03. 保険市場の動向

2022年版の生保・損保特集号

週刊東洋経済の臨時増刊『生保・損保特集』2022年版が出ました。
例年どおりの社長インタビューに加え、生保・損保ともに金融庁レポートの解説があり、もう少し中村記者の面白い(鋭い)記事が読みたかったというのが全体としての感想です。この媒体では難しいのかもしれませんが…

そのなかで、ややマニアックではありますが、今回のイチ押しは、トムソンネットの板倉さんによる「世界市場で進む標準化 再保険ビジネスの展望」でした。この20年間で世界の再保険ビジネスがどのように変化し、日本の損害保険会社(元受会社)が現在どのような状況に置かれているかということを、なんと8ページにわたって述べています。
例えばこんな記述もありました。

「(再保険市場で生じた詐欺事件に関連して)再保険のように保険のプロ同士が相手にリスクを転嫁することで自社の財務保全を図るシステムは、もともと逆選択リスクを取引するババ抜きゲームであることを肝に銘じるべきだ」(85ページ)

「日本の損保市場の縮小が続く中、再保険市場から見れば、十分な保険料を得ることができない割には、大規模自然災害で巨額の再保険金を払わされる市場という印象を持たれても仕方がない状況ともいえる」(89ページ)

「アジアにおける再保険を含む外国系損保会社の出先機関のハブは、ほとんどの場合、東京ではない。(中略)東京は、アジアの保険市場のハブとはなりえないということを見せつけられている現象である」(同)

他の記事では、生保の乗合代理店の評価制度を取り上げた「代理店業界の注目集める業務品質評価制度の行方」が、部外者(=私)にも読みやすい記事でした(44ページ~)。
そもそも「業務品質」を評価できるのかという疑問はさておき(業界の自主規制のようなものと考えればいいのでしょうか?)、評価基準を作るうえで契約継続率について保険会社と代理店で意見が分かれ、結果として「(継続率を)定期的に把握・分析し、解約理由・経緯等を踏まえ、必要に応じて改善策を実施している」という評価基準に落ち着いたとのこと。
代理店側の主張は「毎年数多くの新商品が発売される環境で、継続率を気にするあまり、保障内容が見劣りする商品の契約を放置しておくのは、顧客本位に反する」というものだそうですが、顧客からするとやや違和感があります。

例えば定額の保険料を支払い続ける終身医療保険の場合、若いうちはリスクが小さいので、いわば割高な保険料を支払っている状態が続き、保険期間全体でバランスがとれるようになっています。ですから途中で解約してしまうと、確実に損をすることになるはずです(特に解約返戻金がない場合)。顧客本位ということであれば、解約・新規ではなく、既存の商品に新たな保障を追加するのが本来あるべき姿だと思うのですね。
まずは商品を提供するメーカー(保険会社)の問題ではありますが、代理店がそこまで踏まえたうえで主張しているのか、議論のなかでそのような話はなかったのか、知りたいところです。

※キリンコスモスフェスタに行ってきました(先週の写真です)。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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新型保険の加入率

お仕事の関係で、テレマティクス自動車保険と健康増進型保険がどの程度売れているのか調べてみたところ、次の資料を見つけました。備忘録代わりにこちらに記しておきましょう。

テレマティクス自動車保険

矢野経済研究所が「国内テレマティクス保険市場に関する調査」を実施していて、2021年度の個人向けテレマティクス保険の市場規模は2260億円。自動車保険料全体に占める割合は5.3%と推計したそうです。まだまだ普及率は低い状況のようですね。

気になる記述も見つけました。

「現在、テレマティクス保険の提供方法としては、大手損害保険会社を中心にドライブレコーダーを提供する形の商品が主流となっている。しかし、将来的にはコネクテッドカーの普及に伴い、OEM(自動車メーカー)側がコネクテッドカーに搭載したカメラや各種センサーを通じて直接データを取得する仕組みが整うことが想定される。そうした状況から、事故対応に必要なデータを損害保険会社側で直接収集できなくなる可能性がある」(プレスリリースより引用)

健康増進型保険

生命保険文化センターが3年ごとに行っている「生命保険に関する全国実態調査」のなかで、2021年度から健康増進型保険・健康増進型特約の加入率が公表されています。世帯加入率は4.2%です。医療保険・医療特約の世帯加入率が93.6%ですから、こちらも普及が進んでいるとはまだまだ言えない状況です。
世帯主年齢別の加入率を見ると、29歳以下の加入率がダントツで高くなっています。興味深い結果ではありますが、今回が初めての調査なので、次の実態調査を待ったほうがいいかもしれません。

※写真は東寺(教王護国寺)です。中には入れませんでした。

 

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金閣寺のファイアマーク

金閣寺に行く機会があり、ようやく入口(総門)にある東京火災保険会社の鳶口(とびぐち)マークを確認することができました。
これはいわゆる「ファイアマーク」と呼ばれるもので、火災保険に加入していることを示す証として、明治から大正にかけて建物の目立つところに掲げられていたものです。ご存じのかたも多いと思いますが、ルーツはロンドンの火災保険会社にあります。19世紀半ばまでロンドンの消火活動は専ら火災保険会社の消防隊が担っていて、ファイアマークが消火活動の目印になっていたのです。
1888年に日本初の火災保険会社として創業した東京火災保険会社も自前の消防団「東京火災消防組」を持っていたそうですが、その後(1894年?)こうした私設の消防組は府県知事の傘下に入ったようで、東京火災消防組が保険会社の消防組織としていつまで活動を続けていたのかは定かではありません。

鳶口マークといえば安田火災でして、東京火災は現在の損保ジャパンの前身となった会社です。
安田火災がなくなってからすでに20年がたち、このマークを知らない保険会社社員や代理店のかたも増えているのでしょうね。

 東京火災
  ↓
(1944年に帝国海上などと合併)
  ↓
 安田火災
  ↓
(2002年に日産火災と合併)
  ↓
 損保ジャパン
  ↓
(2010年に日本興亜損保と経営統合)
(2014年に日本興亜損保と合併)
  ↓
 損保ジャパン日本興亜
(2020年に商号変更)
  ↓
 損保ジャパン

※絵葉書のような写真が撮れました。

 

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入院給付金の見直し(続き)

コロナ「みなし入院」による入院給付金支払い対象の見直しについて、9日に多くの保険会社がニュースリリースを公表しましたので、確認してみました。
9月26日以降の診断から、重症化リスクの高い「みなし入院」の加入者(=発生届の対象)のみに入院給付金を支払うという内容は各社共通ですが、説明内容はいくつかのパターンがありました。

・政府が発生届対象を限定した
・政府による発生届対象の限定で、入院が必要な状態と判断できなくなった
・発生届の対象外の人は入院の定義から外れる
・発生届が出ないと感染症法上の「健康観察」の対象とならない
・入院の必要性が低い感染者が増えたうえ、政府による発生届対象が限定された

発生届に関する政府の対応に伴う措置という説明だけではなく、実態として入院の必要性の低い感染者が増えたという趣旨の説明をしているのは、私が確認したなかでは第一生命、ソニー生命、オリックス生命、大手損保4社と損保系生保だけでした。この点に触れないと、これまでは政府に言われたから支払っていて、今般は政府が方針を変えたから見直すという説明に見えてしまうように思うのですが…
なお、「加入者間の公平さを欠いている」「モラルの低い加入者が増えている」といったところまで踏み込んだ記述は見当たりませんでした。

以下、大手生保を中心に10社ほどのリリースの概要を記しておきます(11日時点で未公表の会社もあるようです)。

日本生命
見直しの背景として、これまでは約款上の定義には該当しないものの「入院」と同様に取り扱ってきたが、今般の政府による発生届対象の限定により、今後は「新型コロナウイルス感染症に罹患したことのみをもって『常に医師の管理下において治療に専念』し『入院が必要な状態』と判断できない」と説明しています。

第一生命
これまでは、約款上の「入院」の定義に該当しないものの、社会情勢を踏まえた時限的な措置として実施してきたが、感染者数が増加するなかで、「(入院の必要性が低い)軽症・無症状の割合が高まっていること」「政府が発生届の対象を限定すること」の2つにより見直すと説明しています。

住友生命
「新型コロナウイルス感染症の発症状況が変化しつつある中、政府における措置などの状況変化を踏まえ、今後は、重症化リスクの高い方の宿泊療養・自宅療養を『みなし入院』による入院給付金のお支払対象とするもの」と説明しています。

明治安田生命
今回の対応の背景として、これまでは入院が必要である「みなし入院」の方に支払ってきたが、「今回の政府における措置に伴い、発生届の対象とならない方は『常に医師の管理下において治療に専念している』とはいえない」ため見直すと説明しています。

かんぽ生命
これまでは「お客さま保護の観点から、約款上の『入院』とみなして」きたが、「新型コロナウイルス感染症に係る発生届の範囲を全国一律に重症化リスクの高い方に限定する旨が公表されたこと等を踏まえ」見直すという説明です。

大樹生命
約款に関する記述はなく、今般の見直しの理由として、「発生届の対象外となる方については、『常に医師の管理下において治療に専念』していると判断できず、新型コロナウイルスに感染したことのみをもって『入院が必要』な状態と判断できないため」と説明しています。

朝日生命
やはり約款云々という記述はなく、政府の決定により、「発生届の対象外となる方については、常に医師等の管理下で治療に専念している状態にはないこととなり、新型コロナウイルス感染症に罹患したことのみをもって入院治療が必要だと判断できなくなります」と述べています。

太陽生命
これまでは保険約款を柔軟に解釈した特例措置をとってきたが、「発生届の対象とならない方を新型コロナウイルス感染症と診断されたことのみをもって『医師の管理下における治療に専念』し『入院が必要な状態』と判断できない」ので、見直すとしています。

富国生命
政府から示された方針を受けてという説明です。

オリックス生命
政府の方針見直しのほか、「新型コロナウイルス感染症の発症状況が変化しつつあり、必ずしも入院を必要としない軽症・無症状の割合が高まっている状況にあります」と述べ、入院の定義から外れるとしています。なお、ニュースリリースではなく「おしらせ」に出ています。

アフラック生命
発生届が出ないと感染症法上の「健康観察」の対象とならず、入院給付金の支払要件に該当しないという説明です。

メットライフ生命
「今回の取扱変更に至る経緯」という説明があり、「発生届を提出する対象とならない方については、感染症法上の『健康観察』(健康状態を確認する)の対象から外れるため、保険約款上の『入院』の要件である、『常に医師の管理下において治療に専念すること』には該当しない」ので取り扱いを変えるとしています。

あんしん生命
「新型コロナウイルスの感染者数が増加する昨今の状況においては、重症者の割合がこれまでと比べて低い水準であり、軽症・無症状の方の割合が高まっております」「発生届の対象とならない方については新型コロナウイルスに感染したことのみをもって入院が必要な状態と判断できない」の2つを挙げています。

ひまわり生命
「新型コロナウイルスの感染者数が増加する昨今の状況にあっては、重症者の割合はこれまでと比べて低い水準であり、軽症・無症状の方の割合が高まっている状況」「政府において、新型コロナウイルス感染症に係る発生届の範囲について、2022年9月26日以降、全国一律に、重症化リスクの高い方に限定」の2つを挙げています。

※写真は熊本・山鹿温泉です。

 

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入院給付金の見直し

前々回のブログでご紹介した8月20日前後のメディア対応に続き、9月1日から4日にかけて、NHK(夜9時のニュースなど)をはじめ、掲題のテーマでいくつかのメディアに登場しました。共同通信の取材にも応じたので、静岡新聞などいくつかの地方紙にコメントが出たそうです(知人に教えてもらいました)。

その共同発のコメントですが、前半部分に訂正があります(申しわけありません)。

「みなし入院給付金の特例は、新型コロナウイルス感染症が未知の病気で社会的に深刻だったタイミングで、医療機関の逼迫(ひっぱく)を回避するために保険業界が社会貢献のような形で導入した」

ではなく、

「みなし入院給付金の特例は、新型コロナウイルス感染症が未知の病気で社会的に深刻だったタイミングで、医療機関が逼迫(ひっぱく)して自宅療養者が出るなかで、保険業界が社会貢献のような形で導入した」

というコメントをしたつもりでした。これは記者さんのせいではなく、私の確認ミスです。

ちなみに後半部分はこうなっています。

「最近は軽症や無症状の感染者も多く、本来は給付金を受け取る対象か疑わしい人も受け取っていることが問題になっている。保険は加入者がお金を出し合って、いざという事態に備える仕組みだ。みなし入院の感染者全てに支払いを続けると、新規で医療保険に加入する人の保険料が値上がりしたり、販売停止につながったりして、加入者が不利益を被る恐れがある」

NHKのコメントは動画のほか、こちらで確認できます。

NEWS WEB「コロナ自宅療養で“入院保険”これからどうなる?」(9月1日更新)
サクサク経済Q&A「【詳しく】新型コロナ 入院給付金見直しって?」(9月1日公表)

コメントの中核部分はこちらになります。

「保険会社が『みなし入院』でも給付金を払うと決めたときはまだ、コロナがどんな病気で、どれくらい深刻なのかが分からなかったため、こうした対応が社会にとって役立つと考えていたのだと思う。しかし、今は症状が重くなくても、陽性と判定されればそれだけで給付金がもらえてしまう状況で、給付金をもらうためにあえて保険に加入する人も出てきている。入院給付金の原資は契約者が払う保険料で、保険料を払っている人と給付金を受け取っている人のバランスが崩れ不公平な状況になっており、正常な状態に戻すという話だと捉えるべきだ」

後段の「保険料を払っている人と給付金を受け取っている人のバランスが崩れ不公平」というのはちょっと変ですが、「保険料と給付金のバランスが崩れているうえ、保険料を負担している人たちのなかで不公平が生じている」と捉えていただければ幸いです。

ちなみに同じNHKでもNEWS WEBとサクサク経済Q&Aは別の取材でして、これは本人でないとわからないかもしれません。

念のため、今回の見直しに関する資料を挙げておきましょう。

1.金融庁「入院給付金の取扱い等に係る要請」(9月2日公表)

生命保険協会、日本損害保険協会、外国損害保険協会、日本少額短期保険協会にあてたもので、「貴協会におかれては、会員各社において、医療機関や保健所の負担軽減に十分配慮しつつ、政府による検討の方向性を踏まえた上で、いわゆる『みなし入院』による入院給付金の取扱い等について、支払対象も含め、可及的速やかに検討が行われるよう周知していただきたい」とあります。

2.生命保険協会「新型コロナウイルス感染症による宿泊施設・自宅等療養者に係る療養証明書の取扱い等について

上記の金融庁要請を受けて、「生命保険各社においては、医療機関や保健所の負担軽減に十分配慮しつつ、いわゆる『みなし入院』による入院給付金の支払対象も含めた取扱い等について、 検討が行われるよう周知しています」とあります。日本損害保険協会のリリース文も、この部分に関してはほぼ同じです(「周知」ではなく「依頼」となっていますが)。

各社の対応はおそらく検討中で、まだサイトでは確認できませんでした(5日現在)。

※熊本城の修復もだいぶ進みましたね。

 

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活版印刷の発明と海上保険

この週末(25日)は日本保険学会九州部会の例会があり、福岡大学での対面&オンライン(zoom)開催でした。こちらから当日のプログラムやレジュメをご覧いただくことができます(確か期間限定だったと思います)。

2人の報告者のうち、最初に登壇した神戸大学の若土先生の報告「活版印刷技術が及ぼした中世海上保険証券への影響」は、『海事交通研究』第70集に掲載されたこちらの論文(PDF)のアップデートだったようです。中世イタリアをはじめ、スペイン、ポルトガル、オランダ、ドイツなど、これだけの古文書(主に保険証券)を発掘するにはかなりの労力がかかったのではないでしょうか。

『海事交通研究』の論文を拝見したところ、15世紀にグーテンベルクが発明した活版印刷技術が、それまで全て手書きだった海上保険証券の定型部分に導入されていったことを、文献だけではなく、若土先生自らが収集した史料をもとに検証したものでした。

グーテンベルクの活版印刷技術は火薬、羅針盤とともに「中世の3大発明」の1つと言われ、その後のヨーロッパ社会に大きな影響を与えました。この技術を使えば写本よりも早く、安く、大量に読み物を作ることができるので、情報が広く一般に普及するようになります。確かにこれは革命的です。
ただ、海上保険の保険証券を早く、安く、大量に印刷する必要はなさそうなので、両者がどう結びつくのかが疑問でした。これに対し、本論文では16世紀末のアムステルダムで保険証券の定型部分に活版印刷が利用されたことについて、2つの理由を挙げています。

「登記の手間の削減や保険手続きの簡素化や迅速化といった時代のニーズに対応できるよう、恐らく証券書面の統一化を図るため証券上の定型的な部分に活版印刷技術を導入していったのではないかと筆者は考えている」

「取引市場のエリアが拡大し(中略)有力商人たちは企業化しネットワーク網が広がり、契約した重要な補償内容を現地・本部のいずれでも確認できる需要が強まり、証券の定型部分を活版印刷によって記載する動きに繋がったのではないかとみている」

いずれもまだ仮説のようですが、興味深いですね。僭越ながら研究が進み、活版印刷技術と保険の関係がより明らかになることを期待しています。

※アジサイにもいろいろな種類があるのですね。

 

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日本企業のリスクマネジメント意識が変わる?

今週のInswatch Vol.1136(2022.5.16)に寄稿した記事をご紹介します。
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企業のリスク意識の低さ

以前(2020年6月)のプロフェッショナルレポートで、「(変化の兆しが見られるとはいえ)日本企業のリスクマネジメントに対する意識が総じて低く、最低限の保険にしか加入していない」と書きました。
例えば、2011年の東日本大震災による経済損失が20兆円規模だったのに対し、支払われた保険金額は1兆円をはるかに下回るものでした(家計向けの地震保険を除く)。また、3メガ損保グループによるコロナ関連の保険金支払いはそれぞれ数百億円に達したものの、そのほとんどは海外事業によるものでした。
日本企業が最低限の保険にしか加入していなくても、経営者が直接コントロールできない外部環境の急激な変化による損失発生は「仕方がないもの」として許される雰囲気があったのかもしれません。あるいは、企業向け保険の主要チャネルが企業代理店となっていて、企業のリスクマネジメント部門との十分な連携がないままに保険を手配してきたのかもしれません。

ガバナンス改革の進展

しかし、ここにきて、日本企業のリスクマネジメント意識を高めるような風(保険ビジネスにとっては追い風)が強まっているのを皆さんはご存じでしょうか。
1つはコーポレートガバナンス改革の進展です。松田千恵子先生の著書 『コーポレートガバナンスの進化』(2021年、日経BP)から引用すると、「戦後以来強固であったメインバンクガバナンスの枠組みも、90年代後半には揺らぎをみせます。それまでのメインバンクガバナンス(主要取引銀行によるガバナンス)から、エクイティガバナンス(株主によるガバナンス)へ、世の中は移り行くことになったのでした。コーポレートガバナンス・コードはこうした流れを決定的にしました(44ページ)」ということで、日本企業の経営者は債権者思考から株主思考への対応を迫られています。

利息収入が得られる債権者とは違い、株主は出資した企業の価値が高まらなければ、リターンを得られません。ですから、株主は経営者に対し、出資先のリスクに応じたリターンを求めます。
問題は企業がどのようなリスクを抱えているかです。コーポレートガバナンス・コードは、適切なリスクテイクを支える環境整備を行うことを上場会社の取締役会に求めています。外部環境の変化を自らのリスクとして捉えず、経営努力の範囲外なので「仕方がない」とする経営姿勢を、これまで債権者は許してきたとしても、株主は許しません。メインバンクガバナンスが過去のものとなった現在において、経営者はリスクマネジメント体制を構築し、取るべきリスクや避けるべきリスクを明確にしたうえで、事業を遂行する必要があるのです。リスクのプロである保険業界の出番が増えそうですね。

気候変動リスクへの対応

もう1つは近年、企業が気候変動リスクへの対応を強く求められるようになったことが挙げられます。保険会社も事業を通じ、顧客企業の気候変動対応の支援を求められています(金融庁「金融機関における気候変動への対応についての基本的な考え方(案)」を参照)。
気候変動リスクへの対応がなぜ「追い風」なのか。顧客が気候変動に備えて保険に加入するようになるからでしょうか。いえいえ、この話はそのような表面的なものではありません。
考えてみましょう。顧客企業は気候変動の影響を把握するだけでいいのでしょうか。そうではありません。経営者に求められているのは、気候変動を含めた全社的な機会とリスクを把握することです。気候変動リスクだけを把握しても、そもそも全社的なリスクマネジメントができていなければ、当然ながら持続可能な経営とはなりません。

保険業界はコーポレートガバナンス改革の進展と気候変動対応という2つの追い風を生かし、日本企業のリスクマネジメント意識改革に大いに貢献していただきたいと思います。
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※写真は舞鶴公園のシャクナゲです。

 

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3年ぶりのリアル開催

23回目となるRINGの会オープンセミナーは6月18日(土)、3年ぶりのリアル開催です。場所はいつものパシフィコ横浜となります(ライブ配信も行います)。
お申し込みはこちらからどうぞ。

今回のプログラムはこちらです。「NEXT MOVE」をテーマにした3部構成となります。
第1部は感染症の専門家として知られる松本哲哉先生による基調講演と対談です。私は対談相手として登壇することになっています。
続く第2部は保険業界の働き方改革を探るというもので、組織変革の専門家として注目されている沢渡あまねさんが、旧態然とした保険業界に物申す企画(と私は勝手に解釈しています)です。第三者に言われないとわからないことは多いので、個人的には最も注目しています。
最後の第3部は、第1部と第2部を踏まえ、RINGの会のメンバーである保険代理店の経営者がディスカッションを行うというものです。今年のセミナーの裏テーマ(?)は「保険会社と共に考える」とのことですが、代理店評価制度にも切り込むとのことで、どこまで踏み込んだ話ができるか期待しましょう。

毎年1000名を超える規模で開催してきたオープンセミナー。コロナ禍の直撃を受けて2020年は中止となり、昨年はライブ配信を行いました。今回はいよいよ観客を迎えての開催となります。

オンライン配信には、全国どこにいても視聴できるというメリットがあります。昨年のクオリティを考えると、プログラムから学ぶだけであれば、オンライン参加でも十分かもしれません。
しかし、この2年間、数多くのオンライン会議やセミナーに参加し、オンラインでの講演や授業を行ってきた経験からすると、わざわざ週末の横浜まで出向くだけの価値はあると思います。
とりわけ登壇者からすると、こちらから一方的に話をする状況であっても、出席者の反応がわかるかどうかは大きいのですね。もちろん、オンライン配信や録画であっても最大限の努力をするのですが、オンライン配信を経験したおかげで、対面の場合には無意識のうちに参加者の反応に合わせて話し方を変えたり、内容を調整したりしているとわかりました。

ということで、貴重なリアル開催のイベントですし、久しぶりに仲間と会える機会になるかもしれません(ただし、懇親会はありません)。横浜で多くの方にお会いできることを楽しみにしています。

 

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生命保険・医療保険の加入状況

シニア向け医療保障が好調?

土曜日の日経に「マネーのまなび」というページがあり、そのなかで「生命保険文化センターの調査では、医療保険や医療特約に加入する80歳以上の世帯は2021年に8割超と18年の6~7割程度から増加した」という記述と図表を見つけました
(記事のタイトルは「認知症、家族が保険手続き 事前登録で支払い請求も」)。
実態調査にこんな図表があったかなぁと思い、同センターのサイトを確認してみたところ、速報版には掲載がなく、確定版になってから掲載される図表でした。

図表を見ると、確かに70代や80代の医療保険・医療特約の世帯加入率が前回調査よりも大きく上がり、他の年代と遜色ない高水準となっています。この統計には振れがありそうだとはいえ、これだけの変化が生じたのは記事のとおり、シニア層が医療保障に新たに加入したためではないかと考えられます。
総じてシニア層には貯蓄があり、日額5000円の入院保障と最大10万円程度の手術保障を得るために、年間8万円とか10万円とかの保険料を支払う(しかも終身払い)ような保険に加入するのが合理的とは思えないのですが、ニーズがあるということなのでしょう
(先進医療給付金がアピールポイントなのでしょうか?)

死亡保険金額の減少

他方で、保障中核層の死亡保障の充足状況はどうなっているのでしょうか。結論を先に言うと、実態調査を眺めただけではよくわかりませんでした。

30代や40代が世帯主である世帯の普通死亡保険金額(民保ベース)は年々小さくなっています。下記のように、15年前の2006年調査と比べると、2021年は当時の約7割の水準です。世帯主だけだと保険金額は2000万円前後まで小さくなります。

 30代前半 3221 ⇒ 2273
 30代後半 3782 ⇒ 2589
 40代前半 4164 ⇒ 2516
 40代後半 3991 ⇒ 2837
 (単位は万円)

世帯年収別の図表では、死亡保険金額が年収が高くなるほど大きくなっているので、家計に余裕がなく、必要な保障を得られていない30代や40代世帯が増えているのかもしれません。
ただし、保険会社(特に伝統系)の商品戦略の影響で、この統計に反映されないと思われる、生前給付保障など死亡保障の代替となる保険に切り替わっている可能性もあります。

ちなみに、加入保障内容の充足感をたずねた図表では、「十分」「ほぼ十分」という回答が調査のたびに増え、今回初めて5割を超えました(「不十分」「やや不十分」という回答は30%台で安定しています)。
皆さん、本当に十分と言えるほどの保障を確保しているのでしょうか?

※キャナルシティ博多でミニライブをやっていました。

 

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保険料率の納得感

今週のInswatch Vol.1132(2022.4.11)に寄稿した記事をご紹介します。
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水災料率の細分化

これまで全国一律だった火災保険の水災料率が、リスクに応じた料率に細分化される見込みです(2024年度から導入と報道されています)。水災リスクが低いにもかかわらず、高リスク契約者と同じ保険料率を負担するのは確かに納得感がなく、結果として低リスク層の水災補償離れが進み、付帯率は年々下がっています。
リスクに応じた料率を導入しても、そもそも火災保険は強制加入の保険ではなく、低リスク層の水災補償離れに歯止めをかけるのは簡単ではないかもしれません。家森信善教授が実施した意識調査によると、住宅購入前にハザードマップ等で自然災害のリスクを確認したという回答が全体の8割に達しており、水災リスクを確認したうえで住宅を購入するという行動はかなり定着している模様です。付帯率を下げ止まらせるには、料率をハザードマップ等とリンクさせることに加え、低リスクであっても無リスクではないことを住宅保有者に理解してもらい、加入を促す取り組みが求められます。

「一律掛金・一律保障」共済の場合

リスクの異なる加入者が同じ料率というのは、低リスク加入者が高リスク加入者を支えているということなので、強制加入でもないかぎり、このような仕組みは長続きしないはずです。
ところが探してみると、死亡率や入院発生率の異なる加入者が同一の掛金で同一の保障を得られる仕組みがあります。それは生協共済の「一律掛金・一律保障」タイプの商品です。
例えば、福岡県民共済の総合保障2型の場合、死亡保障や入院保障などのパッケージの月掛金は、18歳から60歳まで一律2000円となっています。18歳から60歳までの死亡リスクや入院リスクが同じはずはなく、若い加入者がシニア加入者を支えていることになります。それでは、加入者の多くがシニア層かといえば、少なくとも数年前に全国生協連を取材した時点では、そのようなことはありませんでした。
比較的若く、低リスクであるにもかかわらず、多くの人が自発的にこの共済に加入する理由はよくわかっていません。共済を提供する協同組織は相互扶助を理念としていますが、その理念に共感した加入者が多いとも考えにくく、つまるところ、月々2000円という掛金の絶対水準の魅力が大きいのではないでしょうか(他にも「割戻金が期待できるから」「長く続ければ自分が支えられる側に回るから」「保険会社は利益優先だと思うから」といった理由も考えられます)。この金額であれば、厳密に考えると不利だとわかっても、納得感があるということではないかと思います。

自動車保険の等級制度の場合

他方、個人向け自動車保険はご承知の通り、「ノンフリート等級制度」や「型式別料率クラス」などにより、リスクに応じた保険料率に近づける仕組みとなっています。
とはいえ、等級制度が本当にリスクに応じた料率を実現しているかといえば、少し考えればそうではないとわかります。運転者のリスクが毎年変わるということはなく、ただ、保険会社には運転者のリスクがよくわからないので、実際にリスクが顕在化した(=保険金を請求した)かどうかに基づいて料率を動かす仕組みとしています。ですから、事故を起こしやすい高リスク運転者によるものであっても、慎重なドライバーがたまたま巻き込まれてしまったものであっても、事故が発生し、保険金を請求すれば等級は同じように下がります。それでも等級制度が長年続いているのは、この仕組みが社会から相応の納得感を得られているためではないでしょうか。

納得感のある料率を実現できるか

以上のように、「一律掛金・一律保障」共済やノンフリート等級制度のように、保険の原理としてはリスクに応じた料率が望ましいとしても、納得感があると考えられているのであれば、必ずしもそうではない料率の仕組みであっても長続きしている事例があるとわかりました。
低リスク層の水災補償離れに歯止めがかかるかどうかは、低リスク層にとって納得感のある料率(あるいは仕組み)となるかどうかにかかっていると言えそうです。
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※写真は長府の功山寺。高杉晋作が挙兵したところだそうです。

 

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