
8月14日の日経に「生保11社、資本規制クリア(会員限定)」という記事が出ていました。2026年3月期から適用の新規制(いわゆる経済価値ベースのソルベンシー規制)について報じたものです。
規制上のESRを数値の大きい順に並べたり、金利上昇でESRが下がってしまう理由の説明がおかしかったりと突っ込みどころはあるものの、金利変動について資産だけではなく負債もみる新たな指標(ESR)が導入されたときちんと説明する内容でした。一般読者に向けた新規制のまとまった紹介は、自分が関わったダイヤモンドの保険ラボくらいしか見当たらなかったので、この報道を総じてポジティブに受け止めました。
ところが、その数日後(18日)の日経に載ったのが「生保、国内債含み損拡大(会員限定)」という記事です。2026年6月末時点で、主要生保13社の国内債券の含み損が増え、国内株式の含み益を上回ったというもので、「金利上昇、財務圧迫リスク」という副題がついていました。
しかし、金利が上がれば保険負債も小さくなっているはずなのに、この記事ではなぜか資産サイドの国内債含み損だけを強調しています。数日前に報じた経済価値ベースの考え方はどこに行ってしまったのでしょうか。
他方で、記事では債券含み損が実現損となる可能性を指摘します。例えばALMについて触れ、金利上昇でオーバーヘッジを解消しようとすると債券売却損が生じるとしています。さらに、大量解約の発生に伴う債券の売却損を「最大のリスク」としています。
とはいえ、他の理由でも含み損となった債券を売却すれば会計上、損失が出ます。それだけの話です。そもそも含み損が実現損になっても経済価値ベースで見ればニュートラルなので、財務は圧迫されません。
ちなみに新規制の開示情報(感応度分析)をざっと確認したところ、大手生保の場合、円金利の上昇で資産の減少よりも保険負債の減少のほうが大きいようで、オーバーヘッジ状態ではなさそうでした。また、円ベースの平準払い商品はそもそも保障を得るために加入しているので、信用不安でも起きないかぎり、金利上昇で大量解約が起きる可能性はかなり小さいでしょう。一時払いの貯蓄性商品では解約が起きやすいとはいえ、円ベースで低利率の一時払い商品の保険負債を多く抱え、その金利リスクを超長期債でヘッジしている会社は一部だとみています。
2つの記事から言えることは、経済価値ベースの規制が導入され、資産と負債の両方をあわせて見なければならない、資産含み損益だけ見ても意味がないとわかったとしても、現行会計がそのままだと、毎期の決算では経済価値ベースの情報が限られている(あるいは開示していても会計情報を重視してしまう)こともあって、これまでどおりメディアは資産含み損益だけに注目してしまい、かつ、会計上の実現損益への影響をことさら気にしてしまうということです。これは日経だけではありません。国内債の含み損と株式含み益を比べてしまうのも、会計損益への潜在的な影響を意識してのことでしょう。
そもそも現行会計に弱点があり、会計情報では保険会社の経営内容がよくわからないので、新規制では経済価値ベースの考えを採用したわけです。しかし、現行会計をこのままにしておくと、新規制の意義とされる「契約者保護」「保険会社のリスク管理高度化」「消費者・市場関係者への情報提供」の妨げになるということが、図らずも示されたように思います。
※写真は小樽(北海道)です。

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