14. 書評

「会計学の誕生」

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岩波新書「会計学の誕生――複式簿記が変えた世界」という本が目に留まり、さっそく読んでみました(歴史学科出身ですので^^v)。著者は会計史の研究者である渡邉泉さんです。

簿記や会計の発達は、当然ながら商業の発達と密接な関係があります。
本書によると、複式簿記のルーツは中世に東方貿易や金融業などで栄えた北イタリアの諸都市(ヴェネツィア、フィレンツェなど)までさかのぼれるそうです。それ以前の「(古代)ローマ起源説」「インド起源説」もあるようですが、単なる現金の出納記録ではなく、損益計算の記録としては、13世紀初頭の北イタリアで発生したというのが著者の見解です。

当時はまだ株式会社は存在していません。しかし、血縁ではなく、他人どうしが共同で事業を行うとなると、どこかの時点で利益の分配が必要になり、損益計算が求められます。そこで、最初に実地棚卸に基づくストック計算が行われるようになり、続いて、複式簿記に基づく収益・費用といったフローの側面からの損益計算が確立していったという流れです。

19世紀初め、産業革命期のイギリスの話も興味深かったです。当時のイギリスでは、資金調達のために貸借対照表や損益計算書を作成して企業の安全性や投資の有利性を強調したり、会計上の利益と投資可能な手元現金とのギャップを埋める工夫がなされたり、新しい費用配分法として減価償却が考え出されたりと、会計進化の過程でまさに大きなエポック・メイキングとなった時代でした。優先株の発行も当時すでにあったのですね。

もっとも、僭越ながら本書を読んで違和感を感じた点もありました。
著者の渡邉さんは、次のような趣旨のことを本書で繰り返し述べています。

「ストック面からの損益計算(=資産負債アプローチ)が正しいかどうかを検証するため、フロー面からの損益計算(=収益費用アプローチ)を行うということは、フロー計算がストック計算よりも信頼に足るということを示している」

フローの損益計算がストックの損益計算の証明手段なのだから、フローの損益計算が最も信頼できる会計だという理屈が、私にはどうも理解できません。数学の世界ではこのように考えるのが一般的なのでしょうか?
「会計とは歴史的に見て、実地棚卸に基づくストック面の損益を、複式簿記に基づく収益・費用の損益計算で検証することである」と定義してしまうのであれば、(その是非はともかく)わかるのですが。

もう一つの違和感は、「近年、会計不祥事が多発しているのは、会計の役割として投資意思決定への有用性が強調され、提供する情報の信頼性が置き去りになったため」という著者の主張です。
そして本書では、有用性を重視した公正価値による資産や負債を測定する会計について、「予測による不確実な未来計算」として批判し、事実に基づく取引価格(取得原価)で客観的な情報を提供するのが会計の役割としています。

しかし、いくら取引価格が正しく記録されていても、例えば固定資産は時の経過や使用により価値が下がっていくので、そのままでは信頼性を確保できないということから、19世紀のイギリスで減価償却という手法が考え出されているわけです。
本書には、「時価評価によって一時的に資産の価値を減ずる方法とは、明確に分けて考えなければなりません」とありますが、公正価値会計も発想の根本は同じだと思うのです。何らかの人為的に決めたルールで償却を行う代わりに、決算時点ごとに正しいと見込まれる「現在価値」で評価するということなのですから。

「未来計算は不確実」として公正価値を切り捨てるのであれば、減価償却だって本当に正しい姿を表しているとは思えませんので、著者がここまで公正価値会計に否定的な理由がよくわかりませんでした。あとは、どちらが会計として企業活動の実態に迫っていると考えられるかということではないでしょうか。

とはいえ、本書を読んで、商業の中心が北イタリアからフランドル地方(ベルギー)、オランダ、イギリスへと変わるとともに、簿記や会計も進化してきたことなどを知り、簿記や会計の歴史をたどることは、すなわち、商業都市の盛衰をたどることだと気づかせてくれる、興味深い本でした。

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※前回に続き、地元の写真です(大倉山公園)。

 

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「年金詐欺」

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読者のみなさんはAIJ事件を覚えていらっしゃるでしょうか。
とあるきっかけで最近読んだ、R&Iの永森秀和さんの著書「年金詐欺」は、2012年に資産2000億円の消失が発覚したAIJ事件を扱ったものですが、今の年金制度(特に3階部分)を理解するうえで必読の書かもしれません。

当時永森さんが編集長を勤めていたR&Iの情報誌「年金情報」では、事件発覚の数年前にAIJ事件を予見した記事を書いていて、本書にはその裏話も出ています。

それ以上に考えさせられたのが、副題にもなっている「真犯人」に関する記述です。
AIJ事件をきっかけに年金制度の見直しが進み、事件の舞台となった厚生年金基金の制度は廃止に向かいます。このような流れについて、著者は「明らかに想定外と感じたことが3つある」と言います。

「一つは不祥事における被害額や関係者の多さだ。二つ目は、被害基金のいくつかが『運用の素人』という言葉を盾に、弁明に徹し、受託者責任の意識を持ち合わせていなかったこと。そして三つ目は、年金制度の育成を通じて国民の『老後の安心』を提供するという大義を背負う厚労省が、中小零細企業向けの年金制度を呆気なく廃止しようとし、しかも代わりとなる制度を本気で整備する考えが見られなかったことだ。」
(本書より引用)

著者の言う「真犯人」が誰なのかは、本書をご覧いただければと思います。

事件から5年が経ちましたが、企業年金のガバナンスは、果たして改善されたのでしょうか。日本版スチュワードシップ・コードの受け入れ状況をみても、金融庁の監督下にある運用会社とは格段の違いがあるようです。

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※写真は日比谷公園です。

 

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ナチスの手口と緊急事態条項

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「ナチスの手口と緊急事態条項」という本を出張中に読みました。
この本では、憲法学者の長谷部恭男さん、ドイツ近現代史が専門の石田勇治さんが対談を通じて、ヒトラーがどのようにしてワイマール憲法を無効化し、独裁体制を
築いていったのかを解き明かしています。

本書によると、立憲主義的な民主体制を壊さないように備えた仕掛けだったはずの大統領緊急措置権(=緊急事態条項)が、体制そのものを壊す道具として利用されたというのが歴史的事実のようです。

1930年頃のドイツでは、世界恐慌の影響で社会不安が高まるなか、政党間の対立が激しくなり、国会での合意を形成するのが難しくなっていきます。
そこで政府は規定にあった大統領緊急令に頼るようになります。国会は形骸化し、既存政党に対する国民の信認が低下する一方、ナチス(と共産党)が台頭することになりました。

「ヒトラーは民主主義で大衆に選ばれた」
「ヒトラーは合法的に独裁体制を樹立した」

というのも、しばしば耳にする言説ですが、これらもナチのプロパガンダ(情報宣伝)を引きずったもののようです。

本書はワイマール共和国の経験だけでなく、各国(ドイツ、フランス、米国)に現存している緊急事態条項の内容や設置の経緯なども紹介しています。
選挙の結果次第ではありますが、少なくとも公示前の時点では、なんと8割超が改憲に前向きな勢力となっていますので、本書で事実を確認しておくのは有意義かと思います。

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※化野念仏寺の近くに素敵な町並みがありました。

 

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最近の読書から

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今回の週刊金融財政事情(2017.7.17号)に
書評「一人一冊」が掲載されたこともありまして、
久しぶりに最近読んだ本をいくつか紹介します。

1.「新版 もう一度読む山川地理」

この本を「一人一冊」で紹介しました。

「地理の基礎的な常識がないと、複雑な世界を
 理解することはできないし、間違った情報を
 信じやすくなり、独りよがりにもなりやすい」

そのようなことを書きました。

もちろん、本書だけで地理の基礎的な常識を
学べると言うには無理がありますし、とりわけ
後半の「世界をみわたす」での諸分野の紹介は
広く浅くになっています。

それでも地理と歴史の知識があると、旅行に
行っても、ニュースを見ても、見えてくるものが
違ってくるのではないでしょうか。

もし機会がありましたら、きんざいの私の記事も
ぜひご覧ください。
ちなみに本号の特集は「本格化するESG投資」で、
フィッチ森永さんの損保決算の記事もあります。
きんざいのサイトへ

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2.「誰も語らなかったアジアの見えないリスク」

編著者の越純一郎さんは日本興業銀行出身。
2000年に独立し、企業再生の実務専門家として
活躍しているほか、タイの政府系銀行のシニア・
アドバイザーを務めた経験もある多才なかたです。

本書は日刊工業新聞の連載(2012年3-5月)を
まとめたものなので、金融政策のくだりなど、
やや古くなってしまった記述も見られますが、
「痛い目に遭う前に読む本」という副題の通り、
実務書としてかなり参考になると思います。

豊富な事例(大半が失敗事例)が紹介されて
いるのもさることながら、なぜそのようなことが
起きたのか、どうやってリスクを小さくするか、
といったことも書かれているのがいいですね。

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3.「実践ガバナンス経営」

パルコの内部監査を構築した海永修司さんが
「攻めの経営監査」である「価値創造監査」の
導入とその実践について解説したものです。

まず、セゾングループが解体に向かうなかで
グループの一員だったパルコのコーポレート・
ガバナンスがどのように構築されたのかという
いわばケーススタディが描かれています。

本書の肝の部分は、取り組みが難しいとされる
「経営者に対するガバナンス監査」についての
記述だと思います。「攻めのリスクマネジメント」
に関しても記述があります。

構築した制度にいかに魂を入れるかに腐心する
会社には、考えるヒントになりそうです。

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4.「変わり続ける保険事業」

先日RINGの会オープンセミナーで共演した
栗山泰史さんの最新刊です。
副題は「保険業界の明日を考える」。

本書には、大手損保や損保協会の幹部として
栗山さんが経験された業界に関する様々な
事象がぎっしり詰まっていて、自由化後の
損保市場や業界の動きがよくわかります。

たまに、「損保業界について勉強するのに
何かいい本はありませんか?」と聞かれると、
さすがに15年以上も前に書いた自分の本を
勧めることもできず、返答に窮していましたが、
これからは、損保協会のファクトブックを手元に
置きながら本書を読むよう勧めようと思います。

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※都市対抗野球の応援に行ってきました。
 すごい熱気ですね。

 

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「大本営発表」

 

「大本営発表」というと、信用できない公式発表の
代名詞として使われています。
戦時中の大本営(軍の最高統帥機関)による
デタラメな公式発表がその由来ですが、最近、
この大本営発表を丹念に調べた本を読みました。

数字で振り返る大本営発表のデタラメぶり
として、大本営発表と実際の主力艦喪失数
の比較表が載っています(p.248-249)。

日本海軍の喪失数
 大本営発表:空母 4、戦艦 3
 実際の喪失:空母19、戦艦 8

連合国海軍の喪失数
 大本営発表:空母84、戦艦43
 実際の喪失:空母11、戦艦 4

発表が最初からデタラメだったのではなく、
戦局が厳しくなるにつれ、敗退をごまかし、
戦果を誤認・誇張するようになったようです。

特に架空の戦果の積み上がりようは
様々な要素が重なって生じたとはいえ、
何というか凄まじいものがあります。

ただ、さすがに本土空襲が日常的になると、
もはや「勝った、勝った」とすら言われなくなり、
「大本営発表は戦争末期まで『勝った、勝った』
と繰り返した」というイメージは誤解でした。

著者は、大本営発表がここまで破綻した原因
として、2つの内的要因と2つの外的要因を
挙げています。

<内的要因=日本軍の組織的な欠陥>
 ①組織間の不和対立
 ②情報の軽視

<外的要因>
 ③戦局の悪化
 ④軍部と報道機関の一体化

このうち著者が最大の原因としているのが
「軍部と報道機関の一体化」です。

報道機関は大本営報道部の下請けとなり、
チェック機能を手放してしまったわけですが、
ドラマなどで描かれるように、軍部が短期間に
一方的に報道機関を弾圧したというのではなく、
20年以上かけてアメとムチを巧みに使い分け、
徐々に懐柔していったとのこと。

政治と報道の一体化がどのような悲劇を
招いたのかを知るうえでも、参考になる本です。

※イチョウの黄葉も見納めですね。

 

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「決め方」の経済学

 

トランプ大統領誕生やアクチュアリー会等での
各種発表など、盛り沢山な1週間でした。

そんななか、たまたま読んでいたのがこの本
(「決め方の経済学」)です。

著者の坂井氏は選挙方式など「決め方」を
研究する経済学者で、「多数決を疑う」という
著書もあります。

本書も、「決め方で結果が変わる」という話を
わかりやすく説明していて、おすすめです。

「二択投票で多数決を正しく使いこなす」
を読むと、「陪審定理」というものがあり、
投票者の数が増えるほど、多数決の結果が
正しくなりやすいのだそうです。

ただし、それが成り立つには、

 ①多数決で決める対象に、皆に共通の目標が
  ある。
 ②有権者の判断が正しい確率が0.5より高い。
 ③有権者は各自で判断し、ボスに従ったり、
  空気に流されたり、勝ち馬に乗ろうとしない。

これらすべての条件が満たされている必要が
あります。

坂井さんによると、多数決を正しく使うのは
必ずしも容易ではなく、正しさが求められない
「どうでもいいこと」を決めるのに向いている
とのことです。

米大統領選の場合、有権者が次の大統領を
選ぶということなので①は満たされていますが、
②と③はどうだったのでしょうか。

もっとも、②③の条件を満たすべく、社会が
取り組めることはありそうです。

多数決により誰か一人を選ぶ必要がある以上、
例えば、有権者が正しく判断できるような環境を
整えるとか、教育・啓蒙活動を行うなどにより、
有権者がコイントスよりもマシな判断をするよう、
取り組んでいくというのが重要なのでしょう。

アクチュアリー会の年次大会(11/11)では、
「マイナス金利と保険会社経営」パネルのMCと、
ERM委員会「模擬経営会議」のナビゲーターを
務めました。

「模擬経営会議」は私にとってもチャレンジでした。
一種のケーススタディーなのですが、俳優さんたちに
場面を演じてもらい、それをもとに会場とやり取りし、
課題を考えていくというもの。

場面やケースを考え、筋書きを決め、リハを行い、
会場への質問項目を考えて…と準備が大変でしたが、
俳優さんたちの頑張りで、何とか形になりました。

ご覧いただいた方、いかがでしたでしょうか。

 

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最近の読書から

 

7/2(土)に横浜でRINGの会オープンセミナーがあり、
保険代理店をはじめ保険流通の関係者が1400人も
集まりました。

第一部は保険業界の産業革命ということで
「InsurTech」を紹介するパネルディスカッション。
第二部は顧客関係構築をテーマにした講演。
第三部は「変化に対応したマーケットの創造」を
実践する現場からの報告でした。

テーマである「保険代理店進化論」に相応しい
内容を考えるのは結構大変だったと思いますが、
いかがでしたでしょうか。

さて、今回は最近読んだ本をいくつかご紹介します。
いずれも新書または文庫なので読みやすいです。

「捨てられる銀行」(講談社現代新書)

著者の橋本卓典さんは新聞記者(共同通信)です。
金融庁・森長官の打ち出した地域金融に関する
行政改革とその進捗状況をレポートしています。

金融庁は森長官の就任以前から、地域金融機関の
ビジネスモデルについて問題意識を持っていたので、
現体制を過度に持ち上げすぎという感はありますが、
地域金融機関の経営体質や好取り組み事例などは
参考になりました。

「左遷論」(中公新書)

日本の会社組織について、「左遷」という事象から
日本独自の雇用慣行を分析した良書です。

著者の楠木新さんは某大手生保に長く勤めたかたで、
自らの経験も分析を深める材料になっているのでしょう。

本書で示された日本企業の体質が、グローバル化や
コーポレート・ガバナンス改革、女性の登用などにより、
今後は変わっていくのでしょうか。

「大本営参謀の情報戦記」(文春文庫)

太平洋戦争中に大本営情報参謀として活躍し、
戦後は自衛隊で情報収集・分析に努めていた
堀栄三さんの回想録です。

副題に「情報なき国家の悲劇」と付いているように、
太平洋各地での玉砕と敗戦の悲劇は、旧日本軍が
事前の情報収集・解析を軽視したことに起因することが
当時の情報参謀の証言として示されています。

また、情報分析の仕事についての記述には共感する
ところも多く、20年前に書かれた本とはとても思えない
「新しさ」がありました。

 

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最近の読書から

 

※サーバーの不具合により、いろいろと試行錯誤しています。
 申しわけありませんがお含み置きください。

日銀が「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」に突入。
イールドカーブが一段とフラット化してしまいました。
ALMミスマッチを抱える生保経営には厳しい事態ですが、
出口はさらに遠のいた感があります。

さてさて、今回は久しぶりに読んだ本のご紹介。
この数か月に読んだなかから印象に残ったものを
ごくごく簡単にコメントします。

1.「新・観光立国論」(東洋経済新報社)

銀行アナリストとして有名だったデービッド・アトキンソン氏
(今は「小西美術工藝社代表取締役社長」です)による
「短期移民」による成長戦略の提唱です。

氏によると、日本は観光立国の4条件である「気候」「自然」
「文化」「食事」が全てそろう稀有な国なのだそうです。

ただ、昨年も日本を訪れる外国人観光客が増えていますが、
それで喜んでいる場合ではないことがよくわかります。

2.「NHKはなぜ、反知性主義に乗っ取られたのか」
  (東洋経済新報社)

コーポレートガバナンスの専門家である上村達男教授
(早稲田大学。前経営委員会委員長代行)による、
NHKのガバナンス問題を指摘した書籍です。

NHK問題だけではなく、最近のガバナンス改革を
考えるうえでも参考になると思います。

3.「世界の壁は高くない」(廣済堂出版)

サンリオで海外戦略を担当した鳩山玲人氏による
「海外で成功するための教科書」(=副題)です。

海外事業を展開する際、「一番高いのは社内の壁」
というところが最も印象的でした。

4.「大世界史」(文春新書)

池上彰氏と佐藤優氏による対談ですから
面白くないわけがなく、一気に読み終えました。

お二人は「現代をよりよく理解するためには
歴史の学習が欠かせないという点で意気投合」
したそうですが、私もそう思います。

5.「会社のITはエンジニアに任せるな」(ダイヤモンド社)

著者の白河克氏は数年前、友人の関尚弘くんと
共著で老舗企業の業務改革プロジェクトについての
ドキュメンタリーを書いています。

本書はコンサルタントとしての豊富な経験から
ITと経営者の関係についてきちっと書かれていて、
参考になります。

いかにITを経営者自身の問題として取り組んでもらうか。
「IT」を「ERM(あるいはリスク管理)」に置き換えても
同じことが言えるのでしょうね。

※写真は富山県高岡市・射水(いみず)市を走る「万葉線」。
 赤い電車は乗り心地が良かったですね。

 

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夏の読書から

 

今回はこの夏に読んだ本のご紹介です。

1.「世論調査とは何だろうか」(岩波新書)

著者の岩本裕さんはNHKの記者出身で、
現在はNHK放送文化研究所で世論調査を
担当しているかたです。

「素人ならではの視点を活かして、数字に
 だまされないため皆さんに知っておいて
 ほしいことを紹介していきます」

とあり、世論調査について幅広い視点から
紹介した本でした。

最も問題なのは、若者を中心に協力してくれる人が
大きく減っていることだそうです。

これに対し、世論調査は民主主義社会のなかで
私たちに与えられた「武器」なので、有効に利用
すべきというのが著者からのメッセージでした。

2.「海外企業買収 失敗の本質」(東洋経済新報社)

保険会社の海外展開についての執筆が続いたため、
日本企業の海外M&Aに関する本を何冊か読みました。

本書はM&Aの専門家である松本茂さんによる本です。
ただし、買収の実務書ではなく、日本企業による
海外M&Aを分析し、過去の事例から学ぼうというもの。

おそらく博士論文を一般書にしたものだと思いますが、
研究手法が私の中堅生保の破綻研究と似ていて、
その意味でも興味深く読みました。

それにしても、調査対象116案件のうち、失敗
(売却・撤退に至った案件)が51件とは驚きですね。

なお、ご案内の通り、このところ週刊金融財政事情で
書評を執筆していて、次回は本書を取り上げています
(もう少ししたら掲載されると思います)。

3.「本社はわかってくれない」(講談社現代新書)
  (下川裕治・編)

こちらも日本企業の海外進出絡みの本で、
副題に「東南アジア駐在員はつらいよ」とあります。

日本企業が東南アジアで遭遇した各種トラブルや
現地日本人の胸のなかにしまわれていた話
(なかには愚痴のようなものもありますが…)を
ジャーナリストが掘り出しています。

参考までに見出しを並べると…

 ・すぐ休む人々
 ・働かない人々
 ・会社を私物化する人々
 ・身勝手な人々
 ・会社のカネを使い込む人々
 ・すぐに訴える人々
 ・役人な人々
 ・宗教で生きる人々
 ・才能ある人々
 ・不運に見舞われた人々
 ・日本を持ち込む人々

編者の下川さんは、海外進出する日本企業に
問われる資質とは、「トラブルを克服していく能力」
とまとめています。
確かに、そもそもトラブルは起こるもの、なのでしょう。

※写真左は「フリフリチキン」、右は「ガーリックシュリンプ」。
 どちらもハレイワ名物です。

 

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銀行のリスクアペタイト

 

「リスクアペタイト・フレームワークの構築」を読みました。
著者は大山剛さんです。

銀行のリスクアペタイトに関する規制当局の動向と、
銀行がどう対応したらいいか、詳細に書かれています。

大山さんは、当局によるリスクアペタイト・フレームワーク
(RAF)構築の提案を、

「金融機関の手足だけではなく、脳や神経系統まで
 縛ろうという動き」

と刺激的な表現を使っていますが、RAFそのものを
否定しているのではなく、あるべき姿から乖離した別物が
RAFとして定着してしまうことを懸念しているようです。

このあたりの議論は保険会社のERMと共通していますね。

ちなみに本書には次のようなくだりもあります。

「(リスクアペタイトの概念は)保険の世界において、
 活発に議論されていた概念である」

「保険の世界の中でいち早くRAの概念が導入された
 背景には、保険という業種そのものが『リスクを積極的に
 引き受ける』業種だということが影響している」

確かに、本書が示すRAF構築の作業ステップをみると、
銀行で言うRAFはERMに限りなく近いと感じました。

※写真はお台場です。聞こえてくるのは中国語ばかりでした。

 

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