出国日本人数の伸び悩み

日本政府観光局の統計によると、インバウンドの回復が鮮明となっています。8月に日本を訪れた外国人旅行者は3か月連続で200万人を超え、コロナ前の2019年8月と比べて86%の水準まで回復しました。
福岡はやはり韓国からの観光客が多いようですね。たまに博多駅や天神の繁華街に行くと、ハングルの会話を耳にすることが本当に多いです。中国語もよく耳にしますが、台湾や香港の皆さんでしょうか。

他方で海外に行く日本人の数は、回復途上にあるとはいえ、2019年の5、6割にとどまっています。年代別データを確認できていないのですが、シニア層が海外旅行に依然として慎重なのと、ビジネス出張がオンラインに置き換わっていることなどが考えられます。

ただ、コロナ禍でオンライン会議などを経験して、改めてリアルの価値を再認識した人も多いのではないでしょうか。もちろん福岡を拠点にしながら東京とつながったり、取材を受けたりと、私はかなり恩恵を受けているのですが、オンラインだとどうしても情報が限られてしまいますし、新たな出会いや発見は難しいように思います。
それに海外に行かなければ円安を実感することも少ないでしょうし、日本の存在感を意識することもないでしょう。海外旅行は日本での暮らしを客観的に見ることのできるいい機会ですので、皆さん、機会を見つけて国の外に出たほうがいいと思いますよ。

※写真は韓国の市場での一コマです。

 

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サムスン生命のIR資料より

先週訪問した韓国では、今年(2023年1月)から保険会社の会計基準とソルベンシー規制が変わりました。
ソルベンシー規制は、日本のソルベンシー・マージン比率のようなRBC規制から、経済価値ベースのK-ICS(キックスと呼ぶようです)に移行し、会計基準はIFRS4号から17号になりました(より正確にはIFRS9号と17号の組み合わせ)。
日本の経済価値ベースのソルベンシー規制導入は2025年ですし、会計基準は現行のままです。台湾でもIFRS17号と新たなソルベンシー規制を導入するのは2026年となっていますので、東アジアでは韓国が先行したことになります。
もっとも、K-ICSのほうは申請すれば最長10年の移行期間が認められるそうなので、業界全体としてどれだけの会社がIFRS17号とK-ICSの世界に移行したのかは未確認です。

最大手サムスン生命のIR資料を見ると、同社は移行期間を申請せず、会計基準はIFRS17号、ソルベンシー規制はK-ICSのもとで経営管理を行っていることがわかります。

決算結果の概要(Earnings Results)を見ると、2022年までの同社は新契約年換算保険料と純利益、保険引受利益、資産運用利回り(定義は未確認)、RBC比率などを主要指標として示していました。それが2023年上半期では、新契約のCSM(契約サービスマージン)をはじめCSMの動向、保険サービス利益の内訳、資産運用利益の内訳、K-ICS比率などと、主要な指標が大きく変わりました。
とりわけCSMを経営の重要指標としているところが目を引きます。アクサやアリアンツなど欧州大手保険グループの生保事業でも今年から同様の開示が見られるので、グローバル投資家にとっては格段に比較しやすくなったと思います。

こうなってくると、今後の日本勢の動きが気になりますね。

※写真は柳川ひまわり園です。

 

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なぜ外貨建保険なのか

今週の保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1200(2023.9.11)に寄稿したものを本ブログでもご紹介いたします。通算1200号なのですね。
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外貨建保険の販売管理態勢

8月29日に金融庁が公表した「2023事務年度 金融行政方針」のコラムに「顧客本位の業務運営に関する販売会社の取組状況」がありました。これは金融庁が6月末に公表した「リスク性金融商品の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果」のうち、販売会社の主な課題を整理したものです。
このうち、外貨建一時払い保険の販売管理態勢の課題がうまくまとまっていたのでご紹介します(コラムの40ページより引用)。

<運用が目的>
・リスク・リターン・コスト等に関し、他金融商品との比較説明を未実施

<保障が目的>
・目標到達型保険で、目標到達後に保険を解約させて保障期間を断絶

<相続が目的>
・非課税枠を大きく超える保険金等の額を契約時に設定

そもそもですが、顧客にとって外貨による資産運用が目的なのであれば、まずは保険ではなく、外貨預金や外貨建て投信などが挙がるでしょう。保障を得ることが目的であれば、あえて為替リスクを顧客に抱えさせる必要があるとは思えません。相続が目的の場合も、解約してしまえば目的を達成できませんし、やはり外貨である必然性もありません。
そう考えると、顧客にとって外貨建一時払い保険でなければならない理由は見当たらず、そもそも販売管理態勢の問題ではないのかもしれません。

「外貨建て」「変額」であるべき理由を説明できるか

金融庁「リスク性金融商品の販売会社における顧客本位の業務運営のモニタリング結果」には、リスク性金融商品(投資信託、ファンドラップ、仕組債、外貨建一時払い保険)の販売の現状が載っています。対象となる金融機関は主要行等、地域銀行、証券会社等です。
保険のところを見ると、主要行等も地域銀行も継続的に一時払い保険を販売してきたにもかかわらず、主要行等の一時払い保険の預かり資産残高はほぼ横ばい、地域銀行も微増にとどまっています(7月28日配信のプロフェッショナルレポートを参照)。
運用目的だとしても、預かり資産残高が伸びていないというのは、銀行による投資信託の販売と同じ問題を抱えている、すなわち、販売会社の都合で販売や解約が行われているのではないかと疑わざるを得ません。

この問題は銀行窓販に限った話ではないと思います。近年、銀行以外のチャネルでも外貨建てや変額タイプの生命保険の取り扱いが増えていると耳にします。超長期の保障を得るにあたり、円金利の水準が依然として低い、あるいは、将来のインフレによる保険金の目減りが心配(変額タイプであればインフレヘッジになりうる)といった理由から、一定の顧客ニーズがあるのは理解できます。
ただ、チャネルとして一般の顧客に積極的に勧める商品かと言われると、私には疑問が残ります。多くの顧客が理解し、納得するような説明をするのはそう簡単ではないので、つまるところ金融リテラシーの低い顧客をターゲットにしたビジネスに陥りがちだからです。
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※写真は韓国・仁川の旧市街です。

 

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台湾で講師を務めました

アジア生命保険振興センター(OLIS)が4年ぶりに開催した海外セミナーの講師を務めるため、8月下旬に台湾を訪問しました。
OLISは私が生まれた1967年から国内外での保険セミナーなどを通じてアジア諸国の生命保険事業の発展に尽くしてきた財団です。台湾をはじめ、各国の生命保険会社の経営陣や監督官庁にはOLISセミナーの卒業生が数多くいます。今回の台湾でも、セミナー後の懇親会には大手生保の経営トップが何人も集まりました。翌日には保険行政の責任者との意見交換を行ったのですが、彼女もOLIS東京セミナーの卒業生でした。こうした人的つながりはOLISの長年にわたる継続的な取り組みの賜物であり、日本の貴重な財産ではないかと思います。

セミナーの演題は「日本の生命保険業の最近の動向」ということで、午前中に日本の生命保険市場の動向として「主力商品の変化」「歴史的低金利の影響」「新型コロナ感染症への対応」を、午後に保険規制の動向と生命保険業界の対応として「これまでの経緯」「ソルベンシー規制の見直し」をお話ししました。

台湾では海外金利の上昇で外貨建て保険の人気が高まっており、利率の低い台湾元建て保険を解約して外貨建て保険に乗り換える動きが目立つそうで、「解約⇒新規」という動きは日本の銀行窓販と似ています。
また、台湾では2026年からIFRS17号(=保険契約の国際会計基準)とICS(=経済価値ベースのソルベンシー規制)が同時に入るとのことで、日本の規制動向にも非常に関心があった模様です。午後の質疑応答は30分以上に及びました。

翌日の保険行政との意見交換では、3月下旬に調査したコロナ保険について、資本不足に陥った台湾損保のその後を聞いてみました。すると、現在のソルベンシー規制(RBC基準)を6月末に確保できなかった会社が1社あったものの、増資のめどがついていたので大丈夫だったそうです。コロナ保険の支払いも終わり、問題は概ね収束したとのこと。
ただし、別のところで、「台湾では金融持株会社グループとして生保、損保、銀行を兼営しているところが多いので、本来はIFRS・ICS対応として増資が必要なところを、コロナ保険の後始末に費やしてしまった」という声も耳にしました。

保険市場の違いを踏まえる必要はありますが、経済価値ベースの枠組みが各国でどう捉えられていて、どのような影響が出ているのか、日本にとってもいろいろと参考になることが多いです。

※台風が南にそれてラッキーでした。

 

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損害保険会社と代理店

ご承知のとおり、日本では損害保険の約9割を代理店が販売しています。8/8のブログ「損害保険代理店統計」でお示ししたように、代理店には保険販売を本業とする代理店と、自動車ディーラーや整備工場のように、他に本業があって副業として保険販売をしている代理店があります。また、多くの大企業は系列の代理店(企業代理店)を設立し、その代理店を通して保険を購入しています。
保険販売を本業とする代理店(プロ代理店)には、保険ショップのように複数の保険会社の商品を扱う乗合代理店もありますが、損害保険では特定の損害保険会社に専属またはそれに準じた代理店が主力となっている模様です。

この週末にプロ代理店の勉強会に参加して、改めて保険会社の対応や取引慣行がチャネルによって大きく異なることを確認しました。勉強会の内容はオフレコなので、以下の記述はあくまで私のコメントです。

ビッグモーター事件では、保険会社が自動車関連の代理店に対し、保険金の不正請求を見逃したかどうかはともかく、顧客紹介をはじめ様々な支援を行っていることが明らかになりました。企業代理店に対しても、各保険会社がシェアを維持・拡大するために人材を派遣したり、その企業が取り扱う商品の販売をサポートしたりしています。

他方でプロ代理店のうち、専属またはそれに準じた代理店と保険会社の関係は、自動車関連の代理店や企業代理店とは全く違っているうえ、保険会社の方針が数年ごとに変わるので、代理店の経営者が振り回されている印象です。
そもそもプロ代理店は保険会社に所属する募集人ではなく、独立した保険販売会社です。少なくとも意識ある代理店のトップは自らの経営をどうしていくか真剣に考えています。しかし、保険会社は代理店をそのように扱っているのでしょうか。例えばプロ代理店が自らの経営判断として「自動車保険(特にノンフリート)には注力しない」「顧客層を絞るため若手従業員を主体に運営する」などを実行すると、代理店手数料ポイントが下がるそうです。保険会社は手数料ポイントをどのプロ代理店にも一律に当てはめてくるからです。

ビッグモーター事件やカルテル問題が今後どのような展開になるかわかりませんが、保険会社は専業・副業にかかわらず、チャネル戦略を全体としてどのようにしたいのかをきちんと考え、外部に示す必要があると思います。

※写真は岐阜・金華山です。

 

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イタリア生保の経営危機

ニッセイ基礎研究所の中村亮一さんによる8月9日のレポート「金利の急激な上昇やインフレが保険会社の解約率等に与える影響-欧州の保険監督当局等による報告書からの流動性リスク分析結果-」を拝読して、金利上昇局面でイタリアの生命保険会社ユーロヴィータ(Eurovita)が経営危機に陥り、監督当局が同社を特別管理下に置いたということを知りました。

レポートによると、「Eurovitaは、すでに脆弱だった財務基盤が、2022 年の金利上昇等の市場の動きに伴って、さらに悪化し、資本増強が求められていたが、Cinvenが十分な資金を注入することが出来ず、業界によって救済されることになった」ということです。
Cinvenとは英国のPE(プライベートエクイティ)会社で、2016年にミュンヘン再保険グループの保険会社ERGOのイタリア事業を買収し、その後も買収により規模を拡大させていました。

生命保険会社の経営にとって金利上昇はプラスに働くことが多いはず。Eurovitaはなぜ経営危機に陥ってしまったのでしょうか。

日本とは違い、イタリアの生命保険市場では、主力商品が一時払いの貯蓄性商品(定額タイプ、期間10年以内)となっています。また、主力の販売チャネルが銀行や金融系アドバイザーというのも特徴です。近年は変額タイプの商品も一定のシェアを占め、保障性商品の提供に力を入れる会社もあったようですが、報道によると、Eurovitaは伝統的な定額タイプの貯蓄性商品の提供に集中し、マイナス金利時代に新たな株主(Civen)のもとで急速に成長した会社のようです。

2021年まではイタリアの10年国債利回りは概ね1%を下回っていました。しかし、2022年には利回りが4%台まで上昇し、保有資産(公社債)の価格が急激に下がりました。そこでEurovitaが直面したのが解約の増加です。もともと預金よりも有利ということで契約を獲得していたとみられ、金利上昇を受けて解約が増え、含み損を抱えた資産を売却せざるを得なくなった模様です。
解約ペナルティや保険商品に有利な税制の存在などが制約にならなかったのか、よくわからないところもあるのですが、金利上昇時の解約リスクを軽視していたと言うべきなのでしょう。

もっとも、Eurovitaは金利水準がまだ低かった2021年末の時点で、すでに規制が求める資本の水準が十分ではなく、監督当局(IVASS)が介入していたと報じられています。もともと財務基盤がぜい弱なところに金利上昇に伴う資金流出が生じ、株主からの十分な支援も得られず、経営危機に陥りました。
したがって、Eurovitaはかなり特異な事例であって、イタリアの生命保険会社が連鎖的に経営危機に陥るような状況ではなさそうです。とはいえ、中村レポートの次の記述は目を引きました。

「IVASSの報告書によれば、保険料収入に対する解約返戻金の割合は2022年3月の53%と比較して、2023年3 月には平均85%に達しており、特に2023年に入ってからの3か月で急激に上昇している。また、これを販売チャネル別に見た場合、(保険料収入による影響もあるが)銀行・金融アドバイザー・ブローカーを通じて販売された保険契約の数値は、保険代理店・郵便局チャネル等を通じて販売された保険契約の数値の2倍以上になっており、顕著な差異が見られている」

元の図表(PDF、36ページ)も確認しましたが、おそらく販売チャネルによって商品も加入目的も違うので、解約状況に大きな差が出たのでしょう。同じ保険事業でも、ビジネスモデルによって経営リスクが異なることがよく理解できます。

※夏はかき氷ですね!サイズが昨年より小さくなった気もしますが…

 

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主要生保の資産運用動向

2023年4-6月期決算が公表されたので、主要生保8社(日本、第一、住友、明治安田、朝日、太陽、大同、富国)の資産構成の変化をざっと確認してみました。

まずは国内公社債です。8月10日の日経「生命保険各社、国債買いに動く」(会員限定)は、タイトルとは裏腹に、4-6月の超長期国債の買い越し額が直近5年で最低水準だったというものでした。決算資料の責任準備金対応債券(取得原価ベース)を見ると、全体として買い控えという傾向はみられず、ただ、日本生命だけは残高が横ばいという状況でした。

脱線ですが、記事の中に「株高で今年度の運用が順調に進んでいるため『現金で持っていても、それほど焦る状況ではない』(大手生保の運用担当者)」という記述が気になりました。売却して実現益を出せば、今年度の目標を達成できるということなのでしょうか。

次に、外国公社債はどうでしょうか。こちらは昨年度末に続いて残高を減らした会社(第一、朝日、太陽、大同、富国)と、一転して残高を増やした会社(日本、住友、明治安田)がありました。4-6月期決算なので詳細はよくわかりませんが、ヘッジコストが高止まりしているなかで、判断が分かれたようです。

※西九州新幹線に乗りました。

 

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損害保険代理店統計

今週の保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1196(2023.8.7)に寄稿したものを本ブログでもご紹介いたします。
業界データという点では、業界紙にももっと頑張っていただきたいですね。
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代理店数の減少傾向が続く

日本損害保険業界はこの7月末に、2022年度の損害保険代理店統計を公表しました。
22年度末の代理店実在数は15.6万店(前年度末比▲2.7%)と、このところ年3%程度の減少が続いています。新設・廃止の状況を見ると、コロナ禍で廃止数が増えたということはなく、新設数が少ないことが全体の減少に影響しています。
他方、22年度は損害保険の募集従事者数が7.9%も減り、200万人を割り込みました。ただし、減少した15.8万人のうち10.4万人が運輸・通信業なので、何か特殊要因がありそうです。

種目別・チャネル別データの開示が不十分

このところビッグモーター問題などでメディアの取材を受ける機会が増えています。そこで感じるのは、記者さんの多くが残念ながら保険代理店についてほとんど知識を持っていないという現実です。
例えば、「日本では損害保険(元受正味保険料)の9割を代理店が販売している」「保険販売を本業とするプロ代理店と、他に本業があって副業として保険販売をしている代理店がある」「特定の保険会社の商品しか扱わない専属代理店と、複数の保険会社の商品を扱う乗合代理店がある」といった説明をしたうえで話をしないと、ビッグモーターが保険代理店の象徴のように取り上げられ、「消費者の知らないところで保険会社と代理店が好き放題やっている」というトーンで報道されかねません。

ところが私が、「自動車保険を販売しているのはビッグモーターのような自動車関連業の代理店だけではなく、保険専業の代理店の販売シェアも大きい」と説明したくても、この代理店統計に載っている保険募集チャネル別のデータは代理店数と募集従事者数だけで、扱保険料がありません。代理店数で見ると自動車関連業の代理店が全体の5割強を占めているのですが、このなかには小規模のモーターチャネルが数多く含まれているのでしょうから、扱保険料でも5割強ということはないでしょう。
他方で「専業・副業別」「法人・個人別」「専属・乗合別」という統計には代理店数、募集従事者数に加えて扱保険料データも出ています。数のうえでは8割を占める副業代理店が扱保険料の6割を占めていることや、数では23%しかない乗合代理店が扱保険料の7割を占めていることはわかっても、もう少し代理店の属性や種目を細分化していただかないと、保険市場の現状がよくわかりません。

業界全体が不審の目で見られかねない

現在、個社で販売チャネル別の収入保険料データを示しているのは、私の知るかぎりでは東京海上日動(東京海上ホールディングス)だけです。全種目合計ではありますが、22年度の保険料(営業統計保険料)のうち、ディーラーが19%、整備工場が8%でした。
SOMPOホールディングスは2017年度まで損保ジャパン日本興亜(当時)の販売チャネル別・種目別の営業成績(収入保険料)を公表していました。これによると、自賠責保険ではディーラーが42%、整備工場等が45%を占め、自動車保険ではディーラーが23%、整備工場等が16%となっていました。
こうした情報開示がないと、メディアの注目を集めるような現場情報に世の中が左右されてしまい、場合によっては大混乱を招くような規制が導入されてしまうことにもなりかねません。損害保険業界として静観するのではなく、まずは情報開示を進めるのが得策ではないでしょうか。
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※今年もオープンキャンパスで講師を務めました。

 

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クローズアップ現代ほか

ビッグモーターの保険金不正請求問題でNHK「クローズアップ現代」をはじめ、いくつかのメディアに登場しました。備忘録を兼ねてこちらにまとめておきます。

クローズアップ現代(NHK)

7月26日夜の番組「ビッグモーター不正の深層 中古車販売大手でなにが」にゲスト出演しました。前回の出演から約6年ぶりでして、相変わらず生放送は緊張します。
今回も、桑子キャスターも参加する打ち合わせを1時間しっかり行い、だからといって事前に決められた台本に沿って話すことを求められるのではなく、番組の限られた時間で何を伝えるかを全員で丁寧に検討しました。
見逃し配信(8月2日夜まで)が終わっても、こちら(放送記録)で内容をしばらくは確認できそうです。

読売新聞

27日の朝刊「違反認定 険しい道/ビッグモーター/保険販売 金融庁も聴取へ」にコメントが載りました。私のコメント部分だけ引用させていただきます。

・福岡大の植村信保教授(保険論)は「利害が交錯する代理店と損保の関係を根本から見直す問題に発展しかねない」と指摘する。

Nスタ(TBS)

電話取材があり、27日の番組中で私のコメントが使われています。今のところこちらで確認できますね。

「損保会社による厳しいチェックが重要」
「利害が交錯する代理店と損保の関係を業界全体で見直す必要がある」

東京新聞

まだ紙面を確認していませんが、28日に「出向元の責任は?悪質ビッグモーターと損保ジャパンの密接ぶりを示す「37人」と「副社長」」がネット配信され、そのなかにコメントが載りました。私のコメント部分だけ引用させていただきます。

・福岡大の植村信保教授(保険論)は「損保会社が不正を知っていたなら、水増しされた損害額と分かった上で保険金を支払ったことになり問題だ」と話す。さらに「多くの保険を販売したビッグモーターに対し、損保側が強く出られなかった可能性もある」とも述べる。

・不正の背景には、ビッグモーターという一つの社内に車を整備して保険金を受け取る部門と、自動車保険を販売する部門があると語り「切り離した方がいいのではないか」と指摘。一方で「今回と同種の不正が他の中古車販売業者などにもないかなど、確認することが必要ではないか」と強調した。

「切り離したほうがいい」というのはちょっと変なコメントですが(確認が甘くてすみません)、保険金をビジネスとして受け取る会社に本来は代理店委託しないほうがいいし、それが変えられないのであれば、保険会社の保険金支払い部門と営業部門をしっかり遮断して、営業部門の影響が支払部門に及ばないようにする必要があるという意味です。

日曜報道 THE PRIME(フジ)

日曜朝の報道番組で、橋下徹さんがレギュラーコメンテーターを務めています。オンラインでの取材があり、30日の「ビッグモーター不正・損保は被害者か」のなかで私のコメントが使われています。番組内でどのようなやり取りがあったのかは確認できていません。

「有力代理店である大手の車販売会社・整備工場に対し、損保会社の立場は弱い」
「外部の目線を入れるなどして、保険金の不適切な支払いができないような工夫が必要」

長くなりましたが、以上です。

 

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ビッグモーター事件

中古車販売大手ビッグモーターの保険金不正請求問題が連日のように報道されています。
調査報告書を見ると、確かに信じられないようなことがいくつも載っています。
不適切な保険金請求の中身もすごいですが、従業員が5000人を超える大企業にもかかわらず実態はA社長の個人商店のままで、例えば取締役会が開催されていないとか、「経営陣の判断一つで、ある日突然降格処分が下される」とか、少なくとも問題は不正請求に手を染めた板金部門だけではなく、経営組織全体にあることがわかります。

保険会社にとってビッグモーターは、交通事故を起こした保険契約者の自動車を修理する整備工場というだけではなく、自賠責保険や自動車保険を販売する保険代理店でもあります。
販売チャネルに関する情報開示が限られているなかで、損保ジャパンは2017年度まで販売チャネル別・種目別の営業成績(収入保険料)を公表していました。データを見ると、ディーラーと整備工場等が自賠責の9割弱、自動車保険の約4割を販売していました。参考までに、保険専業の代理店の販売シェアは自賠責で6%、自動車保険では4割弱でした。

自賠責・自動車保険は損害保険会社の収入保険料のうち6割弱を占める中核的な種目なので、自動車関連の販売網は保険会社にとって重要な存在であることがわかります。自動車関連の代理店には零細なところも数多くある一方、会社の規模が大きく、多額の保険を取り扱う代理店もあります。そのような副業代理店に対し、保険会社は保険専業の代理店と同じような管理・指導を行っているのでしょうか。
先日問題が発覚した大企業向け保険の世界とともに、古くて新しい問題なのかもしれません。

※旧大和生命ビルは解体工事中でした。

 

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