14. 書評

人はなぜ逃げおくれるのか

 

「人はなぜ逃げおくれるのか-災害の心理学」
(広瀬忠弘、2004年、集英社新書)

東日本大震災が発生した際の反省もあり、
タイトルに惹かれて読みました。
著者の広瀬さんの専門は「災害心理学」です。

次の①と②のうち、どちらが正しいでしょうか。

①地震や火事に巻き込まれると、多くの人々はパニックになる。
②地震や火事に巻き込まれても、多くの人々はパニックにならない。

正解は②です。

私たちは何となく、「危険に直面したらすぐに逃げるだろう」
「みんなが逃げるのでパニックになるかもしれない」
といったイメージを持っていますよね。

ところが、実際には「これくらいなら大丈夫だろう」という
正常性バイアスが働き、危険をなかなか実感できず、
逃げ遅れてしまうことが多々あるそうです。
現代人は危険に対して鈍感なのですね。

また、映画やドラマの影響かもしれませんが、
災害や事故が起きると、人々が恐怖にかられ、
理性や判断力をかなぐり捨てて逃げまどう、
そんなイメージもあります。

しかし、災害時にパニックが起こることはまれであり、
そのような異常行動はめったに起きない、というのが
災害心理の専門家の「常識」なのだそうです。

著者は災害とパニックを短絡的に結びつける
古い災害感を「パニック神話」として警鐘を鳴らしています。

パニックを恐れて情報を過少に伝えてしまった結果、
大きな犠牲につながったケースはいくつもあるそうですし、
災害や事故の原因をむやみにパニックのせいにすると、
事態を曖昧にし、問題を糊塗する恐れがあるとのこと。

これはERMにもつながる話かもしれませんね。

※写真は井の頭公園です。

 

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「DENIAL(否認)」

 

GWの読書から。
邦題は「なぜリーダーは『失敗』を認められないか」。

ハーバード・ビジネススクールのリチャード・テドロー教授が、
「否認」が原因で経営危機に陥った有名企業の事例を
紹介しています。

否認とは、ある不愉快な現実に対し、本当ならひどすぎる、
だから本当のはずはない、と考える無意識の心の動き。
しかし、否認しても不都合な現実は消えません。
制御不能なまでに増殖し、企業を根底から覆すことになります。

「目の前の現実を認めない」という態度。
この「否認」は人間の本能の一部であり、
あらゆる個人、あらゆる組織に起こりうる現象です。

本書でテドロー教授は、否認を避けるための
8つの教訓を示しています。
当たり前のことばかりに見えるかもしれませんが、
実際の事例からの分析なので説得力があります。

1.危機を待ってはいけない

2.無視したり、否定したり、理屈をこねたり、ねじ曲げたりしても
  現実は変わらない

3.権力は人を狂わせる

4.最高意思決定者が聞く耳を持つこと

5.長期的な視野に立つ

6.相手をバカにしたり、呼び名をかえたりする傾向には要注意

7.真実を語る

8.たいていの人間は、たとえ間違っていようと
  過去の常識にしがみつこうとする

各章の事例は米国企業とはいえ、フォードやコカコーラ、
IBMなど、有名企業ばかりなので興味深く読めました。

※写真は前回ご紹介した松崎の岩科学校です。

 

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秋の読書

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読書の秋ということで、最近読んだ本の感想を少々。

「リーマン・ショック・コンフィデンシャル」(早川書房)

ニューヨーク・タイムズの金融担当記者である著者が
金融危機の当事者200人強へのインタビューを重ね、
2008年のウォール街やワシントンで何があったのかを
丹念にまとめたものです。

インタビューを通じて経営危機を浮き彫りにするという点で
拙著「経営なき破綻 平成生保危機の真実」に通じるところもあり、
その生々しい記述を興味深く読みました
(カタカナの名前を追いかけるのに多少難儀しました^^)。

やや本質とは離れた感想ですが、米国の金融機関トップや
金融監督の当局者は金融のプロフェッショナルなのだなあと。

もちろん彼らを支える組織はありますが、何というか、
少なくとも「営業しかわかりません」といった感じの人や
寝技だけで偉くなったような人は登場しません。
この点は「経営なき破綻」とはかなり違うように感じました。
それでも(それだからこそ?)危機を招いてしまったのですが。

他方、ポールソン財務長官(当時)の奮闘むなしく、
米下院はTARP法案を否決し、世界に衝撃が走りました。
議会や国民に事態の深刻さを理解してもらう難しさは、
日本の現状(財政問題など)を見ても、共通しているようです。

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「ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験」(光文社新書)

職場のS課長の紹介がきっかけで読みました。
JAXAによる宇宙飛行士選抜試験に挑む10人の候補者を
NHKが密着取材したドキュメンタリーです。

宇宙飛行士ですから、私たちがイメージする試験とは違います。
例えば候補者を外部から閉ざされた環境で一週間も共同生活させ、
わざと危機的状況に陥れて対応状況を見る、ということをします。

いわば人間力を見る試験ということで、精神的なタフさが必要なのですね。

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「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの
 『マネジメント』を読んだら」(ダイヤモンド社)

「野球部の女子マネ」というところにやや抵抗があったのですが、
息子が読んでみたいというので、ついでに私も読みました。
読み始めると止まらなくなり、1日で読破です。
ベストセラーになる本とはこういうものなのかもしれません。

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※横浜にもビーチがあります。八景島の近くです。
 なお、本の写真はあえてどこにもリンクしてありません。念のため。

 

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ヤフー・トピックの作り方

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「ヤフー・トピックスの作り方」(奥村倫弘、光文社新書)を読みました。

ヤフー・ジャパンのトップページに行くと
真ん中に8本のニュース見出しが載っていますよね。
あのコーナーの話です。
ヤフー・ジャパンのHPへ

ひと月の閲覧数が45億ページ、訪問者数が6970万人
(2009年10月時点)という巨大サイトですから、
あらためて説明するまでもないかもしれませんね。
今や日本最大級のニュースサイトだそうです。

このヤフー・トピックスに編集部があり、
人による編集を基本としているとは知りませんでした
(グーグルニュースは機械による編集です)。

本書を読むと、インターネットの時代になって
「ニュース」の概念が大きく変わってしまったことを
思い知らされます。

「取材なしで書かれた記事をニュースと呼んでいいのか」
「ジャンクフード・コンテンツのほうが読まれる傾向がある」
「ニュースの真偽を見分けるにはとてつもない労力が必要」
などなど。

新聞と違い、ネットのニュースサイトでは
どの記事が読まれたかを簡単に把握できます。
しかも、サイトを支えているのは一般に広告収入です。

「報道的な価値と読者の『知りたい情報』、そしてビジネス的な
 価値との間で絶妙のバランスを取っていくのは非常に困難」

という記述がありましたが、まさにその通りでしょう。

報道的な価値(=閲覧数では測れない社会的価値)
のあるニュースを発信し続けるにはどうしたらいいか。

トピックス編集部には何とか今の方針を続けてほしいですが、
現場の頑張りだけでは限界があるようにも感じます。
本当にどうしたらいいのでしょうね。

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※写真は城端(富山県南砺市)です。
 「思わぬ掘り出し物」のようないい町でした。

 

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経営者の交代と報酬

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「コーポレート・ガバナンス 経営者の交代と報酬はどうあるべきか」
(日本経済新聞出版社)を読みました。

本書は制度的変化の解説や先進事例の紹介ではなく、
ある程度大規模なデータセットを用いて
日本企業のガバナンスの実態を分析した労作です。

筆者は、
「コーポレート・ガバナンスの基本は、経営者の交代と金銭的なインセンティブ」
ということを繰り返し指摘しています。

優秀な経営者には高い待遇を提供し、悪い経営者には退出を促す
ということです。

しかし、本書によると、日本の経営者は株価を最大化するような
インセンティブをほとんど持っていないことが明らかにされています。
しかも、業績が悪化しても交代しない社長のほうが多いようです。
イメージ通りではありますが、データ分析なので説得力があります。

「悪い人が悪いことをするのを防ぐことは容易ではないが、
 いい人が、善意で悪いことをするのを防ぐことも容易ではない」

という記述もありました。
私には後者のほうがより難しいように思えますが、どうでしょうか。

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※久しぶりに江の島へ。今回は娘とのデートでした♪

 

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医療保険は入ってはいけない

FPの内藤眞弓さんがベストセラー「医療保険は入ってはいけない!」
の新版を発行しました。

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タイトルは2006年版と同じでも、中身は大幅に手が加えられています。
2006年版では公的医療保険の説明に多くのページを割いたのに対し、
今回の新版では、民間医療保険の限界を強調するとともに、
怪しいセールストークの解説が充実しています。

「レバレッジが効かない(=一度に多額の金額を受け取れない)
 保険からは早く卒業して、最強の自家製医療保険(=貯蓄)を作る」

という主張にも納得。
一時金を受け取るタイプの医療保険がもっと充実すればいいのですが、
モラルリスクとの戦いという面もあり、保険会社は苦闘しているようです。
今後の取り組みに期待しましょう。

内藤さんは、先進医療が「夢の治療法」ではないことも強調しています。
誤解している人が多いのではないでしょうか。
詳しくは本書をご覧下さい。

わかりやすい点は2006年版と同じですね。
私も見習いたいと思います。

 

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生命保険のカラクリ

前回に続き、保険関連書籍のコメント。
「生命保険のカラクリ」は昨年10月に出た話題の本です。
ようやく読むことができました。

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著者はライフネット生命保険の岩瀬大輔副社長です。
そう思って読んでも、自社の宣伝色はほとんどなく、
第三者の視点で生保業界や商品について書いてあります。

「一般人による一般人のための『生命保険入門』」とのことですが、
出口治明さんの「生命保険入門」(新版はまだ読めていません m(_ _)m )
とはまたテイストの違う本で、楽しく読めました。

世界の生保市場の収益力比較(日本が突出して高い)や
生命表の分析(「高い死亡率の設定で守られすぎ」)など、
きちんとデータの裏付けがあり、納得できる記述になっています。
岩瀬さんはコンサルティング会社出身ですものね。

価格に関する記述も多く見られます。

「(生命保険は)適正な価格がわかりにくい」
「売り手と買い手との大きな情報格差を活用して販売しようとする、
 業界の体質が変わっていない」
「商品の比較情報に対していまだに強い心理的抵抗がある」

などの指摘は、まさに私も同感です。

一般の人にはもしかしたら難しいところもあるかもしれませんが、
日本の生保業界を知るには大変参考になりそうです。

 

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坂本嘉輝さんの著書

アクチュアリーの坂本嘉輝さん(アカラックス代表)が
「生命保険『入って得する人、損する人』」という本を出版しました。
一般の人に向けた新書ということもあり、大変わかりやすく、
一気に読むことができました。

保険数理に通じている坂本さんならではの解説も多く
(しかも、そのあたりを感じさせないところがすごいです)、
生命保険に関心のある一般のかたの参考になる本です。

いろいろ気になるフレーズが出てきます。例えば、

「生命保険に入らなければならない」というのは迷信
「生命保険は助け合い」ではありません

などという業界人とは思えない(?)ものもありますし
(私はその通りだと思いますが…)、

「医療保険というのは(中略)気軽に入りますが、保険金をもらうときの
 手続きが面倒くさいということには、あまり気がつきません」

といった、現場を知る坂本さんならではの記述もあります。

ライフネット生命の出口治明社長と保険代理店KENさんとの
「保険料が安い」がテーマの論争(?)も面白いです。
私は私で意見を持っているのですが、ここで参戦すると
大変なことになりそうなので(笑)、別の機会にとさせていただきます。

cf. 「保険会社は儲けすぎてはいない」の理由として
  売上総利益率や営業利益率を事業会社と比べるのは、
  「売上高 イコール 収入保険料」のところが
  ちょっと無理があるかもしれませんね。

 

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「ブラック・スワン」

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今月の連休前から始めて、ようやく読み終わりました。
上下巻にまたがる大作ですし、日本人にはあまりなじみのない
作家や学者がたくさん出てきたりしますが、面白いだけでなく、
非常に考えさせられる本でした。

私はこのところ保険会社のリスク管理、
とりわけ金融危機への対応とその教訓について、
集中的に調査をしています
(アクチュアリー会年次大会の準備のためです)。

今回の金融危機は、筆者の言う「果ての国」で
黒い白鳥が飛び回った結果なのでしょう。
私たちは「ベル型カーブ」の限界を思い知らされました。

金融危機を受けて、ストレステストの強化や
分散効果の見直しなどが求められ、
おそらく同じような危機への対応力は
飛躍的に高まるものと期待できます。

しかし、黒い白鳥は同じ姿で現れるとは限りません
(というか、同じ姿であれば、それは黒い白鳥ではありません)。
「果ての国」にいる以上、黒い白鳥は避けられないとしたら、
私たちはどうしたらいいのでしょうか。
少なくとも自己資本規制を厳しくすればすむような話ではなさそうです。

「ブラック・スワン」のいいところは、計算式で説明するのではなく、
エピソードや例え話をふんだんに使っているところです。
感謝祭前後の七面鳥のグラフ※などは、ドキッとさせられました。

※「七面鳥がいて、毎日エサをもらっている。エサをもらうたび、
  七面鳥は、人類のなかでも親切な人たちがエサをくれるのだ、
  それが一般的に成り立つ日々の法則だと信じ込んでいく。(中略)
  感謝祭の前の水曜日の午後、思いもしなかったことが七面鳥に
  降りかかる。七面鳥の信念は覆されるだろう。(中略)
  七面鳥は昨日の出来事から、明日何が待っているか推し量れるだろうか?」
  (上巻P88より引用)

 

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連休中の読書

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体調がいまいちだったこともあり、連休は自宅でだらだらとすごしました。
連休中に読んだ2冊の本について簡単にコメントします。

1.「プロジェクトファシリテーション」関尚弘・白川克 日本経済新聞出版社

最初にお断りですが、著者の一人である関さんは昔からの友人なので、
中立的な立場からのコメントではないかもしれません。
その点を割り引いても、まさに迫真のノンフィクションです。

副題に「クライアントとコンサルタントの幸福な物語」とある通り、
本書は実際に古河電工で行った業務改革プロジェクトについて
立場の違う二人が交互に語っています。

タイトルをはじめ、カタカナがたくさん出てくるので、
最初はやや抵抗がありました。
でも、関係者が実名で登場するので非常に臨場感がありますし、
コンサルタントの書いたノウハウ本を読むよりも、ずっと参考になりそうです。

保険業界とは直接関係ないかもしれませんが、
普通のミドルが外部の力を借りてプロジェクトを成し遂げた記録は
私たちに勇気を与えてくれるのではないでしょうか。

2.「尊敬される保険代理店」千田琢哉 マネジメント社

「セールスよりもマーケティング」
「凡人でも売れてしまう仕組みを構築すること」

筆者の主張はよく理解できますし、私もそう思います。
保険代理店の依存心の強さや、「俺がやれば売れる」は
組織作りにはタブーという考えにも同感です。

ただ、代理店経営のあり方に触れた第一章、第二章と、
全体の7割近くを占める第三章「保険業界に愛をこめて、六〇のメッセージ」が
私にはどうもうまく結びつきませんでした。
具体的なノウハウと言うよりも、精神的な話が多いようです
(ターゲットとした読者には好感されるのかもしれませんが)。

また、凡人でも売れてしまう仕組みをどう構築するのかという点は、
見たところ本書ではあまり触れられていないようです。
ここが読者には一番知りたいところだと思うのですが。

 

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