金利リスク対応の違い



前回のブログ
ではソウルの写真だけでしたが、ソウルで開かれた韓国金融学会で、日本金融学会からの派遣者として報告をしてきました。

韓国での発表なので、世界的な超低金利のなかで、日本、台湾、ドイツ、そして韓国の大手生命保険会社の経営行動を探るというケーススタディにしました。
発表内容はどこかでお伝えする機会があると思いますが、なぜこの4か国かというと、いずれも生保市場の規模が大きいうえ、長期にわたり利率を保証する商品が生保市場の中心だったため、保険会社が資産と負債のミスマッチを抱えやすいという点で共通しているためです。

日本の大手生保が提供する主力商品は、かつてに比べると終身部分が非常に小さく、総じて期間10年程度の保障性商品の組み合わせとなっています。ただし、過去に獲得した契約による影響が依然として大きいので、金利リスクを抱えた状態が続いているのですね。
他方、今の金利上昇が長続きしないとなると、他の3か国はより深刻な状況に見えます。ドイツでは会計上も追加責任準備金の負担が年々膨らみますし、台湾では外資系生保の撤退や中小生保の経営破綻が相次いでいます。韓国は2000年代以降、利率変動型商品にシフトしてきたのですが、これらには最低保証があり、過去の高利率契約とともに生保の負担となっているようです。

こうして国際比較をしてみると、限られたディスクロージャーからでも経営行動の違いが見えてきて、興味深いです。

※写真は全州の韓屋村です。路地に入ると静かな世界が広がっていました。

 

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マイナス金利政策後の生保経営

2018年3月期の生保決算をざっと確認しました(まだ国内系だけです…)。
大方のメディアは相変わらず保険料収入と基礎利益にしか関心がなさそうなので、私は大規模金融緩和の副作用を探ってみようということで、マイナス金利政策が始まった2年前と比べてみました。

各社の経営リスクは総じて増える傾向にあるとうかがえる一方、基礎利益は増えていても、多くの会社が実行してきた「外部調達を含め、金利低下でダメージを受けた支払余力を高めつつ、内外金利と為替リスクを取る」という経営行動は必ずしも会社価値を増やすことにつながらなかった、というのが現時点での総括となりそうです。

2016年3月期と比べると、各種準備金の積み増し(国内系8社で約2兆円増)と外部調達(同1.2兆円増)を行う一方、この間、資産長期化を概ねストップし(例外あり)、外貨建資産を増やしています。
しかし、国内金利は低水準のままであり、対米ドルでは円高が進み(生保の外貨建資産は米ドル建てが多い)、海外金利の上昇も著しく、ヘッジコストも上がっているとなると、この期間にかぎればリスクテイクが裏目に出ているように見えます(株価上昇で相殺されていますが)。

当然ながらリスクをとれば必ずリターンが上がるものではなく、リスクテイクが裏目に出ることもあります。問題は外部ステークホルダーがこのような経営を期待しているのかどうか、あるいは、経営陣が考え方をきちんと説明しているかどうかだと思います。
この点で、上場会社はそれなりに説明しているのに対し、相互会社による考え方の説明は少ないですね。今後の情報開示に期待しましょう。

※出張でソウルに来ています。

 

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コンプライでもエクスプレインを

生損保決算は分析途上ということで、別の話を。

大学のガバナンス不在が取り沙汰されていますが、日本企業のコーポレートガバナンス改革もまだまだ道半ばという印象です。コーポレートガバナンス・コードの改訂(もうすぐ公表されると思われます)や、経産省CGS研究会(第2期)が5/18に発表した「第2期中間整理-実効的なコーポレートガバナンスの実現に向けた今後の検討課題」など、新たな取り組みや課題整理が次々に出てくるのも、形は整えても魂が込められていないという現状があるのでしょう。

コーポレートガバナンス・コードは法令ではなく、上場企業に求められる行動規範であり、それぞれの原則を実施(コンプライ)してもいいし、実施しないのであれば、その理由を説明(エクスプレイン)すればいい、というものです(コンプライ・オア・エクスプレイン)。
ところが、東証が集計したコーポレートガバナンス・コードへの対応状況(2017年7月時点)を見ると、一部の原則を除いて圧倒的に「コンプライ」が多くなっています。

しかし、例えば先日のブログ「いつまで『社長が社長を選ぶ』なのか」で紹介したような、98%のコンプライにもかかわらず、確認してみると実態は違っているということが、徐々に見え始めています。

公表内容のボイラープレート化(=ひな型的で具体性を欠く記述)も目立ちます。先週末に参加した日本ディスクロージャー研究学会の大会では、業種の異なる3社の役員報酬に関するディスクロージャーが、全く同じ文言となっているケースが紹介されていました。おそらく外部の専門家によるひな型をそのまま使っているのでしょう。

コーポレートガバナンス・コードの「コンプライ・オア・エクスプレイン」は、実施すればいいというものではなく、自らのコーポレートガバナンスを確認し、ステークホルダーに理解してもらうためのものだと思うのですね。
それなのに、コンプライしているという事実と、紋切り型の記述(それも開示項目のみ)しか出さないとなると、外部からは評価のしようがありませんし、内部規律も働かないでしょう。コンプライでもエクスプレインが必要なのです。
(その意味で、上場保険会社のERM関連情報の開示は参考になると思います)。

非財務情報の開示には、引き続き課題がたくさんありますね。

※写真は横浜市大です。横須賀のワインを初めて飲みました。

 

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問題は含み損なのか

いろいろあって週末にブログを更新できなかったので、遅ればせながらちょっとだけ。

18日のロイター記事「金融庁、地銀に有価証券運用の含み損の適切な処理を要請=関係筋」をみて、違和感を覚えました。

記事には、「金融庁が、全ての地方銀行に対し、外債などの有価証券の運用で抱えた含み損を放置せず、適切に処理するよう求めたことがわかった。複数の関係者が18日、明らかにした。同庁は、有価証券運用の含み損を自己資本や年間コア業務純益などの期間収益の範囲内にとどめることが望ましいとの見解を伝えている」とあります。
確かに、2月に開かれた金融庁と地銀・第二地銀との意見交換会には、主な論点として「含み損に対する対応が検討されていない例が見られた」「中には、今期(30年3月期)のコア業務純益予想額に匹敵する水準まで評価損が拡大している銀行も見受けられた」「(前略)含み損に対する対応が十分に検討されていない例があるとすれば、問題であると考えている」とありました。

しかし、資産運用によるリスクテイクと言ったときの「リスク」とは、含み損の発生ではなく、保有資産価格の変動です。取得価額がいくらであろうと、含み損があろうとなかろうと、資産価格が10%下がれば、それは損失の発生です。
含み損はリスクテイクのバッファーである「経営体力」の一部なので、含み損を抱えていても、経営体力全体としてリスクテイクできる状態であれば、問題はないはずです(地銀の「自己資本」に含み損益が入っていない可能性はありますが…)。

「健全性を維持できるよう、リスクテイクに見合った運用・リスク管理態勢の構築に向けた対話を行う」のはいいとしても、銀行勘定の金利リスクに関する新規制が始まろうというなかで、本当に報道のとおり、有価証券の含み損に焦点を当てた対話を行い、損切りを促すのでしょうか。
まさかとは思いますが、ALM目的で多額の超長期債を保有する生命保険会社にとっても、これは他人事ではありませんね。

※写真は台湾大学(旧台北帝国大学)です。台湾生保では外国証券が保有資産の5割以上を占めています。

 

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日本の世帯構造の変化

台湾の保険コンファレンスではアジアの人口構成の急激な変化への対応もテーマの一つでした。
足元では65歳以上の人口割合は日本が26.6%とダントツで高いのですが、今後は韓国、シンガポール、タイ、そして中国が急速に追いついていくと見込まれています
(図表にはありませんが、台湾は足元の14%から急上昇し、なんと2055年には日本を抜いてトップに立つとみられています)。


内閣府「高齢社会白書(平成29年版)」より

各国の高齢化が進むスピードは日本を上回るので、生命保険市場はもちろん、社会全体に大きな影響を与えるのは間違いありません。低金利とともに、日本の経験が役立つこともありそうです。

もちろん、現時点では日本が世界有数の高齢社会となっていて、同時に世帯構造も大きく変わってきています。
9日に公表されたニッセイ基礎研究所・久我尚子さんのレポート「増え行く単身世帯と消費市場への影響(1)」によると、高齢化や未婚化などにより家計消費における単身世帯の存在感が高まっているとのことでした。

夫婦2人と子どもから成る、いわゆる典型的な核家族の割合が小さくなっていることはよく知られるようになりました。直近の実績値である2015年をみると、夫婦2人と子どもの核家族世帯は全体の26.8%にすぎません。これに対し、単身世帯はすでに34.5%を占め、2040年には全体の4割を占めるようになります。
「単身世帯」というと若年男女、つまり結婚前の独身男子や女子というイメージが強いかもしれません。しかし、本レポートによると、若年層(=35歳未満)が単身世帯の過半数だったのは1980年代までで、すでに2015年の時点で60歳以上の高齢世帯が単身世帯の4割強を占め、さらに20年後には過半数を超えます。

これだけの変化が起きているのですから、保険市場への影響もはかりしれません。
というか、かつて日本で死亡保障を中心とした生命保険が売れたのは、生産年齢人口が増えるとともに、夫を稼ぎ手とした夫婦2人と子どもの核家族が世帯の中核を占めていて、かつ、死亡リスクがそれなりに意識されていた(1950年代ぐらいの日本人の寿命は諸外国よりも短かった)、といった好条件が重なっていたからなのでしょう。
これらの条件がすべて変わってしまっているなかで、当時のビジネスモデルが通用しなくなっているのは当然かもしれません。

久我さんのレポートは第一弾とのことなので、さらなる単身世帯市場の分析が楽しみです。

※写真は台北郊外の深抗老街です。
 ここは豆腐料理で有名なところで、週末は大勢の人でにぎわいます。

 

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台湾での国際保険セミナー

連休後半は台湾の保険安定基金(TIGF)が主催する国際保険セミナーでスピーチをしてきました。TIGFは日本の保険契約者保護機構に相当する組織で、破綻時の支援などセーフティネットの役割を果たしています。

コンファレンスのテーマは「保険業の持続的成長と発展」という広範なもので、アジア共通の急激な高齢化やコーポレートガバナンスの問題、世界的な規制動向のほか、何といっても多かったのはフィンテック(インシュアテック、レッグテック=デジタル技術を活用した金融規制)に関するスピーチやディスカッションでした。
なかでもシンガポールの保険スタートアップとして知られるポリシーパル(PolicyPal)の創業者である葉(Yap)CEOによるサンドボックス制度(*)の活用や次のステップの話は興味深かったです。

*サンドボックス制度(Regulatory Sandbox)とは、参加者や期間を限定して、新技術やサービスを試行錯誤する機会を設けることで、イノベーションを促す取り組み。

それにしても感じるのは、この分野での日本勢の存在感の低さです。台湾という日本に近く、かつ、日本に親近感をもってくれているところでの開催にもかかわらず、現地スピーカーによる日本関連の言及は皆無でした(他国からの参加者もほぼ同じです)。
確かに日本勢による事例として語れる内容はそれほど多くないのかもしれませんが、ここまで注目されていないとは、ちょっとしたショックでした。

※私はマイナス金利政策下における日本の保険会社の対応状況について話をしました。

 

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物価2%の達成時期を削除

ご承知のとおり、日本銀行は4月27日の金融政策決定会合で、これまで「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)に記述していた2%の物価目標の達成時期の見通し(1月の展望レポートでは「2019年度頃になる可能性が高い」としていた)を削除しました。

異次元緩和政策を始めた2013年4月に「2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現」と発表してから早くも5年がたち、もはや実質的には長期戦になっていました(この間、達成時期が何度も延期されてきました)。
とはいえ、この記述を削除したということは、日銀自身が「できるだけ早期に実現」の未達成を認めたということになるのでしょう。

金利上昇に賭ける

物価2%を達成していれば、さすがに10年国債利回りが0%程度とか、30年国債利回りが1%未満とかいう状態ではなくなっているはず。ですから、特に2016年以降、金利水準の低下で会社価値が圧迫されたなかでも、超長期債購入による金利リスクの削減を中断していた生命保険会社があったとしたら、今の超低金利を「政策的」「短期的」なものと判断したのだと考えられます。

言い換えれば、そのような会社はここ数年、金利上昇に賭けたリスクテイクを行っていたというわけで、期待通りに金利が上がれば、実質的な会社価値の拡大が見込めるという経営判断をしたのでしょう(そう理解しなければ説明がつきませんよね)。

ところが、日銀が物価2%の達成時期の見通しを示さなくなり、名実ともに短期決戦の旗を降ろしてしまいました。
マイナス金利政策の導入から数えても2年以上たつなかで、「政策的」はともかく、少なくとも「短期的」なものという判断は残念ながら結果的に誤りだったことになります。

リスクテイクの結果をどう総括

金利上昇に賭けた保険会社は、金利が上がらなかった(右肩上がりの金利曲線だったので、実質的には低下した)ことに対する総括が必要ではないでしょうか。

このところ日本企業に対し積極的なリスクテイクが求められています。しかし、リスクテイクした結果をきちんと評価し、失敗の原因を明らかにしたうえで、次の経営判断につなげなければ、ERMもガバナンス改革も絵に描いた餅でしかありません。「株高、円安なのでOK」というのでは総括になりません。

最近報道された生保の2018年度の資産運用計画からは、私には金利リスクテイクの総括をうかがうことはできませんでした(消去法で国債回帰という報道はありましたが…)。
今後何らかの手掛かりが外部に出てくるでしょうか。

※GW後半は台北出張なのです。写真は日本人で賑わう氷屋さん。

 

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週刊ダイヤモンドの保険特集

遅まきながら週刊ダイヤモンド毎年恒例の保険特集を読みました。

「プロが薦める【最新】保険商品ランキング」「岐路に立つ保険代理店」といった各企画は、一見すると他誌の類似企画と同じように思えます。ところが読んでみると、さすが週刊ダイヤモンドという記述が随所に見られます。とりわけ保険流通に関わるかたには必見の内容ではないでしょうか。

今年の保険特集で個人的に面白かったのは、記事のあちこちにある「掲載基準緩和型コラム」という小さな囲み記事と、特集の締めくくりに掲載された遠藤さん(金融庁監督局長・遠藤俊英さん)のインタビュー記事でした。

コラムのほうは、これを面白いと思うかどうかは個人差があるでしょうね。
例えば、決算発表の延期が続いているエヌエヌ生命について「金融庁が『あいつらナメてますね』とあきれ顔」なんて記事があるかと思えば、SOMPOホールディングスの副社長と三菱UFJ銀行の新頭取が同窓生で仲がいいとか、「このハゲぇー」の前衆院議員が少額短期保険制度の基礎を作ったとか、何というか、どうでもいいと言われればその通りなのですが、おそらく長年この業界をウォッチしていないと書けないものも多そうです。

遠藤局長のインタビュー記事は、商品ランキング、インシュアテック、保険代理店と読み進めてきた読者には、あれっ?、という印象ではないでしょうか。
大手生保をはじめとした国内系生保は、本誌が取り上げた商品比較からも、保険ショップが台頭する世界からもやや距離を置いたところにいるようですが、このインタビューでは見事にこちらに切り込んでいます。

「常識的に考えて相互会社形態のまま、無制限に企業買収を進めていくというのは、保険契約者に対して今後説明がつくんですかということになります」
「(契約者還元の透明性を高めるべきという質問に対し)本当にそうだと思いますよ。相互会社ってそういう存在ですからね」

結構重みのあるコメントかもしれませんね。

※生演奏を聴きながら美味しい料理をいただきました。一ツ木町倶楽部です。

 

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いつまで「社長が社長を選ぶ」なのか

インシュアランス生保版(2018年4月号第4週)にコラムが載りましたので、こちらでもご紹介します。
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2月22日付の本紙(生保版)に、日本生命の社長交代に関する記者会見の記事があり、そこに次の記述があった。

「昨今のコーポレートガバナンスの高まりを受けて社外取締役委員会を設け指名機能を持たせている。昨年9月から重視するトップの要件、それに照らした複数の候補者をあげて審議し、清水君を取締役会に推挙することにした」(筒井社長のコメント)。

今年度も保険会社をはじめ、多くの会社で新社長が誕生する。しかし、報道される社長交代ニュースの多くは、現社長が次期社長を選んだというトーンのものが大半を占める。引用した日本生命の事例でも、私が確認したかぎり、前述のような社長選任プロセスを報じたのは業界紙だけである。
日本企業の社長は社内からの登用が多く、現社長が候補者の情報を多く持っているのは確かであろう。しかし、社長やそのOBが社内で力を持ち続ける日本の会社の統治構造が問題視され、社長選任の透明性を求めるコーポレートガバナンス改革が進んでいるなかで、社長が社長を選ぶのを当然視したかのような報道をおかしいと感じないのだろうか。

実際のところ、社長選任プロセスの透明性向上は道半ばである。
ガバナンス改革の一環として2015年に策定されたコーポレートガバナンス・コードには、「取締役会は、経営陣幹部の選任や解任について、会社の業績等の評価を踏まえ、公正かつ透明性の高い手続に従い、適切に実行すべきである」という原則がある(補充原則4-3①)。上場企業による実施率は、すでに昨年7月時点で98%となっている。

ところが、経済産業省が16年に上場会社(東証第一部・第二部)を対象に行ったアンケート調査によると、次期社長・CEOの選定プロセスに関し、「複数の候補者を選定し、そこから絞り込む」という回答は12%のみ。他方で「特に決まっていない」「わからない」という回答が合わせて43%もあった。また、指名委員会(任意のものを含む)を設置していると回答した会社は36%に達したものの、その委員会で社長・CEOの指名を諮問対象にしていないという回答が3割弱もあった。
形式面だけを整えても意味はないが、最近ガバナンス・コードの改訂案が示され、新たに「取締役会は、CEOの選解任は、会社における最も重要な戦略的意思決定であることを踏まえ、客観性・適時性・透明性ある手続に従い、十分な時間と資源をかけて、資質を備えたCEOを選任すべきである」(補充原則4-3②)が加わったのも理解できる。

無能な社長を選んでしまえば、持続的な成長や中長期的な企業価値の向上は期待できない。元アナリストのデービッド・アトキンソン氏も近著「新・生産性立国論」のなかで、日本に求められているのは、働き方改革よりも経営者改革だと主張する。マスメディアは旧態然とした報道姿勢から脱却し、これ以上、無能な経営者を喜ばせないでほしい。
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※今年はツツジの花も咲くのが早いですね。オフィスの近所のツツジはもう見ごろが過ぎてしまいました。

 

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少短保険会社の不適切会計

公文書改ざんの次は、事務方トップのセクハラですか。一般企業に比べると、組織としての中央官庁の体質は10~20年くらい遅れているというのが私の実感でしたが、一連の対応を見ていると、まさにそうだと改めて思いました。

個人負担で保険金支払い

さて、連日大きなニュースが相次ぐなかで、「保険金支払いに個人資産充当」という冗談のようなニュースがあったのをご覧になったでしょうか。保険料ではなく保険金です。

糖尿病でも入れる保険を提供することで知られるエクセルエイド少額短期保険が、2013年秋から2014年1月にかけ、幹部の個人資産を保険金支払いに充てる不適切な会計処理を行っていたと発表しました。会社の資産減少で保険金の支払いが遅れていたため、当時の社長で大株主でもある創業者が保険金部長(当時)に個人負担を求めたとのことです。
同社のサイトへ

加入者数の伸び悩み

そんなに苦しかったのかと同社の経営情報を確認しようとしたところ、例によってディスクロージャー誌はサイトにアップされておらず、財務内容の手掛かりは決算公告だけでした。

エクセルエイドは2007年7月に営業を開始しています。2008年度の事業計画では、第5期(2011/3期)の黒字転換、第6期(2012/3期)の累損解消を見込んでいたようです。
しかし、加入者数が見込みどおりに伸びなかったと見られ、損益計算書が公表されるようになった2011/3期は黒字決算でしたが、その後は113条繰延資産(=新契約費の資産計上)の影響を除くと実質赤字が続きます。

問題の不適切会計が行われた2014/3期(過年度修正後)の決算データを見ると、確かに苦しい状況がうかがえます。
その前年度から113条が使えなくなったこともあり、2期連続の赤字決算となりました。累積損失は5億円に達し、純資産から113条繰延資産を除くとわずか0.1億円です。同社はそれまでも累計5億円以上の増資を行ってきており、さらなる増資が難しくなっていたのかもしれません。

その後はコスト削減を進めたことなどにより、2016/3期からは実質黒字となっています。しかし、保険料収入が2.3億円、加入者数が6000件程度にとどまっていることが、引き続き最大の経営課題なのでしょう。

なぜ簿外処理が可能だったのか

それにしても不思議なのは、どうしてそのような会計処理ができてしまい、かつ、なかなかバレなかったのかという点です。
保険金・給付金の支払いを社員が負担し、決算数値がよくなるということは、加入者からの請求をなかったことにするとか、会社以外のシステムから会社名で保険金支払いを行うとかの異例な処理が行われたと考えられます。

少額短期保険会社とはいえ内部監査の担当者はいたでしょうし、保険計理人もいます(外部委託かもしれませんが)。資本金3億円以上であれば外部監査も必要です。
2014/3期の保険金・給付金0.9億円に対し、保険金部長が個人負担したという112件/0.1億円は同社にとって決して小さい数字には思えないのですが。

※写真は明治神宮です。ここも外国人観光客が多いところなのですね。

 

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