03. 保険市場の動向

企業内代理店への対応

15日に開催された金融審議会「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」(第4回)では企業内代理店のあり方について議論が行われ、資料として金融庁による企業内代理店の実態調査の結果(の一部?)が示されました。調査対象は損保大手4社の委託先のうち、収入保険料で上位300社とのことです。

・名寄せベースの代理店数:736社
・うち企業内代理店:256社
・うち旧基準適用対象:173社
・規制見直しの対象(広義):73社

特定契約比率規制を見直した場合、規模の大きい企業内代理店のうち、少なくない数の代理店が影響を受けるという結果が示されました。
金融庁はこうした数量的な把握だけではなく、取引実態を把握するため、企業内代理店やその親会社の担当者等に対してヒアリングを行ったそうです。

これらを踏まえて出てきた金融庁の考え方が、「一定の実務能力を有し、企業にとってなくてはならない保険リスクマネジメント分野に貢献している代理店もある」「企業内代理店の多様な実態を鑑みれば、当該規制を一律に適用するのは適当とは言えない」「代理店としての『自立』の確保および『保険料の割引の防止』に問題がない企業内代理店は規制の適用除外とする」だそうです。

所用につきワーキンググループでの議論を傍聴できていないのですが、納得できる考え方ではありません。
代理店としての自立というのは、保険募集を行う組織として適切かどうかという話であって、どうしてこれが特定契約比率を適用するかどうかの判断基準となるのか理解できません。自立していない代理店は企業内代理店であってもなくても、そもそも廃業させるべきでしょう。
「保険料の実質的な割引の防止」というのも同じです。保険会社から見て、代理店として対価を払うべき仕事をしているかどうかという話が、どうして規制適用の判断基準になるのでしょうか。

そもそも企業のリスクマネジメントは本来、企業自身のコストで行うものですし、リスクへの対応手段は保険だけはありません。いくら企業内代理店がその企業の(保険)リスクマネジメントに貢献しているとしても、そのことを踏まえて規制の適用除外を認めるのであれば、企業のリスクマネジメントにかかるコストを保険会社が代理店手数料という形で負担することになり、理屈に合いません。

むしろ、こうした適用除外を設けてしまうと、他の保険代理店やブローカーとの競争が妨げられてしまい、ゆがんだ市場が続いてしまうのではないかと危惧しますが、いかがでしょうか。

※先週末も東京で登壇してきました。

 

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死亡保障ギャップ

10月26日から27日にかけて、中央大学・多摩キャンパスで開催された日本保険学会の全国大会に参加しました。
そのなかで、今回私の頭に残ったのが「日本の死亡保障ギャップ」です。土曜日午後のシンポジウム「ポストコロナ時代における保険業の深化」で、ニッセイ基礎研究所の有村寛さんが報告のなかで日本の死亡保障不足について紹介し、翌日の自由論題では八戸学院大学の崔桓碩先生がズバリ「生命保険における死亡プロテクションギャップの推移と要因分析」を報告していました。
お二人とも「日本の死亡保障ギャップはアジアの先進国(日本、香港、シンガポール、オーストラリア、韓国)のなかで最も大きい(=不足している)」というスイス再保険の調査を引用していました。プロテクションギャップというと、自然災害リスクへの備えが不足しているという意識はあったものの、死亡保障については正直あまり考えていませんでした。

世帯の必要保障額についてどう考え、かつ、生命保険以外の備えとして何をどこまでカウントするかによって、死亡保障ギャップの結果は変わってきます。スイス再保険の調査内容を詳細に検討したわけではないので、この国際比較をそのまま受け入れていいかどうかはわかりません。
とはいえ、有村さんがこちらのレポートで示しているように、世帯主が加入している死亡保険金額の平均が大きく減ったのは確かです。
(97年:2732万円 ⇒ 21年:1396万円)

崔先生は報告のなかで、死亡保障ギャップの要因として、世帯所得の低迷、消費者の関心の変化、リスク認知の低さ、利用可能性(の低さ)などを挙げていました。私の直感では「保険会社が死亡保障を積極的に提供していない」「死亡保障が必要な層に十分アクセスできていない」といったことも大きいように思います(感覚的なコメントですみません)。

※写真は横浜・大倉山商店街です。週末にパレードがあるとか。

 

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デジタル化と保険業界

日本FP協会の会報『FPジャーナル』2024年10月号の特集「保険業界の最新動向と今後の行方」にコメントがたくさん載ったので、デジタル化に関するコメントの一部をご紹介します。
不祥事絡みではない取材協力は、もしかしたら久しぶりかもしれません(苦笑)

「デジタル化の進展によりデータを活用することで病気や事故の予防が可能になり、健康増進型の生命保険やテレマティクス型の損害保険が登場しています。将来的には、保険会社のビジネスモデルが大きく変わる可能性もあります」

「健康増進にお金をかける人が増える一方で、保険のニーズは減る可能性があります。デジタル化の進展は、保険商品だけでなく、将来的には生命保険会社のビジネスモデルを変えることも考えられます」

「しかし、デジタライゼーションと言えるようなものはまだ見られません」「日本の保険会社のデジタル化は、まだビジネスモデルを変革する段階までは進化していません。あくまで現在のビジネスモデルを前提に、そこに新しい技術を取り入れ、活用することを考えている段階です」

掲載誌をみると、著名FPの清水香さんが「損害保険はDXの取り組みが進み、利便性が向上しています」と述べています。スマホやアプリ、SNSを使うようになって、かつてよりも格段に便利になったのは確かですね。写真を撮って、そのまま送れるのはありがたいです。

なお、主な読者がFP(ファイナンシャルプランナー)資格を持つ方々(個人会員数は20万人超!)なので、デジタル化に関するコメントだけではなく、変額保険の販売が伸びているとか、加入チャネルに関する話なども載っています。
機会がありましたらご覧ください。

※今日はバス通勤でした。

 

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損保不祥事と株価

企業の不祥事が発覚すると必ず株価が下がるかというと、そうとは限りません。不祥事発覚による会社価値の毀損はもちろん株価下落要因ですが、他方で不祥事をきっかけに経営改革が進み、将来の会社価値拡大が期待できると市場が受け止めることもあるのでしょう。

この週末に大手損保グループの株価推移を改めて確認したところ、今年に入ってからの株価は3グループともに市場平均をはるかに上回って上昇しています。
例えば約1年半前の2023年3月末と週末(9月19日)の時価総額を比べてみましょう。

東京海上:5.0 ⇒ 10.4兆円
MS&AD :2.2 ⇒ 5.3兆円
SOMPO :1.7 ⇒ 3.2兆円

いずれも2倍前後の増加です。この間の東証プライム市場の時価総額は 713 ⇒ 924兆円なので、損保株の好調さが際立っています。

旧ビックモーター事件は直接的には損保ジャパンの問題とはいえ、ディーラーなど大型の乗合かつ兼業代理店との不適切な取引慣行は個社問題ではなく、業界全体の問題と受け止められています。保険料調整問題も個社問題ではありません。
このため、不祥事の発覚によって顧客離れが進み、会社価値が下がるという受け止めにはならなかったのでしょう。損害保険は必需品であり、かつ、3グループによる寡占市場なので、取引を続けざるをえないということもあるかもしれません。

損保株の上昇が目立つようになったのは2月からなので、株式市場は不祥事発覚後に各社が打ち出した「政策保有株式をゼロにする」という方針を好感していると考えられます。
市場が何を好感しているのか、本当のところはよくわかりません。ただ、理論的には多額の売却益が実現し、配当還元が期待できるからではなく、株式売却によって不要になった資本を有効活用できる(自社株買いを含む)からです。このあたりは6月10日のブログで書いたとおりでして、株式の売却は株式と現金を交換するだけなので、それだけでは会社価値を高めません。

問題は、今後5年程度の間に株式市場が期待するような新たな投資案件が見つかるのかということでしょう。
余剰資本があるのなら何でも積極的に投資すればいいかというと、そうではありません。株主は、投資先の経営陣には会社価値を高めてくれる何らかの強みがあると考えているからこそ投資しているのであって、強みを発揮できる機会がなければ投資している意味がありません。もし見つかりそうになければ、そのままだと会社価値を毀損してしまうので、余剰資本を株主に返す必要があります。
株主が期待するような経営行動ができるかどうか、不祥事対応の進展とともに注視する必要がありそうです。

※福岡もこのところ不安定な天気が続いています。

 

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家計が生保離れ?

8月21日の日経新聞に「家計、生保離れ 1.8兆円流出」という記事が載りました。記事はこちら(有料会員限定)です。

資金循環統計によると、2024年1-3月期に家計の貯蓄性の保険が約1.8兆円流出し、他方で投資信託が伸びていることから、「保険から投資へ資金が動いている」という専門家の見方を紹介しています。
記事の元ネタはこちら(第一生命経済研究所のサイト)になります。
ちなみに資金循環統計の「生命保険受給権」とは、個人保険の責任準備金から危険準備金を控除したものを積立型保険の準備金とみなし、これに契約者配当準備金を加えたものとのことです。

生命保険協会が公表している四半期ごとの損益計算書によると、確かに2024年1-3月の解約返戻金は約3.5兆円(個人保険が大半を占める)と、2022年4-6月に次いで大きくなっていて、いずれも円安が進んだタイミングにあたります。一時払いの外貨建て保険の解約が多かったのでしょう。
他方、2024年1-3月期だけの一時払い保険料データはありませんが、2023年度全体の一時払い保険料は約10兆円なので、2024年1-3月期に限ればネットで流出だった可能性はあります。

ただし、保険料収入は2022年度から一時払いを中心に増加傾向が続いていることから、この2年間はざくっと見て毎四半期に2、3兆円の流入があり、やはり2、3兆円の流出(解約)があるといったところでしょうか。これを「保険から投資へ」と言えるかどうかは微妙で、むしろ外貨建て保険の回転売買のほうが心配だと思いました。

※夏の帝国ホテルです。ちなみに冬はこちら。

 

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オープンセミナーで登壇

6月22日(土)に横浜でRINGの会オープンセミナーが開催され、1000人を超える参加者の前で、無事(?)MC兼コメンテイターを務めました。
今回は週刊ダイヤモンドの藤田章夫記者、週刊東洋経済の中村正毅記者という、一連の損保問題について地道に報道してきたお二人に登壇していただけることになった時点で、私の仕事の半分以上は終わっていたのかもしれません。とはいえ、せっかくお招きしたゲストから貴重なコメントを引き出そうと、私なりに取り組んだつもりですが、いかがでしたでしょうか。

今回の問題発覚をきっかけに損害保険会社は本当に変わるのか。ここに至ってもなお、保険会社が旧来の取引慣行や企業文化を引きずっている事例を報じているお二人からは、悲観的なコメントが相次ぎました。
これに対し、楽観的と言うべきかどうかは微妙ですが、私は昨今のガバナンス改革の流れからしても、このままでいられるはずがないと考えていまして、お二人とは異なるコメントになりました。

セミナーを主催するRINGの会のメンバー(正会員)は、総じて情報感度も経営意識も高い損保プロ代理店です。そこでセミナー前に、今回の一連の問題による代理店経営への影響としてどのようなことを心配しているかをたずねてみたところ、「プロ代理店には影響がない」「むしろ追い風」という見解が多くみられました。
保険会社がほとんど変わらないという前提であれば、その通りかもしれませんし、「追い風」論も間違いではないと思います。しかし、保険会社が求められているのは「有力代理店ではなく顧客を向いた経営への転換」だけではなく、「経済合理性に基づいた企業価値向上を目指した経営への転換」です。
前者だけであれば、RINGメンバーのような顧客と真摯に向き合ってきた代理店には追い風と言えるでしょう。しかし、後者はどうでしょうか。例えば、これまでよりも引受規律を重視するようになった保険会社と代理店はどう付き合っていくのか。あるいは、保険会社が長年の懸案だった「二重構造」を一掃するため、代理店の選別を一段と進めるかもしれません。
そこで、セミナーの後半に、あえて強い口調で「大間違い」というコメントをしました。参加した皆さんにうまく伝わっていればいいのですが…

 

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夢の共演!?

6月22日開催の「RINGの会オープンセミナー」に登壇するという話を4月21日のブログでご案内しましたが、週刊東洋経済の中村正毅記者に加え、週刊ダイヤモンドの藤田章夫記者もお迎えして、3人で損保問題について鼎談することになりました。

東洋経済の中村記者は早くからビッグモーター問題やカルテル問題に注目し、SOMPOホールディングスの調査報告書にもX社として掲載されたほか、最近も損保業界の取引慣行に関する記事を発表しています。
ダイヤモンドの藤田記者は保険業界に長くかかわり、毎年の保険特集を楽しみにしている業界人も多いと思います。今年の特集は「保険 vs 新NISA」という意表を突いたものでしたが、読むと納得の企画でした。

オープンセミナーの参加者は主に保険代理店と保険会社の役職員なので、お二人とも、もしかしたら敵地に乗り込むような気持ちかもしれません。
とはいえ、損保問題について客観的な立場から話ができる貴重な方々ですし、長く保険業界をウォッチしているだけあって、単なる批判では終わらない深みがあります。
当日は3人で大いに語りたいと思いますので、ぜひ横浜のセミナー会場でお会いしましょう。私も今から楽しみです。

※ソウルで鰻を食べました!

 

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『企業のリスクマネジメントと保険』

最初にご案内です。6月22日(土)のRINGの会オープンセミナーで登壇することになりました。
RINGの会は保険代理店の情報交流組織で、メンバーかぎりの勉強会のほか、広く保険業界に向けたオープンセミナーを毎年開いています。私は午前の部に登場し、早くからBM問題を発信し続けた週刊東洋経済の中村正毅記者と、昨今の損保問題を受けた保険業界の今後の展望について対談します(もしかしたら著名コメンテーターがもう1名加わり、鼎談になるかもしれません)。

会場はいつものパシフィコ横浜・国立大ホール。セミナーは午前1つ、午後2つの三部構成となっていて、休憩時間には保険会社や保険関連企業のブースを見学できます。保険流通に携わる方々が1000人規模で集まる一大イベントですので、ぜひご参加ください。
詳しくはこちらをどうぞ。

さて、慶應義塾大学出版会から『企業のリスクマネジメントと保険』という時宜を得た書籍が出ました。執筆者は慶應義塾大学の柳瀬典由教授ほか保険研究者と実務家の皆さんで、日本企業のリスクマネジメントや保険戦略のあり方に対する強い問題意識が出発点となっているようです。
カルテル問題が表面化する前に書かれた書籍とはいえ、いろいろと参考になる記述やデータがありました。

例えば、第2章「リスクマネジメントと企業価値――企業の保険需要を中心に」には、大企業の保険需要に焦点を当てたサーベイ調査(2021年7月実施)の概要が紹介されています。なかにはこんなデータもありました。

「リスクマネジメントの専任担当者がいる企業は58%」
「リスクコントロール・リスクファイナンス方針を策定しているのは40%」
「リスクマネジメント担当者がリスク情報の開示に関与しているのは49%」
「保険購買管理の担当部門は財務・経理部門が38%、人事・総務部門が33%」

つまり、「日本企業の保険購買は、かなり大規模な企業であっても、企業全体の財務意思決定プロセスの一環になっていないケースが多く、リスクマネジメントに関する投資家とのコミュニケーションにも多くの課題がある」「伝統的な日本企業では、保険管理は管財業務の一環として総務部門が行うことが多く、保険購買は財務意思決定とは異なる論理で、あるいは過去の実務慣行の延長線上で行われていた可能性がある」(いずれも本書45ページより)ということがわかります。

他方で第8章「三菱重工の保険リスクマネジメント改革」では、同社が大型客船建造プロジェクトでの多額損失発生をバネにして、事業ドメインの再編(権限と責任の明確化)とともに、経営トップ主導による全社的な事業リスクマネジメント体制の構築を行い、保険戦略も見直したことを紹介しています。

私は今回のカルテル問題を受けて、企業が単に保険の主幹事会社やシェアを変えるだけで終わるのではなく、株主などが期待する企業価値の向上を図るべく、保険戦略を含めたリスクマネジメントが全社的な意思決定の一環として行われる契機となることを願っています。
そのような世界を展望するうえで、本書から得られるものは多いのではないでしょうか。

※藤の花がきれいでした。

 

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ライフマネジメントに関する高年齢層の意識調査

「保険学セミナー・保険学セミナー懇談会」(大阪開催・運営は生命保険文化センター)にオンライン参加して、福岡大学出身の大学院生の報告とともに、生命保険文化センターが3年おきに実施している「ライフマネジメントに関する高年齢層の意識調査」について興味深く話を聞きました。

直近(2023年度)の調査結果は昨年12月に公表されています。60歳以上の男女約2000人に対し、「健康状態」「性格特性・リスク意識・金融保険リテラシー」「家族・人とのつながり」「就労」「家計」「生活保障意識」「生活満足度」と広範な調査を行い、報告書にまとめたものです。

例えば「生活満足度」の章では、人生全般に関する「後悔」に関する調査結果が出ています。
「もっと○○すればよかった」という質問に〇をつけてもらう調査で、「そう思う」「まあそう思う」の合計が5割を超えた、つまり、回答者の半分以上が後悔していると答えた項目は、「もっと学べばよかった(57.1%)」「もっと貯蓄を行えばよかった(54.2%)」の2つでした。この2項目は男女差があまりなく、特に60代の「後悔」割合は6割を超えています。

調査ではさらに、1つでも後悔していると答えた人に「どれか1つやり直せるとしたらどれを選ぶか」とも聞いていて、その結果は「学び」が24.7%、「貯蓄」が19.1%、「やり直したい事柄はない」が11.9%の順でした。
シニア層の多くは、高校や大学を卒業し、職場でのトレーニングや資格取得などを行う若い時期を過ぎてしまうと、何かを学ぶ機会がほとんどなかったのかもしれません。あるいは、社会人になっていろいろな経験をしたからこそ、あらためて学びたいという気持ちが強くなるということもありそうです。

なお、「性格特性・リスク意識・金融保険リテラシー」の章に、シニア層のリスク意識をとらえるため、次のそれぞれのケースについてどちらのクジを引きたいかという質問がありました。

99%の確率で3万円当選し、 1%の確率で0円になる/必ず1万円もらえる
90%の確率で3万円当選し、10%の確率で0円になる/必ず1万円もらえる
80%の確率で3万円当選し、20%の確率で0円になる/必ず1万円もらえる
60%の確率で3万円当選し、40%の確率で0円になる/必ず1万円もらえる
30%の確率で3万円当選し、70%の確率で0円になる/必ず1万円もらえる

3万円当選の確率が低いほど、必ず1万円もらえるという回答の割合が多くなるという結果が示されています。ただ、以前も同じようなことをどこかで書いた気がしますが、そもそもリスク意識をとらえるのに適切な質問なのかどうか、私には疑問です。
30%のケースを除けば、いずれも前者の期待値が1万円を上回っているとはいえ、クジを引けるのは1回だけです。何十回と引けるのであれば話は別ですが、1回だけなのであれば、これはリスク回避傾向というよりも、ギャンブル志向かどうかを調べたことになってしまうのではないでしょうか。
投資のリスクとは一か八かのギャンブルをしたいかどうかではなく、分散効果の活用などでうまくコントロールするものと理解しています。ですから、シニア層の金融に関するリスク意識をとらえるのであれば、設問にもう少し工夫が必要ではないかと思いました。

※新学期が始まりました。

 

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金融庁が有識者会議を設置

損保問題の有識者会議に関して、保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1228(2024.4.8)に論考を寄稿しました。当ブログでもご紹介いたします。
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昨今の保険金不正請求問題(いわゆるビッグモーター問題)および保険料調整行為問題(同カルテル問題)を受けて、金融庁が「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」を立ち上げ、3月26日に第1回の会合がありました。
金融庁はYouTubeでの動画配信(アーカイブなし)のほか、当日の資料を公表しています。
そこで「事務局(=金融庁)説明資料」と「日本損害保険協会説明資料」を比べてみました。

そこから見えたのは、金融庁による厳しい見解です。2つの問題の背景には構造的なものがあるため、金融庁は個社や業界の自主的な取り組みだけでは是正が難しいと認識しています。
着地点はまだ見えませんが、是正に向けた何らかの制度改正が行われ、保険流通に関わる皆さんの業務に影響が及ぶと考えておくべきかと思います。

保険金不正請求問題

損保協会の説明資料では、主な要因として「保険金支払管理態勢が不十分」「効率的な損害調査の実施の弊害」「修理工場による不適切な保険金請求」「一部代理店によるコンプライアンス意識の不足」を挙げ、それぞれについての対応状況を説明しています。さすがに損保協会としても単なる個社問題とはとらえていないことがうかがえます。

これに対し、金融庁の説明資料では真因分析として、行政処分の対象である損保ジャパンおよびSOMPOホールディングスの「営業優先・上意下達の企業文化」「内部統制機能の欠陥」「リスク認識の甘さ」を挙げています。行政処分の対象はあくまで個々の会社なので、そのような書きぶりになっています。
ただし、「(有識者会議で)ご議論いただきたい事項」には、次のような記述があります。

・大規模乗合代理店への実効的な指導・監督の確保
・大規模乗合代理店との関係に左右されない支払管理態勢
・大規模乗合代理店などの適切な評価
・(兼業の)乗合代理店による比較推奨の適切な実施
・損害保険代理店による利益相反が生じる業務禁止または防止措置の実施
・(保険料調整行為問題との共通論点として)代理店への本業支援のあり方
・(同)保険会社および代理店への実効的な監督・検査

裏を返せばこれらは構造的な課題であって、個社または業界の取り組みだけでは解決が難しいとする金融庁の見解がよくわかります
(最後の「実効的な監督・検査」は庁内の保険行政への理解・認識不足とそれに伴うリソース不足を有識者に指摘してほしいのかもしれません)。

保険料調整行為問題

損保協会の説明資料では、主な要因を「他社との接触機会が増加」「保険契約引受時に行ってはいけない行為が曖昧」「独禁法に関する啓発取組みの不足」「代理店を含むコンプライアンスリスク管理体制が不十分」としているので、対応策は考え方・留意点の提示や教育の徹底などが中心です。

これに対し、金融庁の説明資料では、行政処分に至った問題点として「企業保険分野における環境要因」「営業担当者への強いプレッシャー」「独禁法等に関する不十分な教育・監督」「コンプライアンス・顧客本位の意識の欠如」を挙げています。
さらに「(有識者会議で)ご議論いただきたい事項」は次の通りです。

・共同保険における適正な競合環境の整備
・保険契約以外の要素を反映した取引慣行の是正
・リスクに応じた適正な保険料を提示できる保険引受管理態勢の確立
・企業内代理店のあるべき姿
・独禁法等の遵守に向けた法令等遵守態勢の確立

こちらは業界と金融庁の見解の違いがより鮮明です。起きたことは独禁法違反などですが、金融庁は法令等の遵守にとどまらず、企業向け保険の取引慣行や企業内代理店にもメスを入れようとしています。
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※福岡城址(舞鶴公園)の桜です。何とか間に合いました。

 

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