個人契約者の増配

 

11日の日経1面トップは、日本生命が個人契約者の配当を
7年ぶりに増やす方針を固めたという記事でした。
他の大手生保も増配を検討しているとのことです。

過去にも増配報道の不思議さについてコメントしましたが、
決算発表の際にも「増配」が取り上げられるでしょうから、
今のうちに疑問点を2つ挙げておきましょう。

疑問1:「増配総額」だけで「配当総額」はいいのか?

今回の各紙報道は「増配総額は約30億円」とあるものの、
配当総額がどの程度になるかの報道がありません。

これが株主配当であれば、増配もさることながら、
利益のうち配当還元がどの程度なのか注目されるはず。

それでは、前年の大手生保の個人向け配当総額は
いったいいくらだったのか。実は公表されていません。

相互会社では、剰余金処分額に「社員配当準備金」があり、
配当財源として社員配当準備金にあてた金額はわかります
(例えば昨年度の日本生命は2017億円)。

ただし、ここには団体保険、団体年金の配当も含まれていて、
両者がそこそこ大きな金額を占めているのです。

ディスクロ誌には「社員配当準備金明細表」という表があり、
保険種類ごとに当期の配当金支払がわかるのですが、
直近決算の支払額が掲載されるのは次のディスクロ誌です。

また、「当期の配当金支払」は必ずしも当期の配当所要額では
ないので、個人向け保険ではこれを配当所要額とみなすのは
ちょっと厳しいのではないかと思います。

ということで、配当準備金の内訳を公表してほしいのですが、
大手生保のなかで内訳を公表しているのは第一生命だけ。
保険マスコミの皆さまに期待しましょう。

疑問2:生保の配当はどうやって決まるのか?

日経だけではなく他紙も含め、増配の理由として、

「株高や円安で資産運用収益が増え、保有契約数の反転など
 本業の改善も確実になったと判断」

とほぼ同じ書きぶり。円安・株高の恩恵というわけです。

ただ、ここで言う「資産運用収益」とは何でしょうか。
基礎利益に注目するのであれば利配収入なのでしょうし、
円安・株高で資産価値が上がり、売却益をあてるのかも
しれません(まあ、増配総額30億円ですしね)。

いずれにしても、何がどうなったら生保は配当を増やすのか。
基礎利益なのか当期剰余なのか、あるいは支払余力なのか。
いくら経営の裁量で決められるとはいえ、株主配当に比べると
あまりに手掛かりがないと感じるのは私だけでしょうか。

そのようななかで、

「生保の増配は株や外貨建て商品を持たない保険の契約者にも
 円安や株高の好影響が及ぶ」(日経)

とは、ちょっと強引な感じがしますね。

日本生命の昨年12月末のソルベンシーマージン総額は
12.6兆円(前期末比+3.2兆円)に達しているのですから。

※写真は娘の作品です(中3家庭科)。
 親バカということでご容赦下さい^^

 

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ジュネーブ協会のレポート

 

保険業界の国際シンクタンク組織であるジュネーブ協会が、
日米生保の破綻事例に関するレポートを公表しています。
ジュネーブ協会のサイトへ

日本は主に2000年前後の中堅生保の破綻事例を、
米国はMutual Benefit(1991年破綻)など3社の事例を
取り上げ、いずれも契約者負担を和らげることができ、
金融安定を確保できたと結論付けています。

日本の記述を見ると、

「破綻後の契約条件の変更等がなければ、業界負担が
 約6兆円に達した可能性がある(実際には0.78兆円)」

という分析がありました。
負債のデュレーションを15年として試算した数値のようです。

6兆円と0.78兆円の差額を誰が負担したのかといえば、
破綻会社の契約者です(再建スポンサーではありません)。
改めて当時の生保破綻における契約者負担が大きかった
とわかります。

著者の大久保さんには申しわけありませんが、
日本の記述を見て、いくつか気になるところがありました。

米国の事例では、破綻が他のライバル生保の契約に
波及しなかったとのことですが、日本では違いました。

1997年に日産生命が破綻すると、多くの中堅生保で
解約が増えています。「相次ぐ破綻で解約が増えた」と
破綻直後の記者会見でコメントした社長もいました
(東京生命の事例)。

私自身は、解約が殺到して資金繰りに行き詰まり、
破綻に至った会社はなかったという分析をしていますが、
このレポートで当時の解約増について触れていないのは
ちょっと不思議な感じがします。

もう一つ、金融安定ということなので、当時の生保と銀行の
関係について何らかの記述があるとよかったかもしれません。

日本の場合、銀行危機と生保危機が同時進行でした。
当時の両者は今よりも相互に資本(基金や劣後ローンを含む)
を持ち合う関係となっていましたので、連鎖的な経営悪化が
懸念されたと記憶しています。

最終的には、大手銀行を中心に政府が公的資金を投入
(預金者は100%保護)し、連鎖的な経営悪化を避ける一方、
親密銀行からの支援を得られず破綻した生保も数社ありました。

生保が破綻しても銀行は大丈夫、という判断だったのか、
このあたりは私ももう少し知りたいところです。

※箱根旧街道を湯本から芦ノ湖まで歩きました。
 石畳の道は歩きにくいです。

 

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韓国もORSAを導入

 

韓国の写真だけ載せて、仕事(保険)絡みの話が
なかったので、韓国のORSA対応をご紹介しましょう。
参考:日本版ORSA関連の記事

今回知ったのですが、韓国の保険当局は昨年7月、
ソルベンシー規制の改善に向けたロードマップを
公表しているのですね。

このロードマップでは、定量的な規制(RBC比率)
の見直しとともに、定性的な規制としてORSAを導入し、
その導入スケジュールを示しています。

2015年~16年をORSAのテスト期間と位置付け、
2017年に正式導入する予定なのだそうです。

先々週の時点ではまだ韓国版ORSAのガイドラインや
報告のひな型などは公表されていませんでしたが、
当局や業界等によるORSA検討チームを設置し、
議論を進めてきたようです。

ORSA導入の背景には、やはりIMFのFSAP
(金融セクター評価プログラム)があるとみられます。

FSAP JAPAN(2011-12年)と同じように、
韓国でも2013年にIMFによるFSAPが行われました。
その評価概要(の一部?)が公表されています。
IMFのサイトへ

このうちERMに関する評価コメントをみると、
ICP16については「Largely Observed」という
上から2つめの評価でしたが、ORSA実施を求める
コメントがありました。

ORSA実施により保険会社のリスク管理高度化を
促すことが期待されているようです。

なお、IMFは当局のERMに対するスタンスには
前向きな評価をしていますが、業界について、
すなわち、韓国保険業界のERMの現状には、
改善の余地が大きいと考えているように読めました。

※韓国の列車にはなんとカラオケボックスがありました。

 

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特定保険募集人

 

ブログのネタは次々と出てくるのに、
なかなか更新が追いつかない状況です。

今回は自分の勉強を兼ねて、募集規制の話を。

18日に金融庁が新たな保険募集規制に関する
政府令・監督指針案を公表しました。
金融庁のサイトへ

このうち「規模の大きい特定募集人」を探してみると、
施行規則236条の2に規定があり、

・15社以上の生保会社を乗合、または、
 乗合かつ手数料等の総額が年10億円以上

・15社以上の損保会社を乗合、または、
 乗合かつ手数料等の総額が年10億円以上

・15社以上の少短事業者を乗合、または、
 乗合かつ手数料等の総額が年10億円以上

のいずれかに該当するものとなっています。
これを読んだかぎりでは、会社数も手数料等も
生損保通算ではないのですね。

特定募集人が作成を求められる「事業報告書」の
ひな型も示されていました
(施行規則案の最後に「別紙」として添付)。

注目の募集手数料は、保険種類別に直近3ヵ年度、
さらに取扱保険会社別・商品別に月次で報告する
様式となっています。

「保険会社から提供される手数料等支払明細書等」
に基づいて記載するとのことですが、保険会社から
月次で商品別に手数料明細が出ているのでしょうか?
(単に私が知らないだけかもしれません)。

ここだけ見ても、いろいろと意見が出てきそうですね。

※写真は松山です。

 

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CGコード原案

 

今週の週刊金融財政事情(2015.2.16号)は
「リスクテイクのための企業統治論」特集でした。

昨年末に東証と金融庁を共同事務局とする有識者会議が
「コーポレートガバナンス・コード原案」を公表しました。
金融庁のサイトへ

特集では、次の4名のかたが寄稿しています。

・金融庁・総務企画局長の池田唯一さん
・日本経済団体連合会・常務理事の阿部泰久さん
・三菱UFJフィナンシャルグループ副社長の田中正明さん
・ガバナンス・フォー・オーナーズ・ジャパン代表取締役の
 小口俊朗さん

このなかで、ガバナンス・コードの必要性について、
金融庁の池田さんと経団連の阿部さんの主張が対照的なので、
ちょっと長い引用ですみませんがご紹介します。

池田さん
「諸外国では、企業家精神が旺盛すぎた経営者も多く、昨今、
 行き過ぎがないようにコーポレートガバナンスでそれをコン
 トロールするという傾向の議論が通例のように思われる。
 これに対し、わが国のコードは、諸外国とはベクトルの向きが
 逆かもしれないが、企業が適切なリスクテイクによって資本
 効率を高め、持続的に企業価値を向上させる、その際の説明
 責任の履行に資するような、『攻めのガバナンス』機能の発揮
 を目指すことで、上場会社の経営者の企業家精神の発揮を
 後押しするという考え方に立っているということがまずもって
 認識されるべきである」

阿部さん
「日本企業の『稼ぐ力』を高めるために、なぜコーポレートガバナ
 ンス・コードが必要であるのかは定かではない。もともと、コー
 ポレートガバナンス体制の構築は、不祥事の未然防止や、短期
 的利益の獲得を狙った経営陣の暴走を抑制するために必要と
 されてきたものである。いわばマイナスの未然防止策であり、
 いかに優れたコーポレートガバナンスの仕組みを整えたとしても、
 ただちに企業の収益性向上につながることはないはずであること
 をまず指摘しておきたい」

いかがでしょうか。
ガバナンス体制の整備と企業価値の関係についての議論は、
本来、アカデミズムにおける議論なども踏まえるべきなのでしょう。

ただ、企業価値を評価するのは第一義的には投資家ですので、
ガバナンス改革を求める投資家が多いという認識のもとでは、
政府主導で指針を作ろうというのは私には理解できます。

もちろん、形ではなく中身が重要なのは言うまでもありません。

※写真はある韓流スターの実家なのだそうです。

 

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生保の第3四半期決算

 

出張中に生保の第3四半期決算が出たので、
ざっと眺めてみました。

世間では保険料収入が気になるのかもしれませんが、
昨年10-12月期で大きかったのは金利水準の低下です。
国債利回りが10年で0.3%、30年で1.3%まで下がるなかで、
各社はどのような行動をとったのでしょうか。

資産構成を見ると、国内株式を増やした会社は少なく、
引き続き外貨建資産を積み増したことがうかがえます。
(ヘッジの状況は不明)。
日本、太陽、富国では、一般勘定に占める外貨建資産の
ウエートが25%前後に達しています。

公社債は、明治安田や朝日で残高が減っています。
時価上昇を踏まえると、実質的に残高が減っている
会社が他にもいくつかあるようです。

金利水準が下がり、公社債の含み益も拡大しています。
例えば、第一生命の有価証券含み益5.3兆円のうち、
公社債が2.4兆円を占めていました。

しかし、毎度のことですが、公社債の時価上昇よりも、
保険負債の増加が大きいので、株高・円安がなかったら、
各社とも結構厳しかったのではないかと思います。

保険料収入の増収と基礎利益の増益を見て、
「今回は好決算」と評価するのは間違いですし、
公社債含み益を経営体力と見るべきではありません。

実際、EV(試算値を含む)を公表している会社をみると、
第一生命とT&DのEVは9月末比で小幅増加にとどまり、
ソニー生命は減少となりました。

※韓国にもバレンタインデーがあり、かなり盛んなようです。
 もらえなかった人が慰め合う「ブラックデー」もあります
 (4月14日です)。

 

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テレマティクス保険

 

ご覧になった方もいらっしゃるかと思いますが、
今週のinswatch(通常版のほうです)で、いま話題の
テレマティクス自動車保険を取り上げました。

盛り上がっているところに水を差すようで恐縮ですが、
大手損保が(価格面を訴求した)テレマティクス保険を
自動車保険の主力に据えるとは私には考えにくく、
日本での普及には時間がかかるのではないかという
趣旨の記事です(外れたらごめんなさい)。

まず、運転特性による事故リスクの一部は、
現在の等級にすでに反映されているはずです。
というのも、リスクの高い層は過去に事故を起こしている
可能性が高いためです。

このため、英国や米国ほど保険料が下がる余地は
大きくないのではないかと思います。

ダイレクト保険の普及率の低さもネックです。
ダイレクト自動差保険のシェアは、20年近くたって今も、
個人向け自動車保険の1割程度に達したところです。

保険会社にとって、テレマティクスの活用は極めて重要
という認識を持ってはいます。
商品開発に限らず、成熟市場における競争力の源泉と
なりうるからです。

とはいえ、多少保険料が下がったからといって、
今の日本でパイの拡大が期待できるわけではありません。

すでに膨大な顧客基盤を抱え、「いいとこ取り」が難しい
大手の場合、価格面を訴求したテレマティクス保険を
主力に据えると、リスクの低い層の保険料だけが下がり、
高い層の保険料はそのままという事態が起きてしまいます。

リスクの高い層の保険料を上げられればいいのですが、
事故の有無ではなく、運転特性を根拠にした引き上げは
顧客の納得感を得られるでしょうか。

ハイリスク層は流出してかまわないとするなら話は別です。
ただ、この戦略は全体のパイが拡大しないと厳しいかも。

もちろん、大手以外の会社のテレマティクス保険が普及すれば
大手も動かざるを得なくなるとは思います。
しかし、「テレマティクス保険」という語感だけでバラ色の夢を
語るのはあまり現実的ではないと考え、このような寄稿をしました。

※ソウルに来ています。写真は汝矣島にある金融監督院です。

 

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「りそなに出資」報道に思う

 

第一生命と日本生命が、りそなホールディングスとの
資本関係を強化するという報道がありました。

例えば6日の日経夕刊を見ると、

「第一生命と日生がりそなと資本関係の強化に踏み切るのは、
 銀行窓口での保険販売を拡大させるためだ」

「第一生命と日生は出資をテコに銀行窓口で貯蓄型商品などの
 販売を増やす」

とあります。他のメディアも、「出資で保険販売強化」という論調。
完全にプレーヤー目線です。

昨年5月に保険業法が改正され、保険募集の基本的ルールが
全面的に見直されようとしているタイミングなのですが...

保険業法見直しのきっかけとなったのは、複数保険会社の
商品を販売する「乗合代理店の出現」(金融庁資料より引用)です。

乗合代理店が特定の商品の提示・推奨を行う場合には、
その理由を顧客に説明することになりました
(乗合代理店に対する情報提供義務)。

ある生保が銀行の大株主になったからといって、
その生保の商品しか取り扱わないというなら話は別ですが、
たいていの銀行は乗合代理店です。

資本提携イコールその生保の商品が売れるようになると
単純に考えるのは新たなルールの下ではおかしな話であって、
顧客に勧めるだけの何らかの理由が必要となります
(保険会社は当然そんなことはわかっているはずです)。

実は、同じ日の日経には保険ショップに関する記事があり、

「(金融庁は)販売が特定の商品に偏りすぎていないかや
 契約者への薦め方が適切だったかを重点検査する」

「保険ショップが保険会社から受け取る割高な手数料を
 目的にした販売を是正する狙い」

「特定の保険会社と資本関係があり、その会社の保険販売を
 強化している場合には、その事実を顧客に伝えるよう指針に明記」

と書いているのですね。

なお、「りそな出資」が報道の通りだとしても、それぞれの保険会社は
目先の貯蓄性商品の販売というよりも、もう少し中長期的な視点から
資本関係の強化を行うのではないでしょうか。

マスコミ的には両生保の保険料競争が面白いのかもしれません。
しかし、今の金利水準(海外を含む)で貯蓄性商品をがんがん提供する
保険会社があるとは思えないのですが。

※大倉山公園の梅が咲き始めました。

 

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出版記念講演会

 

ブログでご紹介した「保険ERM経営の理論と実践」
出版記念講演会は無事終了しました。

会場となった損保会館のサイトを確認すると、定員は225名。
ところが参加希望者が非常に多かったので、机を取っ払い、
何とか300人まで入れるようにしたのだそうです。

それでも、「申し込もうとしたら、もう締め切られていました」
という声を複数のかたからいただきました。

ということで、ご参加いただけなかったかたのために
勝手ながら私の印象に残ったところをご紹介します。

金融庁・小野審議官の基調講演「高まるERMの重要性」では、
ERMの各要素について、「先進的な社」「態勢整備を進めている社」
「検討に着手している社」「限定的な取り組みの社」の事例を挙げた
スライドがあり、当局の見方の一端がわかって興味深かったです。

座長の家森先生からは、
「MM理論を適用すると、企業が保険に入る必要はない」
「同じように考えると、ERM活動をしても企業価値に影響はない」
といった趣旨の発表がありました。

もちろん話には続きがあって、ERM研究の紹介となるのですが、
会場の皆さんは一瞬、目を丸くしたのではないでしょうか。

本書のERM経営の実践編である第3章・第4章については
執筆者を代表して東京海上の玉村さんがスピーチ。

会場には経営者や行政官も出席していましたが、
「ERM経営の推進には経営者のリーダーシップが不可欠」
「保険監督への期待(と不安)」
といった話にも触れていただきました。さすがです。

「行政への期待(と不安)」はパネルでもテーマとなりました。

講演とパネルで2時間という非常に限られた時間でしたので、
議論を深めるというよりは、講演会に参加された皆さんが
自分の業務を振り返ったり、何らかの考えるヒントを
持ち帰ったりしていただく、そんな機会になったのであれば幸いです。

 

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長期収支分析の新設

29日に日本アクチュアリー会が、長期収支分析に関する
「生命保険会社の保険計理人の実務基準」改正案を公表しました。
日本アクチュアリー会のサイトへ

保険計理人は法令で、責任準備金が将来にわたって
不足が生じないよう、健全な保険数理に基づいて適切に
積み立てられているかどうかを確認することとなっています。

この確認に関する将来収支分析(1号収支分析)において、
現行の「将来10年間の分析」に加え、すべての保険契約が
消滅等するまでの期間(=全期間)にわたる分析を、
新たに導入するというのが今回の改正案です。

アクチュアリー会のサイトには導入の背景等の説明はなく、
いまどうして長期収支分析の導入なのかわかりませんが、
おそらく関連する話として、FSAP JAPANをご紹介しましょう。

IMFは2011~2012年に日本の保険セクターの評価を行い、
その結果を2012年に公表しています。
IMFのウェブサイトへ

これを見ると、26の評価項目のうち、大半が「Observed(O)」か
「Largely Observed(LO)」という高い評価だったものの、
いくつかの項目は「Partly Observed(PO)」という低い評価でした。

POとなった項目の1つが「Valuation」です。

日本の責任準備金はいわゆる経済価値評価ではないし、
償却原価+キャッシュフローテストという手法としても、
10年間のテストしかしていない、という趣旨のコメントがあり、
IMFは「全期間の将来キャッシュフローを考慮すべき」
「評価方法を見直すべき」という指摘をしています。

生保の責任準備金は全期間のキャッシュフローを反映して
計算されているのですが、1号収支分析で「不足」と判断する時点は
5年後なので、これを「短い」と言われると反論は難しいでしょう。

今回のアクチュアリー会の動きがIMFの要請を受けたものなのか、
今のところ明らかにされていません。

ただ、今回の改正案は、全期間の分析を行うというだけで、
アクションを伴うものではなさそうですし、IMFが求める
「全期間の将来キャッシュフローを考慮した」となるのでしょうか
(ちなみにオープンモデルでもOKと読めますね)。

他方で金融庁は、経済価値ベースのソルベンシー規制の
導入に向けた準備を進めているので、こちらを進めれば
IMFの基準をクリアできるはず。

米国保険会社とは違い、日本の上場保険会社の大半が
ESR(経済価値ベースの資本十分性)を公表するなかで、
経済価値ベースも償却原価も、というのはどうなんでしょうか。

※銀座の中央通りに不思議な路地を見つけました。

 

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