デジタル化と保険業界

日本FP協会の会報『FPジャーナル』2024年10月号の特集「保険業界の最新動向と今後の行方」にコメントがたくさん載ったので、デジタル化に関するコメントの一部をご紹介します。
不祥事絡みではない取材協力は、もしかしたら久しぶりかもしれません(苦笑)

「デジタル化の進展によりデータを活用することで病気や事故の予防が可能になり、健康増進型の生命保険やテレマティクス型の損害保険が登場しています。将来的には、保険会社のビジネスモデルが大きく変わる可能性もあります」

「健康増進にお金をかける人が増える一方で、保険のニーズは減る可能性があります。デジタル化の進展は、保険商品だけでなく、将来的には生命保険会社のビジネスモデルを変えることも考えられます」

「しかし、デジタライゼーションと言えるようなものはまだ見られません」「日本の保険会社のデジタル化は、まだビジネスモデルを変革する段階までは進化していません。あくまで現在のビジネスモデルを前提に、そこに新しい技術を取り入れ、活用することを考えている段階です」

掲載誌をみると、著名FPの清水香さんが「損害保険はDXの取り組みが進み、利便性が向上しています」と述べています。スマホやアプリ、SNSを使うようになって、かつてよりも格段に便利になったのは確かですね。写真を撮って、そのまま送れるのはありがたいです。

なお、主な読者がFP(ファイナンシャルプランナー)資格を持つ方々(個人会員数は20万人超!)なので、デジタル化に関するコメントだけではなく、変額保険の販売が伸びているとか、加入チャネルに関する話なども載っています。
機会がありましたらご覧ください。

※今日はバス通勤でした。

 

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保険行政の動向

先週27日(金)に金融審議会「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」での議論が始まりました。事務局説明資料「ご議論いただきたい事項」には、さらなる検討が必要と考えられる論点として以下の4つが挙がっています。

・大規模な保険代理店における募集品質の向上
・保険仲立人(ブローカー:筆者注)制度の活用促進
・企業向け火災保険の赤字継続
・損害保険会社による便宜供与や企業内代理店の目指すべき姿等。

企業向け火災保険の赤字について議論するのであれば、そもそも企業向け火災保険が赤字なのかどうか、情報開示から始めていただきたいです。この点について、メンバーの柳瀬先生が「家計・企業保険別の情報開示が必要」という意見を出していて、心強いかぎりです。

同じ日に金融庁は2024事務年度の金融行政方針(実績と作業計画)を公表しました。
損害保険市場の信頼回復と健全な発展に向けて金融審議会で議論する状況となっているにもかかわらず、例年どおりの「持続可能なビジネスモデル構築に向け、各社の内部管理態勢の高度化も含め、保険会社との対話を実施する」というのはやや違和感があるところですが、他方で保険会社のソルベンシー規制のところには、次の記載がありました。

・2024年秋頃を目途に法令等の改正案をパブリックコメントに付す予定であり、引き続き関係者との対話等を行いつつ、2025 年度の新規制の円滑な導入に向けた準備を進める。

・監督会計について、具体的な論点が明らかな課題について対応する。また、経済価値ベースのリスク管理との整合性や財務会計に関する見直しの動向等も踏まえつつ、そのあり方について検討を行う。

・保険会社から提出される各種データの見直しやリスクとソルベンシーの自己評価に関する報告書(ORSAレポート)の活用等を通じたモニタリングの高度化について、さらなる検討を進める。

1点めは、すでに5月29日公表の「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する残論点の方向性等について」で示していたとおりですが、2点めと3点めには注目です。
特に3点めは重要だと思います。新たな規制を導入するのが目的ではなく、規制導入はあくまでスタート地点に立ったということなので、これをどう使っていくかが当局には問われています。今回の作業計画を見て、そのような問題意識を金融庁が持っていることが示されているのではないかと(楽観的に)理解しました。

※写真は東京駅です。

 

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損保不祥事と株価

企業の不祥事が発覚すると必ず株価が下がるかというと、そうとは限りません。不祥事発覚による会社価値の毀損はもちろん株価下落要因ですが、他方で不祥事をきっかけに経営改革が進み、将来の会社価値拡大が期待できると市場が受け止めることもあるのでしょう。

この週末に大手損保グループの株価推移を改めて確認したところ、今年に入ってからの株価は3グループともに市場平均をはるかに上回って上昇しています。
例えば約1年半前の2023年3月末と週末(9月19日)の時価総額を比べてみましょう。

東京海上:5.0 ⇒ 10.4兆円
MS&AD :2.2 ⇒ 5.3兆円
SOMPO :1.7 ⇒ 3.2兆円

いずれも2倍前後の増加です。この間の東証プライム市場の時価総額は 713 ⇒ 924兆円なので、損保株の好調さが際立っています。

旧ビックモーター事件は直接的には損保ジャパンの問題とはいえ、ディーラーなど大型の乗合かつ兼業代理店との不適切な取引慣行は個社問題ではなく、業界全体の問題と受け止められています。保険料調整問題も個社問題ではありません。
このため、不祥事の発覚によって顧客離れが進み、会社価値が下がるという受け止めにはならなかったのでしょう。損害保険は必需品であり、かつ、3グループによる寡占市場なので、取引を続けざるをえないということもあるかもしれません。

損保株の上昇が目立つようになったのは2月からなので、株式市場は不祥事発覚後に各社が打ち出した「政策保有株式をゼロにする」という方針を好感していると考えられます。
市場が何を好感しているのか、本当のところはよくわかりません。ただ、理論的には多額の売却益が実現し、配当還元が期待できるからではなく、株式売却によって不要になった資本を有効活用できる(自社株買いを含む)からです。このあたりは6月10日のブログで書いたとおりでして、株式の売却は株式と現金を交換するだけなので、それだけでは会社価値を高めません。

問題は、今後5年程度の間に株式市場が期待するような新たな投資案件が見つかるのかということでしょう。
余剰資本があるのなら何でも積極的に投資すればいいかというと、そうではありません。株主は、投資先の経営陣には会社価値を高めてくれる何らかの強みがあると考えているからこそ投資しているのであって、強みを発揮できる機会がなければ投資している意味がありません。もし見つかりそうになければ、そのままだと会社価値を毀損してしまうので、余剰資本を株主に返す必要があります。
株主が期待するような経営行動ができるかどうか、不祥事対応の進展とともに注視する必要がありそうです。

※福岡もこのところ不安定な天気が続いています。

 

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「中堅生保、債券偏重の死角」

9月11日の日経記事「中堅生保、債券偏重の死角」(電子版(会員限定)では9日)をみて、思わずため息をついてしまいました。

記事の主な内容は次のとおりです。

・ソニー生命は2024年4-6月期に債券の売却損を株式売却益などで補えず、キャピタル損益を反映した基礎利益が赤字になった。
・同社は金利上昇で保険契約の中途解約が急増し負債側の年限が縮小。資産の年限を縮めるため保有国債の一部を売却せざるをえなくなった。
・生保は保有資産の含み損益を加味して資産を売却する。売却損を出す場合、同時に含み益のある資産を売却して補うのが一般的だ。

これ(特に3点め)を読んで、特段の違和感を覚えなかったかたは、伝統的な金融村の文化に相当毒されています。ALMとか経済価値ベースとか言う以前に、そもそも「保有資産の含み損益を加味して資産を売却」する投資家とは、いったい何を目指して資産運用を行っているのでしょうか。考えられるのは1つだけ。会計損益の安定です。
しかし、生保をはじめ金融機関による資産運用の目的は会計損益の安定ではなく、リターンを上げて会社価値を高めることであり、そのためにポートフォリオを組んでいるはずです。それを「債券で売却損が出るから、同時に株式で売却益を出す」なんてことをしたらポートフォリオが崩れ、目指す期待リターンも変わり、何をしているのかわからなくなってしまいます。

多額の株式を保有する生保の運用担当者が日経の記者さんに吹き込んだのかもしれませんが、このような考えのもとで株式を保有している生保があるとすれば、株式含み益を経営バッファーとしてあてにしていた(いわゆる益出しですね)1990年代前半までの生保経営と同じです。そんな資産運用はありえないと、どうして記者さんもデスクも思わなかったのでしょうか。

記事の後段には「生保各社は債券中心の手堅い運用にシフトしてきた」とあります。しかし、生保は手堅い運用を行うためではなく、負債の金利リスクをヘッジすることで会社価値の振れを抑えるために超長期国債を購入してきました。金利上昇に伴い保有する超長期債の価格が下がるのは初めからわかっていたことであって、経済価値ベースのバランスシートは改善しているはず。含み損を処理すべきという合理的な理由はなく、「債券偏重の死角」ではありません。
金利上昇局面における生保経営者の悩みとして挙げるとすれば、資産運用の巧拙よりも、「金利上昇に伴う解約をどの程度まで考慮すべきか」「現行会計のもとで金利上昇で価格が下がった超長期債の減損を求められないか」などではないでしょうか。

ちなみに2点めに関しては、昨年度からの解約増加はドル建て保険が中心だと思いますし、残高が減ったのは「その他有価証券区分」の公社債なので、本当にこの説明のとおりなのかは疑問なのですが、ソニーフィナンシャルグループの決算発表資料をみると、確かに「金利上昇の影響を受け、ALM(資産負債の総合管理)の考え方に基づくリバランスを目的とした債券売却により一般勘定における有価証券売却損益が悪化した」とあります。
9月決算ではもう少し説明があるといいですね。

※写真はパリです。

 

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ディーラー代理店の是非

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1248(2024.9.9)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。まずは保険業界や自動車業界の都合に縛られずに考えたうえで、実現可能な方向に近づけていくというアプローチが望ましいのではないでしょうか。
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250万件の情報漏えい

保険金不正請求事件に続き、大型の兼業乗合代理店に関連した大規模な顧客情報漏えいが発覚しました。4社の発表によると、情報漏えい250万件のうち226万件は、自動車ディーラー代理店等が契約者情報を保険会社4社と「共有」していたというものです。

こうなってくると、次に何が出てくるかと待ち構えてしまいますが、一連の損保問題であきらかになった「いびつな取引慣行」「トップラインやシェアの確保を最優先する企業文化」を変えるには、まずはこの機会に過去の膿を出し切るべきでしょう。例えば、代理店への「過度な便宜供与」の実態を公にしたらいかがでしょうか。

兼業乗合代理店の構造的な弱さ

もちろん、専属や専業の代理店に問題がないとは言えません。しかし、代理店の「乗合」「兼業」が、それぞれ契約者保護のうえで構造的な弱さを抱えているのは確かでしょう。

乗合代理店は複数の保険会社と代理店委託契約を結んでいるがゆえに、個々の保険会社が代理店をコントロールできない状況になりやすいという構造にあります。突き詰めると、顧客の代理ではなく、あくまで保険会社の代理である代理店が、果たして複数の保険会社の代理をしてもいいのかという話です。
他方で、兼業代理店は自動車販売などの本業がほかにあり、代理店としての役割がおろそかになりやすいという構造にあります。実態を踏まえると、リスクや保険の専門性がない組織が代理店を営んでもいいのかという話です。
ディーラー代理店は「乗合」「兼業」なので、両者の弱さをあわせ持っています。

現在の代理店に「乗合」「兼業」が認められているのは過去からの経緯が大きいと理解していますが、こうした構造的な弱さを上回る顧客メリットがあると考えられてきたからでもあるのでしょう。

顧客メリットはあるのか

顧客にとっての乗合代理店のメリットは、複数の保険会社の商品を比較検討できることや、専属代理店よりも多様な商品ラインナップを享受できることです。また、兼業代理店のメリットは、自動車購入など本業利用のついで
に保険に加入できる利便性にあります。
しかし、旧ビックモーターのテリトリー制に象徴されるように、ディーラー代理店は顧客メリットよりも自社または保険会社の都合を優先する場合も多いことが明らかになりましたし、「ついで加入」は確かに便利かもしれませんが、ディーラー代理店、顧客の双方に関心があるのは自動車のことなので、保険は「とりあえず何か入っていればいい」となりがちですし、ネット普及に伴い、ディーラー以外での保険加入のハードルも下がっています。

そう考えると、「乗合」「兼業」には、構造的な弱さを上回る顧客メリットがあるというのも怪しくなってきます。保険会社との利益相反を招きやすい点を含め、もはやディーラーが代理店であり続けることの是非が問われているのではないでしょうか。
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※写真はドイツのバッハラハというライン川沿いの小さな町です。

 

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『Z世代化する社会』

先週から今週にかけてヨーロッパにおりまして、現在(9/1)はスイスにいます。週末を利用してルツェルンに行ってきました。
それにしても、スイスフランがこんなに高くなっているとは。1スイスフランは100円くらいと思っていたら、まさかの170円。ビール1杯で6フラン(約1000円)もするのは日本からの旅行者には厳しいです。

ということで、今回は週刊金融財政事情(2024年9月3日号)に載った書評「一人一冊」をブログでご紹介します。舟津昌平さんの『Z世代化する社会』を取り上げました。

私たちが生きている世界の一端を知るために

評者はかつて韓国ドラマ『冬のソナタ』にはまっていた。毎回の放送を楽しみにしていたところ、たまたま最終話に関する某評論家の「ネタバレ」コメント(主人公に関する重要な設定だった)を視聴直前に目にしてしまい、ひどく後悔したことがある。このトラウマがあるためか、書評では著作の内容にどこまで触れていいか、悩むことが多い。とはいえ、本書を紹介するのであれば、この「例え話」を引用するのが最も効果的だろう。

ある村で、若者だけに感染する病が発見された。若者が次々と病気にかかっていく。それを見て、お偉いさんや親族は「これだから若者は」「生活がたるんでいるのでは」「昔はこんなことなかった」などと若者を責め、病の原因を若者の資質に求める。ところが、この病気は「若者であるほど早く感染する」だけで、実はすべての年齢層に感染するものだった。かくして村は老若男女を問わず、この病気に侵されていくのだった──。

本書は「Z世代」と呼ばれる若者たちの中でも、著者に身近な大学生(著者の舟津氏は1989年生まれの経営学者)を中心に観察することで、われわれが生きる社会を読み取ろうとしている。
野村総合研究所によると、Z世代とは90年代中盤から2010年代序盤生まれで、それ以降はα(アルファ)世代と呼ぶらしい。Zとαの違いは正直よく分からないが、いずれもスマートフォンの普及と関係があるのだろう。10年代前半にスマホが普及した際、今の大学生は10歳前後だったので、早い人は小学生の時からスマホに接している。そしてα世代では生まれた時からスマホがあった。

著者の丹念な取材によってZ世代の実態がよく分かる。彼らは、バーチャルとリアルの混然一体とした世界の中で、監視し合い、最適化を目指し、ビジネスのターゲットとして飲み込まれている。パーソナルレコメンデーション(ネット企業などが過去の視聴履歴などを踏まえ個々の嗜好(しこう)に合った提案をすること)の進化も彼らに影響を及ぼしている。友人同士でも、互いに誰が何を見ているのかは分からない。さらに、若者の支持を集めるインフルエンサーの影響力が強まっている。インフルエンサーは集客のために世界を「推し」と「アンチ」に分類し、その単純で安易な世界観が、若者に着々と浸透しつつあるという。

若者の方が影響を受けやすいというだけで、社会のZ世代化は着実に進んでいる。

 

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家計が生保離れ?

8月21日の日経新聞に「家計、生保離れ 1.8兆円流出」という記事が載りました。記事はこちら(有料会員限定)です。

資金循環統計によると、2024年1-3月期に家計の貯蓄性の保険が約1.8兆円流出し、他方で投資信託が伸びていることから、「保険から投資へ資金が動いている」という専門家の見方を紹介しています。
記事の元ネタはこちら(第一生命経済研究所のサイト)になります。
ちなみに資金循環統計の「生命保険受給権」とは、個人保険の責任準備金から危険準備金を控除したものを積立型保険の準備金とみなし、これに契約者配当準備金を加えたものとのことです。

生命保険協会が公表している四半期ごとの損益計算書によると、確かに2024年1-3月の解約返戻金は約3.5兆円(個人保険が大半を占める)と、2022年4-6月に次いで大きくなっていて、いずれも円安が進んだタイミングにあたります。一時払いの外貨建て保険の解約が多かったのでしょう。
他方、2024年1-3月期だけの一時払い保険料データはありませんが、2023年度全体の一時払い保険料は約10兆円なので、2024年1-3月期に限ればネットで流出だった可能性はあります。

ただし、保険料収入は2022年度から一時払いを中心に増加傾向が続いていることから、この2年間はざくっと見て毎四半期に2、3兆円の流入があり、やはり2、3兆円の流出(解約)があるといったところでしょうか。これを「保険から投資へ」と言えるかどうかは微妙で、むしろ外貨建て保険の回転売買のほうが心配だと思いました。

※夏の帝国ホテルです。ちなみに冬はこちら。

 

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国内債の含み損

生命保険会社の2024年4-6月期決算では、長期金利の上昇によって保有する国内公社債の時価が下がり、各社の「含み損」が拡大。その点に着目した報道がいくつかありました。

生保の国内債含み損、08年以降で最大に(日経・有料記事)
大手生保4社、国内金利上昇で債券評価損が拡大(Bloomberg)

国内債の含み損拡大は、リスクをとった結果、期待に反して損失が発生した、つまり資産運用で失敗したというのではありません。会社全体としては金利リスクを小さくしているにもかかわらず、保険会社が資産サイドの時価情報しか公表していないため、あたかも損失が膨らんだかのように見えてしまうという話です。「満期保有目的の債券」や「責任準備金対応債券」だから時価評価しなくてすむ(したがってソルベンシーマージン比率はほとんど下がらないですよ、Bloombergさん)、というのは本質的な論点ではなく、経営状態を示すうえでの情報開示や説明が足りないということではないかと思います。経済価値ベースのバランスシートが公表されていれば、こうした誤解は起きにくいかもしれません。

とはいえ、現行の保険会計は経済価値ベースのソルベンシー規制導入後もそのままなので、さらに金利が上がり、国内債の含み損が拡大すると、監査人から減損処理を求められるのではないかという懸念はあります。時価下落の原因が信用リスクの増大ではなく、市場金利の上昇だけであれば、オーバーパーの債券でないかぎり「回復見込みがある」と言えそうなものです。どうなのでしょうか。
ただし、解約の可能性をどの程度考えておくべきかという難しい問題はあります。解約返戻金を支払うために、含み損を抱えた国内債の売却を迫られることになるかどうかです。このところ一部で注目されている「ESRの大量解約リスク問題」にも通じるところがあるのですが、経営不安に伴う解約増加の過去データはあっても、金利が上がるとどの程度解約が増えるかという日本の過去データは見当たりません。それに、銀行が預金代替として販売した一時払いの貯蓄性商品と、遺族保障ニーズに応じた平準払いの長期保障性商品では、金利感応度はかなり異なるでしょう。一律に線を引くというのは無理があるように思います。

いずれにしても、メディアの不勉強を責めるのは簡単ですが、金融市場や規制などの経営環境が変わる場面では、とりわけ丁寧な情報開示が必要ではないでしょうか。

※訳あって広島に来ています。

 

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九州つながり

九州は日本で3番目に大きな島とはいえ、それほど広いイメージはありませんよね。私も福岡に来るまではそう思っていました。
確かに新幹線を使えば、1か所を除き、どの県庁所在地にも2時間以内で着くことができます。

博多⇒佐賀:約40分
博多⇒長崎:約1時間30分
博多⇒熊本:約30分
博多⇒大分:約1時間40分
博多⇒鹿児島:約1時間20分

ところが1か所だけ、九州の広さを感じさせるところがありまして、それは宮崎です。
博多から宮崎までは、最速でも3時間20分(新幹線&高速バス)かかります。ちなみに、日本一長い距離を走る特急(夜行を除く)は、博多と宮崎空港を結ぶ「にちりんシーガイア」で、413kmを5時間以上かけて走るそうです。こんど乗ってみようかな。

先週、地震の数日前に宮崎に行く機会がありまして、飛行機で行きました。福岡-宮崎便は1日10往復以上あって、わずか45分で着いてしまいます(空港の混雑で実際には1時間以上かかりましたが)。私が乗ったANA便はプロペラ機でした。

このように福岡からの時間距離が遠い宮崎ですが、直近の国政調査(2020年)で宮崎県の転入元・転出先を調べてみると、福岡とのつながりは強く、特に若い人が福岡に転出していると思われます。

<転入元>
鹿児島県:8,759人
福岡県 :8,364人
東京都 :4,541人

<転出先>
福岡県 :14,696人
鹿児島県:8,134人
東京都 :7,226人

<転入・転出超過数>
福岡県 :6,332人
東京都 :2,685人
神奈川県:1,133人

ちなみに『福岡大学学園通信』第73号(2022年4月)の「全国から集まる福大生」によると、宮崎県出身の福大生は九州のなかでは最も少なかったとはいえ、多くの出身者がいます。
時間距離は遠くても、同じ九州という意識が強いのかもしれませんね。

 

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金融庁のリソース拡充を

猛暑が続くなか、ようやく季節行事(定期試験&採点やオープンキャンパス)が終わり、キャンパスが静かになりました。
さて、保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1244(2024.8.5)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
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有識者会議の指摘

金融庁が6月に公表した「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」報告書は、いわゆる「損保問題」を受けた今後の保険業界の動向を知るうえで重要な手掛かりです。
ところで、この報告書の6ページに、次の2つの注記が付いているのをご存じでしょうか。「(大規模代理店に対して)金融庁及び財務局によるモニタリングを強化すべきである」のところです。

「IMFによる日本に対する金融セクター評価プログラムにおいては、金融庁に対し、保険監督に適切な人的リソースを配置し、立入検査を通常の監督プロセスの一部として実施すべきであること、及び大規模代理店等に対しては直接的な監督を行うなど、保険代理店等に対するリスクベースの監督業務のプロセスを開発すべきであること、との指摘もある」

「金融庁及び財務局において、保険会社及び代理店へのモニタリング強化のために必要な人員増強を行うべきである、との指摘もある」

2つめのほうは、会議のなかで(特に第4回)、金融庁の人員強化を図るべきだという意見が複数のメンバーから出たためだと思いますが、1つめのほうは多少解説が必要かもしれません。

IMFの指摘とは

IMF(国際通貨基金)の金融セクター評価プログラム(FSAP)とは、IMFが加盟国の金融部門の安定性を評価するプログラムで、日本を含む主要国は5年に一度審査を受けています。いわば金融庁が外部から検査を受けるという枠組みです。FSAPの指摘を金融庁は重く受け止めます。
2023年から24年にかけてのFSAPでは、IMFは日本の保険監督について、全体的には良好な水準としたうえで、かなり本質的な指摘をしています。例えば次のような指摘です。

・金融庁の保険監督アプローチはリソースの制約のため事後対応となっていることが多い。

・監督のほとんどは業界全体としてテーマになっていることについて実施され、個々の保険会社の定期的な監督サイクルの一環として行われていない。

・集中的な監督は主に問題が特定されてから開始され、多くはリスクが顕在化してから行われる。

「リスクの芽を摘むこと」ができるのか

筆者が任期付職員として保険行政に携わっていた約10年前の金融庁では、通常のモニタリングのほか、主要会社には概ね一定の周期ごとに立ち入り検査を行っていました。問題がある会社だから立ち入り検査を行うというのではなく、検査対象の保険会社の事業特性やリスク特性に基づき、当時の保険検査マニュアルから数項目を対象にして検査を実施していました。そして、当時もリソース不足は深刻でした。
その後金融庁の検査・監督方針が変わり、「従来の検査・監督のやり方のままでは、重箱の隅をつつきがちで、重点課題に注力できないのではないか」「バブルの後始末はできたが、新しい課題に予め対処できないのではないか」「金融機関による多様で主体的な創意工夫を妨げてきたのではないか」といった、主に銀行検査に関する問題意識のもとで、検査・監督一体の継続的なモニタリングへ移行し、2018年には検査局が廃止されました。

保険分野は大きな販売部隊(代理店を含む)を抱えているうえ、銀行に比べると、保険会社の経営内容は総じてわかりにくいとされているにもかかわらず、周期的な立ち入り検査をなくしてしまったことで、問題の早期把握が難しくなった点は否めません。
かつての検査が「重箱の隅をつつきがち」だった面はあるにせよ、頻繁な異動等により保険分野の知識が必ずしも十分ではない検査官でも、保険分野に明るいベテラン職員の支援を受けながら、ある程度時間をかければ問題を発見することができました。ところが、現在の「継続的なモニタリング」では、保険分野の知識がないと、表面的になぞっただけで終わってしまいます(保険会社は自らに都合の悪いことを当局に進んで示すでしょうか?)。結果として、近年は問題が発覚してから立ち入り検査を行うというスタイルになってしまったようです。
朝日新聞の柴田秀並記者は近著『損保の闇 生保の裏』のなかで、「金融庁による金融機関へのモニタリングの意義は『リスクの芽を摘むこと』にある。大炎上してから動くのは『敗戦処理』にすぎない」と述べていますが、まさに同感です。

有識者会議メンバーやIMFが指摘するように、金融庁は保険監督に適切な人的リソースを配置して、保険分野の抱えているリスクや顕在化した問題に対処する必要があるでしょう。少なくとも、たまたま現場に配属された担当者の頑張りだけでは無理があると思います。
あるいはIMFが以前から提案するように、健全な保険市場を育てるためには、政府予算の制約を受けにくい「保険サービス監督機構」のような組織の実現を目指すべきなのかもしれません。
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※週末はオープンキャンパスでした。

 

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