金融行政方針と保険

 

金融庁が今事務年度(2015年7月~2016年6月)の
「金融行政方針」を発表しました。
金融庁のサイトへ

かつては監督局が業態別の「監督方針」を公表し、
検査局が「検査基本方針」を出していましたが、
一昨年度からは両者を統合した「金融モニタリング
基本方針」となり、今年度はより部局横断的な方針
となりました。

保険分野について確認すると、
「④ 金融機関による資産運用の高度化の促進」で、

「特に、保険会社の資産運用能力の向上は、
 自身の競争力強化にとって重要であると同時に、
 顧客の利益や国民の安定的な資産形成、さらには、
 我が国資本市場の発展に寄与する」

というくだりを見つけました。

「ビジネスモデルにおける資産運用の位置付けや
 運用の高度化に向けた取組みについて、経営としての
 問題認識や取組みの状況を確認する」

とのことです。具体的にはよくわかりません。

ただし、20ページからの【保険会社】のところでは、
統合的リスク管理の促進として、

「資産・負債の総合的な管理(ALM)等が適時適切に
 実施されているかを確認する他、各保険会社等の
 特性に応じた取組みを促す」

とありますので、「運用の高度化」が一人歩きしない、
負債特性を軽視(無視)したリスクテイクを促さない
ことを願っています。

他に、前回からの変化ということでは、

「当局の審査の考え方を出来るだけ早い段階で周知
 することにより、保険会社等の創意工夫を活かした
 商品開発や商品改定が迅速に行われるようにするため、
 商品開発部門や日本アクチュアリー会及び損害保険
 料率算出機構との対話を進める」

という記述がありました。具体名が書いてあるので、
それぞれの団体と協議を行うということなのでしょう。
対話の成果が公表されるといいですね。

※東京・三田の保険代理店「ライフィ」を訪問しました。
 50社以上の保険会社を取り扱っているのだそうです。

 

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相互会社の保険会社買収

日本生命による三井生命の株式取得をはじめ、
大手生保による内外保険会社の買収発表が
相次ぎました。

ところで、大手4社のうち、第一生命を除く3社は
相互会社です。

保険業法には、相互会社の非社員契約による
保険料が全体の2割を超えてはならないという
規定があります。

多くの非社員契約を認めると、相互会社の本質、
つまり、社員=契約者からなる組織という話から
外れてしまうからと言われています。

他方、相互会社が子会社として保険会社を持つ
のは可能であり、保険会社の買収に関しては、
相互会社と株式会社で法的な差はなさそうです
(それでいいのかという議論はあるかもしれません)。

とはいえ、株式会社による買収とは違い、
相互会社は社員(契約者)の持ち物なのですから、
保険会社の買収が社員にどんなメリットがあるのか、
経営者は十分に説明する必要があると思います。

これは単に買収の目的を説明すればいいという
話ではありませんし、「経営体力が回復したから」
「市場シェア拡大のため」では説明になりません。

例えば、内外保険会社の買収などで規模を拡大
しなければ、縮小市場のなかでは将来にわたり
保障を全うできないという経営判断なのであれば、
そのような説明が必要です。

あるいは、「保障を将来にわたり全う」は当然として、
契約者への還元を増やしていくには、事業規模の
拡大が不可欠と判断した、というのも理解できます。

米国の大手保険相互会社の公表資料を見ると、
相互会社のメリットとして「中長期的な経営姿勢」のほか
「契約者還元の魅力」をこれまでの実績とともに示し、
株式会社との差別化を図っているようです。

これに対し、日本では相互会社であることの利点や
相互会社の社員(契約者)になることのメリット等を
積極的にはアピールしていないように見えます。

いずれにしても、内外保険会社の買収をきっかけに、
日本の相互会社経営のあり方が改めて問われるのでは
ないかと思います。

最後にご案内を。
9月29日(火)の夕方に損保総研で講演する予定です。
演題は「保険ERM・ソルベンシー規制の方向性」。
詳しくは損保総研のサイトをご覧ください。

※娘はテスト勉強中。先日、忘れた(なくした?)プリントを
 友だちに写メしてもらい、そのまま画面を使っていました。
 便利になりましたね(苦笑)

 

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夏の読書から

 

今回はこの夏に読んだ本のご紹介です。

1.「世論調査とは何だろうか」(岩波新書)

著者の岩本裕さんはNHKの記者出身で、
現在はNHK放送文化研究所で世論調査を
担当しているかたです。

「素人ならではの視点を活かして、数字に
 だまされないため皆さんに知っておいて
 ほしいことを紹介していきます」

とあり、世論調査について幅広い視点から
紹介した本でした。

最も問題なのは、若者を中心に協力してくれる人が
大きく減っていることだそうです。

これに対し、世論調査は民主主義社会のなかで
私たちに与えられた「武器」なので、有効に利用
すべきというのが著者からのメッセージでした。

2.「海外企業買収 失敗の本質」(東洋経済新報社)

保険会社の海外展開についての執筆が続いたため、
日本企業の海外M&Aに関する本を何冊か読みました。

本書はM&Aの専門家である松本茂さんによる本です。
ただし、買収の実務書ではなく、日本企業による
海外M&Aを分析し、過去の事例から学ぼうというもの。

おそらく博士論文を一般書にしたものだと思いますが、
研究手法が私の中堅生保の破綻研究と似ていて、
その意味でも興味深く読みました。

それにしても、調査対象116案件のうち、失敗
(売却・撤退に至った案件)が51件とは驚きですね。

なお、ご案内の通り、このところ週刊金融財政事情で
書評を執筆していて、次回は本書を取り上げています
(もう少ししたら掲載されると思います)。

3.「本社はわかってくれない」(講談社現代新書)
  (下川裕治・編)

こちらも日本企業の海外進出絡みの本で、
副題に「東南アジア駐在員はつらいよ」とあります。

日本企業が東南アジアで遭遇した各種トラブルや
現地日本人の胸のなかにしまわれていた話
(なかには愚痴のようなものもありますが…)を
ジャーナリストが掘り出しています。

参考までに見出しを並べると…

 ・すぐ休む人々
 ・働かない人々
 ・会社を私物化する人々
 ・身勝手な人々
 ・会社のカネを使い込む人々
 ・すぐに訴える人々
 ・役人な人々
 ・宗教で生きる人々
 ・才能ある人々
 ・不運に見舞われた人々
 ・日本を持ち込む人々

編者の下川さんは、海外進出する日本企業に
問われる資質とは、「トラブルを克服していく能力」
とまとめています。
確かに、そもそもトラブルは起こるもの、なのでしょう。

※写真左は「フリフリチキン」、右は「ガーリックシュリンプ」。
 どちらもハレイワ名物です。

 

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生保再編?

 

日本生命が三井生命を買収するというニュースは
各紙で大きく取り上げられました。

私への問い合わせも、海外M&Aのときとは
比べものにならないほど多かったです。
今のところ朝日新聞とBloombergにコメントが
掲載されています。

問い合わせで目立ったのは、

「成長性の低い国内事業を買収できるのは
 (株主がいない)相互会社だからではないか」

というもの。これに対しては、

・日本生命のグループ戦略の全体像を見たうえで
 判断したほうがいいのではないか

・もし、EVや修正純資産が7000億円超の会社を
 安く買えるのであれば、社員にメリットがあるはず
 (ここで言う「社員」は相互会社の社員=契約者)

といったコメントをしたのですが、いかがでしょうか。

「国内生保の再編が進むのでは」という質問(期待?)
も多かったですね。これも私にはピンときません。

そもそも大手銀行や損保で再編が進んだからといって、
生保で再編が進むとは限らないと思うのですね。

たまに「会社の数が多すぎる」という声を耳にしますが、
日本の生保市場の規模を考えても、競争状況を見ても、
多すぎるという印象はありません。

なにより、収益を上げるビジネスモデルを維持している
という点が大きいと思います。

預貸の利ざやで稼ぐ商業銀行のビジネスモデルや、
料率自由化で保険収支が一時悪化した損保に比べると、
保有契約のみならず、新契約でも生保はきちんと収益を
確保できている状況です。

加えて、再編シナジーを出しにくいことも挙げられます
(例えば、契約期間が長いので、システム統合が難しい)。

いずれにせよ、関係者からの正式な発表を待ったうえで、
いろいろと考えてみたいと思います。

※写真左はカメハメハ大王、右は戦艦ミズーリです。

 

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国内系生保の資産運用

 

遅まきながら生保の第1四半期報告から
直近の資産運用の動向を確認してみました。

結論としては、引き続き「ポートフォリオ・リバランス」
と言うほどの動きはありませんが、昨年度に続き、
外国公社債の残高を増やした会社が目立ちます
(ヘッジの状況は不明)。

ただし、大手4社を比べると、明治安田生命は
外国公社債の積み増しを抑えたように見えます。

同社は2015年度の資産運用計画の説明で、
「ヘッジ付外債は国内債券と比べて妙味が乏しい」
とコメントしているようなので、足元の投資行動と
関係があるかもしれません。

他方、中堅生保では、責任準備金対象債券区分の
公社債を減らし、外債投資を増やしている会社が
いくつか見られます。

経営体力の回復を受けて、リスクテイク方針を
やや見直したというのなら理解できるのですが、
異次元緩和のなかで利息配当金収入の確保を
ねらったものかもしれず、考え方が知りたいところ。

足元の株安・円高の影響も注視していきましょう。

 

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20年ぶりのハワイ

 

結婚直後に訪れて以来、約20年ぶりにハワイへ。

前回はプールにビーチ、シュノーケリングに買い物と、
ビーチリゾートを満喫するアクティブな滞在でしたが、
今回はパールハーバーにホノルルのチャイナタウン、
ノースショアの田舎町と、現地を知る旅となりました
(「買い物」は今回もあったようです^^)。

リゾートホテルが林立するワイキキの外に出ると、
米国におけるハワイの独自性のようなものが
観光客にもいろいろと見えてきます。

最初に挙げられるのは「民族」の多様性です。
混血が進み、何をもって「民族」と言うかはさておき、
多い順に白人系、フィリピン系、日系、先住民系、
中国系と続きます(自己申告ベース)。

最も多い白人系でも全体の1/4を占めるにすぎず、
ここまで多民族な社会は米国でも珍しいと思います。

日本人の私には、町を歩くと「MATSUMOTO・・・」
「TAKAHASHI・・・」という看板が目に入ります。

日系人はサトウキビやパイナップル・プランテーションの
労働者として、ハワイに移住してきた人たちの子孫です。
しかし、近年は新たな流入が少ないうえ、高齢化が進み、
減少傾向が著しいようです。

ちなみに、「サトウキビ」「パイナップル」というのも
もはや過去の話なのですね。

ハワイの人件費では新興国との競争に太刀打ちできず、
オアフ島にはドールのパイナップル・プランテーションが
残るのみ(観光バスが立ち寄るところですね)。
いま農業で盛んなのはコーヒー栽培だそうです。

最後に、米軍関連施設が多く、軍の関係者が多いのも
ハワイのもう一つの特徴です。
パールハーバーのほか、各地で軍用地を見かけました。

州の経済が観光と軍需に支えられているという点で、
沖縄に通じるところがあります。

※写真はチャイナタウンです。チャイナタウンといっても、
 中国系よりもフィリピン系やベトナム系が多いとか。

 

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海外M&Aラッシュ

 

「生命保険経営」に、これまで日本の大手生保が
海外展開になぜ消極的だったのかという論文を出したら、
明治安田生命、住友生命と大型買収の発表が相次ぎました。

ここ数年の主な海外M&Aは次の通りです。

・東京海上による米デルファイ買収(2011年12月発表)
・損保ジャパンによる英キャノピアス買収(2013年12月発表)
・第一生命による米プロテクティブ買収(2014年6月発表)
・東京海上による米HCC買収(2015年6月発表)
・明治安田生命による米スタンコープ買収(同7月発表)
・住友生命による米シメトラ買収(同8月発表)

これらを見ると、近年の日本の保険会社による
海外M&Aにはいくつか共通した特徴があるようです。

まず、米国をはじめ、先進国市場への進出という点が
挙げられます。東南アジアなどの新興国市場とは異なり、
ただちに収益貢献が期待できるということなのでしょう。
もちろん、買収金額も大きくなっています。

次に、経営内容がいいと見られる会社を、プレミアムを
支払って買収していることがあります。
なかにはプレミアムが50%という件も見られます。

買収先の経営陣に、買収後も経営のかじ取りを委ねる
というのも共通した特徴です。すなわち、

「俺たちが経営したほうが価値が上がるぞ!」

というのではなく、

「(ストックオプション等により)買収で儲かっただろうから、
 これまで以上に働いて、価値を高めて下さいね」

というやり方のようです。

 

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損保のディスクロ誌

 

隔月で連載している「inswatch」で、昨年に続き、
今月は損保のディスクロージャー誌を取り上げました。

昨年は、「inswatchではマニアックすぎる」として
取り上げるのを見送った「損害見積り額の推移表」を
今回はさらっと紹介してしまいました(汗)。

今回、字数の関係で取り上げなかったデータが
海外投融資(特に外国公社債)の推移です。

生保は外債投資のウエートが年々高まっていますが、
損保は会社によりバラつきが大きくなっています。

例えば、東京海上の外国公社債(外貨建)は
総資産の2、3%程度で推移しています。
三井住友海上も3%程度ですが、高まる傾向です。

他方、近年の損保ジャパン日本興亜では10%強、
あいおいニッセイ同和では15%程度を占めています。

これらが全てオープン外債ということではありませんし、
3メガ損保ともに海外で保険事業を展開しているので、
そちらでも為替リスクを取っているようなのですが、
こうして比べてみると、戦略の違いが明らかになりますね。

とりわけ、同じグループでもMSIとADIの運用戦略が
大きく異なるのはなかなか興味深いです。

※道東シリーズ。今回はハマナスの花とオホーツク海です。

 

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リスクアペタイトの開示

 

いただいたコメントに、「メガバンク(MUFGとみずほ)の
統合報告書(=ディスクロージャー誌)が公表され、
リスク管理に関する情報が充実した」とあったので、
主にリスクアペタイトに関する記述を見てみました。

メガバンクはG-SIBsに指定されていることもあり、
このところ定性面、定量面ともにリスク関連情報の
開示が増えています。

今回はみずほがリスクアペタイト・フレームワーク(RAF)の
導入目的や運営体制、リスクアペタイト策定イメージなどを
2ページにわたり掲載しました。
みずほフィナンシャルグループのサイトへ

もっとも、6月のIR説明会資料では、取締役会の課題に
「RAFの完全構築」が挙がっていましたので、
経営で活用・定着するのはこれからなのかもしれません。

他方、MUFGはリスク管理の全体像を示すなかで、
RAFの導入について説明しています。
リスクアペタイトの設定・管理プロセスの説明は
なかなか具体的で参考になりそうです。
MUFGのリスク関連情報リンク一覧へ

ただし、両社ともリスクアペタイトの具体的な内容を
残念ながらほとんど示していません。

保険業界では、東京海上やSOMPOグループのように
グループ全体レベルのリスクアペタイト(東京海上)や、
グループ・リスク選好の原則(SOMPO)を公表している
ところも見られます。

これらは会社と投資家が建設的な対話をするための
手掛かりとして有益な情報ではないでしょうか。
もちろん、リスクアペタイトに基づいた経営が
実現できていることが前提となりますね。

※写真のひまわり畑は女満別空港のすぐ横にありました。

 

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東芝の第三者委報告書

 

金曜日(24日)は「日経」「明治安田生命」と続けて
海外M&Aのニュースが飛び込み、驚きました。

今回はこの話ではなく、東芝の不正会計について。

21日に公表された第三者委員会による調査報告書を
私も一読してみました。
東芝のサイトへ

新聞報道をはじめ、すでにいろいろと書かれているので
中身の紹介は省略して、個人的な感想を2点ほど。

報告書を読むと、利益かさ上げの手法として、
工事損失引当金の計上に関する恣意的な判断や、
期末の押し込み販売による数値かさ上げなどが、
何回も出てきます。

これらは、社内では適切ではないと認識しつつも、
「粉飾」「違法」とまでは認識されていなかった模様です。

3日間で120億円の利益改善を求めたという話も、
「社長月例」「着地見込会議」などでの議論も、
根底には、「決算は作るもの・コントロールできるもの」
という意識があることがうかがえます。

もちろん、うかがえるというだけで、証拠はありません。
ただ、この点を含め、できればもう少し掘り下げて
いただきたかったなあという印象を持ちました。

「なぜトップは工事損失引当金計上を認めなかったのか」
「なぜトップは利益かさ上げの解消に難色を示したのか」
「なぜトップの圧力が組織的な不正という結果になるのか」

といったところはモヤモヤしたままなのですね
(時間的に厳しかったのだとは理解します...)。

300ページもある報告書を一読したかぎりでは、
「責任の自覚が必要」「経営トップ等の意識改革」
という提言が果たして本質的な再発防止策なのか、
私にはわかりませんでした。

もう一つ、会計監査人は会社にダマされっぱなしだったのか、
あるいは共犯だったのか、本調査の目的ではないとはいえ、
やはり気になるところです。

例えば、別紙3(報告書の最終ページにあります)として
PC事業月別売上高・営業利益推移のグラフがあり、
リーマンショック後の推移はかなり異様な動きに見えます。

もちろん、会社は監査人に何らかのストーリーを示し、
納得させようとしたはずです。
ですから、監査人は被害者なのか、そうではないのか、
今後の調査で解明されることを期待しています。

※写真は成田山新勝寺と門前町です。

 

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