東電のリスク情報の開示

 

決算短信には「事業等のリスク」というリスク情報の開示があり、
「投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられる
事項」を記載することになっています。

公的管理下に置かれることになった東京電力の開示を見ると、
原発事故に直接言及するような記述は見当たりませんでした
(2010年3月期)。

ただ、リスク情報の最初の項目である「(1)電気の安定供給」には、

「自然災害、設備事故、テロ等の妨害行為、燃料調達支障などにより、
 長時間・大規模停電等が発生し、安定供給を確保できなくなる可能性
 があります。その場合、復旧等に多額の支出を要し、当社グループの
 業績及び財政状態は影響を受ける可能性があるほか、社会的信用を
 低下させ、円滑な事業運営に影響を与える可能性もあります」

という記載があり、今回の事態はこれに該当すると見るべきでしょうか。

東京電力のHPへ

他の電力会社はどうかというと、例えば中部電力も、
2010年3月期は東京電力と同様でした。
「(3)その他のリスク ①操業トラブル」のなかで、

「地震・台風等の大規模な自然災害、事故やテロ行為等により、
 当社及び当社が受電している他社の供給設備にトラブルが
 発生した場合には、業績は影響を受ける可能性がある」

と書いてあるだけでした。

しかし、2011年3月期には「(2)①供給設備の停止」が設けられ、
原発事故を踏まえた浜岡原発についての記載がありました。

中部電力のHPへ

関西電力は2011年3月期でも、前年とあまり変わっていません。

「⑦操業リスクについて」で、

「台風や地震・津波などの自然災害や事故、コンプライアンス上の
 問題等により、当社の設備および当社が受電している他社の
 電源設備の操業に支障を生じた場合、当社グループの業績は
 影響を受ける可能性があります」

とあるだけです。もっとも、リスク情報の冒頭に、

「今後、東日本大震災を契機とした、経済状況やエネルギー・
 環境政策の変化などの影響を受ける可能性があります」

という記載がありました。

リスク情報は単に投資家のために開示するというよりは、
まずは経営が自社のリスクプロファイルをきちんと把握し、
それを投資家にも開示するというのが本来の姿です。

しかし、電力会社はここで書かれている情報を
経営で活用しているのでしょうか?

「電気の安定供給」「操業トラブル」に記載された内容だけでは、
あまりに粗くて使いようがないと思うのですが。

※今回も伊豆の写真。かつての通勤・通学電車との再会です。

 

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特別勘定の運用利回り

 

大手生保6社の団体年金特別勘定の運用利回りが
2010年度は▲2.64%と、前年度(+18.59%)から
大幅に悪化したそうです(10日の日経)。

国内株式の下落(インデックスでは▲9%)と円高が
主な要因と思われます。

過去5年分の運用利回りは、次の通りです。

 2006年度 + 5.18%
 2007年度 ▲14.81%
 2008年度 ▲22.41%
 2009年度 +18.59%
 2010年度 ▲ 2.64%

参考までに、R&I年金ユニバース・パフォーマンス
(厚生年金基金、企業年金基金等の時間加重収益率)
の推移も見てみましょう。

 2006年度 + 4.55%
 2007年度 ▲ 9.74%
 2008年度 ▲17.02%
 2009年度 +14.18%
 2010年度 ▲ 0.60%

生保特別勘定ほどではないにせよ、こちらも乱高下の激しい
運用成果です。

この記事の見出しには、

 「株価下落、生保離れ加速も」

とありますが、さすがにこれは証拠不十分でしょう。
運用の巧拙を判断するのは意外に?難しいものです。

生保各社はグループ内に投資顧問会社を持っているので、
そこと利回りを比べてみたら面白かったかもしれませんね。

※こいのぼり2題。左は松崎の花畑、右は三鷹台です。

 

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「DENIAL(否認)」

 

GWの読書から。
邦題は「なぜリーダーは『失敗』を認められないか」。

ハーバード・ビジネススクールのリチャード・テドロー教授が、
「否認」が原因で経営危機に陥った有名企業の事例を
紹介しています。

否認とは、ある不愉快な現実に対し、本当ならひどすぎる、
だから本当のはずはない、と考える無意識の心の動き。
しかし、否認しても不都合な現実は消えません。
制御不能なまでに増殖し、企業を根底から覆すことになります。

「目の前の現実を認めない」という態度。
この「否認」は人間の本能の一部であり、
あらゆる個人、あらゆる組織に起こりうる現象です。

本書でテドロー教授は、否認を避けるための
8つの教訓を示しています。
当たり前のことばかりに見えるかもしれませんが、
実際の事例からの分析なので説得力があります。

1.危機を待ってはいけない

2.無視したり、否定したり、理屈をこねたり、ねじ曲げたりしても
  現実は変わらない

3.権力は人を狂わせる

4.最高意思決定者が聞く耳を持つこと

5.長期的な視野に立つ

6.相手をバカにしたり、呼び名をかえたりする傾向には要注意

7.真実を語る

8.たいていの人間は、たとえ間違っていようと
  過去の常識にしがみつこうとする

各章の事例は米国企業とはいえ、フォードやコカコーラ、
IBMなど、有名企業ばかりなので興味深く読めました。

※写真は前回ご紹介した松崎の岩科学校です。

 

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松崎のなまこ壁

 

西伊豆の松崎に行ってきました。
なまこ壁の建物が残っているところです(写真)。

松崎は今でこそ西伊豆の小さな町にすぎず、
私は漁業の町かと思っていたのですが、
明治時代には養蚕業で繁栄した歴史がありました。

古くから早場繭の産地として知られていたようですが、
養蚕業の近代化をはかるため、あの富岡製糸場に学び、
明治9年には松崎製糸場が設立されています。
松崎の早場繭相場は各地の繭価の標準となったそうです。

高価で手間のかかる「なまこ壁」の建物は、
松崎がいかに繁栄していたかを物語っているのですね。

しかし、各地に鉄道網が発達すると、海上交通が主体の松崎は
徐々に競争力を失っていきます。
さらに、関東大震災により横浜で保管中の生糸が被災した
ダメージが大きかったようです。

ところで、話は現代へと変わります。

平成の市町村合併で、南伊豆地区でも6市町村で
合併する構想が持ち上がりました。

かつては1万人を超えていた松崎町の人口は
約7500人まで減っています。
これといった産業はなく、観光客も減少気味です。

伊豆地区最古の小学校が松崎にあり(明治13年完成)、
その建物は国の重要文化財に指定されているのですが、
隣接する小学校は数年前に廃校になってしまいました。

しかし、松崎町の議会は合併を否決してしまいます。
いくつかの組み合わせが浮上し、住民投票も実施
(合併に前向きな声が多数を占めた)しているのですが、
議会は2009年に合併せずという結論を出しました。

一介の旅行者にはわからない事情があるのでしょう。
ただ、シニア層にはかつての繁栄の記憶が強く残っており、
松崎の名前を捨てられなかったという話を聞きました。

町並みの背景にはいろいろなエピソードがあるのですね。

 

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震災後の経済構造の変化

 

少し前の話で恐縮ですが、12日の日経夕刊のコラム
「震災が加速する経済の構造変化」は、
非常によくまとまっていて、頭の整理になりました。
執筆者はJPモルガン証券の菅野雅明さんです。

長い文章を書くほうが大変と思われがちですが、
限られたスペースで簡潔に述べるほうが難しいのですね。

さて、菅野さんは、今後予想される経済の変化について
次の4点を挙げています。

1.日本企業の海外生産比率の上昇

 ・日本企業は企業活動の地理的リスク分散の観点から
  海外シフトを一層加速させる。

2.財政悪化の加速

 ・地域復興のためには、赤字国債発行による財政出動は
  必要だが、同時に一部増税による財源手当てについても
  あらかじめ合意しておく必要がある。

3.デフレ脱出・インフレ傾向への転換

 ・今後供給網の回復の遅れからボトルネックが生じ、
  局所的な需給逼迫を背景に価格の上昇を引き起こしやすい。

4.迎合主義の台頭の可能性

 ・大災害の後には人々のストレスが高まり、「口に苦い良薬」は
  政策の選択肢から外される傾向が強まる。

考えてみれば、3を除けば震災による変化というよりは、
それ以前からの動きが震災で加速されるというものです。
つまり、ソフトランディングを実現するために残された時間は、
震災でより短くなったと理解すべきでしょう。

※写真は町田市の「尾根緑道」です(24日)。
 かつてここは戦車のテストコースだったとか。

 

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節電の目的は何か

夏の電力不足に協力するため、始業と終業の時間を繰り上げる
サマータイムを導入しようとする動きが目立ってきました。

ただ、節電の目的を考えると、ややずれているように感じるのは
私だけでしょうか(意味がないとは言いませんが)。

震災発生直後は、東京電力の供給力が震災前の5200万kWから
一気に3100kWまで落ちたため、とにかく節電が必要でした。
プロ野球のナイターなどもってのほかだったわけです。

しかし、今考えなければならない節電は、夏のピーク時対応です。

記録的猛暑だった昨年の需要は約6000万kWに達しました。
7月には供給力が5200万kWまで高まる見込みとはいえ、
ピーク時には不足してしまうので、電力需要の削減が必要なのです。

ここで重要なのが「ピーク時の不足に対応するため」という点です。

1日のうち、朝10時から夜9時がピーク中のピークです。
仮にスーパーの開店を朝9時から8時に、閉店を夜10時から9時に
それぞれ1時間繰り上げても、朝10時から夜9時は営業するので、
ピーク時の節電効果はかなり限定的であることがわかります

例えば休日を分散する、夜間操業にシフトするといった、
ピーク時に電力需要を集中させない対策が効果的でしょう。

また、夜間は例年と同じ生活でかまわないはずです。
というのも、夏期でも夜中から朝8時くらいまでの電力需要は
4000万kWを下回っており、電力不足ではないからです。

もちろん、資源の無駄遣いや地球温暖化を避けるための節電は
大いに結構な話ですが、体を壊したら元も子もありません。

「冷房のきいた部屋で夏の甲子園をテレビ観戦」が
電力需要を高めているという話が本当であれば、
今年の甲子園はナイター開催にしたらいいかもしれませんね。
あるいはNHKがテレビ中継をしなければいいのかも。

関係者は猛反対しそうですが^^

ご参考
※資料第1-3、第2-2あたりが参考になります

 

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生保の運用計画

生保の運用計画についての報道を見ると、
がっかりすることが多いです。

23日の日経「生保、際立つ安定運用」では
大手生保8社が国内債券への配分を増やし、
国内株式への配分を減らすと伝えています。

この記事の問題点は、生保の負債特性について
一切触れていないことです。
ALMという当たり前の話が欠け落ちているのですね。

ですから、長期債・超長期債への投資は
「2%超の利回りを確保するため」
となってしまいます。

また、震災復興の財源対応として国債発行が増え、
長期金利に上昇圧力がかかりやすくなっても、
長期債を購入する生保が多いという紹介です。
これでは単なるナンピン買いです。

なぜ生保が国内株式を圧縮し、国内債券
(特に長期債・超長期債)投資を増やしているのか。

単に「資産運用のリスクを抑える狙い」とか、
「12年3月期から保険会社の財務規制が厳しくなるため」
という解説ではあまりに乱暴だと思います。

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※写真は品川駅です。緑色の袋に自転車が入っています。

 

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原子力発電の今後

 

12日に福島第1原発事故の評価が、当初のレベル5から
チェルノブイリ事故と同じレベル7に上がったのはびっくりしました。
一般に格付けが一気に2段階も上がるのは珍しいことです。

4日の汚染水放出も、やむを得ない措置だったのかもしれませんが、
内外からの批判を招きました。

ようやく行程表が示されたとはいえ、放射性物質の放出が
続いている状況はしばらく続きます。

今回の原発事故による日本ブランドへの悪影響は計りしれません。
日本に対する世界の目が「大震災による被害者」から、
加害者へと変わりつつあるのを感じてしまいます。

そのようななか、16、17日に行われた毎日新聞の世論調査では、
電力の約3割を原発でまかなう現在のエネルギー政策について、

 「やむをえない」       40%(男性52%、女性32%)

 「原発は減らすべきだ」   41%(男性33%、女性46%)

 「原発は全て廃止すべきだ」13%(男性12%、女性14%)

という結果でした。

やはり16、17日に実施された朝日新聞の世論調査でも
「原子力発電は今後どうしたらよいか」という質問をしており、

 「増やす方がよい」    5%
 「現状程度にとどめる」 51%
 「減らす方がよい」    30%
 「やめるべきだ」     11%

という結果だったそうです。

また、読売新聞の世論調査は少し前(1~3日)ですが、
「今後国内の原発をどうすべきか」という問いに対し、

 「増やすべきだ」     10%
 「現状を維持すべきだ」 46%
 「減らすべきだ」     29%
 「すべてなくすべきだ」 12%

でした。

いずれの調査でも「やむをえない」「現状を維持すべき」
という回答が多く、「減らす」が意外に少なくて驚きました。

 

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保険経済価値規制の是非

 

週刊金融財政事情の4/18号の特集は
「保険経済価値規制の是非を問う」です。
自分が登場しているので、ご紹介だけさせていただきます。

「市場整合的な保険負債の評価は規制、開示になじむか」
というタイトルがついた座談会では、経済価値評価に基づく
保険会社のソルベンシー規制やリスク管理、開示について、
様々な論点が挙げられています。

出席者は日本生命のアクチュアリー、ソニー生命と東京海上の
リスクマネジャー、および監督当局という顔ぶれ。

ちなみに、他の媒体では、それぞれにインタビューを行い、
それを座談会形式に構成して掲載することもあると聞きますが、
実際にきんざいの会議室で座談会を行い、そのエッセンスが
掲載されています。

座談会のほかには、

「経済価値ベース規制の流れを理解するために」
(キャピタスコンサルティングの森本祐司さん)

「生保経営におけるMCEV開示の意義」
(ソニー生命の花津谷徹さん)

「保険会社に対する健全性規制の最近の動向」
(後半に保険会社のERMについて私も書いています)

といった論文が載っています。

なお、今ならきんざいのHPで全文が確認できます
(21日まで。大震災に伴うサービスです)。ご参考まで。
きんざいHPへ

※地元・大倉山ではここの桜が一番気に入っています
 (写真は10日です)。

 

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避難生活「戻れない」65%

 

東日本大震災から1か月に合わせ、避難所で暮らす約600人に対し、
NHKが今後の住まいについてアンケートを行ったそうです。

「同じ場所でもう一度生活したいか」と尋ねたところ、
岩手県と宮城県では「戻りたいが戻れない」「戻りたくない」
という回答が、合わせて65%に上ったとのこと。

回答からは、「住み慣れた場所を離れたくはないが、
生活も仕事も失ってしまった現実を直視すると、
戻りようがない」という姿が浮かび上がり、胸が痛みます。

一方、福島県の避難所では88%の人が「戻りたい」
と答えたそうです。岩手県や宮城県とは異なる結果でした。

地震や津波による直接的な被害よりも、原発事故によって
避難しているかたが多いからでしょうか。

ただ、原発事故の発生から1か月たっても事態が
収束する兆しはなく、放射性物質の拡散が続いています。
自宅がほぼ無傷だとしても、放射性物質による影響を
どう考えればいいのか、現時点ではわからない状況です。

まさに被災者が最も気にしていることで、かつ、多くの人は
まだ必ずしも希望を捨ててはいないというタイミングで
今回の「10年、20年住めない」発言が出てしまいました。

※写真は東京・池上本門寺です

 

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