01. 保険経営全般

生保の公社債含み損

1つの政党を除き、どの政党も公約に消費減税(検討を含む)を掲げるとは…
消費税を廃止するというのは、例えば年収300万円(同額を消費)の家計に30万円弱を配るというだけでなく、年収1000万円(うち500万円を消費)の家計にも50万円弱を配るという政策ですし、食料品の消費税をなくすというのは、年収300万円(食料品への消費が100万円)の家計だけではなく、年収1000万円(同100万円)の家計にも約8万円を配布するという政策ですよね。物価高対策として悪手としか思えません。
とはいえ皆さん、選挙には行きましょう。究極の消去法だとしても、意思表示は必要です。

さて、1月23日のBloombergに「金融庁が大手生保の債券含み損など調査、金利上昇受けて-関係者」というニュースが出ていました。31日の日経にも「金利急騰に苦慮の金融庁、生保に矛先 ダボス帰りの片山財務相発端に(会員限定記事)」というのがありました。
いずれの記事も、金融庁が1月中旬から生保(まずは大手4社)の保有する国債などの含み損益やその対応方針について調査を行っているという内容でした。

金利が上昇すれば保有する債券の価格は下がります。例えば、2019年発行で利率0.4%の30年国債の価格は直近で50円近くまで下がっていますし、利率0.5%の40年国債の価格は40円近くまで下がっています。今月半ばに発表される生保の2025年4-12月期決算では、9月末よりも各社の含み損が拡大していることでしょう。
ただし、生保が長期債を保有しているのは、同じく長期にわたる保険負債の金利リスクをヘッジするためなので、資産サイドの保有債券だけに注目しても意味はありません。ましてや、この3月末から経済価値ベースの評価による貸借対照表と、それに基づく数値基準(規制ESR)による規制を始めるのですから、政府は監視強化ではなく、むしろ会計上の評価に神経質となっている保険会社を安心させるべきでしょう(解約動向はよく確認する必要があると思いますが)。

Bloombergの記事で気になったのは、「金利上昇により過去に購入した保有国債の含み損は膨らんでおり、財務の健全性を示す指標の悪化につながりかねないとの警戒感はすでに生保側からも出ている」というところです。
ここで言う「財務の健全性を示す指標」とは何を指すのでしょうか。規制ESRのことだとしたら、保有国債の含み損は関係ありません。保険負債も小さくなっているはずなので、純資産はむしろ膨らんでいるはず。
負債の金利リスクをフルヘッジしていないにもかかわらず、金利上昇でESRが下がるのは、大量解約リスクという、いわば流動性リスクを数値化してしまったことによる影響でしょう。

日経記事にも「低金利時代に国債を買い増したことが含み損の拡大につながり『規制対応が裏目に出ている』(生保幹部)面もあり、場当たり的な監視強化に戸惑いもある」とあります。場当たり的と言わせないよう、金融庁は対話と情報発信をがんばってほしいですね。

※梅の季節になりました。横浜・大倉山の梅林にて。

 

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プルデンシャル生命の金銭不祥事

プルデンシャル生命保険の営業社員(退職者を含む)100名以上が、顧客から金銭をだまし取るなどの不適切行為を行っていたというショッキングな事件が発覚しました。
会社が2024年8月から「お客さま確認」を行った結果の概要はこちら(PDF)です。

23日の記者会見をネットで視聴しました。会社は不祥事を招いた原因について、次の3点を挙げています。
1.営業社員の活動管理および報酬制度上の課題
2.経営管理態勢の課題
3.組織風土の課題

不適切行為は1991年からとのことでしたが、同社のLP(ライフプランナー:営業社員)チャネルが変わっていったのは、おそらく2010年代ではないかと見ています。
創業者である坂口陽史氏が築いたLPチャネルは、単に米国流のフルコミッション・モデルを日本に導入したというのではなく、「顧客に生命保険の魔法の力を届ける」という強烈な使命感に支えられていたという認識です(なんとなく宗教的でもありましたが…)。
その後、2001年に親会社の米国プルデンシャルが株式会社化・上場を果たし、2002年に坂口氏が亡くなってからも、おそらくこうした「坂口イズム」はしばらく変わらなかったのだと思います。しかし、2008年からのグローバル経営危機を経て、グループのなかで安定して高い利益を上げていた日本事業への期待が高まる一方、2013年からの日銀による大規模な金融緩和政策で円金利が一段と低下し、それまでのように円建ての終身保険を中心に提供するのが難しくなるなかで、同社は外貨建ての資産形成を意識した保険に舵を切ることとなった模様です。こうした商品戦略の変更が会社の意向なのか、LP主導なのかはわかりませんが、例えば2019年度の新契約年換算保険料の8割弱は外貨建てでした
(ちなみに近年は外貨建てと変額保険の2本柱となっています)。

金融庁は今後どう動くのでしょうか。不祥事への直接的な対応を別にすると、ポイントは2つあると思います。
1つは、同社が示した再発防止策で十分と考えられるかどうかです。
フルコミッション型の報酬はLPだけではなく、営業管理職も同じなので、新契約業績重視の組織風土を払拭するにはビジネスモデルそのものの抜本的な見直しが必要となります。会見では今後報酬制度を見直し、LPの管理を強化し、経営管理態勢を改善するとのことですが、それが正しい処方箋なのかどうか。
そもそも金銭不祥事を起こしたLPがなぜ不祥事に走ってしまったのかを、会社は十分理解しているのでしょうか。不祥事を起こしたLPを擁護するつもりは全くありません。ただ、「業績に過度に連動する報酬制度は、金銭的利益を重視する志向を持つ人材を引き付け、営業社員の収入の不安定さが不適切行為につながるリスクを増大させていました」「金融機関社員として不適切な人材が採用されないよう、採用のプロセスを強化いたします」といった記述を見ると、どこか違和感を感じてしまいます。近年では毎年在籍者の1割強のLPが退職しているようですし、問題の根幹は「不適切な人材」なのでしょうか。

もう1つは、フルコミッション・モデルそのものにメスを入れるかどうかです。つまり、これはプルデンシャル生命だけの問題なのか、あるいは、このモデルで顧客本位の業務運営を行うにはリスクが大きすぎると判断するかどうか。
昨年8月に金融庁(関東財務局)が行政処分を行ったFPパートナーの件では、顧客の意向よりも代理店経営の都合を優先する実態が明らかになりました。損害保険会社も昨今の問題発覚を受け、代理店手数料のうち規模や増収に連動した部分を抑え、試行錯誤はあるにせよ、業務品質を重視する方向に進んでいます。
こうした事例・潮流を踏まえると、フルコミッション・モデルの保険販売をそのままにしておくことはできないと考えるのが自然です。

長くなりましたが、とりあえずコメントまで。

※NHK福岡です(番組出演ではありません)

 

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等級制度の事故抑止効果

このところ卒論指導にゼミの報告会準備などに追われていて、学生ネタが続いて恐縮です。
前回ご紹介したRIS(全国学生保険学ゼミナール)の活動とは別に、2年生が学内でプレゼンテーションを行う機会があり、ある班が自動車保険のノンフリート等級制度に関心を持ち、その事故抑制効果についてアンケート調査を行いました。

東京の大学とは違い、地方都市では車を運転する学生が多く、私のゼミ生も大半がすでに運転免許を持っています(ただし、車での通学は自粛となっています)。免許をとる過程で自動車保険についても学ぶはずなのですが、アンケートの結果はなかなか興味深いものでした。

10代、20代を中心にアンケート調査(回答者75名のうち8割が若年層で、その多くはうちの学生)を行ったところ、次のような傾向が見られました。

・「ノンフリート等級制度」という言葉を聞いたことがないという回答が大半を占めた(若年層以外では「知っている」の回答が多かった)

・「等級が上がると翌年の保険料が安くなる」は知っていても、「等級が下がると翌年の保険料が高くなる」は知らないという回答が多かった(若年層以外では両者に大きな違いはなかった)。

・「等級制度は安全運転の意識を高めると思う」という回答が大半を占めたが、制度への印象として「初心者や若い人に不利」という声も目立った。

・全体として「わからない」という回答が目立った。

大学生は免許をとってすぐに自分の車を運転するのではなく、家族の車を使うことが多いので、保険については家族任せでほとんど知らないということのようです。教習所の座学だけでは限界があるのでしょう。
ですから、このアンケートのなかで制度の説明をされたから「安全運転の意識を高める」と回答しているものの、等級制度の認知度は低く、知らなければ事故抑制効果も期待できません。
保険について教える立場にある者としては、もう少し工夫して話をする必要があると痛感しました。

※舞浜と上智大学のクリスマスツリーです。

 

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株式売却益は誰のものか

このところ大手損害保険会社の決算は政策保有株式の売却益計上で(少なくとも表面的には)好調が続いています。これを見た保険流通に関わるかたから、「株式購入の原資は契約者の保険料なのだから、保険会社は政策保有株式の売却によって得られた利益を保険料の引き下げという形で契約者に還元すべきではないか」という質問(意見?)をいただきました。

最初に結論を述べれば、株式会社形態の保険会社であれば、株式投資によるリターンは原則として株主のものと考えるべきで、これを契約者に還元しなければならない理由はありません。

株式会社形態の保険会社では、株主は保険引受のリスクやそれに伴う資産運用のリスクなど、経営全てのリスクを負っています。株主が政策保有株式のリスクを経営にとってほしかったかどうかは別にして、リスクをとった結果として得られたリターン(より正確には、時価ベースの純資産)は、まずは株主のものです。
これに対し、契約者は保険会社の破綻リスクのみを負う「債権者」という位置付けです。保険債務の責任を果たせば、経営にはそれ以上の責任はありません。

もし、保険料を下げることで、中長期的にはより多くのリターンが得られるという考えに株主が納得すれば、料率引き下げという経営判断もあり得ます。しかし、それはあくまでも、さらなるリターンを目指すための料率引き下げであって、契約者への還元ではありません。

他方、保険料率の計算にあらかじめ資産運用収益を含めておくというのは、保険ビジネスとして健全な経営ではありません。保険会社の資産運用がうまくいかなかった場合に、保険会社は保険金額を減らしたり、契約者から追加で保険料を集めることができないからです。
長期の保険では一定の利率(予定利率)で増えていくことを前提にしたものが一般的ですが、これは資産運用収益を当てにしているというよりは、貨幣の時間価値を考慮している、つまり、将来のお金を現在価値に換算しているものです。

株主はそもそも資産運用で収益を上げるのを生業としています。ですから、バフェット氏のような資産運用に強みを持つ保険会社でもないかぎり、「資産運用に頼るのではなく、得意分野である保険ビジネスでリターンをあげてほしい」と考え、保険でリターンを上げられないのなら、そのビジネスをやめてほしいと考えるはず。
株式会社の保険経営者は、もちろん契約者をはじめとした利害関係者にも目配りする必要がある(法令等の遵守を含む)とはいえ、株主の期待に応えるために存在しています。

ちなみに、相互会社形態や協働組織であれば契約者への還元は重要な選択肢の1つです。なぜなら、これらの組織では、契約者は債権者であるとともに、組織のオーナーでもあるからです。

※週末の嵐山はすごい混雑でした!

 

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保険会社の名前

報道によると、2027年4月に合併する三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険の新会社の名前は「三井住友海上あいおい損害保険」となるそうですね。さらに、グループを統括する持株会社MS&ADインシュアランスグループホールディングスの名前も「三井住友海上グループ」に変更するとのこと。報道が正しければ、確かに持株会社のほうは2010年に「MS&AD」としたときには「ん?」という印象でしたが、それでも15年たつので、よく決断したと思います。
ちなみに会社は9月12日付けで「現時点で決定している事実はありません」としています。

拙著『保険ビジネス』のコラムで取り上げたとおり、保険業法の規定により、生命保険会社の名前には「生命保険」、損害保険会社の名前には「火災保険」「海上保険」「傷害保険」「自動車保険」「再保険」「損害保険」のどれかが必ず入っていなければなりません(外国保険業者を除く)。保険会社が合併すると、この条件を守ったうえで、新たな名前を考えることになります。
これまでの合併事例を見ると、いずれか片方の名前がそのまま使われたケースは吸収合併の時くらいしかなく、両社の名前が何らかの形で残っているケースが多いようです。かつては「損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険」のように、非常に長い名前となってしまった会社もありました。

もっとも、同社は現在「SOMPOひまわり生命保険」ですし、グループの中核損保は「損害保険ジャパン」、持株会社の名前も「SOMPOホールディングス」なので、「安田」「日産」「大成」「日本」「興亜」「NK」などは入っていません。ただし、グループのブランドとしては「SOMPO」と「損保ジャパン」の両方ということになるのでしょうか。
その意味では、東京海上ホールディングスは当初の「ミレアホールディングス」を2008年に改め、ブランドとしては「東京海上」に絞っていますし、(報道のとおりであれば)持株会社の社名を「三井住友海上」にするというのもグループのブランド戦略としては理解できます。

上場する保険持株会社で中核会社の社名がそのまま使われていない事例としては「T&Dホールディングス」もあります。中核生保である太陽生命の「T」と大同生命の「D」ではなく、「Try」と「Discover」の頭文字をとったものです。「T&D」を使うようになってから早くも四半世紀が過ぎましたが、太陽生命と大同生命の社名はそのままなので、資本市場ではともかく、消費者へのブランド浸透という点ではなかなか難しかったのではないでしょうか。

※イスタンブールは猫の町でした!

 

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『保険ビジネス』を出しました

昨年10月に続き、新刊のご案内です。本日(8月22日)クロスメディア・パブリッシングから『保険ビジネス 契約者から専門家まで楽しく読める保険の教養』を刊行しました。

副題のとおり「楽しく読める保険の教養」ということで、保険と保険ビジネスに少しでも関心のある全てのかたに向けた書籍です。身近な存在にもかかわらず、わかりにくいとされることの多い保険の世界をいろいろな角度からひも解いてみました。
例えば、第1章の「『素朴な疑問』から学ぶ保険の世界」では、「ビッグモーター事件の本当の被害者は誰か」「そもそも保険には入っておいたほうがいいのか」「保険会社はなぜ一等地に立派なビルを持っているのか」などを取り上げ、最後の第9章では「最新テクノロジーから学ぶ未来の保険の世界」ということで、保険会社や保険販売の世界がどう変わるのか述べています。
各章はいずれもトピック6つとコラム1つという構成で、トピックは全て4ページで統一したので、どの章から読んでいただいてもテンポよく楽しく読めるのではないかと思います。

本書執筆のお話をいただいた時には、実のところお受けすべきかどうか若干迷いました。おそらく研究者としての業績にはなりませんし、昨年10月に出した『経済価値ベースのソルベンシー規制』に続き、関連するアウトプットをいくつか抱えていたという事情もありました。
とはいえ、保険業界と外部のギャップを埋めるのは(さらに言えば、保険会社の本社と保険販売の現場との距離を縮めるのも)私の役割だと考えていますし、産・官・学と立場は途中で何度か変わりましたが、約30年にわたり日本の保険ビジネスを外部からウォッチしてきた人間はおそらく数少ないと思います。そこで、大学の春休み期間を中心に、時には京都で籠ったりして、楽しく(?)書き上げました。

大学の教科書として使っている『利用者と提供者の視点で学ぶ 保険の教科書』と比べてもすいすい読めますし、かつ、保険ビジネスに携わっている皆さんにも楽しく読んでいただけるよう、工夫したつもりです(反論はあるかもしれませんが…)。
本書がネットに出回る「保険不要論」をはじめ、極端な情報に惑わされず、保険や保険ビジネスについてご自身で判断するための道しるべになることを願っています。

※ワーケーション in 京都の成果物です!

 

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経済価値ベースのソルベンシー規制

金融庁は7月23日、「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する保険業法施行規則の一部改正(案)」等に対するパブリック・コメントの結果等の公表についてを示し、2026年3月末からの規制適用が確定しました。昨年10月に出した拙著『経済価値ベースのソルベンシー規制』でも述べたように、20年近い検討期間を経て、ようやく新たな規制が導入されることとなります。
なお、新たな規制の概要や主な法令等、第1の柱のQ&A、これまでの検討経緯を金融庁がこちらのサイトにまとめていて、助かります。

ところで、パブリックコメントの結果(PDF)ですが、私は昨年、第3の柱(3柱告示案(PDF))を中心にいくつかコメントを出していました。利用者目線からすると、告示案のままでは生命保険会社の金利リスクの現状やALMの考え方が把握できないという危機感を持ったためです。
同じように改善を求めたかたが複数いたこともあって、私がお願いしたとおりではないにせよ、開示の充実が図られることとなりました(別紙様式第7号の開示が当初案よりも充実しました)。
先ほどご紹介した金融庁サイトを引用すると、第3の柱(情報開示)は、保険会社と外部のステークホルダーとの間の適切な対話を促し、ひいては保険会社に対して適正な規律を働かせるためのもの。実際の開示を見てみないとわからない部分はあるにせよ、第1の柱を補完し、第2の柱をサポートするような開示情報の活用を考えてみたいと思います。

さて、ここから先は、規制を受ける保険会社の対応準備とともに、メディアをはじめ、保険会社のステークホルダーに新規制を理解してもらうための取り組みも必要になってきますね。

※念願の観光列車に乗りました。

 

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『経済価値ベースのソルベンシー規制』

新刊のご案内です。今週25日に『経済価値ベースのソルベンシー規制 生保経営大転換を読む』が日本経済新聞出版から出ることになりました。

本書は絶版となってしまった『経営なき破綻 平成生保危機の真実』(2008年、日本経済新聞出版社)のいわば続編にあたります。『経営なき破綻』から早くも15年以上が経ち、ようやく2025年度末に新たな規制が実現するこのタイミングで本書を世に出す意義は、主に次の2つと考えています。

1つは、「経済価値ベースのソルベンシー規制」と呼ばれることの多い新たな規制の本質を示すことです。
新たな規制の詳細を解説するのが目的ではなく、保険会社の経営は新たな規制にどう向き合うべきなのか、新たな規制が期待どおり機能するうえでどのような課題があるのか、などを論じています。
経済価値ベースのソルベンシー規制導入に反対姿勢をとってきた富国生命・米山社長と、規制導入を有識者としてリードしてきたキャピタスの森本代表のインタビューも、それぞれ読みごたえのある内容となっています。

もう1つは、過去の生保破綻から新たな規制導入に至るまでの経緯を示すことです。
かつての生保危機を当事者として知る人の多くは現役を退いています。しかし、過去の経緯を知らないと、いま、どうしてそれがそうなっているのかを理解するのは難しいことです。
そこで本書の第1章で生保危機から新規制までの「歴史」を振り返るとともに、破綻生保の内部で何が起きていたのかを記録として残すため、編集担当のご理解を得て、『経営なき破綻』の中核である破綻事例の検証を巻末付録としてそのまま掲載しました。その結果、付録が90ページもある書籍となっていますが、とりわけ『経営なき破綻』を手に取ったことのない若い皆さまの参考になるのではないかと考えています。

加えて、福岡大学に移籍してから手掛けた研究の成果もいくつか盛り込んでいますので、全体として他に類を見ない内容になったのではないかと自負しています。
ポケットマネーで購入するにはやや高いかもしれませんが(3200円+税です)、保険業界に関心を持つ多くのかたの目に触れるとうれしいです。

 

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「中堅生保、債券偏重の死角」

9月11日の日経記事「中堅生保、債券偏重の死角」(電子版(会員限定)では9日)をみて、思わずため息をついてしまいました。

記事の主な内容は次のとおりです。

・ソニー生命は2024年4-6月期に債券の売却損を株式売却益などで補えず、キャピタル損益を反映した基礎利益が赤字になった。
・同社は金利上昇で保険契約の中途解約が急増し負債側の年限が縮小。資産の年限を縮めるため保有国債の一部を売却せざるをえなくなった。
・生保は保有資産の含み損益を加味して資産を売却する。売却損を出す場合、同時に含み益のある資産を売却して補うのが一般的だ。

これ(特に3点め)を読んで、特段の違和感を覚えなかったかたは、伝統的な金融村の文化に相当毒されています。ALMとか経済価値ベースとか言う以前に、そもそも「保有資産の含み損益を加味して資産を売却」する投資家とは、いったい何を目指して資産運用を行っているのでしょうか。考えられるのは1つだけ。会計損益の安定です。
しかし、生保をはじめ金融機関による資産運用の目的は会計損益の安定ではなく、リターンを上げて会社価値を高めることであり、そのためにポートフォリオを組んでいるはずです。それを「債券で売却損が出るから、同時に株式で売却益を出す」なんてことをしたらポートフォリオが崩れ、目指す期待リターンも変わり、何をしているのかわからなくなってしまいます。

多額の株式を保有する生保の運用担当者が日経の記者さんに吹き込んだのかもしれませんが、このような考えのもとで株式を保有している生保があるとすれば、株式含み益を経営バッファーとしてあてにしていた(いわゆる益出しですね)1990年代前半までの生保経営と同じです。そんな資産運用はありえないと、どうして記者さんもデスクも思わなかったのでしょうか。

記事の後段には「生保各社は債券中心の手堅い運用にシフトしてきた」とあります。しかし、生保は手堅い運用を行うためではなく、負債の金利リスクをヘッジすることで会社価値の振れを抑えるために超長期国債を購入してきました。金利上昇に伴い保有する超長期債の価格が下がるのは初めからわかっていたことであって、経済価値ベースのバランスシートは改善しているはず。含み損を処理すべきという合理的な理由はなく、「債券偏重の死角」ではありません。
金利上昇局面における生保経営者の悩みとして挙げるとすれば、資産運用の巧拙よりも、「金利上昇に伴う解約をどの程度まで考慮すべきか」「現行会計のもとで金利上昇で価格が下がった超長期債の減損を求められないか」などではないでしょうか。

ちなみに2点めに関しては、昨年度からの解約増加はドル建て保険が中心だと思いますし、残高が減ったのは「その他有価証券区分」の公社債なので、本当にこの説明のとおりなのかは疑問なのですが、ソニーフィナンシャルグループの決算発表資料をみると、確かに「金利上昇の影響を受け、ALM(資産負債の総合管理)の考え方に基づくリバランスを目的とした債券売却により一般勘定における有価証券売却損益が悪化した」とあります。
9月決算ではもう少し説明があるといいですね。

※写真はパリです。

 

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保険料調整行為の調査報告書

週末に登壇を控えていることもあって、どうしても損保問題関連のニュースに目が向いてしまいます。
6月11日に損保ジャパンが公表した「保険料調整行為に関する社外調査委員会による調査報告書」を一読しました。日経だけではなく、こちら(NHKニュース)やこちら(日刊自動車新聞)など、多くのメディアが取り上げていますね。
本調査の目的は独禁法違反をはじめとした不適切行為の事実と直接原因を解明・究明するとともに、「広範囲かつ相当期間にわたって行われてきた根本原因を、組織風土、ガバナンス、業界慣行等多角的な観点から分析した上、再発防止策を提言すること」だそうです(1ページ)。
経営陣による証拠破棄事案とか、金融庁報告で独禁法違反数を極力少なく見せようとしたとか、結構ひどいことを発見し、そのまま書いてあります。

ただし、関係者には申しわけありませんが、私にはどこかモヤモヤ感(?)が残る報告書でした。

報告書では、「全国規模で多くの従業員がさほど抵抗感なく不適切行為に及んでいた」(18ページ)としたうえで、原因として、長年にわたって培ってきた組織風土や、規制時代からの業界慣行などを挙げ、証拠をもって指摘しています。
例えば、G45と呼ばれる営業情報交換システムには、SJのほかTN、MS、ADを含む9社が参加し、こうした情報交換が不適切行為が行われる可能性を高める役割を果たしたという考察や、営業部門重視、営業部門と法務・コンプライアンス部門の不均衡なパワーバランスを端的に示す例として、過去10年の取締役に占める営業部門出身者が76%にのぼることを指摘するなど、確かにその通りだろうと思います。

私のモヤモヤ感がどこから来るのかを考えてみると、2つのことに思い当たりました。

1つは、問題が国内企業(特に大企業)との取引で生じているにもかかわらず、保険を提供してきた保険会社の問題を深掘りする一方で、保険を購入してきた国内企業についての考察がほとんどなされてないことです(企業代理店に関する記述は多少あります)。
大企業は保険会社にだまされ続けてきた被害者なのでしょうか。長年にわたる不適切な行為がなぜ発覚しなかったのか。そこには契約者である企業側の事情もあると考えるのが自然ではないでしょうか。残念ながらそこには踏み込まなかったようです。

もう1つは、「トップライン・マーケットシェアを重視してきた経営戦略を背景に、SJは営業部門の強さによって成長を遂げてきた」(54ページ)というのはわかるものの、それではボトムライン(損益)はどうなっていたのでしょうか。損益の悪化が著しいので不適切な行為が横行するようになったのか、あるいは、そもそもボトムラインには関心がなく、トップラインの獲得のみに走っていたのか。前者と後者では話がだいぶ違うのですが、再保険を含むボトムラインに関する情報が全く示されていないので、報告書を読んでも企業向け保険事業の実態はわからないままです。
報告書はERM(戦略的リスク経営)にも触れていません。例えば保険引受リスク管理に関して、プライシングはどうやって決めることになっていて、それがどうして不適切になってしまったのでしょうか。

厳しい見方をすると、委員会が弁護士のみで構成されている場合には、どうしてもコンダクトの深掘りが中心になってしまいがちなのかもしれません。

※槇文彦さんによる建物です。福岡大学にて。

 

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