人口増加の恩恵がなくなる

7/17付の保険毎日新聞に、先日開催されたRINGの会オープンセミナーの全面記事が掲載され、私がコーディネーターを務めた第1部パネルディスカッション「自由化後20年 保険ビジネスはどこに向かうのか」の詳細な紹介もありました。
コーディネーターではありましたが、パネルの最初のほうで話をしたので、記事には次のようなコメントが載っています。

<以下引用です>
植村氏は、日本におけるこれまでの20年と今後の人口の変化について説明し、「少子高齢化は進行しつつあるが、会社を引退しても社会生活を送ることから、保険の顧客が増えてきたことが、代理店がこれまで生き残ってきた最も大きな背景にあるのではないか。今後は確実に総人口数が減少することから、こうした状況を理解したほうがいい」と訴えた。
<引用おわり>

読んでもいまひとつピンとこないと思いますので、グラフを見ながら解説しましょう。
下のグラフは高齢社会白書(平成29年版)の「図表1-1-6 高齢世代人口の比率」で、よく見るグラフとは反対に、高齢層から順番に積み上げてあります。

過去20年間の動きをみると、15~64歳のいわゆる生産年齢人口は減っていますが、65歳以上の人口が増えたので、保険加入の対象となる人口は微増から横ばいといったところでしょうか。
さすがに80歳以上になると自動車にもあまり乗らなくなり、保険加入の対象というには厳しいかもしれませんが、65歳で仕事を引退しても普通は家に引きこもるのではなく、自動車にも乗り続けるでしょうから、保険加入の対象であり続けます。つまり、過去20年間は、少なくとも人口面にかぎればマイナス成長ではなかったということです。

しかし、これからの20年は違います。生産年齢人口が本格的に減っていくので、高齢者が増えても追いつきません。
「自由化で大変と言われていても何とかやってこれたので、これからも大丈夫だろう」という考えは、特に都市部の場合、人口増加に支えられていた面もあるので、さすがに甘いのではないか、会場ではそのようなことを申し上げました。

それにしても、出生率の低下は世界的な現象とはいえ、ここまで人口減が見込まれる先進国は日本だけ。政治の役割は大きいはずなのですが、ため息が出てしまいます。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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大学での保険の講義

今年もいくつかの大学で学生の皆さんに講義をする機会がありました。
テーマは「生命保険会社のリスク管理」「保険会社ERMと経営情報の開示」といった、かなり専門的な分野なので、いきなり本題に入るのではなく、身近なリスクとリスク管理の話をしたうえで、保険会社がどのようにしてリスクと向き合っているかを伝えるようにしました。

今年はこんな話をしてみました。
ある会社では、保険金額1000万円、保険期間10年の定期保険を月額保険料は920円(20歳男性)で提供しています。保険会社に支払う保険料は10年間で合計110,400円ですが、当然ながら、亡くならないかぎり保険金を受け取ることはできません。
それでも、「掛け捨ては損」という意識の人も多いとはいえ、「11万円も払ったのに保険金を1円ももらえないなんて、保険会社はボロ儲けだ!」と怒る人はさすがに少ないと思います。11万円が高いかどうかは別にして、10年間の保障(=死亡リスクへの対応)を得るには何がしかのコストがかかるのは理解できるからです。

次に、50歳から20年間で合計1151万円の保険料を支払い、70歳から亡くなるまで毎年60万円を受け取ることができるという、長生きリスク対応の保険を取り上げ、「1151万円も払ったのに、平均寿命(男性81歳)で亡くなったら660万円しか受け取れないなんて、保険会社はボロ儲けだ!」という批判が実際にあったことも紹介しました。
同じように考えれば、平均寿命を超えて長生きするリスクへの保障を得るのにもコストがかかるとわかるので、「平均寿命で亡くなったら少ししかもらえない」といって批判するのは筋違いだと理解できます。

学生の皆さんがどこまで理解してくれたかはわかりませんが、大学での保険の授業は単に保険という特定の分野を学ぶというだけでなく、保険の勉強を通じて「リスク」や「コスト」といった、社会人として不可欠な概念を学ぶことができますね。

 

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生保ディスクロージャーの停滞

インシュアランス生保版(2018年7月号第2週)に寄稿したコラムをご紹介します
(見出しを付けてみました)。
情報を何でもどんどん出してほしいというクレクレタコラ(わかりますか?)ではなく、重要な経営リスクに関する情報を開示してほしいと言っているつもりです。

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近年の生保決算をみて感じるのは、経営情報開示の停滞である。
上場生保にかぎれば、投資家・アナリストに向けて経営情報を積極的に示そうという姿勢がうかがえるものの、生保業界全体としては、近年の状況変化を踏まえると、むしろ後退していると言ってもいいだろう。銀行と違い、内外の健全性規制が「検討中」のまま進んでいないことも、残念ながら停滞の一因となっているのかもしれない。

外貨建保険はどれだけ売れたのか

例えば、このところ外貨建保険の存在感が高まりつつあり、大手生保でも取り扱うようになっている。ところが決算情報では、一部の会社が断片的に販売状況を示しているだけで、新契約は円貨建ても外貨建ても一括りのままであるし、責任準備金がいくらに達しているのかといった情報もない。
特に後者は深刻で、外貨建て資産を増やした会社があったとして、外貨建て負債の増加に対応したヘッジ目的の投資と、運用収益を高めようとするための投資では意味がまるで違うのだが、外部からは判断できない。

有価証券の残存期間別残高の開示状況も利用者を軽んじていると言わざるを得ない。主要生保の国内公社債の6割以上が「10年超」となって久しいにもかかわらず、10年までの区分を5つに分けて細かく示す一方、10年超は何年たっても一括りのままだ。
もちろん、負債のキャッシュフローの開示がないなかで、資産だけ見てもしかたがないという声はありそうだが、そうは言っても各社のALM(資産と負債の総合管理)のスタンスをつかむうえで、公社債の保有状況はかなり参考になる(だからこそ残存期間別残高を開示しているのだろう)。上場生保の一部ではより細分化した保有状況を示しているところもあり、他社も見習ってほしい。

マイナス金利政策の影響はどうなったか

さらに、日銀のマイナス金利政策で一段と明らかになったのは、金利感応度に関する情報が足りないことである。
超低金利になってもソルベンシーマージン比率が高水準を維持し、基礎利益が堅調に推移しているのは、これらの指標が金利低下による生保経営への影響を適切に反映していないためであり、実態としては超低金利が企業価値に及ぼした影響は非常に大きい。だからこそ、各社はここ数年、劣後債務の発行までして支払余力の増強に努めているのである。

金利変動の影響をどの程度受けるかを知る手掛かりとして有益な指標に、上場会社と大手相互会社2社が開示するEV(エンベディッド・バリュー)がある。長期にわたり保障を提供する日本の生保事業は総じて金利変動の影響を受けやすいため、EVのような、資産と負債をあわせたベースでの金利感応度を知る手掛かりとなる指標の開示は不可欠だ。

投資家にとって重要な情報は、契約者をはじめとする投資家以外の外部ステークホルダーにとっても重要であることが多い。顧客の利益を第一に考えるのであれば、今のままではおかしいだろう。
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※写真は築地市場です。

 

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保険行政をどう考えているのか

事務年度の節目ということもあり、金融庁が先月から今月にかけて次々にペーパーを公表しています。

金融庁の自己改革

4日に公表された「金融庁の改革について」を興味深く読みました。改革すべき中心課題は「ガバナンス」と「組織文化」ということで、ガバナンス面と人事政策の見直しを行うそうです。
確かに人事は大きいでしょうね。例えば、金融庁はよく「職員の約1/4が民間出身」と言いますが、このうち課室長クラス以上の職員が何人いるかなんて考えると、改革の余地は大きいと思います。

ちょっと気になるのは、金融庁が「専門性」をどうとらえているかです。
当面の人事基本方針の「3.リーダーの育成」には、「将来のリーダー候補には、必ずしも専門分野にとどまることなく困難な業務を経験させ、国内外の金融・経済・社会全般に関する幅広い視野やマネジメント力といった、より上位のリーダーとしての能力を計画的に身に付させるための人事配置(出向を含む)を実施する」とあります。
ただし、これだと今の幹部育成のやり方と大差ないように思えます。金融機関に置き換えると、部長クラス以上には専門性を問わないということですよね。

保険行政の情報が少ない

今回の本題はここからでして、先月末に公表された「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)」「金融システムの安定を目標とする検査・監督の考え方と進め方(健全性政策基本方針)」も遅ればせながら読みました。

保険アナリスト目線からすると、例示がほとんど銀行を念頭に書かれている(後者はそもそも「主に預金取扱金融機関を対象」とあります)こともあり、金融庁が保険行政の現状をどう考えていて、どのようにしていきたいのか、さっぱり見えてきません。
全国で数多くの対話会を行ったとのことですが、保険関連は対象外のようです。特定の業態に固有のテーマについては考え方・進め方・プリンシプルを示すとあるとはいえ、現時点では手掛かりはありません。

この「検査・監督の考え方・進め方」にかぎらず、要は一連の改革のなかで、保険行政に関しては「対象外ですか?」と聞きたくなるほど情報開示が少ないのです。
もしかしたら内部ではいろいろと議論を進めているのかもしれません。しかし、ガバナンスを効かせるうえでも、保険行政についての考え方や方向性をもっと公表すべきではないでしょうか。
個人的な経験からしても、銀行に対する検査・監督手法を保険会社向けに読みかえればいいかというと、それではかなり無理が生じます。同じ金融機関とはいえ、社会的に果たす役割や、収益構造もリスク特性も全く違うので、当然といえば当然です。

銀行に関しては、いつまでも不良債権問題ではないだろうというのはわかります。資本規制の見直しも進みました。
これに対し、保険会社の破綻では契約者負担を強いた(同時期の預金は保護されました)にもかかわらず、保険会社のソルベンシー規制は中途半端なままです。
天に唾するようですが、そこを忘れてはならないと思います。

 

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企業の情報開示

企業情報の開示や提供のあり方について検討してきた金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループの報告書が公表されました。

政策保有株式の追加開示に注目

コーポレートガバナンス・コードとは違い、こちらは規制そのものに直結する話です。
例えば役員報酬については、経営陣の報酬内容・体系と中長期的な企業価値向上が結びついているかどうかという観点から開示の見直しが進められそうですし、政策保有株式に関しては、開示対象の拡大や買い増し理由の記載、純投資と政策投資の違いの説明などが求められるようになりそうです。

他方で、経営戦略・ビジネスモデル、MD&A、リスク情報などの開示に関しては、昨年12月の事務局説明資料で示された「日本の現状」に対し、WGの回答は「開示内容について具体的に定めるルールを整備するとともに、ルールへの形式的な対応にとどまらない開示の充実に向けた企業の取組みを促すため、開示内容や開示への取組み方についての実務上のベストプラクティス等から導き出される望ましい開示の考え方・内容・取り組み方をまとめたプリンシプルベースのガイダンスを策定すべきである」といった指摘にとどまりました。
何かに的を絞った議論でないと、こうしたWGでは話が先に進まないのかもしれません。

「超同質集団」

ところで、最近話題になった日経記事「変わる経団連、変われぬ経団連」「経団連、この恐るべき同質集団(有料会員向け)」も、企業のディスクロージャーを活用したものですね。
正副会長19人が全員男性・日本人で転職経験がなく、1人を除き首都圏の大学出身で、最も若い人で62歳という超同質集団が、雇用制度改革や人事制度改革などに本気で取り組めるのかといった内容で、書いたご本人も年齢以外はこの集団と同質だったというオチもありました。

経済メディアには、日本経済が衰退すると新聞等が売れなくなり、広告も得にくくなるということで、もしかしたら広い意味で日本企業の中長期的な価値拡大を促す動機があるのかもしれません。また、ディスクロージャーが進むなかで、経済メディアがうまく活用してくれると、資本市場にとってもプラスの効果が期待できるでしょう。
話題の記事も、多様性を説く経団連のトップの実情を示すいい記事だったと思います。

経済メディアのあり方は

ただし、明日発表される予定の決算数値を今朝の新聞に載せることは、かつての価値観では特ダネとして称賛されたのかもしれませんが、考えてみれば、1日早く決算データの一部を世の中に示すことにどのような価値があるのでしょうか。
多くの人にとって迷惑なだけだと思いますし、仮に株価が動いたとして、喜ぶのは短期的スタンスの投資家であって、中長期的な投資家には余計な仕事が増える(かもしれない)だけです。ここを改めないと、経済メディアが政府から規制される日も近いかもしれません。

※先週の写真ですが、乗り物(?)2題。

 

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保険ビジネスはどこに向かうのか

3月のブログでご案内したとおり、20回目を迎えたRINGの会オープンセミナー・第1部に登壇し、コーディネーターを務めました。
パネリストの窪田泰彦さん(ほけんの窓口グループの会長兼社長)、横山隆美さん(AIGグループ損保の元経営者)、野元敏明さん(日本損害保険代理業協会の専務理事)には、それぞれのご経験を踏まえ、プロ代理店や保険会社に対して踏み込んだコメントをしていただき、ありがたかったです。

論客ぞろい

パネルディスカッションのコーディネーターにもいろいろなスタイルがあり、司会に徹することもあれば、パネリストと同じくらい話をすることもあります。
ただ、私がコーディネーターをお引き受けする場合、なぜか論客ぞろいのことが多いので、場をつなぐなんてことを考えなくてもいい半面、いかにパネリストから会場の皆さんが聴きたいことを引き出すかに腐心することになります
(そうでないと時間がいくらあっても足りないでしょうね^^)。

ということで、今回のセミナーでは「顧客」「保険会社」「行政」「代理店経営」について議論を行いましたが、パネリストの皆さんそれぞれに持ち味があり、事前の打合せでも、代理店経営者や保険会社に伝えたい内容がいくつも出てきました。
私も時間があれば、保険会社の経営姿勢や保険行政の考え方などを伝えたかったところですが、やはりというか、当日は時間があっという間にたってしまい、なんとか数分遅れで終了ということになりました。
とはいえ、このディスカッションが参加者の皆さんにとって、いろいろと考えるきっかけになれば幸いです。

保険ビジネスはどこに向かうのか

セミナー全般から感じたのは、保険流通の変化はむしろこれから本格化するということです。
確かにこの20年間にはいろいろなことがありましたが、第1部で申し上げたとおり、マクロ的に見れば、保険会社ほど保険代理店は変わっていないように見えますし、かつ、それでもやってこれたということなのでしょう。いわば「オオカミ少年」のような状況でしょうか。

午後2番目のパネルディスカッションで、コーディネーターがパネリスト3名に現状認識(キーワード)を問いかけたところ、ぜんち共済(障がい者向け保険)の榎本社長が「多様性」、ジャストインケース(スマホ完結の保険)の畑社長が「デジタル化」と答えたのに対し、プロ代理店のソフィアブレイン小坂社長の回答は「消耗戦」でした。
おそらく小坂さんが消耗戦で疲弊しているというのではなく、むしろ「保険の枠を超える」と話しているくらいですから、10年後に向けて着実に進んでいる代理店なのだと思いますが、この対比は何とも印象的でした。

 

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金融法制の見直し

業態別の金融法制の見直しを議論する、金融審議会「金融制度スタディ・グループ」が19日に中間報告を公表したので、さっそく読んでみました。
金融庁のサイトへ

今の金融規制体系は基本的に銀行、証券、保険といった業態ごとに業法が存在しています。
これを機能別・横断的なもの、すなわち、同じ機能や同じリスクには同じルールを適用し、同じ機能でもリスクが小さければ規制を軽くする、こうした規制体系にしていこうというものです。

「金融の『機能』の分類」という図表には、「保険業法/保険会社」⇒「リスク移転」とあるだけで、これだと業態別でも機能別でも変わらないように見えます。
ただし、本文のリスク移転のところを読むと、

「信用保証やデリバティブ取引、保険は機能的に類似する側面があるが、信用保証については特段の業規制は設けられておらず、また、デリバティブ取引を業として行う者については登録の対象とされているにとどまる」
「これに対し、保険を業として行う者については免許の対象とされ、当局による商品認可も求められているとの違いが見られる」

という記述がありました。もっとも、第4回の討議資料にはもっと論点が書いてあり、議事録によると、委員の皆さんもいろいろと発言されているのですが、うまくまとまらなかったようです。

あと、特に保険について言えば、海外では民間の保険会社が担うこともあるような機能、例えば年金や健康保険など社会保障の補完といった役割も視野に入れた議論が必要だと思いました。現在、長生きリスクへの備えは主に公的年金と個人の預貯金となっていますが、10年後の姿はどうなっているでしょうか。

※豊洲移転まであと4か月を切りました。

 

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生保リテール戦略

6月18日号の週刊金融財政事情は「人生100年時代の生保リテール戦略」という特集でして、大手生保4社の商品開発責任者が自社の健康増進型保険や関連サービスについて語り、インシュアテックの第一人者である弁護士の増島雅和さんが寄稿しています
(そのあとの「規制のサンドボックス」でもPolicyPalが紹介されていますね)。

私も「超低金利と技術革新が迫るチャネル戦略の再構築」というタイトルで執筆しましたので、機会がありましたらどうぞご覧ください。

ちなみに本稿の図表として、「専属チャネルと乗合チャネルの違い」を出してみましたが、いかがでしょうか。

【専属チャネル(営業職員など)】
・高価格だが(保険会社いわく)充実した特定会社の保障をパッケージで提供
・信頼できる相手から話を聞いて買いたい(=受け身的)
・既契約市場(重ね売りや紹介など)
・乗合チャネルに比べれば商品開発・価格競争は緩やか
・営業職員の大量採用・大量脱落構造あり

【乗合チャネル(保険ショップなど)】
・保険会社から独立した立場から、シンプルで低価格(に見える)複数会社の商品を提供
・比べて買いたい(=自発的)
・イメージとしては都市部の20~40代
・商品開発・価格競争が激しい
・比較推奨販売に関する規制対応が重要

ところで、本誌を読み進めていくと、人気コーナー(?)「支店長室のウラオモテ」にこんな記述が…

「(ネット銀行で住宅ローンを)申し込まれるお客さまは、損得だけのシビアな判断をされる浮気性の方々。多くのお客さまは、一生の買い物だから返済に困ったときに銀行の担当者と会って相談できるかどうかを心配されている」

「浮気性の方々」とはしびれる表現ですが、「旧世界」の本音と不安を感じます。年間4万2000円の差額を乗り越えることのできる人間力はすごいと思いつつ、技術革新が進み、情報格差も解消していくなかで、いつの間にか「浮気性の方々」が増えていくような気もします。

 

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なぜ「ポートフォリオ変革」なのか

23日に横浜で開催されるRINGの会オープンセミナーは「満員御礼」だそうです。私は第1部のコーディネーターを務めますので、パネリストの興味深い話が引き出せるよう、準備を進めているところです。
さて、週の途中ですが、直近のinswatch Vol.932(2018.6.11)に寄稿しましたので、ご紹介しましょう。

なぜ「ポートフォリオ変革」なのか

3メガ損保や上場生保では、決算発表後の5月下旬に投資家・アナリスト向けの経営説明会を開いています。決算結果の説明だけではなく、経営トップ自らが今後の経営戦略を伝える機会となっていて、業界関係者にも役に立ちそうです。

各社の説明資料はこちらで入手できます。
 東京海上 
 MS&AD 
 SOMPO 

新中計で「ポートフォリオ変革」を掲げる

3メガ損保グループのうち、東京海上とMS&ADでは今年度から新たな中期経営計画がはじまり、今回の説明会でも中心テーマとなりました。
東京海上グループの重点課題には、「ポートフォリオの更なる分散」「事業構造改革(=販売チャネルの変革・強化など)」「グループ一体経営の強化」の3つが挙げられています。また、MS&ADグループの重点戦略は、「グループ総合力の発揮」「デジタライゼーションの推進」「ポートフォリオ変革」の3つです。
両グループとも業界再編や大規模買収により今の姿になったので、グループベースでの経営を強めようというのは自然な流れでしょう。その一方で、いずれも自らの「ポートフォリオ」、すなわち、収益・リスク構造のバランスをさらに変えようとしているのはどうしてなのでしょうか。

リスクポートフォリオの偏り

ヒントは各グループが開示している「リスク量の内訳」にあります。
保険会社では自らが抱える経営リスクを、例えば200年に1回の確率で発生しうる損失額などとして金額に置き換え、健全性の確保や資本効率の向上に活用しています。
東京海上の資料によると、リスク量として最も大きいのは「国内損保(資産運用)」で、全体の3割強を占めています。MS&ADでも国内損保の資産運用リスクがグループのリスクポートフォリオの3割強となっていますし、SOMPOでは自然災害リスクを抑えているためか、国内損保の資産運用リスクが5割弱に達しています(いずれも2017年度末)。地震や台風といった自然災害リスクを抱える損保グループで最も大きい経営リスクが資産運用のリスクというのは、考えてみれば不思議な話です。
言うまでもないかもしれませんが、国内損保の資産運用リスクの多くは、営業目的などで保有する国内株式によるものです。

海外事業拡大が本質ではない

中長期的な投資家の目線からすると、自然災害リスクは保険事業の収益の源泉であり、保険引受リスクのコントロールに強みがあると考えているからこそ、保険会社に投資します。
近年の国内勢による積極的な海外保険会社の買収には、日本に偏った事業ポートフォリオを分散するという意味もあると思います。もっとも、保険引受リスクの分散であれば再保険でも対応可能なので、海外M&Aをしなければ投資家がいい評価をしないというものではありません。
各グループともに事業ポートフォリオの分散を掲げ、海外事業の拡大を図るとしていますが、グローバル経営による成長を目指したいという経営者の判断によるものなのでしょう。

ところが、最大の経営リスクが国内株式保有によるものという現状を踏まえると、損保グループの経営者は、保険引受事業よりも日本株の保有のほうが高いリターンを安定的に上げられると考え、資本を最も多く使っていることになります。
ただし、株式投資に何か特別な強みを持っているのでなければ、投資家としては自分で株式投資を行ったほうが、少なくとも税金の分だけ有利なはずです。「特別な強み」など存在するのでしょうか。

政策株式保有を正当化するのは難しい

損保が保有するのは、いわゆる政策保有株式なので、株式を保有することで大企業から保険料を得ている面があります。しかし、かつての規制料率時代とは違い、コマーシャル分野は収入保険料を確保すれば利益が得られるという事業ではなくなりました。もはや株式投資における「特別な強み」とは言えません。
例えば、MS&ADは政策株式のROR(リスク対比リターン)を7~8%程度と示していますが、これは保険引受利益と配当をリターンとしたものだそうです。株価の変動を考えると、安定的に7~8%のリターンを上げられるものではありません。
損保グループの経営者もこうした状況を十分理解しているからこそ、中期経営計画の3本柱の一つに「ポートフォリオの変革」を掲げ、実行しようとしているのでしょう。

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inswatchは保険流通業界向けのメールマガジンです。
私は2か月に1度のペースで寄稿しています。

※久しぶりに札幌スープカリーを食べました。

 

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契約者への配当還元

6月8日の日経新聞によると、昨年度決算を受けた大手生保4社と富国生命の増配額は合計で521億円になるそうです。
ここで言う「増配額」とは個人保険・個人年金保険の契約者向け配当の増加分のことを指すのだと思いますが、毎度のことながら、これだけだとレベル感が全然わかりません。そこで、かなりラフではありますが、開示情報をもとに試算してみました。

非常に慎重な還元スタンス

この5社の配当準備金繰入額の合計は5905億円でした。団体保険の配当はディスクロージャー誌から過去の実績を見たうえで、ざくっと約3700億円と置き、団体年金の配当は各社が公表した配当率を参考に、これまたざくっと840~850億円とすると、個人保険・個人年金保険の配当は1300億円程度ということになります。
つまり、前年度の800億円弱から521億円増えて、1300億円程度になったということで、5社のソルベンシーマージン総額が2.1兆円増え、危険準備金繰入など内部留保だけでも1兆円近い水準を増やしたのに比べると、非常に慎重な配当姿勢だということがうかがえます。

もっとも、第一生命の契約者配当は日経によると「横ばい」とのことですが、同社は配当準備金繰入額の内訳を公表していて、個人向けは64億円増えています。他方、住友生命は「110億円の増配」と説明していますが、個人向けの配当準備金繰入額を推計すると、10億円程度しか増えていません。
おそらく何らかの入り繰りがあるのでしょうけど、各社は配当還元についてもっと情報を出さないと、余計な不信感を与えてしまうのではないでしょうか。

団体保険の配当はコスト扱い

なお、私はいろいろなところで基礎利益の限界みたいな話をしていますが、契約者配当との関係で言えば、団体保険の契約が大きい会社ほど基礎利益が大きくなる傾向があります。団体保険では危険差益の大半を配当することになっていて、いわば事後的な保険料の調整が行われているので、この部分はコストとして基礎利益から控除したいところです。
上記試算の数字を使えば、5社合計の基礎利益2.1兆円のうち、約3700億円がかさ上げされているということになりますね。

※写真は「手づくり和菓子教室」の私の作品です。運よくこちらに当たりました。

 

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