15. 執筆・講演等のご案内

日本保険学会の全国大会

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1292(2025.8.4)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。日本保険学会の全国大会について書きました。
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非会員でも参加できる

約3か月後の10月25日(土)、26日(日)に近畿大学の東大阪キャンパスで日本保険学会の全国大会が開催されます(対面開催です)。
日本保険学会は、保険に関する研究者と実務家からなる学会で、前身の「保険学会」設立から130年もの歴史があります。学会メンバーとなるには会員2名(うち1名は役員その他の評議員)の紹介が必要ですが、年1回開催される全国大会と、各部会(関東・関西・九州)による例会は、参加費を支払えば会員以外でも参加できます。

この10月の全国大会では、25日午後に「シンポジウム:D&O保険の現状・課題・展望」、26日午後に「共通論題:新たなソルベンシー規制への期待と今後の展望」という2つの報告・パネルディスカッションがあります。26日午前の自由論題(研究報告)には、例えば「保険会社の多国籍化に関する考察」「保険訴訟における専門的知見の取扱い―医療診断に焦点を当てて―」など、経済・商学系と法律系でそれぞれ3つの研究報告がエントリーされています。
保険ビジネスに関わる皆さんも、日本保険学会の全国大会、あるいは、お近くの部会例会に参加してみてはいかがでしょうか。普段とは違った視点で保険を見つめるいい機会になると思いますし、実際に九州部会の例会には、主に福岡を拠点とする保険代理店の皆さんが毎回参加しています。
なお、全国大会の申し込みは9月26日締め切りです。詳しくは学会サイトでご確認ください。

新たな規制導入の本質

ところで、26日午後の「共通論題:新たなソルベンシー規制への期待と今後の展望」では、私が司会および報告者を務め、他2名の研究者(静岡県立大学の上野雄史先生、専修大学の湯山智教先生)に加えて、金融庁の保険モニタリング室で新規制を統括する伊藤仁美さん(保険モニタリング管理官)にご登壇いただくことになっています。
7月27日の個人ブログでもご紹介したとおり、金融庁は23日に新たなソルベンシー規制に関する法令等(告示、監督指針など)を公表し、これによって2026年3月末からの規制適用が確定しました。
新たな規制は「経済価値ベースのソルベンシー規制」と呼ばれるように、保険会社の資産と負債を経済価値ベース(≒時価ベース)で評価することで現行の保険会計の弱点を克服しようというものです。ただし、それだけではありません。ソルベンシーマージン比率のような狭義のソルベンシー規制にとどまらず、金融庁は保険会社の内部管理のあり方も踏まえた多面的な健全性政策を取り入れることで、「契約者保護」「保険会社のリスク管理の高度化」「消費者・市場関係者等への情報提供」を図ろうとしています。

保険会社は単に規制が求める資本(ソルベンシー)を確保すればいいというのではなく、いわゆる損保問題で表面化した、トップラインやシェアの確保を最優先する企業文化からの脱却を求められます。
そこで、当日の報告では、演題にした「新規制は保険会社の経営危機を回避できるのか」だけではなく、より広い視点からお話しするつもりです。
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※ゼミ旅行で阿蘇にきています。

 

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ドライブレコーダーの普及

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1288(2025.7.7)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
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自動車事故の映像記録

先日、私の担当するゼミ(少人数クラス)にて、九州で保険代理店を営む皆さんに、自動車等の運転に関わるリスクをテーマにした出張授業を行っていただきました。
若者のクルマ離れと言われるようになって久しいですが、大都市圏とは違い、福岡のような地方都市では、通学時の自動車利用は自粛を求められているとはいえ、依然として若年層にも自動車が身近な存在です。
授業のなかでドライブレコーダー(ドラレコ)が記録した事故映像を観る機会があり、学生にはもちろん、近年はすっかりペーパードライバーとなっている私にも大変参考になりました。「どうしてここで曲がるの?」「どうして正面に人が歩いているのが見えないの?」といった映像もあって、人間の注意力には限界があるというか、状況によって信じられないほど注意力が散漫になり得ることがよくわかりました。

ドラレコ普及は頭打ちに

こうしたことがわかるのは、ドラレコが普及したおかげです。ソニー損害保険が毎年行っている「全国カーライフ実態調査」によると、2024年のドラレコ搭載率は51.9%で、あおり運転の社会問題化などもあって、この10年間で普及が一気に進みました(2014年の搭載率は8.1%)。別の調査でも、個人向けドラレコの普及率は概ね5、6割といったところのようです。
なんといっても、事故映像があれば責任関係が明らかになりやすく、過失割合の判断もしやすいという大きなメリットがあります。自動車事故の際、当事者双方の主張が食い違うことは多々ある(というか通常は食い違う)そうですが、事故映像があれば無理な主張は通りません。

ただし、同じソニー損保の調査で「ドラレコを選ぶ際に重視した点」として挙がったもののうち、断トツの1位は「価格」でした(複数回答形式)。低価格のドラレコでは前方1カメラのものもあり、事故映像として役に立たない場合も多いはずですが、ドラレコのもう一段の普及には価格が制約になっていることがうかがえます。
実のところ、ドラレコの国内出荷台数は21年度をピークに減少傾向となっています。意識の高いユーザーへの普及が一巡し、ここから先は何かインセンティブ(強制を含む)が必要なのでしょう。代理店の皆さんとしても、しっかりしたドラレコの付いていない自動車の保険は受け付けないというのが、経営のあるべき姿なのかもしれませんね。
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メソポタミア文明の保険類似制度

まずはセミナーのご案内です。
今年も損保総研でセミナー講師を務めます。演題は「保険会社経営の今後を探る~新たな健全性規制の導入を見据えて~」で、7月9日(水)18時から。Zoomライブ配信です。
損保総研では2000年以降、ほぼ毎年講師を務めていて、決算データを踏まえた保険会社の経営内容や健全性規制の動向など「定点観測」をお伝えする機会となっています。うっかりしていて、締切直前のご案内となってしまいました。7月2日(水)締切とのことですので、ご関心のあるかたはどうぞお越しください。

この週末(6月28日)は福岡大学で日本保険学会・九州部会の例会がありました。
私が司会を務めたのは、西南学院大学・小川浩昭先生の「カタストロフィ・ボンドの起源」という報告で、なんとメソポタミア文明の保険類似制度に関するものでした。
小川先生は近年、保険史の考察に没頭しているとのことで、メソポタミア文明が栄えた紀元前のこの地域に、条件付き債務免除という保険類似制度が登場し、それが古代ギリシャの冒険貸借制度につながったとのこと。「目には目を、歯には歯を」の復讐法で有名なハンムラビ法典には、「嵐や洪水で作物が流されたり、水不足で大麦が実らなかった場合、債権者に大麦を返済しなくてよい。また、その年の利息を支払わなくてよい」という条文があるそうです(48条)。
もちろん、法典としての効果がどの程度あったのかという話もあるのですが、紀元前18世紀のことですので、驚きました。

もう1つの報告「メタバース向け生命保険の法的可能性」(住友生命保険の泉裕章氏による)も興味深い内容でした。

※写真は美々津(宮崎県)の町並みです。

 

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オープンセミナー2025

昨年に続き、RINGの会オープンセミナーに参加し、今回はパネリストを務めました。
登壇は午前中の第1部で、損保問題を議論した金融審WGメンバーの柳瀬典由・慶應義塾大学教授、緻密な取材活動に定評のある朝日新聞の柴田秀並記者とともに、プロ代理店の経営者(ファシリテーターはRINGの会・矢島護会長)の質問に答える形でセッションを行いました。

今回も柳瀬先生と柴田記者に登壇いただけることになった時点で、私の仕事の半分以上は終わっていたのかもしれませんが、当日は限られた時間のなかで、保険業界ウォッチャーとして、できるだけ本質的なことをスパッとお話しようと努めたつもりです。
例えば・・・

・(規模は考慮されるにしても)保険代理店も「金融機関」である
・自立していない保険代理店の手数料は下がる
・保険会社はコモディティ化した商品に高い手数料を出せない(はず)

有識者会議報告書でもWG報告書でも、保険金不正請求事案への対応として「顧客本位の業務運営の徹底」、保険料調整行為事案への対応として「健全な競争環境の実現」という整理がなされています。しかし、考えてみれば、不適切な便宜供与が横行したり、チャネル属性だけで優遇したりする不健全な市場で顧客本位の業務運営が徹底できるはずはなく、両者は表裏一体の関係にあります。
一連の問題発覚をきっかけに、いびつな業界慣行がなくなり、リスクと保険のプロフェッショナルが報われる世界に少しでも近づくことを期待しています。

なお、柳瀬先生がおっしゃっていた、規制の目線を「成績の悪い子」に合わせるのか、それとも成績に応じて目線を変えるのかというのは極めて重要な論点で、真の契約者保護とは何かという話だと思います。
全体として消費者のリテラシーを高める方向で進めていかないと、つまるところ消費者が負担する規制コストが膨大なものとなってしまいます。こうした議論は時間切れであまりできませんでしたが、代理店の経営にも関わる話だと思いました。

 

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生保の国内公社債運用

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1284(2025.6.9)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。保険代理店向けの内容ではなかったかもしれませんが、生保決算関係の記事ということでご容赦ください。
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国内公社債の含み損が拡大

近年の長期金利の上昇で、生命保険会社が保有する国内公社債の含み損が注目されています。
生保は超長期の保険負債のリスクヘッジを目的に、多額の超長期国債を保有しています。約3年前、2022年3月末の30年国債利回りは1%を下回っていました。当時の大手生保4社(日本、第一、住友、明治安田)の国内公社債は6.6兆円の含み益でした。その後、25年3月末には利回りが2.5%に上昇し、4社の国内公社債は8.5兆円の含み損となりました。

5月26日のブルームバーグニュースは多額の含み損について、生保は一般的に債券を満期保有で保持しているとしたうえで、
(1)債券の時価が帳簿価格よりも50%以上下落した場合は、減損処理実施の可能性が生じる、
(2)大幅な金利上昇に伴う想定外の保険解約があった際には、含み損を抱えた債券の売却による現金化を迫られるなど損失計上につながる可能性もある、
(3)含み損の拡大は運用資産の配分でリスクを取りにくくする要因にもなる、
と述べています。

私の見解を申し上げると、まず(1)はそれほど深刻ではないと考えています。金利要因のみによる価格下落であり、償還時までには必ず額面に戻るため、その債券を持ち続けるという意思を示せるのであれば減損処理は不要なはずです。
(2)は銀行窓販の貯蓄性商品などでは解約が増える可能性があり、商品・チャネルによっては確かに注意が必要です。だからといって、あまりに非現実的な前提を置いて対応するのは、かえって資産構成を歪めることになりかねません。
これらに比べると(3)は意味不明です。金利上昇によって超長期国債の価格が下がる一方で、保険負債の価値も小さくなっています。時価ベースでみれば、生保の経営体力が低下して、リスクを取りにくくなったとは考えられません。来年には各社の経済価値ベースのバランスシートが公表されるので、この記述が意味不明であることがはっきりわかると思います。

債券の入れ替えとは

同じく5月26日の日経は、「生保は債券の長期保有を前提に運用しており足元の影響は限定的」としたうえで、「運用利回りの向上のためには債券の入れ替えが必要になる」と述べています。
日経は24年12月決算発表を受けた2月にも「保有資産の入れ替えが急務となっている」と報じています。
確かに25年3月期決算では、大手4社をはじめ、国内公社債の売却損を計上した会社が目立ちました(富国、ソニー、かんぽなど)。過去に購入した低い利率の債券を売り、利率の高い債券に入れ替える取り組みとみられます。

しかし、売却損を出して債券を入れ替えると、本当に運用利回り(投資のリターン)は向上するのでしょうか。
まずは株式で考えてみましょう。昨年3万円で買ったA社の株式が2万円に下がり、1万円の含み損となってしまったので、入れ替えることにしました。具体的には含み損となったA社の株式を売却し、1万円の売却損を計上したうえで、再びA社の株式を2万円で買いました。その後、株価が3万円に上がり、1万円の含み益となりました。
さて、3万円の株式投資のリターンは、入れ替えによって向上したでしょうか。株式投資のリターンとは含み損益の増減ではなく、投資金額がいくら増えたか(減ったか)なので、入れ替えしてもしなくても、リターンは変わらない(この事例ではゼロ)とわかります。

債券でも同じです。現在、残存期間が5年の国債は、利率0.1%の国債だと価格が約95円、利率2%の国債だと価格が約104円で流通しています。いずれの債券に投資しても、5年後のリターンは同じです。つまり、残存期間が同じ債券を入れ替えて、含み損を消したとしても、そこで高まるのは利率だけで、債券投資のリターンは向上しないはずです。
それにもかかわらず、売却損を出して債券を入れ替えるのは、生保が時価ベースの運用ではなく、利息収入をターゲットとした運用を行っているからなのかもしれません。利回りは同じでも、利息収入が増えれば基礎利益を増やすことができます。
とはいえ、皆さんは時価ベースのリターンをターゲットとしない投資家に資産運用を委ねたいと思うでしょうか。
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※週末は金融学会の大会で久しぶりの東大でした。

 

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書評『日本庭園のひみつ』

今回は週刊金融財政事情(2025年5月27日号)に載った書評「一人一冊」を当ブログでも紹介します。今回は『日本庭園のひみつ-見かた・楽しみかたがわかる本』を取り上げました。以下、引用となります。

日本庭園の「つかみどころ」を示す

評者のようにマンション暮らしで庭と無縁の生活を送っていても、旅先で日本庭園を眺める機会はある。例えば京都に行くと、石庭で世界的に有名な龍安寺(りょうあんじ)や苔寺の愛称で知られる西芳寺をはじめ、美しい庭園のある寺社等がいくつもあって、帰宅後に写真を見ると庭園ばかりということも(仏像と違い、庭園は撮影禁止ではないため)。
とはいえ、いざ庭園に対峙してみると、なんとなく美しいのは分かるし、心が安らぐこともあるけれど、そもそも庭園の何をどう見たらいいのか途方に暮れるのではないだろうか。

私たちが庭園の鑑賞を難しく感じるのは、「庭園が絵画や彫刻、建築などとともに芸術の一分野」(本書「おわりに」)というだけではなく、他の芸術とは違い、「庭園ほどつかみどころのない分野はない」(同)からではないか。
日本庭園は自然の風景を再現したものなので、季節が変われば庭園も姿を変えてしまう。植物には寿命があるので、多くの場合、眺めている植栽は作庭当初のものではない。苔寺の庭園はもともと苔に覆われていなかったと聞いたことがある。枯山水(かれさんすい)の庭に描かれている砂紋も人が引いて作ったものなので、時々デザイン通りに引き直さなければ崩れてしまう。
こうした「つかみどころのない」日本庭園の世界に、本書はやさしく導いてくれる。日本庭園の歴史から始まり、庭園を構成する「池」「滝」「石組」「垣」「灯籠」などにはどのような意図があるのか(意図が分からないこともある)、「死」や「滅び」との関わりなど、超入門のガイドブックにもかかわらず、建築家でもある著書は奥深い庭園の世界に私たちを誘う。
キーとなるメッセージは、「庭とはただ単に自然を楽しみ癒される対象というよりも、むしろ日本人の精神の発祥に関わる神聖な存在」(本書「はじめに」)であろう。

近年、企業経営において美術の素養や審美眼も必要とされるが、本欄でガイドブックを紹介していいものかと若干のためらいはあった。とはいえ、庭に咲いた花が美しい、紅葉が素晴らしいというだけではなく、もう一歩踏み込んで日本庭園を鑑賞したいと思った人が最初に手に取る書籍には、やはりカラーの写真や図表が多いもののほうがいいと考えた。

なおモノクロ版となるが、同じく日本庭園の入門書として、重森千靑著『日本の10大庭園』(祥伝社)もお薦めしたい。著者の重森氏は、昭和を代表する作庭家・重森三玲の孫にあたり、自身も作庭家である。

※写真は苔寺です(2025年3月撮影)。

 

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伝えるのは難しい

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1280(2025.5.12)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
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本題に入る前にお知らせです。昨年に続き、今年もRINGの会オープンセミナーに登壇することになりました。午前中の業界展望のセッションで、慶應義塾大学教授で損保WGメンバーだった柳瀬典由さん、朝日新聞記者で著書『損保の闇 生保の裏』をはじめ、取材力に定評のある柴田秀並さんとともにパネリストを務めます。MCはRINGの会の矢島護会長です。
皆さん、6月21日に横浜で会いましょう!

リスクと保険

筆者は大学で「保険論入門」「保険論」の講義を担当しています(前期)。大教室での講義で、今年度の受講生はいずれも300名程度です。どちらの講義でも4月の段階でリスクと保険の関係を説明し、それから各論に入るという構成にしています。
GW前に確認テストを行ったところ、正答率が非常に低い問題があったので、参考としてご紹介しましょう(ちなみに9割くらいの受講生が正答となるように問題を作っているつもりです)。

「保険に加入すれば、リスクを小さくすることができる」(正誤問題)

もちろん、正解は「正しくない」です。保険はリスクファイナンス、すなわち、リスクが現実のものとなり損失が発生した場合の経済的な備えをあらかじめ準備しておく手段の1つなので、当然ながら、保険に加入したからといってリスクは小さくなりません。
講義では「生命保険(死亡保険)に入ったら死亡しなくなる、火災保険に入ったら火事がなくなる、といったことはない(だから保険はリスクを小さくする方法ではない)」などと説明をしているのですが、正答率は5割程度でした。どうも伝え方がうまくなかったようです。

「保険はリスク回避の代表的な方法である」(正誤問題)

この問題も正答率が6割程度でした(正解は「正しくない」)。講義では「保険はリスク移転の代表的な方法」と伝えていて、「回避」「軽減」「保有」とともにリスクへの対応方法を解説しているのですが、この問題は毎年正答率が低いです。
両者に共通しているのは「リスク」についての理解の低さだと思います。リスクを損失としてとらえていて、保険に入れば損失がなくなる(あるいは小さくなる)と直感的に判断してしまうのでしょう。

それにしても、人に何かを正しく伝えるというのは難しいものです。さらに、伝えた知識をもとに行動してもらうとなると、ますます難易度が上がります。保険営業の世界にも通じる話ではありませんか。

目線をどこに置くか

他方で高等教育の現場では、別の悩みもあります。
確認テストで9割くらいの正答率を想定しているということは、結果はともかく、大多数の受講生に対し、保険の正しい知識を身につけてもらおうとしていることになります。実際のところ、単位を9割もの学生に出している「楽単」では全くないのですが、受講生に求める水準としてそれでいいのかという悩みです。
9割が理解できるような内容であれば、わざわざ大学で学ばなくても(その気になれば)自分で身につけることができるでしょう。義務教育ではないのですから、できる学生、やる気のある学生をガンガン鍛えるのが高等教育に求められていることではないかと。
とはいえ、大教室で大半の学生が理解できない講義をするのが正しい姿とも思えず、講義のなかで、できる学生にも刺さる工夫をしていくしかないのでしょうね。
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※GW後半の横浜・山下公園です。

 

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「挑む相互会社の壁」

4月18日にアップされたNIKKEI Financial「ホケンの変革 日本生命保険 挑む相互会社の壁(上)/相互会社で進める大型買収、企業統治改革は道半ば」にコメントが載りました。
有料媒体なので私に関する部分だけ引用します。詳しくはNIKKEI Financialをご覧ください。
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24年5月、韓国で開いた韓国保険学会。元著名保険アナリストで現在は福岡大学で教鞭(きょうべん)をとる植村信保教授は日本の保険会社のM&Aについて出席者から問われると「相互会社が海外の保険会社を買収し、グループとして非社員契約を増やすのは、契約者が会社の構成員(社員)となっている相互会社のあり方として適切なのかという疑問が生じる」と指摘した。
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「元著名保険アナリスト」というのは「元R&Iの格付アナリスト」の誤りではないかと思いますが(笑)、こちらのブログ(日本の保険会社による海外M&A)で書いた内容を参考にしていただいたものです(取材も受けました)。

そもそもは「(日本の保険会社による)海外M&Aの目的は純投資なのか、それとも事業による利益獲得をねらったものか」という質問に対し、純投資ではなく、事業による利益獲得をねらったものと答えたうえで、相互会社についても触れました。引用していただいた内容に続き、「株主と相互会社の社員では、経営陣への期待(リスクのとり方など)も異なると考えるのが妥当」とも述べています。

なお、ブログでは相互会社のガバナンスに関する記事を何度か書いていますので、ご参考まで。

相互会社の保険会社買収(2015.9.13)
週刊ダイヤモンドの保険特集(2018.4.28)
2020年の生保総代会(2020.7.26)
「質疑ゼロの生保総代会」(2023.7.17)

※キャンパスに学生が戻ってきました。

 

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ESR規制の原点に立ち返る

2024年11月に開催された日本アクチュアリー会・年次大会の資料が一部公表となり、以前こちらのブログで紹介した、ERM委員会のパネルディスカッション「経済価値ベースのソルベンシー規制の原点に立ち返る―新規制を有意義なものにするために―(PDF)」の様子をご覧いただけるようになりました。

*念のためこちら(アクチュアリー会サイト)も貼っておきます。

このセッションは、前半がパネリストによる報告(資料あり)、後半がディスカッションという構成でした。
当日を思い出してみると、質問をオンラインで受け付けることになっていて、手元のタブレットに質問がどんどん上がってくるのが進行役(私)にとってプレッシャーでした。後半のディスカッションのなかで多少は取り入れたのですが、想定外の質問が多くなるとパネリストの皆さんに負担をかけてしまう(そうでなくても私からの無茶振りがありましたので…)だけでなく、私たちとして伝えたかったメッセージがうまく届かなくなってしまうかもしれないので、そのバランスに苦心しました。
それでもパネリストの皆さんのおかげで、エッジの効いたセッションになったのではないかと思います。

会員向けのパネルディスカッションなので、多少わかりにくいところがあるかもしれません。ただ、すでに2025年度に入り、新たなソルベンシー規制が導入されつつあるという状況ですので、特に保険業界の皆さんにはぜひご一読をおすすめします。

※西鉄のレストランカーです。

 

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MSIとADIの合併

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1276(2025.4.7)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
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合併による経営効率改善へ

MS&ADグループの中核会社である三井住友海上火災保険(MSI)とあいおいニッセイ同和損害保険(ADI)が2027年4月をめどに合併する準備に入りました。
読者の皆さんには釈迦に説法かもしれませんが、MSIは旧財閥系の大手損保どうしが対等に近い形で合併した会社である一方、ADIはパーソナル分野に強い大東京火災がトヨタと親密な千代田火災、日本生命グループとなっていたニッセイ同和損保と一緒になった会社です。同じグループとなって久しいものの、この15年間に両社の融合が進んだようには見えません。国内損保事業の構造的な問題が明らかになるなかで、両社を併存させるメリット(MS&ADの船曳真一郎社長は昨年9月のIR説明会で「代理店シェア最大化のため」と説明)よりも、合併で1つにしたほうがよりメリットが大きいという判断をしたのでしょう。
そう考えると、「それぞれの強みを維持・結集し、さらに拡大するために強力に取組みを進める」(ニュースリリースより引用)というのは、合併によるマイナス効果を何とか最小限にとどめたいという意味であり、1プラットフォーム戦略など、これまで進めてきた一体運営ではさらなる効率化には限界があるので、合併で経営効率の改善を一気に図り、「経営資源の全体最適を実現」(同)させるということだと理解できます。

持株会社によるガバナンス強化

筆者は、国内損保事業の効率改善以上に重要なのは、持株会社によるガバナンス発揮ではないかと考えています。
これまで様々なメディアで、企業向け保険料の事前調整問題と、旧ビックモーターによる保険金の不正請求事件は、損保業界が護送船団行政の時代に形成したコンダクト(企業行動)を、自由化後も温存してきたことが問題の本質であると指摘してきました。情報漏えい問題も同じです。不適切なコンダクトを温存できた要因は、各社がビジネスモデルの見直しではなく、業界再編によって競争相手を減らす戦略を選んだことが大きいと見ていますが、再編で設立された持株会社のガバナンス機能が弱く、グループ管理のダブルスタンダードがまかり通ってきたことも挙げられます。
持株会社は、新たに買収した海外事業の経営者には、当然ながら投資(すなわちリスクテイク)に見合ったリターンを求めるのに対し、国内自然災害と政策保有株式という2大リスクを抱えているにもかかわらず、こうしたリスクベース経営ではなく、規模やシェアを追求する国内損保事業をなかなか変えようとはしませんでした。会社価値の拡大を求める株主からすると、持株会社がむしろ盾(たて)の役割を果たしてきたことになります。

お気付きの通り、これはMS&ADグループだけではなく、同じく中核損保で問題が発覚した他の大手2グループにも共通した課題です。とはいえ、MS&ADでは傘下に中核損保が2つあることで、持株会社が監督・指導よりも、調整や対外説明に労力を費やしていた可能性があります。
筆者は、合併で国内トップシェアの損保が誕生すると誇るのではなく、中核損保の合併を契機に、持株会社のガバナンスを十分に発揮できる体制づくりができるかどうかが重要だと考えています。

※今年は天守台から桜を眺めることができました。福岡にて。

 

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