夏休みシーズンということで、印象に残った本をいくつかご紹介しましょう。
1.八代尚宏「脱ポピュリズム国家」
本書における「ポピュリズム政治」とは、欧米で見られるようなナショナリズムの台頭などではなく、目先の利益ばかりを追求し、社会全体の長期的な利益を犠牲にしている政治のこと。八代氏は日本こそがポピュリズム政治に陥っていると述べています。
だからといって、反アベノミクスで凝り固まった論調ということではなく、そもそも社会保障分野や労働市場、医療・介護、農業といった分野が現在どうなっていて、構造改革として何をしなければならないのかを、事実をもとにわかりやすく解説しています。
週刊金融財政事情の書評「一人一冊」でも取り上げたので、近いうちに掲載されると思います。
2.櫻澤誠「沖縄現代史」
中継貿易で栄えた琉球王国時代の歴史、あるいは、激しい地上戦となった沖縄戦のことはある程度知っていても、戦後の沖縄がどのような歩みをたどってきたのか、多くのヤマトンチュ(本土の人)はあまり理解していないのではないかと思います。基地問題をはじめ、沖縄関連のニュースをみても、今ひとつピンとこないところがあるのは、本土とは違う沖縄の現代史を知らないからかもしれません。
本書は米軍統治から現在に至る戦後70年の沖縄について、政治面を中心に記したものです。例えば、沖縄が本土復帰した1972年5月にNHKが行った世論調査では、復帰に「期待する」が51%、「期待しない」が41%という結果が出ています。地元では復帰を全面的に歓迎する雰囲気ではなかったのですね。
3.釘原直樹「人はなぜ集団になると怠けるのか」
副題は「『社会的手抜き』の心理学」です。
社会的手抜きとは、個人が単独で作業を行うよりも、集団で行ったほうが1人当たりの努力の量が低下する現象のこと。1+1が2を下回ってしまうようなことは、力仕事だけでなく、ブレーン・ストーミングのような頭脳労働でも確認できるそうです。
本書を読むと、世の中「社会的手抜き」のオンパレードという感じですが、社会的手抜きのネガティブな面だけでなく、そもそも社会的手抜きをすべてなくすことが適切かどうかについても考察があります。
4.林宜嗣/中村欣央「地方創生20の提言」
日本政策投資銀行の研究顧問を務める林先生と政投銀のスタッフ(中村さんは私の長年の友人なのです)が、地方創生を実現するために必要な条件と、それに基づいた戦略の策定と実行のあり方を20の提言にまとめたものです。
私はこの分野にあまり明るくはないのですが、「地域別に見た産業構造の特徴」という図表(就業者数でみた産業の集積状況を示したもの)によると、地方圏で上位を占めている産業は、やはりと言うべきか、「農林業」「公務」「建設」「複合サービス(郵便局、協同組合など)」なのですね。
「インバウンド客を中心とする観光振興が注目されているが、実際に観光を主力産業とする地域で人口を維持、増加させている事例は少なく(後略)」という分析結果も示されていて、地域創生がそう簡単ではないことがわかります。
※銀座三越にライオンとスヌーピーがいました。