リスク許容度と保険の調査

 

スイス再保険の調査によると、日本の20代~40代は
アジア太平洋地域で最もリスク許容度が高いという
結果だったそうです。
スイス再保険のHPへ

2011年4、5月に11カ国でアンケート調査を行い、
「健康」「金融」「キャリア」「ライフスタイル」
それぞれに対するリスク態度を集約し、総合評価を行ったところ、
日本が総合で1位となりました(2位は香港、3位はオーストラリア)。

どうして日本のリスク許容度が最も高いのか不思議ですよね。
いつから日本人はリスクを好んでとるようになったのかと。

調査結果をよく見ると、ここで言う「リスク許容度が高い」とは、
一般にリスク管理の分野で使われるような
能動的にリスクテイクするといったものではありませんでした。

「リスクを過小評価したり、見て見ぬふりをしている状態」
あるいは「無意識のうちにリスクを抱えてしまっている状態」
のことを示していました。

例えば、日本の回答者の55%が将来の経済状態について
不安を感じながら、明確な生活設計を立てているのは
わずか16%だったそうです。

また、日本人は寿命を過小評価しがちであり、
退職後の生活設計が不十分となるリスクが大きい
という調査結果も出ています。

今回の調査は2009年に続き2回目だそうです。
ちなみに前回の調査では、

・「楽しみのために危険なスポーツに挑戦しない」という
 回答がアジアで最も多い47%

・「高い利益を得るために資本を失うリスクをとる」という
 中小企業リーダーの回答がわずか18%(他の国は50%前後)

といった、一般的な意味での「リスク許容度の低さ」を
示すような結果がでています。
2009年の調査結果

※山門に電光掲示板というのは、日本の感覚では違和感がありますね。

 

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保井俊之さんの著書

 

慶大先導研究センター特任教授の保井俊之さんの著書
「保険金不払い問題と日本の保険行政」を読みました。

保井さんは保険金不払い問題のまさにその時期に、
金融庁監督局の保険課長として最前線にいたかたです。

本書は保険金不払い問題そのものというよりは、
問題に対して行政処分を発動した金融庁の対応をもとに、
保険行政のあり方について論じています。

私がキーワードを勝手に挙げるとすれば、
「システムズ・アプローチ」でしょうか。

不払い問題への当時の保険行政の対応について、
問題をシステムの機能不全と捉え、勘と経験ではなく、
システムズ・アプローチにより解決した先行例であると
保井さんは述べています
(意図してこの手法を用いたわけではなさそうですが)。

また、本書では金融行政を次の4つに整理しています。
 ①コントロール(統制)指向
 ②コンプライアンス(法令遵守)指向
 ③コンバージェンス(目標集束)指向
 ④コンティンジェンシー(危機管理)指向

日本の保険行政は2008年にコンプライアンス指向から
コンバージェンス指向、つまり多様なステークホルダーの
選好に応えた規制設定と執行を行うものに転換したものの、

「金融危機への対応に追われ、その転換の歩みは
 遅々として進まないように見える」

「作られるルールをいたずらに厳しいものにすることは、
 (中略)結果として執行のなし崩し的な取りやめで
 規制の形骸化が図られ、規制の有効性そのものが
 毀損される場合が多い」

といった記述もありました。

たまたま昨日(26日)金融庁が監督方針・検査基本方針を
発表しています。これらはどのような評価になるのでしょうか?
金融庁HPへ

学術書なのでスラスラ読める本ではありませんでしたが、
日本の金融・保険行政についてここまで体系的に分析し、
さらに、分析結果に基づいて政策提言を行っている本書は、
非常に貴重な存在だと思います。

※写真は相変わらず本文とは全く関係ありません。
 先日の台湾旅行の時期がちょうど中元節だったので、
 町のあちこちで普通の人たちがお供えをしたり、
 「お金」を燃やしたりしていました。

 

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金輸出が過去最高水準

 

金価格の高騰が続くなかで、日本の金輸出量が
過去最高水準で推移しているそうです。

欧米経済の先行き不透明感を背景に、
安全資産とされる金への資金流入が続く一方で、
日本ではむしろ金を現金化する動きが目立つとか。

新聞(23日の日経夕刊)によると、
「田中貴金属工業では、『東京・銀座の店舗で
売却客を中心に朝から列ができている』」
というのですから驚きです。

同じ新聞によると、「金は歴史的に国力のある国に動く」
とのことですが、本当でしょうか。

新興国が競って金を買うような状況のときに
賢い日本の投資家は高値で売却に動いている、
という言い方もできますね^^

※台湾の細長いスイカは甘い部分が多くてお得ですね。

 

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自然災害の保険カバー率

 

ミュンヘン再保険によると、東日本大震災による
経済損失は2100億ドル(約16兆円)に達するのに対し、
保険による支払額は約300億ドル、カバー率は14%だそうです
(17日の日経など)。

確かに、米国ハリケーン・カトリーナ(2005年)の約5割、
同じく米国のノースリッジ地震(1994年)の35%、
今年発生したニュージーランド地震の約5割に比べると、
日本の保険カバー率は低いと言えそうです
(ちなみに阪神大震災のカバー率は約3%です)。

もっとも、なぜか再保険会社からの言及がないのですが、
同じ自然災害でも台風による風水害のカバー率は
日本がそれほど低いわけではなさそうです。

例えば東京海上研究所の資料によると、
1991年台風19号のカバー率は5割以上、
2004年台風18号でも4割以上となっています。
東京海上研究所HPへ

かつては火災しか担保しなかった火災保険が
段階的に風水害を担保するようになり、
今や実質的に「風水害保険」となっているためでしょう。

つまり、保険カバー率が低いのは地震災害なのですね。

地震リスクのうち家計向け地震保険については
阪神大震災後に徐々に普及が進み、現在では、
火災保険加入者の約半数が地震保険に入っています。

しかし、統計がないので詳細はわかりませんが、
家計向け地震保険の金額に制限があることに加えて、
おそらく企業向けの地震保険があまり普及していないため、
地震災害の保険カバー率が海外に比べて低水準なのでしょう。

この背景には企業のリスクマネジメント意識が低かったことと、
損害保険会社が地震リスクの引き受けに慎重だったことが
あると思います。

地震リスクは低頻度・高損害かつ集積リスクなので、
保険会社がそう簡単に引き受けを増やせないのは理解できます。

ただ、保険会社の存在意義を考えると、今のリスクプロファイル
(大手損保の最大リスクは国内株式ですよね)でいいとは
とても考えられないのですが、いかがでしょうか。

 

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台北の旅(その2)

 

プライベートの旅でしたが、せっかくですので
保険アナリストらしい話もしましょう。

2008年の金融危機以降、台湾では外資系生保の
撤退が相次いでいます。

発表順にING、英プルデンシャル、エイゴンと続き、
今年に入ってからもAIG(南山)、メットライフが
撤退を発表しています。
AIGは2009年の売却計画が台湾当局から却下され、
売却先を変えて交渉中です。

AIGやINGのように、グループの経営危機により
撤退を余儀なくされたところもありますが、
メットライフまでが撤退するところを見ると、
外資系にとって難しいマーケットなのでしょう。

日本に比べ、危険差益を上げにくいのかもしれません。
2009年に台湾を訪れた際、台湾の大手生保から
「日本ではなぜ高水準の危険差益を得られるのか」
と驚かれたのを覚えています。

台湾の大手生保でも、過去の高利率契約が
低金利のなかで経営の重荷となっています。

もし経済価値ベースで負債を評価すると、
危険差益が薄いためか、多額の責任準備金を
積み増す必要が生じるとの懸念が業界大手から
出ている模様です。

 

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台北の旅

 

2年ぶりに台湾(台北)に行きました。
前回は仕事でしたが、今回は家族旅行です。

前回も感じましたが、台北では日本の存在感が
非常に大きいように思います。

町には日本のコンビニ(セブンやファミマ)があちこちにあり、
そこでは日本のお菓子や雑貨が売られていました。
デパートやファストフードだけでなく、100円ショップ
(こちらでは39元ショップでした)まで進出しています。

圧巻は書店です。
英会話コーナーを凌駕する勢いで
日本語学習の教材が棚にずらっと並んでいます。
ベストセラーの一角には「もしドラ」が入っていました。

これほど親日的な国はなかなか見当たらないでしょうね。

※羽田便が就航したので便利になりましたね。
  週末旅行にもお勧めです。

 

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コメ先物市場の復活

米(コメ)の先物取引が72年ぶりに復活しました(8日)。

早稲田大学の森平爽一郎教授によると、
江戸時代には大阪堂島に世界最初の組織化された
先物市場があり、ここで決まった米の値段が
旗振り通信等により、ただちにに全国に伝えられたそうです。

しかし、日本の米先物取引は戦時統制が進むなかで
1939年に廃止されてしまいます。
今回の東京穀物商品取引所関西商品取引所での
試験上場はそれ以来のことです。

米先物取引の復活で最も期待されるのは
透明な価格形成だと思います。

1995年まで続いた「食糧管理制度」では
米価はかなり政治的に決まっていたようです。
その後、米の流通自由化が進んだとはいえ、
JAグループが国内流通の5割を占めていることもあり、
どうも米価の決まり方は不透明です。

唯一の公的市場だったコメ価格センター
(全国米穀取引・価格形成センター)は
この3月に廃止されてしまいました。

今回の試験上場にJAグループは反対しています。
「コメが投機の対象になる」ので取引に参加しないとのこと。

しかし、食糧管理制度の時代ならまだしも、
米の流通自由化が進み、政府の支援も価格維持から
所得補償にシフトしているなかでは、需給を反映した
価格形成の透明性はますます重要となります。
それとも透明になると困る人が出てくるのでしょうか。

私がたまたまテレビで観た生産者や卸売業者、小売業者の
コメントはどれも前向きなものばかりでした。

ふと思ったのですが、この話、

「経済価値がわからなければ収益・リスクの管理はできない」
「経済価値のように振れる指標では適切な経営ができない」

といった保険会社の経済価値評価をめぐる議論とも
共通するものがありますね。

 

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ライフネット生命の情報開示

S&Pが米国債の格付けをAAAから1段階引き下げました。
米国債は日本国債と違い、自国外の保有者がたくさんいます。
ただ、日本における日本国債のように、グローバル経済のなかで
米国債に代わるものはありません。
それほどの混乱はないと思うのですが、どうでしょうか。

さて、7月30日に続き、ディスクロージャー誌の話です。

ある会合でいただいた「ライフネット生命の現状2011」を
アナリスト目線で(?)見てみました。
ライフネット生命のHP

2008年11月に開始した「付加保険料の全面開示」は、
ディスクロ誌にも掲載されています
(詳細はHPとなっています)。

任意開示の三利源損益(危険差益、費差益、利差益)は
利源分析の解説付きで推移が示されていますし、
ソルベンシー・マージン比率の説明もわかりやすく
工夫されています。

驚いたことにエンベディッド・バリュー(EV)の開示もありました。
しかもEEV(ヨーロピアン・エンベディッド・バリュー)です。
開業後3年ということを踏まえ、事業費の前提を工夫した
「均衡事業費ベース」での開示もありました。
新しい会社なので発生率や事業費の前提が安定していない
のではないかと思いますが、意欲的な取り組みだと思います。

あえてコメントするとすれば、開業後3年という新しい会社で、
かつ、急成長している(=コスト負担がかさむ)ところなので、
資金繰りの説明があるとありがたいですね。

例えば、2010年度の保険料収入18.2億円に対し、
事業費は27.2億円です。
新設会社は保険金等の支払いは少ないものの、
一般にコスト負担がかさみます。

韓国では1990年代後半に中小生保が相次いで破綻しましたが、
大半は歴史の浅い会社で、市場シェアを確保するため
コストをかけすぎたのが破綻の遠因になった模様です。

ライフネット生命のキャッシュ・フロー計算書を見れば、
有価証券の売却によるキャッシュインフローが
ネットで11.7億円あるので、概ねわかるのですが、
何かコメントがあるとよかったかもしれませんね。

※月島で「もんじゃの会」がありました。
  写真は「まぐろもんじゃ」です。

 

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損保代理店数の減少

日本損害保険協会によると、2010年度の代理店実在数が
20.2万店まで減ったことがわかりました(7月28日公表)。
12年連続の減少だそうです。

他方、損害保険の募集従事者数は増え続けています。
2010年度は217.3万人でした。
損保協会のHPへ

この統計で興味深かったのはチャネル別のデータです。
代理店数のうち約5割を占めるのは自動車関連業
(自動車販売業、自動車整備工場)で、
1店当り5.9人が損保に従事しています。

これに対し、募集従事者数で最大勢力は金融業で、
全体の3割、65.9万人を占めています。
このうち銀行等(銀行、信金、信組、農協)は47.5万人、
1店当り従事者数は403.9人となります。

同じ「損保代理店」でもずいぶん違いますね。

保険専業の代理店数は3.3万店、従事者数は32.7万人でした。
1店当りの従事者数は9.6人となります。
2008年度の代理店数は3.6万店、従事者数は20.2万人、
1店当り5.5人だったので、かなりの変化です。
特に従事者数の増加が目立ちます。

単に零細代理店が減り、大型化が進んだというだけではなく、
委託型の拡大や保険会社からの社員派遣などが
影響しているのかもしれません。

※明治大学で開かれている国際保険学会
 「APRIA2011」に出席しました(初日のみ)。

 

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当期利益(剰余)の推移

 

生損保のディスクロージャー資料が出そろいつつあります。
いわゆる「○○生命の現状」という冊子です。

「直近5事業年度における主要な業務の状況を示す指標」
で大手生保の当期純剰余(株式会社は当期純利益)
の推移を追うと、4社合計で毎年1000億円前後の変動しかなく、
非常に安定した業界のように見えます

・2007/3 から 2011/3 にかけての当期純剰余の推移
 (大手生保4社合計。第一生命の契約者配当準備金繰入を加味)

  7965 → 6690 → 5407 → 6574 → 5773 (億円)

この5年間の生保の経営環境は安定していたでしょうか?
例えば、日経平均株価は17000円から8100円に下がり、
その後11000円に戻った後、直近は9700円でした。

このような株価変動を受けて、4社の保有株式の時価は
▲6.5兆円 → ▲6.5兆円 → +2.5兆円 → ▲2.0兆円
となっています。

株式を保有していれば、株価変動の影響が業績に表れるのは
当然の話です。
それでも当期純剰余(純利益)が安定して推移しているのは、
株価変動の影響がごく一部しか表れていないのと、
各種準備金の取り崩しや売却益の計上などがあったためです。

他方、日本生命を除く3社はEV(エンベディッド・バリュー)を
公表しています。2011/3のEVの前期差は次の通りでした。

 第一 ▲3960億円 (当期純利益は▲579億円)
 住友 ほぼ横ばい (当期純剰余は+17億円)
 明安 ▲1710億円 (同▲37億円)

EVは前提により結果が大きく振れる(=だから使えない)
という声をしばしば耳にしますし、確かに注意が必要です。

しかし、結果が大きく動かない当期純剰余(純利益)が
もっと使えない指標であることは、明らかではないでしょうか。

※「サン宝石」ってご存じですか?
 通販がメインですが、ららぽーと横浜にショップがあります。

 

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