14. 書評

IT関連2題

やや強引ですが、ITに関連した2つのテーマを取り上げます。

インシュアテックの未来

「わりかん保険」「コロナ助け合い保険」などで知られるジャストインケースの畑加寿也代表が9月29日に、インシュアテックのホワイトペーパーを公表しました。
ITを中心とした保険の発展の方向性を示したロードマップということで、今後10年間で保険市場がどう変わり、既存の事業者はどう対応したらいいかを述べています。

ペーパーでは、(日本の)保険会社は「他のディスラプトされてきつつある業界と比べると金銭的にも時間的にも猶予が残されている」としたうえで、「多くの保険会社は従来の運用モデルとレガシーシステムから離脱できず、新ビジネスの導入や規模の拡大が遅れたり、急速な市場の変化に追いつくことができないでいる」と指摘。今後ITインフラをどのように進化させるべきか、いくつかの選択肢を示しています。

「システムを作らせる技術」

先のペーパーによる、「IT予算の多くは既存のレガシーシステムの維持管理に使われている」「IT人材が不足するなか、レガシーシステムの維持・運用にIT人材が割かれている」「既存のレガシーシステムの全容を理解している人材がいない」といった指摘は保険会社の経営者にとって耳が痛いものだと思います。
しかし、システム変革の選択肢を示され、「パッケージソフトウェアの購入とクラウドベースとしたSaaS(Software as a Service)の利用のどちらにしますか」「サービスの接続方法はAPIですか、アダプターですか」などと言われても、困ってしまうのではないでしょうか(おまえと一緒にするなという声も聞こえてきそうですが…)。

たまたま最近手に取ったのが、白川克さん、濱本佳史さんによる「システムを作らせる技術~エンジニアではないあなたへ」です。著者のお2人はケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズというITに強みを持つコンサルティング会社のメンバーですが、コンサルの書いた薄っぺらいハウツー本ではありません(確かにページ数も多いのですが、そういう意味ではありません)。
あるようでなかった、システムを作ってもらう人が身につけるべき技術、知っておくべきことを学ぶための本で、極めて実用的に書かれているばかりでなく、その根拠も記されています。

コラムの1つに「ITベンダーは品質など気にしていない!」というものがあり、私にはストンと落ちました。「品質」と「精度」は別の概念なのですね。

※羽田空港で楽しい自販機を見つけました。

 

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「一人一冊」の振り返り

週刊金融財政事情 2021年9月21日号の書評「一人一冊」に投稿した記事が載りました。
せっかくなので、直近のものだけではなく、2020年以降の投稿を振り返ってみることにしましょう(敬称略)。

小城武彦『衰退の法則』東洋経済新報社(2017年5月)

こちらが直近号で紹介した書籍です。
事業環境の変化にうまく対応できずに衰退を続け、ついには破綻してしまった日本企業に共通した特徴があることを、学術的に示しています。とりわけ目を引いたのは、破綻企業と優良企業には意外にも共通点が多いという分析結果でした。

戸田山和久『「科学的思考」のレッスン 学校で教えてくれないサイエンス』NHK出版新書(2011年11月)

2021年4月20日号の掲載です。
「科学的に考えるとはどういうことか」「問題の解決を科学・技術の専門家だけに任せていいのか」を述べています。以前にも触れましたが、学生ばかりでなく、社会人にもおすすめです。

夏目英男『清華大生が見た最先端社会、中国のリアル』クロスメディア・パブリッシング(2020年3月)

2020年12月14日号の掲載です。
本書はアジアトップレベルの清華大学で学び、かつ、世界最先端と言われる中国のデジタル革命による生活の劇的な変化を自ら体感した著者によるものなので、若い目線で見たリアルな中国の姿を知ることができます。

吉田滋『深宇宙ニュートリノの発見』光文社新書(2020年4月)

2020年7月27日号の掲載です。
私と同世代の宇宙物理学者による日々の悪戦苦闘を生々しく記したもので、読めば読むほどうまくいかないことの連続で、華々しい発見の裏には数多くの困難があったことがよくわかります。

沢渡あまね『仕事ごっこ その“あたりまえ”、いまどき必要ですか?』技術評論社(2019年7月)

2020年4月20日号の掲載です。
形骸化した仕事や慣習、仕事のための仕事といった「仕事ごっこ」をなくしましょうというメッセージを、童話を使って非常にわかりやすく訴えています。
そういえば沢渡さん、財務局からの講演依頼でひどい目にあったそうで、その顛末を記したnoteが話題になっていました。

天野馨南子『データで読み解く「生涯独身」社会』宝島社新書(2019年7月)

2020年1月13日号の掲載です。
「50歳になっても一度も結婚歴のない男女が急増している」という日本のリアルな姿について、様々なデータを用いて説明しています。「長期子どもポジション・キープ」が未婚化に影響しているかもしれないという考察は、私にはショッキングでした。

もう少しさかのぼると、こんな感じです。

2019年9月30日号:平山賢一『戦前・戦時期の金融市場 1940年代化する国債・株式マーケット』日本経済新聞出版社(2019年4月)

2019年7月1日号:円谷昭一『コーポレート・ガバナンス「本当にそうなのか?」─大量データからみる真実─』同文舘出版(2017年12月)

2019年3月11日号:後藤康浩『アジア都市の成長戦略 「国の経済発展」の概念を変えるダイナミズム』慶應義塾大学出版会(2018年6月)

2018年11月12日号:高槻泰郎『大坂堂島米市場』講談社現代新書(2018年7月)

2018年8月20日号:八代尚宏『脱ポピュリズム国家』日本経済新聞出版社(2018年5月)

2018年4月9日号:大門正克『語る歴史、聞く歴史 オーラル・ヒストリーの現場から』岩波新書(2017年12月)

2017年12月4日号:小坂井敏晶『社会心理学講義<閉ざされた社会>と<開かれた社会>』筑摩書房(2013年7月)

2017年7月17日号:田邉裕『新版 もういちど読む山川地理』山川出版社(2017年4月)

2017年3月13日号:加藤陽子『戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗』朝日出版社(2016年8月)

2016年11月14日号:藤井健司『日本の金融リスク管理を変えた10大事件』金融財政事情研究会(2016年9月)

2016年6月13日号:ラウル・アリキヴィ/前田陽二『未来型国家エストニアの挑戦』インプレスR&D(2016年2月)

2016年3月21日号:城山三郎『男子の本懐』新潮文庫(1983年11月)

2015年12月7日号:ティモシー・F・ガイトナー『ガイトナー回顧録 金融危機の真相』日本経済新聞出版社(2015年8月)

2015年9月21日号:松本茂『海外企業買収 失敗の本質 戦略的アプローチ』東洋経済新報社(2014年11月)

2015年6月29日号:花崎正晴『コーポレート・ガバナンス』岩波新書(2014年11月)

2015年3月16日号:倉都康行『12大事件でよむ 現代金融入門』ダイヤモンド社(2014年10月)

2014年12月1日号:入山章栄『世界の経営学者はいま何を考えているのか』英治出版(2012年11月)

この書評「一人一冊」は自分で書籍を選ぶという恐ろしい企画でして、何が恐ろしいかというと、選んだ書籍と書いたコメントを通じて自分がさらけ出されてしまうのですね。ご覧になった皆さん、いかがでしょうか。

 

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なぜ海外から観光客が殺到していたのか

最初にお知らせです。保険代理店の情報交流組織であるRINGの会(私は会のアドバイザーを務めています)が、2年ぶりにオープンセミナーを開催します。
7月3日(土)午後のライブ配信方式で、メインテーマは「実践DX」。デジタル化を実践する保険代理店が登場します。参加費は3,830円です。
保険流通の最新動向に触れたいかたは、ぜひお見逃しなく。申し込みはこちらです。

さて、今回はインシュアランス生保版(2021年5月号第2集)に執筆したコラムをご紹介します(見出しはブログのオリジナルです)。
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世界が「安いニッポン」を発見

新型コロナ感染症で厳しい入国制限が敷かれ、日本を訪れる海外からの観光客が消えた。観光関連業をはじめ、インバウンド需要の恩恵を受けていた業種や地域は、深刻な打撃を受けている。
ここで改めて考えてみたいのは、そもそもなぜ日本を訪れる海外からの観光客が急増していたのかである。ビザの免除・発給要件緩和や海外プロモーションなど、政府による観光立国推進の効果もあったと考えられるが、何より「安いニッポン」が発見され、観光客を引き寄せたことが大きい。日本で生活しているとピンとこないが、欧米ばかりでなく、アジアを含めた海外から見ると、日本の商品・サービスは質の割に安いのである。

100円均一は日本だけ

最近読んだ「安いニッポン『価格』が示す停滞」(2021年3月刊行、日経BP・日本経済新聞出版本部)は、日本経済新聞の連載記事「安いニッポン」をベースに、担当記者の1人だった中藤玲さんが新たな取材を加えて書き下ろしたもの。日本経済の長期停滞を理解するのに格好の書籍である。
失われた20年、いや30年と言われても、(非正規雇用は増えたが)町に失業者があふれていたり、多くの人が極端に貧しくなったりしたわけではなく、読者の皆さんも、厳しいながらも安定した生活を送っているかたが多数ではないだろうか。そのような私たちにとって不都合な真実、すなわち、世界の成長に取り残されてしまった日本の姿を本書は見事に示している。
日本に住む私たちからすると高価なレジャーである東京ディズニーランドは世界で最も安いディズニーランドだというし、ダイソーの商品が100円均一なのも日本だけとのこと(海外はもっと高い)。かつてと違い、このところ海外のどこに行き、何を買っても安いと感じることがなくなっていたが、100円ショップまでもが世界最安値水準とは知らなかった。

安いニッポンは暮らしを豊かにしない

安いニッポンが私たちの暮らしを豊かにしてくれるのであればいい。ところが日本の実質賃金はこの20年間増えていない。賃金が増えないから消費も盛り上がらず、企業は前向きな投資よりもコスト抑制を選び、結果として消費者の低価格志向が続く。この悪循環は日銀の異次元緩和でも変わらず、財政規律の緩みと異常な株式保有構造だけが残った。今後は人手不足を海外から補おうとしても、優秀な人材はだんだん日本の賃金では来てくれなくなるだろう。私たちが強みと考えてきた日本の高品質も、このままでは維持できなくなるかもしれない。
大震災の発生や感染症の拡大、あるいは金融危機のような突発的な事象に対しては、事態の深刻さを共有しやすく、対応方針も定まりやすい。これに対し、真綿で首を絞められるような変化には、そもそも事態を把握するのが難しく、コンセンサスを得にくいが、事態は一段と深刻になっているようだ。
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「リスクコミュニケーションの現在」

新型コロナウイルスへの政府の対応やワクチン接種をめぐる社会の反応などを見ると、私たちは過去からあまり学べていないのではないかと考えてしまいます。

放送大学のテキスト『リスクコミュニケーションの現在』(平川秀幸・奈良由美子編著)には、10年前の原発事故後のリスクコミュニケーションについての記述があります。
事故後、福島では放射性物質による汚染や健康被害のリスクが問題となりました。政府や専門家は、自分たちが考える以上に住民が放射線リスクを深刻にとらえるのは、知識が不足しているからと考え、住民に向けて多くの情報を発信しました。
しかし、科学的に正しい情報を発信すれば住民のリスク認識が変わるかといえば、そうではなかったのです。そこには「信頼」が大きく関係していました。それまで安全と言われてきて、そう信じていた原子力発電所によって日常生活が突然奪われた人々は、政府や東京電力、そして科学者を信頼できなくなりました。いったん信頼が崩壊してしまうと、いくら科学的な情報を伝えても、住民のリスク認識を改めることはなかなかできません。

リスク比較の難しさも浮き彫りになりました。本書では「放射線リスクよりも喫煙による発がんリスクのほうが高い」という説明に対し、4割の人が嫌悪感を示したという結果とその理由を紹介しています。

・喫煙者ではないのに喫煙と比較されても意味がない
・生活のなかにはすでにたくさんのリスクがあるのに、そこに上乗せされたのだから、小さいと説明されても拒否感がある
・科学の不確実性を軽視しているのではないか
・小さいリスクだから受け入れろという説得に聞こえてしまう

新型コロナウイルス感染症対策分科会にはリスクコミュニケーションの専門家もいますし、尾身茂会長もリスクコミュニケーションの重要性について繰り返しコメントしています。それでも、専門家でも異なる見解がありえる科学的事象を、専門家ではない人々が理解し、行動につながるようなコミュニケーションをはかるのは難しいということなのでしょう。

 

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「損害保険代理店の教科書」

今般の出張で立ち寄った丸善で見つけ、帰りの飛行機で一気に読みました。
保険代理店の経営者による書籍ということで、なんとなく「厳しい経営環境をどう生き残るか」といった内容を想像していましたが、見事に外れました。

著者の森和彦さんによると、嫌なことや難しいことをしなくても、年収800万円程度であればラクに稼ぐことができるのが損害保険代理店ビジネスだそうです。というのも、そもそも損害保険代理店ビジネスは、

・商品は保険会社が作ってくれる
・売れずに在庫の山を抱える必要がない
・特別な設備は必要ない
・1年契約だが、ほとんどの人が継続し、そのたびに手数料収入が発生する

などなど。確かに他の業界にはなかなかないことかもしれません。
そして、難しくて気が重いことは長続きしないので、「自分にとってラクで楽しい方法で仕事をしよう」です。いかがでしょうか。

「保険代理店は、問題解決能力が自然と身につく仕事」といったことも書いてあります。損害保険代理店ビジネスをここまでポジティブに描いた本はなかなか見当たらないのではないでしょうか。

森さんは「保険代理店は事前告知産業」と繰り返し述べています。保険は自分から売り込むものではなく、「困ったときにはあの人に相談してみよう」とすぐに思い出されるような存在になること。そのために何をしたらいいかを考えるヒントが本書には盛り込まれています。

※写真は杵築(大分県)の町並みです。

 

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日産生命破綻処理に関する覚書き

保険会社の2019年度決算発表が始まりました。
まずは上場生命保険会社グループということで、15日に第一生命ホールディングス、T&Dホールディングス、日本郵政・かんぽ生命の決算発表がありまして、今週は損保決算、(非上場の)生保決算と続きます。

政府の緊急事態宣言が出たのは4月上旬なので、今回の決算発表では対面販売自粛の影響は営業数値にほとんど出てこないのではないかと思います。
他方で、非対面での保険販売を主力とするライフネット生命は4月の業績速報(PDF)で、新契約業績が過去最高を更新したことを明らかにしました。アドバンスクリエイトも4月の業績概要(PDF)で、保険代理店事業において、対面販売が落ち込む一方、通信販売が急増したことを示しています。

予定利率の引下げ

さて、タイトルは「日産生命破綻処理に関する覚書き」でしたね。
生命保険経営学会の機関誌「生命保険経営」最新号(第88巻第3号)に、明治安田生命保険の佐藤元彦さんによる同名の論文が掲載されました。

1997年4月に破綻した日産生命の破綻処理は、その後も相次いだ生保破綻の処理に大きな影響を与えました。
なかでも、「既契約の予定利率引下げ」と「早期解約控除の設定」は、次の東邦生命(1999年破綻)をはじめ、全ての破綻処理で採用されています。

論文によると、保護基金の発動、イコール契約条件の変更ということではなかったそうです。しかし、「収支上の必要性から予定利率引下げは余儀ないものだった」(論文より引用)。論文の注記には、「資金援助上限額2000億円だけで処理が可能だったとしたら、予定利率は引下げなかったであろう」とありましたが、資金不足が大きく、そうもいかなかったようです。

数年後にアクサが日本団体生命を買収し、破綻後ではないので、当然ながら高利率の契約もそのまま引き受けています。当時のアクサがどう判断したのかはわかりませんが、もし将来収支がマイナスでも、顧客基盤や新契約獲得能力など(いわゆる「のれん」ですね)に大きな価値があると判断すれば、条件変更なしでの破綻処理もありえたのかもしれません。
もっとも、破綻により日産生命の事業基盤はダメージを受けており、のれんを高く見積もることもできず、予定利率の引下げはやむを得なかったということなのでしょう。

新日産生命構想

「新日産生命構想」は本当にあったのですね。
破綻した日産生命の既契約の受け皿会社を、日立・日産グループ各社の共同出資で新設するというもので、既契約の維持管理だけでなく、新契約の獲得も行う保険会社を新たに立ち上げる構想でした。日産生命の欠損額が大きく、保護基金の資金援助2000億円では賄いきれないので、「残りの欠損額については、新日産生命の営業力と予定利率引下げ後の既契約の収益力を評価し、営業権として資産計上することで補う」(論文より引用)というスキームです。

残念ながら日立・日産グループからの出資を得られず、新日産生命構想は頓挫しました。論文には早期解約控除についての言及がなく、日立・日産グループの信用が拠りどころということで、出資者としては再破綻の可能性を意識したのかもしれません。

早期解約控除

最終的に日産生命の破綻処理は、生命保険協会の100%出資により、既契約の維持管理のみを行う受け皿会社(あおば生命)を新設し、そこに日産生命の契約を移転するスキームとなりました。既契約に対しては予定利率引下げなど基礎率の変更を行い、さらに、ここで「早期解約控除」が出てきます。

早期解約控除とは、業務再開後の数年間は、通常の解約控除に加え、一定額の解約控除を上乗せするというものです。
初年度の控除率を15%としたのは、「(保護基金からの)資金援助がなされない場合、およそ15%程度の積立金毀損が発生する」との見解を佐藤さんは示しています。この15%が妥当だったのかどうかはわかりませんが、あおば生命の経営を安定させるのに寄与したのは間違いないでしょう。後に生保協会があおば生命を売却できたのも、「既契約の予定利率引下げ」「早期解約控除の設定」をセットで実施したからだと思います。

会員以外のかたが論文を読めるようになるのは2022年1月になってからですが、破綻処理策の原案作成者による覚書きは貴重だと思いまして、ブログで紹介しました。

※緑が濃くなりましたね。

 

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「生命保険の不都合な真実」

最近、私よりちょうど20歳若い記者さん(柴田秀並さん)が「生命保険の不都合な真実」という新書を出しました。
2018年から保険業界を担当するようになり(今は金融庁担当とのこと)、取材活動を進めるなかで、生命保険業界が本当に顧客のためになっているのかという疑問を感じたことが、柴田さんが本書を執筆する動機になったようです。
確かに昨年から今年にかけての生命保険業界の話題といえば、外貨建て保険の問題や節税保険をめぐる騒動、乗合代理店へのインセンティブ、そして、かんぽ生命(郵便局)の不正販売と、顧客本位とはかけ離れたことばかりでした。

柴田さんはこう書いています。

「保険の議論をするのは非常にハードルが高い。率直に言って、難しいからだ。一介の新聞記者に対して、業界に精通した人からは『キミが不勉強なだけでみんな知っているよ』とか、『そんなこといまさら書いてどうするの?』といった反応が取材の過程でしばしば返ってきた」

そういう対応もありそうだなあと気の毒に思いつつ、あえて言えば、大手新聞社の記者さんの担当期間が短かすぎるのですね。新聞社のローテーション人事について柴田さんに文句をいっても仕方がないのですが、経済誌のようにある程度じっくり取材活動ができれば、少なくとも決算報道で保険料収入と基礎利益の説明をしておしまいということはなくなるのではないでしょうか。
これから経済価値ベースの規制が入ろうというときに、大手メディアの役割は決して小さくないと思いますので、機会を見つけてインプットを続けていくしかないのかもしれません。

とはいえ、本書は現場でのしっかりした取材をもとに近年の問題を掘り下げているので、生保業界に関心のあるかたには大変参考になると思います
(もし続編があれば、営業職員チャネルについても深掘りしていただきたいです!)。

ちなみに第1章に次のような記述があります。

「ある大手生保の財務企画(資産運用部門の企画部門)にかかわる幹部は、『基礎利益は、会社の成績を見るうえで、いまや弊害のほうが大きいかもしれない』と認めた。だが、それでも業界は表向き、基礎利益の多寡を誇る。『マイナス金利時代には、会社の順位をはかるのは基礎利益ですよ』ある生保企業の広報担当者にこう説得されたことがある。(中略)いま思うと、その人は『確信犯』だったのかもしれない」

確信犯だったらまだいいのですが、本気でそう考えていたら困ってしまいます。

※写真は香港から深圳に入ったところです
(出国・入国審査があります)

 

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最近の読書から

夏休み前ということで(?)、久しぶりにブックレビューを。

「戦前・戦時期の金融市場」

著名ファンドマネジャーである平山賢一さんによる、戦前・戦時期の金融市場に関する研究成果をまとめたものです。
戦前・戦時期の国債市場と株式市場を分析するにあたり、国債と株式のパフォーマンスインデックス(PI)を算出しているのですが、単にデータ収集が大変というだけでなく、当時の市場の特殊要因を調整する必要があるため、ものすごく労力がかかっていることがうかがえます。
このPI算出によってはじめて、戦前・戦間期の金融市場を市場参加者の目線から分析することが可能となったわけで、この点だけでも本書の功績は大きいと思います。

「サイバーセキュリティ」

著者の谷脇康彦さん(総務省総合通信基盤局長)は行政の立場からサイバーセキュリティに携わってきたかたです。
サイバーセキュリティ関連の情報を探すと技術的なものが多く、全体像がよくわからないと思っていたところ、この本に出会いました(正確にはご本人にお会いして、本書を知りました)。
サイバー空間における脅威を正しく理解し、政府・民間、そして国際的な動向をつかみたいかたに、おすすめの書籍です。

「日本軍兵士」

副題に「アジア・太平洋戦争の現実」とあるように、凄惨な戦場の現実を史料やデータから浮き彫りにしたもので、著者は歴史学者の吉田裕さんです。

第1章 死にゆく兵士たち
1 膨大な戦病死と餓死
2 戦局悪化のなかの海没死と特攻
3 自殺と戦場での「処置」

第2章 身体から見た戦争
1 兵士の体格・体力の低下
2 遅れる軍の対応--栄養不良と排除
3 病む兵士の心--恐怖・疲労・罪悪感
4 被服・装備の劣悪化

こうして目次の前半部分だけを取り上げても、戦場の凄惨な現実が見えてきます。

「日本の異国 在日外国人の知られざる日常」

著者の室橋裕和さんはバンコクで10年間暮らした経験があるライターで、本書では大きくなりつつある「日本のなかにある異国」の最前線を紹介しています。
新大久保や高田馬場といった有名どころだけでなく、「こんなところに外国人のコミュニティが!」といったスポットがいくつも紹介されていて、興味深く読みました。
外国人として暮らした経験があるためか、著者の目線が一貫して暖かいのにも好感を持ちました。

※写真は長崎です。坂と階段の町でした。

 

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「国際線機長の危機対応力」を読む

インシュアランス生保版(2019年4月号第1集)のコラム。今回は書評です。
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パイロットの役割

3月にエチオピアで墜落事故を起こしたボーイングの同型機が各地で運航停止になった。本稿の執筆時点で詳しい原因はわかっていないが、同機に搭載された自動操縦装置が何らかの影響を及ぼしたとの指摘がある。
ボーイングとエアバスでは自動操縦の設計思想が異なるとされてきた。国土交通省の資料によると、エアバスは人為的ミスを防ぐ観点からパイロットよりもコンピュータの制御を優先する設計思想なのに対し、ボーイングの考え方は、コンピュータでは判断できない極限状態ではパイロットの制御を優先するというものだ。
いずれであっても現代の飛行機はパイロットの「腕」で飛ばすものではなく、パイロットが自動操縦装置を使って飛行するものである。つまり、操縦技術よりも、複雑なシステムを動かすオペレーターとしての役割が重要となっている。

未来を変えるためにいま行動する

それではパイロットに求められる資質とは何か。
PHP新書「国際線機長の危機対応力」(横田友宏著)によると、「飛行機の操縦とは、未来を変えるためにいま行動すること」であるそうだ。いま起きている事象を見て、それに対処するだけの人間ではダメで、「まだ事実が事実としての実態を持たない、兆しの段階でそれを捕まえ、その兆しがいかなるものに発展するかを見極め、その兆しに対応するために様々な対応を行っておく」(本書より引用。以下同じ)。しかも、時間的に制約があり、かつ、情報の一部しか知りえない状況下で、意思決定をしなければならない。
これは企業のリスクマネジャー、あるいは経営者にも通じるところがあるように思える。

専門職としてのあり方、考え方

教官として何人もの機長を育てた著者がパイロットに求める要件は非常に厳しい。
そもそも最初に出てくるのが、「パイロットの資質を持たない訓練生はパイロットにさせない」である。そして、「機長は単なる操縦士ではない。機長はフライトというプロジェクトを成功に導くためのプロジェクトマネージャーでなければならない」「機長として大事なのは『自我の抹消』である。(中略)機長は一切のとらわれを離れ、気象状態と管制官の指示やほかの飛行機の流れ、飛行機の状態だけを考えなければならない」「機長は、猛々しいライオンであってはならない。機長は長い耳を持つ、臆病なウサギでなければならない」と続く。
余計な雑念を持たず、チームのなかでリーダーシップを発揮する臆病なウサギに、あなたはなれるだろうか。

次のような記述も耳が痛い。「うまくいかない原因を自分以外の周りの責任にして自分は変わろうとしない人間は、絶対に機長にはなれない」「隣の教官やチェッカーがどう考えているかばかり気にしている副操縦士も、機長にはなれない」。
本書はパイロットという特殊な専門職の話を取り扱っているが、保険業界人にとっても、専門職としてのあり方や、マニュアル化するのが難しい「考え方」「哲学」の伝承を考えるうえで、大いに参考になりそうだ。
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※写真は井の頭公園です。

 

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「アジア都市の成長戦略」

アジアの大都市を分析した書籍「アジア都市の成長戦略」の書評が直近の週刊金融財政事情(2019.3.11)に掲載されました。
著者の後藤康浩さんは日経新聞の記者出身で、現在は亜細亜大学・都市創造学部の教授として「ジャーナリスティック・アカデミア」を追求しているのだそうです。

本書はアジアの経済成長を都市という切り口で分析しています。書評では紹介しませんでしたが、最後の第7章「『都市力』がアジアで牽引する」では、深圳、ホーチミン、シンガポール、ヤンゴン、デリーの5都市をケーススタディとして取り上げ、各都市の具体的な成長戦略を確認しているのも本書の魅力です。
もちろん、昨年末のヤンゴン旅行の参考にもなりました。

※同じヤンゴン川でも景色がだいぶ違いますね

 

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