なぜ「他社の経営経験」なのか

7月16日(金)に日本代協 阪神ブロックWebセミナーで講師を務めました。
演題は「2020年度決算にみる大手損保グループの経営戦略」で、大手損保グループの経営が依然として市場環境の変動によって大きく振れることや、損保4社の各種指標の違いなどをご覧いただいたうえで、中期経営計画の注目点をお話ししました。いかがでしたでしょうか。

阪神ブロックといってもzoomを使ったセミナーだったので、私は福岡でスピーチを行いましたし、おそらく参加者の皆さんも各地に広がっていたのではないかと思います。懇親の場がなく、参加者の反応がわからないのは残念ですが、便利な時代になりました。

社外取締役の要件

最近、授業でコーポレートガバナンスの話をしていて、改めて気になったことがあります。
現在のコーポレートガバナンス・コードの補充原則4-11①の最後に、「独立社外取締役には、他社での経営経験を有する者を含めるべきである」とあるのをご存じでしょうか。2021年6月の改訂時に加わった文言です。
CGコード(修正履歴付きPDF)

改訂について議論したフォローアップ会議の資料によると、「独立社外取締役には、企業が経営環境の変化を見通し、経営戦略に反映させる上で、より重要な役割を果たすことが求められるため、他社での経営経験を有する者を含めることが肝要」なのだそうです。
しかし、そもそも日本のコーポレートガバナンス改革は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目指すものであり、その背景には日本企業の経営陣が適切なリスクテイクをせず、株主に求められる資本コストを上回るリターンを総じて稼げておらず、世界に差をつけられてしまっていることがあります。それなのに「他社の経営経験を有する者を含めるのが肝要」とはどういうことでしょうか。
他社の経営経験者となると、多くの場合、日本企業の社長OBなどが候補になることを想定しているのでしょう(CEO等の経験者に限られるという趣旨ではないとはありますけど…)。しかし、過去30年間の日本の経営が総じてうまくいかなかったから、政府がガバナンス改革を進めているのですよね。どうしてこのような改訂になったのでしょうか。

なお、ガバナンス特集を組んだ週刊東洋経済(2021年7月10日号)のインタビュー記事で、東レの日覺社長は「(企業によって事業や状況は全く異なるので)よその経営経験者に社外取をお願いして経営方針を相談し、「いい意見をもらった」と喜ぶトップがいるのならば、そのトップはすごくレベルが低いから今すぐ辞めたほうがいい」と語っていました。
日覺社長は「会社の大事なことは社外の人間ではなく、事業をよく理解している社内の人間で話し合って決めるべきだ」とも語っていて、私の問題意識とはやや異なるようですが、社外取締役に何を期待するのかを考えると「他社の経営経験を有する者を含めるのが肝要」という結論にならない点は同じでした。

※15分の船旅を楽しみました。

 

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火災保険の元受保険料と出再保険料

今週のInswatch Vol.1093(2021.7.12)では火災保険の出再保険料について書きました。ご参考までにブログでもご紹介します。
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幸いにも大学の集団接種枠を活用できたので、さっそく1回目のワクチン接種(モデルナ)をしたところ、夜になって微熱が出たり、体がだるくなったりしました。微熱はすぐに下がり、体のだるさも翌朝にはなくなりましたが、接種した左腕の筋肉痛は終日続きました。
接種会場で医師から、「2回目の後は症状が出ることが多いので、予定を入れないほうがいいですよ」と言われました。しかし、1回目でもこうした反応が出ることもありますので、ご参考にしてください。

火災保険の収益改善が進むか

6月25日のinswatchプロフェッショナルレポートでは、大手損保グループの20年度決算について、独自の視点でご紹介しました。そこでは触れなかったのですが、このところ大手損保では、総じて火災保険の元受保険料の伸びを上回るペースで出再保険料が増える傾向が見られます。20年度の各社の元受保険料に占める出再保険料の割合は次のとおりです。

東京海上日動 39.7%(前期比+0.6ポイント)
三井住友海上 43.6%(前期比△2.8ポイント)
あいおいND 42.5%(前期比+1.3ポイント)
損保ジャパン 42.8%(前期比+0.5ポイント)

この背景には、日本の自然災害発生だけでなく、数年前から世界の再保険市場が料率上昇トレンド(いわゆるハードマーケット)になっていることが挙げられます。ハードマーケットで日本の保険会社が前年度と同じ再保険カバーを購入するには、前年度よりも高い再保険料を支払う必要があります。それが嫌だったら再保険カバーを縮小し、自らリスクを引き受ける部分を増やすしかありません。開示情報からは各社の対応状況を正確につかむことはできませんが、出再を抑えた会社もあるように見えます。
世界的には、ハードマーケットは損害保険会社の収益改善が進む経営環境と見られています。原油価格が上がればガソリン代が上がるのと同じように、再保険市場がハード化すれば元受の保険料率も上がるのは本来の市場の姿です。ところが日本では保険料は公共料金のような扱いを受けたり、企業との長期的な関係を意識したりするあまり、価格転嫁が難しい状況が続いてきました。各社とも火災保険の収益が低迷しているのは大規模な自然災害の発生というだけではなく、リスクに見合った保険料を得られていないためと考えられます。
ERM経営を標榜する各社がリスクに応じたプライシングをどこまで追求できるのか、今年度以降の火災保険の収益に注目しましょう。

元受保険料の多くを出再する会社もある

ところで、外資系の損害保険会社では、元受保険料に比べて正味収入保険料が極端に小さい会社がしばしば見られます。例えば、AIG損保の火災保険の正味収入保険料は19年度も20年度も元受保険料の約17%、チャブ損保も約19%です(19年度)。アリアンツやチューリッヒのように火災保険の元受保険料の大半を出再しているところもあります。
これらの会社は多くの場合、同じグループ内の保険会社に出再し、グループ全体で再保険管理を行っていると考えられます。グローバル保険グループとしての引き受け規律を求めるため、国内勢に比べ、総じて市場原理をより意識した引き受けとなる傾向が強いようです。ただし、これだけ出再割合が大きいと、もし何かの理由でグループからの規律が緩んだ場合、日本の会社としての引き受け規律が働くのかと、少し心配になります。
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※梅雨明けしました。キャンパスも暑いです。

 

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ガバナンス強化で稼ぐ力を高めるには

いきなり理屈っぽい話で恐縮ですが、企業価値を測るには、ファイナンス理論では将来キャッシュフローを資本コストで割り引いて算出します。将来キャッシュフローはその企業が事業から生み出すであろう「稼ぎ」であり、資本コスト(株主資本コスト)は事業のリスクに応じて株主が要求するリターンです。

ですから、例えば第一生命グループが最近、リスクテイクのあり方を変えることで資本コストの低下を目指すという経営計画を打ち出したのは、「分子の期待値は下がってしまうかもしれないけれど、それよりも分母を小さくすることができれば企業価値が高まる」という考えに基づくものだと考えられます。

これに対し、ここ数年、政府主導で進んできた日本のガバナンス改革は、分子の稼ぐ力を高めることを目指してきました。いわゆる「攻めのガバナンス」です。とはいえ、ガバナンス改革が分子・分母どちらに働きかけることになるかは、実証分析の蓄積を待たないと、何とも言えないように思います。

例えば、東証一部では2名以上の独立社外取締役を選任する会社が、2014年度の約2割から、今や9割を超えています。監査等委員会設置会社も増え、経営における監督と執行の分離が(少なくとも形としては)だいぶ浸透してきました。
しかし、社外取締役は総じてその会社が強みとするビジネスモデルに精通しているわけではないため、株主が社外取締役に期待するのは分子を高める役割よりも、まずは不祥事の防止など分母を下げる役割を期待するかもしれません。
あるいは、もし社外取締役のアドバイスを受けた経営陣がリターンの追及に舵を切ろうとしても、株主はそれを求めるかもしれませんが、他のステークホルダーは過度なリスクテイクだとして、リターンの追及にブレーキをかけようとするかもしれません。

そう考えると、ガバナンスの強化によって分子の将来キャッシュフローを高めるには、経営陣が常にリスクを意識した経営を行うこと、つまり、リスク・リターン・資本の3つを同時にコントロールして、それをきちんと説明できることが大前提となります。ガバナンスの強化とリスクマネジメントの高度化はセットで取り組むべきです。
少なくとも、リスクマネジャーを置かず、保険を相変わらず人事部や総務部で手配しているような会社では、攻めのガバナンスは期待できないし、やるべきでもないということですね。

※写真は博多駅です。

 

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金融庁が新規制の検討状況を公表

金融庁の事務年度は7月から6月なので、6月末にいろいろと公表されています。そのなかに「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する検討状況について」がありました。
全部で143ページもの資料で、技術的な内容を多く含んでいますが、「はじめに」のところに「2022年に制度の基本的な内容を暫定的に決定することを目標に、検討を継続していく予定である」とあります。昨年6月公表の有識者会議報告書(PDF)を受けて、経済価値ベースのソルベンシー規制導入に向け、金融庁はスケジュール感を持って動いていることが示されました。

第2の柱、第3の柱に関する記述が相変わらず少ないのはやむを得ない(第1の柱の標準モデル検討を優先)のかもしれません。
しかし、少し気になったところもあります。今回の「検討状況」には第2の柱について、有識者報告書の「標準モデルにおいて十分にカバーされていないリスクの捕捉」についての記述はあるのですが、「ERMやORSAの枠組みに関する一定の目線を定め、実態把握に基づいて改善・高度化を促していく」についての記述が見当たりません。
有識者報告書では第1の柱と第2の柱をセットでとらえ、第1の柱を「最大公約数的」「政策措置あり」としたうえで、第2の柱でリスク管理の高度化を促す、こうした規制を想定していると読めます。ですから、技術的な検討とは別に、第2の柱を具体的にどう機能させるのかといった議論が必要であり、今後の課題なのだと理解しました
(もしかしたら別のレポートで何か示されるのかもしれませんが…)。

関連情報(私の備忘録?)として、6月28日付けで日本アクチュアリー会が保険負債検証レポートに関する資料を公表しています(資料の日付は3月5日となっていますね)。
もっとも、検討の背景や検討項目、結果の概要などを一般に示していないので、これだけ見てもよくわからないかもしれません。

執筆のご案内

最後にご案内です。大手損保グループの2020年度の決算発表を踏まえ、今年もInswatch週刊金融財政事情に寄稿しました。もし両媒体を目にする機会がありましたら、ご覧いただけるとうれしいです。
過去10年間に自動車保険の保険料シェアがどう変わったのかを確認しようとしたところ、分母の業界全体の数値が途中で変わってしまい、補正でもしないと実態がよくわからないことが(今さらですが)わかりました。合併によって取れない数値があることも判明し、こういうときにAIだったらどう対応するのだろうなんて余計なことも考えてしまいました。
火災保険の元受保険料に占める出再保険料の割合が4割前後まで高まっているのにも注目すべきかと思います。

※RINGの会オープンセミナーが2年ぶりに開催されました(オンライン開催)。

 

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東京圏への議席集中は問題なのか

総務省が、25日に発表した2020年の国勢調査の速報値をもとに衆議院小選挙区の数を試算したところ、衆院小選挙区は東京、神奈川、埼玉、千葉、愛知で計10増え、宮城、福島、新潟、滋賀、和歌山、岡山、広島、山口、愛媛、長崎で計10減ることがわかりました。2016年の法律改正で議席配分方式が新しくなったこともありますが、人口が大都市に集中し、地方で減っているためです。
総務省のサイトへ

この結果を受けた各政党のコメント(25日のNHKニュースに載ったもの)を見ると、都市部と地方の議席バランスが変わる(地方選出の議員が減る)のを問題視する発言が結構ありました。
そりゃ、自らが地方選出という議員にとっては死活問題でしょう。「東京都など関東地方に議員の数が非常に集中していくことになる。そのバランスをどう考えるかも含め、この5年10年のことではなく、その先も考えながら議論しなければならない」と述べた安倍前首相の地元である山口県も試算では1減となっています。

こうしたコメントをしている各政党の方々と私とでは、どうも頭の中にある「あるべき姿」が違うようです。各政党のコメントから判断すると、1票の較差(格差)を2倍とするのが格差是正の目標(あるべき姿)となっているように見えるのに対し、私は、本来あるべき姿は格差ゼロだと考えています。完全に格差をなくすのは難しいにしても、できるかぎり格差をなくす方向にしていくべきです。
新たな方式で割り振り直したところで、人口が最小の鳥取2区と最大の東京22区では1票の格差が2倍あります。都市部に住んでいる有権者は正当な理由なく、地方よりも国政に参加する権利を制限され続けていると感じます。

東京圏への議席集中は何が問題なのでしょうか。地方の声が反映されにくくなるから?
1票の格差が大きいことで、これまでずっと都市部の声が反映されにくい状態なのに。
民主主義国家において、都市部の有権者の権利を制限する正当な理由などあるのでしょうか。つまるところ既得権益を守りたいということしか思いつきません。
もちろん、国として人口の大都市集中を是正するという政策は(賛否はともかく)理解できます。しかし、人口集中の是正で行うべき政策と、有権者の権利を守ることは全く別であって、東京圏に人口が集中した結果、国政を担う有権者の代表が東京圏に集中してしまうのは当然です。

都市部にすむ有権者(いま住んでいる福岡市中央区も最小選挙区との格差が2倍近くあります)としては、今後も主張し続けていこうと思います。

※睡蓮の向こうにNHK福岡放送局が見えます。

※NHKニュースが消えてしまうかもしれないので、各政党のコメントを残しておきますね。

自民党(逢沢選挙制度調査会長)
「1票の格差が2倍を超えない状況をしっかり確保していくことは、非常に大切な憲法上の要請だ。ただ、地方と都市部の議員の数の格差がさらに広がることは、国民も相当な危機意識を持つと思う。地方創生や一極集中の是正をさらに強化しないといけないし、党としてより配慮した努力が求められる」

立憲民主党(安住国会対策委員長)
「1票の格差を2倍以内に抑えていくことは、憲法の理念からもやらなければいけない。ただ、政治が本来、光をあてないといけない過疎地から議員を減らし、東京だけを増やせばいいということには、大変複雑で割り切れない思いだ。このやり方が果たして正しいかどうかは、これから議論したほうがいい」

公明党(井上政治改革本部長)
「新たな議席配分が実現すれば『1票の格差』が2倍以内となり、投票価値の平等が確保される。速やかに区割り案の検討が行われることを期待するとともに、その後、公職選挙法など必要な法改正を進めていきたい」

日本維新の会(馬場幹事長)
「人口が集中する地域の議席が増える一方、人口が減る地域では議席が減っていくというのは制度自体のひずみで、根本的な選挙制度の見直しをしていく時期が来ている。地方で現状と同じ程度の議席を確保しつつ、国内全体の定数は減らすことを検討すべきだ」

共産党(穀田選挙対策委員長)
「有権者にとってみれば、しょっちゅう選挙区が変わることになる。そもそも小選挙区制度そのものに根本的な問題があるのであって、この制度を変えることなしには1票の格差の問題は解決できない。選挙は民意をいかに正しく反映させるかが重要で、比例代表を軸にした制度に変える必要がある」

国民民主党(玉木代表)
「地方の衰退を助長することにつながらないか、強い懸念を感じる。『1票の格差』の問題は非常に重要だが、国土を守っていくためにオールジャパンの観点も必要だ。このまま地方の議席を減らしていいのか。憲法も含めて、根本に立ち返った議論を始めるべきだ」

 

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日本生命のCM

先日訃報が伝わった作曲家の小林亜星さんは「モクセイの花」という曲も作っています。
そう、「ニッセイのおばちゃん」のCMソングです。

モクセイの花(動画)

このCMは1970年代から80年代にかけて長く使われたので、40代半ばくらいまでの人であれば、口ずさめるのではないでしょうか。
いま聞くと、しんみりとした名曲ですね。もちろん生命保険のCMなのですが、保険を前面に出さないのに、人生の節目にはニッセイのおばちゃんに相談しようという気にさせますね。

日本生命のCMは結構好きでして、例えば、谷川俊太郎さんの詩を使ったCMは、保険をうまく表現していると思いました。
この駅はかつての井の頭公園駅ですね。

愛する人のために(動画)

比較的最近のものでは、朝ドラのヒロイン清原果耶さん出演のこちら。
つい、うるうるしてしまいます(笑)

見守るということ(動画)

反対に、これは逆効果だと思ったのが、CMではありませんが、2011年放映の「JIN-仁-」です。
日本生命はあくまでスポンサーであり、脚本に影響を与えたとは思いたくないのですが、ドラマのなかで坂本龍馬に「保険」「保険」と叫ばせ、船中八策ならぬ「船中九策」まで登場(保険が加わりました)。原作にそのようなシーンは一切なかったので、かなりガッカリしました。

※手水のところが紫陽花で埋まっていてびっくりしました。太宰府天満宮です。

 

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損保系生保の現状

今週のInswatch Vol.1089(2021.6.14)では大手損保グループの決算をもとに、損保系生保の現状について書きました。ご参考までにこちらでもご紹介します。
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3メガ損保グループの2020年度決算が出ましたので、投資家・アナリスト向けの説明資料から、生損クロスセルを主要なビジネスモデルとしている生命保険3社(あんしん生命、MSA生命、ひまわり生命)の現状を探ってみました。

企業価値に大きく貢献

損保決算と言えば、自然災害による影響や海外保険事業の拡大に注目が集まり、各社の経営陣も国内生保事業の現状をあまりアピールしていない印象があります(あくまで個人の印象です)。
1996年の設立から25年がたち、各社のEVはいずれも1兆円前後に達しました。EVというと皆さん電気自動車を思い起こすかもしれませんが、生命保険会社のEV(エンベディッド・バリュー)は企業価値を表す指標の一つです。各グループの時価総額が1.5~3.5兆円、中核損害保険会社(東京海上日動、三井住友海上、あいおいニッセイ同和、損保ジャパン)の純資産が1.5~3兆円(MS&ADは2社合算)であることを踏まえると、1兆円前後のEVは決して小さい数値ではありません。EVを見るかぎり、生保事業への進出は大成功だったと言えるでしょう。

クロスセル率はじわじわと上昇

各社は生損クロスセルを主要なビジネスモデルとしているとみられます。しかし、公表データが少ないため、損保代理店による生保販売が各社の成長にどの程度貢献しているのか、実のところよくわかりません。
参考として、SOMPOグループが公表したひまわり生命の新契約年換算保険料のチャネル別構成比(2019年度)によると、損保代理店が61%となっていました。ただし、保険ショップでの販売や経営者向け保険(生保プロが主な担い手)の動向などにより、構成比は年度によってかなり異なるのではないかと思います。

クロスセルの現状はどうなっているのでしょうか。MS&ADグループは生保併売率(MSA生命の保有契約者数および損保第三分野の長期契約を、中核損保2社の自動車・火災保険契約者数と対比)を公表し、2020年度には17.6%に達したとのことでした。東京海上グループは生損保一体型の「超保険」をクロスセル推進に活用しており、2020年度の生保・第三分野の付帯率は26.5%だったそうです。
釈迦に説法ではありますが、自動車保険や火災保険の既存顧客に新たな生命保険ニーズがあるとは限りませんし、ニーズ顕在型で毎年の契約更改がある損害保険と、ニーズを掘り起こす必要がある長期の生命保険とでは、マーケティング方法も異なります。生損クロスセルというビジネスモデルは世界的に見て、そう一般的なものではないのかもしれませんが、設立当初からウォッチしてきた目線からすると、一定の成果が出ていると評価すべきなのでしょう。

リスクベース経営

今回の決算発表では、3グループともに生保事業のリスクとリターンに関する説明が目立ちました。
東京海上グループとSOMPOグループは、いずれも主力商品のリスク・リターンのイメージを示しました。両社は保障性商品を中心とした商品戦略により高い収益性を確保していく方針です(あんしん生命は変額保険にも注力)。MSA生命は2020年度に金利リスクを削減し、経済価値ベースのソルベンシー規制やIFRS(国際会計基準)の導入を見据えた取り組みを実施しています。
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※週末に浜辺でビーチラグビーをやっていました。

 

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ガバナンス2題(備忘録)

保険毎日新聞の見出しを眺めていたら、「ムーディーズ 大手生保4社20年度業績でリポート、運用実績で収益性に差」とありました。気になったので記事を見たところ、「大手生保4社の基礎利益にばらつきが見られ、各社の運用実績の差を反映している」とありました。
保険毎日新聞が基礎利益の動向に着目し、該当する個所だけを引用したのかと思い、ムーディーズのサイト(PDF)を確認したところ、確かに公表されている文章にはほぼ基礎利益に関する記述しかなく、しかも要点の1つとして「生命保険会社の業績の差は、投資運用戦略の違いによって運用収益に大きな幅があったことを反映している」とありました。

2021年3月期決算における第一生命の順ざやの増加は、2022年3月期決算予想のなかで「投信関連の収入減少に伴う順ざやの減少」という説明があることなどから、投信の値上がり益が利息配当金等収入に計上されたためと考えられます(利息配当金等収入の増加が外国証券とその他の証券によるとも示されています)ので、たまたま配当収入として計上されたということであって、運用戦略を反映したと言うのはかなり無理があります。投資運用戦略の成果を見るのであれば、利息配当金等収入だけではなく、全体の時価利回りなどを見るべきではないでしょうか。
基礎利益や利差損益の増減を説明するのをおかしいというつもりはありませんし、まさか権威ある格付会社が利息配当金等収入で資産運用収益を評価しているとも思えません。しかし、公表文のなかで、単年度の利差損益の増減をもって「投資運用戦略の違い」と言ってしまうのは、社会的な影響を考えると、さすがにミスリードだと思いました。

ガバナンス2題

10日に公表された東芝の調査報告書(PDF)をご覧になったでしょうか。
大株主であるエフィッシモの調査要請が3月の臨時株主総会で可決され(会社は反対していた)、実現したものです。100ページ以上ある報告書ですが、報道などのとおり、いわゆる圧力問題などについて生々しい記述があり、日本企業のガバナンスに関心があるかたには一読をおすすめします。

翌11日には東京証券取引所が改訂コーポレートガバナンス・コードを、金融庁が投資家と企業の対話ガイドライン(改訂版)をそれぞれ公表しています。独立社外取締役の新たな選任基準や管理職の多様性、サステナビリティなどが示されていますが、東芝の報告書を読んだ後では、政府によるコーポレートガバナンス改革が岐路に立っているのではないかと考えざるを得ませんでした。

大学教員としては、ネタが増えてありがたいのですけどね。

※福岡大学にはA棟はあっても、B棟やC棟はありません^^

 

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選ばない消費者

キャピタスコンサルティングの保険チーム3人で執筆した『経済価値ベースの保険ERMの本質』の第2版が出ました。
初版の発行からまだ4年弱しかたっていませんが、経済価値ベースのソルベンシー規制導入を提言した金融庁有識者会議報告書の発表(2020年)を受け、新たな記述を加えることができました。ご覧いただければ幸いです。

さて、少し前の日経MJ(日経流通新聞)に「選ばない消費者」の話が出ていて、思わず目を留めました(5月12日付)。
今の若い世代は欲しい情報をネットで検索して収集するのではなく、アルゴリズムによって自らの嗜好に合った情報がSNSで提供されるので、検索しなくても自然と集まった情報のなかから欲しいものを購入する「選ばない消費者」となりつつあるそうです。

昔はテレビなどのマスメディアから受動的に情報を得ていた消費者が、ネットの出現により「比べて購入」が一般的になりました。保険の購入もそうですよね。かつては職場や家庭を訪れた保険募集人から話を聞き、おすすめプランを購入するだけだったものが、ネットの比較サイトなどで事前に調べてから保険募集人の話を聞く(あるいは事後的に調べる)のが当たり前となりました。

ところが時代が進み、私たちは日々スマホで膨大な情報に接するようになり、欲しい情報を探し当てるのが難しくなっています。どこかに情報はあるのだけど、見つけるにはそれなりに労力がかかりますし、疲れます。
そのようななかで、SNSはAIを使って利用者の好みを把握し、好みに合った情報を優先的に示しますので、利用者はいちいち検索しなくても欲しい情報が手に入る、すなわち、「選ばない消費者」が登場するというわけです。
偏った情報しか目に触れることがないというのは私にはかなり抵抗がありますが、SNSネイティブの世代にはむしろ心地よく感じるのかもしれません。

※近所のお店でマリトッツォを発見。思わず衝動買いしてしまいました。

 

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大手生保の決算報道

生保の決算も概ね出そろいましたね。
まだまだ数字を確認できていないのですが、決算報道があまりにさびしかったので、少しだけコメントします。

以前にも書いたとおり、大手メディアはここ数年、生保決算として「保険料収入」「基礎利益」を伝えてきました。今回も見事に踏襲されていて、次のような見出しが並んでいます(本文は有料が多いです)。

大手生保4社の決算 対面営業の自粛などで減収【NHK】
生保大手、7社が減収 コロナで営業自粛響く 3月期決算【朝日(有料版)】
生保大手4社 減収 3月期 対面営業自粛で【読売(有料版)】
大手生保、8社が減収=上期の営業活動自粛響く【時事】
生保、デジタル移行遅れ 対面営業の限界 鮮明【日経(有料版)】

いずれも「コロナで営業活動が制限された」「(基礎利益を報じたメディアは)保有契約があるので基礎利益は大きく減らないが、減益」と、総じてパッとしない内容だったと伝えています(日経は保険料収入ではなく新契約年換算保険料で業績を語り、資産運用面の好調さにも触れています)。

しかし、EVなど企業価値の手掛かりとなる指標を公表している会社の数値を見ると、ものすごく増えています。

 第一生命HDのEEV +13,492億円
 住友生命のEEV   + 9,050億円
 明治安田生命    +13,200億円
 (グループサープラスを開示)
 かんぽ生命のEEV + 7,019億円

そうした手掛かりのない日本生命にしても、連結決算の包括利益は2019年度の▲6,305億円から、2020年度は2.8兆円と、まさにV字回復です。
昨年度は株価が大きく上がり、超長期金利も上昇(豪ドルも対円で大きく上昇)、死亡率や発生率は改善と、大手生保の主なリスクテイクがほぼすべてプラスに働きました。

ソフトバンクグループの決算は「好決算」と伝えるのに、同じように企業価値を高めた大手生保の決算をパッとしないトーンで報じるのはおかしいと、多くのかたに気づいてほしいです。

ソフトバンクG 最終利益4兆9879億円 東証上場の日本企業で最高【NHK】

※赤いアジサイもきれいですね。

 

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