第一生命グループの新中計

3月31日に第一生命ホールディングスが新たな中期経営計画を公表しました。
メディアで報道されたのは主に「元営業職員の金銭詐取事件(=第一生命が全額補償すると同じ日に公表)」のほうでしたし、株式市場では自己株式取得(=上限2000億円の取得を決定)が好感された模様ですが、新中計の中身も注目に値するものだと思います。
第一生命HDのサイトへ

これまでの中計は、つまるところ「グループ修正利益(=会計ベース)をいかに高めるか」を最も重視していたように見えました。もちろん、生保事業の新契約価値を高める取り組みも行ってきているのですが、こちらはグループ修正利益をただちに増やす効果はないので、外国証券の利息配当金を増やすなど、修正利益への即効性の高い資産運用に依存することとなり、結果として金融市場の変動に左右されやすいリスクプロファイルがずっと変わりませんでした。

これに対し、新中計は「ありたい自分」を見据えたうえで策定され、重要経営指標(KPI)は利益の絶対額ではなく、資本効率やリスク削減目標など、企業価値や資本コストを強く意識した、これまでにないものとなりました。グループ修正利益の絶対額は想定レンジを置いただけです
(事業規模の指標としては「お客さま数」を掲げています)。
資本充足率(ESR)のターゲット水準に加え、資本政策の考え方も示しました。

競合する大手他社が総じて保険料や基礎利益を目標とするなかで、今回の第一生命グループの新中計は経営の変化を感じさせるものでした。あとは、株主やメディアなど外部ステークホルダーの理解を得るために、説明を重ねていく必要があるのでしょうね。

<参考>
日本生命グループの中計(2021-2023)のKPI
・お客様数(国内)
・保有年換算保険料(国内)
・基礎利益(グループ)
・自己資本(グループ)

住友生命グループの中計(2020-2022)のKPI
・保有契約件数(国内)
・保有契約年換算保険料(国内)
・うち生前給付保障+医療保障等(国内)
・基礎利益(国内)
・基礎利益(海外)

※福岡の桜はほぼ散ってしまいましたが、せっかくなので先週の写真を。

 

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『保険の教科書』刊行のご案内

新刊のご案内です。この4月に中央経済社から書籍「利用者と提供者の視点で学ぶ 保険の教科書」が出ることになりました(4月9日発売と聞いています)。単著としては実に2008年以来となります。

保険論は歴史のある学問ですので、保険理論に関する書籍は数多くあります。しかし、昨年から大学で本格的に教えるようになって、保険と保険産業の全体像をわかりやすく記述した初学者向けの書籍が意外にも見当たらないことに気づきました(特に保険産業について)。保険を学ぶのであれば、それを提供している保険産業がどうやってリスクを引き受けているのかも知る必要があると思うのですね。
そこで、出版社と相談したうえで、初めて保険を学ぶ学生のほか、保険産業(保険会社、保険代理店など)で働く若手社員をはじめ、保険に関心を持つ皆さんに向けた入門書を思い切って執筆した次第です。報道関係の皆さんにもぜひ手に取ってほしいです。

当初は前期の「保険論」「保険論入門」の講義と並行して執筆を進める計画でした。ところが、実際はオンライン対応などで7月まではとても執筆にあてる時間をとれるような状況ではなく、夏休みを返上して泣く泣く原稿書きに勤しみ、なんとか4月刊行に滑り込むことができました(中央経済社のHさん、ご尽力ありがとうございました)。

保険は身近な存在であるにもかかわらず、わかりにくいとされる商品・サービスの典型です。保険を提供する保険会社の経営内容はさらに理解されていないと感じます。本書が少しでも「利用者」と「提供者」のギャップを埋めるのに役立つことを願っています。

※写真は岡山県の倉敷です。

 

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大手保険代理店の業績動向

営業職員チャネルによる生命保険の販売シェアが5割前後まで下がっているにもかかわらず、営業職員以外の保険流通に関する公表データは限られています。業界紙の皆さん、ぜひ保険流通の全体像がわかるような報道をお願いします(データ付きで)。
いくつかの大手保険代理店が株式を公開し、業績動向を含めた経営情報を投資家・アナリスト向けに公表しているので、最近の数字などを確認してみました。

アドバンスクリエイト(2002年上場)

日本最大級の保険比較サイト「保険市場(ほけんいちば)」を運営し、コンサルティングプラザ「保険市場」での対面販売や提携代理店による協業販売、非対面チャネルによる販売などを行っています。かつてのような保険ショップで集客する事業ではなく、サイトで集客し、対面・非対面チャネルにつなげるビジネスモデルを確立しています。
同社の売上高の8割以上は保険代理店事業です。2020年4-6月期の売上高は前年より17.5%減りましたが、その後は売り上げが回復しています。3月からオンライン面談を導入したことのほか、サイトで集客するビジネスモデルがコロナ禍でプラスに効いていると考えられます。

NFCホールディングス(2014年上場)

ニュートン・フィナンシャル・コンサルティングとして創業し、日本最大級の保険コールセンターを持つ代理店のほか、買収により来店型保険ショップの保険見直し本舗、損保販売を中心とするE保険プランニングなどを擁する大型保険流通グループ。親会社は光通信です。
売上高の7割が保険サービス事業となっていて、2020年4-6月期も前年並みに売上高を確保しました(7-9月期、10-12月期は増加)。これは、2020年1月にE保険プランニングを子会社化したことが寄与しているとみられ、保険見直し本舗の新契約年換算保険料はこの時期大きく落ち込みました(10-12月期は前年並みに回復)。もっとも、経営者向け保険の税制見直しや外貨建て保険の予定利率の引き下げなど、コロナ禍以外の影響も大きいようで、業績トレンドをつかむのが難しいです。

アイリックコーポレーション(2018年上場)

来店型の保険ショップ「保険クリニック」を運営するほか、自社で開発した保険分析・検索システム「保険IQシステム」に強みを持つグループです。
売上高に占める保険販売事業は6割程度で、2020年4-6月期(前期比3.7%減)よりも1-3月期(同23.1%減)のほうが目立ちますが、NFCと同じく、経営者向け保険の税制改正や外貨建て保険の予定利率引き下げも影響しているようです(7-9月期、10-12月期の売上高はおおむね前年並み)。
このところ保険販売事業以外の売上高が拡大していて、システム販売やFC店舗の増加などが貢献しているとみられます。

いかがでしょうか。各社の売上高がコロナ禍でも総じて堅調に見えるのは、売上高の多くを占める手数料収入には、契約時に受け取る初回手数料のほか、次年度以降手数料などがあるからかもしれません。とはいえ、各社の開示情報をざっと見たかぎりでは、それぞれが独自のビジネスモデルを確立していることも大きいのではないかと思いました(ここから保険流通全体を語るのはちょっと厳しいかもしれませんが…)。

 

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生保決算報道の分析

13日に福岡大学で開催された日本保険学会・九州部会で、久しぶりにリアルな場での研究報告を行いました
(正確にはリアルとオンラインのハイブリッド開催でした。伊藤先生をはじめ役員の皆さま、お疲れさまでした)。

私の報告は「マスメディア(新聞)は生命保険会社の決算をどう報じてきたか」です。
(レジュメは次の情報がアップされるまでこちらからアクセスできます)。

ソルベンシー規制の第3の柱、すなわち情報開示による市場規律は、主に株主やアナリストなどの市場関係者を念頭に置いたものだと考えられますが、消費者(契約者)も本質的には保険会社の経営情報を必要としており、市場規律の担い手と言えるでしょう。そして、保険会社の経営情報が消費者にどのように伝わるかを考えた際、メディアによる伝達を無視することはできません。

そこで、2001年から2020年の20年間の新聞(日経、朝日、読売)による生保決算報道を調べてみたところ、継続的に報道がなされているとはいえ、メディアにはメディアが考える「ニュースバリュー」があり、それは必ずしも消費者のニーズに合致しているとは限らないことが見えてきました。
特に近年の画一的な報道には、メディア独自のニュースバリューのほか、日本特有の「記者クラブ制度」「(短期間での)ローテーション人事」も報道内容に影響している可能性がありそうだとわかりました。
このまま2025年に経済価値ベースのソルベンシー規制が導入されると、もしかしたらメディアは相変わらず保険料等収入と会計利益を報じるだけで、経営内容を正しく伝えようとはしないおそれもあると、あらためて認識した次第です。

保険会社のディスクロージャーについての研究はいくつか見かけますが、保険会社のディスクロージャーを伝えるメディアについての研究は見当たりませんでしたので、皆さんに興味深くご覧いただけるのではないかと思います。
もっとも、今回の研究報告は途中経過に近いものなので、さらに調査分析を進める予定です。関係者の皆さまには引き続きご支援のほど、よろしくお願いいたします。

※写真は古賀市筵内(むしろうち)地区の菜の花です。

 

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事業会社のリスク情報

今週のInswatch Vol.1075(2021.3.8)に寄稿したものをご紹介いたします。
写真は以前訪れた武雄市図書館です。盛況も納得の楽しい図書館でした。
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リスク情報の開示を充実する動き

昨年7月の本誌では、上場保険グループの「事業等のリスク」を取り上げました。「事業等のリスク」は上場会社が有価証券報告書に記載することになっている項目です。従来はリスクの羅列となっていて、あまり参考にならなかったものが、昨今のコーポレート・ガバナンス改革により内容が充実してきたとお伝えしました。
こうしたリスク情報の開示や内容の充実を求められているのは保険会社だけではなく、すべての上場会社が対象となっています。金融庁は情報開示の充実を促すためにサイトで具体的な事例を公表していて、2月16日に「事業等のリスク」の開示例を追加しました。

リスクの重要度合いを示す

金融庁が2020年度の「事業等のリスク」の好事例として取り上げたのは11社で、東京海上とSOMPOの保険グループ2社のほかは事業会社でした(コニカミノルタ、エヌ・ティ・ティ・データ、J.フロント、LIXIL、ヤマハ、不二製油、味の素、ソニー、三菱商事)。
事業会社における取り組みとして目立つのは、重要と考えるリスクをどう特定し、どのように対応しているかを示したものです。
例えばいくつかの会社では、リスクの重要性を判断するために、縦軸を影響度、横軸を発生可能性としたリスクマップを作成し、活用しているという記載がありました。別の会社では、特定した重要リスクそれぞれについて対応の方向性を示しているほか、そのリスクを誰が管掌しているかという情報も載せ、責任の所在を明らかにしていました。

事業会社のリスク認識が変わる

有価証券報告書のリスク情報は主に投資家やアナリストに向けたものですが、誰でも簡単に入手し、活用することができます(私がアナリストを始めたころは紙ベースのものしかなかったので、今はいい時代になりました)。
上場会社は必ずしも日本を代表する少数の大企業だけではなく、第一部に限っても2194社もあります(2月26日時点)。これらはグループベースですので、実際の会社の数となるとさらに多くなります。
リスク情報の開示は、単なるリスクの羅列であれば担当者の作文でも済んでしまいますが、開示を充実させるとなると、経営者はいよいよリスクと正面から向き合い、リスクマネジメントに真剣に取り組む必要が生じます。企業のリスクマネジメントを支援する保険産業にとっては追い風です。
まともな経営者であれば、リスクマネジメントへの取り組みのなかで、保険の出番も増えるはず。保険の手配は総務部か人事部の仕事という時代がようやく終わるかもしれません(期待を込めて)。
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生保の超長期国債購入

総務省と農水省の幹部職員が相次いで国家公務員倫理規程違反で処分されるというのは、短期間ながら中央官庁での勤務経験者としては、残念かつ不思議でなりません。
両省は先週、処分とともに再発防止策を打ち出しました。ただ、「認識が甘かったので、研修で徹底させる」「届け出に関する新たなルールを作る」というのが本当に防止策になるのでしょうか。倫理研修は今でも定期的にやっているでしょうし、届出ルールも存在していますので、これ以上、研修や届出ルールを整備しても、屋上屋にしかなりません。
現場の職員が委縮して外部との接触を避けるほどのルールがあり、知識としてはみんな知っているのに、なぜ幹部職員が率先してルールを守らなかったのかという根本的な原因を探らなければ、再発防止策にはならないと思います。

生保の超長期国債購入

先週の金融市場では、生命保険会社による超長期国債の購入が話題になっていたようです。例えばロイターは、1月に生損保が超長期債を8年ぶりの高水準となる約1兆円買い越したと伝えました(ニュースはこちら)。

記事だけだとわかりませんが、生保はここにきて急に超長期債の購入を増やしたのではなく、2019年10月あたりから購入が目立っています。これは日本証券業協会の統計だけでなく、主要生保の決算データからも確認できます。

主要生保の決算データを見ると、マイナス金利政策が導入された2016年1月以降、超長期債の購入をしばらく中断していました(残高を増やさなかった)が、2017年度半ばあたりから姿勢がやや変わり、2019年10-12月期からは残高の積み増しが続いているのがわかります。
ただし、過去のブログでもお伝えしたように、会社によって動きが異なるのが最近の特徴かもしれません。

過去のデータを見ると、日本証券業協会の統計は、なぜか保険会社の決算データの動きと合わないこともあるようです。例えば、マイナス金利政策導入後、日本証券業協会の統計は決算データと違い、それなりに買い越しが続いていました。
加えて、月次の統計は振れやすいので、まずは金利水準がさらに上がった2月の数値(3月22日公表)に注目しましょう。

※写真は北九州市の木屋瀬(こやのせ)です。宿場町として賑わいました。

 

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生命保険会社の決算報道

インシュアランス生保版(2021年2月号第2集)に執筆したコラムをご紹介します(見出しはブログのオリジナルです)。
生保各社の4-12月期決算は2月12日に公表されましたが、これを報じた全国紙は日経だけ。その日経も「基礎利益が主要9社のうち6社で減った」という、いわゆるベタ記事でした。

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本稿が掲載されるのはおそらく生命保険会社の4-12月期決算発表の前後であろう。
マスメディアは生保決算をどう報じてきたか。大学のデータベースで確認できた経済紙(日経)および一般紙(朝日、毎日、読売)の決算報道を確認すると、例えば2020年4-9月期には、いずれも主要生保の個人分野の新契約年換算保険料と保険料等収入、基礎利益の動きを伝えていた。

「保険料等収入」「基礎利益」を伝えればいいのか

切り口が横並びなのは、どのメディアも主に記者クラブ主催の会見と報道向け資料をもとに記事を作成しているからであろう。直近で新契約年換算保険料を取り上げているのは、新型コロナウイルスの影響で数値が大きく落ち込むという目立った事象への対応であり、ここ数年は「売上高にあたる保険料等収入」「本業のもうけを示す基礎利益」の2つを伝えることをもって、各紙は生保決算というネタを画一的に「処理」してきた。
日経だけでなく、一般紙も概ね半年ごとに一定の紙面を生保決算報道にあててきたことを踏まえると、読者に保険契約者が多いというだけでなく、少なくとも生命保険という産業が日本の経済・社会において無視はできないレベルの存在感があり、ニュースバリューがあると考えているのだろう。ただ、もしメディアが、生保の決算報道には事業会社と決定的な違いがあることを十分理解しているのであれば、生保の経営内容を示すのに適切とは言えない「保険料等収入」「基礎利益」の動きを伝えておしまいとはならないはずだ。

生命保険は経営内容で価値が左右される商品

事業会社の場合、その会社の商品・サービスの利用者だからといって、その会社の経営内容を知る必要はない(知りたくなることはあるかもしれないが)。ところが保険会社の場合には、会社の経営内容もいわば商品・サービスの一部となっている。会社の経営が傾けば将来の保障が危うくなるし、業績が順調であれば(有配当契約の場合)配当還元を期待できる。つまり、生命保険は保険会社の経営内容によってその価値が左右される商品・サービスなのである。
貯蓄性の強い一時払い商品の販売に左右される保険料等収入や、外国証券等の利息配当金収入や団体保険の死差益で「かさ上げ」される基礎利益を報じるだけでは、メディアは社会から期待されている役割を果たしていないどころか、間違ったメッセージを与えているのだと自覚してほしい。

「増減収」「増減益」報道に惑わされないで

本誌の読者の皆さんにも僭越ながらお願いしたい。「保険料等収入でA生命がB生命を〇年ぶりに抜いた」「4社のうちC生命だけが減益だった」といった報道に接しても、決して惑わされないでほしい。メディアで報道されるからといって、毎期の保険料等収入や基礎利益の拡大を競う経営を行うと、かえって企業価値を損ない、契約者をはじめとしたステークホルダーに迷惑をかけることになりかねないためである。
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※動物園に行ってきました♪

 

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「リスクコミュニケーションの現在」

新型コロナウイルスへの政府の対応やワクチン接種をめぐる社会の反応などを見ると、私たちは過去からあまり学べていないのではないかと考えてしまいます。

放送大学のテキスト『リスクコミュニケーションの現在』(平川秀幸・奈良由美子編著)には、10年前の原発事故後のリスクコミュニケーションについての記述があります。
事故後、福島では放射性物質による汚染や健康被害のリスクが問題となりました。政府や専門家は、自分たちが考える以上に住民が放射線リスクを深刻にとらえるのは、知識が不足しているからと考え、住民に向けて多くの情報を発信しました。
しかし、科学的に正しい情報を発信すれば住民のリスク認識が変わるかといえば、そうではなかったのです。そこには「信頼」が大きく関係していました。それまで安全と言われてきて、そう信じていた原子力発電所によって日常生活が突然奪われた人々は、政府や東京電力、そして科学者を信頼できなくなりました。いったん信頼が崩壊してしまうと、いくら科学的な情報を伝えても、住民のリスク認識を改めることはなかなかできません。

リスク比較の難しさも浮き彫りになりました。本書では「放射線リスクよりも喫煙による発がんリスクのほうが高い」という説明に対し、4割の人が嫌悪感を示したという結果とその理由を紹介しています。

・喫煙者ではないのに喫煙と比較されても意味がない
・生活のなかにはすでにたくさんのリスクがあるのに、そこに上乗せされたのだから、小さいと説明されても拒否感がある
・科学の不確実性を軽視しているのではないか
・小さいリスクだから受け入れろという説得に聞こえてしまう

新型コロナウイルス感染症対策分科会にはリスクコミュニケーションの専門家もいますし、尾身茂会長もリスクコミュニケーションの重要性について繰り返しコメントしています。それでも、専門家でも異なる見解がありえる科学的事象を、専門家ではない人々が理解し、行動につながるようなコミュニケーションをはかるのは難しいということなのでしょう。

 

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マイナス金利政策の導入から5年

今週のInswatch Vol.1071(2021.2.8)に寄稿したものです。
今週号の松本一成さんの記事を拝読して、「リスク選好」をリスクコントロール対策の1つとして捉える考え方もあるのだと知りました。同じ用語でも私とは別の概念なのかもしれませんが…ご興味のあるかたは本誌をご覧ください。
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学生の成績評価や入学試験の監督など、このところ大学教員ならではの業務に追われています。5年前とは大きな変化です。

歴史的低金利が長期化

早いもので2016年1月のマイナス金利政策導入から5年が経ちました。この政策は同年9月に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に修正され、長期金利の極端な低下には歯止めがかかったものの、短期金利はマイナス、超長期金利は1%を下回る低位で推移し、現在に至っています。
もともと大胆な金融緩和は短期決戦だったはずなのですが、2%の物価安定の目標には一向に到達せず、いつの間にか長期戦となってしまいました。日銀は現在、金融緩和政策の「点検」を行っていて、3月に結果を公表するとみられます。新型コロナウイルス感染症の影響もあり、足元の物価はむしろ低下傾向にありますので、今の枠組みが大きく変わることはない、というのが専門家の見方のようです。

外貨建資産へのシフトが進む

筆者は2016年当時、東洋経済オンラインに「生保、マイナス金利でリスクテイクが困難に」という記事を執筆し、金利水準の低下が多くの生命保険会社のバランスシートに悪影響を与えることや、日銀が期待する大規模なポートフォリオ・リバランス(国債投資から株式、外貨建て資産への投資にシフト)は実現しないと述べました。
現行のソルベンシー・マージン比率は金利低下の影響を適切に反映しないので、一見すると平穏な5年間だったと思われるかもしれません。しかし、この5年間に国内系生保による資本(劣後債務)調達が相次いだことからしても、マイナス金利政策を受けて圧迫された財務健全性の回復を各社が何とかして図ろうとしてきた姿が見てとれます。
ただし、この5年間に9社のうち5社が10年超の国債の残高を減らしたのは予想外でしたし、外貨建資産への投資も増え続けています。経営体力が圧迫されているなかで、資本調達をしてまで新たなリスクテイクを行うという経営判断を、どう考えたらいいのでしょうか。

「定期化」が進む?

同じ記事のなかで筆者は、国内系生保は銀行窓販を除き、すでに予定利率による影響を受けにくい商品に注力してきたことに触れたうえで、魅力ある貯蓄性商品の提供が一層難しくなっており、新たな長期保障を提供する取り組みが求められていると述べました。
新たな長期保障を提供する取り組みとしては「トンチン年金」が登場しています。とはいえ、顧客の理解を得るのが難しいためか、普及には時間がかかっているようです。その一方で、銀行窓販をはじめ、貯蓄性商品の主力は顧客が為替リスクを負う外貨建てとなりました(終身保険では低解約返戻金型も増えました)。
今の金利水準では利率保証のある長期の円建て貯蓄性商品を提供するのは難しいとみられます。ワクチン普及などにより対面営業の制約が薄れても、価格競争の進展や新たな健全性規制の導入をにらみつつ、全体としては期間限定の保障を提供する「定期化」が進んでいくのではないでしょうか。
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※近所の護国神社です。

 

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ソニーがIFRSを任意適用へ

ソニーが連結決算で適用する会計基準を、従来の米国会計基準(US-GAAP)から国際財務報告基準(IFRS)に替えるという発表がありました。2021年度の決算(第1四半期)からIFRSによる開示が始まります(2021年度って、この4月からですよね!)。
ソニーのニュースリリースはこちら(PDF)です。

ソニーがIFRSを任意適用するということは、昨年ソニーの完全子会社となったソニーフィナンシャルホールディングス傘下のソニー生命も、連結決算のためにIFRSによる決算対応を行うことになります。グループがIFRSを適用している生命保険会社にはアクサ生命や楽天生命などいくつかありますが、ここに資産規模が10兆円を超えるソニー生命が加わります。3メガ損保など上場保険グループは今後どう対応するのでしょうか。

IFRS17号(保険契約)の発効は2023年なので、早期適用が可能とはいえ、この4月からは暫定基準のIFRS4号を使うことになるのでしょうか。そうだとすると、US-GAAPと日本基準の違いである繰延新契約費(新契約コストを繰延資産として計上)がIFRSでも受け継がれ、これまでとあまり変化はないのかもしれません。
ただ、遅くとも2年後のIFRS17号適用となると、保険負債の評価が大きく変わり、毎期の損益もだいぶ違うものとなりそうです。もっとも、契約上のサービスマージン(CSM)の残高と取り崩し方法、あるいは割引率の設定方法しだいという気もします。

過去の決算データを確認すると、ソニーのセグメント別利益のなかで、金融はこれまで安定的に利益を計上してきました。2016年3月期のように超長期金利が低下し、MCEVが大きく減っても、他のセグメントでしばしば見られるような損益の大きな落ち込みはありませんでした。
これは、ソニー生命が金利以外の資産運用リスクをできるだけ抑えてきたことと、US-GAAPも日本基準と同様に責任準備金がロックイン方式なので、金利変動による負債面の影響をほとんど反映していなかったことが大きいと考えられます。

※福岡・愛宕神社からの景色です。

 

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