人口減少で生命保険の購入層が減り、生保の超長期債需要が低下する可能性について財務省が言及したという記事(7日の日経)を見て、一体どんな議論が行われているのかと思い、「国の債務管理の在り方に関する懇談会」の資料や議事要旨を確認してみました。
議事要旨によると、財務省(理財局)は「生保の超長期債需要が減る」という表現は使っていませんが、次のような分析から、超長期債の需給構造が変化する可能性があるとしています。
「生命保険会社の年換算保険料収入は順調に伸びている。一方、保険金等を控除した収支は7~8兆円程度で推移。また、昨年の金融レポートにおいて、金融庁は、今後の人口構成の変化により、保険加入の中核層である30~40歳代が減り、保険料のボリュームが縮小したり、終身保険から医療・介護保障へのニーズの変化をもたらす可能性があるという分析をしており、今後生保の負債サイドが質・量両面で変化する可能性も示唆。」
要は、保険加入の中核層が減っていき、保障内容も変わるから、中長期的な超長期債需要が減っていくだろうという分析結果なのですが、本当にそうなのでしょうか。
図表は懇談会の資料1(21ページ)です。2007年度以降、生保が超長期債を積極的に購入してきたことがわかります。その背景としては、金融庁が経済価値ベースのソルベンシー規制導入に向けて舵を切ったことや、保険会社で経済価値ベースのリスク管理を導入する動きが進んだことが挙げられます。
こうした資産長期化により、生保はすでに負債の金利リスクを十分抑制できたのかといえば、必ずしもそうではありません。新契約の有無にかかわらず、生保が金利変動の影響を依然として受けやすいことは、金融庁によるフィールドテストの結果からも明らかです。
つまり、日銀が国債をガンガン購入し、金利水準が著しく低下したという異常事態により、近年の購入ペースは鈍化していますが、既契約だけを考えても、生保が超長期債を購入する余地は依然としてそこそこ大きいと考えるのが自然でしょう。
新契約についても検討してみましょう。死亡保障から生存保障(医療、介護、年金など)へのシフトは今に始まった話ではなく、国内系生保の主力商品はかなり前から定期の保障性商品です(=超長期債のニーズは小さい)。他方、第三分野マーケットの主力商品は終身医療保険なので、それなりに金利リスクがあると考えられます。
この10年間は終身保険が売れました。これは「保険加入の中核層」向けではなく、主に銀行で貯蓄性商品として販売したものなので、高齢層が中心です。
今の金利水準では魅力的な円金利の貯蓄性商品を提供するのは難しいものの、それこそ人口構成を考えると、貯蓄性商品へのニーズはしばらく強いでしょうから、ある程度金利がある世界となれば、再び超長期の貯蓄性商品が売れるでしょう。
議事要旨からは、財務省が「今後は人口構成の変化により、生保負債は縮小に向かい、かつ、短期化する」と考えていることがうかがえます。
しかし、以上のように、既契約からも新契約からも、「生保負債が縮小に向かい、かつ、短期化するので、超長期債ニーズが減る」というのはかなり先の話であり、国債発行計画の検討材料にするのであれば、時間軸があまりに違い過ぎると言えそうです。
※東京駅のこの駅弁屋さんでは、全国の駅弁を取り扱っていて、楽しいです。
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