「10大事件」

 

金融リスク管理の第一人者である藤井健司さんの近著
「金融リスク管理を変えた10大事件」を読みました。

「金融リスク管理の歴史はさまざまな経験と教訓に対する
 不断の改善努力の賜物」(「はじめに」より引用)

ということで、本書では金融リスク管理に対して
大きな影響を与えた10の「事件」ごとに章が割かれ、
それぞれの事件の経緯と金融リスク管理に与えた影響
について述べられています。

さらに、実務家として10大事件すべてを経験している
藤井さんの「目撃者のコラム」が各章にあります。
本書のエッセンスはここに書かれているように思いました。

例えば、最もページ数の多い第9章
「リーマンショックと金融危機からバーゼルⅢへ【2008年~】」
の「目撃者のコラム」では、

「これからのリスクマネジャーには、規制対応を行いながらも
 あるべきリスク管理の実務を推し進めるという、
 これまで以上に厳しい自己規律をもった姿勢が必要」

と結ばれていて、現状の厳しさを感じます。

本書は金融業(特に銀行)のリスク管理に影響を与えた
10大事件を取り上げていますが、保険会社だったら
どんな事件が選ばれるでしょうか。

保険リスクに関しては、現在のように自然災害リスクモデルが
普及するきっかけとなったハリケーンが、1992年のアンドリュー
なのだそうです。もちろん、2005年のハリケーン・カトリーナ、
そして2011年の東日本大震災やタイの洪水も無視できません。

生保の金利リスクやALMの重要性を示す出来事としては、
日本の中堅生保の連続破綻(1997~2001年)が象徴的です。

また、NY同時多発テロ(2001年)や2008年の金融危機は
金融リスク管理とは多少違った切り口になりそうです。

EUソルベンシーⅡや国際会計基準(保険会計)の検討も
ありますね。ただし、どちらも検討期間が非常に長いので
(かつ、現在進行形です)、取り上げ方が難しいかもしれません^^

※写真は会津若松です。

 

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金融庁のERMヒアリング

 

4日に公表された今年のERMヒアリングの結果について。

今回は当事者ではないので不明な点も多々ありますが、
「各保険会社における態勢整備に向けた取り組みの参考に
 供すること等を目的として、ヒアリングの結果を公表する」
とあるので、少しだけコメントしてみましょう。
金融庁のHPへ

前回のERMヒアリング結果では、主に以下の項目について
「態勢の高度化を図っていく必要がある」とのことでした。

 ・リスク管理部門の担当役員の専門性
 ・内部監査部門の役割
 ・リスクプロファイルの把握と活用
 ・リスク選好の考え方や枠組み
 ・海外保険事業の管理体制の構築
 ・内部モデル見直しにおける妥当性等の検証態勢

今回のヒアリング結果を見ると、前回課題とした「リスク選好」
「内部モデルの妥当性」などに加え、「ERMの活用状況」に
全体の3ページ弱を割いていて、目を引きました。

実際にERMが活用される場面として、次の3つを取り上げています。

 「リスク調整後収益指標の活用」
 「商品開発および商品別収益管理」
 「中期経営計画」

これには次のような考えが前提となっているようです。

・収益性評価にあたって、リスク調整後の指標を利用することは有益。
・社内で収益や業績指標として使用するためには、リスクに対する
 考え方が社内で共有され、ERMが社内で浸透している必要がある。

・商品開発においても、リスクとリターンの関係を考慮することが重要

・将来にわたる事業の継続性評価や経営におけるERMの活用を
 実現するためには、ERMを経営戦略および(中期)経営計画の
 策定に取り込むことが有益

確かにその通りだとは思いつつ、日本の現状を踏まえると、
かなり目線が高いように感じました
(対象が大手だけではないことを踏まえると、特にそう感じます)。

保険会社に対する金融庁の目線の高さは、6日公表の
「金融モニタリング基本方針」でもうかがえます。

こちらは大手生損保等が対象の記述ですが、検証項目のなかに、
「リスクアペタイトフレームワークの経営計画における活用状況」
とあります。すでにフレームワークの構築が前提なのですね。

ところが、銀行(SIFIs及びその他の主要行等)では、
「リスクアペタイトフレームワークの構築状況等」
とあり、保険会社のほうがはるかに踏み込んだ表現です。

IAISがICPとして「ソルベンシー目的のERM」を採択したのが2011年。
金融庁が保険検査マニュアルを全面改定し、検査官がERMを
本格的に確認するようになったのも、ここ数年のことです
(ERMヒアリングも2011年からですね)。

それに、ERMは経営そのものなので、行政当局といえども
外部からそう簡単に把握できるものではありません。
私はアナリストとして何度もそんな経験をしてきました。

目線の高さを否定するつもりはありませんし、背伸びも大切です。
ただ、リスク管理の高度化を促すはずなのに、行政当局だけが
先に行ってしまい、振り返ったら誰もいなかったというのでは
ちょっと困りますよね。

何だかやや辛口なコメントとなってしまいましたが、
今回の結果概要が日本の保険会社におけるERMの現状をうかがう
貴重な材料なのは間違いありません。私もいろいろと勉強になりました。

※桂川があふれるなんて、びっくりです。
 被害を受けた皆さまにお見舞い申し上げます。

 

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産経新聞のコメント

 

8月に起きた福知山市の花火大会での爆発事故
(露店が爆発し、多数の死傷者が出ました)
の関係で取材を受け、コメントが掲載されました。
産経新聞のHPへ

念のためコメント部分だけ引用します。

 「損保業界に詳しい保険アナリストの植村信保さんは
  『大規模なイベントなどでは、万が一の事態に備えるため
  積極的に保険を活用するべきだ』と指摘。保険会社に対しても
  『リスクの見積もりが難しいかもしれないが、こうしたケースでこそ
  力を発揮することが求められている』としている」

本件に関しては、直接の加害者である露天商や同業組合に
賠償金を支払う資力がなく、イベントの主催者である実行委員会が
どこまで責任を負うべきかによって補償額も変わってくるとみられ、
決着まで時間がかかるかもしれません。

また、自然災害リスクとは違い、こうした賠償責任のリスクには
確立されたモデルがないとのことで、損害保険会社が引き受けに
慎重となるのも十分理解できます。

それでも、保険が実力を最も発揮する局面は、個人や企業では
備えることのできない低頻度・高損害のリスクだと思うのですね。

ですから、このようなコメントを出させていただきました。

※普通の地方鉄道だと思っていたら、路面電車になってびっくり。
 京福電鉄(嵐電)です。

 

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金融モニタリング基本方針

 

4日に「ERMヒアリングの実施とその結果概要について」、
6日に「平成25年度 金融モニタリング基本方針」と、
金融庁HPが盛り上がっています。

今回は「金融モニタリング基本方針」についての印象を。
金融庁HPへ

もともと金融庁のモニタリングはオンサイト(=立入検査)と
オフサイト(=監督による情報収集)から成っていて、
「オン・オフ一体」「両局の協働」がうたわれてきました。
ですから、今回もその延長線上にあると見ることができます。

ただ、今回の金融モニタリング基本方針をみると、
担当検査官と専門チームが実施する「水平的レビュー」
(大手生損保も対象です)では、確認票に基づく指摘を行わず、
検査結果を踏まえた監督局による報告徴求も実施しないとか。

「模擬金融庁検査」を実施した某銀行には気の毒^^ですが、
従来の立入検査とはかなりテイストが異なりますね。
検査局がオフサイト・モニタリングを手がけるように読めます。

他方、同じ日に「平成25年度 監督方針」も公表されていて、
こちらは前年度から大きく変わっていません。

保険会社等向け監督方針をみると、重点分野の1つには
今事務年度も「リスク管理の高度化の促進」とあり、

「高度化促進に当たっては、保険会社によるリスク管理態勢
 に関する自己評価やERMヒアリング等の実施により(後略)」

とのこと。金融モニタリング基本方針の「水平的レビュー」の
検証項目にも「統合的リスク管理及び資産運用」とあるので、
両者の関係がどうなっているのか気になるところです。

横断的な分析は有益ですが、広く浅くで終わってしまったら、
これまでよりも問題把握が遅れてしまうこともありえます。
個別テーマについてどこまで深掘りできるかどうか
(さらに言えば、個別テーマをどう設定するか、でしょうね)。

今回の新たな試みに注目しましょう。

※京都は町のあちこちに歴史の痕跡が残っていますね(写真)

 

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セミナー講師を務めます

 

久しぶりにセミナーの告知です。

9/12(木)の午後、金融ファクシミリ新聞社のセミナーで
講師を務めます。
金融ファクシミリ新聞社HPへ

今回の演題は「保険会社ERMの構築状況と留意点」で、
「最近の保険規制・格付動向を踏まえて」という副題付きです。

講演項目として、最近の保険規制・格付動向のほか、

・保険検査マニュアル「統合的リスク管理態勢」をどう見るか
・保険会社ERMの構築状況
 (金融庁「ERMヒアリング」や各種サーベイより)

などを盛り込みました。

最後にさりげなく(?)「各種サーベイより」とあり、
これを見てピンと来たかたも多いと思います。
ややフライング気味ですが、現在集計・分析中の
某ERMサーベイの一部をご紹介できればと考えているところです。

また、私の予想では、金融庁から今週あたりに今事務年度の
監督方針や検査の年度方針(今回は後者に注目でしょうか?)
が公表されるでしょうし、ERMヒアリングの結果公表も秒読みの様子。
これらについても可能な範囲で解説したいと思います。

3時間ものセミナーは久しぶりですが、いつもの講演と違い、
参加者との距離が近いので、私も楽しみにしています。

ご関心のあるかた(&ご予算のあるかた^^)は、どうぞご参加下さい。

※写真は前回の金閣寺・龍安寺に続き、
 天龍寺の庭園と竹林の道です。

 

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夏の京都

 

歴史があまり好きではない中2女子(=うちの娘)を連れ、
京都に行きました。
少しでも関心を持ってもらうには、本物を見せようというわけです。

初日は平清盛つながりで、「三十三間堂」と「六波羅蜜寺」へ。
六波羅蜜寺の名前はマイナーですが、ここの宝物殿にある
「空也上人像(=口から阿弥陀仏が出ている像です)」や
「平清盛坐像」は、皆さんどこかで見たことがあると思います。

2日目は「金閣寺」「龍安寺」「天龍寺」など、室町時代のお勉強。
もちろん、寺社ばかりではなく、「伊右衛門サロンの贅沢かき氷」
などの特典付きです^^

そして最終日は大原へ。
娘は大原(特に寂光院)が最も印象的だったようです。
壇の浦の戦いで敗れ、息子の安徳天皇とともに入水したはずが、
不幸にも救い出されてしまった清盛の娘、建礼門院徳子のお寺です。

ところで、今回ふと気がついたのですが、かつてに比べると、
京都の観光地はずいぶん変わりましたね。

嵐山と言えば、以前はタレントショップとお土産屋ばかりでした。
今はタレントショップは一軒もありません。
お土産屋にしても、何でも売っているような店は少なく、
いずれも特色を出しています。

新京極もそうです。かつてはお土産屋ばかりでしたが、
今はゲームセンターやアニメショップが目立ちます。

私の想像ですが、京都観光の主役が修学旅行をはじめとする
若年層から、シニア層に変わったためではないでしょうか。
シニア層はタレントショップには足を向けないでしょうし、
お土産にも質の高いものを求めるでしょうから。

 

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破綻か再建か

 

6月に慶応大学理工学部・経済学部で行った
生命保険の講義のなかで、次の課題を出しました。

「あなたが金融庁で保険行政に関わっているとします。
 担当している会社の経営内容が悪化し、
 経営破綻に陥る可能性が高まっています
 (ただし、当社の経営危機は表面化していません)。
 担当者として次のどちらを選びますか。

 (1) 再建の可能性があるかぎり、ギリギリまで再建の道を探る。
 (2) 再建の可能性が小さくなったので、速やかに破綻させる。」

学生の皆さんの回答はどうだったかというと、
(1)が37人、(2)が32人、その他が4人となりました。

講義で過去の破綻事例の話をしたので、
(2)の早期破綻を選ぶ人が多いと予想したのですが、
結果は見事に分かれました。

(1)を選んだ主な理由
 ・破綻させると契約者だけでなく、経済全体への影響が大きい
 ・過去の破綻事例を見ると、当局の支援で再建する道はある

(2)を選んだ主な理由
 ・早いうちに破綻させたほうが損失が少ない
 ・この時点からの再建は、当局支援があっても非常に困難

現実の世界では、「早いうちに対応したほうが破綻コストが少ない」
という考えに基づく枠組みではあるものの、金融システムへの
影響を考慮し、破綻前に公的資金を投入した事例もありました
(今は「大きくても破綻させる」仕組みを作っていますね)。

過去の事例を見ると、延命を図ったばっかりに
傷口を広げたケースが散見されます。

他方、ある行政OBに聞いたところ、○○生命が経営破綻した後、
株価が上がらないことを祈ったとか。
「どうして破綻させたんだ」という話になってしまうからです。

つまるところ、経営破綻に陥る可能性が高まってからでは
遅いのかもしれません。

それにしても学生の皆さんは、私の講義を聞きながら、
一生懸命考えてくれたようですね。読みごたえがありました。

※夏休みが終わり、築地市場に賑わいが戻ってきました。

 

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ネット保険&共済

前々回にお伝えした通り、「4大共済の実力分析」が
今週の週刊東洋経済(2013.8.24号)に掲載されました。

5年前の同じ企画では、財務面の課題が中心でした。
しかし、今回目立ったのはむしろ事業面での課題と、
経営方針を見直す動きだったので、今回のレポートは、
「ビジネス」の現状と方向性に力点を置きました。

また、「共済=高成長」というイメージとは裏腹に、
成長鈍化が一段と鮮明になっていることもわかりました。
これは、共済が生損保の補完ではなく、保障の選択肢
の一つとして定着したためだと思います。

共済を提供している団体の経営情報は少ないので、
ご関心があるかたはぜひご覧下さい。

今回の特集は「ネット保険&共済」でした。
「相談有料の実力派」に「安くてシンプルな保険」を
選んでもらうという企画が特集の柱となっています。

そちらはご覧いただくとして、私の目を引いたのは、
最後の「多様化する保険チャネル」のところにあった
囲み記事「SBIが生保買収で保険事業拡大」でした。

SBIによる生保買収は何回目かのチャレンジなので、
「今度はどうかな」くらいの感想ですが、よく見ると、
SBIと関係のある保険ショップがたくさんあるのですね。

4大保険ショップと言われる「ほけんの窓口グループ」
「保険クリニック」「保険見直し本舗」「みつばち保険ファーム」
のうち、保険クリニックを運営するアイリックコーポレーション、
保険見直し本舗を運営するウェブクルーとは資本提携の関係、
みつばち保険ファームとSBIモーゲージは共同出店だそうです。

元受事業と流通事業の関連性はよくわかりませんが、
保険ビジネスに注力しているのは間違いなさそうです。

 

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生保の2013年4-6月期決算

先週末に生保の4-6月期決算が発表されました。

注目の「ポートフォリオ・リバランス」はと言えば、
株式は実質的に横ばい、外国証券はやや増加
(ヘッジ外債が多いと思いますが、詳細は不明)
といったところでしょうか。

公社債は、様子見モードが強かったなかで、
会計上の金利上昇リスクを意識してか、
「その他有価証券区分」の公社債を減らし、
「責任準備金債券」を増やす動きが目立ちました。

今回の注目は「解約返戻金」かもしれません。
前年同期と比べると、大手では住友生命、
外資系等ではメットライフアリコやジブラルタ、
ハートフォード、三井住友海上プライマリーなどで
解約返戻金が大きく増えています。

これらの会社に共通するのは、銀行を通じた
変額年金または外貨建年金の契約が多いことです。
株高や円安が進み、低迷していた運用実績が回復。
解約すると利益が出るようになったのでしょう。

実はこの傾向はすでに1-3月期から見られますが、
変額年金で最大手だったハートフォード生命
(現在は新規販売を休止中)の解約返戻金は、
4-6月期だけで期首総資産の7%強に達しました。

※いただいた鰹節を実家で削りました(家には削り器がないので)。

 

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原稿を書きました

 

週末を過ぎてもブログが更新されないので、
「夏休み!」、あるいは、暑さで倒れたのでは?
と思われたかもしれませんね。

実は週末にかけて原稿の締め切りに追われ、
スポーツジムもブログの更新もままならず、
ようやく一息ついているところです。

発売前ですが、執筆者特権(?)ということで。
今回の原稿は週刊東洋経済でして、
5年ぶりに4大共済の分析レポートが出ます
(保険&共済の特集だそうです)。

執筆時間が短かったとはいえ、材料は豊富です。
経営陣へのインタビューもそれぞれ3時間前後。
5年ぶりにもかかわらず、4共済のうち3共済が
前回と同じ役員だったのが印象的でした。

アナリストの視点から、4大共済の経営の現状と
方向性が浮き彫りになる記事を目指しました。
共済にご関心のあるかたはどうぞご覧下さい。
来週19日の発売予定です。

原稿執筆と言えば、保険代理店向けメールマガジン
「inswatch」の最新号にも書いています。

今回のテーマは損保代理店でして、
発表された代理店統計を「読んで」みました。

※夏生まれの父と娘の誕生会を実家で行いました。
 家族の行事は大事ですよね。

 

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