヘッジなしが約3000億円増えています。他方で10年超の国債は減少、10年超の外国公社債も大きく減っていて、決算資料からは金利リスクの削減が進んだようには見えませんでした。EVレポートの開示がなくなってしまったようなので、こちらで金利感応度を確認することもできません。

【明治安田生命】
「国内金利が上昇する局面で超長期債中心に積極的に積み増す方針を継続する。円建て債には新規財源3兆9000億円の約4割を配分する。為替ヘッジ付き外債は償還が多くネットでは減少。オープン外債は円高時に投資を検討する。海外株を増加させる一方、国内株はやや減少させる計画だ」(2021年4月23日ロイター


運用計画の通り、10年超の国債が増えています。円高ではなかったものの、為替ヘッジのないポジションが増えています。外国株式等が増え、国内株式はやや減少となっていますが、「外国株式等」はオルタナティブ投資も含まれているため、株式が増えたかどうかはわかりません。

いかがでしたでしょうか。現在の開示状況では曇りガラス越しに見ているようなもどかしさがありますね。

 

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