保険マーケティングの課題

今週のInswatch Vol.1124(2022.2.14)に寄稿した記事をご紹介します。保険業界の常識は世間の非常識という例かもしれません。
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東京海上グループで商品開発に長年携わってきた星野明雄さんがこのたび『保険商品開発の理論』(保険毎日新聞社)という書籍を出版しました。
はしがきに「保険商品開発の理論を解説したテキスト」とあるとおり、ご自身の経験を踏まえた商品開発担当者向けのテキストなのですが、販売実務に関わる皆さんにも大いに参考になりそうな内容でした。

レーティングとプライシング

保険業界のかたであれば、保険料はどう決まるのかという勉強を一通りしているのではないかと思います(私も大学の講義で教えています)。保険金額と発生率、必要に応じて安全割増を考慮して計算した純保険料に、保険事業運営の費用を賄う付加保険料を加えたものが保険料(営業保険料)です。本書ではこれをレーティングと呼んでいます。
しかし、こうして決まった保険料は保険会社の都合だけで決まっていて、保険マーケットのことを全く考えていません。価格に応じて販売量がどう増減するかを予測し、これを踏まえて保険料を決めるというのが、市場経済の標準語であるプライシングです。プライシングの世界では、消費者がこの価格であれば買ってもいいと考える値段を付け、社会全体の付加価値を生み出すことを目指します。

保険業界は久しくマーケティングが弱いと言われてきました。とりわけ歴史の長い保険会社は募集活動に大きな経営資源を割いていて、「マーケティングといえば、その販売部隊を管理するチャネルマーケティングを意味するケースが多くみられます」(本書132ページ)。レーティングの世界は市場経済とのつながりがないので、マーケティングと言われてもピンとこなかったというのが正直なところかもしれません。

等級プロテクト特約はなぜ失敗したか

商品開発の失敗例として、本書では自動車保険の等級プロテクト特約を挙げています。
この特約があれば、事故を起こして保険金を請求しても、翌年の等級が下がらず、保険料が値上げにならないということで、人気がありました。ところがこの特約が普及すると、小さな事故でも保険金を請求する契約者が増えてしまい、採算が合わなくなってしまったという結末です。

採算が合わなくなったのは、保険料の設定が甘かったからでしょうか。本書では、より本質的な理由は、この特約が社会全体の利益を高めるものではなかったからと説明しています。
確かに個々の契約者だけを見れば、この特約があれば、等級制度による保険料引き上げから逃れることができました。しかし、この特約が広く普及すると、リスクに応じた保険料という仕組みが機能しなくなってしまい、全体として保険の機能が不安定なものとなりかねません。失敗の本質は、この特約が社会全体に新たな価値を提供するものではなかったところにあります。

保険の価値を学ぶことができる

マーケティングの本は数多くあっても、保険に特化したマーケティングを取り扱った書籍はほとんど見当たりません。あったとしても、総じて販売ノウハウの紹介が中心のようです。「ニーズがネガティブ」という保険商品の特性はわかっていても、それが保険ニーズの分析にどう結びつくのか。割引についてどう考えたらいいのか。本書はこのような話を理路整然と、かつ、非常にわかりやすく示しています。
保険の価値についての考察では、なんと「保険の面倒くささ」についての深い洞察もあり、筆者でなければ書けない内容だと思いました。
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※写真は終着駅シリーズ(?)、香椎線の宇美駅です。

 

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エンベディッド・インシュアランス

話題となっていた書籍「エンベディッド・ファイナンス」をようやく読みました。
日本語では「組込型金融」と言ったらいいのでしょうか。非金融企業が既存サービスに金融サービスを組み込んで提供することを指し、本書によると、フィンテックの潮流としては、「フィンテック企業の登場と金融機能のアンバンドル化」「オープンAPIによる銀行とフィンテック企業との協業実現」に続く第3の波に位置付けられるとのことです。

読んでいて気が付いたのは、エンベディッド・インシュアランス(組込型保険)の事例として紹介されているのは損保分野ばかりということです。モバイル端末の補償保険、ANAのキャンセル保険、テスラの自動車保険、マイクロソフトのサイバー保険などなど。
決済、融資、バンキング(口座提供や資金移動など)、保険、投資の5分野のうち、エンベディッド・ペイメント(決済)が最も先行しているのは、物を買うと代金の支払いが必ず伴い、組み込んでシームレスになることで利便性が高まったと消費者に実感してもらいやすいからだと理解しました。とはいえ、本書で紹介されていないだけで、事業会社が提供する商品・サービスの一環として生命保険や医療保険が組み込まれていて、消費者が自然な流れで加入するという事例はすでにありそうですし、今後増えていくのではないかと思います。

損保分野がエンベディッド・インシュアランスとの相性がよさそうなのは、損害保険は何かの商品・サービスを購入したり、利用したりするのと同時に加入することが多いからかもしれません。つまり、シームレスの程度はともかく、加入シーンとしてはもともとエンベディッドされているのですね。
大手損保の販売チャネルを見ても、保険専業の代理店による販売は全体の3割弱で、自動車ディーラーや整備工場、不動産業、金融機関、旅行業といった兼業チャネルが比較的大きなシェアを占めているようです。ですので、技術面の進展次第でエンベディッド・インシュアランスの流れが加速する可能性は高そうですし、あとは保険会社の戦略次第なのでしょう(卸売業者として黒子に徹する、自らがプラットフォーマーとなる、はたまた、時計の針を止める努力をする、などでしょうか)。
このあたりは専門家の話をうかがいたいところです。

※写真は大学近くの梅林(うめばやし)の梅です。

 

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令和3年の犯罪情勢

数回前のブログで、人間の2つの思考システムについて紹介しました。人間には物事を直感的にざっくりと捉えるシステム1と、論理的な思考を行うシステム2があって、日常の判断は直感的なシステム1で行われがちで、結果としてリスクを過大に、あるいは過小に評価しやすいという内容でした。数日前に、まさにその通りのニュース(読売新聞オンライン)を見ました。

警察庁が3日に発表した「令和3年の犯罪情勢」によると、2021年の刑法犯認知件数(警察が犯罪と認めた件数)が戦後最小を更新したそうです。刑法犯認知件数は2002年の285.4万件をピークに減少が続き、昨年は56.8万件でした。このうち強盗や殺人、強制わいせつなどの重要犯罪も減少傾向が続いています。

その一方で、警察庁が昨年11月にインターネットを通じてアンケート調査を行い、「ここ10年で、日本の治安はよくなったと思いますか。それとも悪くなったと思いますか」と聞いたところ、「悪くなったと思う」「どちらかといえば悪くなったと思う」と回答した人の割合が64.1%に上ったそうです。
「悪くなったと思う」「どちらかといえば悪くなったと思う」と回答した人に、どのような犯罪が発生している状況を思い浮かべていたかを聞くと、上位は「無差別殺傷事件」「オレオレ詐欺などの詐欺」「児童虐待」「サイバー犯罪」でした(5割以上の回答があったもの)。

統計を見れば治安はかなりよくなっているのに、人々は悪くなったと感じています。
アンケート調査の回答者の多くは、犯罪件数がピーク時の5分の1まで減っていることを知らなかったのかもしれません。しかし、もし知っていたとしても、アンケート直前の10月に京王線での切り付け事件が発生し、NHKでは毎日のように林田アナが「ストップ詐欺被害!」とやっていて、児童虐待の痛ましいニュースに心を痛める人々が、警察のアンケートで日本の治安はよくなったと回答するとは考えにくいです。

警察庁の総括は「一部罪種については増加傾向にあるほか、認知件数の推移からは必ずしも捉えられない情勢があることや新型コロナウイルスの感染拡大に伴う社会の態様の変化の影響等も踏まえると、犯罪情勢は、依然として厳しい状況にある」です。この総括の参考としてアンケート調査の結果を示しています。
この資料にアンケート結果が載るようになったのは、2019年のものからです。やはり日本の治安について聞いていて、「悪くなったと思う」「どちらかといえば悪くなったと思う」と回答した人の割合は61.4%。警察庁の総括は「必ずしも当該指標(=認知件数)では捉えられない情勢もあり、依然として予断を許さない状況にある」でした。

警察庁は2001年度から2017年度までの間に地方警察官を合計3万人強増やし、それが治安の回復に効果をもたらしたとしています。成果を上げたということですよね。交通事故による死傷者も減っています。すばらしいです。
事件や事故が減ったなら、警察官を減らすべきと言いたいわけではありません。特殊詐欺件数の高止まりやサイバー犯罪の増加などへの対応を強めることは必要だと思いますし、警察官の仕事が広がっている、あるいは変わってきているのかもしれません。
ただ、結果がほぼ明らかなアンケート調査を行い、それを参考にして「犯罪情勢は依然として厳しい状況にある」と総括するのは疑問を感じます。

※季節外れの紅玉を見つけたので、ジャムを作りました。

 

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国民健康保険の発祥地

日経新聞の電子版で、国民健康保険のルーツが福岡にあるという記事(「健康保険、江戸期の互助が源(有料会員限定)」を読み、散歩がてら訪れてみました。場所は福岡市からほど近い、福津市です。

こちらのコラム(「発足80年を迎えた国保の大改革」)によると、国民健康保険の発祥地とされている場所は福津市のほか、埼玉県越谷市、山形県戸沢村にもあり、それぞれ由来があるとのこと。共通しているのは、昭和の初期に当時の内務省社会局が農村の支援策として公的医療保険の整備を検討していた際、これらの地域にはすでに相互扶助の取り組みが存在していて、内務省はこれらを参考にしたということです。

福津市など宗像地区には定礼(じょうれい)という仕組みがありました。福津市の図書館で見つけた「やさしい福間町の歴史」によると、この仕組みは、医者に定まった収入を約束して無医村となるのを防ぎ、貧しい人でも治療代の支払いを心配しないで医者にかかることができるようにするために始まったもので、江戸時代後期の天保年間(1830~43)までさかのぼれます。
内務省が調査した昭和初期の定礼は、各家から玄米を集め、それを診療所の医者に差し出せば、1年間無料で治療を受けられました。村のほとんどの人が加入していて、豊かな人は多くの米を提供し、貧しい人は少しの米を出せばよかったとか。

同じ定礼でも地区によって多少の違いがありました。写真の石碑がある手光・津丸地区では、明治時代に地区の人々が米を出し合って村立の医院を作り、医者を招いたそうです。他にも次のような記述がありました。

「明治時代から昭和時代にわたる60数年間、定礼医として親子2代の医師が、貧しさに耐えて医療奉仕をしてくれました(畦町地区)」

「他のほとんどの地区には1人の定礼医がいたので、村人は自由に医者を選ぶことができませんでした。しかし、内殿地区は無医村のため、他の地区の好きな医者を選んで診てもらうことができました」「他の地区のように米を出し合って治療代を負担してもらうのではなく、お金を出し合った中から自分の治療代の3割を補助してもらい、残りは自己負担でした」

(いずれも「やさしい福間町の歴史」より)

定礼は村人どうしの相互扶助というだけではなく、医師の生活保障という面もあったと考えられます。国民健康保険のルーツの1つがこのような制度だったとは、大変興味深いですね。

 

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「組織と職場の社会心理学」

九州大学の山口裕幸先生の書籍『組織と職場の社会心理学』を読みました。
連載コラムを書籍化したもので、社会心理学の実証研究で明らかにされてきた事柄が数多く紹介されています
(前回のInswatchで取り上げた二重の思考システムの話も出てきます)。

例えば、第16章の「説得的コミュニケーション」では、相手の気持ちを動かす効果的な方法について、社会心理学の研究知見をいくつか紹介しています。

「フット・イン・ザ・ドア」手法:最初は相手が容易に無理なく受け入れられる依頼を行い、それが受け入れられたら、次の本来考えていた依頼を行う手法

「ドア・イン・ザ・フェイス」手法:最初に相手が拒否するに違いないほどの大きな要請を行って、まず相手に拒否させておいて、第二段階で、受け入れやすいようなほどほどの大きな要請を行う方法

「ロー・ボール・テクニック」:相手にとって魅力的な受け入れやすい条件を提示して、応諾を引き出したのち、後からその魅力的な条件を取り去るという方法

「ザッツ・ノット・オール法」:時間帯を区切って、通常の値段よりも値引きする方法

「不安・安堵法」:自分が何か避難されるようなことをしでかしたのかと不安を感じさせて、実はそれは思い過ごしであったと判明し、安堵させた直後に要請を行う方法

いずれも、一定の好条件が整ったときでなければ、十分な効果は引き出せないことがわかってきているそうです。ただ、研究が進むほど悪用もされやすくなるという面はありそうですね。

私が最も興味深く読んだのは、第21章「会議は何をもたらすのか」と第22章「会議の落とし穴」です。

・話し合えば的確な決定を導けるのか
・話し合いは創造的アイディアを生み出すか
・話し合いは相違を反映するか
・「裸の王様」現象による決定の歪み
・話し合えば情報共有できるという幻想の罠

これだけ見ても何となくわかると思いますが、例えば「ブレイン・ストーミングを取り入れれば、創造的なアイディアが生み出されるという安易な期待はもたないようにすることが大切」「話し合いの結論は手順一つでコントロールすることが可能」だなんて、ちょっとショックかもしれません。

確認したところ、本書のもとになったコラムは現在も連載中でした。月1の更新でしょうか。
「行動観察コラム」のサイトへ

※吉野家とゴーゴーカレー、奇跡のコラボだそうです。学食(カフェテリア)にて。

 

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相互宝の運用終了

加入者どうしがリスクをシェアし、万一の際には助け合うという仕組みをネットの世界で実現したP2P保険の成功例として紹介されてきた中国の相互宝が、1月28日をもって運営を終了するそうです。詳しくは片山ゆきさんによるこちらのレポートをご覧ください。

2018年のサービス開始からわずか1年間で1億人の加入者を集めたというのもびっくりしましたが、中国当局がオンライン金融事業への規制を強めるなかで、運営終了に追い込まれてしまったというのも驚きです。
片山さんはレポートのなかで、中国当局が昨年になってオンライン金融事業についても既存の金融機関と同様の規制を適用する姿勢を示したなかで、相互宝が保険商品と同様の規制や、保険会社のような厳しい監督・管理を受けていなかった(そもそも当局が保険として認めなかった)ことを述べたうえで、「従来より官(主務官庁)と足並みを揃え、厳しい規制の中で成長した保険会社(民)と、莫大なユーザーを背景に異業種から参入したITプラットフォーマー(民)では、官(主務官庁)との協働関係のあり方に本質的な違いがあったのであろう」とコメントしています。中国ビジネスにおける政府リスクの存在を見せつけられた感があります。

最近のニッセイ基礎研レポートといえば、前金融庁長官の氷見野良三さんが総合政策研究部エグゼクティブ・フェローとして書いたこちら(「金融機関のシステム障害」)も興味深く読みました。
某社のシステム障害についてコメントしたものではなく、「剛構造主義」「ゼロ許容度」から「柔構造主義」「オペ・レジ主義」への転換について述べたものです。私もリスクマネジメントを検討するなかで同じことを時々考えますが、氷見野さんのおっしゃるとおり、社会全体で変わっていく必要があるでしょうね。前回のブログで示したように、そう簡単なことではなさそうですが。

※筑後川昇開橋です。なんと係のかたが橋を動かしてくれました。

 

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リスクをどう伝えるべきか

今週のInswatch Vol.1119(2022.1.10)に寄稿した記事をご紹介します。リスクマネジメントは奥が深いですね。

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新しい年になりました。本年もよろしくお願いいたします。

リスクをどう評価するか

読者の皆さんの多くは保険ビジネスに関わっているかただと思いますので、一般の人に比べると「リスク」や「リスクマネジメント」について、より深く理解されているのではないかと思います。
ご存じのとおり、リスクマネジメントを行うにはリスクを認識し、何らかの形で評価する必要があります。
もし、リスクによって生じうる損失や利益の大きさと、そのリスクの発生頻度がわかれば、リスクの大きさを数値で表すことも可能です。例えば3メガ損保グループはいずれも、グループの直面する主要な経営リスクを数値化し、自己資本(広義)と対比するリスクマネジメントを行っています。

2つの思考システム

問題は一般の人がリスクをそのようにとらえているか。つまり、専門家と同じようにリスクを評価するかという点です。

リスク心理学を専門とする中谷内(なかやち)一也先生の著書『リスク心理学』によると、私たち人間の判断や意思決定は「二重の思考システム」に支えられているそうです。
このうちシステム1は、すばやく自動的に働き、大雑把にとるべき方向性を判断するというもの。システム2は、時間がかかるものの意識的に思考し、精緻な判断をしようというもの。そして、日常の判断はシステム1で行われがちだといいます。

論理的な思考を行うシステム2によってリスクを評価するには、多くのデータと、データを分析する技術が必要です。これらがなくても人間が太古の昔から生き残ってきたのは、物事を直感的にざっくりと捉えるシステム1が有効だったからだと考えられます。

ただし、システム1には「思い出しやすい事象は発生する確率が高いと判断しやすい」「ある数値を一度基準として考えてしまうと、無関係な意思決定に影響を及ぼしてしまう」「自らの感情を手掛かりにリスクや便益の判断を行いやすい」などのクセがあり、結果としてリスクを過大に、あるいは過小に評価することにもなりかねません。

例えば、2011年に発生した東日本大震災では、沿岸各地に10メートルを超える巨大津波が押し寄せ、多くの犠牲者が出ました。この「10メートル」という数字が人々の意識に刻み込まれてしまったため、避難すべきと考える津波の高さが大震災の前後で変わってしまい、50センチや1メートル程度の津波であれば避難しなくてもいいと考える人が増えてしまったそう
です(震災前は50センチや1メートルで避難するという人が多かった)。
津波のエネルギーは1メートルでもすさまじく、リスクの過小評価が起きている可能性があります。

システム1の存在を踏まえた伝達を

皆さんをはじめ、専門家による定量的なリスク評価はシステム2によって生み出されます。専門家は一般の人に対し、システム2によって理解され、判断に生かされることを期待して、様々な説明を行います。
ところが多くの場合、提供された情報は人々のシステム1によって処理されてしまうため、リスクが過小評価されたり、過大評価されたりします。

では、どうしたらいいのでしょうか。専門家がリスク評価の考え方を一般の人にわかりやすく説明するというのが正攻法ですが、まずは人間の2つの思考システム(特にシステム1の存在)を知ったうえで、システム1に響くように伝える工夫が求められているのだと思います。
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※写真は「のだめカンタービレ」のロケ地です。

 

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保険会社経営の方向性

日本共済協会の月刊誌「共済と保険」に、昨年9月の講演内容が掲載されました。
講演では大手生損保グループの2020年度決算を解説したうえで、私が注目している保険会社経営の方向性として、次の3点についてお話ししました。

(1) 足元の経営課題への対応
(2) 外部ステークホルダーを重視する経営へ
(3) デジタル社会への対応

ごく簡単に紹介しますと、まず(1)の足元の経営課題としては、生命保険会社では「出口が見えない超低金利下での商品戦略」、損害保険会社では「火災保険の収益改善」を挙げました。
次に(2)では、株主や契約者、その他債権者に対して経営戦略をきちんと説明できるような経営を指向する動きが見られるとして、具体的には第一生命ホールディングスと明治安田生命の事例を取り上げました。
最後の(3)では、同じデジタル化でも「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」では違うことを説明し、後者のデジタライゼーションでは保険ビジネスがこれまでと全く違うビジネスモデルになるかもしれないという話をしました。

ところで、同じ号に「業績回復で明暗分かれた生損保 ー2021年度上半期決算より-」というジャーナリスト高見和也氏の記事があり、何をもって明暗が分かれたとしているのか興味を持ちました。
読んでみると、高見氏は「業績」という言葉をかなり柔軟に使っていることがわかりました。生保では新契約年換算保険料の数字をもとに「4グループのなかでは国内での業績の回復が最も早い」「本体の業績がまだ戻りきってはいません」などと書いている一方で、損保では各社が正味収入保険料や純利益などの予想を変更したことをもって「3メガ損保グループは2021年度末の業績予想を変更」と書いています。実質的に違うものを比べて「明暗が分かれた」と言われても、読者としてはとまどってしまいますね。

上場企業が業績を上方修正したといえば、まずは利益指標の上方修正を指すのが一般的です。売上高を含むことがあっても、業績イコール売上高という人はほとんどいないと思います。
しかし、生保業界では基礎利益が登場するまで利益指標をみる習慣がほとんどなかったためか、業績という言葉が新契約など契約動向を示す言葉として使われてきたという経緯があり、それが混乱のもととなっているのではないかと思います。

※博多の櫛田神社にお参りしました。

 

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2022年の保険行政

あけましておめでとうございます。年末年始は横浜の自宅で過ごしています。

さて、2022年ということで、前回のブログでも言及した「経済価値ベースのソルベンシー規制」について、検討が順調に進めば、金融庁は制度の基本的な内容を暫定的に決定することになります。
少し長いですが、昨年9月開催の生命保険協会との意見交換会で金融庁が示した規制に関するコメントをご覧ください(金融庁は同月開催の日本損害保険協会との意見交換会でも概ね同じコメントを提示)。
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〇経済価値ベースのソルベンシー規制(ESR)については、保険会社における新制度への必要な準備期間を考慮し、2022 年に標準モデルを中心とした制度の基本的な内容を暫定的に決定できるよう検討作業を進めていく。生命保険業界においては、生命保険協会内にワーキンググループを設け、当庁に提言すべく議論いただいていると承知しているが、金融庁としても、引き続き透明性をもって検討状況を示していき、各保険会社との対話も一層密にしてまいりたい。

〇また、ソルベンシー規制の検討と並行して、経済価値ベースの指標を使ったモニタリングの高度化を進めていく。その際、不要となった報告データについてはスクラップアンドビルドを行うなど、各社の負担にも配慮していく。このほか、情報開示の枠組み等についても論点整理を進めていく。

〇これらの取組みの目指すところは、保険会社を取り巻く環境変化が進む中で、将来にわたって保険会社が保険契約者の様々な期待に応えつつその経営管理を高度化していくよう促す監督の枠組みを作ることである。各社におかれては、引き続き様々な検討作業への協力をお願い申し上げるとともに、現状の実務を不断に見直し、必要な態勢整備を着実に進めていただきたい。
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その後金融庁から進捗状況に関する情報発信はありませんが、「引き続き透明性をもって検討状況を示していき」とありますので、遅くとも6月までには何らかの発信があるのでしょう。

保険流通に関しては、金融庁(財務局)は代理店へのヒアリングを開始したようですね。11月の意見交換会資料によると、「公的保険の説明に関するベストプラクティスの収集や、法人向け保険の販売に関する実態把握などを行う予定」「事業報告書の提出代理店に限らずにヒアリングを行うことも想定」とのことです。
検査ではなく、あくまでヒアリングですので、初めてヒアリング対象となった代理店も特段心配する必要はないと思います。

※この年末も実家で栗きんとんを作りました。

 

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生命保険事業への提言

インシュアランス生保版の年末特別企画「生命保険事業への提言」に、いつものコラムより長めのものを寄稿しました(2021年12月号第4集に掲載)。
私のほか、佐々木光信さん(保険医学総合研究所代表取締役)が「新型コロナから考える医療環境の変化と業界への示唆」を、原口典之さん(NGA代表取締役CEO)が「今後の生保業界はリアルとデジタルの二刀流を目指せ」を、宇野典明さん(元中央大学商学部教授)が「真の意味での顧客第一主義を目指せ」を、それぞれ執筆しています。

私が寄稿したのは「新たなソルベンシー規制への対応」という題の文章です。

1.経済価値ベースのソルベンシー規制とは
2.自己規律が試されている
3.保険会社が取り組むべきこと

新たなソルベンシー規制について、今のソルベンシー・マージン比率の計算方法が経済価値ベースに置き換わる点だけに注目するのは正しくありません。金融庁は保険会社にも「3つの柱」の考え方に基づく健全性政策を採用しようとしていて、保険会社の自己規律がこれまで以上に問われるようになります。
3つの柱を組み合わせた規制で先行した銀行業界では、銀行の自己規律に委ねていては健全性を維持できないという考えが規制当局の間で広まってしまい、第1の柱に重点を置いた規制に移ってしまいました(バーゼルIII)。

今のところ保険会社向けの健全性政策は、国際的にも国内的にも、保険会社の自主的な管理を促そうという考えに基づいているように見えます。しかし、何かをきっかけにして、自己規律が働かない業界だというレッテルを張られてしまえば、銀行と同様に事業への制約の強い規制に手足を縛られ、産業としての発展が見込めない世界となってしまいかねません。
このような危機感を共有していただきたいと思い、寄稿しました。機会がありましたらぜひご覧ください。

※津和野の夜景です。今は雪景色かもしれません。

 

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