ロスディベロップメント表

 

保険販売業向けメルマガ「inswatch」の原稿執筆のため、
最近出そろった大手損保各社のディスクロージャー誌を
ざっと確認しました。

その際、ふと目に留まったのがこの表です。ディスクロ誌では
「事故発生からの期間経過に伴う最終損害見積り額の推移表」
として、平成18年度データから公表されています
(直近5期分、4年後まで)。

例えば損保ジャパンの場合、「事業の概況」→「保険の引受」
の105ページにあります ⇒ ディスクロ誌はこちら

事故発生から保険金支払いまでの期間が長い契約
(=ロングテイルなどと呼ばれる)の場合、
支払備金をいかに適切に計上するかが重要です。

そこでロスディベロップメント表を見れば、横軸が発生年度、
縦軸が経過年度別の累計保険金+支払備金となっているので、
当初の支払見込みがどの程度保守的(あるいは甘かったか)
をうかがうことができるというわけです。

実際に各社のデータを見ると、自動車保険の支払見込額が
大きく振れることはなく、せいぜい2、3%程度なのに対し、
賠償責任保険では当初見込みから大きく動くことがあるようです。

例えばある会社では、H22年度の事故発生から3年後になって、
支払見込額が前年の1.5倍に急拡大しています。
別の会社でも、同じくH22年度の見込額は、当初見込みから
2割近く増えています(ただし、増えたのは主に1年後)。

H22年度なので、もしかしたら例外的な特殊要因(震災関連など)
かもしれませんし、他の要因なのかもしれません。
アナリストであれば、こうしたディスクロ情報を手掛かりに、
会社に背景を確認してみることができますね。

本来は支払備金(IBNR)を適切に見積もるための表
なのだと思いますが、開示による牽制効果が期待できそうです。
ただし、賠償責任保険の場合、4年後でも支払備金が多いので、
4年後までの開示ではちょっと短いように感じています。

なお、inswatchでこの表を取り上げるのはマニアックすぎるので、
inswatchでは大手損保の「種目別コンバインドレシオ」
「外貨建資産の推移」「業種別保有株式・貸付金」など、
ディスクロ誌にしか掲載されないデータの一部を紹介しました。
ご参考まで。
inswatchのHPへ

※写真は仙台の七夕です。

 

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「すき家」の調査報告書

 

ゼンショーHDが運営する牛丼チェーン「すき家」の
労働環境改善に向けた第三者委員会報告書が
公表されました。

8/1の各紙で報道されたとはいえ、せっかくなので、
現物をご覧いただくことをお勧めします。
ゼンショーHPへ

会社が自ら設置した第三者委員会ではありますが、
「とりわけ厳しい久保利先生にあえてお任せした」
(ゼンショーHDの小川CEO)とのことで、
総じて会社は協力的な姿勢だったようです。

報告書では、現場の生々しい労働実態のほか、
各種委員会(リスク管理委員会など)が全く機能せず、
内部監査部による指摘もCEOを動かすことはなく、
幹部が過重労働問題を認識しつつも、全社的な検討・
対応がなされなかったとしています。

そして、根本的な原因として、

・経営幹部の危機意識の欠如
・過重労働(法令違反)を是正する仕組みの不全
・経営幹部に共通する意識・行動パターン
 *顧客満足のみにとらわれた思考・行動パターン
 *自己の成功体験にとらわれた思考・行動パターン
 *数値に基づく収益追求と精神論に基づく労働力投入 など

を挙げています。

ゼンショーグループは創業者であり実質的な大株主でもある
小川CEOの会社であり、要はカリスマCEOがグループを
外食日本一に導く一方、現場に深刻な問題があっても、
誰もCEOと対等に議論することがなかったのでしょう。

会社の内面に迫る優れた報告書だとは思うものの、
一読した限りでは、アナリスト的な視点といいますか、
いわゆる経営分析がほとんど行われていないようです。

「『外食世界一を目指す小川CEOの下に、その志の実現に
 参加したいという強い意志を持った部下が結集し、
 昼夜を厭わず、生活のすべてを捧げて働き、生き残った者が
 経営幹部になる』というビジネスモデルが、その限界に達し、
 壁にぶつかったものということができる」(報告書より)

内的要因としてはそうかもしれませんが、果たして
それだけなのでしょうか。

日本格付研究所によると、すき家の既存店売上高は、
ブームの反動もあり、2011年9月からマイナス基調となり、
2014/3期の既存店売上高も前年割れでした。
増収は新規出店によるものです。
この価格帯の外食産業の競争環境は熾烈と聞きます。

加えて、原材料価格の上昇などにより原価率が上がり、
収益を圧迫していることがわかります。

他方、有利子負債の一部には、2期連続の経常損失を
トリガーとする財務制限条項が付いているようです。
これがどの程度重要な話なのかはわかりませんが、
同社が有利子負債を活用した積極経営であることは確かです。

格付レポートや有価証券報告書をざっと眺めただけでも、
ここ数年のゼンショーHDの経営状況が厳しくなっていたと
うかがえるのですが、メンバーが弁護士中心だとしても、
このような視点からの分析も必要なように感じました。

※京橋の交差点が様変わりしていて驚きました。

 

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「賢い支払い術」に学ぶ

 

先日あるカード会社からDM(ダイレクトメール)が来ました。

 お得なキャンペーン実施中!
 今ならギフトカード1万円分が当たるチャンス!

とあり、カードの賢い支払い術を指南するとのこと。
中面を見ると、リボ払い・分割払いの勧誘でした。

今月の支払いに不安を感じたAさんに対し、
助っ人が「リボ払い・分割払いへの変更」を伝授し、
Aさんの不安が解消されるというストーリー。

ただ、支払い方法をリボ払い・分割払いに変更すると、
当然ながら手数料(利息)が発生しますよね
(私の場合、リボ払いだと実質年率15%かかるはず)。

そんなことは裏面にいかないと書いてありませんし、
説明文の字が小さく、かつ、私にはわかりにくかったです。

このような勧誘がカード業界では行われているんだなあと
思いつつ、せっかくなのでDMを大学生の息子に見せ、
金利やリボ払い、カード会社の収益源について解説しました
(ちゃんと聞いていたかどうかは疑問ですが...)。

もっとも、カード会社がリボ払いなどの普及に務めているとはいえ、
調べてみると、依然としてカード支払い方法の90%以上は
利息のかからない非割賦方式(一括払い、ボーナス払いなど)
なのですね。

割賦方式(リボ払い・分割払い)も伸びてはいるものの、
むしろ非割賦方式のほうがより伸びているようです。

さらに改めてわかったことは、そもそも日本ではいまだに、
個人消費に占める決済手段の5割以上が現金だということ。
クレジットカードは全体の13%を占めるにすぎません
(クレディセゾンのIR資料から引用。データは2012年)。

米国と違い、一括払いが中心で利息が発生しないので、
日本のカード会社は加盟店手数料を下げられず、
その結果、加盟店が増えず、カード利用の裾野が広がらない...

あるいは、日銀券への信認の厚さもあるのかもしれませんし、
文化的な要素もありそうです。例えば、結婚式など冠婚葬祭には
現金を持っていきますよね。

とはいえ、今年からパスモをオートチャージにして以降、
個人的には現金を使う機会をかなり減らしています。
例えば5000円以上の支払いはクレジットカードを使い、
小口の買い物は、パスモが使えればそれで決済。
年々増えているネット通販も、決済はカードが中心です。

カード会社にとって悪いお客さんではないと思うのですが^^

※私の父と娘の誕生会をしました♪

 

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「日銀、『出口』なし!」

 

日銀ウォッチャー加藤出さんの近著です。
副題は「異次元緩和の次に来る危機」。

日本銀行が現在行っている量的質的緩和策は、
終わるに終われない状況に陥るのではないか。
これを「ホテルカリフォルニア化」と言うのだそうです。

日銀は出口政策についての議論を封印していますし、
筆者によると、国債市場の多くのプレーヤーは、
「インフレ率は日銀が言うペースでは上昇しない」
と思っているなかで、出口論は早いのかもしれません。

しかし、そもそも異次元緩和策は時間稼ぎ策であって、
どこかで終わらせなければなりません。
財政危機と通貨の信認凋落を招かないためにも。

加藤さんは、日本の国債市場の自律的な機能は
日銀の買いオペによってかなり失われており、実態は
国債直接引き受けに限りなく近くなっていると述べています。

そして現在、多くの国債市場関係者は、

「インフレ予想が上がって国債の金利が急騰を始めたら、
 日銀は今以上の巨大な規模で国債を買い支えるに違いない」

と予想し始めているそうです。
これでは、日銀が本来、出口政策に向かうべき時に、
さらに大規模な金融緩和策を行うということになってしまいます。

アベノミクスがモデルにしたという高橋是清の政策。
出口政策として日銀国債引き受けの縮小と軍事費削減を
打ち出した高橋是清は、2・26事件で殺されてしまいました。
その後、財政の拡張に歯止めがかからなくなります。

本書を読んで、改めて出口政策の難しさを感じました。

※山下公園の前でワッショイワッショイ。
 市内各地からお神輿が集まっていたようです。

 

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保険の国際規制の進展

 

9日に保険の国際規制に関する発表があったので、
こちらにリンクしておきます → 金融庁のHPへ

保険には国際的な資本規制がなかったのですが、
現在、保険監督者国際機構(IAIS)を中心にして、
「グローバルにシステム上重要な保険会社(G-SII)」
および「国際的に活動する保険グループ(IAIG)」向けの
資本基準の策定が急ピッチで進んでいます。

今回の市中協議文書の発表は、G-SIIに適用する
基礎的資本要件(BCR)に関するものです。

この市中協議文書に対する意見を踏まえたうえで、
IAISと金融安定理事会(FSB)で内容を固め(9-10月)、
11月のG20で承認、というタイトなスケジュール。

このため、BCRは「保険金額×係数」「時価×係数」
といった非常にシンプルな計算方法となっているうえ、
重要なリスクカテゴリー(特に生保)である「ALM」は
対象外となってしまいました。

係数の水準感は、まだよくわかりません。
7-8月の調査結果を見てから決めるとのことです。

他方、BCRと対比する自己資本のなかで、
Margin Over Current Estimateと呼ばれる部分
(≒保険負債の含み益)をコア資本とするかは
まだ議論中のようで、こちらも今後に注目です。
⇒修正:「含み益」は言いすぎで、うちリスクマージン部分ですね

IAISの調査によると、G-SIIのコア資本の38%を
この部分が占めるそうなので、小さい話ではありません。

なお、以前自分のブログでも書きましたが、
「G-SII」と「IAIG」の2系統の話が同時に進んでおり、
流れがわかりにくくなっています。

5月に出たニッセイ基礎研・荻原さんのレポート
参考になるかもしれません。

また、日本損害保険協会のHP(国際保険監督規制)も有益です。

※写真の左は現在の国分寺、右はかつての国分寺の跡地。
 奈良時代には七重塔が建っていたそうです。

 

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金融モニタリングレポート

 

今回も金融庁関連で恐縮です。
年度替わりでいろいろと公表されるものですから…

昨年9月に公表された金融モニタリング基本方針の成果をまとめた、
「金融モニタリングレポート」が公表されました。
金融庁HPへ

本レポートは、

・金融システムの現状
・業態別の金融モニタリングの概要
・テーマ別の水平的レビューの概要
・当局としての取組み

という構成で、全部で111ページあります。

業態別のところでは、「3メガバンク」では海外G-SIFIsとの対比
(海外G-SIFIsについてかなり調べたようですね)が目立ち、
「グローバルな金融システムのなかでのメガバンク」という
金融庁の意識が強く伝わってきます。

また、「地域銀行」では、モニタリングの一環として
大口融資先へのヒアリングなども行っており、
ビジネスモデルの中長期的な持続性を探っています。

これらに比べると、保険会社(特に生保)のモニタリングは
あまり踏み込んだ話がなく、ちょっと拍子抜けしました。
問題がなかったということでしょうか?

あえて言えば、損保の統合的リスク管理(ERM)の記述が、

 「経営戦略と一体となったリスク管理態勢については、
 総じて整備途上」

 「エマージングリスクについては、リスクの洗出しなどの
 取組みを開始した段階」

など、前回のブログで取り上げた「ORSAヒアリング」と違い
「損保は進んでいる」というトーンではなかったこと。

生保に比べれば進んでいるとしても、絶対評価としては
まだまだということなのでしょうか。
もう少し記述があるといいのですが、10行ちょっとでは…

テーマ別の水平的レビューで私の目を引いたのは、
「内部監査」「ITガバナンス」のところです。
メガバンクの項目と同様に、海外G-SIFIsとの対比を通じ、
不十分なところを浮き彫りにしようという手法が見られます
(ITガバナンスの「連邦型」「中央集権型」など)。

全般的に、今回は海外大手金融機関の経営管理の把握に
力を入れたことがうかがえますね。

ちなみに今後についてですが、3メガバンクは

 「来事務年度においても、引き続き・・・」

とある一方、保険会社では、

 「引き続き、契約者や経営に影響を与える顧客保護等管理態勢
 や経営管理態勢を中心にモニタリングを強化する必要がある」

 「保険会社は規模やビジネスモデルが多様であることから、
 業務特性やリスクプロファイル等を踏まえ、リスクの高い分野に
 重点を置いたモニタリングを徹底する必要がある」

これだけを見ると、大手以外の会社に対するモニタリングを
強めていくのではないかと思えます(あくまで私の想像です)。

※松坂屋の姿がなく、免税店(ラオックス)が賑わっており、
 銀座の中央通りはだいぶ様子が変わりましたね。

 

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ORSAヒアリング

 

金融庁が「統合的リスク管理態勢ヒアリング」の結果を
HPで公表しました(6月30日)。
金融庁HPへ

ヒアリングの中身もさることながら、今回はORSAレポート
(≒ERMに関する自己評価)の試作と提出を要請し、
そのレポートに基づいてヒアリングを実施したことが特徴です。

しかも、対象となった保険会社・保険持株会社25社を見ると、
大手保険グループだけではなく、朝日火災、オリックス生命
といった中堅生損保や、かんぽ生命も含まれています。

注目される「ORSAレポートの提出義務化」に関しては、
「検討を引き続き行って参りたい」としかありませんでしたが、

・監督当局として各保険会社のERM態勢を、業界横断的に
 横串を通して把握するツールとして有用であることが確認できた

・多くの会社から社内・グループ内におけるリスク文化の醸成・
 ERM態勢の浸透に有用なものであるとの声が多く聞かれた

といった前向きなコメント。

今回はレポートの試作にあたり、予め項目を示した模様です。
この記載要領をどこまで示すべきかは悩ましいところでしょう。

自己規律という点を重視するのであれば、大項目だけを示し、
不足分はヒアリングでカバーすればいいと思います。
ただ、レポートを検証する行政当局は大変です。

他方、記載要領を細かく規定すればするほど、当局としては
横串を通しやすくはなるものの、記載要領に当てはめる作業が
ORSAレポート作成の中心になってしまいがち。
それでは何のためのORSAだかわからなくなってしまいます。

個人的にはあまり細かくしないほうがいいと考えていますが、
いかがなものでしょうか。

さて、内容についての詳細はHPでご覧いただくとして、
私が興味深く感じたのは次の2点です。

まず、ORSAの定義として広義と狭義の2つを示していることです。

狭いほうは、

「自らが抱えるリスク量と、リスクに対する備えとなる資本を比較する
 ことにより、自らの健全性を評価するもの」

と、文字通り「リスクとソルベンシーの自己評価」を示すのに対し、

「保険会社・グループが現在及び将来のリスクと資本等を比較し、
 資本等の十分性の評価を自らが行うとともに、リスクテイク戦略等の
 妥当性を総合的に検証するプロセス」

「ORSAは統合的リスク管理(ERM)における中核的なプロセス」

など、金融庁は広い意味でのORSAの定義も示しており、
ORSAレポートはこちらのORSAについての記載を求めています。
すなわち、「リスクテイク戦略等」を含むレポートです。

もう一つは、次のくだりです。

「損害保険会社に加え生命保険会社においても、リスク選好に基づく
 ERM フレームワークの具体的な整備を実施ないしは検討を開始する
 社があり、ERM 態勢の改善・充実が進展していることが確認できた」

前回のヒアリング結果には、「損害保険会社が進んでいる」という
記載はなかったので、興味深く読みました。

※今年も慶大で講師を務めました。質問は少なめでしたが、
 熱心な学生さんが多かったようで、うれしいですね。

 

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流動性リスクアペタイト

 

26日に金融庁が公表した、「大規模で複雑な業務を行う
金融グループにおける流動性リスク管理に係る着眼点(案)」
をご覧になったでしょうか。
金融庁のHPへ

このなかに出てくる「流動性リスクアペタイト」という言葉に
何だかひどく違和感を感じました。

リスクアペタイトの設定とは、一般に、どのようなリスクを
どこまで取ることを許容するかを経営として定めておくことです。

だから、「流動性リスクについてもリスクアペタイトを設定しても
おかしくないだろ!」と言われればそれまでなのですが、
私の違和感はおそらく次の2つから来るのだと思います。

まず、本来は全社ベースのリスクアペタイトがあって、
これに沿って各リスクのアペタイトが設定されるのに、
この着眼点はいきなり「流動性リスクアペタイトの設定と遵守」です。

「グループ全体として統合的に設定された流動性リスクアペタイト」
とあるのですが、そもそもグループ全体のリスクアペタイトは
どこへ行ってしまったのでしょうか。

今回対象とした「大規模で複雑な業務を行う金融グループ」
には全社ベースのリスクアペタイトがあるのが当然なので、
あえて書いていないのだとしても、ちょっと乱暴ですね。

もう一つ、リスクアペタイトの設定は、単にリスクへの耐久力を
決めておこうというのではなく、財務健全性を維持しつつ、
リターンを上げ、会社価値の向上を図るために設定するものです
(少なくとも全社ベースではそうだと思います)。

もっとも、そう書いたものの、もしかしたら銀行業界では
保険業界とは違い、リターンや会社価値の向上はあまり気にせず、
専らリスク許容度を決めることがリスクアペタイトなのかもしれません。
この分野では用語の使い方が異なることが時々ありますので。

とはいえ、金融安定理事会(FSB)のペーパーを見る限りでは、
FSBも、経営戦略との結び付きを重視しているようです。

まあ、取らないリスクについて、アペタイトを設定しても構わない
(経営状況によっては、積極的にそうすべき時もありうる)ですが、
こうして流動性リスクについてだけ「リスクアペタイト」と言われても、
私には「流動性リスクを積極的に取り、リターンを上げる」経営が
想定できないので、違和感を感じるのでしょうね。

なお、HPにある流動性リスクアペタイトの事例を見ると、

「強いストレスがひと月続く場合にも耐えうる余剰流動性資産を確保」
「一定のストレスが2、3か月続いても耐えうる余剰流動性資産を維持」
「1年間耐久可能な余剰流動性資産を保有」

などがあるそうです。
これならわざわざアペタイトと呼ばなくても、リスク管理方針でよさそうですが…

※某アイドルグループのグッズ販売に参戦(?)してきました^^

 

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生命保険の加入経路

 

今回も、少し前の投資家・アナリスト向け説明会から。

生保市場の動向を知るうえで最も利用されてる統計は
生命保険文化センターが3年ごとに調査している
「生命保険に関する全国実態調査」だと思います。
ブログ「生命保険実態調査」へ

最も引用されているのは「世帯加入率」だと思いますが、
「直近加入契約の加入チャネル」もよく引用されていて、

・全体の7割近くが生命保険会社の営業職員から購入

という結果が示されています(例えば2012年調査)。

ところが過日、第一生命が実施したIR説明会で、
これとは大きく異なる数字が出てきました。

第一生命によるアンケート調査によると、
民保販売員による生保加入は、かつては6割超だったものが、
2011/3期以降は4割まで下がっているというのですね。
第一生命のプレゼン資料(P16が当該スライド)

統計に誤差はつきものですが、7割と4割ではだいぶ違います。

そこで、似たような調査結果を探してみると、
全国銀行協会が2010年に実施した消費者アンケートに、
「最近5年以内の加入チャネル」というものがありました。
全銀協の資料へ(当該スライドはP11、12)

アンケートによると、保険会社の営業職員からの加入は、
全体の49.1%となっています。内訳も示されていて、

 ・死亡保険では56.7%
 ・医療保険等では41.1%

とのこと。いずれにしても「7割」からは遠い数字です。

公表されている統計の説明だけではその差をうまく説明できません
(特に第一生命のアンケートは調査要領が出ていない)が、
「生保の加入経路の7割は営業職員」と言い切ってしまうのは
ちょっと危険かもしれません。

 

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リスクポートフォリオの公表

 

日本と欧州の保険業界に共通した動きとして、
内部管理上のリスク関連情報を外部に公表する動きがあります。

例えば、内部管理上の資本十分性の定量的な開示
(ESRと言われる指標を公表)は、いまや標準となっています。

内部管理上の指標であり、比較可能性は担保されないものの、
規制資本をはじめ、現行会計に基づいた情報では、資本十分性や
効率性などを判断できないというコンセンサスがあるのでしょう。

今月のIR説明会では、MS&ADグループがリスクポートフォリオの
内訳と今後の方向性を公表し、注目を集めました。
欧州大手では一般的な開示ですが、日本ではソニー生命だけで、
大手損保グループでは初めてとなります。
説明資料へ(スライド20)

資料によると、政策株式のリスクが全体の40%弱と突出しており、
日本の自然災害(風水災、地震)をはじめとする保険引受リスク、
政策株式以外の資産運用リスクが、政策株式に次ぐ水準
(いずれも20%弱)となっています。

これを見ると、MS&ADグループが政策株式を減らそうというのも
納得できますね。

国内損保の保険引受リスクがそれほど大きくない一方で、
政策株式以外の資産運用リスク(国内損保)がそこそこ大きく、
ちょっと意外でした。

三井住友海上、あいおいニッセイ同和の出再保険料が
数年前に比べるとかなり増えているので(特にネットベースで)、
足元では自然災害リスクを相当抑えているのかもしれません。

リスクポートフォリオの内訳は、今後のグループ経営戦略を
理解するのに有効な手掛かりだと思いますので、
開示の動きが広がることを期待しています。

※母校が創立100周年ということで、近所に住む同窓生が
 握り寿司をふるまってくれました♪

 

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