SMRからESRへ

6月末に金融庁が新たな健全性政策の暫定決定を公表していますので、今週のInswatch Vol.1148(2022.8.8)ではこちらを取り上げました。ブログでもご紹介いたします。
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SMRの機能不全

保険業界のかたであれば、ソルベンシー・マージン比率(SMR)という保険会社の健全性を示す指標をご存じだと思います。保険業法は保険会社に対し、通常の予測を超えるリスクに応じた支払余力(ソルベンシー・マージン)の確保を求めていて、比率が一定水準を下回ると監督当局が行政命令を出し、保険会社の健全性確保を図るというものです。
しかし、当局の介入基準である200%を直近時点まで上回っていた保険会社が相次いで経営破綻する事態となったことのほか、現行会計では責任準備金を取得原価で評価しており、結果としてSMRが金利水準の変動をうまく反映できていないことなどから、SMRの信頼性は必ずしも高いとは言えない状況です。おそらく皆さんも、1000%前後の数字がずらっと並ぶ各社のSMRをほとんど気にしていないのではないでしょうか。

SMRからESRへ

金融庁はこれまで何も手を打ってこなかったわけではありません。例えば2011年には、あくまで現行の枠組みのなかではありますが、SMRの厳格化を行っています。さらに、金利水準の変動をはじめ、保険会社の財務状況を的確に把握できるよう、金融庁は健全性指標を抜本的に見直す検討を続けてきました。検討に時間がかかったとはいえ、先月(6月)ついに新たな健全性指標の暫定基準を公表するに至りました。
新たな指標は「経済価値ベースのソルベンシー比率(ESR)」と言います。現行会計では負債の大半を占める責任準備金を取得原価で評価しているので、いったん獲得した責任準備金の評価は原則として動きません。これ対し、ESRでは資産も負債も経済価値ベース、簡単に言えば時価ベースで評価するというものなので、金融市場や発生率等の変動による影響をただちに反映することから、当局は健全性の低下した保険会社を早い段階で発見することができます。
特に、長期の負債を抱える生命保険会社にとって、ESRは現行のSMRとはかなり異なる健全性指標となります。損害保険会社もリスク計測の厳格化による影響を受けますので、暫定基準の公表には強い関心を持っているはずです。

すでに公表している会社も多い

もっとも、多くの大手保険会社は金融庁の動向をにらみつつ、すでに独自の基準でESRを計算し、自らのリスク管理に活用しているという実態があります(規制上のESRと区別するため、以下では「個社ESR」と記します)。個社ESRを外部に公表する会社も年々増えており、その動きは上場会社だけではなく、相互会社など非上場会社にも広がってきました。現在では、いわゆる協会長輪番会社が所属する7グループのうち、日本生命を除く6グループが個社ESRを公表しています。

公表されている個社ESRは規制上のESRではないので、各社がそれぞれ独自の基準で計算したものであり、単純に横比較することはできません。ただし、個社を見るにあたっては、参考になるところが多い指標です。
多くの場合、保険会社は個社ESRを基準の1つにしてリスクテイクや資本増強の判断をしています(個社ESRのターゲットレンジを示している会社もあります)。そのため、もし金融市場の変化によって個社ESRが下振れしたら、リスクテイクを抑える、資本増強を行うといったアクションが取られる可能性が高まるでしょう。また、ESRの分子である経済価値ベースの純資産は、現行会計上の純資産に比べると企業価値の評価に近いので、分子が着実に増えているかどうかにも注目です。
メディアの決算報道には取り上げられない個社ESRですが、保険業界人にとって必見の指標だと私は考えています。
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※オープンキャンパスが終わり、大学は夏休みモードです。

 

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大手損保の2022年4-6月期の業績

5日に大手損保グループの2022年4-6月期決算発表がありました。

「自動車保険の支払いが増えたので減益」(日経)とあったので、数字を確認してみたところ、確かに発生保険金は増えていますが(損保ジャパンはEIベース損害率から推測)、6月に発生したひょう災の影響が大きかった模様です。通常であれば、自然災害による支払いが多いのは火災保険ですが、この4-6月期に関しては、自動車保険が自然災害による発生保険金の6割を占めました。
ただし、4-6月期は例年損害率が低い傾向にあることを踏まえると、自然災害を除くベースでもそこそこ支払いが多かったと言えるのかもしれません。

コロナ感染拡大の影響もみられます。
グループ各社の生保子会社(あんしん、MSA、ひまわり)では、給付金の支払いが急増しています。MSAとひまわりは給付金支払いがそれぞれ前年同期の1.5倍に増え、あんしんも26%増でした(同社は支払備金の増加が目立ちます)。損保の傷害保険の支払いも増えているようです。
海外事業でも、東京海上グループは台湾政府の政策変更(ゼロコロナからウィズコロナへ)に伴う感染者の急増で、7-9月期に500億円以上の損失を計上すると公表しました。日本でもそうですが、コロナ感染症は保険会社にとって、疾病そのものリスクよりも政策リスクが大きいようです。

※福岡よりも暑かった!(1週間前の写真です)

 

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最近のアウトプット

備忘録を兼ねて、最近のアウトプットをいくつかご紹介します。

1.「大手損保グループの2022年3月期決算分析」

昨年に続き『週刊金融財政事情』に損保グループの決算分析を寄稿しました。直近の号(2022年8月2日号)に掲載されています。「業績は総じて良好も、国内事業の立て直しは道半ば」という副題が付いています。
きんざいOnline(有料)

2.「保険会社の2021年度決算から」

こちらも決算分析で、7月29日の『Inswatch professional Report』に寄稿したものです。大手損保グループだけではなく、主要生命保険会社の決算概要にも触れています。
生保の図表のなかでESR(経済価値ベースのソルベンシー比率)を載せているのですが、住友生命が公表しているのを最近まで知らなかったので、掲載がありません(IR資料に載っていました)。いまや主要生保9社のうち、ESRを公表していないのは日本生命と大樹生命、朝日生命の3社だけなのですね。
Inswatchの購読はこちらへどうぞ。

3.「コロナ自宅療養で“入院保険” 手続きはどうするの?

こちらは執筆ではなく、NHKオンラインの取材に応じたものです。コロナに感染したら、医療保険に加入しているかたはしっかり請求したほうがいいと思いますが、他方で民間医療保険の存在意義が問われているように思えてなりません。

4.「保険会社の情報開示とメディアの役割」

『保険学雑誌』の最新号(第657号、2022年6月)に論文が掲載されました。学会報告や関連記事の寄稿があったとはいえ、1年がかりでようやく論文を出すことができました。半年くらいたつと日本保険学会のサイトで閲覧できると思います。

以上です。

※写真は三池港(大牟田)です。

 

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諸手数料および集金費の推移

7月7日付け保険毎日新聞のインタビュー記事のなかで、「(正味収入保険料との対比で)代理店手数料が多くを占める諸手数料及び集金費の割合は年々上昇している」「保険料に占める代理店手数料等の割合が年々高まり続けるのは異様に見える」と述べました。

この理由が気になったので、保険会社数社に確認してみたところ、消費増税の影響が無視できないことがわかりました。保険会社が受け取る保険料は非課税なのに対し、代理店手数料には消費税がかかります。この10年間に2回の消費増税(2014年4月と2019年10月)があったので、その影響で保険会社が支払う代理店手数料が増え、事業費率を押し上げる要因となりました(ただし、同じタイミングで保険料率の引き上げもあったとは思います…)。
また、対比する保険料を正味ベースとしたたため、ハードマーケットの中で出再保険料が増えると、正味ベースでは保険料に占める代理店手数料等の割合が高まることになります。なかでも三井住友海上と損保ジャパンは元受と正味の乖離が大きくなっているようです。

それではということで、保険料を元受ベースにして、消費増税の影響を取り除いて数字を作成したところ、元の数字ほど右肩上がりではないにせよ、少なくともここ数年は各社ともやはり上昇傾向にあることがわかりました。代理店の大型化(直資代理店を含む)に伴う手数料の増加など、他にも理由がありそうです。引き続き注目していきたいと思います。

※マンゴーかき氷、絶品でした。

 

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『決戦!株主総会』

話題の書籍『決戦!株主総会 ドキュメント LIXIL死闘の8カ月』を読みました。
LIXILの件は全くフォローしていなかったので、本書を読んで、ワンマン実力者の影響力を排し、コーポレートガバナンスを機能させるのがいかに難しいかを思い知らされた気がします。

<以下ネタバレあり>

東芝もそうでしたが、LIXILもガバナンスが機能しやすいとされる指名委員会等設置会社でした。しかし、指名委員会や取締役会のメンバーを自分に近い人材で固めることで、創業家出身の実力者は思い通りにならないプロ経営者の首を切ることができてしまいます。
株主総会で会社提案および株主提案の取締役候補を選ぶとした場面でも、ISSやグラスルイスといった議決権行使助言会社は独立社外取締役の数が多いほどいいといった、形式面を重視する姿勢を示しました。

政府主導のガバナンス改革により、2014年には約2割しかなかった「2名以上の独立社外取締役を選任した上場会社」が、短期間のうちに100%近い水準となりました。指名委員会等設置会社は引き続き少ないものの、今や全体の6割以上の上場会社が指名委員会を設置しています。
とはいえ、「社長やCEOが意中の人物を呼び出して、『後は君に任せるから』と言い、それを取締役会が追認する。日本企業の後継者選びはほとんどがそんなプロセスを辿るのだろう」(本書342ページ)というのは、例えば日経新聞の「私の履歴書」を見ていてもうかがえます。当たり前なのかもしれませんが、形だけではガバナンスは機能しないということですね。

「あとがきに代えて」で著者は、2019年の株主総会後にLIXILのガバナンス改革が進んだ要因として、次の3つを挙げています。

・創業家出身の実力者に連なる取締役が一掃されたこと
・「名ばかり社外取締役」ではなく、役割を正しく理解し、自ら手足を動かす社外取締役の存在
・指名委員や社外取締役を、執行部を含む従業員が信頼していること

問題を抱えた会社では、まずは1つめをどうやって達成するか、ですねの。

※写真は「海に最も近い駅」と言われる島原鉄道・大三東駅です。

 

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自然災害と損保経営

今週のInswatch Vol.1144(2022.7.11)に記事を寄稿しました。こちらでもご紹介いたします。
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今年も台風の季節になりました。2018年度や19年度のような大規模な自然災害が発生しないことを願っています。

火災保険は赤字基調が続く

昨年度(21年度)の大手損害保険グループの決算は、自然災害関連の正味支払額が過去10年間で最も少ない水準だったこともあり、国内損保事業の修正利益(異常危険準備金の繰入・戻入などを調整した利益)はいずれも増益となりました。
もっとも、自然災害による支払いが少なかったにもかかわらず、火災保険のコンバインドレシオが100%を下回ったのは東京海上日動だけで、他の3社は引き続き100%を上回る水準でした。大手損害保険会社はこれまで少なくとも2回にわたり個人向け火災保険の料率引き上げを行いましたが、大規模な自然災害がなくても火災保険の収支はなお赤字基調ということで、さらなる対応が必要な状況です。
21年度の保険会社の決算分析については、今月末のプロフェッショナルレポートでもお伝えする予定です。

損保ビジネスは不安定なのか

ところで損害保険ビジネスは、自然災害に左右される不安定なものと思われがちです。過去の決算報道を見ても、大規模な自然災害が発生しなければ「好決算」、発生したら「厳しい決算」という扱いです。しかし、本当にそう考えるべきなのでしょうか。
保険会社は自然災害リスクを勘と度胸で引き受けているのではありません。工学的な知見に基づき、外部ベンダーまたは自社が開発したモデルを使った定量的なリスク評価を行い、再保険戦略を含めた引受方針を定めたうえで、自然災害リスクを引き受けています。気候変動の影響が懸念されるとはいえ、やみくもにリスクを引き受けているわけではありません。
ですから、自ら決めたリスクの引受方針次第で、同じ自然災害が発生しても正味支払額は違ってきます。例えば、過去最高の支払額となった18年度決算において、損保ジャパンでは自然災害に伴う元受保険金の約7割を再保険で回収したのに対し、東京海上日動では約3割の回収だったため、両社の支払額が元受ベースと正味ベースで逆転していました(東京海上の正味支払額が大きかった)。だからといって、東京海上日動がリスク管理に失敗したとは言えません。ここからわかるのは両社の保有・出再戦略が異なっていたというだけで、中長期的に見て、各社がリスクに応じた保険料(出再コストを含む)を獲得できているかを把握しなければ、各社のパフォーマンスを評価できません。

リスク情報の開示を

ただし、再保険に関して言えば、両社の保有・出再戦略にここまで違いがあるとわかったのは、たまたま18年度と19年度に大規模な自然災害が発生したからであって、それ以前の開示情報だけでは外部からはわかりませんでした。再保険に限らず、外部ステークホルダーにとって、リスク引受方針をはじめ、リスクに応じた保険料を獲得できているかをつかむための手掛かりは、まだまだ少ないのが現状です。
もし損害保険会社の経営陣が外部から正当に評価されたいと考えているのであれば、より踏み込んだリスク関連情報の開示が必要だと思います。
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※写真は三角西港です。明治時代の港がそのまま残っています。

 

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ゼロゼロ融資・42兆円の反動

元首相の銃殺というショッキングな事件が起きてしまいました。ご冥福をお祈りするとともに、私たちの社会が妙な方向に進んでいかないことを願います。

さて、以前から親交のある一橋大学の安田行宏先生がNHKクローズアップ現代に出演するということで、なぜかドキドキしながら番組を観ました
(放送は7/6でした。13日まで見逃し配信中です)。

番組の概要はこちらのサイトのとおりですが、政府による異例の中小企業政策(特に2020年5月に民間金融機関まで広げたこと)が企業と金融機関のモラルハザードを引き起こし、結局のところ国民が負担する可能性が高いのだと理解しました。

「企業にとっては借りやすい分、本来の身の丈に合わない額まで融資を受けてしまう可能性があるといいます。金融機関にとっても、確実に融資を回収できて利子も稼げるので、今の低金利時代においてゼロゼロ融資は“恵みの雨”といえます」
(安田先生のコメント部分を引用)

番組では、大阪信用保証協会による経営サポートの取り組みや、金融機関どうしの連携で貸付先の経営改善を図る動きを紹介していました。とはいえ、コロナ前から総じて経営状態の厳しい金融機関を、全くリスクを負うことのない形でゼロゼロ融資に参加させたことが危機対応として正しかったのか、国民負担が実現してしまった際には検証が必要でしょう。
そもそも長年にわたり法人税を払わないような中小企業が数多く存続できているというのが正常ではないと思います。番組でも「ゾンビ企業」というワードが出ていましたね。

※JR九州の特急「A列車で行こう」に乗りました。

 

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新ソルベンシー規制の暫定決定

野党がそろって物価高対策として消費減税・廃止を主張していますね。与党は防衛費を増やすとしていますが、その財源は不明です。
コロナで財政をガンガン出し、国債発行残高が急増した直後なのに、さらに財政を確実に悪化させる公約ばかり。持続可能な政府運営には見えないです。特に「利払費と金利の推移」の図表を見てしまうと、ぞっとします。
財務省のサイトへ

さて、金融庁が6月30日に、経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する暫定決定について公表しました。暫定決定の中心は第1の柱の「標準モデル」と「ESRに関する検証の枠組み」で、ESRに基づく監督措置や第2の柱、第3の柱については主な論点と方向性のみ示してあります。

スケジュールに関しては「現時点においては2025年に新規制を導入することを前提として、引き続き着実な準備・検討を進めていくこととする」とのことで、年2回の報告を求めることも決まりました。初回は2026年3月末のものです(報告期限は未決定)。

技術的な話で恐縮ですが、標準モデルはICSとほぼ同じかと思ったら、保険負債の計算でいろいろと議論になっていたMOCEの計測方法が資本コスト法と決まりました。他方で、相互会社の基金については、国内独自の要件緩和はありませんでした。これらはおそらく当局と業界で相当な議論があったのでしょう。

監督措置のところで驚いたのが、「新規制においても、最も強い監督行動の発動にあたって、ESRの水準だけでなく、実質資産負債差額の状況も考慮する体系を採用するかどうかは、重要な論点となる」というくだりでしょうか。金融庁が進めている今回の健全性政策では、第1の柱として経済価値ベースの評価を導入し、かつ、画一的な規制にならないように3つの柱の考えを採用して保険会社の主体的なリスク管理高度化等を促すのですよね。そのどちらにも妨げとなる実質資産負債差額を残すという選択肢はありえないはずです。

※3年ぶりの夏祭り!

 

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活版印刷の発明と海上保険

この週末(25日)は日本保険学会九州部会の例会があり、福岡大学での対面&オンライン(zoom)開催でした。こちらから当日のプログラムやレジュメをご覧いただくことができます(確か期間限定だったと思います)。

2人の報告者のうち、最初に登壇した神戸大学の若土先生の報告「活版印刷技術が及ぼした中世海上保険証券への影響」は、『海事交通研究』第70集に掲載されたこちらの論文(PDF)のアップデートだったようです。中世イタリアをはじめ、スペイン、ポルトガル、オランダ、ドイツなど、これだけの古文書(主に保険証券)を発掘するにはかなりの労力がかかったのではないでしょうか。

『海事交通研究』の論文を拝見したところ、15世紀にグーテンベルクが発明した活版印刷技術が、それまで全て手書きだった海上保険証券の定型部分に導入されていったことを、文献だけではなく、若土先生自らが収集した史料をもとに検証したものでした。

グーテンベルクの活版印刷技術は火薬、羅針盤とともに「中世の3大発明」の1つと言われ、その後のヨーロッパ社会に大きな影響を与えました。この技術を使えば写本よりも早く、安く、大量に読み物を作ることができるので、情報が広く一般に普及するようになります。確かにこれは革命的です。
ただ、海上保険の保険証券を早く、安く、大量に印刷する必要はなさそうなので、両者がどう結びつくのかが疑問でした。これに対し、本論文では16世紀末のアムステルダムで保険証券の定型部分に活版印刷が利用されたことについて、2つの理由を挙げています。

「登記の手間の削減や保険手続きの簡素化や迅速化といった時代のニーズに対応できるよう、恐らく証券書面の統一化を図るため証券上の定型的な部分に活版印刷技術を導入していったのではないかと筆者は考えている」

「取引市場のエリアが拡大し(中略)有力商人たちは企業化しネットワーク網が広がり、契約した重要な補償内容を現地・本部のいずれでも確認できる需要が強まり、証券の定型部分を活版印刷によって記載する動きに繋がったのではないかとみている」

いずれもまだ仮説のようですが、興味深いですね。僭越ながら研究が進み、活版印刷技術と保険の関係がより明らかになることを期待しています。

※アジサイにもいろいろな種類があるのですね。

 

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保険代理店と保険会社

週末(18日)のRINGの会オープンセミナーでは、無事インタビュアーを務めることができました。
Inswatchによると、セミナーの参加者は約1000人(うちオンライン視聴者が約500人)に達したようです。ハイブリッド開催で、かつ、RING主催の懇親会もありませんでしたが、それにもかかわらず500人もの来場者が集まったのですね。大学のハイブリッド授業とは大違いです(笑)

今回のセミナーのテーマは「NEXT MOVE ~新たな時代に次の一手を~」でした。ただ、個人的には、今回の特徴として挙がっていた「(保険代理店が)保険会社と共に考える事」について、より考えさせられるセミナーでした。

登壇した第1部の参考として、事前に保険代理店および損害保険会社の営業担当社員に、「(withコロナで)日々の業務での不安や、不便に感じていること」を聞いていただいたところ、両者の回答に際立った違いがありました。代理店からは、withコロナでも「保険会社との関係」を不安視する回答がほとんどなかった一方で、保険会社社員からの回答で最も多かったのは「(同僚や代理店との)コミュニケーション」という回答だったのです。
第2部でも登壇者のお一人が代理店と保険会社のすれ違いを端的に表すアンケート結果を示しており、withコロナで両者が別の方向を向いていることが改めて見えてしまったのかもしれません。

第3部ではRINGメンバーの代理店経営者が登壇し、代理店の視点から保険会社と共に発展していくための提言もありました。保険会社からの参加者がどの程度いたのかがやや不安ではありますが、代理店からの片思いに終わらず、両者のすれ違いが少しでも解消されることを期待したいです。

 

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