13. 保険マスコミ時評

新契約ANPの内訳開示を

このグラフは大手生保4社の個人保険の新契約年換算保険料(ANP)の推移を示したものです。このところ総じて好調に見えますが、第一生命を除き、近年の新契約ANPは保険料を一括して支払う一時払保険の販売動向が大きく寄与しています。
なかでも2025年度の増収は、営業職員チャネルによる一時払保険によるものとみられます。

もっとも、大手生保はチャネル別の新契約ANPを任意に開示しているとはいえ、一時払いと平準払いを分けていなかったり、グループベースの開示だったり、さらには数年ごとに定義が変わったりするので、利用者としては一苦労です。各社が任意開示した保障性商品や銀行窓販の動向なども参考にして、何とか全体像が浮かび上がるといったところでしょうか。

新契約ANPは保険料収入や新契約高に比べれば、各社の業績を知るうえで有益な指標です。しかし、現在の「個人保険」「個人年金保険」「うち医療保障・生前給付保障等」というくくりだけではなく、業界統一でより詳細な内訳を開示すべきではないかと思います。
1月18日のブログ「生命保険市場の変化」でお伝えしたように、生命保険協会では商品別、払込方法別、通貨別のデータを取りまとめ、「生命保険事業概況」のなかで外部に提供しています。ここまで詳細ではないにしても、決算発表時には少なくとも一時払いと平準払いに分けた開示と、通貨別の開示は必須ではないでしょうか。

例えば、24年度の新契約ANPの上位5社は次の通りです。

・日本:2340億円(うち一時払が562億円)
・第一フロンティア:2294億円(同2292億円)
・ニッセイ・ウェルス:2043億円(同1986億円)
・ソニー:1808億円(同306億円)
・かんぽ:1752億円(同1105億円)

参考までに、平準払の上位5社は日本、ソニー、アクサ、第一、大同で、一時払の上位5社は第一フロンティア、ニッセイ・ウェルス、三井住友海上プライマリー、かんぽ、TDFでした。一時払保険は保険料が大きくなるので、両者をまとめてしまうと、平準払の保障性商品の動きを見失いがちです。
関係者の皆さんは、ぜひ正しく理解してもらうための環境整備をお願いします。

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【7/2加筆】
某保険会社アクチュアリーのかたから、「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する保険業法施行規則の一部改正」のなかで、2025年度から「平準払、一時払について、保険種類の区分ごとの、通貨別の新契約年換算保険料及び保有契約年換算保険料」の開示を求められるようになったというご指摘をいただきました。開示はこれからのようですが、できれば前倒しで決算発表時にも開示があるといいですね。
ご指摘ありがとうございました。
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ちなみに6月17日の日経電子版に「生保販売「営業職員」経由に回帰(会員限定)」という興味深い記事が出ました。主要生保9社にアンケート調査を実施し、新契約ANPを主要な販売チャネル別に集計したところ、2025年度は営業職員チャネルの新契約ANPが金融機関の窓販チャネルを3年ぶりに上回ったというものです。
こうした独自調査の記事は大歓迎なのですが、できれば元データそのものも数表として出してほしいところです。インシュアランス統計号がなくなり、週刊東洋経済の保険特集号も(昨年だけかもしれませんが)出なくなってしまったなかで、残るメディアには取材活動とともにデータを含めたファクトの提供をぜひ頑張ってほしいです。

なお、この日経記事に関して言えば、25年度の営業職員チャネルの増収約1300億円には、日本生命と明治安田生命の一時払保険の販売拡大がかなり寄与していると見ています(おそらく約1000億円)。他方で25年度には両社の解約返戻金が急増しているのですが、これが円安に伴う外貨建保険の解約なのか、あるいは営業職員チャネルの一時払保険の販売増加と関係があるのか、証拠不十分で何とも言えず、気になるところです。
より本質的には、こうした大手生保の営業戦略が持続可能なのかという疑問もありますが、それは別の機会にしましょう。

※福岡でプラネタリウムの国際会議が開催されていました。

 

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規制が新しくなったのですが…

この週末は長崎に滞在していまして、短めのブログです。

5月22日の日経電子版に「生命保険会社選び、健全性や信用力を吟味 破綻時の影響も注意」という記事が出ていました。このタイミングですから、新たなソルベンシー規制を紹介する内容、あるいは少なくとも規制見直しについて触れていると思いますよね。
ところが読んでみると、確認すべき代表的な指標として最初にソルベンシー・マージン比率(SMR)が挙がっているのですが、

「値が高いほど健全性が高いといえ、一般的に200%超なら一定の安全性があるとされる。2025年3月末時点で200%を下回る生命保険会社は無く、最も高い会社は3000%超、最も低い会社は500%台だ。国内大手生保4社の平均は835%なので一つの目安になるだろう」

という記述。旧SMRの数値を紹介し、新規制への言及が全くないということは、おそらく筆者のかた(外部ライター)は規制が変わったことをご存じないのでしょう。日経にこうした記事がそのまま載ってしまうことにも驚きましたが、金融庁は規制が変わったことを一般にもっと伝えたほうがいいのではないでしょうか。

もちろん、実際に新たな数値が出てこないと、ピンとこないというのもわかります。上場保険会社グループの決算発表では内部管理上のESR(経済価値ベースのソルベンシー比率)の開示は続いているものの、規制比率も同時に開示した会社は少ないようです。実際にもっと数値が出てきたら、それらを取り上げる媒体も出てくるのではないかと期待しましょう。

なお、5月11日に始まったダイヤモンド保険ラボの連載「新規制ESRの衝撃」は、先週の森本祐司さんによる論考「『経済価値ベース』とは何か」に続き、今週もありますのでご期待ください。

 

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なぜ債券含み損にこだわるのか?

どうも日経記事は生保の含み損益に過度に注目する傾向がある(あるいは、一般勘定で株式投資をするべきだと言いたい?)ようです。
5月9日にアップされた「金銭詐取疑いで揺れるソニー生命 含み損処理で新たな火種(会員限定)」では、「ソニー生命は保有債券の含み損が多い。解約増で売却を迫られれば、収益への影響は大きい」と報じ、大手4社では株式含み益と債券含み損が打ち消しあっているのに対し、ソニー生命は債券偏重なので含み損が大きいという図表を示しました。

では、営業職員による金銭詐取が発覚し、販売活動の自粛を続けているプルデンシャル生命(POJ)はどうなっているのでしょうか。
親会社プルデンシャル・ファイナンシャルは4月21日に、POJの既契約からの利益が2026年には最大10%、2027年には最大15%減るという見込みを公表しましたが、ソルベンシー比率やキャッシュフローへの大きな影響はないとしています。
さらに、5月6日開催のIRミーティングでは、1-3月期における販売自粛による損益への影響は1.3億ドル(約200億円)で、このうち、0.5億ドルが顧客対応、0.5億ドルが営業職員への手当で、販売自粛と解約に関する損失は0.3億ドル(約46億円)とのことでした。POJもソニー生命と同じく、多額の債券含み損(昨年12月末時点で8950億円)を抱えていて、この0.3億ドルに売却損が含まれている可能性もありますが、そうだとしても大した金額ではありません。影響は2月からなので、さらに膨らむのは確実とはいえ、IR資料や質疑応答からはPOJの保有契約が急減しているとは読み取れませんでしたし、債券含み損に関するアナリストからの質問もありませんでした
(むしろ、「POJでは保有契約からの利益が全体の90%を占めるので脆弱ではない」とコメントしています)。

確かに解約が殺到すれば、保有債券の売却を迫られ、売却損を計上することもありうるでしょう。ただし、平準払いの商品を中心に販売してきた生保では、手元のキャッシュのほか、既契約からの保険料が常に入ってきますし、保有債券の償還もあります。公表資料によると、ソニー生命は既契約から毎年約1兆円の保険料収入がありますので、解約が多少増えても、ただちに保有債券の売却とはなりません
(ちなみに近年ソニー生命の解約返戻金が増えているのですが、他社動向を踏まえると、おそらく経営者向け保険の解約が増えたためではないかと思います)。

それに、この件で解約が殺到するという確率は極めて低いでしょう(新契約が取れなくなる可能性はあると思いますが…)。
仮に、担当した営業職員が犯罪に手を染めていたとしても、平準払い商品の場合、そもそも保障が必要だから加入しているので、「裏切られた。解約だ!」とはなりにくいです(特にソニーやPOJは義理人情ではなく、コンサルティングセールスを標榜してきました)。
しかも、他社に乗り換えたくても、加入してから時間がたっていなければ解約控除がかかりますし、時間がたっていれば被保険者の年齢が上がっていて、新たな保険に加入しにくくなっているはずです。

3月28日のブログ(生保解約返戻金の増加)と同じく、この時点でソニー生命の債券含み損にことさら言及するのは、やはりミスリードと言わざるを得ません。

※横浜・山下公園のバラです。

 

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生保解約返戻金の増加

3月26日の日経に「生保解約金3.8兆円 最高に(会員限定)」という記事が出ていました。「金利上昇を受けて、既存の生命保険を解約して新しい商品に乗り換える動きが広がっている」とのことで、見出しには「投信・国債にマネー流出」とありました。
ちょっと気になったので自分で調べてみたところ、次のようなことがわかりました。

25年10-12月の解約返戻金が3.8兆円に達したのは記事のとおりです(生命保険協会のサイトで確認できます)。直前の7-9月期が2.9兆円だったので、1兆円近く(正確には9,324億円)増えたことになります。
そこで個社の解約返戻金の動きを確認したところ、増加した約1兆円のうち、5社だけで全体の75%を占めていることがわかりました。この5社とは多い順に日本生命、第一フロンティア生命、三井住友海上プライマリー生命、メットライフ生命、マニュライフ生命です。

日本生命を除く4社はもともと銀行等を通じた一時払いの貯蓄性商品の販売が多く、かつ、数年前までは外貨建てが中心でした。外貨建ての貯蓄性商品は円安が進むと解約が増える傾向が見られます。25年10-12月期は円安が進んだので、おそらく同じことが起きたのでしょう。
他方、日本生命の解約返戻金が25年10-12月期になぜ急増したのかは、公表資料だけではわかりません。ただ、同じ期の保険料収入も急増していて、なかでも営業職員チャネルでの保険料収入が数千億円増えた模様です。これは25年9月に一時払終身保険の予定利率を1.0%から1.5%に引き上げたことが大きいとみられます。したがって、この期の解約増加と保険料収入の増加は何らかの関係がありそうです。

ということで、個別にはいろいろあるとしても、どうも全体としては「円金利の上昇に伴い、生保マネーが投信・国債に流出している」という話ではなさそうですし、この材料で「保有する債券を売却する必要に迫られる」「解約に伴って含み損を抱えた債券の売却が増えると、計上する損失額は膨らむ」とまで書くのはむしろミスリードだと思います。

※写真は京都の大徳寺大仙院の庭園です。

 

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生保の公社債含み損

1つの政党を除き、どの政党も公約に消費減税(検討を含む)を掲げるとは…
消費税を廃止するというのは、例えば年収300万円(同額を消費)の家計に30万円弱を配るというだけでなく、年収1000万円(うち500万円を消費)の家計にも50万円弱を配るという政策ですし、食料品の消費税をなくすというのは、年収300万円(食料品への消費が100万円)の家計だけではなく、年収1000万円(同100万円)の家計にも約8万円を配布するという政策ですよね。物価高対策として悪手としか思えません。
とはいえ皆さん、選挙には行きましょう。究極の消去法だとしても、意思表示は必要です。

さて、1月23日のBloombergに「金融庁が大手生保の債券含み損など調査、金利上昇受けて-関係者」というニュースが出ていました。31日の日経にも「金利急騰に苦慮の金融庁、生保に矛先 ダボス帰りの片山財務相発端に(会員限定記事)」というのがありました。
いずれの記事も、金融庁が1月中旬から生保(まずは大手4社)の保有する国債などの含み損益やその対応方針について調査を行っているという内容でした。

金利が上昇すれば保有する債券の価格は下がります。例えば、2019年発行で利率0.4%の30年国債の価格は直近で50円近くまで下がっていますし、利率0.5%の40年国債の価格は40円近くまで下がっています。今月半ばに発表される生保の2025年4-12月期決算では、9月末よりも各社の含み損が拡大していることでしょう。
ただし、生保が長期債を保有しているのは、同じく長期にわたる保険負債の金利リスクをヘッジするためなので、資産サイドの保有債券だけに注目しても意味はありません。ましてや、この3月末から経済価値ベースの評価による貸借対照表と、それに基づく数値基準(規制ESR)による規制を始めるのですから、政府は監視強化ではなく、むしろ会計上の評価に神経質となっている保険会社を安心させるべきでしょう(解約動向はよく確認する必要があると思いますが)。

Bloombergの記事で気になったのは、「金利上昇により過去に購入した保有国債の含み損は膨らんでおり、財務の健全性を示す指標の悪化につながりかねないとの警戒感はすでに生保側からも出ている」というところです。
ここで言う「財務の健全性を示す指標」とは何を指すのでしょうか。規制ESRのことだとしたら、保有国債の含み損は関係ありません。保険負債も小さくなっているはずなので、純資産はむしろ膨らんでいるはず。
負債の金利リスクをフルヘッジしていないにもかかわらず、金利上昇でESRが下がるのは、大量解約リスクという、いわば流動性リスクを数値化してしまったことによる影響でしょう。

日経記事にも「低金利時代に国債を買い増したことが含み損の拡大につながり『規制対応が裏目に出ている』(生保幹部)面もあり、場当たり的な監視強化に戸惑いもある」とあります。場当たり的と言わせないよう、金融庁は対話と情報発信をがんばってほしいですね。

※梅の季節になりました。横浜・大倉山の梅林にて。

 

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国際収支と再保険

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1312(2026.1.12)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
大学の冬休みは短く、年末はクリスマスの12月25日まで授業があり、新年は1月5日から授業を再開しています。
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保険・年金サービス収支の赤字拡大

皆さま、本年もよろしくお願いいたします。
ところで、1月7日付け日本経済新聞「保険収支の赤字 年3兆円 海外企業への手数料急増(有料会員限定)」(あるいは電子版の「海外再保険料、支払い10年で9倍 収支赤字は年3兆円超」(同))という記事をご覧になったでしょうか。国際収支統計の経常収支の1項目であるサービス収支において、保険・年金サービス収支の赤字が年々拡大しているというものです。
損害保険分野での再保険手数料というと、出再会社が支払うのではなく、契約獲得費用の補填として受再会社から受け取る手数料のことを指します。トーア再保険の用語集によると、生命再保険には出再会社が受再会社に支払う「再保険者事務手数料」もあるようですが、それにしても年間3兆円もの赤字というのは大きい数字です。

計上方法に疑問あり

そこで、日本銀行国際局が2022年3月に作成した「国際収支関連統計:項目別の計上方法」で「保険・年金サービス」の計上方法を確認したところ、次のとおりでした。

・発生主義で認識した保険料に保険サービス比率を乗じて推計
(保険サービス比率は、事業費の保険料収入に対する比率)
・ただし、生命保険や年金についてはサービス部分の推計を行っていない
・生命保険や年金の保険料および保険金は、契約者の金融資産として「金融収支」のなかの「その他投資」の「保険・年金準備金」に計上

損害保険の場合には、出再会社が支払う再保険料のうち、付加保険料に相当する部分をサービス収支の保険・年金サービスに計上しているとのことです。もっとも、海外再保険のデータを確認すると、出再保険料が10年前に比べてかなり増えているとはいえ、受再保険料もありますし、収支への影響はおそらく0.2兆円程度のマイナスとみられます。
他方で生命保険については、海外出再分の再保険料をそのまま計上しているのではないかと想像していたところ、日銀の説明には「サービス部分の推計を行っていない」「保険料は金融収支に計上」とあるので、文字通り解釈すると再保険料ではないと読めます。とはいえ、出再を実施した会社の公表資料には再保険料としか記載がなく、損益計算書のどこか別のところに「支払再保険手数料」といった大きな項目があるようにも見えません。もしかしたら、既契約ブロックの出再に関する再保険料は保険料ではなく、手数料とみなしているのでしょうか。そうだとしたら、これを主因として「保険収支の赤字」となってしまうのは妙な話ですね。

再保険を使った資産運用

生命保険会社の再保険料は、10年前には年間2兆円程度だったものが、この5年間で急速に増加し、23年度からは10兆円規模に達しています。再保険料には国内会社どうしの取引も含まれるものの、増加の大半は海外への出再です。
昨年11月の投稿記事でご紹介したように、近年、生命保険会社による資産集約型再保険という取引が増えています。11月の記事で筆者は、「この取引の本質は、規制が求めるソルベンシー比率の改善という『おまけ』のついたファンド投資であって、投資先の不透明さや流動性の低さ、リスク対応の難しさなど、かつてのサブプライム問題を彷彿させるものがあります」と述べています。ファンド投資の1形態とみればいいのかもしれませんが、引き続き注目していくつもりです。
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※写真は鎌倉の瑞泉寺です。

 

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「企業は保険リテラシーを高めよ」

日本経済新聞には『私見卓見』という投稿欄があります。12月25日に掲載された「企業は保険リテラシーを高めよ(会員限定)」という松本浩司さん(会社顧問・保険仲立人)による投稿記事をご覧になったでしょうか。
そのなかに次のような提案がありました。

・損害保険会社と企業の関係を「プロ対アマ」から「プロ対プロ」に転換するには、企業の保険リテラシーを高めることが不可欠。
・そのための一歩として、上場企業に「保険購入によるリスクヘッジ状況」の開示を求めてはどうか。
・どのリスクを保険でどこまでカバーしているかを示すことで、保険を経営リスク管理の一部としてとらえる契機となる。

もちろん、問題は企業のリスクマネジメント意識が総じて低いことであって、保険に加入しているかどうかではないという意見もあるとは思います。はじめに保険ありきではなく、まずはリスクを認識し、そのうえで保険を含めた対応策を検討するのがリスクマネジメントの本来あるべき姿です。
とはいえ、それを承知のうえで私も松本さんの意見に賛成でして、既にそのような主張をしてきました(例えば『金融資本市場展望』の投稿記事(有料媒体)など)。

大企業は保険会社にだまされ続けてきた被害者なのでしょうか。一連の損保問題のうち、企業向け保険に関する問題の根底には、企業のリスクマネジメント意識が低く、表面的なコスト(保険料)にのみ関心があり、あとは親密かつ協力的な保険会社におまかせという姿勢があって、それこそが、いびつな取引慣行が今日まで続いた一因だと考えられます。
しかし、残念ながら損保問題を受けた改革のラインナップには、大企業に対して直接働きかけるものはほとんど盛り込まれませんでした(あえて言えば、企業内代理店の特定契約比率規制の適用拡大と、保険会社からの出向者引き揚げくらいでしょうか)。

いくら保険会社に本来あるべき保険取引を求めても、相手にその気がなければ正常化は難しく、むしろ取引自体が細ってしまうかもしれません。金融庁にはぜひ企業向け保険市場の踏み込んだモニタリングを行うとともに、有価証券報告書「事業等のリスク」に、重要リスクのうち保険でカバーしているものを定量的に示すよう、働きかけていただきたいです。

なお、本件に関しては、損害保険会社の開示も不足しています。損保の決算説明資料などを見ても、火災保険全体としての収支が改善しつつあることはわかるのですが、企業向け保険がどうなっているのかを知る手掛かりがほとんど示されていません。
どうしたものでしょうか。

※再建工事中の首里城(沖縄)を見学しました。

 

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生保の営業職員チャネル

1週間ほど前の日経新聞に「生保が営業職の定着策(会員限定)」という記事が出ていました。生保各社が営業職(営業職員のことでしょうか?)の退職を減らす取り組みに力を入れているというもので、主要8社の在籍率の推移を調査したそうです。

まず、8社の調査をしたのであれば、8社のデータ(1年後から5年後まで)を記事中で使うだけではなく、そのまま出してほしかったです。紙の新聞はスペースの制約があるものの、電子版にはありません。メディアはファクトを出すのが重要な役割ではないでしょうか。

そのうえで、入社5年後の在籍率25%というのをどう考えるかです。
拙著『利用者と提供者の視点で学ぶ 保険の教科書』の150ページには、次のような記述があります。

「2005年に発覚した保険金不払い問題を経て、各社は新契約に過度に偏重した営業活動を改め、顧客訪問活動など既契約を重視する営業活動に舵を切りました」

「採用後の教育を重視し、固定給を増やすなど、早期退職を減らす取り組みもターンオーバー(大量採用・大量脱落)の改善に効果を上げたと考えられます」

確かに採用後1年程度で辞めてしまう営業職員はかなり減りました(記事には入社1年後の在籍率が平均71%とありました)。
在籍する営業職員の協力によって採用となった新人職員が、地縁・血縁に頼った販売が一巡すると営業活動が滞ってしまい、早々に退職に追い込まれるとともに、その職員が獲得した保険も短期で解約となるというパターンは、かつてに比べれば減っているのかもしれません。
もっとも、5年後の在籍率が25%まで下がってしまうということは、採用後の教育を重視し、育成期間の固定給を増やし、既契約重視の営業活動に舵を切っても、「採用⇒縁故販売⇒退職⇒解約」というパターンは変わっておらず、サイクルが長くなっただけという可能性もあります。

早期退職は減っていても、大手各社の公表データをつなぎ合わせると、営業職員による保障性商品の販売は総じて低調です。教育制度の拡充や給与体系の改善で在籍率が多少改善したとしても、このビジネスモデルが今後も持続可能なのかという疑問は残ります。

生命保険は本来、主に個人の生死にかかわるリスクマネジメントの手段の1つです。もちろん、ネットが普及した世界でも、「信用できる相手から話を聞いて買いたい」というニーズはあるでしょう。
しかし、いくら「生命保険(保障性商品)はニーズがネガティブなのでプッシュが必要」とか、「○○さんが勧めるのだから大丈夫」ということはあるにしても、そもそも大手4社合計で毎年2万人も採用し、資格取得によるふるい落としもほとんどない職員が、リスクへの備えを相談する相手となりうるのでしょうか。そこに根本的な疑問があるのですね。貯蓄性の強い商品であれば、なおさらです。

個人差がかなり大きいのは承知のうえで、問題の本質は営業職員の退職ではなく、今の採用数や採用方針を続けるのかどうかではないかと思います。

※秋の深まりを感じます。福岡大学にて。

 

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日銀短観のグラフ

日本銀行の全国企業短期経済観測調査、いわゆる日銀短観の業況判断DIは、日本の景気動向をつかむうえで最も注目されている指標の1つです。調査は四半期ごとに行われ、10月1日に直近(2025年9月)の調査結果が公表されています。
ニュースでも大きく取り上げられるのですが、たまたま目にしたNHK夜7時のニュースでは、このようなグラフを使って説明していました。

このグラフを見ると、先行きの悪化が心配になりますよね(特に非製造業)。景気後退が近いのではないかと思ってしまいます。
しかし、グラフをよくよく見ると、非製造業の縦軸は25~35ポイントなので、下がるといっても製造業をはるかに上回る水準です。製造業のものを含め、こういうグラフは作ってはいけない典型的な例ではないでしょうか。

参考までに、日刊工業新聞の日銀短観の記事では、次のようなグラフを掲載していました。多少スケールを修正しているとはいえ、これならミスリードはないでしょう。
企業は先行きを警戒しているものの、景気の基調は底堅いと読むのが妥当と言えそうです。

「こういうグラフは作ってはいけない」という事例は残念ながらメディアで時々見かけます。
作り手に何らかの意図があるのかどうかはわかりませんが、私たちはだまされないように気をつけなければなりませんね。

※この週末は横浜・大倉山のお祭りでした。

 

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メディアの利用時間と信頼度

9月10日からPIVOTというビジネス映像メディアで「いま知っておきたい生命保険・損害保険」「保険ビジネスの未来」という動画が同社のアプリまたはYouTubeで配信されています。
自分ではSNSに流れてくる動画などを観る習慣がなく、拙著『保険ビジネス』のプロモーションとして、果たしてこの動画がどれくらい広がっているの見当もつきません。ただ、複数の同僚の先生に声をかけていただいたので、もしかしたら意外に観られているのかもしれませんね。

以前のブログで紹介したように、総務省の情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査によると、2020年には平日のネット利用時間がテレビ(リアルタイム)視聴時間を初めて上回り、40代までは「テレビ」<「ネット」となりました。その後、2022年調査では休日もネットがテレビを上回り、直近の2024年調査では50代も平日は「テレビ」<「ネット」となっています。
しかも、2020年まではテレビの視聴時間は平日、休日ともに概ね横ばいだったのですが、それ以降は視聴時間が年々減っているようです。

他方で、各メディアの信頼度は直近調査で新聞が59.9%、テレビが58.2%、ネットが27.0%となっていて、30代と70代はテレビがトップ、それ以外は新聞がトップです。10代から30代の新聞閲読時間はゼロに近いのですが、そこそこ信頼されてはいると。ただし、2020年調査では新聞が66.0%、テレビが61.6%だったので、信頼度は徐々に下がっています。
もっとも、新聞やテレビの信頼度が下がったからといって、ネットの信頼度が上がったわけではありません(2020年は29.9%でした)。人々は信頼できないかもしれないと思いつつ、ネットへの依存を高めていることになりますね。

※福岡・百道(ももち)浜のビーチです。

 

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