生保ディスクロージャーの停滞

インシュアランス生保版(2018年7月号第2週)に寄稿したコラムをご紹介します
(見出しを付けてみました)。
情報を何でもどんどん出してほしいというクレクレタコラ(わかりますか?)ではなく、重要な経営リスクに関する情報を開示してほしいと言っているつもりです。

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近年の生保決算をみて感じるのは、経営情報開示の停滞である。
上場生保にかぎれば、投資家・アナリストに向けて経営情報を積極的に示そうという姿勢がうかがえるものの、生保業界全体としては、近年の状況変化を踏まえると、むしろ後退していると言ってもいいだろう。銀行と違い、内外の健全性規制が「検討中」のまま進んでいないことも、残念ながら停滞の一因となっているのかもしれない。

外貨建保険はどれだけ売れたのか

例えば、このところ外貨建保険の存在感が高まりつつあり、大手生保でも取り扱うようになっている。ところが決算情報では、一部の会社が断片的に販売状況を示しているだけで、新契約は円貨建ても外貨建ても一括りのままであるし、責任準備金がいくらに達しているのかといった情報もない。
特に後者は深刻で、外貨建て資産を増やした会社があったとして、外貨建て負債の増加に対応したヘッジ目的の投資と、運用収益を高めようとするための投資では意味がまるで違うのだが、外部からは判断できない。

有価証券の残存期間別残高の開示状況も利用者を軽んじていると言わざるを得ない。主要生保の国内公社債の6割以上が「10年超」となって久しいにもかかわらず、10年までの区分を5つに分けて細かく示す一方、10年超は何年たっても一括りのままだ。
もちろん、負債のキャッシュフローの開示がないなかで、資産だけ見てもしかたがないという声はありそうだが、そうは言っても各社のALM(資産と負債の総合管理)のスタンスをつかむうえで、公社債の保有状況はかなり参考になる(だからこそ残存期間別残高を開示しているのだろう)。上場生保の一部ではより細分化した保有状況を示しているところもあり、他社も見習ってほしい。

マイナス金利政策の影響はどうなったか

さらに、日銀のマイナス金利政策で一段と明らかになったのは、金利感応度に関する情報が足りないことである。
超低金利になってもソルベンシーマージン比率が高水準を維持し、基礎利益が堅調に推移しているのは、これらの指標が金利低下による生保経営への影響を適切に反映していないためであり、実態としては超低金利が企業価値に及ぼした影響は非常に大きい。だからこそ、各社はここ数年、劣後債務の発行までして支払余力の増強に努めているのである。

金利変動の影響をどの程度受けるかを知る手掛かりとして有益な指標に、上場会社と大手相互会社2社が開示するEV(エンベディッド・バリュー)がある。長期にわたり保障を提供する日本の生保事業は総じて金利変動の影響を受けやすいため、EVのような、資産と負債をあわせたベースでの金利感応度を知る手掛かりとなる指標の開示は不可欠だ。

投資家にとって重要な情報は、契約者をはじめとする投資家以外の外部ステークホルダーにとっても重要であることが多い。顧客の利益を第一に考えるのであれば、今のままではおかしいだろう。
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※写真は築地市場です。

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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