企業内代理店への対応

15日に開催された金融審議会「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」(第4回)では企業内代理店のあり方について議論が行われ、資料として金融庁による企業内代理店の実態調査の結果(の一部?)が示されました。調査対象は損保大手4社の委託先のうち、収入保険料で上位300社とのことです。

・名寄せベースの代理店数:736社
・うち企業内代理店:256社
・うち旧基準適用対象:173社
・規制見直しの対象(広義):73社

特定契約比率規制を見直した場合、規模の大きい企業内代理店のうち、少なくない数の代理店が影響を受けるという結果が示されました。
金融庁はこうした数量的な把握だけではなく、取引実態を把握するため、企業内代理店やその親会社の担当者等に対してヒアリングを行ったそうです。

これらを踏まえて出てきた金融庁の考え方が、「一定の実務能力を有し、企業にとってなくてはならない保険リスクマネジメント分野に貢献している代理店もある」「企業内代理店の多様な実態を鑑みれば、当該規制を一律に適用するのは適当とは言えない」「代理店としての『自立』の確保および『保険料の割引の防止』に問題がない企業内代理店は規制の適用除外とする」だそうです。

所用につきワーキンググループでの議論を傍聴できていないのですが、納得できる考え方ではありません。
代理店としての自立というのは、保険募集を行う組織として適切かどうかという話であって、どうしてこれが特定契約比率を適用するかどうかの判断基準となるのか理解できません。自立していない代理店は企業内代理店であってもなくても、そもそも廃業させるべきでしょう。
「保険料の実質的な割引の防止」というのも同じです。保険会社から見て、代理店として対価を払うべき仕事をしているかどうかという話が、どうして規制適用の判断基準になるのでしょうか。

そもそも企業のリスクマネジメントは本来、企業自身のコストで行うものですし、リスクへの対応手段は保険だけはありません。いくら企業内代理店がその企業の(保険)リスクマネジメントに貢献しているとしても、そのことを踏まえて規制の適用除外を認めるのであれば、企業のリスクマネジメントにかかるコストを保険会社が代理店手数料という形で負担することになり、理屈に合いません。

むしろ、こうした適用除外を設けてしまうと、他の保険代理店やブローカーとの競争が妨げられてしまい、ゆがんだ市場が続いてしまうのではないかと危惧しますが、いかがでしょうか。

※先週末も東京で登壇してきました。

 

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金融庁が新たな健全性規制の法令案を公表

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1256(2024.11.11)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。主に保険流通に関わる皆さんにも知っていただきたい内容です。
アクチュアリー会の年次大会(2日目)は対面・オンラインのハイブリッド開催でしたが、予想以上に対面参加のかたが多く、パネルディスカッションが盛り上がってよかったです。
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新規制の導入が秒読み段階に

金融庁の動向と言えば、保険流通に関わる皆さんには、金融審議会の作業部会で議論が進む制度改革の行方が気になるところだと思います。
他方で金融庁はこの10月末に、「経済価値ベースのソルベンシー規制」と呼ばれることの多い新たな健全性規制の導入に向けて主な法令等の改正案を公表し、意見募集を開始しました。
今回の改正は、現行のソルベンシーマージン比率を中心とした健全性規制を30年ぶりに大きく見直すというもので、規制が求める支払余力の厳格化や、経済価値ベースの考え方の採用など、現行規制の弱点を克服する内容となっています。2025年度決算から新規制に基づく報告が始まる予定なので、保険会社にとって残された時間はそれほど多くありません。
先週都内で開催された日本アクチュアリー会(ア会)の年次大会では、新規制に関連したセッションがいくつもあり、私もその1つ(パネルディスカッション:経済価値ベースのソルベンシー規制の原点に立ち返る-新規制を有意義なものにするために-)で進行役を務めました。

保険数理の専門家・アクチュアリー

アクチュアリーとは、確率や統計などの手法を用いて、将来の不確実な事象の評価を行い、保険や年金、企業のリスクマネジメントなどの多彩なフィールドで活躍する数理業務のプロフェッショナルです(ア会のサイトより引用)。超長期の保障を提供する生命保険や、多様で複雑なリスクに備える損害保険が成り立つには、アクチュアリーによるリスク分析が欠かせません。
24年3月末現在、ア会の会員数は5601人で、このうち2273人が生命保険会社に、863人が損害保険会社に所属しています。一般に「アクチュアリー」とは正会員のことを指し、難関とされるア会の資格試験に合格し、正会員として認定されているのは2121人だけです。
ちなみに私自身はアクチュアリーではなく、主にア会の専門委員会(ERM委員会)のアドバイザーとして関わっています。

保険会社のリスク管理高度化を目指して

話を新規制に戻しましょう。会員向けの年次大会の内容について多くを語ることはできないのですが、私たちのパネルディスカッションでは、「規制が求める新たなソルベンシー比率(ESR)を守りさえすればいいという話ではない」「経済価値ベースの考え方をいかに社内や社外(メディアなど)に浸透させるか」「保険会社のアクチュアリーは何をすべきか」といった議論を行いました。
健全性規制の主な目的は、保険会社の経営が悪化し、契約者が不利益を被るのを避けることです。それには単に規制を厳しくするというのではなく、保険会社自身のリスク管理の高度化を促すべき、というのが近年の健全性規制の考え方となっています。しかし、規制当局が本当に保険会社の経営行動を変えることができるのかという「そもそも論」もあって、今回の新規制にしても、保険会社が「規制が求めるESRを守りさえすればOK」と考えてしまうと、リスク管理の高度化にはつながりません。どのようなことでも、他者に何かを促すというのはそう簡単ではありませんよね。

なお、新規制導入の経緯や規制の本質などに関心のあるかたは、10月末に発売した拙著『経済価値ベースのソルベンシー規制』(日本経済新聞出版)をご覧ください。2008年に出版した『経営なき破綻』の続編という位置づけで、副題に「生保経営大転換を読む」とありますが、新規制のもとでの損保を含めた保険会社経営のあり方について述べています。難しい数式などは一切使っていませんので、ご安心下さい(笑)。
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※実家でタコパ!久しぶりに3兄弟が集まりました。

 

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今年の『生保・損保特集』

保険業界のいまを知る手掛かりとして毎年この時期に出ている東洋経済『生保・損保特集』ですが、なんと巻末の各社データが消えていました。ここにしか載っていない個社データもあったので、非常に残念です。
作成に手間がかかるのはわかるのですが、インシュアランス統計号もなくなってしまったなかで、東洋経済の特集号のデータ集もなくなるのは大きなダメージです。あとは金融庁にがんばってもらうしかないのでしょうか。

もう1つ、中身で残念だったのは、損害保険業界勢力図のタイトルが「政策株売却で利益急拡大」となっていて、政策保有株による益出しがなくなると「自然災害などで巨額損失が今後発生したときに、それを穴埋めする含み益がなくなってしまう」のを難題としている点です。
ステークホルダーの代弁者たるメディアが会計利益の安定的な計上を求めるのはどうしてなのでしょうか。こちら(過去のブログ)で書いたとおり、含み益を実現しても会社価値は高まりません。「異常危険準備金が枯渇しそうになると、政策保有株の売却益を振り向けて手当て」したというのも、あくまで結果としてそうなっただけで、準備金積み立てのために益出しをしたのではありません(そんなことをしても会社価値にはニュートラルです)。
もしかしたら「難題」なのは政策株の売却で余剰になった資本をどうするかであって、リスクをとっている以上、リターンが変動するのは当たり前の姿です。メディアには毎期の会計利益の変動ではなく、今後はESRの変動(あるいは分子・分母それぞれの変動)に注目してほしいです。

さて、最近の特集号はテーマごとに外部ライターのかたが保険会社に取材して、記事にしたものが中心となっています。そこで、ライターの皆さんがどこの会社を取り上げたのか確認してみました。

「保険のノウハウやビッグデータが貢献」
⇒ 住友生命、第一生命、日本生命、ADI、SOMPO、東京海上、MSI

「進化する『人財像』創意と工夫の育成策」
⇒ 住友生命、東京海上、第一生命、ADI、MSI、日本生命、SOMPO、明治安田

「最先端AI活用で保険業務が急速に進化」
⇒ 第一生命、住友生命、日本生命、MSI、SOMPO、ADI、東京海上

「もう保険だけではない!ワンストップで支援」
⇒ 住友生命、第一生命、日本生命

「成長のカギにぎる保険会社の新領域」
⇒ 第一生命、住友生命、日本生命、SOMPO

「サイバー攻撃への備え 地球環境や物流問題も」
⇒ ADI、SOMPO、MSI、東京海上

「芸術活動を後押し 若い才能も育成」
⇒ 日本生命、第一生命、ADI、MSI

「アスリートの力でウェルビーイングへ」
⇒ 日本生命、第一生命、MSI、SOMPO、ADI

 *記事での紹介順。MSIは三井住友海上、ADIはあいおいニッセイ同和

取り上げている事例がここまで特定の会社(大手生保3社と大手損保3グループ)に集中しているとは思いませんでした。明治安田が少ないのは何か事情がありそうですが、おそらく他の会社には取材していないのでしょう。市場シェアを踏まえると、生保はもう少し視野を広げていただいたほうが読者としてはうれしいですね。

全体としてなんとなく辛口のコメントになってしまいましたが、こういう見方もあるということでご理解ください。

※日田で見つけました。「にっぽんがん」と読むようです。

 

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死亡保障ギャップ

10月26日から27日にかけて、中央大学・多摩キャンパスで開催された日本保険学会の全国大会に参加しました。
そのなかで、今回私の頭に残ったのが「日本の死亡保障ギャップ」です。土曜日午後のシンポジウム「ポストコロナ時代における保険業の深化」で、ニッセイ基礎研究所の有村寛さんが報告のなかで日本の死亡保障不足について紹介し、翌日の自由論題では八戸学院大学の崔桓碩先生がズバリ「生命保険における死亡プロテクションギャップの推移と要因分析」を報告していました。
お二人とも「日本の死亡保障ギャップはアジアの先進国(日本、香港、シンガポール、オーストラリア、韓国)のなかで最も大きい(=不足している)」というスイス再保険の調査を引用していました。プロテクションギャップというと、自然災害リスクへの備えが不足しているという意識はあったものの、死亡保障については正直あまり考えていませんでした。

世帯の必要保障額についてどう考え、かつ、生命保険以外の備えとして何をどこまでカウントするかによって、死亡保障ギャップの結果は変わってきます。スイス再保険の調査内容を詳細に検討したわけではないので、この国際比較をそのまま受け入れていいかどうかはわかりません。
とはいえ、有村さんがこちらのレポートで示しているように、世帯主が加入している死亡保険金額の平均が大きく減ったのは確かです。
(97年:2732万円 ⇒ 21年:1396万円)

崔先生は報告のなかで、死亡保障ギャップの要因として、世帯所得の低迷、消費者の関心の変化、リスク認知の低さ、利用可能性(の低さ)などを挙げていました。私の直感では「保険会社が死亡保障を積極的に提供していない」「死亡保障が必要な層に十分アクセスできていない」といったことも大きいように思います(感覚的なコメントですみません)。

※写真は横浜・大倉山商店街です。週末にパレードがあるとか。

 

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『経済価値ベースのソルベンシー規制』

新刊のご案内です。今週25日に『経済価値ベースのソルベンシー規制 生保経営大転換を読む』が日本経済新聞出版から出ることになりました。

本書は絶版となってしまった『経営なき破綻 平成生保危機の真実』(2008年、日本経済新聞出版社)のいわば続編にあたります。『経営なき破綻』から早くも15年以上が経ち、ようやく2025年度末に新たな規制が実現するこのタイミングで本書を世に出す意義は、主に次の2つと考えています。

1つは、「経済価値ベースのソルベンシー規制」と呼ばれることの多い新たな規制の本質を示すことです。
新たな規制の詳細を解説するのが目的ではなく、保険会社の経営は新たな規制にどう向き合うべきなのか、新たな規制が期待どおり機能するうえでどのような課題があるのか、などを論じています。
経済価値ベースのソルベンシー規制導入に反対姿勢をとってきた富国生命・米山社長と、規制導入を有識者としてリードしてきたキャピタスの森本代表のインタビューも、それぞれ読みごたえのある内容となっています。

もう1つは、過去の生保破綻から新たな規制導入に至るまでの経緯を示すことです。
かつての生保危機を当事者として知る人の多くは現役を退いています。しかし、過去の経緯を知らないと、いま、どうしてそれがそうなっているのかを理解するのは難しいことです。
そこで本書の第1章で生保危機から新規制までの「歴史」を振り返るとともに、破綻生保の内部で何が起きていたのかを記録として残すため、編集担当のご理解を得て、『経営なき破綻』の中核である破綻事例の検証を巻末付録としてそのまま掲載しました。その結果、付録が90ページもある書籍となっていますが、とりわけ『経営なき破綻』を手に取ったことのない若い皆さまの参考になるのではないかと考えています。

加えて、福岡大学に移籍してから手掛けた研究の成果もいくつか盛り込んでいますので、全体として他に類を見ない内容になったのではないかと自負しています。
ポケットマネーで購入するにはやや高いかもしれませんが(3200円+税です)、保険業界に関心を持つ多くのかたの目に触れるとうれしいです。

 

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「お祝い金」がもらえる保険は得なのか

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1252(2024.10.14)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。今回は大学の講義(保険論など)の一部をご紹介します。
3連休が多いので、月曜日の授業は遅れがちです。
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根強い「掛け捨ては損」という考え

大学の講義のなかで、次のような質問をすることがあります。保険のプロである皆さんには釈迦に説法で恐縮ですが、どうかお付き合いください。

【どちらのほうが経済的に得でしょうか?(保険会社は1も2も同じ)】

1.いわゆる「掛け捨て」の定期保険
 死亡保険金額:1000万円
 保険期間:10年
 毎月の保険料:1000円(20歳加入)

2.死亡しなかったら「お祝い金」がもらえる保険
 死亡保険金額:1000万円
 保険期間:10年
 毎月の保険料:6000円(20歳加入)
 お祝い金:60万円(死亡しなかった場合)

当然ながら正解は1です。それでも「2のほうが得」「1と2は経済的に同じ」と答える学生が相当数います。

お祝い金の原資は保険料

念のため、1のほうが経済的に得である理由を説明しておきましょう。
同じ保険会社なので、2は1の定期保険に貯蓄機能が加わったものと考えられます。毎月の保険料6000円のうち、1000円が定期保険の保険料で、5000円が貯蓄に回ります。保険期間の10年は120か月なので、5000円×120=60万円という計算になります。
ただし、お祝い金がもらえるのは「死亡しなかった場合」です。保険期間中に死亡したら、死亡保険金1000万円は受け取れますが、毎月の保険料から貯蓄に回っていたはずのお金は返ってきません。

では、死亡した場合にも「おくやみ金」として貯蓄部分を受け取れるとしたらどうでしょうか。それでも1のほうが経済的に得です。
2と比べやすくするため、1の保険に加入するとともに、毎月5000円を銀行に預けるとしましょう。1では、わずかですが預金利息が付くので、10年後の預金残高は60万円を超えます。
理由はそれだけではありません。1の銀行預金はいつでも貯まっている分を使うことができます。でも、2の貯蓄部分は10年経たないと受け取ることができません。貯蓄といっても自由に使えないお金です。
2の保険加入では、いわば強制的にお金を貯めることができるとはいえ、果たして経済的なデメリットを上回るほどの効用があるでしょうか。

顧客本位なのか

今回お示ししたのは定期保険(死亡保険)の例で、かつ「お祝い金」が経済的にみて低く設定されていました。しかし、お祝い金を経済合理的に設定したとしても、死亡保険よりも給付金額の小さい医療保険では、より悩ましい問題が起こり得ます(給付金を受け取るとお祝い金がもらえない場合)。
というのも、給付金とお祝い金を天秤にかけ、場合によっては給付金の請求をしないほうが多くの金額を受け取ることができるからです。こうなってくると、そもそも何のために医療保険に加入したのか、よくわからなくなってきます。

もしかしたら、お祝い金のある保険のほうが経済的に得となる料率設定をしている会社があるのかもしれません。とはいえ、それを比較検討するのは至難の業です。そうだとすると、いくら顧客ニーズが強いからといっても、この手の商品を勧めるのが顧客本位とは考えにくいですね。
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※日田彦山線BRTに乗りました。

 

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デジタル化と保険業界

日本FP協会の会報『FPジャーナル』2024年10月号の特集「保険業界の最新動向と今後の行方」にコメントがたくさん載ったので、デジタル化に関するコメントの一部をご紹介します。
不祥事絡みではない取材協力は、もしかしたら久しぶりかもしれません(苦笑)

「デジタル化の進展によりデータを活用することで病気や事故の予防が可能になり、健康増進型の生命保険やテレマティクス型の損害保険が登場しています。将来的には、保険会社のビジネスモデルが大きく変わる可能性もあります」

「健康増進にお金をかける人が増える一方で、保険のニーズは減る可能性があります。デジタル化の進展は、保険商品だけでなく、将来的には生命保険会社のビジネスモデルを変えることも考えられます」

「しかし、デジタライゼーションと言えるようなものはまだ見られません」「日本の保険会社のデジタル化は、まだビジネスモデルを変革する段階までは進化していません。あくまで現在のビジネスモデルを前提に、そこに新しい技術を取り入れ、活用することを考えている段階です」

掲載誌をみると、著名FPの清水香さんが「損害保険はDXの取り組みが進み、利便性が向上しています」と述べています。スマホやアプリ、SNSを使うようになって、かつてよりも格段に便利になったのは確かですね。写真を撮って、そのまま送れるのはありがたいです。

なお、主な読者がFP(ファイナンシャルプランナー)資格を持つ方々(個人会員数は20万人超!)なので、デジタル化に関するコメントだけではなく、変額保険の販売が伸びているとか、加入チャネルに関する話なども載っています。
機会がありましたらご覧ください。

※今日はバス通勤でした。

 

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保険行政の動向

先週27日(金)に金融審議会「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」での議論が始まりました。事務局説明資料「ご議論いただきたい事項」には、さらなる検討が必要と考えられる論点として以下の4つが挙がっています。

・大規模な保険代理店における募集品質の向上
・保険仲立人(ブローカー:筆者注)制度の活用促進
・企業向け火災保険の赤字継続
・損害保険会社による便宜供与や企業内代理店の目指すべき姿等。

企業向け火災保険の赤字について議論するのであれば、そもそも企業向け火災保険が赤字なのかどうか、情報開示から始めていただきたいです。この点について、メンバーの柳瀬先生が「家計・企業保険別の情報開示が必要」という意見を出していて、心強いかぎりです。

同じ日に金融庁は2024事務年度の金融行政方針(実績と作業計画)を公表しました。
損害保険市場の信頼回復と健全な発展に向けて金融審議会で議論する状況となっているにもかかわらず、例年どおりの「持続可能なビジネスモデル構築に向け、各社の内部管理態勢の高度化も含め、保険会社との対話を実施する」というのはやや違和感があるところですが、他方で保険会社のソルベンシー規制のところには、次の記載がありました。

・2024年秋頃を目途に法令等の改正案をパブリックコメントに付す予定であり、引き続き関係者との対話等を行いつつ、2025 年度の新規制の円滑な導入に向けた準備を進める。

・監督会計について、具体的な論点が明らかな課題について対応する。また、経済価値ベースのリスク管理との整合性や財務会計に関する見直しの動向等も踏まえつつ、そのあり方について検討を行う。

・保険会社から提出される各種データの見直しやリスクとソルベンシーの自己評価に関する報告書(ORSAレポート)の活用等を通じたモニタリングの高度化について、さらなる検討を進める。

1点めは、すでに5月29日公表の「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する残論点の方向性等について」で示していたとおりですが、2点めと3点めには注目です。
特に3点めは重要だと思います。新たな規制を導入するのが目的ではなく、規制導入はあくまでスタート地点に立ったということなので、これをどう使っていくかが当局には問われています。今回の作業計画を見て、そのような問題意識を金融庁が持っていることが示されているのではないかと(楽観的に)理解しました。

※写真は東京駅です。

 

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損保不祥事と株価

企業の不祥事が発覚すると必ず株価が下がるかというと、そうとは限りません。不祥事発覚による会社価値の毀損はもちろん株価下落要因ですが、他方で不祥事をきっかけに経営改革が進み、将来の会社価値拡大が期待できると市場が受け止めることもあるのでしょう。

この週末に大手損保グループの株価推移を改めて確認したところ、今年に入ってからの株価は3グループともに市場平均をはるかに上回って上昇しています。
例えば約1年半前の2023年3月末と週末(9月19日)の時価総額を比べてみましょう。

東京海上:5.0 ⇒ 10.4兆円
MS&AD :2.2 ⇒ 5.3兆円
SOMPO :1.7 ⇒ 3.2兆円

いずれも2倍前後の増加です。この間の東証プライム市場の時価総額は 713 ⇒ 924兆円なので、損保株の好調さが際立っています。

旧ビックモーター事件は直接的には損保ジャパンの問題とはいえ、ディーラーなど大型の乗合かつ兼業代理店との不適切な取引慣行は個社問題ではなく、業界全体の問題と受け止められています。保険料調整問題も個社問題ではありません。
このため、不祥事の発覚によって顧客離れが進み、会社価値が下がるという受け止めにはならなかったのでしょう。損害保険は必需品であり、かつ、3グループによる寡占市場なので、取引を続けざるをえないということもあるかもしれません。

損保株の上昇が目立つようになったのは2月からなので、株式市場は不祥事発覚後に各社が打ち出した「政策保有株式をゼロにする」という方針を好感していると考えられます。
市場が何を好感しているのか、本当のところはよくわかりません。ただ、理論的には多額の売却益が実現し、配当還元が期待できるからではなく、株式売却によって不要になった資本を有効活用できる(自社株買いを含む)からです。このあたりは6月10日のブログで書いたとおりでして、株式の売却は株式と現金を交換するだけなので、それだけでは会社価値を高めません。

問題は、今後5年程度の間に株式市場が期待するような新たな投資案件が見つかるのかということでしょう。
余剰資本があるのなら何でも積極的に投資すればいいかというと、そうではありません。株主は、投資先の経営陣には会社価値を高めてくれる何らかの強みがあると考えているからこそ投資しているのであって、強みを発揮できる機会がなければ投資している意味がありません。もし見つかりそうになければ、そのままだと会社価値を毀損してしまうので、余剰資本を株主に返す必要があります。
株主が期待するような経営行動ができるかどうか、不祥事対応の進展とともに注視する必要がありそうです。

※福岡もこのところ不安定な天気が続いています。

 

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「中堅生保、債券偏重の死角」

9月11日の日経記事「中堅生保、債券偏重の死角」(電子版(会員限定)では9日)をみて、思わずため息をついてしまいました。

記事の主な内容は次のとおりです。

・ソニー生命は2024年4-6月期に債券の売却損を株式売却益などで補えず、キャピタル損益を反映した基礎利益が赤字になった。
・同社は金利上昇で保険契約の中途解約が急増し負債側の年限が縮小。資産の年限を縮めるため保有国債の一部を売却せざるをえなくなった。
・生保は保有資産の含み損益を加味して資産を売却する。売却損を出す場合、同時に含み益のある資産を売却して補うのが一般的だ。

これ(特に3点め)を読んで、特段の違和感を覚えなかったかたは、伝統的な金融村の文化に相当毒されています。ALMとか経済価値ベースとか言う以前に、そもそも「保有資産の含み損益を加味して資産を売却」する投資家とは、いったい何を目指して資産運用を行っているのでしょうか。考えられるのは1つだけ。会計損益の安定です。
しかし、生保をはじめ金融機関による資産運用の目的は会計損益の安定ではなく、リターンを上げて会社価値を高めることであり、そのためにポートフォリオを組んでいるはずです。それを「債券で売却損が出るから、同時に株式で売却益を出す」なんてことをしたらポートフォリオが崩れ、目指す期待リターンも変わり、何をしているのかわからなくなってしまいます。

多額の株式を保有する生保の運用担当者が日経の記者さんに吹き込んだのかもしれませんが、このような考えのもとで株式を保有している生保があるとすれば、株式含み益を経営バッファーとしてあてにしていた(いわゆる益出しですね)1990年代前半までの生保経営と同じです。そんな資産運用はありえないと、どうして記者さんもデスクも思わなかったのでしょうか。

記事の後段には「生保各社は債券中心の手堅い運用にシフトしてきた」とあります。しかし、生保は手堅い運用を行うためではなく、負債の金利リスクをヘッジすることで会社価値の振れを抑えるために超長期国債を購入してきました。金利上昇に伴い保有する超長期債の価格が下がるのは初めからわかっていたことであって、経済価値ベースのバランスシートは改善しているはず。含み損を処理すべきという合理的な理由はなく、「債券偏重の死角」ではありません。
金利上昇局面における生保経営者の悩みとして挙げるとすれば、資産運用の巧拙よりも、「金利上昇に伴う解約をどの程度まで考慮すべきか」「現行会計のもとで金利上昇で価格が下がった超長期債の減損を求められないか」などではないでしょうか。

ちなみに2点めに関しては、昨年度からの解約増加はドル建て保険が中心だと思いますし、残高が減ったのは「その他有価証券区分」の公社債なので、本当にこの説明のとおりなのかは疑問なのですが、ソニーフィナンシャルグループの決算発表資料をみると、確かに「金利上昇の影響を受け、ALM(資産負債の総合管理)の考え方に基づくリバランスを目的とした債券売却により一般勘定における有価証券売却損益が悪化した」とあります。
9月決算ではもう少し説明があるといいですね。

※写真はパリです。

 

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