07. 規制・会計基準

プルデンシャル生命の決算

5月26日に公表されたプルデンシャル生命の決算資料を見てみました。同社は金銭不祥事等の発覚を受け、2月9日から新規契約の販売活動を自粛しています。

まず、1-3月期のみの新契約指標を計算したところ、新契約年換算保険料(ANP)は前年同期に比べて48%減少、個人保険の新契約件数は63%減少、新契約高は56%減少でした。4-6月期はさらに減っていることでしょう。
なお、保険料収入(保険料等収入ではありません)の減少が16%と緩やかなのは、同社は一時払いの契約が少なく、保険料収入の多くが月払いまたは年払いの既契約からの収入となっているためです。

解約動向も気になるところですが、公表されているのは損益計算書の解約返戻金だけのようです。1-3月期の解約返戻金を計算すると1784億円で、これは前年同期(1124億円)の約1.6倍となります。ただし、仮にこの水準の解約が1年続いたとしても、解約失効率はおそらく15%程度で、2割とか3割とかにはならないのではないかと思います。
この程度の流出であれば、資金繰りの面でも含み損を抱えた公社債の売却を迫られるようなことはなく、実際、同社の国債等債券売却損は通期で36億円にとどまっています。

他方、日本の会計基準では今回の金銭不祥事等による損益への影響はほとんどつかめません。2026年3月期の当期純利益は前期比52%の減少でしたが、これは前年度に再保険取引に伴う臨時損益(約290億円)があったことの反動減であり、特別損失として顧客への補償費用47億円を計上したにもかかわらず、実質的にはほぼ横ばいでした。
こちらのブログで紹介したように、同社の親会社Prudential Financialは5月6日開催のIRミーティングで、「1-3月期における販売自粛による損益への影響は1.3億ドル(約200億円)で、このうち0.5億ドル(約80億円)が顧客対応、0.5億ドル(同)が営業職員への手当で、販売自粛と解約に関する損失は0.3億ドル(約46億円)」と公表しています。
しかし、日本基準の決算からは、約200億円の影響があるとは全く読み取れません。同社は「十分な利益水準を維持しております(同社の決算ニュースリリースより)」と述べるのではなく、親会社が示した「200億円」が決算にどのように反映されているか(あるいは反映されていないか)を一般に示すべきではないでしょうか。

※写真は北越の小京都と言われる加茂の町です。

 

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2つのESR

先日、保険業界の皆さんに新たなソルベンシー規制について説明する機会がありました。そこで出たのが、2つのESR(経済価値ベースのソルベンシー比率)をどう使い分けたらいいかという質問でした。
これまでも規制が求めるソルベンシー・マージン比率と内部管理用のESRの2つを開示していた会社も多かったのですが、規制でも「ESR」という名称が出てきて、はじめて健全性指標が2つあるのに気づいたということなのでしょう。業界内部の皆さんは、業務で関わっていなければ、意外に社外に出している情報を知らないのかもしれません。

先週までに発表された生保決算では、ざっと見たところ、これまでソルベンシー・マージン比率が載っていた決算資料には新たな比率の記載はなく、各社が独自に作成した説明資料の中にESRに関する情報を載せているようです。
例えば主要生保の開示状況は以下の通りです。

・日本生命:内部モデルESR(連結)と規制ESR(連結と単体、速報値)を開示
・第一生命:グループESR(概算値)を開示(規制ESRは後日開示予定)
・住友生命:連結内部管理ESRを開示(規制ESRは6月下旬に開示予定)
・明治安田生命:内部モデルESRと標準モデルESRを開示
・大樹生命:規制ESRの概算値を開示
・朝日生命:内部管理ESR(連結)と規制ESRの暫定値(連結?)を開示
・T&D:内部管理ESR(グループ)を開示
・富国生命:内部モデルESR(連結と単体)と標準モデルESR(単体、速報値)を開示
・ソニーFG:内部管理ESR(連結とソニー生命)を開示
・かんぽ生命:ESR(規制ベースの暫定値?)と大量解約リスクを除いた比率を開示

現時点では、以前から開示していた内部管理用のESRだけを開示している会社と、規制ESRの暫定値もあわせて開示した会社に概ね分かれるようです。ただし、内部管理ESRについては、各社とも比率の推移に加え、関連する情報(分子・分母の内訳や感応度など)も開示していますが、規制ESRを開示した会社では、開示したのは前期末の比率だけというところが大半でした。おそらくディスクロージャー誌が出そろう7月末から8月上旬までには、規制ESRと関連情報を公表する会社が多いのではないかと思います。

冒頭の質問に対する回答は、「規制ESRはあくまでも100%を下回ることのできない制約要件」「規制ESRは各社のリスク特性を反映したものではないので、経営管理指標としては内部管理ESRを重視すべき」「いずれも高ければ高いほどいいというものではない」というものです。
もっとも、内部管理ESRの関連情報の開示は多くの会社で十分とは言えない状況なので、規制ESRの関連情報(=こちらは規制で開示内容が決まっています)を参考にすることになりそうです。ここまで説明するとかえって質問者を混乱させてしまうので、実際にいろいろな数値が出てきたら、それを使った説明ができるといいですね。

※写真は東京・杉並の妙法寺です。

 

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規制が新しくなったのですが…

この週末は長崎に滞在していまして、短めのブログです。

5月22日の日経電子版に「生命保険会社選び、健全性や信用力を吟味 破綻時の影響も注意」という記事が出ていました。このタイミングですから、新たなソルベンシー規制を紹介する内容、あるいは少なくとも規制見直しについて触れていると思いますよね。
ところが読んでみると、確認すべき代表的な指標として最初にソルベンシー・マージン比率(SMR)が挙がっているのですが、

「値が高いほど健全性が高いといえ、一般的に200%超なら一定の安全性があるとされる。2025年3月末時点で200%を下回る生命保険会社は無く、最も高い会社は3000%超、最も低い会社は500%台だ。国内大手生保4社の平均は835%なので一つの目安になるだろう」

という記述。旧SMRの数値を紹介し、新規制への言及が全くないということは、おそらく筆者のかた(外部ライター)は規制が変わったことをご存じないのでしょう。日経にこうした記事がそのまま載ってしまうことにも驚きましたが、金融庁は規制が変わったことを一般にもっと伝えたほうがいいのではないでしょうか。

もちろん、実際に新たな数値が出てこないと、ピンとこないというのもわかります。上場保険会社グループの決算発表では内部管理上のESR(経済価値ベースのソルベンシー比率)の開示は続いているものの、規制比率も同時に開示した会社は少ないようです。実際にもっと数値が出てきたら、それらを取り上げる媒体も出てくるのではないかと期待しましょう。

なお、5月11日に始まったダイヤモンド保険ラボの連載「新規制ESRの衝撃」は、先週の森本祐司さんによる論考「『経済価値ベース』とは何か」に続き、今週もありますのでご期待ください。

 

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重要なのは含み損益ではない

5月11日(月)からダイヤモンド保険ラボで「新規制ESRの衝撃」という特集が始まりました。3回目の15日は「保険業界人必読のESRとの付き合い方、『7つの疑問』に専門家が回答」でした。今週はキャピタスコンサルティングの森本祐司さんにバトンタッチ。有料媒体ですが、これまでのところ新規制に関する一般向けの情報がほとんどでていないので、ぜひご覧ください。

さて、保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1328(2026.5.18)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
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新たなソルベンシー規制の導入

保険流通に関わる皆さんは、この3月末から保険会社向けの健全性規制がガラッと変わったのをご存じでしょうか。
先週から始まった「ダイヤモンド保険ラボ」の連載でも述べていますが、約20年間の検討期間を経て、26年3月末から「経済価値ベースのソルベンシー規制」と呼ばれる新たな健全性規制の適用が始まりました。ただし、これから保険会社の決算発表がピークを迎えますが、そこでは内部管理上の比率の公表が中心で、規制比率の公表はおそらく夏以降になるのではないかと思います。
新しい比率は従来の水準から大きく下がると見込まれます。だからといって、保険会社の健全性そのものが悪化したわけではないということを、念のためお伝えしておきます。冷静に考えれば、規制見直しによってモノサシが替わっただけなので当たり前なのですが、過去にはそのような報道もありましたので、ご注意ください。

重要なのは資産の含み損益ではなく、「適格資本」の状況

昨年度は株価が大きく上がり、かつ、国内金利も大きく上昇しました。その結果、株式含み益が一段と膨らむとともに、生命保険会社が保有する国内債券の含み損が拡大しました。
しかし、これは「これまでの超長期債への投資が裏目に出た」「(国内債券だけではなく)株式を持っていればよかった」という話ではありません。金利の上昇は資産だけではなく負債にも大きな影響があります(保険負債の時価が総じて小さくなります)し、新たな規制の下ではソルベンシー・マージン(適格資本)にも反映されます。もともと保険会社の経営を見るうえで、資産側だけに着目するのは正しくなかったのですが、新規制の導入によってそのことがより明確になりました。
重要なのは資産の含み損益ではなく、経済価値ベース(時価ベース)で見た適格資本の状況です。

ちなみに、資産のみを時価評価して算出する「実質純資産(額)」「実質資産負債差額」などと呼ばれた健全性指標も、新規制の導入とともに廃止されました。これは、リスク管理の観点から負債の金利リスクを資産(債券)で適切にヘッジしている会社ほど、金利上昇時に数値が極端に悪化してしまい、リスク管理の妨げとなっていたからです。この点からも、資産側だけに着目する意味はなくなりました。

含み益経営の亡霊から脱するべき

以上のように、資産の含み損益は健全性指標としての役割を名実ともに終えました。他方で、含み損益が実現益・実減損になると(あるいは減損処理を行うと)、会計上の損益に影響を与えるのは確かです。
ですが、2年前の本誌で述べた通り、株式の売却益を計上すると一見、儲かったように見えるかもしれないけれど、実際は株式を現金と交換しただけなので、売却益は会社の価値を高めません。同じく1年前の本誌で述べた通り、売却損を出して債券を入れ替えても、今後の利息収入が増えるだけで債券投資のリターンは向上しません。つまり、生保がリターンを目指す投資家であるならば、会計上の損益は全く参考にならないということです。
強いて言えば、メディアが会計損益しか報じないので、含み益は会計損益を安定させるために重要と生保の経営者が考えてしまうのかもしれません。契約者への還元をあまり増やしてこなかった生命保険会社の経営を見ると、ついそう疑ってしまいます。とはいえ、それなりにリスクをとっているのであれば、そもそも安定した損益を期待するのは理にかないませんよね。
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※週末は新潟でした。

 

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「第2の柱」の実効性

プルデンシャル生命の営業職員による金銭詐取問題をはじめ、近年、保険会社や代理店による不祥事が後を絶ちません。そのなかで、「金融庁は何をしていたのか」「検査で見抜けなかったのか」など、金融庁の監督に対する社会の目線も厳しくなっているように感じます。

金融庁のリソース不足については2024年にIMFが指摘していますし、ブログでも何回か触れてきました。例えばこちら(金融庁のリソース拡充を)やこちら(過度の便宜供与)、こちら(日本の保険行政)などです。
ただし、リソース不足だけではなく、主として銀行を念頭に置いた検査・監督の見直しが、保険行政にはむしろ裏目に出たとも考えています。最近になって、2024年12月に日本保険学会・関東部会で報告した「ソルベンシー規制『第2の柱』の実効性に関する考察」の論文のPDFファイルが公表されました。この論文の「おわりに」で私は次のように述べています。

以下、少し長いですが、該当箇所を引用しましょう。
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この間、金融庁は検査・監督の大幅な見直しを行った。(中略)いわゆる重箱の隅をつつくような検査ではなく、「モニタリング・データや随時のヒアリング等により金融機関の分析を行い、金融機関の特性を把握し、その内容に応じて検証の重点を判断し、重点的な課題の性質に応じてオンサイト(立入検査)とオフサイト(立入を行わないモニタリング)、個別金融機関のモニタリングと水平的なモニタリング(同一課題についての金融機関横断的なモニタリング)等を使い分けていく」とした。実際、定期検査中心のモニタリングから、オン・オフ一体の継続的なモニタリングに移行し、検査局もなくなった。
この改革は、銀行監督についてはともかく、保険部門の監督に関してはうまく機能していない可能性がある。もともとのリソース不足に加え、少数の専門性の高い人材を新たなソルベンシー規制(特に経済価値ベースの健全性指標の開発)に配置せざるをえないなか、周期的な立入検査をなくしたことにより、リスクの把握が難しくなった点は否めない。方針転換とともに、保険行政としては、立入検査に代わるリスク情報の収集と分析の枠組みを確立すべきだったが、その取り組みが進まなかったのであろう。加えて、保険会社の経営情報はわかりにくい、理解が難しいとされる(特に生命保険会社)。2年程度のローテーション人事では、いくら優秀なスタッフであっても、しっかりした枠組みがなければリスク情報の分析は難しい。
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それでも保険行政の現場は何とかがんばっているのですが、現場だけで取り組めることは限られています。せっかく7月から監督局が2つに分かれ、銀行行政に引きずられにくくなるのですから、ぜひ機会を生かしてほしいところです。

※福岡に嵐が来ました(私は会っていません)

 

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他業禁止規制の見直しを提言

昨年度からSBI金融経済研究所の「次世代金融インフラの構築を考える研究会・分科会C(金融産業構造の未来像)」に参加しています。分科会Cではこの3月末に第一次提言として、「金融業における業務範囲規制のあるべき姿」を公表しました。

政府は銀行や保険会社、あるいは金融持株会社(ここでは銀行持株会社・保険持株会社)に対し、厳格な業務範囲規制(他業禁止規制)を設けています。近年では規制緩和が進み、例えば第一生命によるベネフィット・ワンの買収、東京海上によるID&Eホールディングスの買収など、保険グループによる非保険事業への参入も目立ちますが、当局の認可・承認といったプロセスを含め、まだまだ制約が大きいのも確かです。
他方で楽天やイオン、KDDIなどは一般の事業を行いつつ、銀行や保険の分野に参入できています(ソニーは昨年、金融事業を分離しましたが…)。それが可能なのは、金融持株会社に該当しなければ、他業禁止規制を課せられないからです(銀行・保険主要株主という取り扱い)。言い換えると、楽天やイオン、KDDIなどは、金融持株会社の判定基準と子銀行・子保険会社の議決権比率をコントロールすることで、金融持株会社に該当しないようにしているというわけです。
この結果、銀行や保険会社が金融以外の事業に参入するのは他業禁止規制の壁があるのに対し、事業会社は金融持株会社と判定されなければ銀行・保険分野に参入できるという妙なことになっていて、これを見直すべきというのが提言の柱となっています。

もっとも、楽天やイオン、KDDIは参入できているとはいえ、全体として事業会社が銀行・保険分野に参入しやすいかといえば、おそらくそうではないでしょう。今年度はこのあたりについてもさらに考えていきたいと思います。

※写真は「大手町の森」です。中には入れないのですね。

 

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保険会計の動向

日本の企業会計基準は現在、政府が定めているのではなく、企業会計基準委員会(ASBJ)という民間の組織が策定しています。詳しくはこちらをご覧ください。
会計基準は分野によって専門性が高いので、ASBJには各種の専門委員会がいくつもあって、私はその1つである保険契約専門委員会の委員を務めています。もっとも、例えば金融商品専門委員会であれば、その目的は「我が国における金融商品に関する会計基準について検討するとともに、金融商品に関する会計基準についての国際的な意見発信に関する検討を行うこと」となっているのに対し、保険契約専門委員会の目的は「IASBにおける保険契約に関する会計基準の審議に対応して国際的な意見発信に関する検討などを行うこと」とされていて、現時点では「会計基準の検討」は入っていません。

ただし、保険契約の会計基準のほうもいよいよ次のステップに進むことになりそうです。
ASBJは約3年ごとに中期運営方針を策定し、公表しています。前回(2022年8月30日公表)の中期運営方針の記述に比べると、昨年12月12日に公表された中期運営方針での「保険契約」の記述は一歩踏み込んだものでした。

<2022年8月の中期運営方針より>
「保険契約」については、2017年5月に公表されたIFRS第17号「保険契約」が2021年12月に改正されている。これまで我が国では保険会社による保険に関する会計処理に保険業法の定めが用いられてきているが、今後、保険契約全般に関して、当委員会において会計基準の開発に向けた検討に着手するか否かの審議を行うこととする。

<今回の中期運営方針より>
「保険契約」については、2017年5月に公表されたIFRS第17号「保険契約」が2021年12月に改正されている。保険契約全般に関する会計基準の開発については、特に保険会社においては保険契約から生じる負債が関連する資産と密接な関係にあることから、前述の金融商品の分類及び測定に関する議論と合わせて、国際的な動向や関連法令との関係を踏まえながら、着手に関する議論を行う。その際、金融商品と保険契約全般の両基準の開発に関するロードマップを策定し、当該ロードマップに基づいて検討を進めることとする。

つまり、保険会社の経営にはALM(資産と負債の総合管理)が重要であり、資産サイドの「金融商品の分類及び測定」に関する議論を行うので、負債サイドの「保険契約」に関する議論も行うということでしょうか。IFRSも保険会社には、先に開発された第9号「金融商品」と、第17号「保険契約」を同時に適用できるような配慮がありました。

3月17日の保険契約専門委員会では、基準開発への期待をコメントしました(専門委員会の論議は原則として公開です)。今の保険会計でも保険負債(=取得原価)に対し、責任準備金対応債券区分(=償却原価)などを使えば、保険会社がマッチング型ALMを進めても会計上、おかしなことにはなりません。しかし、会計情報の利用者としては、活用できる手掛かりが少なく(特に保険負債)、保険会社のリスクやリターンを評価するのが難しい状況が長く続いています。

他方で、今の保険会計は、保険業法の定める規制があれば、それ(監督会計)に基づいた会計処理を行い、それ以外は企業会計基準に従って処理を行うことになっています。
2月22日のブログでも書いたとおり、金融庁は「経済価値ベースのリスク管理との整合性や財務会計に関する見直しの動向等も踏まえ、監督会計のあり方について、関係者を含めた検討を実施する」(37ページ)と述べるなど、監督会計のあり方を、経済価値ベースのソルベンシー規制導入後の重要課題としてとらえているようです。監督会計はすべての保険会社が対象なので、企業会計(財務会計)の動向にも影響を及ぼしますので、今後の動向には要注目です。

※写真はシドニーです。

 

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生保の公社債含み損

1つの政党を除き、どの政党も公約に消費減税(検討を含む)を掲げるとは…
消費税を廃止するというのは、例えば年収300万円(同額を消費)の家計に30万円弱を配るというだけでなく、年収1000万円(うち500万円を消費)の家計にも50万円弱を配るという政策ですし、食料品の消費税をなくすというのは、年収300万円(食料品への消費が100万円)の家計だけではなく、年収1000万円(同100万円)の家計にも約8万円を配布するという政策ですよね。物価高対策として悪手としか思えません。
とはいえ皆さん、選挙には行きましょう。究極の消去法だとしても、意思表示は必要です。

さて、1月23日のBloombergに「金融庁が大手生保の債券含み損など調査、金利上昇受けて-関係者」というニュースが出ていました。31日の日経にも「金利急騰に苦慮の金融庁、生保に矛先 ダボス帰りの片山財務相発端に(会員限定記事)」というのがありました。
いずれの記事も、金融庁が1月中旬から生保(まずは大手4社)の保有する国債などの含み損益やその対応方針について調査を行っているという内容でした。

金利が上昇すれば保有する債券の価格は下がります。例えば、2019年発行で利率0.4%の30年国債の価格は直近で50円近くまで下がっていますし、利率0.5%の40年国債の価格は40円近くまで下がっています。今月半ばに発表される生保の2025年4-12月期決算では、9月末よりも各社の含み損が拡大していることでしょう。
ただし、生保が長期債を保有しているのは、同じく長期にわたる保険負債の金利リスクをヘッジするためなので、資産サイドの保有債券だけに注目しても意味はありません。ましてや、この3月末から経済価値ベースの評価による貸借対照表と、それに基づく数値基準(規制ESR)による規制を始めるのですから、政府は監視強化ではなく、むしろ会計上の評価に神経質となっている保険会社を安心させるべきでしょう(解約動向はよく確認する必要があると思いますが)。

Bloombergの記事で気になったのは、「金利上昇により過去に購入した保有国債の含み損は膨らんでおり、財務の健全性を示す指標の悪化につながりかねないとの警戒感はすでに生保側からも出ている」というところです。
ここで言う「財務の健全性を示す指標」とは何を指すのでしょうか。規制ESRのことだとしたら、保有国債の含み損は関係ありません。保険負債も小さくなっているはずなので、純資産はむしろ膨らんでいるはず。
負債の金利リスクをフルヘッジしていないにもかかわらず、金利上昇でESRが下がるのは、大量解約リスクという、いわば流動性リスクを数値化してしまったことによる影響でしょう。

日経記事にも「低金利時代に国債を買い増したことが含み損の拡大につながり『規制対応が裏目に出ている』(生保幹部)面もあり、場当たり的な監視強化に戸惑いもある」とあります。場当たり的と言わせないよう、金融庁は対話と情報発信をがんばってほしいですね。

※梅の季節になりました。横浜・大倉山の梅林にて。

 

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IFRSの導入

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1308(2025.12.08)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
この週末(12月6~7日)はリスクと保険を学ぶ学生たちのゼミ大会(RIS2025)でした。ご参加いただいた実務家の皆さま、ありがとうございました。
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高水準の利益を確保


11月に発表された大手損保グループの4-9月期連結決算では、自然災害の影響が少なかったことなどからSOMPOは過去最高益となり、東京海上とMS&ADも、政策保有株式の売却益が前年同期よりも減少した影響があったものの、国内の保険引受利益の改善などもあり、いずれも高水準の利益となりました。
ただし、筆者が注目していた国内の自動車保険では、各社が予想していたよりも修理費単価が上がり、事故の頻度も下がらなかったことから、損害率が実質的に高水準で推移した模様です。

2つの会計基準

ところで今回の決算では、SOMPOがIFRS(国際財務報告基準)による報告、東京海上とMS&ADが従来の日本基準による報告と、異なる会計基準による報告となりました。
IFRSは世界共通のモノサシとなるように作られた会計基準で、EUやオーストラリア、アジアでは韓国やシンガポールなどが上場企業の会計基準として導入しています。日本では任意適用ですが、25年11月末現在、すでに300社近くの上場企業が導入しています。
日本を拠点とする大手保険グループでIFRSを導入するのはSOMPOが初めてですが、東京海上とMS&ADも25年度末からIFRSを導入する予定となっています。

日本基準との違い

IFRSの詳細については他に譲るとして、今回の決算でみられた日本基準との大きな違いを2つご紹介しましょう。
1つは、株式売却益がIFRSの純利益には計上されないという点です。前述のように、このところ多額の政策保有株式の売却益が各社の純利益を押し上げています。しかし、SOMPOはIFRS導入にあたり、政策保有株式の売却益を純利益に反映せず、純資産の変動のみ認識する基準を選びました。そもそも株式売却益を計上しても、企業価値が高まるわけではありません(株式が現金に代わるだけです)し、これで本業の実力が見えやすくなると言えるでしょう。

もう1つは、生命保険事業の損益・財務認識です。従来の日本基準では、収益と費用の期ズレが非常に大きく、新契約を獲得すればするほど損益が悪化する(費用が先行するため)といった、妙なことが起こります。
これに対し、IFRSでは経済価値ベースで評価を行うため、期ズレの問題はなくなりますし、保険契約の将来利益であるCSMという数値をみることで、日本基準に比べ、生保事業の業績をより的確に把握できるようになります。なかでも、新契約の獲得によりCSM(新契約CSM)をどれだけ増やすことができたのかが、経営にとって重要となります。
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※会場は東京・東洋大学でした。

 

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台北でのカンファレンス

先週末の保険学会に続き、今週は台湾の保険安定基金(TIGF、日本の保険契約者保護基金に相当)が主催した保険ERMカンファレンスに報告者およびパネリストとして参加しました。
このカンファレンスは今回が14回目とのことで、私は過去にも登壇したことがあります。今回は規制・監督当局である金融監督管理委員会が後援したうえ、テーマが「新たなソルベンシー規制およびIFRSの導入」だったためか、過去よりも出席者が多かったように思います。

台湾では2026年からTW-ICSと呼ばれる経済価値ベースのソルベンシー規制(IAISのICSに準拠)と、国際財務報告基準IFRSの第17号(保険契約会計)が同時に導入される予定です。IFRSは強制適用で、上場・非上場に関わらず、すべての保険会社が対象となります。もっとも、TW-ICSのほうはリスク評価に関する移行措置が取られ、フル適用まで最長15年の猶予が設けられています。
カンファレンスでは主催者のあいさつや写真撮影(!)のあと、BNPパリバグループのアクチュアリーがEUソルベンシーIIの経験を話し、続いて韓国アクチュアリー会のJUN会長が韓国でのK-ICS導入の経験を紹介したあと、私が日本における経済価値ベースのソルベンシー規制導入について説明しました(もう1人、シンガポールからの登壇者が医療保険制度について報告)。

東アジアではこのところIAISのICSに準拠したソルベンシー規制を導入する動きが進んでいます。韓国では2023年のIFRS強制適用と同じタイミングでICSに準拠したK-ICSの適用が始まり(ご参考:2023年9月17日のブログ)、2026年には日本と台湾が続きます(日本では会計はそのまま)。
韓国では導入後に金利水準が下がり、K-ICSに低下圧力がかかった2024年から25年にかけて、ハイブリット調達を行う保険会社が急増したそうです。また、収益性の高い長期の保障性商品に注力する動き(=CSMの増加が期待できるという観点)も見られるとのことでした。

もっとも、韓国や台湾での過去の調査を踏まえると、日本以上に監督当局の影響力が強く、一部の大手を除き、保険会社のリスク管理がソルベンシー規制に依存しがちだという印象があります
(東南アジアではより強くそのように感じますが)。
日本はそうならないと期待しつつ、引き続きアジア各国の動向にも注目していくつもりです。

 

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