相次ぐ自然災害の発生

直近のinswatch Vol.949(2018.10.8)に執筆した記事のご紹介です。
「相次ぐ自然災害でも保険会社の経営は大丈夫なのか」という話を書いています。
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自然災害の頻発

今年は不幸にも比較的大規模な自然災害が相次いで発生する年となってしまいました。6月の大阪北部地震、7月豪雨、9月の台風21号、北海道胆振東部地震、台風24号と続いた大規模災害では、いずれも事故受付件数が数万件あるいは数十万件に上っています。
災害が広範囲におよび、全ての都道府県で何らかの被害が出ている状況なので、損害保険会社では損害調査担当の職員(および経験者)だけでなく、全社的な応援体制で支払い業務にあたっていると聞きます。

保険会社の経営は大丈夫なのか

金融庁は「これらの自然災害は、国内損害保険会社の財務内容に大きな影響を与えるおそれがある」(7月の日本損害保険協会との意見交換会における金融庁コメント)ことから、保険会社の引受方針や再保険手配等によるリスク軽減策などに注目している模様です。
保険会社の財務面に与える影響をどう見るかですが、家計向け地震保険は決算への影響はなく、費用保険と企業向けのみです。7月豪雨は9月12日の時点で1657億円の支払い見込みですが、まだ膨らむかもしれません。事故受付件数が非常に多い台風21号と、直近の24号(25号も?)をどう見るかにもよりますが、場合によっては、年度別の支払い額が過去最高となった2004年(7449億円)に匹敵することもあるのかもしれません。

とはいえ、ソルベンシー規制では伊勢湾台風(再現期間70年)に相当する規模の台風災害を想定しています。1991年の台風19号(支払い保険金は5680億円)から単純に換算すると約8900億円となりますが、現在の契約状況を踏まえると、より大きな金額を保険会社に求めているはずです(地震リスクと比べて大きいほうを採用)。
さらに言えば、保険会社は自らのリスク管理として、例えば再現期間200年など、ソルベンシー規制よりも厳しい基準で自然災害リスクを想定するのが一般的です。

ご参考までに、損保業界が保有する国内株式は約7.5兆円あります。株価が1年間で2割下がるのは、再現期間としてはせいぜい10年程度と考えられますが、これで1.5兆円もの経済損失が発生します。業界数値の多くを占める3メガ損保に関しては、自然災害リスクよりも株価下落リスクのほうが大きいと言えそうです。

決算数値は支払いの進捗次第で変わる

以上から、自然災害が相次いだとはいえ、総じて保険会社の健全性を揺るがすような話にはならないというのが私の現時点での見立てです。ただし、決算(損益計算書)には相応の影響が出てきます。
特に9月に発生した自然災害は、事故受付だけで保険金等の支払いに至っていないケースが多いとみられます。この場合、保険会社は見込み額を支払備金として計上しなければならず、これが損益を圧迫します。その後支払いが進み、火災グループの正味損害率が50%を上回れば、異常危険準備金を取り崩し、収益として計上することになります。
この結果、今年度の決算では、上半期は支払備金の計上が損益を圧迫し、下半期は異常危険準備金の取り崩しで増益、といったものになるのかもしれません。

損益計算書から自然災害による影響を見るのは難しく、むしろバランスシートを中心に確認したほうがよさそうです。
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※写真は「スイスの美しい村」グアルダです。

 

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生命保険に関する全国実態調査

「生命保険の世帯加入率は約9割」の元データとして知られる生命保険に関する全国実態調査の直近版が9月半ばに公表されました。
3年ごとの調査結果から何が見えるでしょうか。

「万一の保障」から「葬式代」へ

まず、死亡保険金額の減少に歯止めがかかっていないことが挙げられます。
民間保険会社の平均保険金額(世帯合計)は2079万円で、調査のたびに小さくなっています。1997年には4000万円を超えていたので、20年間で半減したことになります。
世帯主の平均保険金額も1368万円と、やはり20年前(2791万円)から半減しています(ここでの「世帯」は構成員2人以上の世帯です)。

直近加入契約の加入目的(複数回答可)をみても、「万一のときの家族の生活保障のため」という回答は、1997年の56.0%から直近では49.5%まで下がりました。代わりに毎回増えているのが「万一のときの葬式代のため」という回答です
(1997年:7.7% ⇒ 2018年:15.4%)。
保障中核層からシニア層へのシフトがうかがえます。

医療保険分野は頭打ちか

それでは医療保険や医療特約の世帯加入率が高まっているかといえば、むしろ低下ぎみです。直近加入契約の加入目的をみても、「医療費や入院費のため」という回答は伸びていません。
世帯主が2~3か月入院した場合の差額ベッド料や交通費など、健康保険では賄えない費用に対する経済的備えについて聞くと、「不安」という回答が毎回減っています。他の調査からも医療保障に対するニーズがそれほど強いようには見えません
(ちなみに生活障害・就業不能保障保険へのニーズは強いようです)。

根強い貯蓄ニーズ

ところが、直近調査では生命保険の世帯加入件数は増えていますし、年間払込保険料も10年前とあまり変わっていません。
直近加入契約の加入目的で「老後の生活資金のため」「貯蓄のため」という回答が、いずれも回復していたり、保険料払込方法で「一時払い」という回答率が高まったりしていることから、この10年にかぎれば、貯蓄目的の保険加入が増えたことが一因と考えられます。

世帯主の年齢が65歳以上という世帯が4割を超える状況ですから、万一の保障よりも貯蓄というのは理解できます。
長引く超低金利のなかで、保険会社には悩ましい状況ですね。

※この週末は地域のお祭りです。

 

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貯蓄性保険の販売

金融庁がレポートを公表

金融庁が26日に公表した変革期における金融サービスの向上にむけて~金融行政のこれまでの実績と今後の方針を読むと、金融庁が顧客本位の業務運営という観点から貯蓄性保険の現状に引き続き強い関心を持っていることがうかがえました
(今回のテーマとは別の話ですが、経済価値ベースのソルベンシー規制について、「国際資本基準(ICS)に遅れないタイミングでの導入を念頭に」なんて記述もありますね)。

今回の「これまでの実績と今後の方針」は、従来の「金融レポート」と「金融行政方針」を一体化したものなので、昨事務年度に金融庁が取り組んだ内容の記載があったうえで、今事務年度の方針が示されていて、わかりやすいです。

顧客本位は道半ばという評価

貯蓄性保険に関しては、まず前半の「2.家計の安定的な資産形成の推進」のなかで、主要な金融機関における投資信託や貯蓄性商品の販売状況についてモニタリングを行ったところ、顧客本位の取り組みは道半ばであるとしています。
例えば、運用環境に左右されにくい一時払保険において四半期末ごとに販売額が増加しており、営業現場では収益目標を意識したプッシュ型営業が行われているのではないかという指摘をしています(34ページ)。

さらに、後段の保険行政に関する記述でも、定額個人年金(円建・外貨建)や変額個人年金の商品特性やリスクを示したうえで、モニタリングの結果、商品内容の情報提供がわかりやすく行われていないことを確認したとしています(99~102ページ)。
今事務年度に金融庁は、商品内容等のさらなる「見える化」を促進していくとともに、貯蓄性保険(特に外貨建保険)の販売時における顧客への適切な情報提供に関するベストプラクティスの追求に向け、各社と対話を行うそうです。

営業職員チャネルでも強いニーズ

貯蓄性保険というと金融機関代理店の話というイメージがありますが、先日発売された東洋経済の生保・損保特集によると、営業職員チャネルでも外貨建ての貯蓄性保険が積極的に提供されていることがうかがえる記事がいくつかありました。

例えば、保険ジャーナリスト森田直子さんによる恒例の営業職員・覆面座談会から引用させていただくと、

「外貨建て保険の一時払い商品が売れています。1年前に発売された当時はそれほどでもなかったのですが、今年度になって急激に売れています」
「うちでも売れています。一時払い保険を外貨建てにシフトするお客様が多いです」
「外貨建て、本当にばか売れですよね」

といったやり取りが出ていて、現場の雰囲気が伝わってきます。

コアとする顧客基盤の年齢層を考えると、おそらく保障性商品よりも売りやすいのではないかと思いますが、顧客に商品特性やリスクをきちんと説明できているかという観点のほか、保障性商品を提供する力が落ちてしまわないか、なんてことを考えてしまいます。

※写真はベルンの町並み。世界遺産です。

 

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保険毎日新聞のインタビュー

業界紙「保険毎日新聞」の9月21日号と25日号にインタビュー記事が載りました。
同紙で連載が始まった「『保険自由化』20年の軌跡 その影響と今後の展望を探る」という企画の第1弾だそうです。2回にわたるとは思っていなかったので、ちょっとびっくりしました^^

インタビューのお題は「保険会社経営の変化と行政が果たした役割」です。ここでは内容をごく簡単にご紹介しましょう。

前編では保険会社の経営が、前半10年間の守り一辺倒の時代から、後半には攻守バランスのとれた経営を志向できるようになったことや、保険市場でビジネスモデルの異なる新旧勢力がせめぎ合うようになったこと(以前紹介した「旧世界」「新世界」の話です)、ネット社会の急展開は「新世界」の成長を支える一方、この動きがさらに進むと「新世界」の会社どうしの競争が一段と激しくなると考えられること、などを語っています。

後編では、主に保険行政が果たしてきた役割について述べています。1995年の保険業法改正の3本柱である「規制緩和・自由化の促進」「保険事業の健全性維持」「公正な事業運営の確保」を検証し、規制緩和・自由化が進み、アクセスも多様化するなかで、「公正な事業運営の確保」の重要性が高まり、新たな規制につながっていったことを指摘するとともに、健全性維持に関しては試行錯誤が続いているとコメントしました。
いつもお話ししていることではありますが、銀行と違い、保険会社の破綻処理は主に契約者負担で行われたということを忘れてはならないと思います。

機会がありましたら、ぜひご覧ください。
企画はまだ始まったばかりなので、どのような方々が登場するのか楽しみです。

※写真はチューリヒです。土曜日にはフリーマーケットが開かれていました。

 

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スイス鉄道の旅

遅めの夏休みをとり、スイスに行ってきました。
このブログの読者の皆さんからは、スイスと言うと「バーゼル」「チューリヒ」という声が出そうですね。今回は仕事ではなく、結婚25周年の記念旅行ということで、ユングフラウヨッホなどアルプス観光を楽しんできました。

鉄道王国スイス

人よりやや鉄分の多い私には、スイスはとっても楽しいところでした。
九州と同じくらいの面積しかないのに、国鉄・私鉄合わせて約5300kmと九州の2倍もの鉄道網があり、どこに行くのも鉄道が便利です。スイス国鉄のサイトを使えば予定が簡単に立てられますし、駅の表示もわかりやすく、何より列車が時間通りに走っています。さすが時計産業の国です。


※車両に3か国語の表示があります

路線が密なだけでなく、運行密度もそこそこ高く、地方の路線でも1時間に1本は走っているようでした。
地方では「リクエスト・ストップ」という仕組みになっているところもあり、小さい駅はボタンを押さないと通過してしまいます。とはいえ、小さい駅でもそこそこ乗り降りがあって、私が乗った列車で本当に通過したのは1、2回だけでした。


※左に見えるのが「リクエスト・ストップ」のボタン


※ボタンを押して停まってもらいました(グアルダ駅)

氷河急行に乗車

スイスを代表する観光列車といえば氷河急行(Glacier Express)です。
スイス南西部のツェルマット(マッターホルンがあるところ)から南東部のリゾート地サンモリッツまで8時間かけてのんびり走ります。
どこかの国の何十万円もする豪華列車とは違い、料金はランチ込みで1万円弱でした(別途に乗車券が必要)。


※坂道をどんどん登っているところ

8時間というと長そうですが、大きな窓から見える景色は素晴らしく、変化があって飽きません。予約しておいたスイス料理のランチを食べ、乗り合わせたオーストラリア人の夫婦と話をしながら景色を眺めていると、あっという間に時間がたってしまいました。


※車内で暖かいランチを食べられるのはうれしいですね

登山電車

登山電車にも触れないわけにはいきません。
スイスでは、よくこんなところに鉄道を敷いたなあと感心するくらい、高いところにも鉄道があります。その代表選手がユングフラウ鉄道です。
世界中の観光客でにぎわうユングフラウヨッホに向かう鉄道ができたのは、なんと1912年。途中からはひたすらトンネルを通るのですが、当時の技術で硬い岩盤をくり抜くのは相当大変だったと思います。


※ここから標高3454mまで登ります

ユングフラウ鉄道をはじめ、登山電車では急勾配を登るため、しばしばラックレールを使っていました。
車両に歯車が付いていて、ギザギザのラックレールにかみ合わせて登っていく仕組みで、本物は初めて見ました。

都市ではトラムが活躍

チューリヒ、ベルンといった大きな町ではトラム(路面電車)が活躍していました。低床車がかなり普及しているようです。
乗車してあれ?と思うのは、チケットを見せたり料金を支払ったりする機会がないことです。信用乗車という仕組みで、いちいちチケットを確認しません。でも、ごくたまに検札があって、そこで無賃乗車だとわかると高いペナルティをとられます。


※チューリヒのトラムです

いかがでしたでしょうか。他にもルツェルンには欧州最大級と言われる交通博物館もありますし、鉄分の濃いかたは、ぜひスイスへ!

 

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コンプライ・アンド・エクスプレイン

5月26日のブログのなかで、コーポレートガバナンス・コードの実施状況に関して、

・一部の原則を除いて圧倒的に「コンプライ」が多い
・98%がコンプライでも、実態は違っているということもある
・コンプライでもエクスプレインが必要ではないか

といったことを書きました。

その後、東証のコーポレート・ガバナンス白書(直近は2017)を確認する機会があり、業種別の実施状況を見たところ、全原則実施という回答が最も多かった業種は「銀行」「保険」でした。なかでも銀行は8割を超えていることがわかりました。

いかにも金融機関らしい感じがしますが、これをどう考えるかです。
コードへの対応という点では進んでいると言えるのかもしれません。でも、本来は形式よりも中身が問われるなかで、独自の考えに基づく対応が全くないというのはどこか引っかかります。
日本の金融機関のガバナンスはそれほど画一的なのでしょうか?

ちなみに全原則実施だと、各社のガバナンス報告書には「コーポレートガバナンス・コードの各原則につきまして、全て実施しております」と書かれるだけで、対話のきっかけや材料にはなりません。
逆に言えば、全原則実施であれば、開示項目(この部分はコンプライ・アンド・エクスプレイン)だけに対応すればいいので、余計な作業をしなくてもすみますね。

※築地場内のイタリアン「トミーナ」の桃の冷製パスタです♪

 

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高利率契約の動向

生保の破綻が相次いだ時代から20年近くたち、逆ざや問題なんて過去の話と思われるかもしれません。でも、このようなデータをご存じでしょうか。

先日公表された大手生保のディスクロージャー誌によると、予定利率の高かった1986年度から1995年度にかけて獲得した個人保険・個人年金保険の責任準備金は、10年前とほぼ変わらない水準で残っていることがわかりました(大手4社の合算値)。

さすがに1985年度以前の契約では、加入時から30年以上たっているので、責任準備金は10年前の50%まで減っています。例えば1980年に35歳だった人は、2018年には73歳です。80年代前半までの契約は死亡などにより消滅するケースが増えているのでしょう。

ところが、1986年度から1995年度となると、例えば1990年に35歳だった人は、2018年には63歳なので、死亡などにより契約が消滅するペースは緩やかです。しかも予定利率が高いので、責任準備金が一向に減らないという状況と考えられます。
特に1991年度から1995年度の契約は、足元でも責任準備金が増え続けていますし、ボリュームとしても全体の2割弱を占めているのです。

平均予定利率を見てしまうと、予定利率の低い団体年金で押し下げられているうえ、2000年代に各社が銀行などを通じて貯蓄性の強い商品を多く販売したことで、かなり下がっています。
しかし、現実には過去の負の遺産(契約者からすればお宝契約)の負担が未だに大きいということが、今回のディスクロ誌から確認できました。

※「せんば山にはタヌキがおってさ♪」の「せんば」に行きました。

 

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相良(さがら)700年

早くも1週間たってしまいましたが、SLに乗って人吉(熊本県)を訪れました。

人吉は相良氏が鎌倉時代から明治維新までの約700年間も統治していたところです。
江戸時代の人吉藩の石高はわずか2万2千石。隣国には強大な薩摩の島津氏が存在し、1581年の水俣合戦では大敗を喫しています。その後も豊臣秀吉の九州征伐、関ヶ原の戦いと何度も存続の危機に直面しましたが、相良氏はしぶとく生き残りました。
なかでも関ヶ原の戦いでは、初めは石田三成の西軍に味方し、大垣城を守っていましたが、重臣の機転により東軍の徳川方に転じたおかげで、相良氏は所領を安堵されました。


※国宝の青井阿蘇神社

この機転をきかせた重臣は相良(犬童)清兵衛という人物です。清兵衛が情勢を見極め、西軍から東軍へ寝返ったおかげで、相良氏の統治は江戸時代になっても続きました。
まさに清兵衛は相良氏存続の立役者なのですが、話はそこで終わりません。

人吉城址の近くにある人吉城歴史館によると、清兵衛は藩のなかで大きな力を持つようになり、やがて藩主をも無視し、横暴でわがままな行動が目立つようになります。ついには藩主が清兵衛の悪行を幕府に訴え、清兵衛は江戸に召喚(その後弘前へ流刑)、残された一族は反乱を起こし、全員死亡したそうです。

人吉城址には今は石垣だけが残っています。


※人吉は焼酎も有名です

 

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大手生保の健康増進型保険

インシュアランス生保版(2018年8月号第4週)に寄稿したコラムをご紹介します
(今回も見出しを付けてみました)。

大手生保が相次いで投入

今年に入り、大手生保が相次いで健康増進型の保険を市場に投入している。
第一生命が3月に発売した「ジャスト」では、契約時に健康診断結果を提出すると保険料が安くなる「健診割」を導入し、加入時の健康状態によってはさらに保険料が割引となる。住友生命がこの7月に発売した「バイタリティ」では、健康状態を把握し、改善活動を行うとポイントが貯まり、翌年の保険料が安くなったり、特典が得られたりする。がん検診や運動習慣など加入者自らがポイント獲得に動けるところが話題となっている。明治安田生命も加入者の健康増進を支援する新商品を来年4月に発売するという。

社会的な意義

健康診断の受診や運動習慣といった健康増進活動は、そもそも国民にどの程度普及しているのかご存じだろうか。
厚生労働省の直近データによると、健診や人間ドックの受診状況は67%(20歳以上)と、3人に1人は受診していない。また、1年以上の運動習慣者(1回30分以上を週2回以上実施)は3割前後にとどまっている。こうした現状を踏まえると、健康増進型保険には確かに社会的な意義もありそうだ。

生命保険の販売では加入者のニーズを掘り起こす必要があり、「あなたが亡くなったらご家族は大変ですよね」「入院すると何かとお金がかかりますよ」など、万一のリスクを強調する「脅し」セールスとなりやすい。ところが健康増進型の保険では、「保険加入をきっかけに、健康になって長生きしましょう」「ついでに保険料も下がるし、特典もあります」というポジティブな提案ができる。顧客に保障だけでなく、健康改善も提供できるということで、今まで以上に現場はやりがいを感じられるかもしれない。
もちろん加入者としては、健康増進活動も大事だが、自分に合った保障を買わなければ本末転倒である。

「旧世界」の賞味期限を延ばす

歴史の長い国内系生保は現在も、営業職員による対面販売を事業の中核としている。これに対し、シンプルでわかりやすい商品を低価格で、保険ショップや通販など多様なチャネルを通じて提供するという新たな世界も広がっている。
筆者はこれらを、営業職員モデルの「旧世界」、保険会社や大型代理店がしのぎを削る「新世界」と呼んでいるが、市場全体の新契約の4~6割を今でも「旧世界」が獲得しているのは、「新世界」で見られるような顧客に選ばれるための直接的な競争がなく、新契約の多くを膨大な既存顧客市場から上げているためだと理解している。それぞれの会社が閉じた世界で顧客との信頼関係強化に努め、一定の成果を収めてきた結果と言えよう。

大手生保による健康増進型保険も、保障内容や価格設定などから判断するかぎり、「新世界」から顧客を奪うというよりは、営業職員モデルの賞味期限を延ばそうという取り組みに見える。あるいは、賞味期限となる前に健康関連データを蓄積し、次の時代に備えるという意味もあるのかもしれない。

※くまモンの電車に乗りました。銀座線の車両ですね。
 中はこんな感じ↓

 こんな電車もいました。

 

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医療保険の値下げ

16日の日経「医療保険 シェア競争(有料会員限定)」について。

4月の標準生命表改定で平均余命が全般的に伸び、入院や手術の可能性が高まることから、第三分野商品の値上げが必要と言われていたにもかかわらず、実際には保険料を据え置いたり、一部の商品では値下げになったりしているという記事でした。

値上げが難しい競合環境

記事では値上げとならなかった背景として、「医療保険を巡る競争が激しくなっている」「高齢化や医療費の高騰が進むなか、医療保険へのニーズは高まっている」などとありましたが、ニーズが高まっているのであれば、値下げまでしてシェアの確保に走る必要はなさそうです。
医療保険は成長分野と言われつつも、競争が激しく、なかなか値上げができない環境にあるということなのだと思います。特に代理店チャネルでは単品で販売されることが多く、どうしても他社の商品と直接競合する場面が多いのでしょう。

物価上昇率2%を目指した日銀による大規模な金融緩和にもかかわらず、世の中の値上げに対する抵抗が非常に強いということの表れなのかもしれません。

死亡率は一要素にすぎない

では、保険会社はどうして保険料を下げることが可能なのか、保険会社が身を削っているのか、という点も気になりますよね。

保険会社が身を削っているかどうかは正直、手掛かりが少なすぎてわかりません。ただ、医療保険では、死亡率は医療保険の保険料を決める一要素にすぎず、入院や手術の発生率など、他の要素も大きいことは挙げられます。
例えば、入院給付金が日額5000円、手術給付金は20倍(入院の場合)という典型的な医療保険の場合、「平均在院日数は20日程度?(再入院を踏まえれば、もう少し長い?)」「手術を伴う入院は全体の1/3程度?」なんて考えていくと、医療保険といいつつ、入院給付を中心とした保険であると推測されます。入院に関しては、平均在院日数がどんどん短くなっているので、保険会社はこの点では助かっている(=値下げの余地がある)はずです。

医療保険の比較は難しい

保険料の払込方法も関係がありそうです。
例えば同じ終身医療保険でも、60歳まで保険料を払う商品と終身払いの商品を比べると、平均余命が伸びる影響を大きく受けるのは、前者の60歳までしか保険料が保険会社に入ってこない商品のほうです。後者も平均余命が伸びて給付の可能性は高まりますが、保険会社が受け取る保険料も増えると見込まれます。

それにしても、ひと口に終身医療保険といっても、会社ごと、商品ごとにスペックが微妙に違いますね。本当の意味での価格競争にはなっていないような気もします。

※熊本に行ってきました。2年前の地震で傾いた城内の建物がこの6月の大雨で倒壊したとか。

 

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