今週のInswatch Vol.1132(2022.4.11)に寄稿した記事をご紹介します。
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水災料率の細分化
これまで全国一律だった火災保険の水災料率が、リスクに応じた料率に細分化される見込みです(2024年度から導入と報道されています)。水災リスクが低いにもかかわらず、高リスク契約者と同じ保険料率を負担するのは確かに納得感がなく、結果として低リスク層の水災補償離れが進み、付帯率は年々下がっています。
リスクに応じた料率を導入しても、そもそも火災保険は強制加入の保険ではなく、低リスク層の水災補償離れに歯止めをかけるのは簡単ではないかもしれません。家森信善教授が実施した意識調査によると、住宅購入前にハザードマップ等で自然災害のリスクを確認したという回答が全体の8割に達しており、水災リスクを確認したうえで住宅を購入するという行動はかなり定着している模様です。付帯率を下げ止まらせるには、料率をハザードマップ等とリンクさせることに加え、低リスクであっても無リスクではないことを住宅保有者に理解してもらい、加入を促す取り組みが求められます。
「一律掛金・一律保障」共済の場合
リスクの異なる加入者が同じ料率というのは、低リスク加入者が高リスク加入者を支えているということなので、強制加入でもないかぎり、このような仕組みは長続きしないはずです。
ところが探してみると、死亡率や入院発生率の異なる加入者が同一の掛金で同一の保障を得られる仕組みがあります。それは生協共済の「一律掛金・一律保障」タイプの商品です。
例えば、福岡県民共済の総合保障2型の場合、死亡保障や入院保障などのパッケージの月掛金は、18歳から60歳まで一律2000円となっています。18歳から60歳までの死亡リスクや入院リスクが同じはずはなく、若い加入者がシニア加入者を支えていることになります。それでは、加入者の多くがシニア層かといえば、少なくとも数年前に全国生協連を取材した時点では、そのようなことはありませんでした。
比較的若く、低リスクであるにもかかわらず、多くの人が自発的にこの共済に加入する理由はよくわかっていません。共済を提供する協同組織は相互扶助を理念としていますが、その理念に共感した加入者が多いとも考えにくく、つまるところ、月々2000円という掛金の絶対水準の魅力が大きいのではないでしょうか(他にも「割戻金が期待できるから」「長く続ければ自分が支えられる側に回るから」「保険会社は利益優先だと思うから」といった理由も考えられます)。この金額であれば、厳密に考えると不利だとわかっても、納得感があるということではないかと思います。
自動車保険の等級制度の場合
他方、個人向け自動車保険はご承知の通り、「ノンフリート等級制度」や「型式別料率クラス」などにより、リスクに応じた保険料率に近づける仕組みとなっています。
とはいえ、等級制度が本当にリスクに応じた料率を実現しているかといえば、少し考えればそうではないとわかります。運転者のリスクが毎年変わるということはなく、ただ、保険会社には運転者のリスクがよくわからないので、実際にリスクが顕在化した(=保険金を請求した)かどうかに基づいて料率を動かす仕組みとしています。ですから、事故を起こしやすい高リスク運転者によるものであっても、慎重なドライバーがたまたま巻き込まれてしまったものであっても、事故が発生し、保険金を請求すれば等級は同じように下がります。それでも等級制度が長年続いているのは、この仕組みが社会から相応の納得感を得られているためではないでしょうか。
納得感のある料率を実現できるか
以上のように、「一律掛金・一律保障」共済やノンフリート等級制度のように、保険の原理としてはリスクに応じた料率が望ましいとしても、納得感があると考えられているのであれば、必ずしもそうではない料率の仕組みであっても長続きしている事例があるとわかりました。
低リスク層の水災補償離れに歯止めがかかるかどうかは、低リスク層にとって納得感のある料率(あるいは仕組み)となるかどうかにかかっていると言えそうです。
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※写真は長府の功山寺。高杉晋作が挙兵したところだそうです。
※いつものように個人的なコメントということでお願いします。
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