いきなり理屈っぽい話で恐縮ですが、企業価値を測るには、ファイナンス理論では将来キャッシュフローを資本コストで割り引いて算出します。将来キャッシュフローはその企業が事業から生み出すであろう「稼ぎ」であり、資本コスト(株主資本コスト)は事業のリスクに応じて株主が要求するリターンです。
ですから、例えば第一生命グループが最近、リスクテイクのあり方を変えることで資本コストの低下を目指すという経営計画を打ち出したのは、「分子の期待値は下がってしまうかもしれないけれど、それよりも分母を小さくすることができれば企業価値が高まる」という考えに基づくものだと考えられます。
これに対し、ここ数年、政府主導で進んできた日本のガバナンス改革は、分子の稼ぐ力を高めることを目指してきました。いわゆる「攻めのガバナンス」です。とはいえ、ガバナンス改革が分子・分母どちらに働きかけることになるかは、実証分析の蓄積を待たないと、何とも言えないように思います。
例えば、東証一部では2名以上の独立社外取締役を選任する会社が、2014年度の約2割から、今や9割を超えています。監査等委員会設置会社も増え、経営における監督と執行の分離が(少なくとも形としては)だいぶ浸透してきました。
しかし、社外取締役は総じてその会社が強みとするビジネスモデルに精通しているわけではないため、株主が社外取締役に期待するのは分子を高める役割よりも、まずは不祥事の防止など分母を下げる役割を期待するかもしれません。
あるいは、もし社外取締役のアドバイスを受けた経営陣がリターンの追及に舵を切ろうとしても、株主はそれを求めるかもしれませんが、他のステークホルダーは過度なリスクテイクだとして、リターンの追及にブレーキをかけようとするかもしれません。
そう考えると、ガバナンスの強化によって分子の将来キャッシュフローを高めるには、経営陣が常にリスクを意識した経営を行うこと、つまり、リスク・リターン・資本の3つを同時にコントロールして、それをきちんと説明できることが大前提となります。ガバナンスの強化とリスクマネジメントの高度化はセットで取り組むべきです。
少なくとも、リスクマネジャーを置かず、保険を相変わらず人事部や総務部で手配しているような会社では、攻めのガバナンスは期待できないし、やるべきでもないということですね。
※写真は博多駅です。
※いつものように個人的なコメントということでお願いします。
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