4月5日の共同通信から。
「大手損害保険5社が5日発表した2012年3月期の営業成績速報
によると、売上高に当たる収入保険料が全社で増収となった。」
2月14日の朝日新聞から。
「銀行での窓口販売が伸びた明治安田生命は4~12月期で、
売上高にあたる保険料等収入で日本生命を抜いて首位に立った。」
メディアでは保険会社の収入保険料/保険料等収入を
事業会社の売上高にあたる、としているようですね。
売上高とは一般に、商品やサービスを提供した対価として
顧客から受け取った代金のことです。
保険会社の場合、保障(補償)を提供する対価として
保険料を受け取っているのだから、これでいいのかもしれません。
ただ、例えばトヨタ自動車の売上高をみると、自動車だけではなく、
金融事業の収益も入っています。
保険会社にとって資産運用は保険事業と並ぶ本業なのだから、
売上高は保険料だけではない、という考え方もできそうです。
確かに保険会社の損益計算書には「売上高」がなく、
代わりに「経常収益」となっています。銀行も同様です。
ところが同じ「経常収益」でも、銀行の経常収益の内訳は、
貸出金利息や有価証券利息配当金などの「資産運用収益」と
「役務取引等収益」「その他業務収益」「その他経常収益」で、
保険会社の「収入保険料/保険料等収入」にあたる項目がありません。
保険会社が保険料を受け入れて、資産運用を行っているように、
銀行は預金を受け入れて、資産運用を行っているにもかかわらず、
銀行の「預金収入」は損益計算書を通らないのですね。
保険と預金では本質的に違いがあるのでしょうか。
将来キャッシュフローを提供するという点では両者は同じです。
定期預金であれば、一定期間後にキャッシュを支払いますし、
終身保険であれば、死亡をトリガーにキャッシュを支払います。
実際、米国の会計基準では、年金保険の収入保険料は
損益計算書に計上されません。
いろいろと考えてきましたが、どうやら「売上高」というものは
非常にあいまいであることがわかってきました。
それでも売上高が注目されるのは、世間のニーズとして
「取引規模の大小をざくっと知りたい」というものがあり、
そのニーズにある程度かなっているからなのでしょう。
銀行だったら「預金残高」でも「貸出金残高」でもいいですし、
保険会社なら「年換算保険料」でも「総資産」でもよさそうです。
いずれにしても、経営陣が最重要と考える指標ではないことを、
よく理解してもらいたいですね。