08. ディスクロージャー

新契約ANPの内訳開示を

このグラフは大手生保4社の個人保険の新契約年換算保険料(ANP)の推移を示したものです。このところ総じて好調に見えますが、第一生命を除き、近年の新契約ANPは保険料を一括して支払う一時払保険の販売動向が大きく寄与しています。
なかでも2025年度の増収は、営業職員チャネルによる一時払保険によるものとみられます。

もっとも、大手生保はチャネル別の新契約ANPを任意に開示しているとはいえ、一時払いと平準払いを分けていなかったり、グループベースの開示だったり、さらには数年ごとに定義が変わったりするので、利用者としては一苦労です。各社が任意開示した保障性商品や銀行窓販の動向なども参考にして、何とか全体像が浮かび上がるといったところでしょうか。

新契約ANPは保険料収入や新契約高に比べれば、各社の業績を知るうえで有益な指標です。しかし、現在の「個人保険」「個人年金保険」「うち医療保障・生前給付保障等」というくくりだけではなく、業界統一でより詳細な内訳を開示すべきではないかと思います。
1月18日のブログ「生命保険市場の変化」でお伝えしたように、生命保険協会では商品別、払込方法別、通貨別のデータを取りまとめ、「生命保険事業概況」のなかで外部に提供しています。ここまで詳細ではないにしても、決算発表時には少なくとも一時払いと平準払いに分けた開示と、通貨別の開示は必須ではないでしょうか。

例えば、24年度の新契約ANPの上位5社は次の通りです。

・日本:2340億円(うち一時払が562億円)
・第一フロンティア:2294億円(同2292億円)
・ニッセイ・ウェルス:2043億円(同1986億円)
・ソニー:1808億円(同306億円)
・かんぽ:1752億円(同1105億円)

参考までに、平準払の上位5社は日本、ソニー、アクサ、第一、大同で、一時払の上位5社は第一フロンティア、ニッセイ・ウェルス、三井住友海上プライマリー、かんぽ、TDFでした。一時払保険は保険料が大きくなるので、両者をまとめてしまうと、平準払の保障性商品の動きを見失いがちです。
関係者の皆さんは、ぜひ正しく理解してもらうための環境整備をお願いします。

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【7/2加筆】
某保険会社アクチュアリーのかたから、「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する保険業法施行規則の一部改正」のなかで、2025年度から「平準払、一時払について、保険種類の区分ごとの、通貨別の新契約年換算保険料及び保有契約年換算保険料」の開示を求められるようになったというご指摘をいただきました。開示はこれからのようですが、できれば前倒しで決算発表時にも開示があるといいですね。
ご指摘ありがとうございました。
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ちなみに6月17日の日経電子版に「生保販売「営業職員」経由に回帰(会員限定)」という興味深い記事が出ました。主要生保9社にアンケート調査を実施し、新契約ANPを主要な販売チャネル別に集計したところ、2025年度は営業職員チャネルの新契約ANPが金融機関の窓販チャネルを3年ぶりに上回ったというものです。
こうした独自調査の記事は大歓迎なのですが、できれば元データそのものも数表として出してほしいところです。インシュアランス統計号がなくなり、週刊東洋経済の保険特集号も(昨年だけかもしれませんが)出なくなってしまったなかで、残るメディアには取材活動とともにデータを含めたファクトの提供をぜひ頑張ってほしいです。

なお、この日経記事に関して言えば、25年度の営業職員チャネルの増収約1300億円には、日本生命と明治安田生命の一時払保険の販売拡大がかなり寄与していると見ています(おそらく約1000億円)。他方で25年度には両社の解約返戻金が急増しているのですが、これが円安に伴う外貨建保険の解約なのか、あるいは営業職員チャネルの一時払保険の販売増加と関係があるのか、証拠不十分で何とも言えず、気になるところです。
より本質的には、こうした大手生保の営業戦略が持続可能なのかという疑問もありますが、それは別の機会にしましょう。

※福岡でプラネタリウムの国際会議が開催されていました。

 

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『ディスクロージャー虎の巻』の改訂

生命保険協会が6月12日に生命保険募集人の呼称として「生保ナビゲーター “ソナエルジュ”」を公表しました。自分が選ぶ側にいたらと思うとコメントが難しいですが、そう考えると「ライフプランナー」という呼称は(今は厳しいですが)よくできた呼称だと思いますね。

生命保険協会は同じ日に「生命保険会社のディスクロージャー~虎の巻」の改訂版を公表しました。生命保険会社のディスクロージャー誌(名前は「統合報告書」「XX生命の現状」など)を解説した冊子で、1998年から作成しています。今回の改訂はソルベンシー規制の改正などに対応したものです。
ちなみに、日本損害保険協会でも同様の冊子「損害保険のディスクロージャーかんたんガイド」を作成していますが、改訂版はまだのようです。

さっそく改訂版「虎の巻」を見てみると、8~12ページに新たなソルベンシー規制の詳細な紹介がありました。
ここではソルベンシー・マージン比率の説明に続き、計算方法がどう変わったのか、適格資本(支払余力)や所要資本(諸リスク)の主な構成など、専門的な内容をできるだけかみ砕いて解説してあります。規制として数値基準だけではなく「3つの柱」の考え方が採用されていることや、新規制導入の意義についても述べていて、さらには、

・ソルベンシー・マージン比率とあわせて確認することが有用な情報
・経済価値ベースのソルベンシー規制導入後の保険会社のソルベンシー・マージン比率が低くなったように見えるのはなぜ?
・会社によっては複数のソルベンシー・マージン比率を開示しているのはなぜ?

といった説明も出ています。

ちなみに、13ページの「参考」のところには、旧版では早期是正措置とともに、実質資産負債差額(=純資産額)、含み損益の3つが掲載されていましたが、改訂版では早期是正措置の説明だけとなりました。廃止となった実質資産負債差額だけではなく、含み損益も削除されたということを、関係者はよく理解していただきたいです
(資産の含み損益だけを見ても意味がないということです)。

※写真は長崎です。

 

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資産・負債キャッシュフロー構造の開示

日本の上場生保グループでは、資産と負債のキャッシュフロー構造を開示するのが一般的になりつつあります。
例えば2025年3月期決算を受けた説明のなかで、次のような開示がありました。

第一生命(PDF) ※13ページ
太陽生命・大同生命(PDF) ※18ページ
ソニーグループ(PDF) ※39ページなど

この開示があると、保険会社が保険負債の金利リスクをどのようにコントロールしようとしているのかを外部からうかがうことができます。逆に言えば、こうした開示がなければ、ESRの金利感応度だけでは保険負債の構造やリスクテイクの状況はよくわかりません。
上場生保だけではなく、できればスタンダードの開示になってほしいです。

なお、生保の2025年3月期決算といえば、大手生保4社(日本、第一、住友、明治安田)の契約動向を確認すると、第一生命がやや持ち直したとはいえ、営業職員チャネルによる保障性商品の販売低調が続いているようです。
新型コロナ感染症の影響(顧客接点が持ちにくくなった)というだけではなく、円金利復活に伴い、チャネルが貯蓄性商品の提供に軸足を移している(あるいは経営の意図に反して移ってしまった)ということもあるのかもしれません。

出張中につき、今回はここまで。

※校務で宮崎に来ました(もうすぐ帰ります)。

 

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保険負債の透明性が低すぎる

インシュアランス生保版(2023年7月号第1集)に寄稿したコラムをご紹介します。今回もしっかり「主張」させていただきました。
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損害保険と比べた生命保険の特徴として、契約期間が長いという点が挙げられる。生命保険会社が提供している医療保険も終身が主流となっているようである。これらの保険を提供する生命保険会社は、いわば遠い将来の約束を果たすために存在している。
このように書くと、生命保険に関わる皆さんは「いまさら何を言っているの?」と首を傾げるかもしれない。では、この5、6月に公表された決算関連資料から、皆さんは生命保険会社が抱えている保険負債の長さを把握できるだろうか。答えはノーである。

もし「そもそも被保険者がいつ亡くなるかわからないのだから、保険会社がいつ約束を果たすのかなんて事前にわかりようがない」とお考えであれば、保険の仕組みを勉強しなおすことをお勧めしたい。死亡率や発生率が概ねわかっているからこそ保険会社は保険料を決め、保障を提供できている。言い換えると、保険会社は保有する契約について、将来のどの時点でどの程度の支払いが発生するのか概ねわかっていて、それに合わせて資産運用を行っている。資産運用と保険引受は車の両輪ではなく、まず保険引受があって、それを全うするために資産運用がある。

資産と負債をどの程度対応させるかは各社の経営判断による。ただし例外を除き、各社は販売時に将来支払う保険金額が決まっている円建ての商品を主力としてきたため、その結果として何十年も先まで円の固定金利(予定利率)を保証している。ちょっと考えただけでも大変なビジネスだとわかるが、問題はその大変さを外部から知る手掛かりがほとんどないことにある。

実は1社だけ、この情報を直接外部に示している会社がある。第一生命ホールディングスは2年前から投資家向けの説明資料のなかで、第一生命の資産・保険負債のキャッシュフロー構造という図表を公表し、今後5年ごとの保険収支見込みなどを示している(最新版は5月29日公表資料の26ページに掲載)。
この図表を見ると、第一生命では現時点で50年先までの保険金支払いを見込んでいて、30年までのところは円金利資産で対応し、そこから先は金利変動のリスクをほぼそのまま抱えていることがわかる。過去に獲得した高利率の契約は今後20年くらいまでのところにあって、円金利資産をあてて金利リスクを小さくしたうえで、負債の高利率を賄うための別の方法を模索しているとみられる。こうした情報開示があって、初めて市場との建設的な対話が成り立つのだと思う。

遠い将来の約束を果たすのがどの程度大変で、それに対して経営がどう対応しているのかという情報は契約者にとっても重要である。こうした情報開示なしに「自己資本を積み上げました」「金利リスクを削減しました」と言っても説得力はない。第一生命に続く保険会社はいつ現れるのだろうか。
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※つかの間の晴天でした。このところ雨ばかりです。

 

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大手生保の米CRE関連投資

最初にご案内です。アドバイザーを務めているRINGの会がオープンセミナーを7月15日(土)に横浜で開催します。
今回は対面開催なのですが、650人限定となっています(コロナ前は1500人規模でした)。おそらくそう遠くないうちに定員に達してしまいそうなので、保険会社目線ではない保険流通の世界を知りたい方は、すぐに申し込んだほうがよさそうですよ。
申し込みはこちらです。

さて、主要生保の2022年度決算が出そろいました。
ヘッジコストの上昇や米国の銀行破綻など、米FRBの金融引き締めと金利上昇によって、低金利時代のひずみが出てきている感があります。日本の生命保険会社はどう対応しているのでしょうか。

大手4社(日本、第一、住友、明治安田)の決算資料によると、ヘッジ付き外債の残高を減らしたという点では共通している模様です(ただし明治安田生命は1-3月に限れば増加?)。
第一生命は年度を通じて残高を大幅に縮小。住友生命は特に下期に残高を大きく減らした模様です。

他方、米国の相次ぐ銀行破綻を受けて、米国のCRE(商業用不動産)のリスクに注目が集まっています。
FRBは5月8日に公表した報告書のなかで、CREローンについて触れ、生命保険会社の資産のうちCREローンを含む流動性の低い資産の割合が増えていると指摘しました。

日本の大手生保は近年、海外クレジット投資を進めるとコメントしていた(報道ベース)ほか、4社のうち3社は米国に中堅規模の生保子会社を持っているので、CRE市場の今後とその影響が気になるところです。
ところが、これまでのところ、そもそも各社のCRE関連エクスポージャーの現状を知る手掛かりを示しているのは第一生命だけでした。第一生命HDはIR資料のなかで第一生命の外貨建債券と米国子会社の運用資産の内訳をそれぞれ示し、さらに米国子会社については第一四半期決算の開示後に詳細を説明するとしています。

保険会社の「重要なリスク」に関心があるのは上場会社の株主だけではありません。相互会社の社員(契約者)も、意識がそこに向かわないだけで、本来は必要な情報です。どうしてこんなことになっているのでしょうか。

※写真は等々力渓谷(東京)です。

 

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自然災害と損保経営

今週のInswatch Vol.1144(2022.7.11)に記事を寄稿しました。こちらでもご紹介いたします。
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今年も台風の季節になりました。2018年度や19年度のような大規模な自然災害が発生しないことを願っています。

火災保険は赤字基調が続く

昨年度(21年度)の大手損害保険グループの決算は、自然災害関連の正味支払額が過去10年間で最も少ない水準だったこともあり、国内損保事業の修正利益(異常危険準備金の繰入・戻入などを調整した利益)はいずれも増益となりました。
もっとも、自然災害による支払いが少なかったにもかかわらず、火災保険のコンバインドレシオが100%を下回ったのは東京海上日動だけで、他の3社は引き続き100%を上回る水準でした。大手損害保険会社はこれまで少なくとも2回にわたり個人向け火災保険の料率引き上げを行いましたが、大規模な自然災害がなくても火災保険の収支はなお赤字基調ということで、さらなる対応が必要な状況です。
21年度の保険会社の決算分析については、今月末のプロフェッショナルレポートでもお伝えする予定です。

損保ビジネスは不安定なのか

ところで損害保険ビジネスは、自然災害に左右される不安定なものと思われがちです。過去の決算報道を見ても、大規模な自然災害が発生しなければ「好決算」、発生したら「厳しい決算」という扱いです。しかし、本当にそう考えるべきなのでしょうか。
保険会社は自然災害リスクを勘と度胸で引き受けているのではありません。工学的な知見に基づき、外部ベンダーまたは自社が開発したモデルを使った定量的なリスク評価を行い、再保険戦略を含めた引受方針を定めたうえで、自然災害リスクを引き受けています。気候変動の影響が懸念されるとはいえ、やみくもにリスクを引き受けているわけではありません。
ですから、自ら決めたリスクの引受方針次第で、同じ自然災害が発生しても正味支払額は違ってきます。例えば、過去最高の支払額となった18年度決算において、損保ジャパンでは自然災害に伴う元受保険金の約7割を再保険で回収したのに対し、東京海上日動では約3割の回収だったため、両社の支払額が元受ベースと正味ベースで逆転していました(東京海上の正味支払額が大きかった)。だからといって、東京海上日動がリスク管理に失敗したとは言えません。ここからわかるのは両社の保有・出再戦略が異なっていたというだけで、中長期的に見て、各社がリスクに応じた保険料(出再コストを含む)を獲得できているかを把握しなければ、各社のパフォーマンスを評価できません。

リスク情報の開示を

ただし、再保険に関して言えば、両社の保有・出再戦略にここまで違いがあるとわかったのは、たまたま18年度と19年度に大規模な自然災害が発生したからであって、それ以前の開示情報だけでは外部からはわかりませんでした。再保険に限らず、外部ステークホルダーにとって、リスク引受方針をはじめ、リスクに応じた保険料を獲得できているかをつかむための手掛かりは、まだまだ少ないのが現状です。
もし損害保険会社の経営陣が外部から正当に評価されたいと考えているのであれば、より踏み込んだリスク関連情報の開示が必要だと思います。
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※写真は三角西港です。明治時代の港がそのまま残っています。

 

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生保の情報開示充実は喫緊の課題

インシュアランス生保版(2022年4月号第4集)に執筆したコラムです(見出しはブログのオリジナル)。このブログの読者には目新しい内容ではありませんが、経営情報の利用者として繰り返し声をあげていきます。
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最近、生命保険会社のディスクロージャーの現状について改めて確認する機会があった。経済価値ベースのソルベンシー規制(新たな情報開示を含む)の導入まで、まだ数年を要することを踏まえると、契約者保護の観点から緊急性の高い最低限の情報として次の3点の早期開示を強く求めたい。

資産内容の開示不足

まず、資産内容の開示として、「10年超の公社債の内訳」「信用格付別の資産」「外国証券・その他の証券の内訳」を示す必要がある。
生保にとって金利リスクの管理は極めて重要だが、「有価証券残存期間別残高」の開示が「10年超」でひとくくりとなっていて、外部からは管理状況がほとんどわからない。
また、昨年11月の本欄で「生保の資産運用方針」を取り上げた際にも多少触れたが、生保がメディア向けに資産運用方針を説明し、「海外クレジット投資に注力」「オルタナティブ投資を強化」などと報じられても、開示情報が乏しく、実際の行動がどうだったのかを確認できない事態が続いている。

外貨建負債の情報がない

2つめは、外貨建負債の残高開示である。外貨建ての保険の販売状況も開示情報からはよくわからないのだが、円建てよりも予定利率が高い外貨建保険を提供している会社は少なくないとみられる。ところが、各社のバランスシートに保険負債としてどの程度外貨建ての負債が積み上がっているかを示す情報はほとんどないに等しい。
おそらく外貨建負債の為替リスクは外貨建資産を持つことでヘッジしているはずなので、現在入手できる情報だけでは、外貨建資産が増えたからといっても、それが資産運用戦略の一環なのか、あるいは外貨建負債が増えたからなのかを判断できない。
漢字生保の場合、外貨建資産は一般勘定資産の3割程度を占め、重箱の隅をつつくような話ではない。

個人向け配当のタイムリーな開示を

3つめは、個人向け有配当商品の契約者配当総額である。各社は決算発表時に「配当準備金繰入額」を示しているものの、このなかには団体保険や団体年金保険の配当原資も含まれている。
団体保険は基本的に1年間の保障を提供するもので、その配当は保険料の事後精算という性格が強い。団体年金保険は運用商品であり、その配当は保証利率を上回る運用成果を還元するものである。いずれも個人向け保険の配当とは性格が異なるため、これらを合わせて「配当性向」「配当還元割合」などとして示しても、個人保険や個人年金保険の契約者にとって有益な情報ではない。
多くの会社が年度決算の結果、個人向け保険としてどの程度の配当を実施したのかを知る手掛かりを出していないのは異常である。

以上の3点は最近浮上した課題ではなく、筆者は何年も前から開示を求めてきたものである(上場会社はいずれも自発的に情報を開示するようになった)。非上場会社には自発的な開示を期待できないというのであれば、あとは制度開示に期待するしかなさそうだ。
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※キャンパスの緑が濃くなりました。ツツジもきれいです。

 

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自動車保険の損害率

日経新聞の人気コラム「大機小機」。17日の「なんでも開示に落とし穴」は、情報開示側に立ったコメントのようで、

「膨大で詳細な開示を読みこなせる投資家がどれほどいるか」
「とくに一般投資家は古代宗教の経典かと見まがう分厚い開示資料などパスするのが普通」
「なんでも開示すればよいという思いが『寄らしむべし、知らしむべからず』の結果を招いていないか」

との記述がありました。情報過多が結果として情報を伝えていない結果になっているという主張と解釈しましたが、利用者としてはどうもピンときません。経営情報の利用者は何でも開示してほしいのではなく、必要な経営情報を知りたいだけです。私の実感からすると、むしろ記述の量を増やしているのは情報開示側の都合ではないかと思ってしまいます。

さて、19日に公表された大手損保の4-9月期決算のうち、自動車保険のE/I損害率(損害調査費を含む)を確認したところ、前年よりは上昇したとはいえ、コロナ前の水準に比べるとかなり低い水準となっていました。

東京海上日動 61.0 ⇒ 51.8 ⇒ 54.7%
MSI    58.3 ⇒ 52.4 ⇒ 54.8%
ADI    57.8 ⇒ 50.4 ⇒ 52.5%
SOMPO  60.8 ⇒ 52.8 ⇒ 54.2%

おそらくコロナ前に比べると事故件数が少ないのと、過去の料率引き上げ効果がまだ残っているということでしょうか。現状を踏まえ、各社とも当初の通期見込みから2ポイントほど下方修正したようです。
事故が起きないのは損保各社の短期的な収支にとってはいいことです。ただ、総じて回復が続く海外経済とは違い、日本経済の深刻な停滞を示しているのかもしれず、手放しでは喜べません。

※関門トンネル専用の機関車です。門司港にて。

 

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新聞は保険会社の経営情報をどう伝えているか

今週のInswatch Vol.1110(2021.11.8)に掲載されたものです。
日本保険学会の全国大会ではこのような報告をしました。
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日本保険学会で報告

10月23日から24日にかけて、日本保険学会の全国大会がオンラインで開催されました(私は福岡から参加)。全国大会は年1回開かれていて、研究者による報告と2つのパネルディスカッション、特別講演や招待報告が主な内容となっています。
今回のパネルディスカッションは「レジリエンスから見た地震リスクと地震保険」「地震リスクに対する企業保険制度の課題」と、いずれも地震リスクに関するものでした。

報道内容の固定化

私は24日の午前中に「保険会社の情報開示とメディアの役割」を報告しました。過去20年間における新聞(日経、朝日、読売)による生損保の決算報道を調査したところ、2000年代前半には各紙が多様な報道を展開していたのに対し、その後は報道内容が固定化していることがわかりました。とりわけ生保決算では、主要会社の「保険料等収入」と「基礎利益」を報じておしまいというパターンが続いています(損保決算は3メガ損保グループの「正味収入保険料」「連結当期純利益」を報じることが多い)。
事業会社と違い、保険会社の経営内容はいわば商品・サービスの一部となっています。もし保険会社の経営が傾けば、将来の 保障(補償)が危うくなりますし、有配当契約の場合には、業績が順調であれば配当還元を期待できます。1年契約が主流の損害保険でも、経営内容は契約更改時の保険料率に影響を与えます。
しかし、経営情報を必要とする消費者(現在および将来の保険契約者)にとって、新聞が掲載するこれらの指標は有益な情報なのでしょうか。いずれも経営の健全性を示すものではありませんし、生保の基礎利益には資産運用収益の一部しか反映されず、損保の当期純利益は異常危険準備金の繰入・戻入に大きく左右されます。

ニュースバリューと新聞社固有の事情が影響

こうした決算報道の固定化の背景を探るため、メディア論の先行研究にあたったほか、主要生損保グループ(相互会社生保5社、上場生保グループ3社、3メガ損保グループ)の広報部門と、メディア関係者(保険担当経験がある記者)へのインタビュー調査を行いました。
そこで見えてきたのが、メディアによるニュースバリューの判断と、報道機関固有の事情です。
新聞は原則としてニュースバリューがあると自身が判断したものを報じます。ですから、近年の保険会社決算にはニュースバリューが小さい、すなわち読者の関心がないと判断していると言えます。読者の関心とは必ずしも読者にとって重要かどうかではなく、注目を集めるかどうかのようです(やや乱暴に表現しています)。
報道機関固有の事情としては、記者に専門性を求めず、頻繁な人事異動を行うことや、新聞社を取り巻く厳しい経営環境のもとで紙面や担当者が減っていること、社会部や政治部の記者とは違い、経済記者は受け身でも最低限の業務ができてしまうことなどが挙げられます。

新聞の苦境が浮き彫りに

特に後者は出口の見えない深刻な状況です。新聞発行部数は年々大きく減っていて、デジタル版へのシフトもあまり進んでいません(日経を除く)。コスト削減のために一般紙では記者が様々な業種を兼務するようになり、なかには保険会社の決算記者会見に参加しない(物理的にできない)ところも出てきているそうです。
このまま事態が進むとどういうことになるか。ネットの経済ニュースの多くも元をたどれば新聞記者によるものだったりしますので、新聞社が既存のビジネスモデルにこだわり続けるのであれば、網羅的かつ信頼できる経済ニュースは絶滅してしまうかもしれません。
今回の研究はあくまで保険会社の決算報道に限ったものではありますが、図らずも新聞の苦境が浮き彫りになりました。
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※NHK福岡に行きました(ATM利用のため)

 

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生保の資産運用方針

10月下旬に主要生保(国内系)の資産運用方針に関する報道がありました
(半年ごとの恒例行事となっているようです)。
元データの公表がないので、ロイターとBloombergの記事を確認すると、下期の大手5社の資産運用方針として例えば次の記述がありました。

<日本>
・海外の社債などクレジット資産を中心に投資する計画(ロイター記事より引用)

<第一>
・円建て債券やオルタナティブ資産の残高を積み増す方針(Bloomberg記事より引用)

<住友>
・為替リスクをヘッジしないオープン外債を数千億円規模で積み増すほか、外部委託での海外クレジット投資にも力を入れる方針(ロイター記事より引用)

<明治安田>
・円建て債券や為替リスクをヘッジして投資する海外のクレジット物の残高を積み増す計画(Bloomberg記事より引用)

<かんぽ>
・国内株式やオルタナティブ資産を積み増す計画(ロイター記事より引用)

総じて「海外クレジットもの」「オルタナティブ資産(ヘッジファンドやプライベートエクイティなど)」を増やす動きが見てとれます。
10月27日の日経電子版でも、生保9社が米欧中心に社債を6200億円程度積み増すと報じていました。

どうして決算発表前のこの時期に、しかも報道機関(の一部)だけに資産運用方針を説明するのか、という疑問はさておき、半年たって、生保各社が「海外クレジットもの」「オルタナティブ資産」を増やしたかどうか確認したくても、多くの場合、確認できないということを、資産運用方針を報じたメディアは知っているのでしょうか。

「海外クレジットもの」の中心は外国社債だと思います。ところが、決算発表資料やディスクロージャー誌には「外国公社債」という開示しかなく、各社がこのところ力を入れているとされるクレジットものに関する手掛かりはほとんどありません
(第一生命は投資家向け決算説明資料のなかで、外貨建て債券に占める社債の割合や信用格付別の割合を示しています)。

「オルタナティブ資産」についても極めて情報が限られています。外国籍のものが多いでしょうから、「外国株式等」という項目に含まれていることはわかっても、それ以上の手掛かりがありません
(上記5社ではありませんが、T&Dは内訳を継続して開示しています)。

業界共通の開示様式が久しく見直されていないうえ、特に相互会社形態の生保には、自らの資産構成の変化に応じて情報開示を見直そうという意識に乏しいのではないでしょうか。

※久しぶりの新横浜散策でした。

 

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