監督指針等の改正案

 

金融庁は先週、「保険会社向けの総合的な監督指針」と
「保険検査マニュアル」等の改正案を公表しました。
今事務年度の監督方針で予告のあったORSAの概要が
示されたことになります。
金融庁のHPへ

改正案はIAIS(保険監督者国際機構)が2011年に採択した
ICP16、すなわちERMと、リスクとソルベンシーの自己評価
(ORSA)の実施を受けたものです。
特に監督指針は全面的な見直しとなっています。

詳しい内容はHPをご覧いただければと思いますが、
よくわからないのは監督当局の関わりかたです。

ICPには「監督者はORSAのアウトプットを活用すべき」
とあります。

統合的なリスク管理態勢の整備は「特に、大規模かつ
複雑なリスクを抱える保険会社にとって重要」とあるものの、
ORSAそのものは全社が対象です。
米国ORSAのように一定規模の会社だけではありません。

ところが、指針案には「リスクとソルベンシーの自己評価を
定期的に実施し、取締役会に報告することが求められる」
とあるだけで、それを当局に提出するとは書いてありません。

指針案では、新たに「統合的リスク管理態勢ヒアリング」が
設けられています。
ですが、これまでのERMヒアリングは20社強が対象でした
(しかも、グループベースのヒアリングでした)。

もしかしたら、しばらくは任意のアンケートとして提出を求め、
義務化はしないということかもしれません。
ただ、これでは第三者に説明するのが難しそうです。
当局向けにはサマリー提出という手もあると思うのですが。

もっとも、全社のアウトプットを受け取ると規定した場合には、
受け取った内容を誰がどう確認し、どう対応するのかなど、
それはそれで大変だとは理解できます。

※せっかく青山に行ったのに、イチョウ並木はこんな感じでした。

 

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きんざいのコラム

 

今週の週刊金融財政事情の巻末コラムはなかなか辛口でした。
「生保は逆ザヤを生んだ経営を繰り返すな」というタイトルです。
金融界有識者が執筆しているとありますが、私ではありません^^

主なポイントを引用させてもらいます。

・かつて逆ザヤを生むに至った生命保険会社各社の経営体質は、
 まだ安心とはいえそうにない。

・(逆ザヤを生んだ)背景には、運用やリスク管理よりも保険の販売を
 優先する、生保経営の「量への偏重」があったが、この生保の体質は
 治っていないように思われる。

・たとえば、年金基金向けには、現下の短期金利がほぼゼロで
 長期国債の利回りでも0.6%程度の環境にあって、0.75%ないし
 1.0%といった利回りを保証して一般勘定の運用を引き受けるような、
 金融常識が欠如した営業行動を制御できていない。

・残念なことに、経営者の無能リスクをカバーする保険はないので、
 金融機関であることの自覚と常識をもってしっかり経営してもらいたい。

いかがでしょうか。

※写真は丸の内のイルミネーションです。

 

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生保の資産構成

 

前回は生保上半期報告そのもののコメントをしなかったので、
日銀の異次元緩和を受けた資産運用の動きを見てみましょう。

結論から言うと、いわゆる「ポートフォリオ・リバランス」は
総じて見られないようです。

この上半期の生保資産構成(一般勘定)を確認すると、
株式ウエートが高まっているように見えますが、
残高を増やしたというよりは、時価上昇による影響が大半です。

外貨建資産を増やした会社はそこそこあったようです。
ただ、同時にヘッジポジションも増えています。

他方、公社債については、引き続き長期化を進めた会社と、
様子見だった会社に分かれたようです。
「その他有価証券区分」の公社債残高を減らす動きは、
この区分の残高が大きい会社で引き続き見られました。

なお、生保からの資金流出ですが、生保協会データによると、
保険金・年金・給付金と解約返戻金・その他返戻金の合計は
収入保険料を下回っています(43社合計)。

個別に見れば、過去に銀行を通じて変額年金や外貨建年金等を
積極販売した会社の解約返戻金が高水準で推移しています。
これをもって「保険から投信へ」とまで言えるかどうか。
こちらも引き続きウォッチしていきましょう。

※写真はどこかの紅葉の名所みたいですが、実は日比谷公園です。

 

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「逆ざや解消」報道に疑問

 

先週後半から大々的に風邪をひいてしまいまして、
ようやく回復しつつあります。
妻からは「長い!私なら1日で治すわよ!」とのお言葉。
日頃の不摂生がたたったのでしょうか。m(_ _)m

というわけで、少し遅れてしまいましたが、
先週の生保上半期報告(というか、その報道)について
コメントを少々。

日経をはじめ、「逆ざや解消」がキーワードとなり、
主要生保の利差合計が初めて順ざやとなったことが
注目されています。

「バブル期に販売した高利回りの保険が満期を迎えて減る
 などして、契約者に約束する平均利回りが年々下がってきた。
 加えて4-9月期は円安の影響で外債の利息収入がかさ上げされ、
 一気に逆ざやが解消した」(11/28の日経)

このブログで何度も苦言を呈していますが、特に今回はまずいです。
「逆ざや解消」がひとり歩きしてしまい、生保経営に対し、
「健全になったのだから、リスク資産へ投資しろ」という圧力が
高まるのではないかと心配です。

この「逆ざや解消」には何の意味もありません。

高利率の契約がだいぶ少なくなった印象を受けますが、
大手生保の個人分野の責任準備金に占める高利率契約
(=1995年度以前の契約)は、いまだに4割程度もあります。

生保の契約は非常に長いので、残念ながら高利率契約の負担は
なかなか小さくならないのです。

しかも、団体年金保険が見かけ上の平均予定利率を
押し下げていることも忘れてはなりません。
昨年度の責任準備金(一般勘定)に占める団体年金の割合は、
例えば日本生命が23%、明治安田生命が24%となっています。
団体年金の平均予定利率は1%程度です。

逆ざや額を計算する運用収益にも問題があります。

記事にある、「円安の影響で外債の利息収入がかさ上げされ、
一気に逆ざやが解消」って、意味がわからないですよね。

逆ざや額を計算する運用収益は「利息配当金収入」なので、
株価や為替の変動はほとんど影響がありません
(ただし、投信の運用損益の一部はここに入ります)。

しかし、外債の利息収入は為替変動で振れるので、
このような説明になったのでしょう。
間違いではありませんが、利息収入だけ円安で増えて、
元本は見ないなんて、おかしいですよね。

つまり、逆ざや額は生保の運用成果を反映したものでは
ないのですね。

「逆ざや額」はそのわかりやすさから広く使われてきましたが、
むしろ弊害のほうが大きくなっているように思います。

※写真は地元・大倉山公園です。

 

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大手損保の中間決算発表

 

3メガ損保の2013年度第2四半期(4~9月期)決算が
19日に公表されました。

自動車保険の収支改善や自然災害の損害額減少が
注目されているようなので、私もデータを眺めてみると、
いくつか発見がありました。

まず、自動車保険では、大手5社とも増収ですが、
内容はやや異なるようです。

東京海上は契約台数が増え、単価は横ばいなのに対し、
他の4社は契約台数が横ばい(または減少)で、
単価上昇により増収を果たしていました。

単価については値上げ時期の違いが影響しているのでしょう。
東京海上の台数増は生保提携効果が続いているのか、
それとも「超保険」効果なのか、詳細はわかりませんが、
他の2グループとはやや違う結果となっているようです。

自然災害についても、確かに前年度に比べれば
損害額は大きく減っています。

ただし、自然災害が少ない年度とは言えなさそうです。
3メガ損保の損害額は1000億円を超える見込みで、
2007年度(約400億円)や2008年度(約400億円)、
2009年度(約700億円)とは違います。

他にもいろいろありそうですが、まずはこんなところで。

※写真は靖国神社の青空骨董市です。
 毎週日曜日に開催されています。

 

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「好決算」に惑わされないで

 

先週から保険会社の決算発表が始まりました。
第一生命の連結純利益は前年同期比71%増、
T&Dの連結純利益は倍増となりました
(14日公表)。

増益には有価証券評価損が減ったことや、
外国証券の利息・配当金増加が大きかったようです。
ともに上場以来、上期の最高益を更新したとか。

メガバンクの決算発表もありました(同じく14日)。
みずほと三井住友はやはり上期としての過去最高益。
前年に比べ、株式評価損が少なかったことと、
貸倒引当金の戻し入れなどが寄与した模様です。

メディアが報道する「好決算」「過去最高益」には
どのような意味があるのでしょうか。

決算発表でメディアが会計上の損益に注目するのは、
損益の拡大、イコール、会社価値の拡大という前提が
あるのだと思います。

しかし、例えば「株式評価損が減ったから増益」
「貸倒引当金が戻入になったから増益」というのに
皆さんは違和感ありませんか?

株式を保有しているのであれば、株価が上がれば
会社価値にはプラス、下がればマイナスです。
ところが、会計上の損益に株価上昇の影響は
あまり反映されません(貸出金も同様です)。

金利についてもそうです。
特に、長期にわたり固定利率を保証している生保の場合、
この上期は超長期金利が上昇し、将来の負担が減り、
会社価値が改善しました。
ところが、会計上の損益にはほとんど反映されていません。

金融セクター(銀行、保険)の場合、会社価値の拡大と
会計上の損益のギャップがあまりに大きく、過去には、
会計上の損益をターゲットにした経営をしていたために
会社が傾いてしまった中堅生保もありました。

銀行や保険会社の経営陣は、さすがにこのあたりは
理解していると信じていますが、メディアが相変わらず
会計上の損益だけを見て「好決算」「過去最高益」とはやすと、
もしかしたら引きずられることがあるかもしれません。

さすがに日経新聞は、銀行については「好決算」としつつも、
「国内の貸出が伸びていない」「利ざやは縮小」と、
本業の厳しさをきちんととらえています。

保険についても、「保険料収入が増えたから増収」
「アベノミクス効果で増益」という意味不明な報道ではなく、
会社価値の変動を意識した記述がほしいですね。

※今月に入り、上智大と東京経済大で講義を行いました。
 写真は東京経済大です。武蔵野の面影を感じます。

 

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種村直樹さん

 

久しぶりに丸善をのぞいたら、「種村直樹の鉄道旅行術」
という雑誌があり、思わず購入してしまいました。

ブログの写真などでお察しの通り、私は鉄道の旅が好きで、
中学生の時から友人と、あるいは一人で出掛けていました。
車窓から景色を眺めたり、知らない町をうろうろしたり、
まあ、鉄分のあまり強くない乗り鉄(?)でしょうか。

そんな私が1980年代に強く影響を受けた作家といえば、
もちろん宮脇俊三さんと種村直樹さんです。
特に種村さんは目線が若年層にも向いていて、
様々な著作で汽車旅の魅力を伝えてくれました。

種村さんの本には「質問があればお問い合わせ下さい」と
住所が掲載されていて、中学生の私が質問の手紙を書いたら、
本当に種村さんから丁寧な回答が送られてきました
(右の写真です)。

どうして質問の手紙を書こうと思ったのか、なぜこの質問なのか、
回答の手紙を読み返しても思い出せないのですが、
種村さんから返事がきた時の感動は忘れられません
(達筆すぎてよく読めなかったという記憶もあります^^)。

それにしても、読者との手紙による交流から、熱心な読者による
友の会(ネットワーク)ができ、そこから著作が生まれる。
ネットもメールもない時代に、このようなやり方を生み出したのは
すごいことですね。

「種村直樹の鉄道旅行術」にはご本人の執筆はなく、
長期療養中とのことです。回復をお祈りしています。

 

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MCを務めました

 

7日(木)、8日(金)は日本アクチュアリー会の年次大会。
初日の特別講演、2日目のパネルディスカッションと、
2日続けてMC(≒司会者ですね)に挑戦しました。

初日のテーマは「金融機関のガバナンス」。
名古屋大学の家森信善教授と、先日ブログでもご紹介した
『金融機関のガバナンス』の著者である天谷知子さんに
それぞれ30分ずつお話しいただいた後、フロアに代わり、
私がお二人にいろいろと質問をしました。

2日目は「ERM」「ERMとアクチュアリー」をテーマに、
東京海上HDの伊藤卓CRO、金融庁検査局の佐々木審議官、
東京大学の国友直人教授といった産官学の重鎮に対し、
ERM資格の初回合格者である藤澤陽介さん(ライフネット生命)と、
ERM委員会の吉村委員長(ミリマンジャパン)が挑みました。

講演ではなくディスカッション形式にしたからには、
MCとしての役割を果たさなければなりません。

両日とも、「パネリストに聴衆に関心のありそうな質問をする」
「できるだけ具体的な話を出してもらう」の二つを心がけました。
出席されたかたのご感想はいかがでしょうか?

MCをやるといつも感じることですが、ディスカッションが始まると
あっという間に時間が経ってしまいます。
特に2日目は5人のパネリストですから、1人2分しゃべっても
それだけで10分かかります。

限られた時間のなかで、いかに興味深い話を引き出すか。
MCはなかなか奥の深い仕事ですね。

※写真は東京駅です。

 

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「生命保険料 下げやすく」

 

2日(土)の日経に標準利率見直しに関する記事が出ています。
一時払いの貯蓄性商品について、現在よりも標準利率を
市場動向に連動しやすくするようです。

まだ金融庁からの公表はなく、あくまで観測記事ですが、
朝日新聞による観測記事(1月)よりもかなり具体的なので、
ようやく内容が固まったということなのでしょう。

標準利率は「生命保険料算出の基準」とありますが、
正確には(標準)責任準備金を計算する基準であって、
保険料の基準となる予定利率は各社が独自に決めています。

今年4月からの標準利率引き下げを受けた各社の対応は
結構ばらついていましたよね。

ただ、例えば標準利率よりも予定利率を高く設定すると、
責任準備金を積み立てるのが難しくなります。
このため、保険会社が標準利率から大きく乖離した予定利率を
設定することはなく、価格競争の歯止めとなっています。

確かに現行の規制では金利上昇時に標準利率がついていかず、
生保の貯蓄性商品の競争力は相対的に落ちてしまいます。

とはいえ、標準利率が金利上昇についていきやすくなることと、
各社がどのような予定利率を設定するかは別の話です。

超長期に固定利率を保証することの難しさは、現在も抱えている
高予定利率契約の負担で身にしみていると思います。
ALM(資産・負債の総合管理)の重要性が一段と高まりますね。

「いざとなったら保障性商品の利益で補填すればいい」
などと言っている人はいませんか?

なお、新たな予定利率が適用されるのは新契約だけです。
すでに販売した予定利率の低い終身保険が、金利上昇時に
どうなるかという問題は残ります。
予定利率の高い保険に「転換」なんて手があるのでしょうか?

※写真は「京の台所」として知られる錦市場です。

 

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新しい金融検査・監督

 

金融庁検査が何かと話題になっていますが、
1週間前の週刊金融財政事情(2013.10.21)に
森信親検査局長のインタビュー記事が載っていました。

タイトルは「金融検査の見直しの真意」。
もちろん「金融モニタリング基本方針」に関する内容です。

森局長は金融検査見直しの方向性として、

1.個別金融機関の検査間隔ごとの定点観測から、
  常時対話をして金融機関の動向を「リアルタイム」で
  把握する方法へ

2.ミニマムスタンダードを満たしているかの検証に加え、
  「ベストプラクティス」を業界にフィードバックするなど、
  金融業全体のレベルアップという観点からのモニタリング

3.重要なテーマについて「業界横断」的に実態を分析・把握し、
  改善策を検討するという観点からのモニタリング

の3つを挙げています。

「リアルタイム」「ベストプラクティス」「業界横断」が
キーワードなのだそうです。

暴力団融資の問題で金融検査も批判にさらされていますが、
改革を進め、オン・オフ一体のモニタリングに期待したいです。

もっとも、きんざいの記事でのなかで、保険会社に関する部分は
限られていました(媒体が「きんざい」だからかもしれません)。

「保険会社のモニタリングも変わるのか」という問いに対し、

「業界共通の課題について横断的にみていくことになる」

とあるのですが、課題として挙げられた内容は、
生保が「少子高齢化に伴う市場の縮小にどう対応」
損保が「海外展開に伴う課題」という例示。

公表されている水平的レビューの検証項目には
2ページにわたり検証候補が挙げられているとはいえ、
もう少し具体的なコメントがあってもよさそうなものですね。

「保険でも同じようなモニタリングチームを編成していきたい」
すなわち、個社別業態別のモニタリングチームに加え、
「リスクカテゴリー別の専門チームを編成」という記述もありました。

銀行と保険会社では事業・リスク特性が違うので、
例えば同じ「市場リスク」でも、銀行の専門チームが
同じ目線で保険会社を見ることはできないと思います。

ですから、同じようなモニタリングチームを作るとなると、
業態別チームに加え、保険独自の専門チームが必要ですね。

※京都では紅葉が始まっていました。

 

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