「数字で会社を読む」

週刊ダイヤモンドには掲題の会社分析レポートがあり、
今週号(4/27・5/4合併号)は「東京海上ホールディング」でした。
このなかで私のコメントが使われているのでご紹介します。

海外保険事業に関する記述のところで、

「自然災害や自動車事故など多種多様なリスクを引き受ける
 国内損保にとって、『地域や保険商品の分散を図れる点は強み』」

というものです(『 』の部分が私のコメント)。

少し補足しますと、次のようなコメントをしました。

メガ損保の国内損保事業は日本の地震、台風という、
世界でも有数の巨大災害リスクを2つも抱えているため、
グローバルに見ればポートフォリオが偏っています。

中小規模の国内損保であれば、日本の自然災害リスクを
再保険等でフルヘッジしてしまうことも可能でしょうけれど、
規模が大きいメガ損保の場合にはそうもいきません。

ということで、メガ損保が海外保険事業を拡大する背景には、
当然ながら国内損保市場の低迷もあるのですが、
偏ったポートフォリオを是正する効果があるのですね
(リスクが消えるわけではありません。念のため)。

同じことは国内生保事業を拡大する戦略にも言えます。
パンデミックと巨大地震・台風の発生は無関係なので、
こちらも分散効果が期待できそうです。

ただし、ポートフォリオの偏りを是正することができたとしても、
新たに拡大した事業のリスクについて理解が不十分であれば、
そちらで火傷することにもなりかねません。
改めてコメントするまでもありませんが...

※いつもの通り個人的なコメントということでお願いします。

※写真は米国から送られたハナミズキだそうです
 (正確には送られた原木より育成したものです)。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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金融システムレポート

 

17日に日本銀行が「金融システムレポート」を公表しています。
日銀のHPへ

今回のレポートは「基本的に2013年3月末までの情報」
による分析とあるので、先般の量的・質的金融緩和については
織り込まれていません。

「はじめに」を見ると、

「この政策は、長めの金利や資産価格などを通じる波及ルートに加え、
 市場や経済主体の期待を抜本的に転換させる効果が期待できる」

「この政策のもとで、金融システムにおける資金の流れや金融機関、
 投資家の行動にどのような変化が生じていくかを分析していく」

と述べられていますので、次回以降に期待しましょう。

今回のレポートでは、金融機関の経営課題として真っ先に、
「収益力の向上を図る必要がある」と指摘しています。
とりわけ地域金融機関は収益環境は厳しさを増しているようです。

その一方で、銀行・信用金庫の金利リスク量(=金利上昇を想定)
が総じて増加方向にあることも示されています。

すなわち、地域金融機関は低下する収益力を補うために
債券投資を増やし、残存期間を延ばしている姿が伺えます。

そこにきて、今回の量的・質的金融緩和です。

人口の減少や高齢化の進行に伴う資金需要の低迷に対し、
金融緩和によって状況が改善に向かうでしょうか?
他方、日銀の思惑通りにイールドカーブが潰れれば、
地域金融機関の債券投資に伴う収益は確実に低下します。

収益を維持したければ、投資のボリュームを増やすか、
もしくは残存期間を一段と延ばすか、となるのでしょう。
いずれにしても、金利リスク量をさらに増やすことになりますね。
うーん。大丈夫でしょうか。

あるいは、レポートで「ひとつの選択肢となりうる」としている
合併などを通じた経営効率の改善が加速するかもしれません。

もっともレポートでは、1991年度以降に合併した信用金庫のうち、
合併後に基礎的な収益力が改善したのは6割だったという
分析結果が示されています。これをどう見るか...

なお、このところ保険会社の分析が充実する傾向にあったので、
楽しみにしていたのですが、今回はかなり控えめだったようです。
こちらも次回以降のお楽しみといたしましょう。

それにしても、日銀の発表によると、5月から超長期債の買入額が
さらに増える可能性があるようです。日銀HPへ(PDF)
いよいよ生保と日銀で超長期債の奪い合い、でしょうか?

※日比谷公園の松本楼でランチ。18日は20回目の結婚記念日でした。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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生保マネーの行方

日銀の量的・質的金融緩和から1週間。
円安、株高が進む一方、前々回のブログで心配したとおり、
債券市場では値動きが荒い展開が続いています。

他方、異次元緩和を受けた生保マネーの動向にも
注目が集まっているようです。

例えば10日の日経には、「生保マネー、円安後押し」
という大きめの記事が掲載されました。
生保が外債投資にシフトし、円安を後押しするというものです。

確かに日銀は、超長期ゾーンを含むイールドカーブを潰すことで、
投資家が債券から他の金融商品にシフトすることを
期待している節があります。

また、「ソルベンシーマージン比率が厳しくなったから、
生保は株式投資を積極化できない(=だから外債に向かう)」
という見方も相変わらずあるようです。

しかし、これらには欠けている視点があるように思います。

量的・質的金融緩和でイールドカーブが潰れる、
つまり、長期金利の低下は、生保にどんな影響があるでしょうか。

超長期の負債を抱え、資産と負債のミスマッチ状態にある
生保にとって、長期金利が下がると逆ざや問題の悪化、
すなわち、経営体力の低下につながるのですね。
ここがポイントです。

経営体力が低下するなかで、わざわざ新たなリスクを取って
株式や外国債券に投資するのが合理的な行動でしょうか。
負債の金利リスク軽減のために保有する超長期債を売却し、
さらにリスクを高める行動をとるでしょうか。
これでは単なる博打になってしまします。

体力が低下したら、支払余力を充実させる、あるいは、
保有するリスクを削減するのが自然です。
どうもこの点が理解されていないように感じます。

生保は機関投資家である以前に、超長期の保障を
まっとうするのが使命だということを忘れてはなりません。

「規制が厳しくなったから株式投資ができない」
というのもおかしな話です。
日本のソルベンシー規制はそれほど厳しいものではありません。

リスクに対して体力があるのであれば、株式を買おうが、
外貨建資産を買おうが、経営判断だと思います。
体力面で制約があると判断するのであれば、為替リスクをヘッジし、
海外の信用リスクをとる戦略もあるでしょう。

制約となるのはソルベンシー規制ではなく、
あくまでリスクと経営体力の関係です。

いずれにしても、目先の期待リターンだけではなく、
リスクベースで物事を考える姿勢がもっと浸透してほしいものですね。

※いつもの通り、個人的なコメントということでお願いします

※再びRINGセミナーのご案内です。今ならまだ席に余裕があるようです↓

 

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業界紙に登場

 

いまや唯一の保険日刊紙となった保険毎日新聞と、
保険代理店向けメールマガジン「inswatch」に登場しました。
ほぼ同時になったのは、たまたまです。

保険毎日新聞のほうはインタビュー記事。
なんと、4/9(火)、10(水)の上下に分かれています。
上では金融庁時代の話とソルベンシー規制について、
下では保険会社ERMの現状について話しました。

2月にTRMAでお話しした内容をまとめたような感じですが、

 「業務担当が細かく分かれているのが新鮮だった(中略)
  各業務の担当者の把握に時間がかかった」

 「短期間で担当者が代わってしまうのにも驚いた(中略)
  担当者がほとんど総入れ替えということもあった」

なんてことも語ってしまいました。
機会があればご覧下さい。
保険毎日新聞社HPへ

もう一つの inswatch はコラムの執筆です。

金融庁に移る直前までの約9年間、2カ月おきに書いていたものを、
この4月から復活しました。

「保険アナリストの視点」というタイトルなのですが、
今回は復活第一回ということで、やはり保険行政の話にしました。
次回は6月上旬の予定です。

こちらも機会がありましたらどうぞ。
inswatchのHPへ

※写真は備瀬のフクギ並木です。

 

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債券市場はどうなる?

 

日銀の量的・質的金融緩和により、債券市場が混乱模様です。
5日の市場では、10年国債利回りが0.315%まで下がった後、
午後になると一転して0.62%まで急騰しました。

相場のことは相場に聞けと言われるとおり、
今後の展開はだれにもわかりません。

ただ、日銀は「イールドカーブ全体の低下を促す」としており、
具体的な金融緩和策を打ち出しているわけです。

 消費者物価上昇率「2%」を「2年程度」で実現するため、
 長期国債・ETFの保有額を「2年間で2倍」に拡大し、
 長期国債買い入れの平均残存期間を「2倍以上」にする...
 日銀の公表文(PDF)

「日銀の金融緩和が財政赤字の穴埋めだと見なされれば、
 金利上昇のリスクが顕在化する」(5日の日経)

という声は根強いものの、物価2%というハードルが高いなかで、
日銀がそう簡単に長期金利の大幅な上昇を許容するはずはなく、
場合によっては米FRBのようなツイストオペ(短期売り・長期買い)
なども駆使してイールドカーブを抑えにかかるだろうと思います。

もし、金利上昇に賭けて(?)資産・負債をミスマッチ
(負債よりも資産のポジションを短く)していた場合、
これはしばらく厳しいかもしれませんね。
反対に、資産の長期化を進めてきた会社にとっては、
リスクヘッジが功を奏したということになります。

くれぐれも債券の含み益だけで生保を評価しないようにしましょう
(特にメディアの皆さん!)。

それにしても、超長期債の買入額には驚きました。
生損保が主な買い手となってきた超長期国債市場において、
日銀は毎月0.8兆円、年間だと9.6兆円もの国債を購入するとか。

長期国債の平均残存期間を2倍以上にするには
超長期国債の買入額を増やすのは自然といえば自然なのですが、
そんなに買えるものなのでしょうか。

今年度の10年超の国債発行予定額は22.8兆円です。
これに対し、従来は年1.2兆円買っていた主体が、
いきなり年9.6兆円を買い入れるというのです。

もちろん、発行市場だけではなく、流通市場も見るべきですが、
ALM目的で保有する生損保が大量に売却するとは考えにくく、
流通市場を考慮しても、「池のなかの鯨」状態でしょう。

市場流動性の低下が価格(利回り)にどう影響を与えるか、
いろいろと心配になります。

※写真は大人気の沖縄美ら海水族館です。

 

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きんざいの誌上座談会

 

今週の週刊金融財政事情はノンバンク特集ですが、
よく見ると(笑)、保険監督規制とERM経営に関する
誌上座談会が掲載されています。

ボストン コンサルティングの佐々木靖さん、
フィッチ・レーティングスの森永輝樹さん、
そして私の3人によるものです。

リードには、「この座談会は、2012年11月14日に開催された
バンク・オブ・ニューヨーク・メロン証券主催の保険フォーラム
におけるディスカッションを再構成したもの」とあります。

とはいえ、11月のパネルディスカッションを加工したというよりは、
後日3人で座談会(ディスカッションの「二次会」?)を行い、
主にこちらを掲載したというのが真相です。

週刊金融財政事情の主な読者は金融関係者(特に銀行)
だと思いますので、銀行を意識したコメントをしたつもりです。
でも、もっと銀行の話をしてもよかったかもしれません。

保険業界ではERM経営を進めようとする会社が増えています。
でも、銀行業界ではERMという言葉をほとんど聞きません。
どうしてなのでしょうか。

座談会では私だけでなく、お二人(たまたま同じ銀行出身ですね)が、
「ERMは保険会社の経営そのもの」
「経営陣が理解し、経営に直結させているかが評価ポイント」
とおっしゃっているのも興味深いですね。

ということで、機会があればご覧下さい。

※写真は那覇の公設市場と壷屋の風景です。

 

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沖縄の旅2013

 

春休みに家族で沖縄に行ってきました。

うちの子どもたちも大きくなったので、
今回はビーチリゾートの沖縄だけではなく、
那覇の市場や首里城、南部戦跡など
リアルな沖縄に触れることにしました。

現在の首里城は1992年に再建されたものです。
首里城の地下に陸軍総司令部が置かれていたため、
元の建物は沖縄戦で破壊されてしまいました。

南部戦跡のひめゆり平和祈念資料館では、
アニメ「ひめゆり」の上映がありました。
学徒の半数以上が沖縄戦で亡くなったそうです。

戦後も沖縄は苦難の道を歩みます。
本土から切り離され、米軍施政下に置かれました。
1972年に復帰してからも米軍基地が集中し、
滞在中も軍用機が頻繁に見られました。

沖縄にとって、戦争の記憶は過去のものではなく、
現在に続くものなのですね。
「主権回復の日」政府式典への抗議もわかります。

 

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督促OL修行日記

 

運良くとれた寝台特急「カシオペア」で北海道へ。
飛行機なら1時間半のところを、17時間もかけて
のんびり北に向かう、ぜいたくな旅でした。

ところで、車内で読んだ「督促OL修行日記」という本が
なかなか面白かったので、ご紹介。

本書は信販会社のコールセンターで督促の仕事、
つまり、債権回収をしている女性の体験記でして、
「お金を返して下さい」という電話をかけまくる日々だそうです。

「感情労働」という言葉をはじめて知りました

肉体労働は体を使って仕事をしてお金を得ます。
頭脳労働は頭を使って生み出したアイデアなどを
賃金に変えます。

これに対し、感情労働は自分の感情を抑制することで
お金を得る仕事で、いわば心を売ってお金を得ます。
顧客から一方的に罵詈雑言を浴びせられることもしばしば。
コールセンターや客室乗務員などがこれにあたります。

こうした仕事では心に疲労がたまりやすいので、
心を病む確率が他の労働よりも高いのだとか。

以前の職場にも「金融サービス利用者相談室」があり、
一般の人から相談を受け付けています。
聞くところによると、やはり大変な職場だったようです。

でも、考えてみれば、コミュニケーション力が重要なのは
感情労働系の仕事に限った話ではありません。
本書に書かれている「督促OLのコミュ・テク」は、
多くの人に役立つのではないでしょうか。

ご参考までに、筆者のブログもあるそうです。
督促(トクソク)OLの回収4コマブログ

 

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パネリストを務めます

少し先の話ですが、6/15(土)に横浜で開催される
「RINGの会オープンセミナー」に登場することになりました。
オープンセミナーのHPへ

このオープンセミナーはいわば保険業界の文化祭です。
パネルディスカッションが午前に1つ、午後に2つ。
ホールの外では各種展示ブースがずらりと並びます。

私のブログをご愛読されている皆さんのなかには
保険会社でも企画や財務、経理、リスク管理など
本社の仕事しか経験していないかたも多いと思います。
(私もその一人ですね)。

専門性を考えると無理なローテーション人事には疑問ですが、
他方で本社と現場の距離が大きいと感じることもしばしば。

土曜日の横浜ではありますが、本社系の皆さんにとって
このセミナーは保険流通の世界に触れるいい機会ですので、
ご関心のあるかたはぜひお越し下さい。

ちなみに私が登場するのは午前の部でして、
「募集規制で保険流通はどう変わる」
「これからの保険代理店に求められるものとは」
といったテーマについてディスカッションをします。

パネリストは私のほか、昨年まで金融庁で同僚だった
増島雅和弁護士(当時は保険課の法務担当課長補佐)、
日本損害保険代理業協会の岡部繁樹会長、
保険代理店協議会の堀井計理事長という強力メンバー。

私はともかく、この顔ぶれには期待できそうですね。

 

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格付会社への規制

 

証券化商品のリサーチで有名な江川由紀雄さんが、
「過度な格付会社への締め付けは投資家利益にならない」
という主旨の論文を週刊エコノミストに発表しています
(2013.3.12)。

ご存じのとおり(?)、私のブログの「保険アナリスト」とは
私が格付会社のアナリストだったことに由来しています。
通算すると約16年間、格付アナリストを務めました。

しかし、格付会社を取り巻く環境は、私がいたころとは
だいぶ様子が異なるようです。

米サブプライムローン問題を契機に格付会社への
規制が強まり、日本でも今や格付会社は規制業種です。
金融庁の監督を受け、立ち入り検査もあります。
担当アナリスト(または格付委員会のメンバー)の
ローテーション規制も導入されました。

昨年末には金融庁がS&P(日本法人)に対し、
業務改善命令を出しています。

さらに衝撃的だったのが、米司法省によるS&P提訴です。
「不当な格付により金融機関が損害を被った」として、
この2月に50億ドルもの損害賠償を請求しました。
結果がどうなるかわかりませんが、すごい金額ですね。

格付会社の抱える構造的な問題は、主な収入源が
評価を依頼した発行体からの手数料に依存していることです
(投資情報からの収入だけでは厳しいのです)。

そこで格付会社では、経営が格付決定に関わらない、
投資家等に対して格付基準や評価を説明する、など、
利益相反の問題とならないような仕組みを構築しています。
規制の役割はその仕組みの実効性を確保することです。

ところが、まるで官庁のように担当を頻繁に変えるとか、
結果的に間違ってしまった評価に対して懲罰的に臨むとか、
これでは格付部門に対する発行体や他部門からの圧力が
弱まったとしても、格付の質は相当犠牲になりそうです。

マニュアル通り、あるいはスコアリングモデルで
格付を決めるのであれば、もはやアナリストは不要です。
ただ、そんな格付が投資家にとって有益とは思えないのですが。

※写真は最終日朝の東横線・渋谷駅です。

 

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