03. 保険市場の動向

保険の面倒くささ

保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1272(2025.3.10)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
今週は諸般の事情により京都に滞在しています。北野天満宮の梅がきれいでした。
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ネット保険の普及に時間がかかっている

ネット経由の保険販売は徐々に拡大しているとはいえ、まだ広く普及しているとは言えません。自動車保険ではようやく1割程度のシェアに達したところですし、生命保険・医療保険のネット販売は全体の1割未満です。
加入時にネットで情報を得た人は多いのではないかと思いきや、生命保険文化センターの調査によると、生命保険・医療保険加入時の情報入手先(複数回答可)として「ホームページ」を挙げた人は、たったの6%でした。

自動車保険に関して言えば、「1割程度」というのは収入保険料で比べたものなので、仮にネット経由の単価が代理店経由よりも平均して3割安く、かつ、自動車保険市場の4分の1が企業向けだとすると、実質的にはすでに2割程度のシェアと見ることもできます。情報入手先の「6%」も、保険会社や保険比較のサイトにアクセスしなかっただけで、ネットで保険関連の情報に接した人はもっと多いかもしれません。
とはいえ、前向きに表現したとしても「普及に時間がかかっている」のは確かです。

保険の検討は面倒くさい

あくまで個人的な見解になりますが、価格が明らかに安いにもかかわらず代理店経由からダイレクトへのシフトが徐々にしか進んでいないのは、保険を検討する「面倒くささ」が影響しているのではないかと考えています。
例えば、顧客が最初に自動車保険に加入しようとするのは、自動車を購入するときです。しかし、顧客がディーラーで積極的に検討したいのは自動車そのものであって、自動車保険を詳細に検討したいという人は少ないでしょう。そこで多くの人はディーラーに勧められるまま保険に加入するのが一般的でした(今後はどうなるでしょうか?)。
1年後の満期更改は顧客にとって自動車保険を見直すチャンスです。ところが保険は投資商品などとはちがい、ニーズがネガティブなので、どうしても検討するのが面倒くさいと感じてしまいがちです。
さらに生命保険や医療保険では、加入の必要性を頭のどこかで認識していても、それを行動に移すのは面倒くさいことだと思います。

「面倒くささ」をどう克服するか

早稲田大学の星野明雄先生は著書『保険商品開発の理論』のなかで、保険の面倒くささには、「必要だと感じていても、今はやりたくない」という心理的なわずらわしさと、「契約に必要な情報が多く、内容や手続きが煩雑」という内容面のわずらわしさの2つが強く存在すると述べています(星野先生は前者を「保険の重荷感」とも表現しています)。
そして、顧客が面倒くささを乗り越えるには、プッシュ型の勧誘が有効という見方ができるかもしれないとしたうえで、他方で消費者ニーズにそぐわない勧誘販売を正当化してしまうおそれがあると述べています。

もっとも、今は「面倒くさいから販売員の言うなりに保険加入する」という人が多いとしても、もし、「販売員よりもネットのほうが信頼できる」「プッシュ型は顧客本位ではない」が社会的なコンセンサスになれば、どうなるでしょうか。しかも、内容面のわずらわしさに関しては、技術の進展がネット保険のほうにより追い風となるでしょう。リテラシーのちがいによって、「面倒くさいからネットが示した最低限の保険に加入する」という人と、「面倒くさいから保険に入らない」という人に2極化するかもしれません。
いずれにしても、保険は今後も対面販売が中心と、現在の延長線上で判断するのは早計ではないかと思います。
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ベトナムの生保市場

短期間でしたがベトナム(ホーチミン)を訪問する機会がありました。ベトナム訪問は2018年のハノイ以来、ホーチミンは15年ぶりでしたが、相変わらず若い人が多く、活気を感じました。

ベトナムの生命保険市場はまだまだ小さいものの、高い成長を続けているのだろうと勝手に思っていたところ、銀行による保険販売に関するトラブルが続いたこともあって、2023年に新契約が急減し、その後も回復に至っていないことがわかりました。そこで、備忘録を兼ねて、何が起きたのかを記しておきましょう。
ただし、保険市場調査のためのベトナム訪問ではないので、あくまで私の知り得た話ということで、情報源も非開示とさせてください。

ベトナムには1999年まで国営の保険会社(バオベト)しかありませんでした。現在はバオベト(現在も政府系)のほか、プルデンシャル(本社は香港)、第一生命(日本)、マニュライフ(カナダ)、AIA(香港)がトップ5(または香港のFWDを含むトップ6)がシェアを分け合っています。つまり、市場シェアの多くを外資系が押さえている状況です。
現在の主力商品は投資型保険(死亡保障が付いた資産運用商品)で、2010年代半ばから銀行を通じた販売によって高い成長を続けてきました。こちらでは保険会社が銀行と長期間の独占販売契約を結ぶのが一般的なようで、例えば第一生命ベトナムも2015年以降、こうした提携販売を進めています。

ところが、2022年末あたりから、マニュライフの提携銀行による販売で苦情が発生したのをきっかけに、他社の銀行窓販にも波及して、銀行窓販への信頼が大きく損なわれるという事態が生じたそうです。

・銀行の貯蓄性商品だと認識して購入したら、後から保険会社の商品だとわかった
・銀行から融資を受ける際、保険加入を強いられた

加えて、政府による規制が急に厳しくなったということも背景にあるようですが、そもそもベトナムの銀行窓販はかなり歪んだ市場になってしまっていたようです。

監督当局の調査によると、銀行チャネルで加入した契約者の1年後の継続率が20%程度だったとか。大半の加入者が初回の保険料しか支払っていないということで、銀行は「保険に加入するとローンが有利になる」として勧誘し、顧客もそのほうが有利だからとわかったうえで保険に加入する。その原資は保険会社が負担するという構図です。
銀行は保険会社から代理店手数料を受け取る(早期解約時の返還制度はなさそうです)ほか、独占販売契約を結ぶ際にも多額のフィーを受け取っています。だから、顧客に有利なローンを提供できるというわけです。

第一生命のIR資料では、第一生命ベトナムの減収について「業界全体の銀行窓販チャネルのモメンタム低下によって初年度保険料が減少」とあるのですが、こういうことだったのですね。
日本と同じ目線で見ているだけでは海外市場の経営リスクはわからないということを、改めて実感しました。

※ホーチミンのカフェビルです。

 

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自動車ディーラーの保険金不正請求

報道のとおり、トヨタ自動車直営のディーラーであるトヨタモビリティ東京と、中古車販売大手のグッドスピードに対し、金融庁(関東財務局・東海財務局)は24日に保険業法に基づく業務改善命令を出しました。
処分の理由をそれぞれ読んでみたのですが、まあひどいです。

トヨタモビリティ東京は、2020年2月に保険金の過大請求等が多数判明したと公表し、さらに2021年9月には不正車検で国土交通省から行政処分を受けました。しかし、立入検査を実施したところ、保険金不正請求の社内調査が部分的・限定的で不十分だったうえ、他にも不正請求疑義事案が多数あることが判明したそうです。
「当社経営陣は、保険事業に関しては、『本業ではない』との意識が根底にあり、同事業に保険業法等に精通した十分な人的リソ-ス(質・量)を配賦していないほか、人材育成も行っていない」という指摘まで書いてあります。

他方、グッドスピードも、不適切な保険金請求疑義事案が発生しているとの報道を受けて社内調査を実施し、さらに、取引銀行の意向を踏まえた2回目の社内調査を行ったにもかかわらず、立入検査を実施したところ、十分な調査を行っていない可能性があるうえ、調査委員長が結果内容を改ざんするなど極めて不適切な行為が認められたとのことです。
こちらにも「経営陣は、保険募集に関する業務を全て担当役員任せとし、同役員からリソースの問題を含む保険募集管理態勢の状況を報告させておらず、実態を把握することを怠っており(後略)」という指摘があります。

自動車販売業界は、もはや旧ビッグモーターは特殊な事例だと言えなくなったのではないでしょうか。

なお、自動車ディーラーの収益構造に関する資料を探したのですが、業界団体としては一般に公表していないようです。
以下が役に立つかもしれません。

三井住友銀行「国内自動車ディーラーを取り巻く業界動向(PDF)」(2019年9月)
日産東京販売ホールディングスの決算説明資料(例えば2024年3月期決算説明資料(PDF)

いずれの資料からも、自動車ディーラーでは自動車販売の利益率は低く、整備や保険・金融商品の手数料が経営を支えていることがうかがえます。

同僚の先生の論文もご紹介しましょう。ディーラーの営業スタッフにインタビュー調査を行い、スタッフの専門性を探ったものです。この会社での「付加価値」とは顧客への付加価値ではなく、会社の利益につながるかどうかなのですね。
大卒ホワイトカラーのキャリア形成に関する研究(PDF)

※写真は福岡タワーです。

 

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火災保険のモニタリング高度化

12月24日に金融審議会「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」報告書が公表されました。
すでに12月10日のブログ「損保WG報告書案が判明」で触れているので、それとは別の観点から2つコメントします。

1つは保険業法だけではなく、「改正金サ法」(2023年に改正された「金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律」)や「顧客本位の業務運営に関する原則」に関する記述が盛り込まれていることです。
金融審の市場WGでは主に家計における資産形成を念頭に議論が進められ、実際、WGのオブザーバーに損害保険関係の業界団体は入っていませんでした。しかし、今回の報告書を読むと、「保険募集人全般においてもその(=顧客本位の業務運営の)定着が望まれるところであるが(後略)」「改正金サ法により、保険募集人を含む全ての金融サービス提供事業者に対し、顧客等の最善の利益を勘案して誠実かつ公正に業務を遂行する義務が明記されたことも踏まえ(後略)」と、損害保険代理店でも顧客本位原則の採択が当然視されています。

もう1つは、火災保険の赤字構造の改善等のところで、リスクに応じた適切な保険料の設定等が確保されるための態勢をモニタリングしていくとあるのですが、報告書ではそもそも「あるべき姿」としてどのような態勢を念頭に置いているのか気になりました。
21ページの注記には、モニタリング高度化の具体例としていくつか書いてありますが、かなり漠然とした内容です。第1線の営業部門・業務部門による引受規律を期待しているのか、あるいは第2線のリスク管理部門の機能に期待しているのかなども気になりますし、リスクベース・プライシングなのに「資本コスト」「再保険」といった記述が出てこないのも不思議です。
さらに言えば、仮に態勢ができていたとしても、実行されているかどうかを外部からモニタリングするには、かなりの専門性が必要となるように思います。

※今年は飛行機によく乗りました。

 

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今年の卒論から

11月下旬から12月中旬にかけて学生の論文や報告資料の確認に追われる日々が続き、ようやく一段落しました
(福岡大学商学部の卒業論文は12月中旬が提出期限なのです)。

今年の卒論で興味深かったものを2つ紹介しましょう。

1つは保険会社によるBCP策定支援サービスに関するものです。火災保険の赤字が続くなかで、保険会社はリスク移転の手段として保険を提供するだけではなく、リスクそのものを軽減するサービスの提供に力を入れていると言っているので、実際に自然災害の影響を受けた九州のある地域の中小企業数社を調べてみたところ、BCP策定支援サービスはほとんど普及していなかったというものです。
火災保険の収支改善には料率引き上げだけではなく、リスク軽減策との組み合わせが有効なはずですが、何らかの理由によって、現場ではそれほど進んでいないのかもしれません(=最後は私の感想です)。

もう1つは大学経営に関するものです。私立大学の支出の大半は人件費と教育研究経費なので、収支改善のために支出を減らすと「教育の質」が落ちると考えたのですね。そこで現役の学生(3年生または4年生)が大学の教育に何を期待しているかを調べたところ、そもそも学習意欲の高い学生はあまり多くはなく、入学当初から、あるいは入学後しばらくしてから講義内容よりも単位取得の容易さを優先していることがわかったというものです。つまり、多くの学生は「教育の質」を求めていないということになります。
入学の時点で学ぶ意欲がなければ、それを現場の教員が変えるのは簡単ではありません。ただし、入学後しばらくして学習意欲が下がってしまう学生が多いのであれば、こちらは工夫のしようがありそうです(=最後は私の感想です)。

※写真は博多駅のイルミネーションです。

 

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損保WG報告書案が判明

少し遅くなりましたが、保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1260(2024.12.09)に寄稿した記事を当ブログでもご紹介いたします。
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日経新聞にコメント掲載

報告書案の概要は金融庁のサイト、あるいは本誌をはじめ報道等でご覧いただくとして、ここでは6日付の日本経済新聞に載った自分のコメントについて解説したいと思います。
紙の新聞に載ったコメントは次のとおりです。

(企業向け保険の問題について)福岡大学の植村信保教授は「企業の意識が変わらなければ取引慣行も変わらない」と指摘する。

電子版のほう(会員限定)にはもう1つコメントが載っています。

(損保会社に加え、大規模代理店への監督を強める方針について)植村氏は「金融当局のリソース不足も大きな壁になっている」と話す。

取引慣行を変えるチャンス

ご想像のとおり、取材の際にこの2つしか話さなかったということではありません。紙面の制約もありますし、むしろボツにならなくてよかったと前向きにとらえています。大学の宣伝になるかもしれませんので(笑)
そのうえで、記者さんにお伝えした内容を簡単にご紹介します。

そもそものご質問は、当然ながら「今回の制度改革が損害保険市場や業界を変えることにつながるか」でした。そこで、全体としては前向きにとらえていることを伝えました。保険金不正請求事案にしても保険料調整行為事案にしても、もちろん起きてはならないことです。ただ、両事案が明らかになったことで、かつての規制時代に形成され、その後も温存してきてしまった「いびつな取引慣行」から損保業界が脱却する絶好のチャンスとなっていることは間違いありません。
それぞれの施策がどの程度の実効性を持つかどうかは今後の制度設計によるところが大きいので、あまりコメントしませんでしたが、大規模乗合代理店への規制・監督の強化や保険契約者等への過度な便宜供与の禁止など、改革の方向性は理解できるところです。

改革案に盛り込まれていないこと

そのうえで、今回の制度改革案には必ずしも盛り込まれていないように見える3つの点をお話ししました。
1つめは、企業のリスクマネジメント意識を変えることにつながるような対策がほしいという点です。リスクマネジメントの一環として保険購入があるという当たり前のことを企業経営に理解してもらうには、どうしたらいいのでしょうか。
2つめは、「金融当局のリソース不足も大きな壁になっている」というコメントのとおりです。
3つめは、火災保険の赤字構造の改善について、もう少し踏み込んだ議論をしてほしかったという点です。グループとして、リスク管理の進化形と言われるERM経営を標榜していた損保会社が、現実にはリスクに応じた適切な保険料を顧客に提示できなかったのはどうしてなのでしょうか。これに対し、金融庁による「態勢整備状況のモニタリングを高度化していく必要がある」とありますが、これまでのモニタリングをどう変えていくのか、外部からは全くわかりません。
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※今年のRIS2024も大盛況でした。

 

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企業内代理店への対応

15日に開催された金融審議会「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」(第4回)では企業内代理店のあり方について議論が行われ、資料として金融庁による企業内代理店の実態調査の結果(の一部?)が示されました。調査対象は損保大手4社の委託先のうち、収入保険料で上位300社とのことです。

・名寄せベースの代理店数:736社
・うち企業内代理店:256社
・うち旧基準適用対象:173社
・規制見直しの対象(広義):73社

特定契約比率規制を見直した場合、規模の大きい企業内代理店のうち、少なくない数の代理店が影響を受けるという結果が示されました。
金融庁はこうした数量的な把握だけではなく、取引実態を把握するため、企業内代理店やその親会社の担当者等に対してヒアリングを行ったそうです。

これらを踏まえて出てきた金融庁の考え方が、「一定の実務能力を有し、企業にとってなくてはならない保険リスクマネジメント分野に貢献している代理店もある」「企業内代理店の多様な実態を鑑みれば、当該規制を一律に適用するのは適当とは言えない」「代理店としての『自立』の確保および『保険料の割引の防止』に問題がない企業内代理店は規制の適用除外とする」だそうです。

所用につきワーキンググループでの議論を傍聴できていないのですが、納得できる考え方ではありません。
代理店としての自立というのは、保険募集を行う組織として適切かどうかという話であって、どうしてこれが特定契約比率を適用するかどうかの判断基準となるのか理解できません。自立していない代理店は企業内代理店であってもなくても、そもそも廃業させるべきでしょう。
「保険料の実質的な割引の防止」というのも同じです。保険会社から見て、代理店として対価を払うべき仕事をしているかどうかという話が、どうして規制適用の判断基準になるのでしょうか。

そもそも企業のリスクマネジメントは本来、企業自身のコストで行うものですし、リスクへの対応手段は保険だけはありません。いくら企業内代理店がその企業の(保険)リスクマネジメントに貢献しているとしても、そのことを踏まえて規制の適用除外を認めるのであれば、企業のリスクマネジメントにかかるコストを保険会社が代理店手数料という形で負担することになり、理屈に合いません。

むしろ、こうした適用除外を設けてしまうと、他の保険代理店やブローカーとの競争が妨げられてしまい、ゆがんだ市場が続いてしまうのではないかと危惧しますが、いかがでしょうか。

※先週末も東京で登壇してきました。

 

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死亡保障ギャップ

10月26日から27日にかけて、中央大学・多摩キャンパスで開催された日本保険学会の全国大会に参加しました。
そのなかで、今回私の頭に残ったのが「日本の死亡保障ギャップ」です。土曜日午後のシンポジウム「ポストコロナ時代における保険業の深化」で、ニッセイ基礎研究所の有村寛さんが報告のなかで日本の死亡保障不足について紹介し、翌日の自由論題では八戸学院大学の崔桓碩先生がズバリ「生命保険における死亡プロテクションギャップの推移と要因分析」を報告していました。
お二人とも「日本の死亡保障ギャップはアジアの先進国(日本、香港、シンガポール、オーストラリア、韓国)のなかで最も大きい(=不足している)」というスイス再保険の調査を引用していました。プロテクションギャップというと、自然災害リスクへの備えが不足しているという意識はあったものの、死亡保障については正直あまり考えていませんでした。

世帯の必要保障額についてどう考え、かつ、生命保険以外の備えとして何をどこまでカウントするかによって、死亡保障ギャップの結果は変わってきます。スイス再保険の調査内容を詳細に検討したわけではないので、この国際比較をそのまま受け入れていいかどうかはわかりません。
とはいえ、有村さんがこちらのレポートで示しているように、世帯主が加入している死亡保険金額の平均が大きく減ったのは確かです。
(97年:2732万円 ⇒ 21年:1396万円)

崔先生は報告のなかで、死亡保障ギャップの要因として、世帯所得の低迷、消費者の関心の変化、リスク認知の低さ、利用可能性(の低さ)などを挙げていました。私の直感では「保険会社が死亡保障を積極的に提供していない」「死亡保障が必要な層に十分アクセスできていない」といったことも大きいように思います(感覚的なコメントですみません)。

※写真は横浜・大倉山商店街です。週末にパレードがあるとか。

 

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デジタル化と保険業界

日本FP協会の会報『FPジャーナル』2024年10月号の特集「保険業界の最新動向と今後の行方」にコメントがたくさん載ったので、デジタル化に関するコメントの一部をご紹介します。
不祥事絡みではない取材協力は、もしかしたら久しぶりかもしれません(苦笑)

「デジタル化の進展によりデータを活用することで病気や事故の予防が可能になり、健康増進型の生命保険やテレマティクス型の損害保険が登場しています。将来的には、保険会社のビジネスモデルが大きく変わる可能性もあります」

「健康増進にお金をかける人が増える一方で、保険のニーズは減る可能性があります。デジタル化の進展は、保険商品だけでなく、将来的には生命保険会社のビジネスモデルを変えることも考えられます」

「しかし、デジタライゼーションと言えるようなものはまだ見られません」「日本の保険会社のデジタル化は、まだビジネスモデルを変革する段階までは進化していません。あくまで現在のビジネスモデルを前提に、そこに新しい技術を取り入れ、活用することを考えている段階です」

掲載誌をみると、著名FPの清水香さんが「損害保険はDXの取り組みが進み、利便性が向上しています」と述べています。スマホやアプリ、SNSを使うようになって、かつてよりも格段に便利になったのは確かですね。写真を撮って、そのまま送れるのはありがたいです。

なお、主な読者がFP(ファイナンシャルプランナー)資格を持つ方々(個人会員数は20万人超!)なので、デジタル化に関するコメントだけではなく、変額保険の販売が伸びているとか、加入チャネルに関する話なども載っています。
機会がありましたらご覧ください。

※今日はバス通勤でした。

 

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損保不祥事と株価

企業の不祥事が発覚すると必ず株価が下がるかというと、そうとは限りません。不祥事発覚による会社価値の毀損はもちろん株価下落要因ですが、他方で不祥事をきっかけに経営改革が進み、将来の会社価値拡大が期待できると市場が受け止めることもあるのでしょう。

この週末に大手損保グループの株価推移を改めて確認したところ、今年に入ってからの株価は3グループともに市場平均をはるかに上回って上昇しています。
例えば約1年半前の2023年3月末と週末(9月19日)の時価総額を比べてみましょう。

東京海上:5.0 ⇒ 10.4兆円
MS&AD :2.2 ⇒ 5.3兆円
SOMPO :1.7 ⇒ 3.2兆円

いずれも2倍前後の増加です。この間の東証プライム市場の時価総額は 713 ⇒ 924兆円なので、損保株の好調さが際立っています。

旧ビックモーター事件は直接的には損保ジャパンの問題とはいえ、ディーラーなど大型の乗合かつ兼業代理店との不適切な取引慣行は個社問題ではなく、業界全体の問題と受け止められています。保険料調整問題も個社問題ではありません。
このため、不祥事の発覚によって顧客離れが進み、会社価値が下がるという受け止めにはならなかったのでしょう。損害保険は必需品であり、かつ、3グループによる寡占市場なので、取引を続けざるをえないということもあるかもしれません。

損保株の上昇が目立つようになったのは2月からなので、株式市場は不祥事発覚後に各社が打ち出した「政策保有株式をゼロにする」という方針を好感していると考えられます。
市場が何を好感しているのか、本当のところはよくわかりません。ただ、理論的には多額の売却益が実現し、配当還元が期待できるからではなく、株式売却によって不要になった資本を有効活用できる(自社株買いを含む)からです。このあたりは6月10日のブログで書いたとおりでして、株式の売却は株式と現金を交換するだけなので、それだけでは会社価値を高めません。

問題は、今後5年程度の間に株式市場が期待するような新たな投資案件が見つかるのかということでしょう。
余剰資本があるのなら何でも積極的に投資すればいいかというと、そうではありません。株主は、投資先の経営陣には会社価値を高めてくれる何らかの強みがあると考えているからこそ投資しているのであって、強みを発揮できる機会がなければ投資している意味がありません。もし見つかりそうになければ、そのままだと会社価値を毀損してしまうので、余剰資本を株主に返す必要があります。
株主が期待するような経営行動ができるかどうか、不祥事対応の進展とともに注視する必要がありそうです。

※福岡もこのところ不安定な天気が続いています。

 

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