保険業界のいまを知る手掛かりとして毎年この時期に出ている東洋経済『生保・損保特集』ですが、なんと巻末の各社データが消えていました。ここにしか載っていない個社データもあったので、非常に残念です。
作成に手間がかかるのはわかるのですが、インシュアランス統計号もなくなってしまったなかで、東洋経済の特集号のデータ集もなくなるのは大きなダメージです。あとは金融庁にがんばってもらうしかないのでしょうか。
もう1つ、中身で残念だったのは、損害保険業界勢力図のタイトルが「政策株売却で利益急拡大」となっていて、政策保有株による益出しがなくなると「自然災害などで巨額損失が今後発生したときに、それを穴埋めする含み益がなくなってしまう」のを難題としている点です。
ステークホルダーの代弁者たるメディアが会計利益の安定的な計上を求めるのはどうしてなのでしょうか。こちら(過去のブログ)で書いたとおり、含み益を実現しても会社価値は高まりません。「異常危険準備金が枯渇しそうになると、政策保有株の売却益を振り向けて手当て」したというのも、あくまで結果としてそうなっただけで、準備金積み立てのために益出しをしたのではありません(そんなことをしても会社価値にはニュートラルです)。
もしかしたら「難題」なのは政策株の売却で余剰になった資本をどうするかであって、リスクをとっている以上、リターンが変動するのは当たり前の姿です。メディアには毎期の会計利益の変動ではなく、今後はESRの変動(あるいは分子・分母それぞれの変動)に注目してほしいです。
さて、最近の特集号はテーマごとに外部ライターのかたが保険会社に取材して、記事にしたものが中心となっています。そこで、ライターの皆さんがどこの会社を取り上げたのか確認してみました。
「保険のノウハウやビッグデータが貢献」
⇒ 住友生命、第一生命、日本生命、ADI、SOMPO、東京海上、MSI
「進化する『人財像』創意と工夫の育成策」
⇒ 住友生命、東京海上、第一生命、ADI、MSI、日本生命、SOMPO、明治安田
「最先端AI活用で保険業務が急速に進化」
⇒ 第一生命、住友生命、日本生命、MSI、SOMPO、ADI、東京海上
「もう保険だけではない!ワンストップで支援」
⇒ 住友生命、第一生命、日本生命
「成長のカギにぎる保険会社の新領域」
⇒ 第一生命、住友生命、日本生命、SOMPO
「サイバー攻撃への備え 地球環境や物流問題も」
⇒ ADI、SOMPO、MSI、東京海上
「芸術活動を後押し 若い才能も育成」
⇒ 日本生命、第一生命、ADI、MSI
「アスリートの力でウェルビーイングへ」
⇒ 日本生命、第一生命、MSI、SOMPO、ADI
*記事での紹介順。MSIは三井住友海上、ADIはあいおいニッセイ同和
取り上げている事例がここまで特定の会社(大手生保3社と大手損保3グループ)に集中しているとは思いませんでした。明治安田が少ないのは何か事情がありそうですが、おそらく他の会社には取材していないのでしょう。市場シェアを踏まえると、生保はもう少し視野を広げていただいたほうが読者としてはうれしいですね。
全体としてなんとなく辛口のコメントになってしまいましたが、こういう見方もあるということでご理解ください。
※日田で見つけました。「にっぽんがん」と読むようです。
※いつものように個人的なコメントということでお願いします。
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