保険毎日新聞のインタビュー

業界紙「保険毎日新聞」の9月21日号と25日号にインタビュー記事が載りました。
同紙で連載が始まった「『保険自由化』20年の軌跡 その影響と今後の展望を探る」という企画の第1弾だそうです。2回にわたるとは思っていなかったので、ちょっとびっくりしました^^

インタビューのお題は「保険会社経営の変化と行政が果たした役割」です。ここでは内容をごく簡単にご紹介しましょう。

前編では保険会社の経営が、前半10年間の守り一辺倒の時代から、後半には攻守バランスのとれた経営を志向できるようになったことや、保険市場でビジネスモデルの異なる新旧勢力がせめぎ合うようになったこと(以前紹介した「旧世界」「新世界」の話です)、ネット社会の急展開は「新世界」の成長を支える一方、この動きがさらに進むと「新世界」の会社どうしの競争が一段と激しくなると考えられること、などを語っています。

後編では、主に保険行政が果たしてきた役割について述べています。1995年の保険業法改正の3本柱である「規制緩和・自由化の促進」「保険事業の健全性維持」「公正な事業運営の確保」を検証し、規制緩和・自由化が進み、アクセスも多様化するなかで、「公正な事業運営の確保」の重要性が高まり、新たな規制につながっていったことを指摘するとともに、健全性維持に関しては試行錯誤が続いているとコメントしました。
いつもお話ししていることではありますが、銀行と違い、保険会社の破綻処理は主に契約者負担で行われたということを忘れてはならないと思います。

機会がありましたら、ぜひご覧ください。
企画はまだ始まったばかりなので、どのような方々が登場するのか楽しみです。

※写真はチューリヒです。土曜日にはフリーマーケットが開かれていました。

 

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スイス鉄道の旅

遅めの夏休みをとり、スイスに行ってきました。
このブログの読者の皆さんからは、スイスと言うと「バーゼル」「チューリヒ」という声が出そうですね。今回は仕事ではなく、結婚25周年の記念旅行ということで、ユングフラウヨッホなどアルプス観光を楽しんできました。

鉄道王国スイス

人よりやや鉄分の多い私には、スイスはとっても楽しいところでした。
九州と同じくらいの面積しかないのに、国鉄・私鉄合わせて約5300kmと九州の2倍もの鉄道網があり、どこに行くのも鉄道が便利です。スイス国鉄のサイトを使えば予定が簡単に立てられますし、駅の表示もわかりやすく、何より列車が時間通りに走っています。さすが時計産業の国です。


※車両に3か国語の表示があります

路線が密なだけでなく、運行密度もそこそこ高く、地方の路線でも1時間に1本は走っているようでした。
地方では「リクエスト・ストップ」という仕組みになっているところもあり、小さい駅はボタンを押さないと通過してしまいます。とはいえ、小さい駅でもそこそこ乗り降りがあって、私が乗った列車で本当に通過したのは1、2回だけでした。


※左に見えるのが「リクエスト・ストップ」のボタン


※ボタンを押して停まってもらいました(グアルダ駅)

氷河急行に乗車

スイスを代表する観光列車といえば氷河急行(Glacier Express)です。
スイス南西部のツェルマット(マッターホルンがあるところ)から南東部のリゾート地サンモリッツまで8時間かけてのんびり走ります。
どこかの国の何十万円もする豪華列車とは違い、料金はランチ込みで1万円弱でした(別途に乗車券が必要)。


※坂道をどんどん登っているところ

8時間というと長そうですが、大きな窓から見える景色は素晴らしく、変化があって飽きません。予約しておいたスイス料理のランチを食べ、乗り合わせたオーストラリア人の夫婦と話をしながら景色を眺めていると、あっという間に時間がたってしまいました。


※車内で暖かいランチを食べられるのはうれしいですね

登山電車

登山電車にも触れないわけにはいきません。
スイスでは、よくこんなところに鉄道を敷いたなあと感心するくらい、高いところにも鉄道があります。その代表選手がユングフラウ鉄道です。
世界中の観光客でにぎわうユングフラウヨッホに向かう鉄道ができたのは、なんと1912年。途中からはひたすらトンネルを通るのですが、当時の技術で硬い岩盤をくり抜くのは相当大変だったと思います。


※ここから標高3454mまで登ります

ユングフラウ鉄道をはじめ、登山電車では急勾配を登るため、しばしばラックレールを使っていました。
車両に歯車が付いていて、ギザギザのラックレールにかみ合わせて登っていく仕組みで、本物は初めて見ました。

都市ではトラムが活躍

チューリヒ、ベルンといった大きな町ではトラム(路面電車)が活躍していました。低床車がかなり普及しているようです。
乗車してあれ?と思うのは、チケットを見せたり料金を支払ったりする機会がないことです。信用乗車という仕組みで、いちいちチケットを確認しません。でも、ごくたまに検札があって、そこで無賃乗車だとわかると高いペナルティをとられます。


※チューリヒのトラムです

いかがでしたでしょうか。他にもルツェルンには欧州最大級と言われる交通博物館もありますし、鉄分の濃いかたは、ぜひスイスへ!

 

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コンプライ・アンド・エクスプレイン

5月26日のブログのなかで、コーポレートガバナンス・コードの実施状況に関して、

・一部の原則を除いて圧倒的に「コンプライ」が多い
・98%がコンプライでも、実態は違っているということもある
・コンプライでもエクスプレインが必要ではないか

といったことを書きました。

その後、東証のコーポレート・ガバナンス白書(直近は2017)を確認する機会があり、業種別の実施状況を見たところ、全原則実施という回答が最も多かった業種は「銀行」「保険」でした。なかでも銀行は8割を超えていることがわかりました。

いかにも金融機関らしい感じがしますが、これをどう考えるかです。
コードへの対応という点では進んでいると言えるのかもしれません。でも、本来は形式よりも中身が問われるなかで、独自の考えに基づく対応が全くないというのはどこか引っかかります。
日本の金融機関のガバナンスはそれほど画一的なのでしょうか?

ちなみに全原則実施だと、各社のガバナンス報告書には「コーポレートガバナンス・コードの各原則につきまして、全て実施しております」と書かれるだけで、対話のきっかけや材料にはなりません。
逆に言えば、全原則実施であれば、開示項目(この部分はコンプライ・アンド・エクスプレイン)だけに対応すればいいので、余計な作業をしなくてもすみますね。

※築地場内のイタリアン「トミーナ」の桃の冷製パスタです♪

 

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高利率契約の動向

生保の破綻が相次いだ時代から20年近くたち、逆ざや問題なんて過去の話と思われるかもしれません。でも、このようなデータをご存じでしょうか。

先日公表された大手生保のディスクロージャー誌によると、予定利率の高かった1986年度から1995年度にかけて獲得した個人保険・個人年金保険の責任準備金は、10年前とほぼ変わらない水準で残っていることがわかりました(大手4社の合算値)。

さすがに1985年度以前の契約では、加入時から30年以上たっているので、責任準備金は10年前の50%まで減っています。例えば1980年に35歳だった人は、2018年には73歳です。80年代前半までの契約は死亡などにより消滅するケースが増えているのでしょう。

ところが、1986年度から1995年度となると、例えば1990年に35歳だった人は、2018年には63歳なので、死亡などにより契約が消滅するペースは緩やかです。しかも予定利率が高いので、責任準備金が一向に減らないという状況と考えられます。
特に1991年度から1995年度の契約は、足元でも責任準備金が増え続けていますし、ボリュームとしても全体の2割弱を占めているのです。

平均予定利率を見てしまうと、予定利率の低い団体年金で押し下げられているうえ、2000年代に各社が銀行などを通じて貯蓄性の強い商品を多く販売したことで、かなり下がっています。
しかし、現実には過去の負の遺産(契約者からすればお宝契約)の負担が未だに大きいということが、今回のディスクロ誌から確認できました。

※「せんば山にはタヌキがおってさ♪」の「せんば」に行きました。

 

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相良(さがら)700年

早くも1週間たってしまいましたが、SLに乗って人吉(熊本県)を訪れました。

人吉は相良氏が鎌倉時代から明治維新までの約700年間も統治していたところです。
江戸時代の人吉藩の石高はわずか2万2千石。隣国には強大な薩摩の島津氏が存在し、1581年の水俣合戦では大敗を喫しています。その後も豊臣秀吉の九州征伐、関ヶ原の戦いと何度も存続の危機に直面しましたが、相良氏はしぶとく生き残りました。
なかでも関ヶ原の戦いでは、初めは石田三成の西軍に味方し、大垣城を守っていましたが、重臣の機転により東軍の徳川方に転じたおかげで、相良氏は所領を安堵されました。


※国宝の青井阿蘇神社

この機転をきかせた重臣は相良(犬童)清兵衛という人物です。清兵衛が情勢を見極め、西軍から東軍へ寝返ったおかげで、相良氏の統治は江戸時代になっても続きました。
まさに清兵衛は相良氏存続の立役者なのですが、話はそこで終わりません。

人吉城址の近くにある人吉城歴史館によると、清兵衛は藩のなかで大きな力を持つようになり、やがて藩主をも無視し、横暴でわがままな行動が目立つようになります。ついには藩主が清兵衛の悪行を幕府に訴え、清兵衛は江戸に召喚(その後弘前へ流刑)、残された一族は反乱を起こし、全員死亡したそうです。

人吉城址には今は石垣だけが残っています。


※人吉は焼酎も有名です

 

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大手生保の健康増進型保険

インシュアランス生保版(2018年8月号第4週)に寄稿したコラムをご紹介します
(今回も見出しを付けてみました)。

大手生保が相次いで投入

今年に入り、大手生保が相次いで健康増進型の保険を市場に投入している。
第一生命が3月に発売した「ジャスト」では、契約時に健康診断結果を提出すると保険料が安くなる「健診割」を導入し、加入時の健康状態によってはさらに保険料が割引となる。住友生命がこの7月に発売した「バイタリティ」では、健康状態を把握し、改善活動を行うとポイントが貯まり、翌年の保険料が安くなったり、特典が得られたりする。がん検診や運動習慣など加入者自らがポイント獲得に動けるところが話題となっている。明治安田生命も加入者の健康増進を支援する新商品を来年4月に発売するという。

社会的な意義

健康診断の受診や運動習慣といった健康増進活動は、そもそも国民にどの程度普及しているのかご存じだろうか。
厚生労働省の直近データによると、健診や人間ドックの受診状況は67%(20歳以上)と、3人に1人は受診していない。また、1年以上の運動習慣者(1回30分以上を週2回以上実施)は3割前後にとどまっている。こうした現状を踏まえると、健康増進型保険には確かに社会的な意義もありそうだ。

生命保険の販売では加入者のニーズを掘り起こす必要があり、「あなたが亡くなったらご家族は大変ですよね」「入院すると何かとお金がかかりますよ」など、万一のリスクを強調する「脅し」セールスとなりやすい。ところが健康増進型の保険では、「保険加入をきっかけに、健康になって長生きしましょう」「ついでに保険料も下がるし、特典もあります」というポジティブな提案ができる。顧客に保障だけでなく、健康改善も提供できるということで、今まで以上に現場はやりがいを感じられるかもしれない。
もちろん加入者としては、健康増進活動も大事だが、自分に合った保障を買わなければ本末転倒である。

「旧世界」の賞味期限を延ばす

歴史の長い国内系生保は現在も、営業職員による対面販売を事業の中核としている。これに対し、シンプルでわかりやすい商品を低価格で、保険ショップや通販など多様なチャネルを通じて提供するという新たな世界も広がっている。
筆者はこれらを、営業職員モデルの「旧世界」、保険会社や大型代理店がしのぎを削る「新世界」と呼んでいるが、市場全体の新契約の4~6割を今でも「旧世界」が獲得しているのは、「新世界」で見られるような顧客に選ばれるための直接的な競争がなく、新契約の多くを膨大な既存顧客市場から上げているためだと理解している。それぞれの会社が閉じた世界で顧客との信頼関係強化に努め、一定の成果を収めてきた結果と言えよう。

大手生保による健康増進型保険も、保障内容や価格設定などから判断するかぎり、「新世界」から顧客を奪うというよりは、営業職員モデルの賞味期限を延ばそうという取り組みに見える。あるいは、賞味期限となる前に健康関連データを蓄積し、次の時代に備えるという意味もあるのかもしれない。

※くまモンの電車に乗りました。銀座線の車両ですね。
 中はこんな感じ↓

 こんな電車もいました。

 

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医療保険の値下げ

16日の日経「医療保険 シェア競争(有料会員限定)」について。

4月の標準生命表改定で平均余命が全般的に伸び、入院や手術の可能性が高まることから、第三分野商品の値上げが必要と言われていたにもかかわらず、実際には保険料を据え置いたり、一部の商品では値下げになったりしているという記事でした。

値上げが難しい競合環境

記事では値上げとならなかった背景として、「医療保険を巡る競争が激しくなっている」「高齢化や医療費の高騰が進むなか、医療保険へのニーズは高まっている」などとありましたが、ニーズが高まっているのであれば、値下げまでしてシェアの確保に走る必要はなさそうです。
医療保険は成長分野と言われつつも、競争が激しく、なかなか値上げができない環境にあるということなのだと思います。特に代理店チャネルでは単品で販売されることが多く、どうしても他社の商品と直接競合する場面が多いのでしょう。

物価上昇率2%を目指した日銀による大規模な金融緩和にもかかわらず、世の中の値上げに対する抵抗が非常に強いということの表れなのかもしれません。

死亡率は一要素にすぎない

では、保険会社はどうして保険料を下げることが可能なのか、保険会社が身を削っているのか、という点も気になりますよね。

保険会社が身を削っているかどうかは正直、手掛かりが少なすぎてわかりません。ただ、医療保険では、死亡率は医療保険の保険料を決める一要素にすぎず、入院や手術の発生率など、他の要素も大きいことは挙げられます。
例えば、入院給付金が日額5000円、手術給付金は20倍(入院の場合)という典型的な医療保険の場合、「平均在院日数は20日程度?(再入院を踏まえれば、もう少し長い?)」「手術を伴う入院は全体の1/3程度?」なんて考えていくと、医療保険といいつつ、入院給付を中心とした保険であると推測されます。入院に関しては、平均在院日数がどんどん短くなっているので、保険会社はこの点では助かっている(=値下げの余地がある)はずです。

医療保険の比較は難しい

保険料の払込方法も関係がありそうです。
例えば同じ終身医療保険でも、60歳まで保険料を払う商品と終身払いの商品を比べると、平均余命が伸びる影響を大きく受けるのは、前者の60歳までしか保険料が保険会社に入ってこない商品のほうです。後者も平均余命が伸びて給付の可能性は高まりますが、保険会社が受け取る保険料も増えると見込まれます。

それにしても、ひと口に終身医療保険といっても、会社ごと、商品ごとにスペックが微妙に違いますね。本当の意味での価格競争にはなっていないような気もします。

※熊本に行ってきました。2年前の地震で傾いた城内の建物がこの6月の大雨で倒壊したとか。

 

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自己規律の活用

保険業界向けメールマガジン「inswatch」の直近号(Vol.941 2018.08.13)に寄稿しましたのでご紹介します。購読のお申し込みはこちらまで。

保険加入で健康増進

契約時に健康診断の結果を提出すると保険料が安くなったり、がん検診の受診や運動習慣などの健康増進活動で獲得したポイントが翌年の保険料に反映されたりする「健康増進型保険」が登場しています。
生命保険の販売では潜在的な加入者ニーズを掘り起こす必要があり、万一のリスクを強調する「脅し」のようなセールスも多いように思います。これが健康増進型の保険だと、「保険加入をきっかけに、健康になって長生きしましょう」という前向きな提案ができそうです。

健診も運動習慣も改善の余地は大きいが・・・

厚生労働省の国民生活基礎調査(直近は2016年)によると、20歳以上の男女のうち、3人に1人が健康診断を受けていないことがわかりました。特に女性の受診率は低く、30代女性の受診率は56%です。
運動習慣についても確認すると、厚生労働省の国民健康・栄養調査(同)では、運動習慣のある人(1回30分以上の運動を週2回以上、1年以上続けていると回答した人)は20歳以上男女のうち30%強にすぎません。しかも、この10年間でみると、男性(2016年の「運動習慣あり」が35%)は概ね横ばい、女性(同27%)はなんと低下傾向です。

このような現状を踏まえると、健診を受けたり運動習慣をつけたりするには何かのきっかけがほしいところなので、保険加入を通じて保険会社が健康増進活動を促すことには社会的意義があると言えそうです。
ただし、いくら社会的意義があるとはいえ、「健康増進は自らの話であって、それを保険会社に強制されるなんて」と抵抗を感じる人もそれなりに存在するのではないかと思います。

規制でも自己規律を活用

実は、こうした商品を提供する保険会社に対しても、似たような話があります。
ここ数年、保険会社の中期経営計画などで「ERM」という言葉を目にする機会があると思います。ERMはリスク管理の進化形で、例えば東京海上では「リスクベース経営(ERM)」、MS&ADでは「ERM経営」、SOMPOでは「戦略的リスク経営(ERM)」という用語を使っていますが、ディフェンス重視のリスク管理ではなく、企業価値の持続的な拡大を目指す枠組みという点で共通しています。

この、各社によるERMの取り組みに保険行政が着目し、健全性規制の一環として活用する動きがあります。「ORSA(リスクとソルベンシーの自己評価)」という規制がそれで、保険会社が自らのERMの現状を毎年レポートにまとめて金融庁に提出し、レポートを受け取った金融庁は対話を通じて各社のERMの高度化を促すというものです。

企業価値の拡大を目指す経営の取り組みに、どうして監督当局が口をはさむのかという声があるかもしれません。しかし、金融庁にかぎらず、監督当局はソルベンシー・マージン比率のような資本要件だけで保険会社の健全性を確保することはできないという考えが国際的な潮流となっていて、各国の当局がこうした自己規律を活用した規制を導入しています。

メリットとともに副作用にも留意

リスクマネジメントにおいて、保険はリスクが顕在化した際の備えとして機能しています。これに対し、リスクそのものを小さくしようというのがロスプリベンションで、先ほどの事例では保険会社による健康増進活動のサポートだったり、金融庁によるERM高度化の促進だったりします。
こうした予防活動がリスクマネジメントにとって重要なのは確かですが、本来は自律的に行うべきことを第三者が促すとなると、いわば「自己規律の強制」がもたらす副作用の可能性にも目を配る必要がありそうです。

ご参考ですが、9月3日(月)の夕方に損保総研の特別講座「知っておきたい保険関連の健全性規制の背景と方向性」で講師を務めます。先に述べたような自己規律を活用した健全性規制の話もしますので、ご関心のあるかたはぜひご参加ください。
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あくまで自分の健康増進や企業価値の維持・拡大が重要なのであって、保険料割引や特典獲得、監督当局からの高評価が目的となってしまっては本末転倒ということかと思います。

※暑い日はカレー料理がいいですね。

 

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テレビ「保険の賢い見直し術!」

8月7日の夜、BS11(イレブン)の「報道ライブ インサイドOUT」という番組に、FPの内藤眞弓さんとともに生出演してきました
(21日までこちらで視聴できます)。

今回お声掛けいただくまで知らなかったのですが、この番組は「キャスターがゲストに話を聞く」に徹した番組でした。ニュースや天気予報といった保険以外の時間はほとんどなく、VTRも入らず(CMは何回かありました)、ひたすらキャスターの問いかけにゲストが応じるというものでした。
ついでに言うと、進行表があるとはいえ、覚悟していたとおりキャスターからアドリブの質問もバンバン来ました^^

そもそもテーマが「保険の賢い見直し術」なので、こちらを専門分野としている内藤さんとは違い、私の立ち位置は微妙ですよね。
しかも、「保険業界にとって低金利の影響は?」という最初の質問で、いきなりつまづきました。私が生保経営の大変さについて「二つあります!」といって説明しようとしたところ、一つを説明しただけでキャスターが次に進めてしまうというハプニング。まあ、誰も気にしていないとは思いますが…

とはいえ、岩田キャスターは長年テレビ報道の世界でやってきたかたですし、世間の空気を知るうえでも、このような番組出演は参考になります。
視聴者は「低金利で保険料が上がった」「長寿化で保険料が下がった」「健康増進型保険とか認知症保険とか、最近は新しい保険が出ているらしい」といった情報を、意外なほど知っている(聞いたことがある)のですね。でも、あくまで断片的でバラバラな情報にすぎず、全体として何が起きているかという視点はないし、それが自分とどうつながっているかも、なかなか想像してもらえないようです。
ですから「健康増進型保険や認知症保険に入れば、老後は大丈夫なのか?」という質問があって、思わずゲスト2人とも固まってしまいましたが、視聴者目線に立つと、これはいい質問だったのだと思います。

番組では損害保険にも話題が及びました。西日本豪雨(7月豪雨)による損害保険会社への影響を聞かれ、「おそらくワースト5に入るくらいの支払額になるのでは」「でも、この規模の保険金支払いであれば経営が揺らぐなんてことはない」と言い切ってしまいました。
3メガ損保が10日に発表した7月豪雨による支払見込額の合計は約1500億円とのことで、かなり大きな金額になるようです。火災保険の支払いが多いのは当然として、自動車保険の支払いが多いのが今回の特徴かもしれません。

※BS11オンデマンドの写真も張り付けておきましょう。

 

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最近の読書から

夏休みシーズンということで、印象に残った本をいくつかご紹介しましょう。

1.八代尚宏「脱ポピュリズム国家」

本書における「ポピュリズム政治」とは、欧米で見られるようなナショナリズムの台頭などではなく、目先の利益ばかりを追求し、社会全体の長期的な利益を犠牲にしている政治のこと。八代氏は日本こそがポピュリズム政治に陥っていると述べています。
だからといって、反アベノミクスで凝り固まった論調ということではなく、そもそも社会保障分野や労働市場、医療・介護、農業といった分野が現在どうなっていて、構造改革として何をしなければならないのかを、事実をもとにわかりやすく解説しています。
週刊金融財政事情の書評「一人一冊」でも取り上げたので、近いうちに掲載されると思います。

2.櫻澤誠「沖縄現代史」

中継貿易で栄えた琉球王国時代の歴史、あるいは、激しい地上戦となった沖縄戦のことはある程度知っていても、戦後の沖縄がどのような歩みをたどってきたのか、多くのヤマトンチュ(本土の人)はあまり理解していないのではないかと思います。基地問題をはじめ、沖縄関連のニュースをみても、今ひとつピンとこないところがあるのは、本土とは違う沖縄の現代史を知らないからかもしれません。
本書は米軍統治から現在に至る戦後70年の沖縄について、政治面を中心に記したものです。例えば、沖縄が本土復帰した1972年5月にNHKが行った世論調査では、復帰に「期待する」が51%、「期待しない」が41%という結果が出ています。地元では復帰を全面的に歓迎する雰囲気ではなかったのですね。

3.釘原直樹「人はなぜ集団になると怠けるのか」

副題は「『社会的手抜き』の心理学」です。
社会的手抜きとは、個人が単独で作業を行うよりも、集団で行ったほうが1人当たりの努力の量が低下する現象のこと。1+1が2を下回ってしまうようなことは、力仕事だけでなく、ブレーン・ストーミングのような頭脳労働でも確認できるそうです。
本書を読むと、世の中「社会的手抜き」のオンパレードという感じですが、社会的手抜きのネガティブな面だけでなく、そもそも社会的手抜きをすべてなくすことが適切かどうかについても考察があります。

4.林宜嗣/中村欣央「地方創生20の提言」

日本政策投資銀行の研究顧問を務める林先生と政投銀のスタッフ(中村さんは私の長年の友人なのです)が、地方創生を実現するために必要な条件と、それに基づいた戦略の策定と実行のあり方を20の提言にまとめたものです。
私はこの分野にあまり明るくはないのですが、「地域別に見た産業構造の特徴」という図表(就業者数でみた産業の集積状況を示したもの)によると、地方圏で上位を占めている産業は、やはりと言うべきか、「農林業」「公務」「建設」「複合サービス(郵便局、協同組合など)」なのですね。
「インバウンド客を中心とする観光振興が注目されているが、実際に観光を主力産業とする地域で人口を維持、増加させている事例は少なく(後略)」という分析結果も示されていて、地域創生がそう簡単ではないことがわかります。

※銀座三越にライオンとスヌーピーがいました。

 

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