守備力の評価方法

 

「僕は君たちに武器を配りたい」(講談社)を読みました。
著者は「京大NO.1若手人気教官」の瀧本哲史さんです。

「これから社会に旅立つ、あるいは旅立ったばかりの若者が、
 非常で残酷な日本社会を生き抜くための、『ゲリラ戦』のすすめ」

とありますが、社会に旅立ってからすでに20年以上たつ私にも
興味深い内容でした。

「コモディティ化」の潮流が、世界のあらゆる産業で
同時に進行するなかで、企業や個人にとって重要なのは
「コモディティにならないようにすること」です。

そのために、本書では「投資家的生き方」を勧めています。
詳しくは本書をご覧下さい。

ところで、本書では例え話として、メジャーリーグでの選手の
年棒査定方法を取り上げています(守備について)。

かつての野球選手は、エラーが少ない人ほど守備がうまい、
と見なされていました。

ただ、エラーの数で判断すると、簡単なフライを捕球しても、
エラーの危険を冒して難しい打球に飛びつきアウトにしても、
評価は同じです。難しい球を捕りにいってエラーをするより、
はじめからヒットにしてしまったほうが、評価は悪くなりません。

つまり、この評価方法では簡単にヒットを許してしまうことになり、
点を取られてしまう、すなわち、試合に勝てなくなってしまいます。

そこで現代のメジャーリーグでは、どれだけ自分の守備範囲で
アウトにすることに貢献したか、という観点から守備力を
評価するようになったそうです。
すべてのアウトカウント数27個のうち、その選手がいくつに
関わったかを見ていきます。
これだと積極性が高い選手ほど、評価が高まるわけです。

部分的にはいいと考えても、全体から見ると本末転倒、
ということは、リスク管理の世界でも起こりうる話ですよね。

※ようやく大倉山の梅も見ごろを迎えました

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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FRBのストレステスト

米FRBは13日、大手銀行に実施したストレステストの結果を
公表しました。
一般に「ストレステスト」と言われていますが、正式名称は
「Comprehensive Capital Analysis and Review 2012」です。
FRBのニュースリリースへ

対象となった大手19グループのうち、15グループは
FRBが定めた仮想ストレスシナリオのもとでも、
ベンチマークとなる規制資本を維持できるという結果でした。

ただ、「不合格」となった4グループのなかに、
大手生保メットライフが入っていて、ちょっと驚きました。
コアTier1比率は5.1%と、基準である5%を上回ったものの、
Total Risk-Based Capital Ratioが6%でした(基準値は8%)。

今回のテストでメットライフが「不合格」となった
主なリスク要因は何だったのでしょうか。
このメットライフのコメントを見てもよくわかりません。
メットライフのHPへ

FRBの公表資料を見ると、ストレスシナリオによる損失が
どこで発生しているか、グループごとに示されています。

これによると、Wells Fargoのような銀行中心のグループでは
損失の大半はローンの引き当てによるものです。
CitigroupやJPMorgan Chaseでは引き当てのほかに
Trading and Counterparty Lossesが大きくなっています。

他方、メットライフの場合にはこれらの損失がほとんどなく、
有価証券の実現損が損失の大半を占めていました。

ストレステストではグループによるリスク・プロファイルの違いが
浮き彫りになるといいますが、まさにその通りの結果です。
もっとも、商業銀行や投資銀行と保険会社ですから、
損失の発生源が違うのは当たり前かもしれません。

なお、ストレスシナリオは、これまでよりも厳しいという印象です。
失業率は13%まで上がり、住宅価格が2割下落します。
株価は50%も下がり、長期金利も下がるというものです。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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東日本大震災発生から1年

 

あれから1年といっても、過去を振り返るというよりは、
まだまだ現在進行形という感じがします。

さて、1周年ということで、日本保険学会関東部会は10日、
特別シンポジウム「東日本大震災と保険」を開催しました。

第1部は「実務家からの報告」ということで、日本損害保険協会、
生命保険協会、JA共済連からのスピーチ。
第2部は4人の保険研究者からの報告。
最後に登壇者全員によるパネルディスカッションという構成でした。

パネルディスカッションの時間が短かったのは残念ですが、
それでも研究者と業界のやり取りは、私自身がいろいろと考える
きっかけとなり、ありがたかったです。

例えば、早稲田大学の大塚英明先生は次のように主張します。
・政府は地震保険ではなく、被災者生活再建支援制度の枠組みで
 関与すべき(=政府は地震保険からは手を引く)
・JA共済ができることを損保はなぜできないのか

これに対し、損保協会の栗山泰史さんは反論します。
・日本の地震リスクの出再先は政府以外にない
・損保の責任額は大きく、かつ、共済のような閉じた世界ではない 

他にも「支払いトリガー」や「セットとして別売り」への疑問など、
栗山さん、お疲れさまでした、といったところでしょうか^^

死亡や失業などヒトのリスクに対しては各種の公的保障があります。
しかし、住まいについては被災者生活再建支援制度(最大300万円)
くらいしかありません。
そこで、この制度を住宅再建支援に広げるという議論はありそうです。
ただ、それがどの程度現実的な話なのか、私にはよくわかりません。

他方、現在の地震保険制度は政府が関与しているとはいえ、
加入者の保険料ですべてを賄う仕組みとなっています。
長い期間で考えれば、政府は引受リスクを負っているのではなく、
タイミングリスクを受けていると考えるべきなのでしょう。

栗山さんの肩を持つというわけではありませんが、
「(民間の枠組みで)JA共済ができるのだから、損保もできるはず」
というのは、現状の国際再保険市場をみるとなかなか厳しそうです。

家計地震のリスクを再保険市場に出していない現状でさえも、
日本の自然災害リスクに対する再保険カバーの安定的な確保は
損保にとって死活問題になっています。

言い換えれば、日本の損保は国際再保険市場への依存度が
非常に高いという事業構造になっているのです。

また、今回の地震保険支払金額は1.2兆円に上ったとはいえ、
都市部が少なかったため、この金額で済みました。
首都直下型では3兆円、関東地震では5.5兆円となるそうです。

他方、JA共済が今回8400億円もの支払いとなったのは、
もちろん建物更生共済で地震リスクを引き受けているからですが、
顧客基盤が都市部ではないという面も大きそうです。

日本の損保が自然災害リスクの引受能力をさらに高める余地は、
私にはあると思います。自社のリスク許容度を踏まえたうえで、
ビジネスとしてどのリスクをどの程度選好するのかという話です。

しかし、被災者支援を安定的に提供できるほどのキャパシティーを
政府ではなく、国際再保険市場に求めるというのは、
あまり現実的な話ではないように思えます。

※いつもの通り個人的なコメントということでお願いします。

※横浜の伊勢山皇大神宮です(1月)。
 皆さん何をお祈りしたのでしょうね。

 

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月2千円の生保マーケット

 

保険ジャーナリストの石井秀樹さんによると、
代理店が運営する来店型店舗(=保険ショップ)は
全国で約2000店前後にもなるのだそうです。
このうち大手4社が約650店を占めるとのこと。

ちなみに次の会社が大手と言われているようです。
 ・「ほけんの窓口」(ライフプラザホールディングス)
 ・「保険クリニック」(アイリックコーポレーション)
 ・「保険見直し本舗」(ウェブクルーグループ)
 ・「みつばち保険ファーム」(VLフィナンシャル・パートナーズ)

保険ショップといえば、業界紙(インシュアランス)を見ていたら、
興味深い記述がありました。

以前は、月々の保険料が3000円くらいであればネットで加入し、
5000円くらいの場合には保険ショップで相談する傾向だったのが、
最近は金額のバーが下がり、2000円以下ならネットで加入、
2000円以上ならば保険ショップで相談という傾向なのだそうです
(結心会会長・上野直昭氏のコメント)。

月々2万円ではありません。2千円です。

そういえば、数日前に自宅で見た全国共済(全国生協連)でも、
基本コースの月掛金は2000円でした。

ネット専業のライフネット生命の平均月払保険料は、
直近のディスクロ誌によると3435円となっています。
ネクスティア生命は3550円、オリックス生命は4641円でした。
(いずれも個人保険の新契約平均保険料、月払契約)。

他方、日本生命の新契約平均保険料は15333円、
第一生命は11040円、住友生命は11239円、
明治安田生命は6420円となっていました
(いずれも個人保険の月払契約、年間保険料の場合は÷12)。

同じ生保でもマーケットが違うといえばそれまでですが、
保険料が月2000円、3000円といったマーケットのほうが
活気があるように見えますね。

もちろん、過度な料率等の競争になっていないかどうかも
気になるところです。

※写真は「獅子ヶ谷横溝屋敷」です。
 自宅から歩いて30分くらいのところにあります。

 

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横浜外国人墓地

 

山手の横浜外国人墓地のなかに初めて入りました。
考えてみれば墓地が観光名所になっている町は、
あまり多くないかもしれませんね。
横浜外国人墓地の公式HPへ

開国交渉にやってきたペリー艦隊の乗組員が亡くなり、
埋葬場所を提供したのが外国人墓地の始まりなのだそうです。

ここには生麦事件の犠牲者である英国人リチャードソンや、
日本の鉄道の父・モレル、ビールの父・コープランドなど、
文明開化の功労者も数多く眠っています。

ところで、私が訪れた際に、たまたま霊柩車がやってきて、
白い棺を車から運び出し、埋葬しようとしていました。
すぐには気がつかなかったのですが、棺のままということは、
火葬ではないということです。

ボランティアのかたに確認してみると、やはりそうでした。
ここは土葬が認められている墓地なのですね。
「かなり深くまで掘るので大変なんですよ」とのこと。
いやいや、びっくりしました。

 

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生保の4-12月期決算から

 

少し時間が経ってしまいましたが、今回はこのテーマで。

以前にも書いたとおり、日本の四半期決算は累積表示なので、
四半期ごとに分解すると、見えてくるものがあったりします。
まずは、保険料など業績面をチェックすることをお勧めします。

ここでは別のデータを見ることにしましょう。
長期金利の水準がじわじわと下がるなかでも、
大手生保は国内債券の残高を増やしているのですが、
細かく見ると、大手生保の動きは一律ではありません。

各社とも「責任準備金対応債券」を増やしているなかで、
・日本生命は主に4-6月と10-12月に増加
・第一生命は7-9月を中心に継続的に増加
・住友生命は4-6月と7-9月(特に後者)で増加
といった感じです。

これだけではその背景まではわかりませんが、
各社のALMについての考え方を知るうえで
なかなか興味深いデータです。

明治安田生命は「責任準備金対応債券」がなく、
「満期保有目的の債券」の残高を徐々に減らす一方、
「その他有価証券」の公社債をどんどん増やしています。

好調な保険料収入は銀行窓販によるもののようですから
それと関係があるのかもしれません。

もうひとつ、今年度に入ってからは、株安や円高など、
金融市場は総じて不安定でした。
また、保険料が急増した、第三分野が低調だった、など
収入面でもそこそこの変動がありました。

それにもかかわらず、各社の四半期純利益(純剰余)は
かなり安定した推移となっているのですね
(比較のために第一生命は契約者配当準備金繰入を考慮)。

毎度のことですが、生保の当期純利益は何を示しているのか。
少なくともその期間の損益動向をうまく表現したものでは
なさそうです。

※写真は地元の大倉山公園です。
 今年は梅の開花が遅れているようですね。
 

 

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運用資産消失事件

 

AIJ投資顧問の運用資産消失事件には驚きました。
年金資産は信託銀行が分別管理しているので安心、
というのは私の単なる思い込みだったようです。
おそらく運用会社の監督強化が求められるのでしょう。

ただ、今回の問題の本質は果たしてそこなのでしょうか。

生保とは違い、企業年金の収益源は運用リターンだけ。
予定利率を下回る運用では積立不足が発生してしまいます。
積立不足を解消するには母体企業に穴埋めしてもらうか、
制度を変える(=掛け金を上げる/支給額を減らす)、
あるいは解散するしかありません。

もし予定利率が国債利回りと連動しているのであれば、
リスクを取った運用をしなくても制度は回るでしょう。
しかし、予定利率を2.5%未満としている企業年金は
わずか1割強しかないそうです。
みずほ総合研究所の資料
企業年金のうち、中小企業が多い厚生年金基金には、
未だ予定利率が5.5%のところが500以上もあるとのこと。

これはすなわち、リスクを取らない運用をしていたら、
確実に積立不足に陥るというわけですね。

リスクを取った運用がうまくいかずに積立不足になるばかりでなく、
リスクを取らなくても積立不足に陥ってしまう。
今回の事件の根底には、このような現状があるように思います。

※写真は横浜ベイシェラトンです。

 

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損保の自然災害リスク

3メガ損保の2011年4-12月期決算発表があり、
自然災害の影響により3グループとも赤字となりました。

タイ洪水に伴う支払見込額は正味で約4500億円です。
東日本大震災の支払見込額(家計向け地震保険を除く)が
約2000億円ですので、これを大幅に上回ります。

ロイズが保険業界全体の支払見込額を150~200億ドル
と試算しています(2/14)。3メガ損保の支払見込額が、
報道の通り9000億円(元受ベース)だとすると、
全体の5~7割を日本勢が占めることになりますね。

3メガ損保は統合リスク管理の現状を公表しており、
リスクに対する資本の余裕度を示しています。
例えばMS&ADは5500億円超、NKSJは5000億円程度
(いずれもタイ洪水の影響を反映)とのことですから、
グループ全体の経営が揺らぐことはなさそうです。

ただ、リスク管理という観点から考えてみると、
今回の多額損失の発生は、従来の自然災害による損失とは
かなり異なっているように見えます。

過去に多額の保険金支払いが発生した自然災害は、
主に台風などによる国内の風水災です。
それなりに信頼性のあるリスク計測モデルがあり、
保険会社にとってある程度「知っている」リスクでした。

もちろん、過去に経験したことのない巨大台風により
支払いが予想外に膨らんだケースもありましたが、
どの規模の災害が発生すれば、どの程度の損失となるか、
その前提として、自社のエクスポージャーはどの程度なのか、
保険会社はこれらを十分把握していると思います(期待を込めて)。

しかし、今回のタイ洪水でここまで保険損失が拡大するとは、
誰もわからなかったのではないでしょうか。

①大雨が降る → ②洪水が発生 → ③保険の対象に被害が発生

50年ぶりの記録的な大雨に加え、
・熱帯雨林の減少による森林の保水能力が低下していた
・ダムの放水が遅れ、複数のダムで同時放水となった
・デルタ地帯なので、洪水が起きるとなかなか排水されない
などが被害を大きくしたと言われています。

あるいは、ムーディーズのニュースリリース(2/6)によると、
再保険業界はタイの洪水災害に関するリスクモデルを
持っていないとのことですから、保険業界がタイ洪水のリスクを
過小評価していた可能性もあります。

これら①や②の話に加え、③についても気になります。
例えば、保険会社はどのような引き受けかたをしていたのか、
グループとしてエクスポージャーの全体像を把握していたのか、
といった点です。

いずれにしても、「予想外の自然災害なので仕方がなかった」
で終わらせてはいけないのでしょうね。
あくまで個人的なコメントですが...

 

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生保の資産運用

 

生保の4-12月期決算発表がもうすぐピークを迎えます。

手掛かりとして生命保険協会が公表している
月次統計(11月)を見ると、総資産が増えないなかで、
生保が国債投資を増やしているのが目立ちます。

投資家別売買高を確認しても、生保・損保が一貫して
国債を買い越しているのがわかります。
その多くは超長期債です。

では、生保はどの資産から国債にシフトしているのでしょうか。
昨年3月末は現預金が膨らんでおり(震災の影響?)、
まずはここからのシフトが考えられます。

貸付金や外国証券の残高も減っています。
貸付金は資金需要の弱さ、外国証券は円高のほか、
海外金利の低下でヘッジ外債が減っているのかもしれません。
外国証券の減少は昨年度とは異なる動きですね。

なお、国内株式も減っているのですが、株価の推移を考えると
売却よりも時価下落の影響が大きいかもしれません。

決算発表前でもこんな分析ができますよ、というお話でした。

※写真は横浜・中華街です。週末はいつ行っても混んでますね。

 

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システムリスク

 

保険会社の抱えるリスクには、リターンを得るために
能動的に取るリスクと、できるだけ避けたいリスクとがあります。
システムリスクは後者の代表的な例です。

2日に東京証券取引所でシステム障害が発生しました。
海外取引所との競争にさらされている東証にとって、
システム障害はかなりのダメージです。

9日の朝日新聞によると、東証の担当者が2日の午前1時半ごろ、
システム(サーバー)の故障に気づき、富士通に連絡したところ、
富士通から「予備のサーバーに自動的に切り替わる」と言われました。

しかし、その5時間後、東証は予備サーバーに切り替わって
いないことに気づきます(証券会社からの苦情でわかったようです)。
その後、手動で予備サーバーに切り替えたものの、
動作確認などを行う必要があり、取引開始に間に合わず、
241銘柄が売買停止となってしまいました。

「どうして予備システムに自動的に切り替わらなかったのか」

というのが直接の問題ですが、この記事が本当だとすると、

「どうして予備システムに切り替わっていないことに
 5時間も気がつかなかったのか」

という話になりますね。

なお、金融庁が1月20日に公表した、
「金融機関におけるシステムリスクの総点検の結果について」
を見ても、点検項目のうち、「システムリスクに対する認識等」
「障害発生時等のリスク管理態勢のあり方」などは、
更なる改善が必要な状況とのこと。保険会社はどうでしょうか。
金融庁のHPへ

※写真は横浜の風景です。

 

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