伝えるのは難しい

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1280(2025.5.12)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
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本題に入る前にお知らせです。昨年に続き、今年もRINGの会オープンセミナーに登壇することになりました。午前中の業界展望のセッションで、慶應義塾大学教授で損保WGメンバーだった柳瀬典由さん、朝日新聞記者で著書『損保の闇 生保の裏』をはじめ、取材力に定評のある柴田秀並さんとともにパネリストを務めます。MCはRINGの会の矢島護会長です。
皆さん、6月21日に横浜で会いましょう!

リスクと保険

筆者は大学で「保険論入門」「保険論」の講義を担当しています(前期)。大教室での講義で、今年度の受講生はいずれも300名程度です。どちらの講義でも4月の段階でリスクと保険の関係を説明し、それから各論に入るという構成にしています。
GW前に確認テストを行ったところ、正答率が非常に低い問題があったので、参考としてご紹介しましょう(ちなみに9割くらいの受講生が正答となるように問題を作っているつもりです)。

「保険に加入すれば、リスクを小さくすることができる」(正誤問題)

もちろん、正解は「正しくない」です。保険はリスクファイナンス、すなわち、リスクが現実のものとなり損失が発生した場合の経済的な備えをあらかじめ準備しておく手段の1つなので、当然ながら、保険に加入したからといってリスクは小さくなりません。
講義では「生命保険(死亡保険)に入ったら死亡しなくなる、火災保険に入ったら火事がなくなる、といったことはない(だから保険はリスクを小さくする方法ではない)」などと説明をしているのですが、正答率は5割程度でした。どうも伝え方がうまくなかったようです。

「保険はリスク回避の代表的な方法である」(正誤問題)

この問題も正答率が6割程度でした(正解は「正しくない」)。講義では「保険はリスク移転の代表的な方法」と伝えていて、「回避」「軽減」「保有」とともにリスクへの対応方法を解説しているのですが、この問題は毎年正答率が低いです。
両者に共通しているのは「リスク」についての理解の低さだと思います。リスクを損失としてとらえていて、保険に入れば損失がなくなる(あるいは小さくなる)と直感的に判断してしまうのでしょう。

それにしても、人に何かを正しく伝えるというのは難しいものです。さらに、伝えた知識をもとに行動してもらうとなると、ますます難易度が上がります。保険営業の世界にも通じる話ではありませんか。

目線をどこに置くか

他方で高等教育の現場では、別の悩みもあります。
確認テストで9割くらいの正答率を想定しているということは、結果はともかく、大多数の受講生に対し、保険の正しい知識を身につけてもらおうとしていることになります。実際のところ、単位を9割もの学生に出している「楽単」では全くないのですが、受講生に求める水準としてそれでいいのかという悩みです。
9割が理解できるような内容であれば、わざわざ大学で学ばなくても(その気になれば)自分で身につけることができるでしょう。義務教育ではないのですから、できる学生、やる気のある学生をガンガン鍛えるのが高等教育に求められていることではないかと。
とはいえ、大教室で大半の学生が理解できない講義をするのが正しい姿とも思えず、講義のなかで、できる学生にも刺さる工夫をしていくしかないのでしょうね。
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※GW後半の横浜・山下公園です。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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