13. 保険マスコミ時評

変額保険は買いか?

3月17日発売の週刊ダイヤモンドは保険特集「保険大激変」でした。
しばらく前から、ネット(ダイヤモンド・オンライン)で記事をアップしてから紙媒体で掲載という形になっていましたが、いよいよ4月から紙媒体の書店売りがなくなるそうです。時代の流れを感じます。

このところの変額保険ブーム?を踏まえ、特集の「Part 1」のトップは変額保険に関する記事でした。
私は現在の変額保険人気についてやや懐疑的に見ていまして、死亡保障として売るのであればともかく、資産運用商品としての加入者にとってのメリットは相続関係だけではないかと思ってしまうのですが、激論!変額保険「推進派vs否定派」という覆面座談会の記事を読んでも、推進派のおっしゃるメリットがよくわかりませんでした。
例えば、「変額保険の運用は、証券会社で口座を開設して自分で投資信託を買って運用するよりも優れていることもある」とありました。しかし、そのような客観的なデータがあるのでしょうか。「膨大な数の投資信託の中から良いものを選ぶのは、とてもハードルが高い」のはそうだとしても、だから選択肢が絞られている変額保険がいいという結論になるのは、やや議論に飛躍があるように思いました。
最近の変額保険の新商品は、保険料払込免除(P免)特約が充実していたり、告知が不要だったりする傾向にあるのですね。もっとも、保険会社はP免特約を賄う保険料を設定しているでしょうし、告知不要への対応もしている(そうでないと認可が下りないと思います)ので、そのぶんだけ資産運用商品としての魅力は削がれているはずですよね。
こうしたことをあれこれ考えるきっかけになる、時宜に合ったいい企画だったと思います。

覆面座談会といえば、代理店に出向している損保会社社員(転籍者を含む)による座談会記事も興味深く読みました。
「出向の場合は、だいたい損保会社に給与の4割程度を負担してもらえますが、転籍させるとそれはなくなる」「以前は出向元から『自社の契約を増やすように営業して、シェアアップを目指せ』と言われていました」なんて発言もありました。
今回問題となったのは乗合代理店ですが、専属代理店のあり方についても見直しが必要なのでしょうね。

※今年も学位記を渡すことができました。

 

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急務なのは会計見直しではないか

生命保険会社の第3四半期(4-12月期)決算を受けた報道ですが、さすがにこれはひどいミスリード記事だと思いました。
2月20日の日経「生保 国内含み損11兆円」という記事で、「保有資産入れ替え急務」という小見出しまで付いています(さらに言えば、紙の新聞では同じ面に「農林中金、運用の改革急ぐ」という記事があり、あたかも次は生保と言わんばかりの構成です)。
今回はベトナムの話を書こうと思っていたのですが、こちらを取り上げることにしました。

生命保険会社は多額の超長期債を保有しているため、金利上昇により国内債券の含み損が拡大しているのは事実です。しかし、あたかも生保が資産運用に失敗し、含み損の解消が急務とでも言うような見出しと内容は事実に反しています。
来年度から新たな健全性規制が導入され、経済価値ベースの貸借対照表をベースにしたソルベンシー・マージン比率が入るのは、少なくともご担当のかたならよくご存じのはず。それなのに資産サイドの時価変動だけに注目した記事が大々的に出てしまうのは、いったいどうしてなのでしょうか。

金利上昇によって生じた国内債券の含み損に注目するのであれば、「責任準備金対応債券という保有区分が認められていて、含み損益が実現しなければ収益に与える影響は限定的」などという説明よりも、

・負債サイドの評価はどうなっていて、全体としてどうなのか
・金利上昇でどの程度の解約が生じ、それが債券の実現損につながっているのかどうか
・国内債券の減損を求められる可能性(およびその是非)について
・経済価値ベースでは意味のない国内債券の入れ替えを各社はなぜ行っているのか

などを取り上げてほしいです。
この記事を見た契約者が心配になって解約に走らないことを祈ります。

日経報道だけではなく、Bloombergでも「大手生保3社で国内債売却損4700億円、運用資産健全化-4~12月」と、国内債券の含み損を問題視する論調です。他方で、内部管理上の経済価値評価に基づいた指標を公表していても、どのメディアも報道しません。
特に決算報道では、メディアの関心は会計損益とその変動要因にあるようなので、つまるところ会計を変えないと、せっかく新たな健全性規制を入れても、いまの報道姿勢は大きく変わらないおそれがあります。

拙著『経済価値ベースのソルベンシー規制』の第3章で述べたように、金融庁は契約者保護の観点からも、企業価値の向上を目指す観点からも、保険会社の経営内容を把握するうえで、経済価値ベースのソルベンシー規制と親和的な監督会計(結果として会社法や金商法の会計も変わります)の策定を急ぐべきだと、改めて強く思いました。

念のため、過去のブログ記事もリンクしておきます。
国内債の含み損(2024.8.18)
「中堅生保、債券偏重の死角」(2024.9.14)

※ホーチミンで開業したばかりのメトロに乗りました!

 

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ガバナンス改革とメディア

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1264(2025.1.13)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。前回のブログ記事(次期社長の選任)がやや舌足らずだったので、同じテーマを取り上げました。
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次期社長の選任

皆さま、本年もよろしくお願いいたします。
さて、新年最初の個人ブログ(保険アナリスト植村信保のブログ)では、気になるニュースとして日本生命保険の社長人事報道を取り上げました。
日本生命は2022年にコーポレートガバナンス体制を刷新し、監査等委員会設置会社に移行するとともに、社外取締役が過半数を占める「指名・報酬諮問委員会」を設置しました。つまり、社長選任のプロセスが従来とは大きく変わったはずなのですが、残念ながら今回の社長人事でも、「現社長から『次を頼む』と告げられ、即断した」という記事はあっても、新たな選任プロセスを踏まえた報道は見当たりませんでした。

「社長が社長を選ぶ」でいいのか

読者の皆さんのなかには、今の社長が次の社長を選ぶのは当然と考えているかたが多いかもしれません。しかし、コーポレートガバナンスの観点、すなわち経営者への規律付けという観点からすると、現社長が次期社長を選ぶのは好ましくありません。現社長が有能な後継者を選ぶとは限りませんし、社長OBがいつまでも社内で力を持ち続けることになりかねません。
社長やCEO(最高経営責任者)の選解任は取締役会の仕事であり、持続的な成長のためには無能な経営者を選ばないように、客観性・透明性の高い手続きが求められています。

上場企業の行動原則を定めた「コーポレートガバナンス・コード」には、「取締役会は、CEOの選解任は、会社における最も重要な戦略的意思決定であることを踏まえ、客観性・適時性・透明性ある手続に従い、十分な時間と資源をかけて、資質を備えたCEOを選任すべきである」(補充原則4-3(2))とあります。

ガバナンス改革とメディアの役割

日本生命は上場企業ではなく、コーポレートガバナンス・コードの適用対象ではありませんが、相互会社に該当しないと考えられるものを除き、ガバナンス・コードの各原則のすべてを実施しているとのことです。日本生命が任意に設置した指名・報酬諮問委員会は、社長の選解任を支援する機関であり、ガバナンス・コードに沿った取り組みでもあります。
しかも、日本生命の社外取締役で、指名・報酬諮問委員会の委員長を務めている牛島信弁護士のインタビュー記事によると、前回の社長選任でも社外取締役との打ち合わせが何度も行われたそうなので、今回もガバナンス上、きちんとしたプロセスを踏んで社長を選任したのではないかと思います。

問題はこうした選任プロセスを報じないメディアの姿勢です。もちろん、詳細な説明をしない会社にも問題はありますが、メディアは記者会見などでもっとガバナンスに関する説明を求めるべきです。
ガバナンス改革が進み、形式面だけではなく実体を伴っているかが問われているなかで、メディアはいつになったら「社長が社長を選ぶのを当然視したかのような報道はおかしい」と気づくのでしょうか。
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※今年最初の海外旅行はソウルでの学会発表でした。

 

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次期社長の選任

皆さま、本年もよろしくお願いいたします。
例年とちがい、今年はこの土日まで正月休みのようでいいですね。明日(6日)からは通常運転に戻らなければ。

さて、多忙な12月にスルーしてしまった「気になるニュース」に、日本生命の社長人事の報道がありました。何が気になったのかと言うと、次期社長選任のプロセスについての報道が従来と変わっていなかったからです。
日本生命のニュースリリースには取締役会の決定事項しか掲載がなく、記者会見でも質問がなかったためか、社長選任プロセスに関する報道は相変わらず以下のようなものでした。

「『次を頼む』。日本生命保険の朝日智司副社長は11月下旬、清水博社長から次期社長の打診を受けた」
(2024年12月19日の日経新聞)

「清水氏から後任を打診されたのは11月下旬。数々の出資・買収を主導し、事業拡大の土台づくりにめどを付けた清水氏から『次を頼む』と告げられ、『果たす役割があるなら全力を尽くしたい』と即断した」
(2024年12月22日の時事通信ニュース)

「国内保険事業に精通した朝日氏の登用で、着実な成長を続ける狙いがある」
(2024年12月19日の朝日新聞)

「清水氏は『多面体を広げていくには中心がしっかりしていないといけない。その中心は国内生命保険事業だ』と強調。営業経験が豊富な朝日氏を後任に選び、人口減少で市場の縮小が見込まれる国内保険事業についても強化していく構えを鮮明にした」
(2024年12月19日の毎日新聞)

日本生命は2022年にコーポレートガバナンス体制を刷新し、監査等委員会設置会社に移行するとともに、社外取締役が過半数を占める「指名・報酬諮問委員会」を設置しました。つまり、次期社長は現社長が決めるのではなく、指名・報酬諮問委員会の審議を経て、取締役会が決め、総代会の決議を求めるという流れのはず。清水さんが社長になったとき(2018年)とは選任プロセスが変わったはずなのですが、残念ながらその違いが外部からは全く見えませんでした。

同委員会の委員長を務める牛島信弁護士は約1年前、2023年12月19日のNIKKEI Financialのインタビュー記事で前回の社長人事について、「当時の筒井社長が次期社長の選任にあたって、社外取締役と話し合わないといけないと強く考え、3〜4回、話し合いの場を持った」と語っています。
さらに、「(新体制でも次の社長は)取締役会で決めることになるが、指名・報酬諮問委員会の考えが重視されるだろう」とも述べています。しかし、今回の人事について日本生命からは今のところそのような説明はなく、メディアもまるで現社長が次期社長を決めたかのような報道を続けています(もしかしたらそうなのかもしれませんが)。

詳細な説明をしない会社にも問題はありますが、メディアは記者会見などでもっとガバナンスに関する説明を求めるべきです。特に日本生命は相互会社形態で株主が存在しないので、こうした機会にメディアがしっかり見ていかないと、経営への規律が働きにくいということを理解してほしいですね。

ということで、本年も引き続き週1くらいのペースでブログを更新していくつもりです。
お付き合いいただければ幸いです。

 

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今年の『生保・損保特集』

保険業界のいまを知る手掛かりとして毎年この時期に出ている東洋経済『生保・損保特集』ですが、なんと巻末の各社データが消えていました。ここにしか載っていない個社データもあったので、非常に残念です。
作成に手間がかかるのはわかるのですが、インシュアランス統計号もなくなってしまったなかで、東洋経済の特集号のデータ集もなくなるのは大きなダメージです。あとは金融庁にがんばってもらうしかないのでしょうか。

もう1つ、中身で残念だったのは、損害保険業界勢力図のタイトルが「政策株売却で利益急拡大」となっていて、政策保有株による益出しがなくなると「自然災害などで巨額損失が今後発生したときに、それを穴埋めする含み益がなくなってしまう」のを難題としている点です。
ステークホルダーの代弁者たるメディアが会計利益の安定的な計上を求めるのはどうしてなのでしょうか。こちら(過去のブログ)で書いたとおり、含み益を実現しても会社価値は高まりません。「異常危険準備金が枯渇しそうになると、政策保有株の売却益を振り向けて手当て」したというのも、あくまで結果としてそうなっただけで、準備金積み立てのために益出しをしたのではありません(そんなことをしても会社価値にはニュートラルです)。
もしかしたら「難題」なのは政策株の売却で余剰になった資本をどうするかであって、リスクをとっている以上、リターンが変動するのは当たり前の姿です。メディアには毎期の会計利益の変動ではなく、今後はESRの変動(あるいは分子・分母それぞれの変動)に注目してほしいです。

さて、最近の特集号はテーマごとに外部ライターのかたが保険会社に取材して、記事にしたものが中心となっています。そこで、ライターの皆さんがどこの会社を取り上げたのか確認してみました。

「保険のノウハウやビッグデータが貢献」
⇒ 住友生命、第一生命、日本生命、ADI、SOMPO、東京海上、MSI

「進化する『人財像』創意と工夫の育成策」
⇒ 住友生命、東京海上、第一生命、ADI、MSI、日本生命、SOMPO、明治安田

「最先端AI活用で保険業務が急速に進化」
⇒ 第一生命、住友生命、日本生命、MSI、SOMPO、ADI、東京海上

「もう保険だけではない!ワンストップで支援」
⇒ 住友生命、第一生命、日本生命

「成長のカギにぎる保険会社の新領域」
⇒ 第一生命、住友生命、日本生命、SOMPO

「サイバー攻撃への備え 地球環境や物流問題も」
⇒ ADI、SOMPO、MSI、東京海上

「芸術活動を後押し 若い才能も育成」
⇒ 日本生命、第一生命、ADI、MSI

「アスリートの力でウェルビーイングへ」
⇒ 日本生命、第一生命、MSI、SOMPO、ADI

 *記事での紹介順。MSIは三井住友海上、ADIはあいおいニッセイ同和

取り上げている事例がここまで特定の会社(大手生保3社と大手損保3グループ)に集中しているとは思いませんでした。明治安田が少ないのは何か事情がありそうですが、おそらく他の会社には取材していないのでしょう。市場シェアを踏まえると、生保はもう少し視野を広げていただいたほうが読者としてはうれしいですね。

全体としてなんとなく辛口のコメントになってしまいましたが、こういう見方もあるということでご理解ください。

※日田で見つけました。「にっぽんがん」と読むようです。

 

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「中堅生保、債券偏重の死角」

9月11日の日経記事「中堅生保、債券偏重の死角」(電子版(会員限定)では9日)をみて、思わずため息をついてしまいました。

記事の主な内容は次のとおりです。

・ソニー生命は2024年4-6月期に債券の売却損を株式売却益などで補えず、キャピタル損益を反映した基礎利益が赤字になった。
・同社は金利上昇で保険契約の中途解約が急増し負債側の年限が縮小。資産の年限を縮めるため保有国債の一部を売却せざるをえなくなった。
・生保は保有資産の含み損益を加味して資産を売却する。売却損を出す場合、同時に含み益のある資産を売却して補うのが一般的だ。

これ(特に3点め)を読んで、特段の違和感を覚えなかったかたは、伝統的な金融村の文化に相当毒されています。ALMとか経済価値ベースとか言う以前に、そもそも「保有資産の含み損益を加味して資産を売却」する投資家とは、いったい何を目指して資産運用を行っているのでしょうか。考えられるのは1つだけ。会計損益の安定です。
しかし、生保をはじめ金融機関による資産運用の目的は会計損益の安定ではなく、リターンを上げて会社価値を高めることであり、そのためにポートフォリオを組んでいるはずです。それを「債券で売却損が出るから、同時に株式で売却益を出す」なんてことをしたらポートフォリオが崩れ、目指す期待リターンも変わり、何をしているのかわからなくなってしまいます。

多額の株式を保有する生保の運用担当者が日経の記者さんに吹き込んだのかもしれませんが、このような考えのもとで株式を保有している生保があるとすれば、株式含み益を経営バッファーとしてあてにしていた(いわゆる益出しですね)1990年代前半までの生保経営と同じです。そんな資産運用はありえないと、どうして記者さんもデスクも思わなかったのでしょうか。

記事の後段には「生保各社は債券中心の手堅い運用にシフトしてきた」とあります。しかし、生保は手堅い運用を行うためではなく、負債の金利リスクをヘッジすることで会社価値の振れを抑えるために超長期国債を購入してきました。金利上昇に伴い保有する超長期債の価格が下がるのは初めからわかっていたことであって、経済価値ベースのバランスシートは改善しているはず。含み損を処理すべきという合理的な理由はなく、「債券偏重の死角」ではありません。
金利上昇局面における生保経営者の悩みとして挙げるとすれば、資産運用の巧拙よりも、「金利上昇に伴う解約をどの程度まで考慮すべきか」「現行会計のもとで金利上昇で価格が下がった超長期債の減損を求められないか」などではないでしょうか。

ちなみに2点めに関しては、昨年度からの解約増加はドル建て保険が中心だと思いますし、残高が減ったのは「その他有価証券区分」の公社債なので、本当にこの説明のとおりなのかは疑問なのですが、ソニーフィナンシャルグループの決算発表資料をみると、確かに「金利上昇の影響を受け、ALM(資産負債の総合管理)の考え方に基づくリバランスを目的とした債券売却により一般勘定における有価証券売却損益が悪化した」とあります。
9月決算ではもう少し説明があるといいですね。

※写真はパリです。

 

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家計が生保離れ?

8月21日の日経新聞に「家計、生保離れ 1.8兆円流出」という記事が載りました。記事はこちら(有料会員限定)です。

資金循環統計によると、2024年1-3月期に家計の貯蓄性の保険が約1.8兆円流出し、他方で投資信託が伸びていることから、「保険から投資へ資金が動いている」という専門家の見方を紹介しています。
記事の元ネタはこちら(第一生命経済研究所のサイト)になります。
ちなみに資金循環統計の「生命保険受給権」とは、個人保険の責任準備金から危険準備金を控除したものを積立型保険の準備金とみなし、これに契約者配当準備金を加えたものとのことです。

生命保険協会が公表している四半期ごとの損益計算書によると、確かに2024年1-3月の解約返戻金は約3.5兆円(個人保険が大半を占める)と、2022年4-6月に次いで大きくなっていて、いずれも円安が進んだタイミングにあたります。一時払いの外貨建て保険の解約が多かったのでしょう。
他方、2024年1-3月期だけの一時払い保険料データはありませんが、2023年度全体の一時払い保険料は約10兆円なので、2024年1-3月期に限ればネットで流出だった可能性はあります。

ただし、保険料収入は2022年度から一時払いを中心に増加傾向が続いていることから、この2年間はざくっと見て毎四半期に2、3兆円の流入があり、やはり2、3兆円の流出(解約)があるといったところでしょうか。これを「保険から投資へ」と言えるかどうかは微妙で、むしろ外貨建て保険の回転売買のほうが心配だと思いました。

※夏の帝国ホテルです。ちなみに冬はこちら。

 

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国内債の含み損

生命保険会社の2024年4-6月期決算では、長期金利の上昇によって保有する国内公社債の時価が下がり、各社の「含み損」が拡大。その点に着目した報道がいくつかありました。

生保の国内債含み損、08年以降で最大に(日経・有料記事)
大手生保4社、国内金利上昇で債券評価損が拡大(Bloomberg)

国内債の含み損拡大は、リスクをとった結果、期待に反して損失が発生した、つまり資産運用で失敗したというのではありません。会社全体としては金利リスクを小さくしているにもかかわらず、保険会社が資産サイドの時価情報しか公表していないため、あたかも損失が膨らんだかのように見えてしまうという話です。「満期保有目的の債券」や「責任準備金対応債券」だから時価評価しなくてすむ(したがってソルベンシーマージン比率はほとんど下がらないですよ、Bloombergさん)、というのは本質的な論点ではなく、経営状態を示すうえでの情報開示や説明が足りないということではないかと思います。経済価値ベースのバランスシートが公表されていれば、こうした誤解は起きにくいかもしれません。

とはいえ、現行の保険会計は経済価値ベースのソルベンシー規制導入後もそのままなので、さらに金利が上がり、国内債の含み損が拡大すると、監査人から減損処理を求められるのではないかという懸念はあります。時価下落の原因が信用リスクの増大ではなく、市場金利の上昇だけであれば、オーバーパーの債券でないかぎり「回復見込みがある」と言えそうなものです。どうなのでしょうか。
ただし、解約の可能性をどの程度考えておくべきかという難しい問題はあります。解約返戻金を支払うために、含み損を抱えた国内債の売却を迫られることになるかどうかです。このところ一部で注目されている「ESRの大量解約リスク問題」にも通じるところがあるのですが、経営不安に伴う解約増加の過去データはあっても、金利が上がるとどの程度解約が増えるかという日本の過去データは見当たりません。それに、銀行が預金代替として販売した一時払いの貯蓄性商品と、遺族保障ニーズに応じた平準払いの長期保障性商品では、金利感応度はかなり異なるでしょう。一律に線を引くというのは無理があるように思います。

いずれにしても、メディアの不勉強を責めるのは簡単ですが、金融市場や規制などの経営環境が変わる場面では、とりわけ丁寧な情報開示が必要ではないでしょうか。

※訳あって広島に来ています。

 

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資産運用成果の報道

GPIF 昨年度の運用実績 過去最大45兆4000億円余の黒字に(NHK)

昨年度のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用実績が45.4兆円の黒字だったという報道です。国内債券はマイナスでしたが、内外株式の時価上昇が大きく寄与しました。ちなみにGPIFの2023年度末の運用資産額は246兆円です。

「大学ファンド」昨年度純利益 1000億円超の黒字 文科省やJST

国が重点的に支援する「国際卓越研究大学」などへの財源として、国が10兆円規模で運用している「大学ファンド」の運用による純利益が1167億円の黒字だったという報道です。こちらはGPIFとはちがい、実現損益に注目していることになります。ちなみに2023年度の大学ファンドの運用実績は9934億円でした。

たまたま情報を入手しやすいNHKニュースを取り上げていますが、他の報道機関も概ね同じ傾向です。同じ資産運用の成果を報道しているのに、どうしてGPIFでは2023年度の収益額(=運用実績)を報道し、大学ファンドでは運用実績ではなく当期純利益(=実現損益)を報道するのでしょうか。大学ファンドの運用成果を知りたいのであれば、実現損益に意味があるとは思えません。売却すれば実現益はいくらでも「操作」できますよね。

私は農林中金の一連の報道にも強い違和感を感じました。農林中金は総資産の6割を占める「市場運用資産」の約7割を外国債券と海外クレジット投資に振り向けた結果、期待に反し、海外金利の上昇で時価が下落してしまいました。すでに2022年度末には時価下落(=運用の失敗)がわかっていたにもかかわらず、大きなニュースになったのは、農林中金が多額の含み損を処理するとなってからでした。
しかし、重要なのは損失の処理ではなく、損失の発生だと思うのですね。実現損益を出さなければ問題にしないのは、会計の呪縛としか言いようがありません。

それとも読者は実現損益を知りたいのであって、こんなことを書く私が少数派(=そういう人は自分で調べればいい)ということなのでしょうか

※韓国・大邱は教会の町でした。

 

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売買上手のJリーグに

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1240(2024.7.8)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。今回取り上げたのは「カズ」の人気コラムです。
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カズの新たな挑戦

サッカー元日本代表のカズこと三浦知良選手は、私と誕生日が3日違いの同い年で、勝手に親近感を抱いています。先日ポルトガルから帰国し、今月からJFL(公式サイトによると、企業チーム、Jリーグ入会を目指すクラブ、地域のアマチュアクラブなどが参加するリーグ)のアトレチコ鈴鹿クラブに期限付きで移籍加入し、現役選手としてプレーすることになりました。14日から自身の持つJFL最年長ゴール記録の更新を狙い、ゴールと勝利を目指します。
さすがに近年は出場機会が減っているようですが、57歳になってもプロスポーツの世界で挑戦し続ける姿には圧倒されます。

コラム『サッカー人として』

日本経済新聞を読んでいるかたであれば、三浦選手の連載コラム『サッカー人として』をご存じだと思います。私はこのコラムの愛読者でして、時々「本当に本人が書いているんだろうか?」と思うような鋭い内容もあって、おすすめのコラムです。

6月7日掲載の「売買上手のJリーグに」もそうでした。欧州と日本のサッカー市場を比べた内容で、日本のスポーツ界はせいぜい「出したお金の元がとれるかどうか」という発想なのに対し、欧州は投資した資産の価値を高め、ベストの売り時を逃さないという意識でビジネスをやっていて、選手も条件次第で出ていくことにためらいはない。同じサッカーでも全く違う世界だというのですね。
その結果、欧州ではJリーグに所属する選手の商品価値はないに等しく、Jリーグは日本選手をタダ同然で欧州に譲り、そこで活躍して市場価値が跳ね上がるという構図だとか。コラムではわかりやすく極端に述べている面はあるにせよ、これは日本選手の実力の問題ではなく、日本のスポーツビジネスが世界標準ではない、あるいは世界と同じ土俵ではないということなのでしょう。これは強烈な指摘です。

グローバル保険グループを目指している大手保険グループの国内事業が、30年前と変わらないトップライン重視、シェア重視だったり、あるいは、いまだにリスクマネジメントの専任担当者を置かず、保険購買を人事・総務部門や企業内代理店に委ねている大企業が決して少なくなかったりするのを見ると、日本企業がグローバルな資本市場から高く評価されないのは当然かもしれません。カズの指摘と同じなのですから。
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※福岡に来た息子からプレゼント!

 

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