「絶滅の人類史」

絶滅した旧人類ネアンデルタール人が洞窟の壁画を描いていたというニュースがありました。
これまで洞窟壁画はすべて現生人類(ホモ・サピエンス)が描いたと考えられていたので、新しい発見です。

新たな発見により歴史が見直されるというのはよくある話ですが、とりわけ人類史は私が学生時代に学んだものから大幅に塗り替わっていることが、更科功「絶滅の人類史」(NHK出版新書)を読んでわかりました。
かつて猿人として習ったアウストラロピテクス(約420万年前に登場)のはるか前、約700万年前に(今のところ)最古の化石人類が登場し、これまでに25種くらいの化石人類が見つかっているのだそうです。いま生きているのは現生人類だけなので、他の種はみんな絶滅してしまったということになります。

旧人と新人は並存していた

話題のネアンデルタール人は現生人類が登場する前の「旧人」として習いました。ところが、彼らが生きていた時代は約30万年前から約4万年前までで、現生人類の起源も、本書によると約30万年前までさかのぼれるそうです。
つまり、ネアンデルタール人が絶滅するまでは、地球には少なくとも2種類の人類が並存していたということになります。

ネアンデルタール人の脳はなんと現生人類よりも大きく、発掘調査などにより、抽象的な概念を頭のなかで考えること、すなわち象徴化ができたとみられています。ニュースになった「壁画を描く」という行為はまさに象徴化ですし、本書では「貝殻のネックレス(と考えられているもの)」を紹介しています。
しかも、骨のかたちや使っていた道具などから推測すると、ネアンデルタール人はある程度の言葉を話していたと考えられているそうです。

なぜ私たちだけが生き残ったのか

ただし、結果として生き残ったのは私たち現生人類だけです。私たちよりも脳が平均的に大きく、身体的能力も優れていたネアンデルタール人がなぜ滅んでしまったのか。
そもそもの話として、暮らしやすい森林を出て(追い出されて)、外敵に見つかりやすい直立二足歩行をしていた人類が、なぜその後も生き残ることができたのかという疑問に対しても、本書では解説しています。

進化の不思議さを垣間見ることができる面白い本でした。

※写真は大倉山シリーズ第3弾。東横線開通90周年(渋谷-横浜が開通したのが1928年)を記念して、昔の塗装の電車が走っています。下の案内図はそのころ(昭和初期)のものだそうです。

 

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ジャストインケースの挑戦

インシュアランス生保版(2018年2月号第4週)に寄稿したコラムをご紹介します。
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保険とテクノロジーの融合である「インシュアテック」という言葉は、日本の保険業界でも広く知られるようになった。
ところが、日本のインシュアテックは海外より数年遅れているという識者の声をしばしば耳にする。確かに「A社が健康増進活動の成果を保険料等に反映する新しい商品を開発」「大手損保グループB社が米シリコンバレーに拠点を置き、インシュアテックを推進」など、大手保険グループによる取り組みが活発化する一方、「トロブ」「レモネード」といったスタートアップ企業が次々に台頭する海外に比べると、既存の保険ビジネスに破壊的創造をもたらす存在となるスタートアップの動きは目立たない。

そのようななかで、少額短期保険の枠組みを活用したインシュアテックサービスの提供を目指すスタートアップ企業が現れた。
ジャストインケース(justInCase)社はアクチュアリーやデータサイエンティストなど専門技術を持つメンバーが立ち上げた会社で、ウェブサイトをのぞくと、「アプリで必要な補償を必要なときに気軽に選べる世界の実現を目指します」「よりオープンな新しい保険の仕組みのもとに、気軽に安心を得られる未来を作ります」などとある。

第1弾の「スマホ保険」はスマートフォンの画面割れ・水没・破損等の修理費用を補償するもの。AIを活用して事務処理を自動化するほか、スマホ利用の安全度合いをAIが判定して更新時の保険料に反映したり、友達プール機能により不正請求を防いだりと、詳細は不明だが、随所に最新技術を取り入れ保険料の最適化を実現するそうだ(2月1日現在、少額短期保険業者の登録準備中)。
スマホ修理費用の補償としては、アップルケアや携帯会社が提供するサービスのほか、「モバイル保険」を販売する少額短期保険会社が登場しているとはいえ、大手が参入していないニッチ分野と言える。

保険としてだけとらえると、果たして数万円単位の損失に毎月保険料を支払って備える必要性があるのかという見方もできる。しかし、インシュアテックによってスマホユーザーに新たな価値を提供できるかもしれないし、そもそも同社がスマホ保険の専門会社としての成長を目指しているとは考えにくく、ニッチ分野で培った経験をもとに、ニッチではない分野への進出を図っていくのだろう。

同社が少額短期保険の枠組みを活用するというのも興味深い。少額短期保険制度はもともと根拠法のない共済の受け皿として創設されたという経緯があり、通常の保険会社に比べると設立のハードルは低い。既存の生損保が手掛けてこなかったユニークな商品提供のほか、顧客基盤を持つ異業種からの新規参入も目立っていたが、同社のように新しいビジネスモデルのいわば実験場として少額短期保険を活用するというのは、うまくすると日本のインシュアテックの一つのモデルケースとなるかもしれない。
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※写真は大倉山記念館です。内部はこんな感じ。ロケ地としても時々使われているみたいです。

 

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金利敏感株に明暗

16日の日経・マーケット総合面に「金利敏感株に明暗」という見出しの記事があり、「保険上昇/電力・不動産は軟調」という株式市場の動きを伝えていました。
ただし、「米金利の上昇を受けて保険株が上昇」「生損保はともに外国債券の保有額が多く、海外の金利が上昇すれば中長期的に運用益が増加する」という説明は、さすがに無理があるように思います。

米金利上昇と生保経営

ちょうど14日から15日にかけて主要生保の4-12月期決算が公表されましたので、こちらのデータも参考にしながら確認してみましょう。
生保のバランスシートで米金利上昇の影響を直接受けるのは、保有している米国の公社債と、グループで展開する米国の保険事業です。このうち後者の保険事業については、一般的に米国生保では以前からマッチング型のALMが浸透しているため、金利変動の影響をそれほど受けないと考えられます。

問題は前者の公社債です。最近でこそ外貨建ての商品提供が目立つようになってきたとはいえ、保険負債の大半は円建て、かつ、固定金利の長期保証ですので、生保の外債運用は負債とのマッチング目的ではなく、純粋に資産運用でリターンを目指す取り組みです。

生保の外債投資は増加基調

2017年9月末と12月末を比べると、一部の会社を除き、外貨建資産の増加基調が続いており、いまや一般勘定資産の2~3割が外貨建資産という状況です。
このうち、ヘッジ外債(為替ヘッジを行っている公社債)については米金利上昇の影響を受けにくいことも考えられますが、少なくとも為替ヘッジのない米国公社債は金利上昇によって価格が下落し、中長期的に運用益が増加するとか言う前に、今の時点でやられているはずですね。

保険株(特に生保)が金利敏感株であるという見方に異論はありません。米欧の中央銀行に続き、日銀も金融緩和の出口に向かい、金利の上昇基調が見込まれるようになれば、生保経営にとってプラスに働きます。
ですが、同じ金利上昇でも、円建ての保険負債を大量に抱える日本での金利上昇と、資産運用でリターンを目指す米国での金利上昇では、日本の生保経営に対する影響は正反対と捉えたほうがよさそうです。

※この週末(17~18日)は横浜・大倉山の梅まつりでした。

 

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損害保険統計号から(inswatchに掲載)

直近のinswatch Vol.915(2018.2.12)に執筆した記事のご紹介です。
他の記事では、小林俊幸さん(イーアライアンス/イーブレイン)の「ライフプランって良い結果ばかりじゃないでしょ!?」が印象に残りました。

損害保険統計号から

最新版の「インシュアランス損害保険統計号」(保険研究所)が手元に届きました。昨年度のデータなので、もう少し早く刊行されるとありがたいのですが、業界分析にあたり、個社の財務データを横比較で把握できるなど、生命保険統計号とともに重宝しています。
今回はこの統計号を使い、日本の損保業界の姿を探ってみましょう。

3メガ損保の高シェアは不動

直近の統計号には元受会社として28社が掲載されていました。非掲載のチューリッヒを含め、改めて市場シェアを確認すると、3メガ損保グループに所属する会社が元受保険料の85%前後を押さえているとわかりました。これは10年前とほぼ変わらない水準です。
これに対し、外資系の元受シェアは1割弱で、10年前に比べるとやや下がり気味です。ダイレクト保険のシェアが年々高まっているとはいえ、今やダイレクト保険9社(セゾンを含めると10社)のうち、外資系は3社のみ。この分野でも3メガ損保グループが目立ちます。

自動車保険に限ると、昨年度は2ケタ成長を果たした会社が4社ありました(朝日火災、セゾン、SBI、イーデザイン)。
このうちSBIとイーデザインはダイレクト自動車保険の新興勢力、セゾンは数年前からSOMPOグループの通販会社として、やはりダイレクト自動車保険で業績を伸ばしています。
もう1社の朝日火災は近年、長期分割払い契約が可能な自動車保険を、比較推奨型代理店などに向けて投入し、急成長しています。

代理店手数料率は強含み

次に、事業費内訳表に「代理店手数料等」という項目がありますので、こちらを確認してみましょう。

決算発表で公表される「諸手数料及び集金費」には出再または受再に係る手数料が含まれています。このため、出再の多い会社では事業費が小さくなる傾向があります(出再手数料は出再先から受け取るものなので)。
例えば、昨年度のAIU(現AIG)の諸手数料及び集金費は207億円のマイナスでした。当然ながら同社の代理店手数料がマイナスということはありません。AIUは元受保険料の7割以上を出再していたため、受け取る手数料が752億円に上り、事業費を吸収していました(ただし、出再により正味の付加保険料も小さくなります)。

元受保険料に対する代理店手数料(直販社員の募集費を含む)の割合は、大手の場合、16~17%となっています。10年前と比べると、おそらく代理店の皆さんの実感とは異なり、むしろやや高まっているようです。手数料率の低い代理店が減ったことが一因と考えられます。

負の遺産も存在

1年契約が中心とはいえ、損保会社の負債の多くは責任準備金です。このうち、実質的には支払余力として考慮すべき異常危険準備金を除いた「普通責任準備金」のなかには、未経過保険料のほか、会社によっては今でも生保のような長期の円金利負債(払戻積立金)を抱えています。

元受28社のうち、昨年度末時点で普通責任準備金に占める払戻積立金のウエートが4割以上の会社は、東京海上日動(43%)、損保ジャパン日本興亜(42%)、三井住友海上(46%)、共栄火災(45%)、朝日火災(79%)の5社でした。
大手3社の払戻積立金の大半は、1990年代前半に販売した年金払積立傷害保険と考えられます。高金利時代に提供したものなので予定利率(保証利率)が高く、大手損保のいわば負の遺産となっています(加入者にとってはお宝契約ですね)。
中堅2社については、それぞれのビジネスモデルと関係がありそうです。

なお、長期契約といえば、2015年上半期に駆け込み販売があった長期火災保険を思い起こします。前年の統計号をざっと見たところ、責任準備金が増えたとはいえ、貯蓄性の強い商品ではないため、規模としては限られているようです。
ただし、最長36年契約でしたので、提供した損保会社は数十年先までの自然災害リスクを抱えていることになります。仮に風水災害のリスクが高まっていった場合には、どこかの時点で負債を再評価(=損失を計上)しなければなりません。
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inswatchは保険流通業界向けのメールマガジンです。
私は2か月に1度のペースで寄稿しています。

※沖縄に「赤道」という地名があるのですね(「あかみち」です)。下の写真も沖縄ならでは。

 

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損害保険統計号から(inswatch原稿のおまけ)

今週のinswatchに「損害保険統計号から」という記事を寄稿しました。後日こちらでも紹介したいと思いますが、ボリュームの関係で書かなかったことを、私の備忘録を兼ねて残しておきましょう。

ダイレクト自動車保険

inswatchでは3メガ損保や外資系損保の市場シェアを改めて確認しました。
加えてダイレクト系の元受シェアも見たところ、29社ベースの全種目合計(地震・自賠を除く)では5.6%、自動車保険では7.7%となっていました(2016年度)。昨年10月の産経新聞に出ていた「自動車保険全体の8%程度」を検証できました。

この「7.7%」という数字をどう見るかです。
ダイレクト自動車保険は20年前の1997年にはじまり、10年前の2007年度の元受シェアは4%弱でしたので、徐々にシェアを確保してきているといったところでしょうか。ただし、自動車保険には企業向けも含まれることから、個人向けにかぎればちょうど1割くらいを占めるようになったと考えられます。
都市と地方、あるいは世代によっても、ダイレクト自動車保険の普及度合いは違うのでしょう。

日本の消費者は価格差があっても簡単には動かなかったとはいえ、今後もダイレクト保険のシェアは高まっていくのではないでしょうか。
ネット通販のさらなる普及のほか、事故が起きにくくなると、今の付加保険料の水準を維持するのは徐々に難しくなるでしょうから、代理店が主力に据える商品ではなくなっていくのかもしれません。

元受と正味の違い

また、元受正味保険料と正味収入保険料を比べてみて、格付会社から金融庁に移った時のことを思い出しました。
格付会社で担当していた損保会社は大手から中堅規模ののフルライン会社ばかりで、元受保険料と正味保険料の差がそれほどありませんでした。しかし、金融庁がモニタリングの対象としているのは損害保険会社免許を持つすべての会社なので、50社以上にもなります。
こちらをご覧いただくと、特定分野に特化した会社がたくさんあることがわかります。

加えて、再保険政策も会社によって大きく異なります。特に外資系の場合、元受のかなりの部分を出再するケースが目立ちます。
2016年度データを確認すると、例えばこの1月に富士火災と合併したAIU保険は、元受正味保険料が2511億円、正味収入保険料が648億円ということで、元受保険料の7割以上を出再しています。

アリアンツ火災はもう少し複雑で、元受正味保険料71億円と受再正味保険料75億円の大半を出再しているため、正味収入保険料はわずか1億円です。
元受保険料のほとんどを出再してしまうということは、日本の拠点は実質的に引受リスクを負わないということになります。出再先が海外であれば日本の保険行政の力が及ばない(及びにくい)ので、一般的にはモニタリングが難しいと思われます(もちろんアリアンツに何か問題があるという意味ではありません)。

いずれにしても、生保会社を含め、外資系保険会社では再保険が多用される傾向があり、分析には注意が必要ですね。

※写真は六本木です。光の色が突然白から赤に変わり、びっくりしました。

 

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ヘルスケア会社の立ち上げ

月末から月初にかけてサーバーの不具合があり、このブログにアクセスできない状態となっていたようです。ご迷惑をおかけしました。

さて、楽天による朝日火災の買収や、米GEの保険事業による多額損失の発生、三井住友銀行による外貨建てトンチン年金の販売など、このところ興味深い保険関連ニュースが相次いでいます。
私が関心を持ったのは、アマゾンなど3社が社員とその家族向けに米国でヘルスケア会社を立ち上げるというニュースです。

ネットの巨人アマゾン、バフェット氏が率いるバークシャー・ハザウェイ、そして大手金融グループのJPモルガンという、いずれも米国を代表するような3社が立ち上げる新会社は、米国内の従業員とその家族向けに、シンプルで高品質、かつ、透明性の高いヘルスケアを合理的な価格で提供することを目指すとのことです。

まだ計画の初期段階とのことで、具体的な事業内容は公表されていません。しかし、この顔ぶれ(特にアマゾン)ですから、AIの活用をはじめ、新しいことを手掛けてくるのでしょう。
事業が軌道に乗れば、3社内だけの話でなく、事業の広がりも考えているのかもしれません。

ただし、米国でヘルスケア事業というと、民間の保険会社が大きな存在感を持っていることを踏まえておく必要があります。
というのも、以前のブログでご紹介したように、米国の健康保険は主に民間が担っているからです。国民皆保険を目指したオバマケアも、民間保険会社の力を借りて成り立っています。

保険会社は単に医療保険を提供するだけの存在ではなく、病院や薬局を組織化するなどして、医療サービス全般に大きな影響力を持っています。
しかも、相次ぐ再編で寡占化・巨大化しており、これ以上の再編には連邦当局が待ったをかけるような状況です。

また、米国では医療費がものすごく高いというのも、よく知られた話だと思います。多くのアメリカ人は企業を通じて医療保険に加入しており、企業がその一部または全部を負担しているため、医療費の高騰は企業経営の負担となっています。

こうした背景のなかで、加入した保険によって受けられる医療サービスの中身が大きく異なるというのが米国の健康保険の現状です。日本のような、全国どこの病院でも保険が使え、誰でも給付内容が同じといったものではありません。

ですから、3社が立ち上げるヘルスケア事業が、単純に既存の保険会社を脅かす存在になると見るのは時期尚早かもしれません。

※沖縄の勝連(かつれん)城跡です。海外貿易で栄えていたそうですが、15世紀に琉球王国に滅ぼされました。

 

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沖縄の経験に学ぶ

5年ぶりに沖縄に行ってきました。
今回はスピーチが目的とはいえ、多少自由時間があったので、世界遺産の勝連(かつれん)城跡や、「沖縄県民かく戦えり」で有名な旧海軍司令部壕、さらには普天間基地が見える丘などを訪ねることができました。

交通ルールの変更

ところで、沖縄の皆さんはこんな経験もしているのですね。

本土への復帰から6年後の1978年7月30日に、「730(ナナ・サン・マル)」と呼ばれる出来事がありました。これは復帰後も続いていた米国と同じ「人は左、車は右」という交通ルールが、この日の朝から本土と同じ「人は右、車は左」に変わったのです。
車に乗る人はもちろん運転に慣れるのまで大変だったと思いますが、乗らない人も、沖縄の主要な交通手段はバスなので、戸惑ったことでしょう。しばらくは行きたい方向と反対に向かうバスに乗ってしまう人が続出したとか。

ちなみに当時の交通統計情報を見るかぎり、結果として「730」による事故件数の増加は軽微だった模様です。でも、損害保険会社はヒヤヒヤしたでしょうね。

今も残る民間金融

街なかの文具屋では、「もあい帳」なるものを見つけました。

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もあい(模合)とは沖縄で盛んな民間金融です。メンバーが定期的にお金を出し合い、そのお金を順番に受け取っていくという相互扶助の仕組みで、無尽や講にあたります。
飲み会目的の模合から、事業者どうしの高額な模合まで、沖縄ではこの仕組みが広く普及しているそうなので、文具屋で「もあい帳」を普通に売っているのでしょう。

ただし、模合があるから消費者ローンが普及していないかというと、むしろその反対のようです。
2016年の金融広報中央委員会「金融リテラシー調査」によると、消費者ローンを利用している人の割合は全国平均の2倍(沖縄県7.7%、全国3.9%)、お金を借り過ぎていると感じている人の割合は全国平均11.4%に対し、沖縄県は17.2%にのぼります。

こんな話を知っておくと、また違った景色が見えてくるかもしれませんね。

 

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日経プラス10に出演

先週(19日の夜)、BSジャパンの報道番組「日経プラス10」にゲスト出演しました。

この番組は、「BSジャパンが日本経済新聞社や日経BP社など日経グループ各社及びテレビ東京と総力を挙げて作る本格的な報道番組(番組概要より)」ということで、小谷真生子キャスターの投げかけに対し、日経新聞の編集委員やゲストスピーカーが解説するというスタイルでした。

私が出演したのは、「人生100年時代 長寿化で保険料はどうなる?」というトークコーナーで、4月からの標準生命表の改定とその影響について解説しました。

標準生命表についてはこちら(昨年8月のブログ)でも書きましたが、当日も、

・あくまで責任準備金の基礎率だが、各社の保険料に影響がある
・影響の表れかたが商品の種類により異なる
・4月からの新契約が対象で、既契約の保険料には影響しない

といったことを、いかにわかりやすく説明するかに腐心しました。
いかがでしたでしょうか。

死亡率と保険料の話をさんざん説明したあとで、「高齢化が進むと死亡する人が増えるので、生命保険会社の経営は厳しくなるのでは?」という質問が出て、ズッコケた人が多かったかもしれません。

実のところ、あれは事前の打合せにはなかった質問でして、「だったら責任準備金なんて必要ないでしょ、何を聞いていたんですか」という話ではあるのですが、案外そのように考えている視聴者も多いのかもしれないので、そう考えると、いい質問だったのでしょうね。

鈴木編集委員がそう考えてあえて質問したのかどうかは未確認ですが、確かに、生保関連の書籍などでも、保険料収入と保険金等支払の差額がマイナスだと危ないとか、損益計算書で責任準備金の戻入が続く会社は不安だとか、生保の仕組みを理解していない記述をたまに見かけますので。

いずれにしても、おそらく今後続々と発表されるであろう、各社の商品戦略に注目したいです。

 

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投信販売の本質

 

2017年末の公募投信の純資産残高が過去最高を更新したそうです。株高による時価上昇や日銀によるETF買い入れのほか、海外株式に投資するタイプの投信への資金流入も顕著だったとか。

「フィデュ―シャリ―・デューティーとは言うものの、投信販売の本質的な部分が変わるわけではない。当行では、20代の行員が高齢のお客さまのところに足しげく通い、かわいがってもらいながら『お願いセールス』で買っていただくというスタイルが定着している(後略)」
「『フィデュ―シャリ―・デューティー宣言』を出してからは、表向きの販売姿勢は変わっているが、根底にある人とのつながりで買っていただくという実態は変わらない」

「確かに、本質的な部分は変わっていないのかもしれないね。かたちのうえでは丁寧に商品説明をして、お客さまもご納得いただいたうえでサインをしていただくが、行員もお客さまもお互い複雑な商品設計を理解できるわけがない」
「わからないうえで、『手数料は高いかもしれないが・・・』『ハイリターンを狙えるなら・・・』という、稼ぎたい両者の思いが合致して売買が成立している」
「当局からは顧客本位で販売するよう言われるが、お客さまだって手数料が高かろうが『儲かればそれでよし』という気持なのだから、一概に売手だけを責めるのは筋違いではないか」

週刊金融財政事情(2018.1.15)の人気コラム「支店長室のウラオモテ」から引用させていただきました。
このコラムは銀行支店長の覆面対談(本当に対談しているかどうかは不明)なのですが、現場の声を代弁したものとして、出しているのでしょう。

一概に売り手だけを責めるのは筋違い、というのは同感するところがあります。金融リテラシー向上など顧客の主体的な行動を可能とする環境づくりや、顧客にアドバイス等を行う担い手の多様化への取り組み(いずれも金融審議会が求めています)はどうなったのかと思います。

しかし、行員も顧客も理解できない商品を人間関係で売るのが投信販売の本質と言われてしまうと、やはり私には抵抗がありますね。
もちろん、金融商品といえども、顧客が価格面だけで選ぶとはかぎりません。例えば顧客が住宅ローンを選ぶ際、貸出金利の低いA銀行ではなく、金利は少しだけ高いけど、いつも相談に乗ってくれる担当者のいるB銀行の住宅ローンを選ぶ、というのはよくあることでしょう。

ですが、顧客が金融商品に何を求めているかを踏まえると、行員が理解できない金融商品を親密な顧客に提供するというのは、もしかしたら、それが投信販売の実態なのかもしれませんが、本来やってはいけないことでしょう
(もちろん、行員がどのレベルまで理解すべきかという議論があるとは思います)。

裏を返すと、理解できない商品だからこそ、本部が勧める商品を何の疑問も持たずに提供できるという面があるのかもしれません。ウソを隠し通すのは結構大変なことですが、もともと知らなければ隠す必要もありませんので。

そうだとすると、当局が金融リテラシー向上のターゲットとすべきなのは消費者ではなく、まずは販売担当者なのかもしれませんね。

※左と右は同じ建物です。東海道新幹線の大倉山トンネル近くにあります。
 建物からは下の写真のような景色が見えます。

 

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生保の商品戦略はどうなる

 

新年おめでとうございます。
正月は連日いろいろな家族行事があるので、この3連休はありがたいです^^

年末のニッセイ基礎研究所レポートや保険業界紙の特集で、2017年の生保新商品を取り上げていました。
健康増進を促す保険やトンチン性を高めた個人年金保険、就業不能保険など、新商品としては2016年かもしれませんが、これらが「一発芸」ではなく、それぞれ他社が追随する動きとなったという点で、2017年の特徴としてとらえることができそうです。

ただ、全体としては、「異常な低金利が正常化するまで何とか耐える」という経営姿勢に基づく商品提供だったという感があります。

大手生保の場合、メインチャネルの主力商品は金利変動の影響を受けにくい有期の保障性商品ですが、過去のデータを見ると、シニア層などのニーズを背景に、貯蓄性の強い商品もそこそこ提供していました。
これが2016年からの金利低下を受けて、円建ての一時払商品は概ね販売休止となり、平準払いの商品は、プライシングこそ将来の金利上昇を期待した設定ではないものの、顧客にとっても保険会社にとっても魅力がないものとなっています。

昨年4月のニッセイ基礎研のレポートを見ても、「一部商品について保険料率の改定を回避」「標準利率より予定利率を少しでも高めに設定し、新規契約の保険料引き上げを回避しようとする傾向が強くなっている」とあり、競争上の判断とはいえ、金利水準の正常化を待つスタンスもうかがえます。

しかし、日銀が2%の物価上昇を目指す新たな金融緩和政策を始めてから、もうすぐ5年になります。マイナス金利政策の実施からも約2年が経ちました。
今がデフレかどうかはともかく、少なくとも2%の物価上昇(その際には超長期金利の水準も上がっているはず)からは程遠い状況です。

そのようななかで、今の金利水準を異常ととらえるのは、もはや根拠の乏しい期待でしかありません。金利上昇はストレスシナリオくらいに考え、現状の超低金利水準が続くという前提で商品戦略をたてる必要があるのでしょうね。

2018年4月の標準生命表改定を受けて、そろそろ各社の新たな商品戦略が見えてくるかと思います。果たして引き続き「待ち」の姿勢なのか、あるいは、ニューノーマルを踏まえた商品戦略を打ち出す会社が出てくるのでしょうか。

※写真は別所温泉駅と、かつて走っていた丸窓電車です。

 

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