生保の公社債含み損

1つの政党を除き、どの政党も公約に消費減税(検討を含む)を掲げるとは…
消費税を廃止するというのは、例えば年収300万円(同額を消費)の家計に30万円弱を配るというだけでなく、年収1000万円(うち500万円を消費)の家計にも50万円弱を配るという政策ですし、食料品の消費税をなくすというのは、年収300万円(食料品への消費が100万円)の家計だけではなく、年収1000万円(同100万円)の家計にも約8万円を配布するという政策ですよね。物価高対策として悪手としか思えません。
とはいえ皆さん、選挙には行きましょう。究極の消去法だとしても、意思表示は必要です。

さて、1月23日のBloombergに「金融庁が大手生保の債券含み損など調査、金利上昇受けて-関係者」というニュースが出ていました。31日の日経にも「金利急騰に苦慮の金融庁、生保に矛先 ダボス帰りの片山財務相発端に(会員限定記事)」というのがありました。
いずれの記事も、金融庁が1月中旬から生保(まずは大手4社)の保有する国債などの含み損益やその対応方針について調査を行っているという内容でした。

金利が上昇すれば保有する債券の価格は下がります。例えば、2019年発行で利率0.4%の30年国債の価格は直近で50円近くまで下がっていますし、利率0.5%の40年国債の価格は40円近くまで下がっています。今月半ばに発表される生保の2025年4-12月期決算では、9月末よりも各社の含み損が拡大していることでしょう。
ただし、生保が長期債を保有しているのは、同じく長期にわたる保険負債の金利リスクをヘッジするためなので、資産サイドの保有債券だけに注目しても意味はありません。ましてや、この3月末から経済価値ベースの評価による貸借対照表と、それに基づく数値基準(規制ESR)による規制を始めるのですから、政府は監視強化ではなく、むしろ会計上の評価に神経質となっている保険会社を安心させるべきでしょう(解約動向はよく確認する必要があると思いますが)。

Bloombergの記事で気になったのは、「金利上昇により過去に購入した保有国債の含み損は膨らんでおり、財務の健全性を示す指標の悪化につながりかねないとの警戒感はすでに生保側からも出ている」というところです。
ここで言う「財務の健全性を示す指標」とは何を指すのでしょうか。規制ESRのことだとしたら、保有国債の含み損は関係ありません。保険負債も小さくなっているはずなので、純資産はむしろ膨らんでいるはず。
負債の金利リスクをフルヘッジしていないにもかかわらず、金利上昇でESRが下がるのは、大量解約リスクという、いわば流動性リスクを数値化してしまったことによる影響でしょう。

日経記事にも「低金利時代に国債を買い増したことが含み損の拡大につながり『規制対応が裏目に出ている』(生保幹部)面もあり、場当たり的な監視強化に戸惑いもある」とあります。場当たり的と言わせないよう、金融庁は対話と情報発信をがんばってほしいですね。

※梅の季節になりました。横浜・大倉山の梅林にて。

 

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プルデンシャル生命の金銭不祥事

プルデンシャル生命保険の営業社員(退職者を含む)100名以上が、顧客から金銭をだまし取るなどの不適切行為を行っていたというショッキングな事件が発覚しました。
会社が2024年8月から「お客さま確認」を行った結果の概要はこちら(PDF)です。

23日の記者会見をネットで視聴しました。会社は不祥事を招いた原因について、次の3点を挙げています。
1.営業社員の活動管理および報酬制度上の課題
2.経営管理態勢の課題
3.組織風土の課題

不適切行為は1991年からとのことでしたが、同社のLP(ライフプランナー:営業社員)チャネルが変わっていったのは、おそらく2010年代ではないかと見ています。
創業者である坂口陽史氏が築いたLPチャネルは、単に米国流のフルコミッション・モデルを日本に導入したというのではなく、「顧客に生命保険の魔法の力を届ける」という強烈な使命感に支えられていたという認識です(なんとなく宗教的でもありましたが…)。
その後、2001年に親会社の米国プルデンシャルが株式会社化・上場を果たし、2002年に坂口氏が亡くなってからも、おそらくこうした「坂口イズム」はしばらく変わらなかったのだと思います。しかし、2008年からのグローバル経営危機を経て、グループのなかで安定して高い利益を上げていた日本事業への期待が高まる一方、2013年からの日銀による大規模な金融緩和政策で円金利が一段と低下し、それまでのように円建ての終身保険を中心に提供するのが難しくなるなかで、同社は外貨建ての資産形成を意識した保険に舵を切ることとなった模様です。こうした商品戦略の変更が会社の意向なのか、LP主導なのかはわかりませんが、例えば2019年度の新契約年換算保険料の8割弱は外貨建てでした
(ちなみに近年は外貨建てと変額保険の2本柱となっています)。

金融庁は今後どう動くのでしょうか。不祥事への直接的な対応を別にすると、ポイントは2つあると思います。
1つは、同社が示した再発防止策で十分と考えられるかどうかです。
フルコミッション型の報酬はLPだけではなく、営業管理職も同じなので、新契約業績重視の組織風土を払拭するにはビジネスモデルそのものの抜本的な見直しが必要となります。会見では今後報酬制度を見直し、LPの管理を強化し、経営管理態勢を改善するとのことですが、それが正しい処方箋なのかどうか。
そもそも金銭不祥事を起こしたLPがなぜ不祥事に走ってしまったのかを、会社は十分理解しているのでしょうか。不祥事を起こしたLPを擁護するつもりは全くありません。ただ、「業績に過度に連動する報酬制度は、金銭的利益を重視する志向を持つ人材を引き付け、営業社員の収入の不安定さが不適切行為につながるリスクを増大させていました」「金融機関社員として不適切な人材が採用されないよう、採用のプロセスを強化いたします」といった記述を見ると、どこか違和感を感じてしまいます。近年では毎年在籍者の1割強のLPが退職しているようですし、問題の根幹は「不適切な人材」なのでしょうか。

もう1つは、フルコミッション・モデルそのものにメスを入れるかどうかです。つまり、これはプルデンシャル生命だけの問題なのか、あるいは、このモデルで顧客本位の業務運営を行うにはリスクが大きすぎると判断するかどうか。
昨年8月に金融庁(関東財務局)が行政処分を行ったFPパートナーの件では、顧客の意向よりも代理店経営の都合を優先する実態が明らかになりました。損害保険会社も昨今の問題発覚を受け、代理店手数料のうち規模や増収に連動した部分を抑え、試行錯誤はあるにせよ、業務品質を重視する方向に進んでいます。
こうした事例・潮流を踏まえると、フルコミッション・モデルの保険販売をそのままにしておくことはできないと考えるのが自然です。

長くなりましたが、とりあえずコメントまで。

※NHK福岡です(番組出演ではありません)

 

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生命保険市場の変化

最初にご案内です。2021年に出版した『利用者と提供者の視点で学ぶ 保険の教科書』(中央経済社)の第2版が出ました。アマゾンだと20日から取り扱いのようです。
第2版では図表を直近データに更新しただけではなく、国内金利の上昇を踏まえた記述にしたり、損害保険業界の「保険金不正請求事件」と「保険料カルテル問題」を取り上げたりしています。入門書として読みやすさを優先した『保険ビジネス』では少し物足りないかたや、保険について体系的に学びたいかたは、ぜひ本書をご覧ください。

ところで、生命保険協会は統計資料として会員各社の主要業績を取りまとめていて、全社合計データをサイトで公表しています。このうち年次統計の「新契約年換算保険料(ANP)」では、「個人保険」「個人年金保険」「第三分野」それぞれの内訳や、払込方法別(平準払/一時払)、通貨別(円/米ドル/ユーロ/豪ドル/その他)のデータも公表しています。
さらに、協会では年次統計のCDを「生命保険事業概況」として外部に提供していて、こちらには同じデータが会社別にも載っています。

年末に入手した2024年度版をもとに、新型コロナ禍直前の2019年度から2024年度までの新契約ANPを眺めてみたところ、近年の生保市場の変化が見えてきました。以下、いくつかご紹介しましょう。
まず、全社合計の新契約ANPは、コロナ禍の落ち込みを乗り越え、2024年度は2019年度の約1.3倍に拡大しました。ただし、平準払はほぼ横ばいで、増えたのは一時払です。

新契約ANP  1.93兆円 ⇒ 2.56兆円
 平準払  1.36兆円 ⇒ 1.37兆円
 一時払  0.57兆円 ⇒ 1.18兆円

平準払は全体的に低調で、第1分野は変額保険を除くと減少。第3分野も2019年度の水準を下回っています。
他方、一時払の販売拡大の牽引役は円建です。2024年度は円建のANPが外貨建に匹敵する水準となりました。残念ながら半期データは公表されていないのですが、おそらく傾向は変わっていないと思います。

会社別データも興味深いです。例えば大手4社(日本、第一、住友、明治安田)の新契約ANP、うち一時払とその割合は次のとおりです(2024年度)。

日本 2339億円/562億円(19.6%)
第一 959億円/-(-%)
住友 962億円/549億円(57.1%)
MY 1261億円/524億円(41.5%)

これだと、一時払を提供していない第一生命と、新契約ANPに占める一時払の割合が4、5割もある住友生命、明治安田生命の数字を単純に比べても、あまり意味を成さないということになりますね。ちなみに、住友生命の一時払は円建が目立つのに対し、明治安田生命は外貨建が中心でした。

損保系生保3社(あんしん、MSA、ひまわり)では、一時払や外貨建をほとんど提供していない点は共通していましたが、平準払の内訳は結構違っていました。あんしん生命はこの5年間に、新契約ANPの中核が第3分野から変額保険に変わりました。MSA生命は第3分野が減少する一方で変額以外の第1分野を伸ばし、ひまわり生命は第3分野とともに変額保険にも注力しているようです。

もっとも、あと2か月ほどで2025年度が終わるという時期なので、やや古い情報ではあります。
各社が決算発表の際、あるいはディスクロージャー誌でこの情報を出してくれるといいのですが。

※写真は東京・日本橋です。

 

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国際収支と再保険

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1312(2026.1.12)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
大学の冬休みは短く、年末はクリスマスの12月25日まで授業があり、新年は1月5日から授業を再開しています。
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保険・年金サービス収支の赤字拡大

皆さま、本年もよろしくお願いいたします。
ところで、1月7日付け日本経済新聞「保険収支の赤字 年3兆円 海外企業への手数料急増(有料会員限定)」(あるいは電子版の「海外再保険料、支払い10年で9倍 収支赤字は年3兆円超」(同))という記事をご覧になったでしょうか。国際収支統計の経常収支の1項目であるサービス収支において、保険・年金サービス収支の赤字が年々拡大しているというものです。
損害保険分野での再保険手数料というと、出再会社が支払うのではなく、契約獲得費用の補填として受再会社から受け取る手数料のことを指します。トーア再保険の用語集によると、生命再保険には出再会社が受再会社に支払う「再保険者事務手数料」もあるようですが、それにしても年間3兆円もの赤字というのは大きい数字です。

計上方法に疑問あり

そこで、日本銀行国際局が2022年3月に作成した「国際収支関連統計:項目別の計上方法」で「保険・年金サービス」の計上方法を確認したところ、次のとおりでした。

・発生主義で認識した保険料に保険サービス比率を乗じて推計
(保険サービス比率は、事業費の保険料収入に対する比率)
・ただし、生命保険や年金についてはサービス部分の推計を行っていない
・生命保険や年金の保険料および保険金は、契約者の金融資産として「金融収支」のなかの「その他投資」の「保険・年金準備金」に計上

損害保険の場合には、出再会社が支払う再保険料のうち、付加保険料に相当する部分をサービス収支の保険・年金サービスに計上しているとのことです。もっとも、海外再保険のデータを確認すると、出再保険料が10年前に比べてかなり増えているとはいえ、受再保険料もありますし、収支への影響はおそらく0.2兆円程度のマイナスとみられます。
他方で生命保険については、海外出再分の再保険料をそのまま計上しているのではないかと想像していたところ、日銀の説明には「サービス部分の推計を行っていない」「保険料は金融収支に計上」とあるので、文字通り解釈すると再保険料ではないと読めます。とはいえ、出再を実施した会社の公表資料には再保険料としか記載がなく、損益計算書のどこか別のところに「支払再保険手数料」といった大きな項目があるようにも見えません。もしかしたら、既契約ブロックの出再に関する再保険料は保険料ではなく、手数料とみなしているのでしょうか。そうだとしたら、これを主因として「保険収支の赤字」となってしまうのは妙な話ですね。

再保険を使った資産運用

生命保険会社の再保険料は、10年前には年間2兆円程度だったものが、この5年間で急速に増加し、23年度からは10兆円規模に達しています。再保険料には国内会社どうしの取引も含まれるものの、増加の大半は海外への出再です。
昨年11月の投稿記事でご紹介したように、近年、生命保険会社による資産集約型再保険という取引が増えています。11月の記事で筆者は、「この取引の本質は、規制が求めるソルベンシー比率の改善という『おまけ』のついたファンド投資であって、投資先の不透明さや流動性の低さ、リスク対応の難しさなど、かつてのサブプライム問題を彷彿させるものがあります」と述べています。ファンド投資の1形態とみればいいのかもしれませんが、引き続き注目していくつもりです。
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※写真は鎌倉の瑞泉寺です。

 

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新年のごあいさつ

新年あけましておめでとうございます。
今年は丙午(ひのえうま)ということで、私の学年はついに還暦イヤーとなってしまいました。もっとも、私自身は2月生まれなので、60歳にはあと1年以上ありますが…
福岡と東京・横浜の2拠点生活はもうすぐ6年になります。移動続きで腰にくるときもありますが、何とか無事に活動できているのは、家族をはじめ私と関わってくださる皆さまのおかげです。

2025年もいろいろなことがありました。
保険アナリストとしては、一昨年に続き書籍を出せたことが大きかったです。今回の『保険ビジネス』は副題に「契約者から専門家まで楽しく読める保険の教養」とあるように、身近な存在にもかかわらず、わかりにくいとされることの多い保険の世界をいろいろな角度からひも解いてみました(詳しくはこちらのブログをご参照)。

大学教員として最も印象に残っているのは、残念な話ではありますが、単位がそろったので卒論を書かず、ゼミを辞めてしまう学生が続出したことです。こちらのブログ(卒論はコスパが悪い?)でも書いたとおり全国的な現象のようですが、実にもったいない話だと思います。今年はどうなるでしょうか。

プライベートでは、念願のイスタンブール訪問を果たしました。イスタンブールは2つの世界帝国の都として栄えた歴史を持ち、町歩きが非常に楽しいところでした(詳しくはこちらのブログをご参照)。
長崎の軍艦島に上陸できたのも幸運でした。海底炭鉱の島として日本の近代化を支え、その後のエネルギー革命で1974年に閉山・無人島となり、現在はツアーに参加しなければ上陸できません。廃墟となった建物も、かつてそこには人々の営みがあったと思うと胸が熱くなります(詳しくはこちらのブログをご参照)。

それでは本年もよろしくお願いいたします。


※今年の栗きんとんは上手にできました♪

 

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「企業は保険リテラシーを高めよ」

日本経済新聞には『私見卓見』という投稿欄があります。12月25日に掲載された「企業は保険リテラシーを高めよ(会員限定)」という松本浩司さん(会社顧問・保険仲立人)による投稿記事をご覧になったでしょうか。
そのなかに次のような提案がありました。

・損害保険会社と企業の関係を「プロ対アマ」から「プロ対プロ」に転換するには、企業の保険リテラシーを高めることが不可欠。
・そのための一歩として、上場企業に「保険購入によるリスクヘッジ状況」の開示を求めてはどうか。
・どのリスクを保険でどこまでカバーしているかを示すことで、保険を経営リスク管理の一部としてとらえる契機となる。

もちろん、問題は企業のリスクマネジメント意識が総じて低いことであって、保険に加入しているかどうかではないという意見もあるとは思います。はじめに保険ありきではなく、まずはリスクを認識し、そのうえで保険を含めた対応策を検討するのがリスクマネジメントの本来あるべき姿です。
とはいえ、それを承知のうえで私も松本さんの意見に賛成でして、既にそのような主張をしてきました(例えば『金融資本市場展望』の投稿記事(有料媒体)など)。

大企業は保険会社にだまされ続けてきた被害者なのでしょうか。一連の損保問題のうち、企業向け保険に関する問題の根底には、企業のリスクマネジメント意識が低く、表面的なコスト(保険料)にのみ関心があり、あとは親密かつ協力的な保険会社におまかせという姿勢があって、それこそが、いびつな取引慣行が今日まで続いた一因だと考えられます。
しかし、残念ながら損保問題を受けた改革のラインナップには、大企業に対して直接働きかけるものはほとんど盛り込まれませんでした(あえて言えば、企業内代理店の特定契約比率規制の適用拡大と、保険会社からの出向者引き揚げくらいでしょうか)。

いくら保険会社に本来あるべき保険取引を求めても、相手にその気がなければ正常化は難しく、むしろ取引自体が細ってしまうかもしれません。金融庁にはぜひ企業向け保険市場の踏み込んだモニタリングを行うとともに、有価証券報告書「事業等のリスク」に、重要リスクのうち保険でカバーしているものを定量的に示すよう、働きかけていただきたいです。

なお、本件に関しては、損害保険会社の開示も不足しています。損保の決算説明資料などを見ても、火災保険全体としての収支が改善しつつあることはわかるのですが、企業向け保険がどうなっているのかを知る手掛かりがほとんど示されていません。
どうしたものでしょうか。

※再建工事中の首里城(沖縄)を見学しました。

 

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等級制度の事故抑止効果

このところ卒論指導にゼミの報告会準備などに追われていて、学生ネタが続いて恐縮です。
前回ご紹介したRIS(全国学生保険学ゼミナール)の活動とは別に、2年生が学内でプレゼンテーションを行う機会があり、ある班が自動車保険のノンフリート等級制度に関心を持ち、その事故抑制効果についてアンケート調査を行いました。

東京の大学とは違い、地方都市では車を運転する学生が多く、私のゼミ生も大半がすでに運転免許を持っています(ただし、車での通学は自粛となっています)。免許をとる過程で自動車保険についても学ぶはずなのですが、アンケートの結果はなかなか興味深いものでした。

10代、20代を中心にアンケート調査(回答者75名のうち8割が若年層で、その多くはうちの学生)を行ったところ、次のような傾向が見られました。

・「ノンフリート等級制度」という言葉を聞いたことがないという回答が大半を占めた(若年層以外では「知っている」の回答が多かった)

・「等級が上がると翌年の保険料が安くなる」は知っていても、「等級が下がると翌年の保険料が高くなる」は知らないという回答が多かった(若年層以外では両者に大きな違いはなかった)。

・「等級制度は安全運転の意識を高めると思う」という回答が大半を占めたが、制度への印象として「初心者や若い人に不利」という声も目立った。

・全体として「わからない」という回答が目立った。

大学生は免許をとってすぐに自分の車を運転するのではなく、家族の車を使うことが多いので、保険については家族任せでほとんど知らないということのようです。教習所の座学だけでは限界があるのでしょう。
ですから、このアンケートのなかで制度の説明をされたから「安全運転の意識を高める」と回答しているものの、等級制度の認知度は低く、知らなければ事故抑制効果も期待できません。
保険について教える立場にある者としては、もう少し工夫して話をする必要があると痛感しました。

※舞浜と上智大学のクリスマスツリーです。

 

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山火事のリスク

福岡大学植村ゼミは今年度もRIS(全国学生保険学ゼミナール)に参加し、12月6日から7日にかけて東京の東洋大学白山キャンパスで、何とか以下の報告を行うことができました。

1班「早期離職について~飲食業の事例から~」
2班「山火事のリスクについて」
3班「インフルエンサー起用に潜む企業のリスクと保険の対策案」

いずれも自分の専門分野からはやや遠いので、知らなかったことが多々あったのですが、なかでも「山火事のリスク」は考えていた以上に深刻なものだとわかりました。

2025年は熊による被害のほか、大規模な山火事も目立ちましたよね。
2月に発生した岩手県大船渡市での山林火災は焼失面積が3000ヘクタールを超え、大船渡市によると被害総額が102億円に達したそうです。大規模な山火事は岡山県岡山市(3月)、愛媛県今治市(3月)でも発生し、最近でも群馬県の妙義山や神奈川県の日向山で、自衛隊に出動を要請するような山林火災が起きています。

実のところ、山火事の発生件数は中長期的には減少傾向にあります。こちらのサイト(東京海上ホールディングス)にもあるように、かつては年に数千件もの山火事が発生していましたが、今は年1000件程度です。山火事の原因はたき火や火入れなど人為的なものが大半を占めるので、林業の衰退や都市部への流出などから、かつてに比べると山に人が入らなくなったことが大きいと考えられます。

ところが、発生件数は減っている一方、発生すると大規模化してしまうリスクは非常に高まっているようなのです。
キャンプで薪(まき)に火をつけるのはなかなか大変ですよね。山林も同じで、火種があっても樹木はすぐには燃えません。しかし、もともとは人工林だったのに長い間放置されている森林には、燃えやすい下草や枯れ枝などがたくさんあって、これがいわば「燃料」となって樹木にも火がついてしまうのです。しかも、間伐が行われていないので木々が密集し、燃え広がりやすくなっています。

先ほどのサイトでは気候変動の影響を挙げていましたが、私のゼミ生たちはそれ以外の要因として「林業の衰退などで山林が荒廃」「現場の関係者にはリスク意識が希薄」といったことに気づき、大規模な山火事の発生を防ぐには、火事が起きてから消防などに委ねるだけではなく、米国のようにリスクを事前に小さくする取り組みが不可欠であるという結論に至りました。
熊による被害でもそうですが、森林に関するリスクを小さくするには、もはや対処療法や補助金を出すだけの行政では限界なのでしょう。

※大濠公園の日本庭園でイベントをやっていました。

 

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IFRSの導入

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1308(2025.12.08)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
この週末(12月6~7日)はリスクと保険を学ぶ学生たちのゼミ大会(RIS2025)でした。ご参加いただいた実務家の皆さま、ありがとうございました。
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高水準の利益を確保


11月に発表された大手損保グループの4-9月期連結決算では、自然災害の影響が少なかったことなどからSOMPOは過去最高益となり、東京海上とMS&ADも、政策保有株式の売却益が前年同期よりも減少した影響があったものの、国内の保険引受利益の改善などもあり、いずれも高水準の利益となりました。
ただし、筆者が注目していた国内の自動車保険では、各社が予想していたよりも修理費単価が上がり、事故の頻度も下がらなかったことから、損害率が実質的に高水準で推移した模様です。

2つの会計基準

ところで今回の決算では、SOMPOがIFRS(国際財務報告基準)による報告、東京海上とMS&ADが従来の日本基準による報告と、異なる会計基準による報告となりました。
IFRSは世界共通のモノサシとなるように作られた会計基準で、EUやオーストラリア、アジアでは韓国やシンガポールなどが上場企業の会計基準として導入しています。日本では任意適用ですが、25年11月末現在、すでに300社近くの上場企業が導入しています。
日本を拠点とする大手保険グループでIFRSを導入するのはSOMPOが初めてですが、東京海上とMS&ADも25年度末からIFRSを導入する予定となっています。

日本基準との違い

IFRSの詳細については他に譲るとして、今回の決算でみられた日本基準との大きな違いを2つご紹介しましょう。
1つは、株式売却益がIFRSの純利益には計上されないという点です。前述のように、このところ多額の政策保有株式の売却益が各社の純利益を押し上げています。しかし、SOMPOはIFRS導入にあたり、政策保有株式の売却益を純利益に反映せず、純資産の変動のみ認識する基準を選びました。そもそも株式売却益を計上しても、企業価値が高まるわけではありません(株式が現金に代わるだけです)し、これで本業の実力が見えやすくなると言えるでしょう。

もう1つは、生命保険事業の損益・財務認識です。従来の日本基準では、収益と費用の期ズレが非常に大きく、新契約を獲得すればするほど損益が悪化する(費用が先行するため)といった、妙なことが起こります。
これに対し、IFRSでは経済価値ベースで評価を行うため、期ズレの問題はなくなりますし、保険契約の将来利益であるCSMという数値をみることで、日本基準に比べ、生保事業の業績をより的確に把握できるようになります。なかでも、新契約の獲得によりCSM(新契約CSM)をどれだけ増やすことができたのかが、経営にとって重要となります。
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※会場は東京・東洋大学でした。

 

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株式売却益は誰のものか

このところ大手損害保険会社の決算は政策保有株式の売却益計上で(少なくとも表面的には)好調が続いています。これを見た保険流通に関わるかたから、「株式購入の原資は契約者の保険料なのだから、保険会社は政策保有株式の売却によって得られた利益を保険料の引き下げという形で契約者に還元すべきではないか」という質問(意見?)をいただきました。

最初に結論を述べれば、株式会社形態の保険会社であれば、株式投資によるリターンは原則として株主のものと考えるべきで、これを契約者に還元しなければならない理由はありません。

株式会社形態の保険会社では、株主は保険引受のリスクやそれに伴う資産運用のリスクなど、経営全てのリスクを負っています。株主が政策保有株式のリスクを経営にとってほしかったかどうかは別にして、リスクをとった結果として得られたリターン(より正確には、時価ベースの純資産)は、まずは株主のものです。
これに対し、契約者は保険会社の破綻リスクのみを負う「債権者」という位置付けです。保険債務の責任を果たせば、経営にはそれ以上の責任はありません。

もし、保険料を下げることで、中長期的にはより多くのリターンが得られるという考えに株主が納得すれば、料率引き下げという経営判断もあり得ます。しかし、それはあくまでも、さらなるリターンを目指すための料率引き下げであって、契約者への還元ではありません。

他方、保険料率の計算にあらかじめ資産運用収益を含めておくというのは、保険ビジネスとして健全な経営ではありません。保険会社の資産運用がうまくいかなかった場合に、保険会社は保険金額を減らしたり、契約者から追加で保険料を集めることができないからです。
長期の保険では一定の利率(予定利率)で増えていくことを前提にしたものが一般的ですが、これは資産運用収益を当てにしているというよりは、貨幣の時間価値を考慮している、つまり、将来のお金を現在価値に換算しているものです。

株主はそもそも資産運用で収益を上げるのを生業としています。ですから、バフェット氏のような資産運用に強みを持つ保険会社でもないかぎり、「資産運用に頼るのではなく、得意分野である保険ビジネスでリターンをあげてほしい」と考え、保険でリターンを上げられないのなら、そのビジネスをやめてほしいと考えるはず。
株式会社の保険経営者は、もちろん契約者をはじめとした利害関係者にも目配りする必要がある(法令等の遵守を含む)とはいえ、株主の期待に応えるために存在しています。

ちなみに、相互会社形態や協働組織であれば契約者への還元は重要な選択肢の1つです。なぜなら、これらの組織では、契約者は債権者であるとともに、組織のオーナーでもあるからです。

※週末の嵐山はすごい混雑でした!

 

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