15. 執筆・講演等のご案内

自然災害と車両保険

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1300(2025.10.13)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。なんと、1300号なのですね!2000年8月が1号なので、26年めということでしょうか。おめでとうございます。
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地下駐車場での冠水

先月、三重県四日市市の地下駐車場が大雨で浸水し、200台以上の車が冠水するという事故がありました。本件では防水設備の不備により施設管理者の責任が問われるかもしれませんが、原則としては駐車場で冠水した車の修理は車の所有者が行うことになっています。
このようなときに役に立つのが車両保険です。しかし、損害保険料率算出機構によると、23年度末の車両保険の加入率は約47%と、対人賠償責任保険や対物賠償責任保険(いずれも約75%)に比べると低い水準です。
もっとも、約47%というのはややミスリードで、自家用普通乗用車、自家用小型乗用車、軽四輪乗用車だけでみれば、加入率は約55%です。これに自動車共済を加えると、加入率は約6割とみられます。

保険料の負担

とはいえ、自家用の3車種でも約4割が車両保険に加入していないということになります。もちろん、なかには古い車に乗っていて、十分な保険金額を設定できないというケースもありそうですが、車両保険に加入すると毎年の保険料がかなり高くなってしまうというのが、加入を見送る最大の理由ではないかと考えています。あくまでイメージですが、車両保険を付けなければ年間保険料が3万円、車両保険を付けると6万円、といったレベルでの違いがありますよね。
車両保険の保険料が大きくなりがちなのは、自動車保険のなかでも支払保険金の総額が大きいからです。同じく料率算出機構のデータによると、23年度の支払保険金のうち車両保険が全体の4割以上を占め、最大種目となっています。対人賠償責任保険は1件当たりの支払保険金が約95万円と大きい(車両保険は約40万円)のですが、支払件数が少ないので、支払保険金の総額は全体の3割強にとどまります。

自動車ユーザーにとって、毎年の保険料は大きな関心事項です。例えば、ソニー損害保険が8月に公表した全国カーライフ実態調査(2025年)によると、車の諸経費で負担に感じるものとして、「ガソリン代・燃料代」「自動車税」「車検・点検費」に次いで「自動車保険料」が高い割合で挙がっていました。
また、チューリッヒ保険が23年に公表した「自動車保険の見直しに関する実態調査」でも、ダイレクト型で自動車保険に加入したという回答者の割合がやや高い(35%)ことを踏まえても、現在加入している自動車保険で重視したポイントとして「保険料の安さ」が「事故対応」とともに上位に挙がっていて、保険料への関心の強さがわかります。

風水災害への備えとしての車両保険

ただし、車両保険が大雨による冠水など、地震などを除いた自然災害でも使えるという情報は自動車ユーザーにどの程度浸透しているのでしょうか。ネットで話題になったように、「自賠責保険は補償の対象外」という報道がなされるなど、自賠責保険と任意の自動車保険のちがいも常識ではなさそうなので、車両保険が交通事故だけではなく、一般的には風水災害による損害でも補償対象となると知っているユーザーは意外に少ないのではないでしょうか(あくまで個人の印象ですが)。
9月17日の日本損害保険協会によるニュースリリースによると、8月上旬の低気圧・前線による大雨での保険金支払額は約323億円で、このうち130億円が自動車保険(車両保険)だったそうです。風水災害への対応というとまずは火災保険ですが、車両保険も役に立っているということを保険業界はもっとアピールしてもいいのかもしれません。
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※懐かしのブルートレイン!門司港にて。

 

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書評『中華料理と日本人』

週刊金融財政事情(2025年9月23日号)に載った書評「一人一冊」を当ブログでも紹介します。今回は『中華料理と日本人--帝国主義から懐かしの味への100年史』を取り上げました。
振り返ってみると、前回(2025年5月)は『日本庭園のひみつ』、前々回(2025年1月)が『日本の歴史的建造物』、2024年9月が『Z世代化する社会』、2024年6月が『「モノ言う株主」の株式市場原論』、2024年2月が『財閥のマネジメント史』でした。このところ経済・金融以外が目立ちますが、評者の個性ということでご容赦ください。

以下、引用となります。

日本の中華料理の意外な歴史をたどる

先日イスタンブールに滞在し、トルコ料理を味わう機会があった。トルコ料理はフランス料理、中華料理とともに世界三大料理の一つに挙げられることが多い。日本でも知られるケバブはもともと中央アジアの肉の串焼きで、垂直な串に肉を重ねて焼くドネルケバブの他にもさまざまな種類がある。ギリシャ料理のような、茄子やトマト、ピーマンにオリーブオイルを使った料理も多く、ヨーグルトを多用し、ピラフなど米料理もよく食べられている。
これらの料理には、現在のトルコを中心にアジア、アフリカ、ヨーロッパにまたがる広大な領土を支配した、かつてのオスマン帝国の存在が関係していると考えるのが妥当であろう。

同じようなことが日本における中華料理にも言えるというのが本書の主題である。私たちがイメージしやすい中華料理はたいてい日本式のものであり、餃子やシュウマイ、ラーメンなどは、もはや実質的に日本料理となっている。
例えば、餃子は満州在住の日本人に親しまれ、第二次世界大戦後に満州からの引揚者が主に焼き餃子を提供することで、日本で本格的に普及した。また、北海道の郷土料理とされるジンギスカン料理も、もともと日本の中華料理の一つだった。日本が大陸で勢力を広げていた時期の北京で生まれ、1932年に建国された満州国の名物料理とされ、やがて日本でも広まった。

日本と中国の交流には長い歴史があり、江戸時代の長崎では中国料理をベースにした卓袱(しっぽく)料理が誕生している。ところが、日本の大都市で中華料理が身近な食べ物になったのは意外にも新しく、1920年頃からとのこと。関東大震災後の東京では、中華料理がおいしくて栄養のある料理として受け入れられ、中華料理店や中華料理を兼業する洋食店が増えたという。その後、料理ごとにさまざまな経緯があって、中華料理が日本食の一部へと変わっていったそうだ。

植民地として支配した地域の料理が本国に伝わり、帝国主義の影響下で普及していくという、世界史的な考察は非常に興味深い。たしかに20年頃の日本は台湾、朝鮮半島を支配し、さらには中国東北地方にも進出する植民地帝国だった。英国やフランス、オランダなど当時の欧州列強と同じ現象が日本でも見られたということになる。
ちなみに「カレー」という言葉はイギリス人がインド料理の総称として用いたもので、イギリスからのカレー粉を通じて日本でも広まったとされる。

※写真は肥前浜(佐賀県)の酒蔵通りです。

 

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メディアの利用時間と信頼度

9月10日からPIVOTというビジネス映像メディアで「いま知っておきたい生命保険・損害保険」「保険ビジネスの未来」という動画が同社のアプリまたはYouTubeで配信されています。
自分ではSNSに流れてくる動画などを観る習慣がなく、拙著『保険ビジネス』のプロモーションとして、果たしてこの動画がどれくらい広がっているの見当もつきません。ただ、複数の同僚の先生に声をかけていただいたので、もしかしたら意外に観られているのかもしれませんね。

以前のブログで紹介したように、総務省の情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査によると、2020年には平日のネット利用時間がテレビ(リアルタイム)視聴時間を初めて上回り、40代までは「テレビ」<「ネット」となりました。その後、2022年調査では休日もネットがテレビを上回り、直近の2024年調査では50代も平日は「テレビ」<「ネット」となっています。
しかも、2020年まではテレビの視聴時間は平日、休日ともに概ね横ばいだったのですが、それ以降は視聴時間が年々減っているようです。

他方で、各メディアの信頼度は直近調査で新聞が59.9%、テレビが58.2%、ネットが27.0%となっていて、30代と70代はテレビがトップ、それ以外は新聞がトップです。10代から30代の新聞閲読時間はゼロに近いのですが、そこそこ信頼されてはいると。ただし、2020年調査では新聞が66.0%、テレビが61.6%だったので、信頼度は徐々に下がっています。
もっとも、新聞やテレビの信頼度が下がったからといって、ネットの信頼度が上がったわけではありません(2020年は29.9%でした)。人々は信頼できないかもしれないと思いつつ、ネットへの依存を高めていることになりますね。

※福岡・百道(ももち)浜のビーチです。

 

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著者が語る『保険ビジネス』

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1296(2025.9.8)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。今回は拙著『保険ビジネス』の裏話?を書かせていただきました。
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本誌でもご紹介していただきましたように、このたび『保険ビジネス』を刊行しました(クロスメディア・パブリッシングの「業界ビジネス」シリーズの1つです)。副題に「契約者から専門家まで楽しく読める保険の教養」とあるように、身近な存在にもかかわらず、わかりにくいとされることの多い保険の世界をいろいろな角度からひも解いてみました。
せっかくの機会ですので、今回は本書の裏話のようなことを書かせていただきます。

責任準備金を理解してほしい

第1章では「素朴な疑問」をテーマにしました。いろいろ検討した結果、最終的には「生命保険と損害保険の違い」「そもそも保険には入っておいたほうがいいのか」「保険会社はなぜ一等地に立派なビルを持っているのか」など6つを取り上げました。
もっとも、他の章でも「素朴な疑問」にいくつも答えています。例えば、金融担当の記者さんからも時々質問されるのが、「高齢化が進むと保険金の支払いが増えるので、生命保険会社の経営が厳しくなるのではないか?」というものです。世間では、自分の支払った保険料がそのまま誰かの保険金支払いのために使われていると考えがちなのですね。ですから「責任準備金」の存在を示し、生命保険は積立方式で運営されていることをできるだけ丁寧に説明しました。

歴史の一コマとなる前に

執筆して改めて感じたのは、自分にとって身近だった出来事も、どんどん過去の話となり、歴史の一コマとなっていくということです。
例えば第2章の「消えてしまった人気商品」では、80年代後半のバブル期に人気を集めた一時払養老保険のほか、00年代に銀行が積極的に販売した、元本保証のある変額個人年金保険を紹介しました。消えてしまった理由は、日本ではリーマンショックと呼ばれることの多い、グローバル金融危機の発生によって元本保証が難しくなったためです。第5章で取り上げた保険会社の不適切な保険金不払いや特約などの支払漏れ、保険料の取り過ぎが社会問題となったのも00年代半ばからです。いずれも約20年が過ぎ、当時を知らない業界人が多くを占めるようになりました。おそらく新型コロナ感染症の経験も、さらには近年の「保険金不正請求事件」「保険料カルテル問題」もあっという間に過去のものとなっていくはずです。
しかし、現在の保険ビジネスは、こうした過去の出来事を踏まえ、様々な制度改正などの試行錯誤を経て、構築されてきました。つまり、若い人が現在を理解するには過去を学ばなければなりませんし、過去を知っている人は歴史の一コマとして忘れられる前に、当時起きたことを若い人に積極的に伝える必要があるのだと思います。

判断するための軸を提供

実のところ本書には秘かな裏テーマがあります。それは、極論をはじめ、一見わかりやすい情報に振り回されず、自分自身で判断するにはどうしたらいいかというものです。
保険に限らず、物事を自分で判断するには、自分で考えろと言われても困ってしまうだけで、「判断するための軸」が必要です。保険の場合、自分の抱えているリスクを知り、自分にとってそれがどの程度重要なのかを考えるというのが「判断するための軸」になります。保険そのものの知識があっても、軸がずれていたら正しい判断はできません。本書では、第1章の「そもそも保険には入っておいたほうがいいのか」や、第3章の「保険と貯蓄の考え方」「民間の医療保険とは何か」など、いろいろなところで具体的にお示ししたつもりです。
自立が必要なのは、いびつな取引慣行にどっぷり漬かってきた保険ビジネス関係者だけではありません。保険の利用者は一方的に保護される存在というのでは、市場はいつまでたっても成熟しないでしょう。
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※写真はトルコの古都ブルサ郊外の村、ジュマルクズクです。

 

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『保険ビジネス』を出しました

昨年10月に続き、新刊のご案内です。本日(8月22日)クロスメディア・パブリッシングから『保険ビジネス 契約者から専門家まで楽しく読める保険の教養』を刊行しました。

副題のとおり「楽しく読める保険の教養」ということで、保険と保険ビジネスに少しでも関心のある全てのかたに向けた書籍です。身近な存在にもかかわらず、わかりにくいとされることの多い保険の世界をいろいろな角度からひも解いてみました。
例えば、第1章の「『素朴な疑問』から学ぶ保険の世界」では、「ビッグモーター事件の本当の被害者は誰か」「そもそも保険には入っておいたほうがいいのか」「保険会社はなぜ一等地に立派なビルを持っているのか」などを取り上げ、最後の第9章では「最新テクノロジーから学ぶ未来の保険の世界」ということで、保険会社や保険販売の世界がどう変わるのか述べています。
各章はいずれもトピック6つとコラム1つという構成で、トピックは全て4ページで統一したので、どの章から読んでいただいてもテンポよく楽しく読めるのではないかと思います。

本書執筆のお話をいただいた時には、実のところお受けすべきかどうか若干迷いました。おそらく研究者としての業績にはなりませんし、昨年10月に出した『経済価値ベースのソルベンシー規制』に続き、関連するアウトプットをいくつか抱えていたという事情もありました。
とはいえ、保険業界と外部のギャップを埋めるのは(さらに言えば、保険会社の本社と保険販売の現場との距離を縮めるのも)私の役割だと考えていますし、産・官・学と立場は途中で何度か変わりましたが、約30年にわたり日本の保険ビジネスを外部からウォッチしてきた人間はおそらく数少ないと思います。そこで、大学の春休み期間を中心に、時には京都で籠ったりして、楽しく(?)書き上げました。

大学の教科書として使っている『利用者と提供者の視点で学ぶ 保険の教科書』と比べてもすいすい読めますし、かつ、保険ビジネスに携わっている皆さんにも楽しく読んでいただけるよう、工夫したつもりです(反論はあるかもしれませんが…)。
本書がネットに出回る「保険不要論」をはじめ、極端な情報に惑わされず、保険や保険ビジネスについてご自身で判断するための道しるべになることを願っています。

※ワーケーション in 京都の成果物です!

 

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日本保険学会の全国大会

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1292(2025.8.4)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。日本保険学会の全国大会について書きました。
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非会員でも参加できる

約3か月後の10月25日(土)、26日(日)に近畿大学の東大阪キャンパスで日本保険学会の全国大会が開催されます(対面開催です)。
日本保険学会は、保険に関する研究者と実務家からなる学会で、前身の「保険学会」設立から130年もの歴史があります。学会メンバーとなるには会員2名(うち1名は役員その他の評議員)の紹介が必要ですが、年1回開催される全国大会と、各部会(関東・関西・九州)による例会は、参加費を支払えば会員以外でも参加できます。

この10月の全国大会では、25日午後に「シンポジウム:D&O保険の現状・課題・展望」、26日午後に「共通論題:新たなソルベンシー規制への期待と今後の展望」という2つの報告・パネルディスカッションがあります。26日午前の自由論題(研究報告)には、例えば「保険会社の多国籍化に関する考察」「保険訴訟における専門的知見の取扱い―医療診断に焦点を当てて―」など、経済・商学系と法律系でそれぞれ3つの研究報告がエントリーされています。
保険ビジネスに関わる皆さんも、日本保険学会の全国大会、あるいは、お近くの部会例会に参加してみてはいかがでしょうか。普段とは違った視点で保険を見つめるいい機会になると思いますし、実際に九州部会の例会には、主に福岡を拠点とする保険代理店の皆さんが毎回参加しています。
なお、全国大会の申し込みは9月26日締め切りです。詳しくは学会サイトでご確認ください。

新たな規制導入の本質

ところで、26日午後の「共通論題:新たなソルベンシー規制への期待と今後の展望」では、私が司会および報告者を務め、他2名の研究者(静岡県立大学の上野雄史先生、専修大学の湯山智教先生)に加えて、金融庁の保険モニタリング室で新規制を統括する伊藤仁美さん(保険モニタリング管理官)にご登壇いただくことになっています。
7月27日の個人ブログでもご紹介したとおり、金融庁は23日に新たなソルベンシー規制に関する法令等(告示、監督指針など)を公表し、これによって2026年3月末からの規制適用が確定しました。
新たな規制は「経済価値ベースのソルベンシー規制」と呼ばれるように、保険会社の資産と負債を経済価値ベース(≒時価ベース)で評価することで現行の保険会計の弱点を克服しようというものです。ただし、それだけではありません。ソルベンシーマージン比率のような狭義のソルベンシー規制にとどまらず、金融庁は保険会社の内部管理のあり方も踏まえた多面的な健全性政策を取り入れることで、「契約者保護」「保険会社のリスク管理の高度化」「消費者・市場関係者等への情報提供」を図ろうとしています。

保険会社は単に規制が求める資本(ソルベンシー)を確保すればいいというのではなく、いわゆる損保問題で表面化した、トップラインやシェアの確保を最優先する企業文化からの脱却を求められます。
そこで、当日の報告では、演題にした「新規制は保険会社の経営危機を回避できるのか」だけではなく、より広い視点からお話しするつもりです。
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※ゼミ旅行で阿蘇にきています。

 

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ドライブレコーダーの普及

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1288(2025.7.7)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
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自動車事故の映像記録

先日、私の担当するゼミ(少人数クラス)にて、九州で保険代理店を営む皆さんに、自動車等の運転に関わるリスクをテーマにした出張授業を行っていただきました。
若者のクルマ離れと言われるようになって久しいですが、大都市圏とは違い、福岡のような地方都市では、通学時の自動車利用は自粛を求められているとはいえ、依然として若年層にも自動車が身近な存在です。
授業のなかでドライブレコーダー(ドラレコ)が記録した事故映像を観る機会があり、学生にはもちろん、近年はすっかりペーパードライバーとなっている私にも大変参考になりました。「どうしてここで曲がるの?」「どうして正面に人が歩いているのが見えないの?」といった映像もあって、人間の注意力には限界があるというか、状況によって信じられないほど注意力が散漫になり得ることがよくわかりました。

ドラレコ普及は頭打ちに

こうしたことがわかるのは、ドラレコが普及したおかげです。ソニー損害保険が毎年行っている「全国カーライフ実態調査」によると、2024年のドラレコ搭載率は51.9%で、あおり運転の社会問題化などもあって、この10年間で普及が一気に進みました(2014年の搭載率は8.1%)。別の調査でも、個人向けドラレコの普及率は概ね5、6割といったところのようです。
なんといっても、事故映像があれば責任関係が明らかになりやすく、過失割合の判断もしやすいという大きなメリットがあります。自動車事故の際、当事者双方の主張が食い違うことは多々ある(というか通常は食い違う)そうですが、事故映像があれば無理な主張は通りません。

ただし、同じソニー損保の調査で「ドラレコを選ぶ際に重視した点」として挙がったもののうち、断トツの1位は「価格」でした(複数回答形式)。低価格のドラレコでは前方1カメラのものもあり、事故映像として役に立たない場合も多いはずですが、ドラレコのもう一段の普及には価格が制約になっていることがうかがえます。
実のところ、ドラレコの国内出荷台数は21年度をピークに減少傾向となっています。意識の高いユーザーへの普及が一巡し、ここから先は何かインセンティブ(強制を含む)が必要なのでしょう。代理店の皆さんとしても、しっかりしたドラレコの付いていない自動車の保険は受け付けないというのが、経営のあるべき姿なのかもしれませんね。
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メソポタミア文明の保険類似制度

まずはセミナーのご案内です。
今年も損保総研でセミナー講師を務めます。演題は「保険会社経営の今後を探る~新たな健全性規制の導入を見据えて~」で、7月9日(水)18時から。Zoomライブ配信です。
損保総研では2000年以降、ほぼ毎年講師を務めていて、決算データを踏まえた保険会社の経営内容や健全性規制の動向など「定点観測」をお伝えする機会となっています。うっかりしていて、締切直前のご案内となってしまいました。7月2日(水)締切とのことですので、ご関心のあるかたはどうぞお越しください。

この週末(6月28日)は福岡大学で日本保険学会・九州部会の例会がありました。
私が司会を務めたのは、西南学院大学・小川浩昭先生の「カタストロフィ・ボンドの起源」という報告で、なんとメソポタミア文明の保険類似制度に関するものでした。
小川先生は近年、保険史の考察に没頭しているとのことで、メソポタミア文明が栄えた紀元前のこの地域に、条件付き債務免除という保険類似制度が登場し、それが古代ギリシャの冒険貸借制度につながったとのこと。「目には目を、歯には歯を」の復讐法で有名なハンムラビ法典には、「嵐や洪水で作物が流されたり、水不足で大麦が実らなかった場合、債権者に大麦を返済しなくてよい。また、その年の利息を支払わなくてよい」という条文があるそうです(48条)。
もちろん、法典としての効果がどの程度あったのかという話もあるのですが、紀元前18世紀のことですので、驚きました。

もう1つの報告「メタバース向け生命保険の法的可能性」(住友生命保険の泉裕章氏による)も興味深い内容でした。

※写真は美々津(宮崎県)の町並みです。

 

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オープンセミナー2025

昨年に続き、RINGの会オープンセミナーに参加し、今回はパネリストを務めました。
登壇は午前中の第1部で、損保問題を議論した金融審WGメンバーの柳瀬典由・慶應義塾大学教授、緻密な取材活動に定評のある朝日新聞の柴田秀並記者とともに、プロ代理店の経営者(ファシリテーターはRINGの会・矢島護会長)の質問に答える形でセッションを行いました。

今回も柳瀬先生と柴田記者に登壇いただけることになった時点で、私の仕事の半分以上は終わっていたのかもしれませんが、当日は限られた時間のなかで、保険業界ウォッチャーとして、できるだけ本質的なことをスパッとお話しようと努めたつもりです。
例えば・・・

・(規模は考慮されるにしても)保険代理店も「金融機関」である
・自立していない保険代理店の手数料は下がる
・保険会社はコモディティ化した商品に高い手数料を出せない(はず)

有識者会議報告書でもWG報告書でも、保険金不正請求事案への対応として「顧客本位の業務運営の徹底」、保険料調整行為事案への対応として「健全な競争環境の実現」という整理がなされています。しかし、考えてみれば、不適切な便宜供与が横行したり、チャネル属性だけで優遇したりする不健全な市場で顧客本位の業務運営が徹底できるはずはなく、両者は表裏一体の関係にあります。
一連の問題発覚をきっかけに、いびつな業界慣行がなくなり、リスクと保険のプロフェッショナルが報われる世界に少しでも近づくことを期待しています。

なお、柳瀬先生がおっしゃっていた、規制の目線を「成績の悪い子」に合わせるのか、それとも成績に応じて目線を変えるのかというのは極めて重要な論点で、真の契約者保護とは何かという話だと思います。
全体として消費者のリテラシーを高める方向で進めていかないと、つまるところ消費者が負担する規制コストが膨大なものとなってしまいます。こうした議論は時間切れであまりできませんでしたが、代理店の経営にも関わる話だと思いました。

 

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生保の国内公社債運用

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1284(2025.6.9)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。保険代理店向けの内容ではなかったかもしれませんが、生保決算関係の記事ということでご容赦ください。
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国内公社債の含み損が拡大

近年の長期金利の上昇で、生命保険会社が保有する国内公社債の含み損が注目されています。
生保は超長期の保険負債のリスクヘッジを目的に、多額の超長期国債を保有しています。約3年前、2022年3月末の30年国債利回りは1%を下回っていました。当時の大手生保4社(日本、第一、住友、明治安田)の国内公社債は6.6兆円の含み益でした。その後、25年3月末には利回りが2.5%に上昇し、4社の国内公社債は8.5兆円の含み損となりました。

5月26日のブルームバーグニュースは多額の含み損について、生保は一般的に債券を満期保有で保持しているとしたうえで、
(1)債券の時価が帳簿価格よりも50%以上下落した場合は、減損処理実施の可能性が生じる、
(2)大幅な金利上昇に伴う想定外の保険解約があった際には、含み損を抱えた債券の売却による現金化を迫られるなど損失計上につながる可能性もある、
(3)含み損の拡大は運用資産の配分でリスクを取りにくくする要因にもなる、
と述べています。

私の見解を申し上げると、まず(1)はそれほど深刻ではないと考えています。金利要因のみによる価格下落であり、償還時までには必ず額面に戻るため、その債券を持ち続けるという意思を示せるのであれば減損処理は不要なはずです。
(2)は銀行窓販の貯蓄性商品などでは解約が増える可能性があり、商品・チャネルによっては確かに注意が必要です。だからといって、あまりに非現実的な前提を置いて対応するのは、かえって資産構成を歪めることになりかねません。
これらに比べると(3)は意味不明です。金利上昇によって超長期国債の価格が下がる一方で、保険負債の価値も小さくなっています。時価ベースでみれば、生保の経営体力が低下して、リスクを取りにくくなったとは考えられません。来年には各社の経済価値ベースのバランスシートが公表されるので、この記述が意味不明であることがはっきりわかると思います。

債券の入れ替えとは

同じく5月26日の日経は、「生保は債券の長期保有を前提に運用しており足元の影響は限定的」としたうえで、「運用利回りの向上のためには債券の入れ替えが必要になる」と述べています。
日経は24年12月決算発表を受けた2月にも「保有資産の入れ替えが急務となっている」と報じています。
確かに25年3月期決算では、大手4社をはじめ、国内公社債の売却損を計上した会社が目立ちました(富国、ソニー、かんぽなど)。過去に購入した低い利率の債券を売り、利率の高い債券に入れ替える取り組みとみられます。

しかし、売却損を出して債券を入れ替えると、本当に運用利回り(投資のリターン)は向上するのでしょうか。
まずは株式で考えてみましょう。昨年3万円で買ったA社の株式が2万円に下がり、1万円の含み損となってしまったので、入れ替えることにしました。具体的には含み損となったA社の株式を売却し、1万円の売却損を計上したうえで、再びA社の株式を2万円で買いました。その後、株価が3万円に上がり、1万円の含み益となりました。
さて、3万円の株式投資のリターンは、入れ替えによって向上したでしょうか。株式投資のリターンとは含み損益の増減ではなく、投資金額がいくら増えたか(減ったか)なので、入れ替えしてもしなくても、リターンは変わらない(この事例ではゼロ)とわかります。

債券でも同じです。現在、残存期間が5年の国債は、利率0.1%の国債だと価格が約95円、利率2%の国債だと価格が約104円で流通しています。いずれの債券に投資しても、5年後のリターンは同じです。つまり、残存期間が同じ債券を入れ替えて、含み損を消したとしても、そこで高まるのは利率だけで、債券投資のリターンは向上しないはずです。
それにもかかわらず、売却損を出して債券を入れ替えるのは、生保が時価ベースの運用ではなく、利息収入をターゲットとした運用を行っているからなのかもしれません。利回りは同じでも、利息収入が増えれば基礎利益を増やすことができます。
とはいえ、皆さんは時価ベースのリターンをターゲットとしない投資家に資産運用を委ねたいと思うでしょうか。
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※週末は金融学会の大会で久しぶりの東大でした。

 

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