日本損害保険協会が3月10日に「企業向け火災保険の大規模事故が年々増加(自然災害以外)」として、保険金支払額が5億円以上の大規模事故に関するデータを公表しています。
ただし、公表したデータは大規模事故件数の実数ではなく、2015年度を1とした過去5年の比率値だけ(2020年度は2.94)です。
損保協会は事故が増えた背景として、「設備の老朽化が進む一方で、熟練工の大量退職や人手不足により、技術の伝承や暗黙知の共有が困難となっていることも一因」と説明しています。でも、公表された数字は「5年で約3倍」です。大規模事故がそんなに増えていたら、もっと社会問題になっているようにも思うのですが…
引き受けを増やしてきた
そもそも保険金支払額が5億円以上となるような高額契約は多いのでしょうか。
調べてみると、件数ベースでは小さくても、保険金額ベースでは大きいことがわかりました。損害保険料率算出機構によると、一般物件のうち5億円超の新契約は件数ベースで1.3%にすぎませんが、保険金額ベースでは66.0%となります。工場物件では件数ベースで12.6%、保険金額ベースで96.0%です(いずれの2020年度)。
保険金額ベースでは、一般物件と工場物件の高額契約が火災保険全体の6割を占めていますので、高額契約が保険会社の損害率に与える影響は大きいと言えます。
他方で、保険金支払額が5億円以上となるような高額契約が、2015年度に比べるとかなり増えていたこともわかりました。2020年度の高額契約の新契約(保険金額ベース)は、一般物件が2015年度対比で1.44倍、工場物件が同1.63倍です。高額保険金の支払いが増えたのは、保険業界が高額契約の引き受けを増やしたことも一因でした。保険業界の取り組みのほか、企業のリスクマネジメント意識の高まりもあるのかもしれません。
なお、高額契約の引き受けのピークは2019年度で、2020年度は引き受けを抑えた模様です。
発射台が低かった
もう一つ指摘すべき点があります。今回のデータの起点となっている2015年度は、この10年間で火災保険の発生保険金が少なかった年度のようなのですね。
例えば、東京海上日動とあいおいニッセイ同和が公表している火災保険(自然災害を除く)のEI損害率は、2015年度が最も低い数値でした(三井住友海上は2016年度がボトム)。自動車事故に比べると、火災保険の大規模事故の発生は振れが大きいでしょうから、低いところを発射台にすれば、当然ながら足元の比率値は大きく見えてしまいます。
今回のデータも2016年度を起点にすると1.73となり、「5年で約3倍」に比べると、ややマイルドになります。
こうした要因を考慮しても、おそらく高額契約の損害率は上昇傾向にあり、さらなる料率引き上げが必要なのでしょう。とはいえ、もう少し情報を出してくれないと、損保業界は(その意図がないとしても)都合のいい数字だけをピックアップして、保険ニーズの喚起を行っていると思われてしまいます。
※大濠公園の夕日(スタバのそば)です。