02. 保険会社の経営分析

生命保険市場の変化

最初にご案内です。2021年に出版した『利用者と提供者の視点で学ぶ 保険の教科書』(中央経済社)の第2版が出ました。アマゾンだと20日から取り扱いのようです。
第2版では図表を直近データに更新しただけではなく、国内金利の上昇を踏まえた記述にしたり、損害保険業界の「保険金不正請求事件」と「保険料カルテル問題」を取り上げたりしています。入門書として読みやすさを優先した『保険ビジネス』では少し物足りないかたや、保険について体系的に学びたいかたは、ぜひ本書をご覧ください。

ところで、生命保険協会は統計資料として会員各社の主要業績を取りまとめていて、全社合計データをサイトで公表しています。このうち年次統計の「新契約年換算保険料(ANP)」では、「個人保険」「個人年金保険」「第三分野」それぞれの内訳や、払込方法別(平準払/一時払)、通貨別(円/米ドル/ユーロ/豪ドル/その他)のデータも公表しています。
さらに、協会では年次統計のCDを「生命保険事業概況」として外部に提供していて、こちらには同じデータが会社別にも載っています。

年末に入手した2024年度版をもとに、新型コロナ禍直前の2019年度から2024年度までの新契約ANPを眺めてみたところ、近年の生保市場の変化が見えてきました。以下、いくつかご紹介しましょう。
まず、全社合計の新契約ANPは、コロナ禍の落ち込みを乗り越え、2024年度は2019年度の約1.3倍に拡大しました。ただし、平準払はほぼ横ばいで、増えたのは一時払です。

新契約ANP  1.93兆円 ⇒ 2.56兆円
 平準払  1.36兆円 ⇒ 1.37兆円
 一時払  0.57兆円 ⇒ 1.18兆円

平準払は全体的に低調で、第1分野は変額保険を除くと減少。第3分野も2019年度の水準を下回っています。
他方、一時払の販売拡大の牽引役は円建です。2024年度は円建のANPが外貨建に匹敵する水準となりました。残念ながら半期データは公表されていないのですが、おそらく傾向は変わっていないと思います。

会社別データも興味深いです。例えば大手4社(日本、第一、住友、明治安田)の新契約ANP、うち一時払とその割合は次のとおりです(2024年度)。

日本 2339億円/562億円(19.6%)
第一 959億円/-(-%)
住友 962億円/549億円(57.1%)
MY 1261億円/524億円(41.5%)

これだと、一時払を提供していない第一生命と、新契約ANPに占める一時払の割合が4、5割もある住友生命、明治安田生命の数字を単純に比べても、あまり意味を成さないということになりますね。ちなみに、住友生命の一時払は円建が目立つのに対し、明治安田生命は外貨建が中心でした。

損保系生保3社(あんしん、MSA、ひまわり)では、一時払や外貨建をほとんど提供していない点は共通していましたが、平準払の内訳は結構違っていました。あんしん生命はこの5年間に、新契約ANPの中核が第3分野から変額保険に変わりました。MSA生命は第3分野が減少する一方で変額以外の第1分野を伸ばし、ひまわり生命は第3分野とともに変額保険にも注力しているようです。

もっとも、あと2か月ほどで2025年度が終わるという時期なので、やや古い情報ではあります。
各社が決算発表の際、あるいはディスクロージャー誌でこの情報を出してくれるといいのですが。

※写真は東京・日本橋です。

 

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国際収支と再保険

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1312(2026.1.12)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
大学の冬休みは短く、年末はクリスマスの12月25日まで授業があり、新年は1月5日から授業を再開しています。
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保険・年金サービス収支の赤字拡大

皆さま、本年もよろしくお願いいたします。
ところで、1月7日付け日本経済新聞「保険収支の赤字 年3兆円 海外企業への手数料急増(有料会員限定)」(あるいは電子版の「海外再保険料、支払い10年で9倍 収支赤字は年3兆円超」(同))という記事をご覧になったでしょうか。国際収支統計の経常収支の1項目であるサービス収支において、保険・年金サービス収支の赤字が年々拡大しているというものです。
損害保険分野での再保険手数料というと、出再会社が支払うのではなく、契約獲得費用の補填として受再会社から受け取る手数料のことを指します。トーア再保険の用語集によると、生命再保険には出再会社が受再会社に支払う「再保険者事務手数料」もあるようですが、それにしても年間3兆円もの赤字というのは大きい数字です。

計上方法に疑問あり

そこで、日本銀行国際局が2022年3月に作成した「国際収支関連統計:項目別の計上方法」で「保険・年金サービス」の計上方法を確認したところ、次のとおりでした。

・発生主義で認識した保険料に保険サービス比率を乗じて推計
(保険サービス比率は、事業費の保険料収入に対する比率)
・ただし、生命保険や年金についてはサービス部分の推計を行っていない
・生命保険や年金の保険料および保険金は、契約者の金融資産として「金融収支」のなかの「その他投資」の「保険・年金準備金」に計上

損害保険の場合には、出再会社が支払う再保険料のうち、付加保険料に相当する部分をサービス収支の保険・年金サービスに計上しているとのことです。もっとも、海外再保険のデータを確認すると、出再保険料が10年前に比べてかなり増えているとはいえ、受再保険料もありますし、収支への影響はおそらく0.2兆円程度のマイナスとみられます。
他方で生命保険については、海外出再分の再保険料をそのまま計上しているのではないかと想像していたところ、日銀の説明には「サービス部分の推計を行っていない」「保険料は金融収支に計上」とあるので、文字通り解釈すると再保険料ではないと読めます。とはいえ、出再を実施した会社の公表資料には再保険料としか記載がなく、損益計算書のどこか別のところに「支払再保険手数料」といった大きな項目があるようにも見えません。もしかしたら、既契約ブロックの出再に関する再保険料は保険料ではなく、手数料とみなしているのでしょうか。そうだとしたら、これを主因として「保険収支の赤字」となってしまうのは妙な話ですね。

再保険を使った資産運用

生命保険会社の再保険料は、10年前には年間2兆円程度だったものが、この5年間で急速に増加し、23年度からは10兆円規模に達しています。再保険料には国内会社どうしの取引も含まれるものの、増加の大半は海外への出再です。
昨年11月の投稿記事でご紹介したように、近年、生命保険会社による資産集約型再保険という取引が増えています。11月の記事で筆者は、「この取引の本質は、規制が求めるソルベンシー比率の改善という『おまけ』のついたファンド投資であって、投資先の不透明さや流動性の低さ、リスク対応の難しさなど、かつてのサブプライム問題を彷彿させるものがあります」と述べています。ファンド投資の1形態とみればいいのかもしれませんが、引き続き注目していくつもりです。
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※写真は鎌倉の瑞泉寺です。

 

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IFRSの導入

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1308(2025.12.08)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
この週末(12月6~7日)はリスクと保険を学ぶ学生たちのゼミ大会(RIS2025)でした。ご参加いただいた実務家の皆さま、ありがとうございました。
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高水準の利益を確保


11月に発表された大手損保グループの4-9月期連結決算では、自然災害の影響が少なかったことなどからSOMPOは過去最高益となり、東京海上とMS&ADも、政策保有株式の売却益が前年同期よりも減少した影響があったものの、国内の保険引受利益の改善などもあり、いずれも高水準の利益となりました。
ただし、筆者が注目していた国内の自動車保険では、各社が予想していたよりも修理費単価が上がり、事故の頻度も下がらなかったことから、損害率が実質的に高水準で推移した模様です。

2つの会計基準

ところで今回の決算では、SOMPOがIFRS(国際財務報告基準)による報告、東京海上とMS&ADが従来の日本基準による報告と、異なる会計基準による報告となりました。
IFRSは世界共通のモノサシとなるように作られた会計基準で、EUやオーストラリア、アジアでは韓国やシンガポールなどが上場企業の会計基準として導入しています。日本では任意適用ですが、25年11月末現在、すでに300社近くの上場企業が導入しています。
日本を拠点とする大手保険グループでIFRSを導入するのはSOMPOが初めてですが、東京海上とMS&ADも25年度末からIFRSを導入する予定となっています。

日本基準との違い

IFRSの詳細については他に譲るとして、今回の決算でみられた日本基準との大きな違いを2つご紹介しましょう。
1つは、株式売却益がIFRSの純利益には計上されないという点です。前述のように、このところ多額の政策保有株式の売却益が各社の純利益を押し上げています。しかし、SOMPOはIFRS導入にあたり、政策保有株式の売却益を純利益に反映せず、純資産の変動のみ認識する基準を選びました。そもそも株式売却益を計上しても、企業価値が高まるわけではありません(株式が現金に代わるだけです)し、これで本業の実力が見えやすくなると言えるでしょう。

もう1つは、生命保険事業の損益・財務認識です。従来の日本基準では、収益と費用の期ズレが非常に大きく、新契約を獲得すればするほど損益が悪化する(費用が先行するため)といった、妙なことが起こります。
これに対し、IFRSでは経済価値ベースで評価を行うため、期ズレの問題はなくなりますし、保険契約の将来利益であるCSMという数値をみることで、日本基準に比べ、生保事業の業績をより的確に把握できるようになります。なかでも、新契約の獲得によりCSM(新契約CSM)をどれだけ増やすことができたのかが、経営にとって重要となります。
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※会場は東京・東洋大学でした。

 

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生保の営業職員チャネル(続き)

主要生保の4-9月期決算が出そろいましたので、前回の続きとして、公表資料から営業職員チャネルの販売動向を確認してみましょう。
日本生命、住友生命、明治安田生命はチャネル別の新契約年換算保険料や保険料収入などを「説明資料」のなかで開示しています(日本生命はグループベースなので大樹生命の営業職員を含む)。第一生命はグループのなかでチャネル別に会社を分けているので、第一生命の数値を営業職員チャネルのものとみなすことにしましょう。

各社の営業職員チャネルによる新契約年換算保険料(ANP)は以下の通りでした(カッコ内は前年同期比)。

日本 1042億円(+ 8.8%)
第一  530億円(▲ 5.4%)
住友  332億円(+22.1%)
MY  727億円(+68.4%)

他方で各社は「保障性商品」の新契約ANPも開示しています(日本生命は「主要保障性商品」、住友生命と明治安田生命は「保障性商品」として開示。第一生命は非開示だが「一時払い終身商品は主戦場ではない」と社長が言明しているので個人保険の数値を掲載)。

日本  323億円(▲ 5.6%)
第一  299億円(+21.0%)
住友  144億円(+ 7.1%)
MY  153億円(▲ 9.1%)

参考までに、第三分野(生前給付保障、医療保障等)の新契約ANPは以下の通りでした。

日本  217億円(+ 2.1%)
第一  229億円(+21.2%)
住友  141億円(+ 2.5%)
MY  180億円(▲20.0%)

これらの数値および日経報道などを踏まえると、第一生命はやや傾向が違うようです(昨年度に個人年金の販売が急増した反動あり)が、総じて円建て貯蓄性商品の予定利率を引き上げた会社の新契約ANPが大きく増えたことと、保障性商品の販売は引き続き低調であることがうかがえます。同じく営業職員を中核チャネルとする朝日生命や富国生命でも、同様の傾向が見られるようです。

とすると、気になるのは次の2点です。1つは「円建て貯蓄性商品の販売による弊害はないか」です。金利上昇時の解約リスクについて、今の情報開示では手掛かりがほとんどなく、営業職員チャネルとはいえリスクを貯めこんでいないかどうか心配です。収益性も気になりますし、さらに言えば、保障性商品の販売につながるものなのか、あるいは、そもそも貯蓄性商品の提供に軸足を移すのか、といったチャネル戦略も気になります。
もう1つは、保障性商品の提供に軸足を置き続けるのであれば、前回のブログでもコメントしたように「今の採用数や採用方針を続けるのかどうか」です。
このような視点で今後も見ていきたいと思います。

※飯塚市の旧伊藤伝右衛門邸を訪問しました。

 

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資産・負債キャッシュフロー構造の開示

日本の上場生保グループでは、資産と負債のキャッシュフロー構造を開示するのが一般的になりつつあります。
例えば2025年3月期決算を受けた説明のなかで、次のような開示がありました。

第一生命(PDF) ※13ページ
太陽生命・大同生命(PDF) ※18ページ
ソニーグループ(PDF) ※39ページなど

この開示があると、保険会社が保険負債の金利リスクをどのようにコントロールしようとしているのかを外部からうかがうことができます。逆に言えば、こうした開示がなければ、ESRの金利感応度だけでは保険負債の構造やリスクテイクの状況はよくわかりません。
上場生保だけではなく、できればスタンダードの開示になってほしいです。

なお、生保の2025年3月期決算といえば、大手生保4社(日本、第一、住友、明治安田)の契約動向を確認すると、第一生命がやや持ち直したとはいえ、営業職員チャネルによる保障性商品の販売低調が続いているようです。
新型コロナ感染症の影響(顧客接点が持ちにくくなった)というだけではなく、円金利復活に伴い、チャネルが貯蓄性商品の提供に軸足を移している(あるいは経営の意図に反して移ってしまった)ということもあるのかもしれません。

出張中につき、今回はここまで。

※校務で宮崎に来ました(もうすぐ帰ります)。

 

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生保の国内公社債運用

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1284(2025.6.9)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。保険代理店向けの内容ではなかったかもしれませんが、生保決算関係の記事ということでご容赦ください。
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国内公社債の含み損が拡大

近年の長期金利の上昇で、生命保険会社が保有する国内公社債の含み損が注目されています。
生保は超長期の保険負債のリスクヘッジを目的に、多額の超長期国債を保有しています。約3年前、2022年3月末の30年国債利回りは1%を下回っていました。当時の大手生保4社(日本、第一、住友、明治安田)の国内公社債は6.6兆円の含み益でした。その後、25年3月末には利回りが2.5%に上昇し、4社の国内公社債は8.5兆円の含み損となりました。

5月26日のブルームバーグニュースは多額の含み損について、生保は一般的に債券を満期保有で保持しているとしたうえで、
(1)債券の時価が帳簿価格よりも50%以上下落した場合は、減損処理実施の可能性が生じる、
(2)大幅な金利上昇に伴う想定外の保険解約があった際には、含み損を抱えた債券の売却による現金化を迫られるなど損失計上につながる可能性もある、
(3)含み損の拡大は運用資産の配分でリスクを取りにくくする要因にもなる、
と述べています。

私の見解を申し上げると、まず(1)はそれほど深刻ではないと考えています。金利要因のみによる価格下落であり、償還時までには必ず額面に戻るため、その債券を持ち続けるという意思を示せるのであれば減損処理は不要なはずです。
(2)は銀行窓販の貯蓄性商品などでは解約が増える可能性があり、商品・チャネルによっては確かに注意が必要です。だからといって、あまりに非現実的な前提を置いて対応するのは、かえって資産構成を歪めることになりかねません。
これらに比べると(3)は意味不明です。金利上昇によって超長期国債の価格が下がる一方で、保険負債の価値も小さくなっています。時価ベースでみれば、生保の経営体力が低下して、リスクを取りにくくなったとは考えられません。来年には各社の経済価値ベースのバランスシートが公表されるので、この記述が意味不明であることがはっきりわかると思います。

債券の入れ替えとは

同じく5月26日の日経は、「生保は債券の長期保有を前提に運用しており足元の影響は限定的」としたうえで、「運用利回りの向上のためには債券の入れ替えが必要になる」と述べています。
日経は24年12月決算発表を受けた2月にも「保有資産の入れ替えが急務となっている」と報じています。
確かに25年3月期決算では、大手4社をはじめ、国内公社債の売却損を計上した会社が目立ちました(富国、ソニー、かんぽなど)。過去に購入した低い利率の債券を売り、利率の高い債券に入れ替える取り組みとみられます。

しかし、売却損を出して債券を入れ替えると、本当に運用利回り(投資のリターン)は向上するのでしょうか。
まずは株式で考えてみましょう。昨年3万円で買ったA社の株式が2万円に下がり、1万円の含み損となってしまったので、入れ替えることにしました。具体的には含み損となったA社の株式を売却し、1万円の売却損を計上したうえで、再びA社の株式を2万円で買いました。その後、株価が3万円に上がり、1万円の含み益となりました。
さて、3万円の株式投資のリターンは、入れ替えによって向上したでしょうか。株式投資のリターンとは含み損益の増減ではなく、投資金額がいくら増えたか(減ったか)なので、入れ替えしてもしなくても、リターンは変わらない(この事例ではゼロ)とわかります。

債券でも同じです。現在、残存期間が5年の国債は、利率0.1%の国債だと価格が約95円、利率2%の国債だと価格が約104円で流通しています。いずれの債券に投資しても、5年後のリターンは同じです。つまり、残存期間が同じ債券を入れ替えて、含み損を消したとしても、そこで高まるのは利率だけで、債券投資のリターンは向上しないはずです。
それにもかかわらず、売却損を出して債券を入れ替えるのは、生保が時価ベースの運用ではなく、利息収入をターゲットとした運用を行っているからなのかもしれません。利回りは同じでも、利息収入が増えれば基礎利益を増やすことができます。
とはいえ、皆さんは時価ベースのリターンをターゲットとしない投資家に資産運用を委ねたいと思うでしょうか。
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※週末は金融学会の大会で久しぶりの東大でした。

 

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2024年度損保決算から

損保大手が2年連続最高益 強まる運用頼み、5年で利益4倍」(日経)
大手損保3社 昨年度の最終利益 いずれも過去最高に」(NHK)

大手損保グループの2024年度決算は、主として政策保有株式の売却益により会計利益が過去最高となりました。
決算資料をざっと確認したところ、大手3グループの連結純利益2.1兆円に対し、国内損保の株式売却益は計1.6兆円(税引前)とのことで、売却益の影響の大きさがわかります。2025年3月末の国内株式含み益は3グループ合計で4.7兆円なので、株価と売却ペースによりますが、当面は同じような決算が続くのでしょう。

参考までに、各社の時価総合利回り(時価ベースでの運用資産全体の運用効率を示す指標)を確認したところ、いずれもマイナスでした。国内損保は2023年度とは違い、資産運用でリターンを上げられなかったということになります。

TMN △1.72%、
MSI △4.82%
ADI △2.24%
SJ  △0.49%

国内損保事業で目立ったのは、自動車保険の損害率上昇と代理店数の減少です。
後者について、このところ年3%程度の減少が続いていたのですが、昨年度は約8%もの減少です。何か統計上の特殊要因があるかもしれませんが(特にADI)、一連の損保問題と関係がある動きなのか注目したいです。

※旧朝鮮銀行本店(現在は韓国銀行貨幣博物館)です。

 

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2025年度の生保運用計画

28日の日経報道で「主要生命保険、保有国債1兆円超削減へ 規制対応一巡で転換(会員限定)」とあったので、大手各社の2025年度運用計画をロイターとBloombergの記事で確認してみたところ、実際には以下の通りでした
(毎回言っていますが、どうしてメディアに説明するだけで、一般に公表しないのでしょう)。

<日本生命>
・過去の利回りが低い(価格が高い)時に購入した債券を売却し、代わりにより利回りの高い(価格の安い)債券を買うため、日本国債については簿価ベースの残高は減るものの、時価ベースで見れば残高は増える。

<第一生命>
・円債については、足元は資産と負債の規模がおおむねマッチしている状況で、年限別のキャッシュフローを踏まえた責任準備金対応債券の入れ替えが中心となり、残高はおおむね横ばいと見込む。

<住友生命>
・円債は、「償還期間10年超」の日本国債を機動的に投資することにより、数千億円規模で積み増す計画。

<明治安田生命>
・金利リスク削減と長期安定的な利配収入確保に向けて、従来通り20年債と30年債を軸とした超長期国債を中心に買い入れる。購入のペース配分は「平準買い」を基本としつつ、金利上昇局面をとらえて追加投資も検討する。ただ償還が買い入れを上回るため、残高は「昨年度の3900億円(簿価ベース)と同程度」減少するという。

<かんぽ生命>
・20年物を中心とした長期・超長期国債に幅広く、「グロスで5000億円程度」の買いを想定している。ただ保有債券の償還が1兆3000億円程度あって投資額を上回るため、残高は減少する見込み。

日本生命は時価ベースでみれば残高を増やす、第一生命は横ばい、住友生命は増加に転じるとのこと。かんぽ生命は資産規模の縮小が続くなかでの残高減少なので、方針として残高を減らすというのは実質的に明治安田生命だけのようです。

記事によると、明治安田生命は1年前(2024年4月下旬)には「平準買いを基本としつつ金利が上昇した局面では積み増す」と述べ、その半年後(2024年10月下旬)にも「金利が上がったら買いに動く」とコメントしていました。
ところがその後、金利が上がったにもかかわらず買いには動かず、「(前年度は)金利先高観により円債の買い入れを抑制」と、国内債を簿価ベースで3900億円減らしたそうです。さらに「(負債と資産のデュレーションのマッチングはほぼ終了しており)円債をどんどん積み増すのは金利リスクが高い」という記述もあり、どうも昨年のコメントとの整合がとれません。

ちなみに日本生命は、1年前は「金利上昇を待って国債買いのペースを加速させる方針」、半年前は「全体としてはやや抑制的なペースで年度を通じて投資」で、今回は「基本は平準ペースで買い入れ、市場動向次第で機動的にペースを調整していく(4月は多めに購入)」ですから、確かに金利上昇に伴って国債を多く買っているようです。
住友生命も、1年前は「金利上昇時には追加投資も検討」、半年前は「金利の上昇局面で少しまとまった金額を投入」で、今回は前述の通り「『償還期間10年超』の日本国債を機動的に投資することにより、数千億円規模で積み増す計画」です。

※ソウルのおしゃれなカフェです。

 

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「挑む相互会社の壁」

4月18日にアップされたNIKKEI Financial「ホケンの変革 日本生命保険 挑む相互会社の壁(上)/相互会社で進める大型買収、企業統治改革は道半ば」にコメントが載りました。
有料媒体なので私に関する部分だけ引用します。詳しくはNIKKEI Financialをご覧ください。
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24年5月、韓国で開いた韓国保険学会。元著名保険アナリストで現在は福岡大学で教鞭(きょうべん)をとる植村信保教授は日本の保険会社のM&Aについて出席者から問われると「相互会社が海外の保険会社を買収し、グループとして非社員契約を増やすのは、契約者が会社の構成員(社員)となっている相互会社のあり方として適切なのかという疑問が生じる」と指摘した。
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「元著名保険アナリスト」というのは「元R&Iの格付アナリスト」の誤りではないかと思いますが(笑)、こちらのブログ(日本の保険会社による海外M&A)で書いた内容を参考にしていただいたものです(取材も受けました)。

そもそもは「(日本の保険会社による)海外M&Aの目的は純投資なのか、それとも事業による利益獲得をねらったものか」という質問に対し、純投資ではなく、事業による利益獲得をねらったものと答えたうえで、相互会社についても触れました。引用していただいた内容に続き、「株主と相互会社の社員では、経営陣への期待(リスクのとり方など)も異なると考えるのが妥当」とも述べています。

なお、ブログでは相互会社のガバナンスに関する記事を何度か書いていますので、ご参考まで。

相互会社の保険会社買収(2015.9.13)
週刊ダイヤモンドの保険特集(2018.4.28)
2020年の生保総代会(2020.7.26)
「質疑ゼロの生保総代会」(2023.7.17)

※キャンパスに学生が戻ってきました。

 

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MSIとADIの合併

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1276(2025.4.7)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
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合併による経営効率改善へ

MS&ADグループの中核会社である三井住友海上火災保険(MSI)とあいおいニッセイ同和損害保険(ADI)が2027年4月をめどに合併する準備に入りました。
読者の皆さんには釈迦に説法かもしれませんが、MSIは旧財閥系の大手損保どうしが対等に近い形で合併した会社である一方、ADIはパーソナル分野に強い大東京火災がトヨタと親密な千代田火災、日本生命グループとなっていたニッセイ同和損保と一緒になった会社です。同じグループとなって久しいものの、この15年間に両社の融合が進んだようには見えません。国内損保事業の構造的な問題が明らかになるなかで、両社を併存させるメリット(MS&ADの船曳真一郎社長は昨年9月のIR説明会で「代理店シェア最大化のため」と説明)よりも、合併で1つにしたほうがよりメリットが大きいという判断をしたのでしょう。
そう考えると、「それぞれの強みを維持・結集し、さらに拡大するために強力に取組みを進める」(ニュースリリースより引用)というのは、合併によるマイナス効果を何とか最小限にとどめたいという意味であり、1プラットフォーム戦略など、これまで進めてきた一体運営ではさらなる効率化には限界があるので、合併で経営効率の改善を一気に図り、「経営資源の全体最適を実現」(同)させるということだと理解できます。

持株会社によるガバナンス強化

筆者は、国内損保事業の効率改善以上に重要なのは、持株会社によるガバナンス発揮ではないかと考えています。
これまで様々なメディアで、企業向け保険料の事前調整問題と、旧ビックモーターによる保険金の不正請求事件は、損保業界が護送船団行政の時代に形成したコンダクト(企業行動)を、自由化後も温存してきたことが問題の本質であると指摘してきました。情報漏えい問題も同じです。不適切なコンダクトを温存できた要因は、各社がビジネスモデルの見直しではなく、業界再編によって競争相手を減らす戦略を選んだことが大きいと見ていますが、再編で設立された持株会社のガバナンス機能が弱く、グループ管理のダブルスタンダードがまかり通ってきたことも挙げられます。
持株会社は、新たに買収した海外事業の経営者には、当然ながら投資(すなわちリスクテイク)に見合ったリターンを求めるのに対し、国内自然災害と政策保有株式という2大リスクを抱えているにもかかわらず、こうしたリスクベース経営ではなく、規模やシェアを追求する国内損保事業をなかなか変えようとはしませんでした。会社価値の拡大を求める株主からすると、持株会社がむしろ盾(たて)の役割を果たしてきたことになります。

お気付きの通り、これはMS&ADグループだけではなく、同じく中核損保で問題が発覚した他の大手2グループにも共通した課題です。とはいえ、MS&ADでは傘下に中核損保が2つあることで、持株会社が監督・指導よりも、調整や対外説明に労力を費やしていた可能性があります。
筆者は、合併で国内トップシェアの損保が誕生すると誇るのではなく、中核損保の合併を契機に、持株会社のガバナンスを十分に発揮できる体制づくりができるかどうかが重要だと考えています。

※今年は天守台から桜を眺めることができました。福岡にて。

 

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