生保の第3四半期決算

 

主要生保の第3四半期決算(2013年4-12月期決算)が
出そろいました。

新聞は相変わらず「基礎利益が増えた」という分析です。
9月末と12月末を比べると、日経平均株価が1800円も上がり、
ドル円相場も97円から105円と円安が進んだのですが、
どちらも基礎利益にはほとんど反映されません。

ただ、上場保険グループはEVを公表しているので、
こちらを見ると、EVが9月に比べて12%も増えた第一生命、
2.4%の増加にとどまったソニー生命、というように、
各社の違いを知ることができます。

第一生命ではEVのうち修正純資産の増加が目立ち、
内外株価の上昇や円安進行の恩恵を受けた模様
(言い換えれば、株式や為替リスクがそこそこ大きい)です。

足元の資産構成はほとんど変わっていなかったので
(あえて言えば、公社債が微減、株式が微増)、
ポートフォリオ・リバランス効果というわけではなさそうです。

これに対し、ソニー生命は株式や為替リスクが小さいので、
新契約の獲得がEV増加の主な要因となっています。
ソニー生命はリスク量の内訳を公表しているので、
金利リスク以外の資産運用リスクが小さいと確認できます。

四半期ごととは言いませんが、全ての主要生保で
EVを開示してほしいのですね。

※中2の娘が友チョコを大量に持ち帰ってきました。
 今はそういう時代なのですね。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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森本さんの近著

 

私の所属するキャピタスコンサルティング代表の森本祐司さんが
「ゼロからわかる金融リスク管理」を出しました(KINZAIバリュー叢書)。

本書は金融リスク管理の入門書ですが、ノウハウや計測手法を
教えてくれる親切で便利な本ではありません。

「リスクとは何か」というところから始まり、
 ・リスクを「管理」するとはどういうことか
 ・リスクを計測し活用するうえで必要となる7つの心構え
など、入門書とはいえ、骨太の内容となっています。

リスク管理を「安全性の確保」、すなわち、リスクを計測し、
体力を超えたリスクを取っていないか確認すること捉えてしまうと、
リスク管理はリスク管理部門の仕事という意識になってしまうのは
ある意味当然かもしれません。

本書では、「金融商品の仕入れ値と売り値をどうとらえるか」
という視点を示し、リスク管理が決してリスク管理部門に任せておけば
いいものではないことを示唆しています。

何のためのリスク管理なのかを踏まえれば、
「リスク管理はリスク管理部門の仕事」ではないし、
まして規制対応でもないはずです。

ということで、身内の出した本ではありますが、初心者のみならず、
金融にかかわるベテランにも有益な内容だと思いますので、
ご紹介させていただきました。

※写真は大倉山梅林です。

 

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営業職員の給与引き上げ

 

安倍首相の賃上げ要請を受けた動きなのか、
生保営業職員の給与引き上げという動きがあるようです。

「日本生命保険は今年4月から、約5万人の営業職員の給与を
 引き上げる方針だ。契約獲得数に応じて上乗せする『歩合給』
 部分を対象とし、販売の主軸である営業職員の士気を高める狙い」
 (1/31日経)

「住友生命は約3万1000人いる営業職員のうち、新人を対象に
 基本給を引き上げる。仕事を始めた当初は歩合給が少ない人も
 目立つ。基本給を手厚くして人材の呼び込みと定着をはかる」
 (1/19日経)

「明治安田生命は8月をめどに全営業職員3万人を対象に基本給と
 比例給を合算した給与を従来比で月平均1万円以上引き上げることを
 検討」(1/21産経)

「富国生命は営業職員1万人のうち、主任以上の中核職員約4000人の
 基本給を引き上げる。戦力となっている中核職員の待遇を良くして、
 やる気を引き出す効果も見込む。歩合給の部分も、翌月の給与に
 反映しやすい仕組みに見直す」
 (1/19日経)

あくまで報道ベースですが、各社の方針に違いが見えて興味深いです。
 ・全職員の歩合給部分が対象(日本生命)
 ・中核職員の基本給が主な対象(富国生命)
 ・新人の基本給が対象(住友生命)
 ・全職員の給与(基本給&歩合給)が対象(明治安田生命)

基本給の引き上げを打ち出そうとしている会社は、
新人層をはじめ、育成期間にある職員に注力する作戦なのでしょう。

明治安田生命は2008年に固定給を引き上げる改革を実施し、
大手他社も育成期間を延ばし(=固定給負担が増加)、
いずれも契約継続率の改善に成功しています。

ただ、確かに育成重視、既契約重視で短期解約は減ったものの、
月払い契約の推移をみると、新契約の獲得は相当細っているようです。
そこで歩合給の給与配分を増やし、生産性の高いベテラン層を
刺激するという作戦を検討している会社があるのかもしれません。

ちなみに、保険代理店や、ライフプランナーと呼ばれる
男性中心の営業職員チャネルは基本的にフルコミッションです。
他方、銀行員や保険ショップの社員は固定給中心と聞きます。

大手生保が中長期的に営業職員チャネルをどうしたいのか、
まだ将来像が描けていないのかもしれません。

※会社の近くに「中銀カプセルタワー」という変わった建物があります。
 黒川紀章設計の集合住宅で、カプセルは着脱可能なのだとか。

 

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1月のヨーロッパ(その3)

 

金融庁が2012年に公表した「ERMヒアリングの結果について」には
次のような記述があります。

 「リスク管理部門の担当役員は、前回ヒアリングと同様に『人事
 ローテーションの一環』『リスク管理以外の部門も兼務』『専門性を
 重視した人事ではない』といったコメントがあり、担当役員がリスク
 管理と親和性の低い部門を兼務していたり、ERMの構築・実行に
 おいて求められる専門性が必ずしも重視されず、スタッフに支えられ
 ていたりする姿が浮き彫りになった。」

 「『ここ数年、毎年のように担当役員が交代』『親会社や親密先から
 専門性とは無関係に就任』という事例もあり、会社としてどのような
 人材を担当役員にするかという考え方が必ずしも明らかではない社
 もあった。」

今回の出張でも感じましたが、欧州大手保険グループのCRO
(チーフ・リスク・オフィサー)は上記のような担当役員とは違い、
自分の言葉でリスクについて熱く語るかたが多いです。

あるCROは「いいERMとは形を整えることではない」という説明を、
紙にいろいろと書きながら、整然と話してくれました
(せっかくなので、その紙もいただいてきました^^)。

また、別のCROから興味深い取り組みを聞いた際に、
「なかなかいいアイディアですね」と応じたところ、
「試行錯誤の連続で、たまたまめぐり合えたんですよ」
など、手作り感あふれる答えが返ってきました。

組織や文化の違いもありそうですが、CROにアポを取ると、
出席するのはCROのみで、スタッフが同席することは
まずありません。これは金融庁時代の出張でもそうでした
(そもそも場所が執務室内のテーブルだったりします)。

事前にこちらの関心事項を示しているとはいえ、
そこそこ専門的な内容もあります。
それでも自分で全て語れてしまうんですね(結構楽しそうに)。

もともと専門性が高いうえに、常にいろいろと考えているのでしょう。

※写真はシャルトル大聖堂です。世界遺産に登録されています。

 

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1月のヨーロッパ(その2)

 

2年半ぶりのヨーロッパは、今回も保険ERMの調査でした。

主にグループCROや関連部門のヘッドにお会いし、
経営における活用状況やERM関連の情報開示など
いろいろと話を聞いてきました。

今後どこかでお話しする機会などあるかもしれませんが、
昨年実施した「キャピタスERMヒアリング」と比べると、
やはり進んでいるなあと感じることもしばしば。

ただ、ERMが形式的な取り組みに陥りがちというのは
欧州でも同じようで、枠組みの整備は重要だけど、
それ以上に重要なものがあるとのことでした。

確かに、2008年の金融危機を見ればわかるように、
評価が高かった会社のなかでも明暗が分かれています。
はじめから完璧なERMを構築したグループなどはなく、
いろいろと試行錯誤したうえで、今があるのですね。

※カキが美味しそうでした(食べる機会がなく残念でした)。

 

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1月のヨーロッパ

 

今週は出張でヨーロッパに来ています。
「凍てつくような寒さ」「雪景色」を覚悟していたのですが、
北米と違い、ヨーロッパは暖冬で私にはラッキーでした。

もっとも、ドイツではスキー場が雪不足で困っているそうですし、
スイスでは本来は春に咲く、桜に似た花が咲いていました。
なんだか異常気象が年中行事のようになっていますね。

さて、出張中は移動が多いので、どうしても交通機関に
目が行ってしまいます。

特に、ヨーロッパではトラム(路面電車)が便利です。

地下鉄もいいのですが、重い荷物を抱えて階段を上下するのは
一苦労です(日本もそうですが、下りのエスカレーターが少ない)。
目的地に近い出口を探すのも意外に大変です。

バスなら景色は見えますが、旅行者にはハードルが高いというか、
たいてい路線系統が複雑なので、把握するのに時間がかかります。
渋滞で時間がかかることもありますしね。

その点、トラムは路面電車ですから、乗り降りが楽ですし、
バスのように停留所を通過してしまうこともまずありません。
たいていトラム優先の交通規制となっているので、時間も読めます。

しかも、ヨーロッパに来るたびに、トラムは進化しているようです。
今回感じたのは「完全な」低床車が増えたことでしょうか。

古いタイプのトラムは、バスのようにステップをよっこいしょと
上がって車内に入る乗り物でした。
それだと利用者が大変なので、床を低くしたのが低床車です。

ただし、旧タイプは車内に段差のある「部分」低床車でした。
最近は車内に段差のないタイプのトラムが増えてきました。

スピードも速くなったように思います。

路面電車というと、どこかのんびりしたイメージがありますよね。
しかし、こちらのトラムは速いです。
さすがに中心部ではそれほどスピードを出さないものの、
特に専用軌道になると、かなりのスピードで走ります。

日本の場合、独立採算性という点がネックになりそうですが、
例えば、もし都営大江戸線がトラムだったら便利でしょうね。

※写真をようやくアップしました(19日)。
 最近はパリにもご覧のようなトラムが走っているんですよ。

 

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日本の保険教育

 

12月の「保険学雑誌 第623号」(日本保険学会)のなかに
次のような記述がありました。以下に引用します
(滋賀大学・久保英也先生の論文です)。

「日本は世界の保険市場シェアにおいて生命保険分野で20%、
 損害保険分野で10%を占める保険大国であるが、
 学会はその産業基盤を十分生かしきれていない」

「本来保険の知識基盤となるべき大学において、保険についての
 基礎教育や実務にも適用する高度専門教育、そして、実務に
 資する実証的研究はほぼ放棄されているように見える」

「基礎教育は両業界の協会や生命保険文化センター、
 損害保険事業総合研究所などの団体が細々とこれを担い、
 高度専門能力はアクチュアリー会等が、そして、実務に資する
 研究は保険会社の調査部や付属研究所がこの役割を担ってきた」

「この状況は、保険業界の日本保険学会の活動への信頼感や
 各大学における保険学、とりわけ、保険経済分野における
 ステータスを減じ、大学における保険学の人事ポストの減少を
 誘因する一因となっている」

「欧米や中国等アジア諸国でも保険・リスクマネジメントは
 専門の学部さえ存在する。国際的には大学における重要分野である
 はずだが、日本だけが保険経済分野の地盤沈下が激しい状況にある」

本論文のテーマは中国の保険教育なのですが、
日本の現状をここまで明確に記したものを初めて目にしました
(「ほぼ放棄されているように見える」なんて、すごい表現ですね)。

私も関わっている、損保総研のERM経営研究会では、
テーマの一つに産学協働を挙げ、業界メンバーのほか、
保険経済分野の先生がたに参加いただいています。

実際に動きはじめてみると、そう簡単ではないことがわかります。
それでも何かできないかと模索しているところです。
構造的な面も大きそうですが、現状のままではもったいないと思います。

※香川のお雑煮は、白味噌にあんこ餅という組み合わせ。
 一度食べてみたかったのですが、念願がかないました。
 新橋の「せとうち旬彩館」で15日まで食べられますよ!

 

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東証の企業価値向上表彰

 

皆さま、今年もよろしくお願いいたします。
2014年はどんな年になるでしょうか。

さて、東京証券取引所では「企業価値向上表彰」を実施しており、
2013年度の大賞に丸紅が選ばれました(12月26日)。
東証のHPへ

丸紅が大賞となったのは、「総合商社という業態を踏まえた
経営管理手法を採用し徹底することで、企業価値向上経営を
特に高いレベルで実践していると認められる」からだそうです。

総合商社ではグループ全体のリスクを定量的に把握し、
自己資本と対比する管理が普及しています
(丸紅はリスク量=リスクアセットを公表)。

さらに丸紅の場合、「PATRAC」という経営指標
(連結純利益から資本コスト相当額を控除したもの)を
投資判断のほか、事業の業績評価や撤退の判断に活用しています。
PATRACに基づく業績連動報酬の仕組みも導入しているそうです。

他の総合商社でもやはり同種の指標を活用しているようです。
ただ、選定委員会は丸紅の特に優れた点として、

1.資本コストを意識した経営指標が積極的に活用されていること
2.企業価値向上の取組みが組織に深く浸透していること
3.企業価値向上の取組みとその成果に安定性が認められること

を挙げており、独自の経営管理を通じた企業価値向上経営が
経営に浸透していることを高く評価したのだと思います。

東証が企業価値向上経営に注目するのは当然ですが、
保険会社のERM経営に通じるこのような取り組みを
投資家目線で高く評価していることに私は注目しました。

※除夜の鐘をつきました。20年ぶりくらいでしょうか。

 

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最近の読書から

 

早いもので今年も残すところあと2日。
今回は最近読んだ本の中から3冊ご紹介します。

「金融再編の深層 高橋温の証言」

1998年から2005年まで住友信託銀行(現三井住友信託銀行)の
社長を務めた高橋温さんが、日本長期信用銀行との合併交渉や
UFJ信託銀行の買収交渉など、過去20年間の金融危機・再編を
当事者として語った本です。

「自らが体験した事実をきちんと書き残し、経営者としての
 私の経験をぜひ、今後の教訓として生かしてほしいと考えた」

とあるように、本書は、長銀の合併問題やUFJ信託の争奪戦など、
高橋さんが大手信託銀行トップとして関わった事件についての
貴重なオーラルヒストリーです。

「なぜUFJは三井住友ではなく、三菱東京を選んだのか?」

という問いについても高橋氏の考察があり、興味深く読みました。

「医療保険はすぐやめなさい」

著名FPの内藤眞弓さんによる最新刊です。
タイトルや帯は刺激的(「やめた人から得をする!」とあります)
ですが、民間医療保険との付き合いかたについて
丁寧にわかりやすく書かれています。

特にいいなと思ったのは、がんの治療費の目安です。
がんになったら、実際に「いつ」「どれだけ」費用がかかるのか。
内藤さんはまずここから解説したうえで、保険に頼れる部分と
そうでない部分を示しています。

それにしても、がん保険は難しい。
死亡保険と違い、給付金が支払われる条件が様々なのですね。
例えば、2回目以降の診断給付金を受け取る条件には
4パターンもあるそうです。

「部下を持ったら必ず読む『任せ方』の教科書」

著者はライフネット生命のCEO、出口治明さんです。
私は本書がターゲットとしている読者層ではなさそうですが、
日本の会社、日本的経営ガバナンスについて考えるなかで、
たまたまこの本と出合いました。

・決定権を持つものが一人で決める
・異質な社員に権限を委譲し、任せる
・課長の決定に、部長は口を出してはいけない
・労働時間から「労働生産性」に焦点を変える  などなど

おそらく本書で出口さんが説く「あるべきマネジメント」の
裏返しが、日本の会社には多いのではないでしょうか。

もちろん、タイトルに「部下を持ったら必ず読む」とある通り、
本書には上司になったら何をすべきかを考えるヒントが満載です。

※写真は年末でにぎわう築地場外市場です。

 

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生保の資産・負債ギャップ

 

先日、2014年度の国債発行計画についての報道があり、
30年債の発行を増やすとありました。

これに関連して、先月のものではありますが、財務省のHPに
生保の資産・負債ギャップに関する資料を見つけました。
超長期国債の需要がまだあることを示すものです。
国の債務管理の在り方に関する懇談会(第26回)議事要旨
(資料4が「生命保険会社の投資動向について」です)

資料のなかに、「資産および負債の金利感応度」がありました(P2)。
第一、住友、明治安田が開示しているEVを基にした試算によると、
金利水準が50bp低下すると、資産が2.2兆円増えるものの、
負債は3.0兆円も増えてしまうことが示されています。

EVの開示では、前提条件を変更した場合の感応度が示されていて、
・修正純資産の変化≒資産の変化
・保有契約価値の変化≒負債の変化
としている模様です。

「金利が下がると生保経営は厳しい」と単に言われるよりも、
「資産は増えるけど、負債はもっと増えてしまう」と示されるほうが、
理解しやすいかもしれませんね。

※写真は汐留のイルミネーションです。

 

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