書評『日本庭園のひみつ』

今回は週刊金融財政事情(2025年5月27日号)に載った書評「一人一冊」を当ブログでも紹介します。今回は『日本庭園のひみつ-見かた・楽しみかたがわかる本』を取り上げました。以下、引用となります。

日本庭園の「つかみどころ」を示す

評者のようにマンション暮らしで庭と無縁の生活を送っていても、旅先で日本庭園を眺める機会はある。例えば京都に行くと、石庭で世界的に有名な龍安寺(りょうあんじ)や苔寺の愛称で知られる西芳寺をはじめ、美しい庭園のある寺社等がいくつもあって、帰宅後に写真を見ると庭園ばかりということも(仏像と違い、庭園は撮影禁止ではないため)。
とはいえ、いざ庭園に対峙してみると、なんとなく美しいのは分かるし、心が安らぐこともあるけれど、そもそも庭園の何をどう見たらいいのか途方に暮れるのではないだろうか。

私たちが庭園の鑑賞を難しく感じるのは、「庭園が絵画や彫刻、建築などとともに芸術の一分野」(本書「おわりに」)というだけではなく、他の芸術とは違い、「庭園ほどつかみどころのない分野はない」(同)からではないか。
日本庭園は自然の風景を再現したものなので、季節が変われば庭園も姿を変えてしまう。植物には寿命があるので、多くの場合、眺めている植栽は作庭当初のものではない。苔寺の庭園はもともと苔に覆われていなかったと聞いたことがある。枯山水(かれさんすい)の庭に描かれている砂紋も人が引いて作ったものなので、時々デザイン通りに引き直さなければ崩れてしまう。
こうした「つかみどころのない」日本庭園の世界に、本書はやさしく導いてくれる。日本庭園の歴史から始まり、庭園を構成する「池」「滝」「石組」「垣」「灯籠」などにはどのような意図があるのか(意図が分からないこともある)、「死」や「滅び」との関わりなど、超入門のガイドブックにもかかわらず、建築家でもある著書は奥深い庭園の世界に私たちを誘う。
キーとなるメッセージは、「庭とはただ単に自然を楽しみ癒される対象というよりも、むしろ日本人の精神の発祥に関わる神聖な存在」(本書「はじめに」)であろう。

近年、企業経営において美術の素養や審美眼も必要とされるが、本欄でガイドブックを紹介していいものかと若干のためらいはあった。とはいえ、庭に咲いた花が美しい、紅葉が素晴らしいというだけではなく、もう一歩踏み込んで日本庭園を鑑賞したいと思った人が最初に手に取る書籍には、やはりカラーの写真や図表が多いもののほうがいいと考えた。

なおモノクロ版となるが、同じく日本庭園の入門書として、重森千靑著『日本の10大庭園』(祥伝社)もお薦めしたい。著者の重森氏は、昭和を代表する作庭家・重森三玲の孫にあたり、自身も作庭家である。

※写真は苔寺です(2025年3月撮影)。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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