生保の国内公社債運用

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1284(2025.6.9)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。保険代理店向けの内容ではなかったかもしれませんが、生保決算関係の記事ということでご容赦ください。
————————————

国内公社債の含み損が拡大

近年の長期金利の上昇で、生命保険会社が保有する国内公社債の含み損が注目されています。
生保は超長期の保険負債のリスクヘッジを目的に、多額の超長期国債を保有しています。約3年前、2022年3月末の30年国債利回りは1%を下回っていました。当時の大手生保4社(日本、第一、住友、明治安田)の国内公社債は6.6兆円の含み益でした。その後、25年3月末には利回りが2.5%に上昇し、4社の国内公社債は8.5兆円の含み損となりました。

5月26日のブルームバーグニュースは多額の含み損について、生保は一般的に債券を満期保有で保持しているとしたうえで、
(1)債券の時価が帳簿価格よりも50%以上下落した場合は、減損処理実施の可能性が生じる、
(2)大幅な金利上昇に伴う想定外の保険解約があった際には、含み損を抱えた債券の売却による現金化を迫られるなど損失計上につながる可能性もある、
(3)含み損の拡大は運用資産の配分でリスクを取りにくくする要因にもなる、
と述べています。

私の見解を申し上げると、まず(1)はそれほど深刻ではないと考えています。金利要因のみによる価格下落であり、償還時までには必ず額面に戻るため、その債券を持ち続けるという意思を示せるのであれば減損処理は不要なはずです。
(2)は銀行窓販の貯蓄性商品などでは解約が増える可能性があり、商品・チャネルによっては確かに注意が必要です。だからといって、あまりに非現実的な前提を置いて対応するのは、かえって資産構成を歪めることになりかねません。
これらに比べると(3)は意味不明です。金利上昇によって超長期国債の価格が下がる一方で、保険負債の価値も小さくなっています。時価ベースでみれば、生保の経営体力が低下して、リスクを取りにくくなったとは考えられません。来年には各社の経済価値ベースのバランスシートが公表されるので、この記述が意味不明であることがはっきりわかると思います。

債券の入れ替えとは

同じく5月26日の日経は、「生保は債券の長期保有を前提に運用しており足元の影響は限定的」としたうえで、「運用利回りの向上のためには債券の入れ替えが必要になる」と述べています。
日経は24年12月決算発表を受けた2月にも「保有資産の入れ替えが急務となっている」と報じています。
確かに25年3月期決算では、大手4社をはじめ、国内公社債の売却損を計上した会社が目立ちました(富国、ソニー、かんぽなど)。過去に購入した低い利率の債券を売り、利率の高い債券に入れ替える取り組みとみられます。

しかし、売却損を出して債券を入れ替えると、本当に運用利回り(投資のリターン)は向上するのでしょうか。
まずは株式で考えてみましょう。昨年3万円で買ったA社の株式が2万円に下がり、1万円の含み損となってしまったので、入れ替えることにしました。具体的には含み損となったA社の株式を売却し、1万円の売却損を計上したうえで、再びA社の株式を2万円で買いました。その後、株価が3万円に上がり、1万円の含み益となりました。
さて、3万円の株式投資のリターンは、入れ替えによって向上したでしょうか。株式投資のリターンとは含み損益の増減ではなく、投資金額がいくら増えたか(減ったか)なので、入れ替えしてもしなくても、リターンは変わらない(この事例ではゼロ)とわかります。

債券でも同じです。現在、残存期間が5年の国債は、利率0.1%の国債だと価格が約95円、利率2%の国債だと価格が約104円で流通しています。いずれの債券に投資しても、5年後のリターンは同じです。つまり、残存期間が同じ債券を入れ替えて、含み損を消したとしても、そこで高まるのは利率だけで、債券投資のリターンは向上しないはずです。
それにもかかわらず、売却損を出して債券を入れ替えるのは、生保が時価ベースの運用ではなく、利息収入をターゲットとした運用を行っているからなのかもしれません。利回りは同じでも、利息収入が増えれば基礎利益を増やすことができます。
とはいえ、皆さんは時価ベースのリターンをターゲットとしない投資家に資産運用を委ねたいと思うでしょうか。
————————————
※週末は金融学会の大会で久しぶりの東大でした。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

書評『日本庭園のひみつ』

今回は週刊金融財政事情(2025年5月27日号)に載った書評「一人一冊」を当ブログでも紹介します。今回は『日本庭園のひみつ-見かた・楽しみかたがわかる本』を取り上げました。以下、引用となります。

日本庭園の「つかみどころ」を示す

評者のようにマンション暮らしで庭と無縁の生活を送っていても、旅先で日本庭園を眺める機会はある。例えば京都に行くと、石庭で世界的に有名な龍安寺(りょうあんじ)や苔寺の愛称で知られる西芳寺をはじめ、美しい庭園のある寺社等がいくつもあって、帰宅後に写真を見ると庭園ばかりということも(仏像と違い、庭園は撮影禁止ではないため)。
とはいえ、いざ庭園に対峙してみると、なんとなく美しいのは分かるし、心が安らぐこともあるけれど、そもそも庭園の何をどう見たらいいのか途方に暮れるのではないだろうか。

私たちが庭園の鑑賞を難しく感じるのは、「庭園が絵画や彫刻、建築などとともに芸術の一分野」(本書「おわりに」)というだけではなく、他の芸術とは違い、「庭園ほどつかみどころのない分野はない」(同)からではないか。
日本庭園は自然の風景を再現したものなので、季節が変われば庭園も姿を変えてしまう。植物には寿命があるので、多くの場合、眺めている植栽は作庭当初のものではない。苔寺の庭園はもともと苔に覆われていなかったと聞いたことがある。枯山水(かれさんすい)の庭に描かれている砂紋も人が引いて作ったものなので、時々デザイン通りに引き直さなければ崩れてしまう。
こうした「つかみどころのない」日本庭園の世界に、本書はやさしく導いてくれる。日本庭園の歴史から始まり、庭園を構成する「池」「滝」「石組」「垣」「灯籠」などにはどのような意図があるのか(意図が分からないこともある)、「死」や「滅び」との関わりなど、超入門のガイドブックにもかかわらず、建築家でもある著書は奥深い庭園の世界に私たちを誘う。
キーとなるメッセージは、「庭とはただ単に自然を楽しみ癒される対象というよりも、むしろ日本人の精神の発祥に関わる神聖な存在」(本書「はじめに」)であろう。

近年、企業経営において美術の素養や審美眼も必要とされるが、本欄でガイドブックを紹介していいものかと若干のためらいはあった。とはいえ、庭に咲いた花が美しい、紅葉が素晴らしいというだけではなく、もう一歩踏み込んで日本庭園を鑑賞したいと思った人が最初に手に取る書籍には、やはりカラーの写真や図表が多いもののほうがいいと考えた。

なおモノクロ版となるが、同じく日本庭園の入門書として、重森千靑著『日本の10大庭園』(祥伝社)もお薦めしたい。著者の重森氏は、昭和を代表する作庭家・重森三玲の孫にあたり、自身も作庭家である。

※写真は苔寺です(2025年3月撮影)。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

2024年度損保決算から

損保大手が2年連続最高益 強まる運用頼み、5年で利益4倍」(日経)
大手損保3社 昨年度の最終利益 いずれも過去最高に」(NHK)

大手損保グループの2024年度決算は、主として政策保有株式の売却益により会計利益が過去最高となりました。
決算資料をざっと確認したところ、大手3グループの連結純利益2.1兆円に対し、国内損保の株式売却益は計1.6兆円(税引前)とのことで、売却益の影響の大きさがわかります。2025年3月末の国内株式含み益は3グループ合計で4.7兆円なので、株価と売却ペースによりますが、当面は同じような決算が続くのでしょう。

参考までに、各社の時価総合利回り(時価ベースでの運用資産全体の運用効率を示す指標)を確認したところ、いずれもマイナスでした。国内損保は2023年度とは違い、資産運用でリターンを上げられなかったということになります。

TMN △1.72%、
MSI △4.82%
ADI △2.24%
SJ  △0.49%

国内損保事業で目立ったのは、自動車保険の損害率上昇と代理店数の減少です。
後者について、このところ年3%程度の減少が続いていたのですが、昨年度は約8%もの減少です。何か統計上の特殊要因があるかもしれませんが(特にADI)、一連の損保問題と関係がある動きなのか注目したいです。

※旧朝鮮銀行本店(現在は韓国銀行貨幣博物館)です。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

過度の便宜供与

金融庁が12日に、保険金不正請求事案および保険料調整行為事案を受けた「保険会社向けの総合的な監督指針」の改正案を公表しました。ただし、保険業法の改正案が衆議院を通過したところでもありますし、これで終わりということではなく、さらなる改正も検討中という状況です。

今回の改正案では、保険会社は保険代理店等に対する過度の便宜供与を防ぐ必要があるとして、判断基準が示されました。
例えば以下のような行為も該当し得るとのことです(II-4-2-12 (1)過度の便宜供与の防止)。

(ア)保険会社の役職員が、保険代理店等から、他の保険会社の購入実績との比較を提示されるなど黙示の圧力を受けたことを背景として、自社の役職員に対し、数量等の報告やとりまとめを伴う物品の購入をあっせんする行為
(イ)保険代理店等が主催するイベント等において、保険会社の役職員等が保険業と関連性の低い役務を提供する形で参加・協力する行為
(ウ)保険代理店等が主催するイベント等において、保険会社の役職員等が休日や業務時間外に参加・協力する行為
(エ)本来は保険代理店等が負担すべき費用を保険会社が負担する行為、又は保険代理店等が自らの責任において行うべき業務に対し保険会社が役務を提供する行為
(オ)保険代理店等の求めに応じ、役務の対価としての実態がない又は保険会社若しくは保険代理店等において対価性の検証が困難な業務委託費、協賛金、商標使用料、広告費用等の金銭を拠出する行為

なお、保険代理店等には、保険代理店の役員・使用人や親会社、主要な取引先を含みます。

監督当局は保険会社に対し、過度の便宜供与の防止に係る取り組み状況について、必要に応じて報告を求める(業法128条報告徴求命令)とのことです。

他方で、保険募集人の体制整備の状況把握について、従来は「問題があると認められるとき」なのに対し、改正案では「オフサイトモニタリングを行う」「(特定保険募集人に対し)必要に応じて報告を求め、立入検査の実施を通じて把握」となっています。オフサイトモニタリングを通常業務として行うということですね。

ここでも、IMFに指摘された「金融庁のリソース不足」をどうやって解消するかという課題が見え隠れしています。

※今回は福岡大学のバラ園です。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

伝えるのは難しい

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1280(2025.5.12)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
————————————
本題に入る前にお知らせです。昨年に続き、今年もRINGの会オープンセミナーに登壇することになりました。午前中の業界展望のセッションで、慶應義塾大学教授で損保WGメンバーだった柳瀬典由さん、朝日新聞記者で著書『損保の闇 生保の裏』をはじめ、取材力に定評のある柴田秀並さんとともにパネリストを務めます。MCはRINGの会の矢島護会長です。
皆さん、6月21日に横浜で会いましょう!

リスクと保険

筆者は大学で「保険論入門」「保険論」の講義を担当しています(前期)。大教室での講義で、今年度の受講生はいずれも300名程度です。どちらの講義でも4月の段階でリスクと保険の関係を説明し、それから各論に入るという構成にしています。
GW前に確認テストを行ったところ、正答率が非常に低い問題があったので、参考としてご紹介しましょう(ちなみに9割くらいの受講生が正答となるように問題を作っているつもりです)。

「保険に加入すれば、リスクを小さくすることができる」(正誤問題)

もちろん、正解は「正しくない」です。保険はリスクファイナンス、すなわち、リスクが現実のものとなり損失が発生した場合の経済的な備えをあらかじめ準備しておく手段の1つなので、当然ながら、保険に加入したからといってリスクは小さくなりません。
講義では「生命保険(死亡保険)に入ったら死亡しなくなる、火災保険に入ったら火事がなくなる、といったことはない(だから保険はリスクを小さくする方法ではない)」などと説明をしているのですが、正答率は5割程度でした。どうも伝え方がうまくなかったようです。

「保険はリスク回避の代表的な方法である」(正誤問題)

この問題も正答率が6割程度でした(正解は「正しくない」)。講義では「保険はリスク移転の代表的な方法」と伝えていて、「回避」「軽減」「保有」とともにリスクへの対応方法を解説しているのですが、この問題は毎年正答率が低いです。
両者に共通しているのは「リスク」についての理解の低さだと思います。リスクを損失としてとらえていて、保険に入れば損失がなくなる(あるいは小さくなる)と直感的に判断してしまうのでしょう。

それにしても、人に何かを正しく伝えるというのは難しいものです。さらに、伝えた知識をもとに行動してもらうとなると、ますます難易度が上がります。保険営業の世界にも通じる話ではありませんか。

目線をどこに置くか

他方で高等教育の現場では、別の悩みもあります。
確認テストで9割くらいの正答率を想定しているということは、結果はともかく、大多数の受講生に対し、保険の正しい知識を身につけてもらおうとしていることになります。実際のところ、単位を9割もの学生に出している「楽単」では全くないのですが、受講生に求める水準としてそれでいいのかという悩みです。
9割が理解できるような内容であれば、わざわざ大学で学ばなくても(その気になれば)自分で身につけることができるでしょう。義務教育ではないのですから、できる学生、やる気のある学生をガンガン鍛えるのが高等教育に求められていることではないかと。
とはいえ、大教室で大半の学生が理解できない講義をするのが正しい姿とも思えず、講義のなかで、できる学生にも刺さる工夫をしていくしかないのでしょうね。
————————————
※GW後半の横浜・山下公園です。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

2025年度の生保運用計画

28日の日経報道で「主要生命保険、保有国債1兆円超削減へ 規制対応一巡で転換(会員限定)」とあったので、大手各社の2025年度運用計画をロイターとBloombergの記事で確認してみたところ、実際には以下の通りでした
(毎回言っていますが、どうしてメディアに説明するだけで、一般に公表しないのでしょう)。

<日本生命>
・過去の利回りが低い(価格が高い)時に購入した債券を売却し、代わりにより利回りの高い(価格の安い)債券を買うため、日本国債については簿価ベースの残高は減るものの、時価ベースで見れば残高は増える。

<第一生命>
・円債については、足元は資産と負債の規模がおおむねマッチしている状況で、年限別のキャッシュフローを踏まえた責任準備金対応債券の入れ替えが中心となり、残高はおおむね横ばいと見込む。

<住友生命>
・円債は、「償還期間10年超」の日本国債を機動的に投資することにより、数千億円規模で積み増す計画。

<明治安田生命>
・金利リスク削減と長期安定的な利配収入確保に向けて、従来通り20年債と30年債を軸とした超長期国債を中心に買い入れる。購入のペース配分は「平準買い」を基本としつつ、金利上昇局面をとらえて追加投資も検討する。ただ償還が買い入れを上回るため、残高は「昨年度の3900億円(簿価ベース)と同程度」減少するという。

<かんぽ生命>
・20年物を中心とした長期・超長期国債に幅広く、「グロスで5000億円程度」の買いを想定している。ただ保有債券の償還が1兆3000億円程度あって投資額を上回るため、残高は減少する見込み。

日本生命は時価ベースでみれば残高を増やす、第一生命は横ばい、住友生命は増加に転じるとのこと。かんぽ生命は資産規模の縮小が続くなかでの残高減少なので、方針として残高を減らすというのは実質的に明治安田生命だけのようです。

記事によると、明治安田生命は1年前(2024年4月下旬)には「平準買いを基本としつつ金利が上昇した局面では積み増す」と述べ、その半年後(2024年10月下旬)にも「金利が上がったら買いに動く」とコメントしていました。
ところがその後、金利が上がったにもかかわらず買いには動かず、「(前年度は)金利先高観により円債の買い入れを抑制」と、国内債を簿価ベースで3900億円減らしたそうです。さらに「(負債と資産のデュレーションのマッチングはほぼ終了しており)円債をどんどん積み増すのは金利リスクが高い」という記述もあり、どうも昨年のコメントとの整合がとれません。

ちなみに日本生命は、1年前は「金利上昇を待って国債買いのペースを加速させる方針」、半年前は「全体としてはやや抑制的なペースで年度を通じて投資」で、今回は「基本は平準ペースで買い入れ、市場動向次第で機動的にペースを調整していく(4月は多めに購入)」ですから、確かに金利上昇に伴って国債を多く買っているようです。
住友生命も、1年前は「金利上昇時には追加投資も検討」、半年前は「金利の上昇局面で少しまとまった金額を投入」で、今回は前述の通り「『償還期間10年超』の日本国債を機動的に投資することにより、数千億円規模で積み増す計画」です。

※ソウルのおしゃれなカフェです。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

金融システムレポート

4月23日公表の日本銀行「金融システムレポート(2025年4月号)」をざっと眺めてみました。
以下、個人的な注目点(備忘録)となりますので、全体像は日本銀行のサイトでご確認願います。

地域金融機関の預金シェアは下がり続けているのですね(40ページ)。人口減少や相続預金の移動のほか、「デジタル化が進むもとで、預金金利が高い傾向にあるインターネット専業銀行のシェアも高まっている」とのことです。

保険会社に関しては、従来通り生保の運用資産残高と評価損益、為替ヘッジ比率に関する図表・記述です。「平均ESR(経済価値ベースのソルベンシー比率)は200%以上の水準が確保されている」とは、金融庁フィールドテストのデータからの引用でしょうか?
24ページの注記に、金利上昇局面における財務の健全性について記述があり、「わが国の場合(中略)株式評価益が債券評価損を上回る資産構成となっている」「(責任準備金対応債券は)時価評価の適用対象外とすることが認められている」と、健全性と言いつつ会計しか見ていない残念なことになっています。

他方で、「金利上昇が意識されるなかで、時価評価しない満期保有目的債券を増やしたり、円債を裏付けとする貸出資産を増やす金融機関がこのところ増えている」(71~72ページ)ようなので、こちらは大丈夫なのでしょうか。
本来は「時価評価しないから大丈夫」という考えは健全ではないと、ビシッと記述してほしいところなのですが。

もう1つ注目したのは、本邦金融機関の海外プライベートファンド向けエクスポージャーというコラムです(87~88ページ)。注記に以下の記述があります。

「近年では、米国を中心に、プライベートエクイティによる生保の買収が増加するなか、本邦生保でもプライベートエクイティ傘下生保への出資・提携の事例が見られるほか、プライベートエクイティ傘下再保険(主にバミューダ拠点の再保険会社)への保険契約の移転(出再)を実施する事例も見られる。こうしたプライベートエクイティ傘下の生保・再保険会社は、流動性の低い資産への投資比率が相対的に高いこと等が指摘されている」

今後のさらなる分析に期待しましょう。

※春ですね。福岡・舞鶴公園にて。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

「挑む相互会社の壁」

4月18日にアップされたNIKKEI Financial「ホケンの変革 日本生命保険 挑む相互会社の壁(上)/相互会社で進める大型買収、企業統治改革は道半ば」にコメントが載りました。
有料媒体なので私に関する部分だけ引用します。詳しくはNIKKEI Financialをご覧ください。
————————————
24年5月、韓国で開いた韓国保険学会。元著名保険アナリストで現在は福岡大学で教鞭(きょうべん)をとる植村信保教授は日本の保険会社のM&Aについて出席者から問われると「相互会社が海外の保険会社を買収し、グループとして非社員契約を増やすのは、契約者が会社の構成員(社員)となっている相互会社のあり方として適切なのかという疑問が生じる」と指摘した。
————————————
「元著名保険アナリスト」というのは「元R&Iの格付アナリスト」の誤りではないかと思いますが(笑)、こちらのブログ(日本の保険会社による海外M&A)で書いた内容を参考にしていただいたものです(取材も受けました)。

そもそもは「(日本の保険会社による)海外M&Aの目的は純投資なのか、それとも事業による利益獲得をねらったものか」という質問に対し、純投資ではなく、事業による利益獲得をねらったものと答えたうえで、相互会社についても触れました。引用していただいた内容に続き、「株主と相互会社の社員では、経営陣への期待(リスクのとり方など)も異なると考えるのが妥当」とも述べています。

なお、ブログでは相互会社のガバナンスに関する記事を何度か書いていますので、ご参考まで。

相互会社の保険会社買収(2015.9.13)
週刊ダイヤモンドの保険特集(2018.4.28)
2020年の生保総代会(2020.7.26)
「質疑ゼロの生保総代会」(2023.7.17)

※キャンパスに学生が戻ってきました。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

ESR規制の原点に立ち返る

2024年11月に開催された日本アクチュアリー会・年次大会の資料が一部公表となり、以前こちらのブログで紹介した、ERM委員会のパネルディスカッション「経済価値ベースのソルベンシー規制の原点に立ち返る―新規制を有意義なものにするために―(PDF)」の様子をご覧いただけるようになりました。

*念のためこちら(アクチュアリー会サイト)も貼っておきます。

このセッションは、前半がパネリストによる報告(資料あり)、後半がディスカッションという構成でした。
当日を思い出してみると、質問をオンラインで受け付けることになっていて、手元のタブレットに質問がどんどん上がってくるのが進行役(私)にとってプレッシャーでした。後半のディスカッションのなかで多少は取り入れたのですが、想定外の質問が多くなるとパネリストの皆さんに負担をかけてしまう(そうでなくても私からの無茶振りがありましたので…)だけでなく、私たちとして伝えたかったメッセージがうまく届かなくなってしまうかもしれないので、そのバランスに苦心しました。
それでもパネリストの皆さんのおかげで、エッジの効いたセッションになったのではないかと思います。

会員向けのパネルディスカッションなので、多少わかりにくいところがあるかもしれません。ただ、すでに2025年度に入り、新たなソルベンシー規制が導入されつつあるという状況ですので、特に保険業界の皆さんにはぜひご一読をおすすめします。

※西鉄のレストランカーです。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。

MSIとADIの合併

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1276(2025.4.7)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
————————————

合併による経営効率改善へ

MS&ADグループの中核会社である三井住友海上火災保険(MSI)とあいおいニッセイ同和損害保険(ADI)が2027年4月をめどに合併する準備に入りました。
読者の皆さんには釈迦に説法かもしれませんが、MSIは旧財閥系の大手損保どうしが対等に近い形で合併した会社である一方、ADIはパーソナル分野に強い大東京火災がトヨタと親密な千代田火災、日本生命グループとなっていたニッセイ同和損保と一緒になった会社です。同じグループとなって久しいものの、この15年間に両社の融合が進んだようには見えません。国内損保事業の構造的な問題が明らかになるなかで、両社を併存させるメリット(MS&ADの船曳真一郎社長は昨年9月のIR説明会で「代理店シェア最大化のため」と説明)よりも、合併で1つにしたほうがよりメリットが大きいという判断をしたのでしょう。
そう考えると、「それぞれの強みを維持・結集し、さらに拡大するために強力に取組みを進める」(ニュースリリースより引用)というのは、合併によるマイナス効果を何とか最小限にとどめたいという意味であり、1プラットフォーム戦略など、これまで進めてきた一体運営ではさらなる効率化には限界があるので、合併で経営効率の改善を一気に図り、「経営資源の全体最適を実現」(同)させるということだと理解できます。

持株会社によるガバナンス強化

筆者は、国内損保事業の効率改善以上に重要なのは、持株会社によるガバナンス発揮ではないかと考えています。
これまで様々なメディアで、企業向け保険料の事前調整問題と、旧ビックモーターによる保険金の不正請求事件は、損保業界が護送船団行政の時代に形成したコンダクト(企業行動)を、自由化後も温存してきたことが問題の本質であると指摘してきました。情報漏えい問題も同じです。不適切なコンダクトを温存できた要因は、各社がビジネスモデルの見直しではなく、業界再編によって競争相手を減らす戦略を選んだことが大きいと見ていますが、再編で設立された持株会社のガバナンス機能が弱く、グループ管理のダブルスタンダードがまかり通ってきたことも挙げられます。
持株会社は、新たに買収した海外事業の経営者には、当然ながら投資(すなわちリスクテイク)に見合ったリターンを求めるのに対し、国内自然災害と政策保有株式という2大リスクを抱えているにもかかわらず、こうしたリスクベース経営ではなく、規模やシェアを追求する国内損保事業をなかなか変えようとはしませんでした。会社価値の拡大を求める株主からすると、持株会社がむしろ盾(たて)の役割を果たしてきたことになります。

お気付きの通り、これはMS&ADグループだけではなく、同じく中核損保で問題が発覚した他の大手2グループにも共通した課題です。とはいえ、MS&ADでは傘下に中核損保が2つあることで、持株会社が監督・指導よりも、調整や対外説明に労力を費やしていた可能性があります。
筆者は、合併で国内トップシェアの損保が誕生すると誇るのではなく、中核損保の合併を契機に、持株会社のガバナンスを十分に発揮できる体制づくりができるかどうかが重要だと考えています。

※今年は天守台から桜を眺めることができました。福岡にて。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

ブログを読んで面白かった方、なるほどと思った方はクリックして下さい。