台北でのカンファレンス

先週末の保険学会に続き、今週は台湾の保険安定基金(TIGF、日本の保険契約者保護基金に相当)が主催した保険ERMカンファレンスに報告者およびパネリストとして参加しました。
このカンファレンスは今回が14回目とのことで、私は過去にも登壇したことがあります。今回は規制・監督当局である金融監督管理委員会が後援したうえ、テーマが「新たなソルベンシー規制およびIFRSの導入」だったためか、過去よりも出席者が多かったように思います。

台湾では2026年からTW-ICSと呼ばれる経済価値ベースのソルベンシー規制(IAISのICSに準拠)と、国際財務報告基準IFRSの第17号(保険契約会計)が同時に導入される予定です。IFRSは強制適用で、上場・非上場に関わらず、すべての保険会社が対象となります。もっとも、TW-ICSのほうはリスク評価に関する移行措置が取られ、フル適用まで最長15年の猶予が設けられています。
カンファレンスでは主催者のあいさつや写真撮影(!)のあと、BNPパリバグループのアクチュアリーがEUソルベンシーIIの経験を話し、続いて韓国アクチュアリー会のJUN会長が韓国でのK-ICS導入の経験を紹介したあと、私が日本における経済価値ベースのソルベンシー規制導入について説明しました(もう1人、シンガポールからの登壇者が医療保険制度について報告)。

東アジアではこのところIAISのICSに準拠したソルベンシー規制を導入する動きが進んでいます。韓国では2023年のIFRS強制適用と同じタイミングでICSに準拠したK-ICSの適用が始まり(ご参考:2023年9月17日のブログ)、2026年には日本と台湾が続きます(日本では会計はそのまま)。
韓国では導入後に金利水準が下がり、K-ICSに低下圧力がかかった2024年から25年にかけて、ハイブリット調達を行う保険会社が急増したそうです。また、収益性の高い長期の保障性商品に注力する動き(=CSMの増加が期待できるという観点)も見られるとのことでした。

もっとも、韓国や台湾での過去の調査を踏まえると、日本以上に監督当局の影響力が強く、一部の大手を除き、保険会社のリスク管理がソルベンシー規制に依存しがちだという印象があります
(東南アジアではより強くそのように感じますが)。
日本はそうならないと期待しつつ、引き続きアジア各国の動向にも注目していくつもりです。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

新たなソルベンシー規制への期待

8月4日のブログでご案内したとおり、日本保険学会の全国大会で「共通論題・新たなソルベンシー規制への期待と今後の展望」の座長(兼報告者)を無事努めることができました。全国大会での座長は初めてでしたが、いかがでしたでしょうか?

当日は、まず金融庁の伊藤さんが「新たなソルベンシー規制導入のねらい」、次に会計学者の上野先生が「ESR規制とディスクロージャー:保険規制と企業会計の整合性」、金融庁OBで金融規制に詳しい湯山先生が「保険セクターとプロシクリカリティ」を、最後に私が「新規制は保険会社の経営危機を回避できるのか」をそれぞれ20分間報告したうえで、登壇者どうしのパネルディスカッションを行いました。
詳しくは後日の『保険学雑誌』をご覧いただくとして、パネルディスカッションでは私から報告内容を確認させていただいたうえで、学識者から伊藤さんへの質問、私の報告(経営危機を回避できるのか)をたたき台にした議論、残された課題についての議論という流れで進めました。

実務の皆さんはおそらく半年後の規制導入が迫っているなかで、現実的な準備を進めていることかと思います。そのような時期に、「規制上のESRは万能ではない(=第2の柱、第3の柱が重要)」「新規制導入がゴールではない」「銀行規制では流動性リスク対応は第2の柱」「金融庁のリソース不足は大きな課題」「監督会計の見直しを検討すべき」といった大きな議論を学会メンバーだけではなく、金融庁の伊藤さんとともにできたのは、意義があったのではないかと自負しています。
登壇していただいた皆さま、ありがとうございました。

【おまけ】
拙著『保険ビジネス』の一部がこちら(地震、台風…自然災害で多額の保険金を支払っても、保険会社が破綻しない理由)に掲載されています。ご参考まで。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

軍艦島に上陸

週末(10月19日)開催のRIS(全国学生保険学ゼミナール)九州ブロック報告会(中間報告会)に続き、次の週末は日本保険学会の全国大会(日曜日に登壇します)、その後も台北でのカンファレンスやJARIP研究発表大会、日本アクチュアリー会の年次大会など、大きな行事が続く季節となりました。その合間を縫って、ちゃっかり念願の軍艦島上陸を果たしました
(前回2019年7月は台風の影響で上陸できませんでした)。

軍艦島は通称で、正式には端島(はしま)と言い、長崎港から約18kmの海上にあります。ツアーでいただいた資料によると、19世紀初頭に石炭が発見され、1890年(明治23年)に三菱が経営権を取得。海底炭鉱の島として日本の近代化を支えたそうです。
出炭量が増えるにつれて人口も増え、1916年(大正5年)には日本初の鉄筋コンクリート造の高層アパート(30号アパート)が完成し、その後も集合住宅が次々にできました。1960年(昭和35年)ころには5000人以上の人々が暮らしていたというから驚きです。「人口密度が高く、顔見知りが多かったため、犯罪が少なかった」とか、「緑が少なかったので屋上庭園を造ったり、隣りの島に行って土に触れたりした」といったエピソードもうかがいました。

※トップの写真は端島小中学校
 こちら(下)は大正5年の30号アパート

しかし、エネルギー革命で石炭の需要が減り、炭鉱は1974年(昭和49年)1月に閉山。3か月後には無人島となり、そこから約50年がたっています。2015年に世界文化遺産に登録されたものの、風雨にさらされ続けた建物はボロボロで、ガイド氏によると「毎年形を変えている(=崩壊が進んでいる)」とのことでした。なかでも大正5年の30号アパートは、いつ崩れてもおかしくない状態なのだそうです。
そのため、島に上陸できるのはツアーに参加した人だけで、歩ける場所も南西の限られた場所だけでした。

先週(10月15日)清水建設が、端島炭鉱の保存・整備・公開活用のため長崎市と連携協定を結んだというニュースがありました。第1弾として研究拠点を設置し、その後具体的な取り組みを詰めていくそうです。
しかし、これだけ劣化した建物をどうやって修復していくのか、その手法は確立されていないようです。さらに言えば、どの状態に修復・復元すべきなのかという難問があります。建設当初の状態にするというのはないとしても、廃墟の状態を維持すべきなのか、あるいは人々が生活していたころの姿を復元すべきなのか。私たちが軍艦島の価値をどこに見出すのかによって答えは変わってきそうです。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

自然災害と車両保険

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1300(2025.10.13)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。なんと、1300号なのですね!2000年8月が1号なので、26年めということでしょうか。おめでとうございます。
————————————

地下駐車場での冠水

先月、三重県四日市市の地下駐車場が大雨で浸水し、200台以上の車が冠水するという事故がありました。本件では防水設備の不備により施設管理者の責任が問われるかもしれませんが、原則としては駐車場で冠水した車の修理は車の所有者が行うことになっています。
このようなときに役に立つのが車両保険です。しかし、損害保険料率算出機構によると、23年度末の車両保険の加入率は約47%と、対人賠償責任保険や対物賠償責任保険(いずれも約75%)に比べると低い水準です。
もっとも、約47%というのはややミスリードで、自家用普通乗用車、自家用小型乗用車、軽四輪乗用車だけでみれば、加入率は約55%です。これに自動車共済を加えると、加入率は約6割とみられます。

保険料の負担

とはいえ、自家用の3車種でも約4割が車両保険に加入していないということになります。もちろん、なかには古い車に乗っていて、十分な保険金額を設定できないというケースもありそうですが、車両保険に加入すると毎年の保険料がかなり高くなってしまうというのが、加入を見送る最大の理由ではないかと考えています。あくまでイメージですが、車両保険を付けなければ年間保険料が3万円、車両保険を付けると6万円、といったレベルでの違いがありますよね。
車両保険の保険料が大きくなりがちなのは、自動車保険のなかでも支払保険金の総額が大きいからです。同じく料率算出機構のデータによると、23年度の支払保険金のうち車両保険が全体の4割以上を占め、最大種目となっています。対人賠償責任保険は1件当たりの支払保険金が約95万円と大きい(車両保険は約40万円)のですが、支払件数が少ないので、支払保険金の総額は全体の3割強にとどまります。

自動車ユーザーにとって、毎年の保険料は大きな関心事項です。例えば、ソニー損害保険が8月に公表した全国カーライフ実態調査(2025年)によると、車の諸経費で負担に感じるものとして、「ガソリン代・燃料代」「自動車税」「車検・点検費」に次いで「自動車保険料」が高い割合で挙がっていました。
また、チューリッヒ保険が23年に公表した「自動車保険の見直しに関する実態調査」でも、ダイレクト型で自動車保険に加入したという回答者の割合がやや高い(35%)ことを踏まえても、現在加入している自動車保険で重視したポイントとして「保険料の安さ」が「事故対応」とともに上位に挙がっていて、保険料への関心の強さがわかります。

風水災害への備えとしての車両保険

ただし、車両保険が大雨による冠水など、地震などを除いた自然災害でも使えるという情報は自動車ユーザーにどの程度浸透しているのでしょうか。ネットで話題になったように、「自賠責保険は補償の対象外」という報道がなされるなど、自賠責保険と任意の自動車保険のちがいも常識ではなさそうなので、車両保険が交通事故だけではなく、一般的には風水災害による損害でも補償対象となると知っているユーザーは意外に少ないのではないでしょうか(あくまで個人の印象ですが)。
9月17日の日本損害保険協会によるニュースリリースによると、8月上旬の低気圧・前線による大雨での保険金支払額は約323億円で、このうち130億円が自動車保険(車両保険)だったそうです。風水災害への対応というとまずは火災保険ですが、車両保険も役に立っているということを保険業界はもっとアピールしてもいいのかもしれません。
————————————
※懐かしのブルートレイン!門司港にて。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

日銀短観のグラフ

日本銀行の全国企業短期経済観測調査、いわゆる日銀短観の業況判断DIは、日本の景気動向をつかむうえで最も注目されている指標の1つです。調査は四半期ごとに行われ、10月1日に直近(2025年9月)の調査結果が公表されています。
ニュースでも大きく取り上げられるのですが、たまたま目にしたNHK夜7時のニュースでは、このようなグラフを使って説明していました。

このグラフを見ると、先行きの悪化が心配になりますよね(特に非製造業)。景気後退が近いのではないかと思ってしまいます。
しかし、グラフをよくよく見ると、非製造業の縦軸は25~35ポイントなので、下がるといっても製造業をはるかに上回る水準です。製造業のものを含め、こういうグラフは作ってはいけない典型的な例ではないでしょうか。

参考までに、日刊工業新聞の日銀短観の記事では、次のようなグラフを掲載していました。多少スケールを修正しているとはいえ、これならミスリードはないでしょう。
企業は先行きを警戒しているものの、景気の基調は底堅いと読むのが妥当と言えそうです。

「こういうグラフは作ってはいけない」という事例は残念ながらメディアで時々見かけます。
作り手に何らかの意図があるのかどうかはわかりませんが、私たちはだまされないように気をつけなければなりませんね。

※この週末は横浜・大倉山のお祭りでした。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

書評『中華料理と日本人』

週刊金融財政事情(2025年9月23日号)に載った書評「一人一冊」を当ブログでも紹介します。今回は『中華料理と日本人--帝国主義から懐かしの味への100年史』を取り上げました。
振り返ってみると、前回(2025年5月)は『日本庭園のひみつ』、前々回(2025年1月)が『日本の歴史的建造物』、2024年9月が『Z世代化する社会』、2024年6月が『「モノ言う株主」の株式市場原論』、2024年2月が『財閥のマネジメント史』でした。このところ経済・金融以外が目立ちますが、評者の個性ということでご容赦ください。

以下、引用となります。

日本の中華料理の意外な歴史をたどる

先日イスタンブールに滞在し、トルコ料理を味わう機会があった。トルコ料理はフランス料理、中華料理とともに世界三大料理の一つに挙げられることが多い。日本でも知られるケバブはもともと中央アジアの肉の串焼きで、垂直な串に肉を重ねて焼くドネルケバブの他にもさまざまな種類がある。ギリシャ料理のような、茄子やトマト、ピーマンにオリーブオイルを使った料理も多く、ヨーグルトを多用し、ピラフなど米料理もよく食べられている。
これらの料理には、現在のトルコを中心にアジア、アフリカ、ヨーロッパにまたがる広大な領土を支配した、かつてのオスマン帝国の存在が関係していると考えるのが妥当であろう。

同じようなことが日本における中華料理にも言えるというのが本書の主題である。私たちがイメージしやすい中華料理はたいてい日本式のものであり、餃子やシュウマイ、ラーメンなどは、もはや実質的に日本料理となっている。
例えば、餃子は満州在住の日本人に親しまれ、第二次世界大戦後に満州からの引揚者が主に焼き餃子を提供することで、日本で本格的に普及した。また、北海道の郷土料理とされるジンギスカン料理も、もともと日本の中華料理の一つだった。日本が大陸で勢力を広げていた時期の北京で生まれ、1932年に建国された満州国の名物料理とされ、やがて日本でも広まった。

日本と中国の交流には長い歴史があり、江戸時代の長崎では中国料理をベースにした卓袱(しっぽく)料理が誕生している。ところが、日本の大都市で中華料理が身近な食べ物になったのは意外にも新しく、1920年頃からとのこと。関東大震災後の東京では、中華料理がおいしくて栄養のある料理として受け入れられ、中華料理店や中華料理を兼業する洋食店が増えたという。その後、料理ごとにさまざまな経緯があって、中華料理が日本食の一部へと変わっていったそうだ。

植民地として支配した地域の料理が本国に伝わり、帝国主義の影響下で普及していくという、世界史的な考察は非常に興味深い。たしかに20年頃の日本は台湾、朝鮮半島を支配し、さらには中国東北地方にも進出する植民地帝国だった。英国やフランス、オランダなど当時の欧州列強と同じ現象が日本でも見られたということになる。
ちなみに「カレー」という言葉はイギリス人がインド料理の総称として用いたもので、イギリスからのカレー粉を通じて日本でも広まったとされる。

※写真は肥前浜(佐賀県)の酒蔵通りです。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

メディアの利用時間と信頼度

9月10日からPIVOTというビジネス映像メディアで「いま知っておきたい生命保険・損害保険」「保険ビジネスの未来」という動画が同社のアプリまたはYouTubeで配信されています。
自分ではSNSに流れてくる動画などを観る習慣がなく、拙著『保険ビジネス』のプロモーションとして、果たしてこの動画がどれくらい広がっているの見当もつきません。ただ、複数の同僚の先生に声をかけていただいたので、もしかしたら意外に観られているのかもしれませんね。

以前のブログで紹介したように、総務省の情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査によると、2020年には平日のネット利用時間がテレビ(リアルタイム)視聴時間を初めて上回り、40代までは「テレビ」<「ネット」となりました。その後、2022年調査では休日もネットがテレビを上回り、直近の2024年調査では50代も平日は「テレビ」<「ネット」となっています。
しかも、2020年まではテレビの視聴時間は平日、休日ともに概ね横ばいだったのですが、それ以降は視聴時間が年々減っているようです。

他方で、各メディアの信頼度は直近調査で新聞が59.9%、テレビが58.2%、ネットが27.0%となっていて、30代と70代はテレビがトップ、それ以外は新聞がトップです。10代から30代の新聞閲読時間はゼロに近いのですが、そこそこ信頼されてはいると。ただし、2020年調査では新聞が66.0%、テレビが61.6%だったので、信頼度は徐々に下がっています。
もっとも、新聞やテレビの信頼度が下がったからといって、ネットの信頼度が上がったわけではありません(2020年は29.9%でした)。人々は信頼できないかもしれないと思いつつ、ネットへの依存を高めていることになりますね。

※福岡・百道(ももち)浜のビーチです。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

保険会社の名前

報道によると、2027年4月に合併する三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の新会社の名前は「三井住友海上あいおい損害保険」となるそうですね。さらに、グループを統括する持株会社MS&ADインシュアランスグループホールディングスの名前も「三井住友海上グループ」に変更するとのこと。報道が正しければ、確かに持株会社のほうは2010年に「MS&AD」としたときには「ん?」という印象でしたが、それでも15年たつので、よく決断したと思います。
ちなみに会社は9月12日付けで「現時点で決定している事実はありません」としています。

拙著『保険ビジネス』のコラムで取り上げたとおり、保険業法の規定により、生命保険会社の名前には「生命保険」、損害保険会社の名前には「火災保険」「海上保険」「傷害保険」「自動車保険」「再保険」「損害保険」のどれかが必ず入っていなければなりません(外国保険業者を除く)。保険会社が合併すると、この条件を守ったうえで、新たな名前を考えることになります。
これまでの合併事例を見ると、いずれか片方の名前がそのまま使われたケースは吸収合併の時くらいしかなく、両社の名前が何らかの形で残っているケースが多いようです。かつては「損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険」のように、非常に長い名前となってしまった会社もありました。

もっとも、同社は現在「SOMPOひまわり生命保険」ですし、グループの中核損保は「損害保険ジャパン」、持株会社の名前も「SOMPOホールディングス」なので、「安田」「日産」「大成」「日本」「興亜」「NK」などは入っていません。ただし、グループのブランドとしては「SOMPO」と「損保ジャパン」の両方ということになるのでしょうか。
その意味では、東京海上ホールディングスは当初の「ミレアホールディングス」を2008年に改め、ブランドとしては「東京海上」に絞っていますし、(報道のとおりであれば)持株会社の社名を「三井住友海上」にするというのもグループのブランド戦略としては理解できます。

上場する保険持株会社で中核会社の社名がそのまま使われていない事例としては「T&Dホールディングス」もあります。中核生保である太陽生命の「T」と大同生命の「D」ではなく、「Try」と「Discover」の頭文字をとったものです。「T&D」を使うようになってから早くも四半世紀が過ぎましたが、太陽生命と大同生命の社名はそのままなので、資本市場ではともかく、消費者へのブランド浸透という点ではなかなか難しかったのではないでしょうか。

※イスタンブールは猫の町でした!

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

著者が語る『保険ビジネス』

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1296(2025.9.8)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。今回は拙著『保険ビジネス』の裏話?を書かせていただきました。
————————————
本誌でもご紹介していただきましたように、このたび『保険ビジネス』を刊行しました(クロスメディア・パブリッシングの「業界ビジネス」シリーズの1つです)。副題に「契約者から専門家まで楽しく読める保険の教養」とあるように、身近な存在にもかかわらず、わかりにくいとされることの多い保険の世界をいろいろな角度からひも解いてみました。
せっかくの機会ですので、今回は本書の裏話のようなことを書かせていただきます。

責任準備金を理解してほしい

第1章では「素朴な疑問」をテーマにしました。いろいろ検討した結果、最終的には「生命保険と損害保険の違い」「そもそも保険には入っておいたほうがいいのか」「保険会社はなぜ一等地に立派なビルを持っているのか」など6つを取り上げました。
もっとも、他の章でも「素朴な疑問」にいくつも答えています。例えば、金融担当の記者さんからも時々質問されるのが、「高齢化が進むと保険金の支払いが増えるので、生命保険会社の経営が厳しくなるのではないか?」というものです。世間では、自分の支払った保険料がそのまま誰かの保険金支払いのために使われていると考えがちなのですね。ですから「責任準備金」の存在を示し、生命保険は積立方式で運営されていることをできるだけ丁寧に説明しました。

歴史の一コマとなる前に

執筆して改めて感じたのは、自分にとって身近だった出来事も、どんどん過去の話となり、歴史の一コマとなっていくということです。
例えば第2章の「消えてしまった人気商品」では、80年代後半のバブル期に人気を集めた一時払養老保険のほか、00年代に銀行が積極的に販売した、元本保証のある変額個人年金保険を紹介しました。消えてしまった理由は、日本ではリーマンショックと呼ばれることの多い、グローバル金融危機の発生によって元本保証が難しくなったためです。第5章で取り上げた保険会社の不適切な保険金不払いや特約などの支払漏れ、保険料の取り過ぎが社会問題となったのも00年代半ばからです。いずれも約20年が過ぎ、当時を知らない業界人が多くを占めるようになりました。おそらく新型コロナ感染症の経験も、さらには近年の「保険金不正請求事件」「保険料カルテル問題」もあっという間に過去のものとなっていくはずです。
しかし、現在の保険ビジネスは、こうした過去の出来事を踏まえ、様々な制度改正などの試行錯誤を経て、構築されてきました。つまり、若い人が現在を理解するには過去を学ばなければなりませんし、過去を知っている人は歴史の一コマとして忘れられる前に、当時起きたことを若い人に積極的に伝える必要があるのだと思います。

判断するための軸を提供

実のところ本書には秘かな裏テーマがあります。それは、極論をはじめ、一見わかりやすい情報に振り回されず、自分自身で判断するにはどうしたらいいかというものです。
保険に限らず、物事を自分で判断するには、自分で考えろと言われても困ってしまうだけで、「判断するための軸」が必要です。保険の場合、自分の抱えているリスクを知り、自分にとってそれがどの程度重要なのかを考えるというのが「判断するための軸」になります。保険そのものの知識があっても、軸がずれていたら正しい判断はできません。本書では、第1章の「そもそも保険には入っておいたほうがいいのか」や、第3章の「保険と貯蓄の考え方」「民間の医療保険とは何か」など、いろいろなところで具体的にお示ししたつもりです。
自立が必要なのは、いびつな取引慣行にどっぷり漬かってきた保険ビジネス関係者だけではありません。保険の利用者は一方的に保護される存在というのでは、市場はいつまでたっても成熟しないでしょう。
————————————
※写真はトルコの古都ブルサ郊外の村、ジュマルクズクです。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

イスタンブールに滞在

金融庁の組織再編や行政方針についてコメントすべきところですが、実は海外遠征でトルコ・イスタンブールに来ています。
こちらも最高気温は30度くらいありますが、東京や福岡に比べればかなり過ごしやすいです。

西洋史学科出身の私にとって、イスタンブールは特別なところです。ローマ帝国の新たな首都となった4世紀から、20世紀になって第一次世界大戦で敗北し、ケマル・パシャの活躍でトルコ共和国となり、首都をアンカラに譲るまでの間、2つの世界帝国(ローマ帝国・ビザンティン帝国とオスマン帝国)の都として栄えた歴史を持っています。このため、アヤソフィアのような有名な建築物だけでなく、どこを歩いても歴史的なエピソードに事欠きません。

世界帝国の都には様々な民族が住んでいて、その名残が残っています。
例えばこの写真の寺院は一見するとキリスト教会ですが、アラップ・ジャーミィ(アラブ人のモスク)です。丸いドームではなく尖塔のあるモスクは珍しく、もともとカトリック教会だったものを、15世紀にオスマン帝国になってからモスクに転用したそうです。なぜアラブ人かというと、レコンキスタの時代にイベリア半島を追われたアラブ人がこのあたりに住むようになったからとのことで、スケールの大きい話です。

ロンドンに次いで世界で2番目に古い地下鉄ができたのも、国際都市ならではの背景がありました。地下鉄といってもケーブルカーで、1875年に開業しました。歴史的建造物が数多く残る旧市街から橋を渡って新市街に行くと、建物のなかに乗り場があります。
イスタンブールの海沿いは平地が少なく、丘を登った尾根のうえに町が広がっています。この時代にはヨーロッパの列強が進出し、イスタンブールにも多くのヨーロッパ人が来るようになったのですが、港から高台に上がるのは大変です。そこで、フランス人技術者が地下鉄を発案し、イギリスの資金と技術協力で実現させました。つまり、このケーブルカーは地元住民のためではなく、海外から訪れる旅行客のために作られたものなのですね。21世紀の旅行者である私もありがたく利用させてもらいました。

ということで、今回はイスタンブールからでした。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。