リスクマネジャーの育成

7月7日の日経電子版に、日本損害保険協会が企業のリスクマネジャーの育成に向けた資格制度を導入するという記事がありました。同じ趣旨の記事はBloombergニュースにも出ています。

企業のリスクマネジメントは保険に加入することではなく、保険はあくまでリスクマネジメントの1手段(リスクの移転)です。したがって、仮に保険加入を促すような資格制度となってしまうようであれば、リスクマネジャーの育成にはつながらないでしょう。
また、企業のリスクマネジメントは企業価値の向上を目指すものなので、リスクマネジャーは損失の軽減や移転だけではなく、適切にリスクをとる枠組みを構築しなければなりません。リスクをとらなければリターンは得られませんし、リスクマネジメントはリスクマネジャーが行うのではなく、経営者をはじめ、すべての事業部門が行うものです。

とはいえ、私は今回の損保協会の取り組みを前向きにとらえています。というのも、企業向け損害保険市場(特に大企業向け)は本来、プロどうしの取引であるにもかかわらず、一連の「損保問題」を受けた金融庁の制度改革は基本的に保険業界を対象にしていて、顧客企業に直接何かを求めるような改革は見送られているからです。
いくら損害保険会社が、過度な便宜供与など不適切とされた取引慣行を見直し、リスクに応じた引き受けに移行しようとしても、もし顧客企業のリスク意識が低く、相変わらず保険料を最小にすべきコストとしてしか見ないのであれば、保険会社は取引をやめるしかありません(そうした企業は料率引き上げに応じないでしょうから)。

しかし、世の中に「リスクマネジャー」なる存在が増えていけば、横並び意識の強い日本では、意外に早くリスクマネジャーが浸透するかもしれませんし、もしリスクマネジャーを置いているにもかかわらず何か不祥事が起きたとすると、株主やメディアから「リスクマネジメントの形骸化」を指摘され、かえっていい方向に向かうきっかけとなるかもしれません。損保各社はERM経営を標榜しているのですから、自らの体験に基づいたアドバイスも可能でしょう。
ちょっと楽観的な観測かもしれませんが、保険業界として資格制度を含め、様々なやり方で企業の意識改革を図ることで、「保険本来の価値提供で選ばれる世界の実現」(東京海上グループの中期経営計画から引用)に近づいていくことを期待しています。

※福岡(博多)はお祭りモードです。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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