03. 保険市場の動向

団体年金保険の予定利率

コロナ禍で休退学、5千人超」というニュースが話題になりましたが、よく見ると、コロナ禍でも大学を休学したり退学したりする人は今のところ増えていないというニュースなのですね。
調査によると、前年同期に比べて退学者が減り、休学者は海外留学要因を除けばほぼ横ばいでしたので、コロナがなければこの「5千人超」が休退学しなかったかどうかは微妙です。ただし、コロナの影響が長期化するほど経済的に困難な学生が増えるでしょうから、文科省が大学等に対し、引き続き学びの支援を求めるのはよくわかります。

団体年金の予定利率で対応分かれる

NHKや読売新聞の報道によると、第一生命が団体年金保険(一般勘定)の予定利率を来年10月に1.25%から0.25%に引き下げる一方、日本生命、住友生命、明治安田生命の3社は顧客企業への影響を考慮し、来年度も利率を維持するとのことです。
NHKのサイトへ

第一生命がなぜこのタイミングで引き下げを決めたのかはわかりません(むしろ決断が遅かったようにも思えます)。ただ、個人向け保険の標準利率がすでに0.25%以下となっている時に、他社はどうして予定利率1.25%(解約控除がなければ0.75%)の団体年金保険を続けることができるのでしょうか。

なぜ利率を維持できるのか

1.25%/0.75%の予定利率を確保するには、それなりの資産運用リスクを抱える必要があります。例えば、団体年金区分(一般勘定)の資産構成を公表している第一生命は、2020年9月末時点で国内株式(全体の7.4%)や外貨建資産(同35.2%)などで資産運用リスクをとっていました(他社も一般向けに公表してほしいのですが…)。
他方、個人向け保険(特に保障性の強い商品)であれば、危険差益や費差益といった保険関係の利益の獲得が期待できます。しかし、団体年金保険はこれらが非常に小さく、しかも資産運用がうまくいけば顧客に配当として多くを還元するので、個人向け保険よりも収益性が高いとは言えません。

以上から、個人向け商品に比べ、予定利率が1.25%/0.75%の団体年金保険はリスクに見合うリターンが得られる商品とは考えにくいのですが、さらに問題があります。それは、負債の評価(特に契約期間の見込み)が難しいという点です。
顧客にとっては運用商品(もっと言えば、金利の高い現預金のようなもの)なので、金利水準が上がれば解約が増えるでしょうし、おそらく今の低金利が続けば、予定利率が1.25%/0.75%の商品はそのまま継続となりそうなので、保険会社にとってALMが非常に難しいと想像できます。

リスクに見合ったリターンが得られにくく、ALMも難しいとなると、各社は相互会社の社員に対し、予定利率が1.25%/0.75%の団体年金保険を続ける説明が必要だと思います。少なくとも「顧客に影響があるから」という理由では納得できないでしょう。

<12月21日追記>
明治安田生命が2024年度以降に引き下げる方向という日経報道がありました。(報道が正しいとして)2024年度とはだいぶ先ですが、何を基準にして決めようとしているのか興味深いです。

※神社の境内でマルシェをやっていました。

 

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パンデミックリスクの補償

今回の新型コロナウイルス感染症では、保険業界が社会的な役割を必ずしも発揮できていないと感じる関係者が多いかもしれません。
死亡保険金や入院給付金は新型コロナ感染症を支払い対象としていますが、生命保険協会によると、8月末現在で死亡保険金は897件(約81億円)、入院給付金は11,100件(約15億円)だそうです。件数があまり多くないのはいい話なのですが、保険が役に立ったと感じる人もあまり多くないということになります。
さらに、事業中断の補償など、損害保険の支払いはより限られているようで、事業停止に伴う損失の補償は専ら政府が担っています。ただ、どの補償スキームも事前の準備が少なかったためか、給付金や支援金が必ずしもスムーズに提供されているとは言い難いようです。

海外に目を転じると、日本よりも厳しい経済・社会活動の制限が実施された欧米各国で、今回のパンデミックの教訓を生かし、パンデミックリスクに備えた官民連携のスキームを検討する動きがあるようです。
損害保険事業総合研究所の機関誌『損保総研レポート』の2020年7月号は、欧州および米国でパンデミックリスクに備えた官民連携スキームを模索する動きを2つのレポートで報告しています。

牛窪主席研究員による「米国における新型コロナウイルスと事業中断保険を巡る動向」では、政府再保険を活用したパンデミックリスク保険制度を創設する法案が連邦議会で検討されていることや、米国損害保険協会(APCIA)などの業界3団体が、将来のパンデミックの際に事業者を支援する連邦プログラム(支払い責任はすべて政府が負担)の創設案を公表していることを紹介しています。
濱田主席研究員による「新型コロナウイルスの損害保険業界への影響」では、ドイツ保険協会が、補償を受ける可能性のある事業者が拠出し、政府も資金を提供するパンデミックリスクに備えた基金の創設を検討していることや、イギリスやフランスで、政府による再保険を活用したスキームを検討する動きがあることを紹介しています。

同様の動きは日本でもあるのでしょうか。
パンデミックのリスク特性を踏まえると、民間だけで補償を引き受けるのは簡単ではなさそうですが、普及活動や支払業務などオペレーションの面で貢献できると思います。例えば地震保険を参考に、中小企業向けの補償を念頭に置いた制度を検討する価値はあるかもしれません。

※先週末に訪問した「かっぱ駅」です。

 

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保険業の従事者数

この夏は執筆ものに追われていまして、確認のためにいろいろと調べることが多いです。
つい先日には保険産業の規模をつかむ一環として、保険業の就業者数を調べました。総務省統計局の経済センサス-活動調査という統計があり、2016年6月時点で668,466人と出ています。
内訳は生命保険業が361,623人、損害保険業が113,019人、保険媒介代理業が143,966人などです。

他方で、生命保険の募集従事者(営業職員と代理店使用人数)は約120万人、損害保険の募集従事者数は約200万人です(資料は「生命保険の動向」「日本の損害保険-ファクトブック」)。

経済センサスと募集従事者の差は、前者が主として保険業に従事している人なのに対し、後者は募集人として届出をしている人なので、銀行などの金融機関や自動車関連(ディーラーや整備工場)、不動産業などの副業代理店の募集人が数値を押し上げているのでしょう。

参考までに経済センサスによると、銀行業444,342人、協同組織金融業189,647人、郵便局286,945人、自動車小売業571,123人、自動車整備業243,301人、不動産業取引業323,508人、不動産賃貸業・管理業845,185人、税理士事務所140,283人でした。

生保の約120万人と損保の約200万人はかなり重複していると考えられるので、仕事として保険産業に関わっている人は300万人には達していないのでしょう。重複度合いを調べるのは難しいですが…とはいえ仕事として保険に関わっている人の数は結構多いと言えるのではないでしょうか。
なお、共済事業に関わっている人(JAや生協など)を含めると、数値はさらに膨らみますね。

※訪問の目的が胃カメラ検査というのがちょっと寂しい気もします。横浜ランドマークタワーです。

 

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前期の講義を終えて

大学教員1年目の前期講義が終わり、採点などをしています。

同僚の先生がたと情報交換してみると、オンライン講義は出席率が高く、かつ、下がらない傾向があったようです。確かに私の場合もそうでした。
ただし、ゼミ以外の授業では「音声をミュート」「カメラをオフ」にして授業に臨むので、本当に出席しているかどうかは確認しないとわかりません。前期の経験からすると、どうやら1割くらいの学生はその場にいなかったようです。

2回に1回は小テストを行い、時には感想を聞いたりしたところ、「ゆっくり丁寧でわかりやすい」という声と、「難しいのでもう少しゆっくり話してほしい」という声があり、どうしたものかと悩みました。
後期もいろいろと試行錯誤してみることにしましょう。

2つの保険の講義のうち、片方で保険会社の経営破綻に関する話を2回に分けて行いました。
感想を聞くと、保険会社が次々に破綻したという事実を知って驚いたというコメントが多かったですね。「自分は保険に入っているけど、保険会社の破綻など考えたこともなかった」「ビルの名前か何かで聞いたことがある生保が破綻していたなんて」などなど。
中堅生保の経営破綻が相次いだのは2000年前後なので、20歳前後の学生の皆さんがちょうど生まれたころに起きた事件です。社会科の授業で取り上げることもないでしょうから、知らないのも無理はありません(リーマンショックだっておそらくピンとこないでしょう)。

なるほどそうきたか、というコメントもありました。
例えば、「保険会社は破綻しても再出発できるのですね」というもの。保険会社の破綻の話しかしなかったので、比較のためにJALの話でもすればよかったのかもしれません。とはいえ、生命保険会社の場合、債権者の大半が保険契約者であり、既契約の存続が絶対命題としてあるので、特殊な処理なのは確かですね。

破綻生保の既契約を引き継いだ会社が設定する「早期解約控除」について、「うまいこと考えるなぁ」というコメントには、当事者には申しわけありませんが、思わずクスッとしてしまいました。二次破綻を避けるための苦肉の策だと思うのですが、興味深く映ったようです。

※今年は実家での会食をあきらめ、ケーキを切って実家に持っていきました。
 久しぶりに横浜に戻ってきています。

 

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保険市場のダイナミズムはどこへ

今週のInswatch Vol.1045(2020.08.10)に寄稿したものです。
再編が進み、過去の話はどこまで語り継がれているのでしょうか。
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自動車保険の取り組み姿勢の違い

九條守氏の著書『保険業界戦後70年史』に、1970年代の話として、自動車保険の販売戦略の違いによって(収入保険料で見た)業界順位が大きく変わったという記述がありました。
本書によると、「整備工場とタイアップしたり、西日本での販売を控えたりする等、事故率を抑える工夫を凝らしてメリハリを利かせて積極的な募集を展開した」会社が順位を上げ、「自動車保険は損害率が高く収益性が悪いという懸念から、経営を危うくしかねないとの判断で、自動車保険の販売に慎重な姿勢を示す会社」が順位を下げたとのことです。
自動車保険だけを見れば収益性が悪くても、多種目販売を積極的に展開すれば、経営を危うくすることにはならず、増収による規模拡大がはかれるという戦略があったと本書は述べています(その戦略が適切かどうかはとりあえず脇に置いておきます)。

ちなみに、私がかつて所属していた会社も、当時、大手のなかで自動車保険に最も積極的に取り組んだ会社であり、積極経営によって業界地位が高まったという話を何度も耳にしました。業界地位とは市場シェアだけでなく、業界での発言力、影響力なども含まれていたようです。
積極経営はその後の積立保険の販売でも見られ、こんどは大手他社も同じように積極的に「年金払積立傷害保険」などを高い予定利率で提供しました。1990年前後のことです。残念ながら当時の保険負債は、その後の低金利でいまだに経営の重荷として残っています。

現在はどうか

当時の損害保険会社の経営環境は現在とは全く違います。カルテル保険料率だったので料率競争はありませんし、護送船団行政ですから、いわば監督官庁が経営リスクを引き受けていました。経営指標として重視されていたのは収入保険料と市場シェア、それと他社比〇〇という数字で、損益は二の次という雰囲気でしたが、それでも自動車保険という成長分野に対する取り組み姿勢には会社により大きな違いがあったということです。

今はどうでしょうか。3メガ損保グループが国内損害保険市場の大半を分け合うようになって久しく、少なくとも国内事業においては、どの会社の経営戦略も大きな違いがないように見えます。
さすがに市場シェア10%を超える会社では、公共的使命という観点から、かつての某社のように(損害率の高い)西日本での販売を控えるといった戦略を打ち出すのは現実的ではないと思います。ただ、もしかしたら成長分野かもしれないサイバーリスクに注力している会社があるとも聞きませんし、コロナ禍での現場対応も似たり寄ったりに見えます。メリハリというよりは総花的と言えるでしょうか。

規制が厳しかった時代に比べ、規制緩和が進んだ(ただし、寡占化も進んだ)現在のほうが市場のダイナミズムが見られると言えないところが、経済政策の難しさを感じます。
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写真(上)の斤券(きんけん)は炭鉱札の一種で、説明によると、「毎日の賃金支払いに通貨(現金)の代わりに支払われた」「実際にはなかなか(通貨に)交換してもらえず、炭鉱内の売勘場(売店)や炭鉱指定店の中だけで通用していた」「急に現金を必要とする場合は納屋頭や炭鉱指定店、高利貸から両替してもらったが、2割から5割の高い割引料をとられることもあった」とのこと。炭鉱労働の厳しさは事故の危険だけでなく、こんなところにもあったのですね。明治から大正にかけてのことです。

 

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コロナ禍での生保販売動向

inswatch Vol.1036(2020.6.8)に寄稿した記事のご紹介です。
3社の決算は本日(6月10日)もまだ発表されていません。

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2019年度決算はまだ出そろっていません(6月5日時点でアクサ生命、エヌエヌ生命、メットライフ生命などが未公表)が、公表された会社のデータを使い、新型コロナの影響が出始めた1-3月期の各社販売動向を確認してみました。

保険料収入は既契約の影響が大きい

メディアでは生保決算について「保険料等収入」「基礎利益」の動きを説明するものが多く、私は毎度のように「保険料等収入は売上高には当たらない」「基礎利益は本業の儲けを示していない」と指摘しています。決算データから何を知りたいのかという視点が抜け落ちていて、定例の作業となってしまっているのでしょう。
その点、今回の日経新聞の生保決算報道は、保険料等収入とともに新契約年換算保険料を載せ(6月3日付)、基礎利益だけでなく最終利益の推移を示す(5月29日付)など、定型パターンではなくてよかったと思います。

例えば1-3月期のデータを見ると、営業自粛が続くかんぽ生命の保険料収入は前年同期比で25%の減少と、それほど落ち込んでいるようには見えません。しかし、新契約年換算保険料は前年同期の1%以下の水準です。かんぽ生命の販売の現状を示しているのはどちらでしょうか。
第一フロンティア生命のように、一時払いの貯蓄性商品を主力としている会社では、保険料収入と新契約年換算保険料が同じような動きをします。逆に言えば、保険料収入は貯蓄性商品(特に一時払い)の販売動向に大きく左右されるということで、これを事業会社の売上高になぞらえるのは無理があります。

コロナ禍の影響は

政府による緊急事態宣言の発令は4月になってからですが、思い起こせばすでに3月には活動自粛モードが強まっていました。私は2月下旬からテレワークを本格的に始めています。保険の対面販売活動にもかなりの影響があったと考えられます。
とはいえ、1-3月の業績動向を確認しても、新契約がここで大きく落ち込んだという会社はほとんど見られませんでした。前年同期比で年換算保険料や販売件数が2桁のマイナスという会社はいくつも見られます。しかし、多くの場合、1-3月だけでなく、昨年4月からその傾向が続いています。これは経営者保険の販売停止・見直しをはじめ、新型コロナとは別の要因が強く影響していると見るべきでしょう(コロナ禍対応で海外金利が下がり、外貨建て保険が売れなくなったということはありそうです)。

4-6月は対面販売の自粛や停止により、新契約の落ち込みが予想されます。ただ、もしかしたら保険ショップや一般代理店を主力チャネルとする会社に比べ、営業職員を主力とする会社(特に伝統的な国内系生保)の業績はそれほど落ち込まないかもしれません。
というのも、彼らは新契約の大半を既契約市場で獲得しているので、顧客を訪問できない時期が続いても、ベテラン営業職員であればそう簡単に顧客との繋がりがなくなったりはせず、常に見込み客を確保できる状況にあるからです。1-3月の契約動向にもこうしたチャネル特性が反映されているのでしょう。
もちろん、採用活動の難しさなどから、会社全体としては先細りとなる恐れはあります。でも、伝統チャネルの底力を軽視はできないでしょう。

極論すれば、今後はオンラインをフル活用した、新たな時代のビジネスモデルを築いた販売組織か、あるいは、すでに揺るぎのない顧客基盤を築いている募集人でなければ、生き残るのが難しい時代となるのかもしれません。今後の業績データに注目したいと思います。
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※大学近くのラーメン店なので「初心者」が多いのかもしれません

 

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生保決算(1-3月データ)から

2019年度決算では、新型コロナ禍に伴う金融市場の乱高下の影響で、多額の有価証券評価損を計上した国内系生保がいくつかありました。評価損の内訳は「株式等」「外国証券」が大半を占めています。
例によって四半期ごとに分けて見てみると、評価損の計上に合わせるかのように、有価証券売却益が1-3月期になって急増している会社がみられます。

好意的に見れば、価格が下がる前に利益を確定したのかもしれません。しかし、この時期だけ突出して売却益が多く、かつ、比較的動きが小さかった国内債券もそこそこ含まれているとなると、通常の資産運用というよりは、3月決算を意識した利益計上を行ったのではないかと考えてしまいます。
資産運用で積極的にリスクをとるという経営判断は理解できるとしても、決算を作りに行くような行動は、どう理解したらいいのでしょうか。

新型コロナ対応といえば、3月以降、大手生保の契約者貸付が急増しているというニュースがありました(5/24のNHKなど)。
そこで、各社の契約者貸付(保険約款貸付)を確認してみると、大手生保(日本、第一、住友、明治安田)の貸付残高は3か月前と比べてむしろ減っていました。
本格的に増えたのは4月以降なのかもしれませんが、中小企業を顧客基盤とする大同生命では貸付残高が急増していますし、顧客に中小企業のオーナーが多そうなソニー生命やプルデンシャル生命でも、通常よりも増えていますので、顧客基盤のちがいが大きいようです。NHKは取材する相手を間違えたのでは…

1-3月になって解約返戻金が急に増えた会社もありました。第一フロンティア生命とMSプライマリー生命が顕著に増えていて、明治安田生命や住友生命でも増えているので、おそらく銀行で一時払いの貯蓄性保険に加入した人が、何らかの理由で保険を解約したのでしょう。

※アクロス山の登頂に成功しました(笑)

 

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生命保険会社の会社数の推移

inswatch Vol.1032(2020.5.11)に寄稿した記事のご紹介です。

【5月14日訂正】生命保険会社の会社数は42社でした(チューリッヒ生命のカウント漏れ)。大変失礼いたしました。

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テレビのニュースもネットの見出しも新型コロナ関連の話ばかりなので(私も先月のinswatchで取り上げました)、今回は全く違うテーマを取り上げてみましょう。

日本に生命保険会社は何社あるか

正解は41社です(2020年5月1日現在)。日本では保険業は免許制(少額短期保険業は届出制)なので、金融庁から免許を取得している生命保険会社が41社あるということになります。

意外に多いと感じるかもしれませんし、「生保は大手銀行や損保に比べると再編が進んでいない」と言われることもあります。確かに大手生保(4社または5社が大手とされる)の市場シェアは圧倒的というほど高くはありません。
ただ、日本の生命保険市場が世界第2、3位の規模という巨大なマーケットであることを踏まえれば、会社数が多すぎるという指摘は当たらないようにも思います。

ご参考までに、損害保険会社は53社(同)あります。3メガ損保グループが収入保険料の8割超を占める超寡占市場なのに、どうして会社数が多いのかというと、3グループともに機能・役割の異なる保険会社を複数持っているうえ、規模が小さく、特定の分野に特化した会社が数多く存在するからです。
また、このなかには再保険会社も含まれていて、生命再保険を主力とする会社でも、損害保険会社の免許を取得することになります。

「増加」から「横ばい」へ

次に会社数の推移を見てみましょう。
生命保険協会が「生命保険の動向」という資料の中で、「生命保険協会加盟会社数の推移」というグラフを掲載しています。生命保険協会には全ての生命保険会社が加盟していますので、これが会社数の推移を示したものです
(損害保険会社には日本損害保険協会の会員ではない会社があります)。

グラフをご覧いただくと、過去50年間のトレンドは概ね右肩上がりに見えます。もっとも、2000年代以降だけで見れば、横ばいと言うべきかもしれません。
50年前の20社から外資や異業種からの参入により会社数が徐々に増え、1996年度には損保による生保子会社の設立で会社数が一気に増えました。その後、2000年の49社をピークに減少に転じ、一時は40社を割り込んだものの、新規参入もあり、現在に至っています。

生保は人口減少や高齢化の進展などから衰退産業と揶揄されることもありますが、再編による会社数の減少もあるなかでの41社ですから、新規参入者には依然として魅力ある市場に映っているのでしょう。

外資系生保の存在感

外資の存在感が高いことも、日本の生保市場の特徴と言えるでしょう。
規制緩和が進み、日本の金融・保険市場が閉鎖的と言われることはほとんどなくなりました。それでも日本の市場が外資系に席巻されることはなく、特に個人分野では圧倒的に国内系が顧客基盤を確保しています。銀行もそうですし、証券も損害保険もそうです。

ところが生命保険だけは、外資系が市場を席巻するとまではいかないにしても、一定の存在感を確保していると言えるでしょう。2000年前後に起きた中堅生保(いずれも国内系)の相次ぐ経営破綻のほか、国内系とは異なるビジネスモデルを採用してきたことが結果として顧客の支持につながり、現在の地位を築いていると考えられます。
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※大分県に行ったのではなく、近所に「別府」という地名・駅があるのですね。

 

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国がちがえば主力商品もちがう

inswatch Vol.1019(2020.2.10)に寄稿した記事をご紹介します。
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ドイツ生保市場の変化

保険の国際的な規制を決めるIAIS(保険監督者国際機構)で2017年まで事務局長を務めた河合美宏さんが最近、日本経済新聞(電子版)へ寄稿した文章のなかで、ドイツでは低金利と新たな健全性規制への対応として、生保業界の主力商品が変化したという紹介がありました。
伝統的な利率保証のある長期の貯蓄性商品(養老保険や個人年金保険)から、利率保証が限定(既払い保険料のみ保証)される一方で、伝統的な商品よりも高いリターンが期待できる「ハイブリッド年金保険」という投資性商品にシフトしたというのですね。

主力は個人年金

ドイツ生保の商品構成については、金融庁の「経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する有識者会議」第3回の資料に掲載されています。
資料によると、ドイツ生保は定期保険や就業不能保険などの保障性商品も取り扱っているものの、個人年金のように老後に備えた貯蓄性商品を中心に提供していることがわかります。ユニットリンク型(変額型)は意外に普及しておらず、その点は日本と共通しているようです。

これに対し、日本で個人年金保険は生保の主力と言えるほど提供されていません。例えば、2018年度の個人分野の新契約年換算保険料(約3兆円)のうち、個人年金保険は17%(0.5兆円)を占めるにすぎません。新契約件数では、個人分野に占める割合は6%まで下がります。
保険料収入や新契約件数などを総合的にみて、日本の生保市場は死亡保障や生前給付保障、医療保障といった保障性商品が中心と言えるでしょう。

生保市場は地域性が強い

ドイツ以外の国でも、生保といえば貯蓄性商品(または投資性商品)というところは多いようです。
例えば、イギリスで生命保険といえば一時払いの個人年金保険ですし、最低保証のない変額タイプの商品や実績配当型の商品が多くなっています。年金開始前(ペンション)と開始後(アニュイティ)で商品が分かれているのも特徴です。米国も保険料収入で見れば個人年金保険の割合が大きく、大手生保グループの多くは自らを金融サービス事業者と規定しています(他方で米国では健康保険を民間保険会社が提供)。

生保市場は地域性が強く、国や地域によって特性がかなり異なっています(これは販売チャネルについても言えることです)。主力商品をちょっと比べただけでも、同じ「生命保険」「生命保険会社」とはいえ、日本の常識が世界でも同じとは限らないことがよくわかります。
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※大人の修学旅行 in 歌舞伎町。
 由緒あるバーにおじゃましました。

 

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わりかん保険

日本でもP2P保険がデビュー

インシュアテックのスタートアップ企業であるjustInCase(ジャストインケース)が28日に「わりかん保険」の取り扱いを始めました。
日本初のP2P保険ということで、IT技術を利用した助け合いの実現と、保険料が後払い(かつ低廉)なのが従来の保険にはない特徴です。
政府のサンドボックス制度を活用した実証実験の案件でもあります。

相互宝の加入者は1億人

P2P保険は日本では初めての試みですが、中国には「相互宝」などの成功事例があり、ジャストインケースも参考にしたそうです。
相互宝はアリババグループ傘下のアント・フィナンシャルが運営するP2P保険で、がんを含む重大疾病保障を提供しています。アリペイ(スマホ決済)で加入を受け付けたところ、サービスを始めてからわずか1年間で加入者数が1億人を超えました。
(ちなみにライバルのテンセントは「水滴互助」というP2P保険を提供しており、こちらも加入者が8000万人に達しているそうです)。

若年層に受け入れられるか

「相互宝」が短期間にこれだけ多くの加入者を獲得したのは、アリペイという中国で最も普及した決済プラットフォームを活用したサービスだからでしょう。相互宝では加入手続きも保険料の支払いも給付金の受け取りも、すべてアリババ経済圏のプラットフォームで完結します。
ジャストインケースはこうしたプラットフォームを持たない代わりに、提携企業の力を借りることで加入者を集めようとしています。まずはこの1年間が勝負なのでしょうね。

「相互宝」の存在意義は、会員向けに安い保障を提供している点だけでなく、これまで保険加入機会がなかった層(農村や地方都市に住む層)に保障を提供しているところです。
ジャストインケースの価格設定をみると、やはり保険加入機会に乏しい若年層を取り込もうとしているように見えます。
確かに、助け合いを感じられる仕組みや運営の透明さは、今の20代、30代にフィットしているようです。今の若い人たちは、「がんになった加入者がいなかったので、保険料がゼロ円だった」よりも、「がんになった加入者が○人いたので、保険料をみんなで××円ずつシェアした」という体験のほうに価値を感じるかもしれませんね。

※梅が咲いていました。大倉山公園です。

 

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