「挑む相互会社の壁」

4月18日にアップされたNIKKEI Financial「ホケンの変革 日本生命保険 挑む相互会社の壁(上)/相互会社で進める大型買収、企業統治改革は道半ば」にコメントが載りました。
有料媒体なので私に関する部分だけ引用します。詳しくはNIKKEI Financialをご覧ください。
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24年5月、韓国で開いた韓国保険学会。元著名保険アナリストで現在は福岡大学で教鞭(きょうべん)をとる植村信保教授は日本の保険会社のM&Aについて出席者から問われると「相互会社が海外の保険会社を買収し、グループとして非社員契約を増やすのは、契約者が会社の構成員(社員)となっている相互会社のあり方として適切なのかという疑問が生じる」と指摘した。
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「元著名保険アナリスト」というのは「元R&Iの格付アナリスト」の誤りではないかと思いますが(笑)、こちらのブログ(日本の保険会社による海外M&A)で書いた内容を参考にしていただいたものです(取材も受けました)。

そもそもは「(日本の保険会社による)海外M&Aの目的は純投資なのか、それとも事業による利益獲得をねらったものか」という質問に対し、純投資ではなく、事業による利益獲得をねらったものと答えたうえで、相互会社についても触れました。引用していただいた内容に続き、「株主と相互会社の社員では、経営陣への期待(リスクのとり方など)も異なると考えるのが妥当」とも述べています。

なお、ブログでは相互会社のガバナンスに関する記事を何度か書いていますので、ご参考まで。

相互会社の保険会社買収(2015.9.13)
週刊ダイヤモンドの保険特集(2018.4.28)
2020年の生保総代会(2020.7.26)
「質疑ゼロの生保総代会」(2023.7.17)

※キャンパスに学生が戻ってきました。

 

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ESR規制の原点に立ち返る

2024年11月に開催された日本アクチュアリー会・年次大会の資料が一部公表となり、以前こちらのブログで紹介した、ERM委員会のパネルディスカッション「経済価値ベースのソルベンシー規制の原点に立ち返る―新規制を有意義なものにするために―(PDF)」の様子をご覧いただけるようになりました。

*念のためこちら(アクチュアリー会サイト)も貼っておきます。

このセッションは、前半がパネリストによる報告(資料あり)、後半がディスカッションという構成でした。
当日を思い出してみると、質問をオンラインで受け付けることになっていて、手元のタブレットに質問がどんどん上がってくるのが進行役(私)にとってプレッシャーでした。後半のディスカッションのなかで多少は取り入れたのですが、想定外の質問が多くなるとパネリストの皆さんに負担をかけてしまう(そうでなくても私からの無茶振りがありましたので…)だけでなく、私たちとして伝えたかったメッセージがうまく届かなくなってしまうかもしれないので、そのバランスに苦心しました。
それでもパネリストの皆さんのおかげで、エッジの効いたセッションになったのではないかと思います。

会員向けのパネルディスカッションなので、多少わかりにくいところがあるかもしれません。ただ、すでに2025年度に入り、新たなソルベンシー規制が導入されつつあるという状況ですので、特に保険業界の皆さんにはぜひご一読をおすすめします。

※西鉄のレストランカーです。

 

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MSIとADIの合併

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1276(2025.4.7)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
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合併による経営効率改善へ

MS&ADグループの中核会社である三井住友海上火災保険(MSI)とあいおいニッセイ同和損害保険(ADI)が2027年4月をめどに合併する準備に入りました。
読者の皆さんには釈迦に説法かもしれませんが、MSIは旧財閥系の大手損保どうしが対等に近い形で合併した会社である一方、ADIはパーソナル分野に強い大東京火災がトヨタと親密な千代田火災、日本生命グループとなっていたニッセイ同和損保と一緒になった会社です。同じグループとなって久しいものの、この15年間に両社の融合が進んだようには見えません。国内損保事業の構造的な問題が明らかになるなかで、両社を併存させるメリット(MS&ADの船曳真一郎社長は昨年9月のIR説明会で「代理店シェア最大化のため」と説明)よりも、合併で1つにしたほうがよりメリットが大きいという判断をしたのでしょう。
そう考えると、「それぞれの強みを維持・結集し、さらに拡大するために強力に取組みを進める」(ニュースリリースより引用)というのは、合併によるマイナス効果を何とか最小限にとどめたいという意味であり、1プラットフォーム戦略など、これまで進めてきた一体運営ではさらなる効率化には限界があるので、合併で経営効率の改善を一気に図り、「経営資源の全体最適を実現」(同)させるということだと理解できます。

持株会社によるガバナンス強化

筆者は、国内損保事業の効率改善以上に重要なのは、持株会社によるガバナンス発揮ではないかと考えています。
これまで様々なメディアで、企業向け保険料の事前調整問題と、旧ビックモーターによる保険金の不正請求事件は、損保業界が護送船団行政の時代に形成したコンダクト(企業行動)を、自由化後も温存してきたことが問題の本質であると指摘してきました。情報漏えい問題も同じです。不適切なコンダクトを温存できた要因は、各社がビジネスモデルの見直しではなく、業界再編によって競争相手を減らす戦略を選んだことが大きいと見ていますが、再編で設立された持株会社のガバナンス機能が弱く、グループ管理のダブルスタンダードがまかり通ってきたことも挙げられます。
持株会社は、新たに買収した海外事業の経営者には、当然ながら投資(すなわちリスクテイク)に見合ったリターンを求めるのに対し、国内自然災害と政策保有株式という2大リスクを抱えているにもかかわらず、こうしたリスクベース経営ではなく、規模やシェアを追求する国内損保事業をなかなか変えようとはしませんでした。会社価値の拡大を求める株主からすると、持株会社がむしろ盾(たて)の役割を果たしてきたことになります。

お気付きの通り、これはMS&ADグループだけではなく、同じく中核損保で問題が発覚した他の大手2グループにも共通した課題です。とはいえ、MS&ADでは傘下に中核損保が2つあることで、持株会社が監督・指導よりも、調整や対外説明に労力を費やしていた可能性があります。
筆者は、合併で国内トップシェアの損保が誕生すると誇るのではなく、中核損保の合併を契機に、持株会社のガバナンスを十分に発揮できる体制づくりができるかどうかが重要だと考えています。

※今年は天守台から桜を眺めることができました。福岡にて。

 

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卒論はコスパが悪い?

大学の教員になって早くも5年になります。年度末にかけて自分のところでちょっとがっかりすることがあったのですが、どうやら自分だけではなく、全国的な現象ではないかと思える記事がこちら(卒論はコスパが悪い)に出ていました。

大学生(特に文系)にとって、必修かそうでないかにかかわらず、卒論を書くことはある種の特権だと考えています。たくさんの調べ学習をしたうえで、自分で問いを立てて(これが一番難しい)、またまた調べ学習をしたうえでデータ(できればオリジナルのもの)を集め、他人が納得するような答えを見つけだす(見つからないかもしれません)という経験は、単に知識を詰め込むよりもはるかに社会に出てから役に立ちます。それを「就活のため」「資格取得のため」、あるいは、単位がそろったので、もう取る必要がないといった理由で放棄してしまうのは実にもったいない話です。
でも、目先に就職を控えた学生には、そのことがわからないのでしょうね。弁護士や会計士のように資格がないとその仕事に就けないというのであれば別ですが、まとまった時間が取れる学生時代にどのような頭の使い方をするかは、将来を左右すると思うのですが。

とはいえ、教員としてできるのは機会を提供することと、一緒になって考えることくらいしかなく、やりたくないという学生を無理やり引き留めても仕方がないとは思っています。
他方で新卒採用する会社には、せめて採用活動後には、内定者を研修と称して平日に何度も呼び出したり、XX検定などの資格取得を在学中に求めたりしないでほしいです。

(今回はこの問題について社会としてどうすべきかどうかは論じていません)

※源光庵・悟りの窓です。悟りには程遠いですが。

 

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変額保険は買いか?

3月17日発売の週刊ダイヤモンドは保険特集「保険大激変」でした。
しばらく前から、ネット(ダイヤモンド・オンライン)で記事をアップしてから紙媒体で掲載という形になっていましたが、いよいよ4月から紙媒体の書店売りがなくなるそうです。時代の流れを感じます。

このところの変額保険ブーム?を踏まえ、特集の「Part 1」のトップは変額保険に関する記事でした。
私は現在の変額保険人気についてやや懐疑的に見ていまして、死亡保障として売るのであればともかく、資産運用商品としての加入者にとってのメリットは相続関係だけではないかと思ってしまうのですが、激論!変額保険「推進派vs否定派」という覆面座談会の記事を読んでも、推進派のおっしゃるメリットがよくわかりませんでした。
例えば、「変額保険の運用は、証券会社で口座を開設して自分で投資信託を買って運用するよりも優れていることもある」とありました。しかし、そのような客観的なデータがあるのでしょうか。「膨大な数の投資信託の中から良いものを選ぶのは、とてもハードルが高い」のはそうだとしても、だから選択肢が絞られている変額保険がいいという結論になるのは、やや議論に飛躍があるように思いました。
最近の変額保険の新商品は、保険料払込免除(P免)特約が充実していたり、告知が不要だったりする傾向にあるのですね。もっとも、保険会社はP免特約を賄う保険料を設定しているでしょうし、告知不要への対応もしている(そうでないと認可が下りないと思います)ので、そのぶんだけ資産運用商品としての魅力は削がれているはずですよね。
こうしたことをあれこれ考えるきっかけになる、時宜に合ったいい企画だったと思います。

覆面座談会といえば、代理店に出向している損保会社社員(転籍者を含む)による座談会記事も興味深く読みました。
「出向の場合は、だいたい損保会社に給与の4割程度を負担してもらえますが、転籍させるとそれはなくなる」「以前は出向元から『自社の契約を増やすように営業して、シェアアップを目指せ』と言われていました」なんて発言もありました。
今回問題となったのは乗合代理店ですが、専属代理店のあり方についても見直しが必要なのでしょうね。

※今年も学位記を渡すことができました。

 

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あれから25年&30年

あれから25年というのは、2000年3月8日に中目黒駅の近くで起きた日比谷線の脱線衝突事故で、あれから30年というのは、1995年3月20日のオウム真理教による地下鉄サリン事件です。
私は東京勤務の時は東急東横線と地下鉄日比谷線をよく使っていて、どちらの事件もギリギリのところで巻き込まれずに済んだという経験をしています。

地下鉄サリン事件が発生した1995年当時、私は茅場町のオフィスに毎朝8時ころ出勤する生活をしていました。しかし、この日はなぜか1つ前の八丁堀駅で電車が動かなくなってしまったので、そこからオフィスに向かいました。何となく周りが騒然としていたとはいえ、好奇心旺盛の私でも様子を見に行こうとは考えなかったので、それほど異常な事態が起きているとは現地では全くわからなかったのでしょう。
もっとも、いま思えば、様子を見に行かなくてよかったですよね。自分が乗っていた車両ではなかったようですが、車内に毒ガスがまかれたのですから。
なお、以前のブログで事件当日の聖路加国際病院の奮闘について取り上げていますので、よろしければこちらもご覧ください。

日比谷線の脱線衝突事故では、事故にあった車両に乗っていた乗客5人が死亡しました。事故が起きたのは9時ころで、中目黒駅に入ってくる列車の一番後ろの車両が脱線し、はみ出したところに、中目黒駅を出発した列車が通りかかり、途中の車両がぶつかってしまいました。
当時の勤務先は確か人形町で、私は5年前のような早起き生活ではなかったので、ニアミスとなってしまいました。当時まだ走っていた東横線から日比谷線に直通する電車に乗っていたところ、2つ前の学芸大学駅で動かなくなりました。幸い座席を確保していたので、会社でやろうと思っていた原稿チェックを車内でしていたのですが、事故が発生したという車内アナウンスがあるだけで、何が起きているのかさっぱりわかりませんでした。ただし、そのうちヘリコプターが何台も飛んできたので、どうやら普通の事故ではなさそうだとは思いました。
2時間くらいたってようやく電車が動き出し(日比谷線は不通でしたが、東横線が再開)、中目黒駅を出たところで事故車両が見えましたが、反対側だったのでよくわかりませんでした。しかし、帰りに同じ場所を通ったら、ある車両の側面だけがめちゃくちゃに壊れていて、これにもびっくりしました。

こうした事件・事故をメディアが節目の時に取り上げるのは、意味があることだと思います。
リスクをゼロにはできませんが、リスクマネジメントに関わる者として、過去に起きた事件・事故から学ぶことはたくさんあると考えています。

※京都・曼殊院の盲亀浮木之庭です。

 

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保険の面倒くささ

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1272(2025.3.10)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
今週は諸般の事情により京都に滞在しています。北野天満宮の梅がきれいでした。
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ネット保険の普及に時間がかかっている

ネット経由の保険販売は徐々に拡大しているとはいえ、まだ広く普及しているとは言えません。自動車保険ではようやく1割程度のシェアに達したところですし、生命保険・医療保険のネット販売は全体の1割未満です。
加入時にネットで情報を得た人は多いのではないかと思いきや、生命保険文化センターの調査によると、生命保険・医療保険加入時の情報入手先(複数回答可)として「ホームページ」を挙げた人は、たったの6%でした。

自動車保険に関して言えば、「1割程度」というのは収入保険料で比べたものなので、仮にネット経由の単価が代理店経由よりも平均して3割安く、かつ、自動車保険市場の4分の1が企業向けだとすると、実質的にはすでに2割程度のシェアと見ることもできます。情報入手先の「6%」も、保険会社や保険比較のサイトにアクセスしなかっただけで、ネットで保険関連の情報に接した人はもっと多いかもしれません。
とはいえ、前向きに表現したとしても「普及に時間がかかっている」のは確かです。

保険の検討は面倒くさい

あくまで個人的な見解になりますが、価格が明らかに安いにもかかわらず代理店経由からダイレクトへのシフトが徐々にしか進んでいないのは、保険を検討する「面倒くささ」が影響しているのではないかと考えています。
例えば、顧客が最初に自動車保険に加入しようとするのは、自動車を購入するときです。しかし、顧客がディーラーで積極的に検討したいのは自動車そのものであって、自動車保険を詳細に検討したいという人は少ないでしょう。そこで多くの人はディーラーに勧められるまま保険に加入するのが一般的でした(今後はどうなるでしょうか?)。
1年後の満期更改は顧客にとって自動車保険を見直すチャンスです。ところが保険は投資商品などとはちがい、ニーズがネガティブなので、どうしても検討するのが面倒くさいと感じてしまいがちです。
さらに生命保険や医療保険では、加入の必要性を頭のどこかで認識していても、それを行動に移すのは面倒くさいことだと思います。

「面倒くささ」をどう克服するか

早稲田大学の星野明雄先生は著書『保険商品開発の理論』のなかで、保険の面倒くささには、「必要だと感じていても、今はやりたくない」という心理的なわずらわしさと、「契約に必要な情報が多く、内容や手続きが煩雑」という内容面のわずらわしさの2つが強く存在すると述べています(星野先生は前者を「保険の重荷感」とも表現しています)。
そして、顧客が面倒くささを乗り越えるには、プッシュ型の勧誘が有効という見方ができるかもしれないとしたうえで、他方で消費者ニーズにそぐわない勧誘販売を正当化してしまうおそれがあると述べています。

もっとも、今は「面倒くさいから販売員の言うなりに保険加入する」という人が多いとしても、もし、「販売員よりもネットのほうが信頼できる」「プッシュ型は顧客本位ではない」が社会的なコンセンサスになれば、どうなるでしょうか。しかも、内容面のわずらわしさに関しては、技術の進展がネット保険のほうにより追い風となるでしょう。リテラシーのちがいによって、「面倒くさいからネットが示した最低限の保険に加入する」という人と、「面倒くさいから保険に入らない」という人に2極化するかもしれません。
いずれにしても、保険は今後も対面販売が中心と、現在の延長線上で判断するのは早計ではないかと思います。
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ベトナムの生保市場

短期間でしたがベトナム(ホーチミン)を訪問する機会がありました。ベトナム訪問は2018年のハノイ以来、ホーチミンは15年ぶりでしたが、相変わらず若い人が多く、活気を感じました。

ベトナムの生命保険市場はまだまだ小さいものの、高い成長を続けているのだろうと勝手に思っていたところ、銀行による保険販売に関するトラブルが続いたこともあって、2023年に新契約が急減し、その後も回復に至っていないことがわかりました。そこで、備忘録を兼ねて、何が起きたのかを記しておきましょう。
ただし、保険市場調査のためのベトナム訪問ではないので、あくまで私の知り得た話ということで、情報源も非開示とさせてください。

ベトナムには1999年まで国営の保険会社(バオベト)しかありませんでした。現在はバオベト(現在も政府系)のほか、プルデンシャル(本社は香港)、第一生命(日本)、マニュライフ(カナダ)、AIA(香港)がトップ5(または香港のFWDを含むトップ6)がシェアを分け合っています。つまり、市場シェアの多くを外資系が押さえている状況です。
現在の主力商品は投資型保険(死亡保障が付いた資産運用商品)で、2010年代半ばから銀行を通じた販売によって高い成長を続けてきました。こちらでは保険会社が銀行と長期間の独占販売契約を結ぶのが一般的なようで、例えば第一生命ベトナムも2015年以降、こうした提携販売を進めています。

ところが、2022年末あたりから、マニュライフの提携銀行による販売で苦情が発生したのをきっかけに、他社の銀行窓販にも波及して、銀行窓販への信頼が大きく損なわれるという事態が生じたそうです。

・銀行の貯蓄性商品だと認識して購入したら、後から保険会社の商品だとわかった
・銀行から融資を受ける際、保険加入を強いられた

加えて、政府による規制が急に厳しくなったということも背景にあるようですが、そもそもベトナムの銀行窓販はかなり歪んだ市場になってしまっていたようです。

監督当局の調査によると、銀行チャネルで加入した契約者の1年後の継続率が20%程度だったとか。大半の加入者が初回の保険料しか支払っていないということで、銀行は「保険に加入するとローンが有利になる」として勧誘し、顧客もそのほうが有利だからとわかったうえで保険に加入する。その原資は保険会社が負担するという構図です。
銀行は保険会社から代理店手数料を受け取る(早期解約時の返還制度はなさそうです)ほか、独占販売契約を結ぶ際にも多額のフィーを受け取っています。だから、顧客に有利なローンを提供できるというわけです。

第一生命のIR資料では、第一生命ベトナムの減収について「業界全体の銀行窓販チャネルのモメンタム低下によって初年度保険料が減少」とあるのですが、こういうことだったのですね。
日本と同じ目線で見ているだけでは海外市場の経営リスクはわからないということを、改めて実感しました。

※ホーチミンのカフェビルです。

 

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急務なのは会計見直しではないか

生命保険会社の第3四半期(4-12月期)決算を受けた報道ですが、さすがにこれはひどいミスリード記事だと思いました。
2月20日の日経「生保 国内含み損11兆円」という記事で、「保有資産入れ替え急務」という小見出しまで付いています(さらに言えば、紙の新聞では同じ面に「農林中金、運用の改革急ぐ」という記事があり、あたかも次は生保と言わんばかりの構成です)。
今回はベトナムの話を書こうと思っていたのですが、こちらを取り上げることにしました。

生命保険会社は多額の超長期債を保有しているため、金利上昇により国内債券の含み損が拡大しているのは事実です。しかし、あたかも生保が資産運用に失敗し、含み損の解消が急務とでも言うような見出しと内容は事実に反しています。
来年度から新たな健全性規制が導入され、経済価値ベースの貸借対照表をベースにしたソルベンシー・マージン比率が入るのは、少なくともご担当のかたならよくご存じのはず。それなのに資産サイドの時価変動だけに注目した記事が大々的に出てしまうのは、いったいどうしてなのでしょうか。

金利上昇によって生じた国内債券の含み損に注目するのであれば、「責任準備金対応債券という保有区分が認められていて、含み損益が実現しなければ収益に与える影響は限定的」などという説明よりも、

・負債サイドの評価はどうなっていて、全体としてどうなのか
・金利上昇でどの程度の解約が生じ、それが債券の実現損につながっているのかどうか
・国内債券の減損を求められる可能性(およびその是非)について
・経済価値ベースでは意味のない国内債券の入れ替えを各社はなぜ行っているのか

などを取り上げてほしいです。
この記事を見た契約者が心配になって解約に走らないことを祈ります。

日経報道だけではなく、Bloombergでも「大手生保3社で国内債売却損4700億円、運用資産健全化-4~12月」と、国内債券の含み損を問題視する論調です。他方で、内部管理上の経済価値評価に基づいた指標を公表していても、どのメディアも報道しません。
特に決算報道では、メディアの関心は会計損益とその変動要因にあるようなので、つまるところ会計を変えないと、せっかく新たな健全性規制を入れても、いまの報道姿勢は大きく変わらないおそれがあります。

拙著『経済価値ベースのソルベンシー規制』の第3章で述べたように、金融庁は契約者保護の観点からも、企業価値の向上を目指す観点からも、保険会社の経営内容を把握するうえで、経済価値ベースのソルベンシー規制と親和的な監督会計(結果として会社法や金商法の会計も変わります)の策定を急ぐべきだと、改めて強く思いました。

念のため、過去のブログ記事もリンクしておきます。
国内債の含み損(2024.8.18)
「中堅生保、債券偏重の死角」(2024.9.14)

※ホーチミンで開業したばかりのメトロに乗りました!

 

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大手損保の第3四半期決算から

旅に出る前に少しだけコメントを。
予想どおりではありますが、政策保有株式の売却益が会計利益を押し上げています。この状況がしばらく続くのでしょう。
含み益が実現益になっただけですので、過去最高益などと言ってもほとんど意味がないことがよくわかります。

他方で、今回の自動車保険のEI損害率を見ると、ADIは何か別の要因がありそうですが、総じて当初の見込みよりも悪化しているのではないでしょうか。

TMN 67.9% ⇒ 71.1%(+3.2p)
MSI 68.2% ⇒ 71.2%(+3.0p)
ADI 70.0% ⇒ 69.4%(-0.6p)
SJ  69.1% ⇒ 72.9%(+3.8p)

※前年同期との比較

ここまで損害率が悪化すると、おそらくコンバインドレシオが100%を大きく上回り、数百億円規模の減益要因となってくるように思います。

ということで、短くてすみません。

※14日は横浜にいてよかったです!

 

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