03. 保険市場の動向

外貨建て保険の販売動向

11/25のブログで「外貨建て保険に注目するのであれば、いくら売れたのかという各社の数字を掲載してほしい」と書きました。その後、多少の情報を見つけたのでご紹介します。

銀行窓販は外貨建てが圧倒

まず、12日の日経「外貨建て保険 利回り見える化(有料会員限定)」に掲載されたように、銀行など金融機関チャネルでの一時払い保険の販売は、直近では約9割が外貨建てとなっている模様です。
銀行窓販でトップクラスの市場シェアを持つ第一フロンティア生命のデータからも、外貨建て保険へのシフトがうかがえます。
第一生命HDのIR資料(PDF)

2016年のマイナス金利政策で金利水準が一段と下がった結果、円建ての一時払い商品が消滅してしまい、代わりに外貨建て保険が台頭したかたちです。

一時払以外の保険でも

一時払い以外でも、いくつかの会社が外貨建て保険の販売に関する情報を出しているのを見つけました。

ソニー生命は親会社のIR資料のなかで、商品別の新契約年換算保険料を継続的に載せています。
直近の資料(PDF)によると、2018年度上半期では、外貨(米ドル)建てが全体の約2割、一時払いを除けば14%となっています。

英語になりますが、外資系3社の販売動向もありました。
グラフを見たところ、2017年の新契約年換算保険料のうち、プルデンシャル生命では約4割、ジブラルタ生命でも3、4割が外貨(米ドル)建て保険だった模様です。
Prudential FinancialのIR資料(PDF)

メットライフ生命では、2018年上半期の新契約年換算保険料の77%が外貨建て(2017年は同68%)で、割合としては一時払いが多いとはいえ、平準払いの外貨建て保険だけでも全体の26%を占めています。なお、年換算保険料の定義が日本のものと異なるので、ご注意ください。
MetLifeのIR資料(PDF)

外貨建て保険というと一時払いというイメージがありましたが、会社によっては様子が異なるようですね。

 

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グローバル戦略の違い

東京海上がグループ傘下の再保険会社をバミューダの再保険会社ルネサンス・リーに売却し、今後は元受保険事業を主体に事業展開していくという発表がありました。
公表資料(PDF)

再保険市場の構造変化

東京海上HDのニュースリリースによると、世界の再保険市場は、「料率競争の激化や再保険会社以外の資本の継続的流入によりソフトマーケットが常態化し収益性が悪化傾向にあります」とのことです。
確かに再保険市場では一時的なものではない、構造変化が生じているように見えます。

2000年代ころまでの再保険市場では、再保険カバーの供給が絞られ、料率が上がり、再保険会社の収益が改善するハードマーケットと、再保険カバーの供給が過剰となり、料率が下がり、再保険会社の収益が悪化するソフトマーケットが数年ごとのサイクルで交代していました。

ところが今は、多額の保険金支払いが生じても、マーケットがなかなかハード化しないという状況です。例えば、2017年は米国のハリケーンなどにより過去最大級の支払額となったにもかかわらず、その後もマーケット全体としてはハード化したとは言えないようです。
背景には、ERMの進展で再保険会社が資本を毀損しにくくなったことのほか、キャットボンドをはじめ、保険リンクの商品に金融市場から資金が流入していることがあると考えられます。

グローバル戦略の違いに注目

このような構造変化のもとで、2018年に入り、フランスのアクサが元受損保と再保険事業を柱とするXLグループを買収(買収価格は発表時点で約1.6兆円)するとか、米AIGがバリダスを買収するといった、元受を主体とした保険グループが再保険事業を買収により取り込む動きも見られます。考えてみれば、日本のMS&AD(アムリン)もSOMPO(旧エンデュランス)も再保険事業を柱の一つとしています。
東京海上はこうした動きとは異なる戦略をとるということで、興味深いです。

※写真は奈良県の今井町(橿原市)です。いい意味で生活感のある町並みでした。

 

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生命保険に関する全国実態調査

「生命保険の世帯加入率は約9割」の元データとして知られる生命保険に関する全国実態調査の直近版が9月半ばに公表されました。
3年ごとの調査結果から何が見えるでしょうか。

「万一の保障」から「葬式代」へ

まず、死亡保険金額の減少に歯止めがかかっていないことが挙げられます。
民間保険会社の平均保険金額(世帯合計)は2079万円で、調査のたびに小さくなっています。1997年には4000万円を超えていたので、20年間で半減したことになります。
世帯主の平均保険金額も1368万円と、やはり20年前(2791万円)から半減しています(ここでの「世帯」は構成員2人以上の世帯です)。

直近加入契約の加入目的(複数回答可)をみても、「万一のときの家族の生活保障のため」という回答は、1997年の56.0%から直近では49.5%まで下がりました。代わりに毎回増えているのが「万一のときの葬式代のため」という回答です
(1997年:7.7% ⇒ 2018年:15.4%)。
保障中核層からシニア層へのシフトがうかがえます。

医療保険分野は頭打ちか

それでは医療保険や医療特約の世帯加入率が高まっているかといえば、むしろ低下ぎみです。直近加入契約の加入目的をみても、「医療費や入院費のため」という回答は伸びていません。
世帯主が2~3か月入院した場合の差額ベッド料や交通費など、健康保険では賄えない費用に対する経済的備えについて聞くと、「不安」という回答が毎回減っています。他の調査からも医療保障に対するニーズがそれほど強いようには見えません
(ちなみに生活障害・就業不能保障保険へのニーズは強いようです)。

根強い貯蓄ニーズ

ところが、直近調査では生命保険の世帯加入件数は増えていますし、年間払込保険料も10年前とあまり変わっていません。
直近加入契約の加入目的で「老後の生活資金のため」「貯蓄のため」という回答が、いずれも回復していたり、保険料払込方法で「一時払い」という回答率が高まったりしていることから、この10年にかぎれば、貯蓄目的の保険加入が増えたことが一因と考えられます。

世帯主の年齢が65歳以上という世帯が4割を超える状況ですから、万一の保障よりも貯蓄というのは理解できます。
長引く超低金利のなかで、保険会社には悩ましい状況ですね。

※この週末は地域のお祭りです。

 

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貯蓄性保険の販売

金融庁がレポートを公表

金融庁が26日に公表した変革期における金融サービスの向上にむけて~金融行政のこれまでの実績と今後の方針を読むと、金融庁が顧客本位の業務運営という観点から貯蓄性保険の現状に引き続き強い関心を持っていることがうかがえました
(今回のテーマとは別の話ですが、経済価値ベースのソルベンシー規制について、「国際資本基準(ICS)に遅れないタイミングでの導入を念頭に」なんて記述もありますね)。

今回の「これまでの実績と今後の方針」は、従来の「金融レポート」と「金融行政方針」を一体化したものなので、昨事務年度に金融庁が取り組んだ内容の記載があったうえで、今事務年度の方針が示されていて、わかりやすいです。

顧客本位は道半ばという評価

貯蓄性保険に関しては、まず前半の「2.家計の安定的な資産形成の推進」のなかで、主要な金融機関における投資信託や貯蓄性商品の販売状況についてモニタリングを行ったところ、顧客本位の取り組みは道半ばであるとしています。
例えば、運用環境に左右されにくい一時払保険において四半期末ごとに販売額が増加しており、営業現場では収益目標を意識したプッシュ型営業が行われているのではないかという指摘をしています(34ページ)。

さらに、後段の保険行政に関する記述でも、定額個人年金(円建・外貨建)や変額個人年金の商品特性やリスクを示したうえで、モニタリングの結果、商品内容の情報提供がわかりやすく行われていないことを確認したとしています(99~102ページ)。
今事務年度に金融庁は、商品内容等のさらなる「見える化」を促進していくとともに、貯蓄性保険(特に外貨建保険)の販売時における顧客への適切な情報提供に関するベストプラクティスの追求に向け、各社と対話を行うそうです。

営業職員チャネルでも強いニーズ

貯蓄性保険というと金融機関代理店の話というイメージがありますが、先日発売された東洋経済の生保・損保特集によると、営業職員チャネルでも外貨建ての貯蓄性保険が積極的に提供されていることがうかがえる記事がいくつかありました。

例えば、保険ジャーナリスト森田直子さんによる恒例の営業職員・覆面座談会から引用させていただくと、

「外貨建て保険の一時払い商品が売れています。1年前に発売された当時はそれほどでもなかったのですが、今年度になって急激に売れています」
「うちでも売れています。一時払い保険を外貨建てにシフトするお客様が多いです」
「外貨建て、本当にばか売れですよね」

といったやり取りが出ていて、現場の雰囲気が伝わってきます。

コアとする顧客基盤の年齢層を考えると、おそらく保障性商品よりも売りやすいのではないかと思いますが、顧客に商品特性やリスクをきちんと説明できているかという観点のほか、保障性商品を提供する力が落ちてしまわないか、なんてことを考えてしまいます。

※写真はベルンの町並み。世界遺産です。

 

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自己規律の活用

保険業界向けメールマガジン「inswatch」の直近号(Vol.941 2018.08.13)に寄稿しましたのでご紹介します。購読のお申し込みはこちらまで。

保険加入で健康増進

契約時に健康診断の結果を提出すると保険料が安くなったり、がん検診の受診や運動習慣などの健康増進活動で獲得したポイントが翌年の保険料に反映されたりする「健康増進型保険」が登場しています。
生命保険の販売では潜在的な加入者ニーズを掘り起こす必要があり、万一のリスクを強調する「脅し」のようなセールスも多いように思います。これが健康増進型の保険だと、「保険加入をきっかけに、健康になって長生きしましょう」という前向きな提案ができそうです。

健診も運動習慣も改善の余地は大きいが・・・

厚生労働省の国民生活基礎調査(直近は2016年)によると、20歳以上の男女のうち、3人に1人が健康診断を受けていないことがわかりました。特に女性の受診率は低く、30代女性の受診率は56%です。
運動習慣についても確認すると、厚生労働省の国民健康・栄養調査(同)では、運動習慣のある人(1回30分以上の運動を週2回以上、1年以上続けていると回答した人)は20歳以上男女のうち30%強にすぎません。しかも、この10年間でみると、男性(2016年の「運動習慣あり」が35%)は概ね横ばい、女性(同27%)はなんと低下傾向です。

このような現状を踏まえると、健診を受けたり運動習慣をつけたりするには何かのきっかけがほしいところなので、保険加入を通じて保険会社が健康増進活動を促すことには社会的意義があると言えそうです。
ただし、いくら社会的意義があるとはいえ、「健康増進は自らの話であって、それを保険会社に強制されるなんて」と抵抗を感じる人もそれなりに存在するのではないかと思います。

規制でも自己規律を活用

実は、こうした商品を提供する保険会社に対しても、似たような話があります。
ここ数年、保険会社の中期経営計画などで「ERM」という言葉を目にする機会があると思います。ERMはリスク管理の進化形で、例えば東京海上では「リスクベース経営(ERM)」、MS&ADでは「ERM経営」、SOMPOでは「戦略的リスク経営(ERM)」という用語を使っていますが、ディフェンス重視のリスク管理ではなく、企業価値の持続的な拡大を目指す枠組みという点で共通しています。

この、各社によるERMの取り組みに保険行政が着目し、健全性規制の一環として活用する動きがあります。「ORSA(リスクとソルベンシーの自己評価)」という規制がそれで、保険会社が自らのERMの現状を毎年レポートにまとめて金融庁に提出し、レポートを受け取った金融庁は対話を通じて各社のERMの高度化を促すというものです。

企業価値の拡大を目指す経営の取り組みに、どうして監督当局が口をはさむのかという声があるかもしれません。しかし、金融庁にかぎらず、監督当局はソルベンシー・マージン比率のような資本要件だけで保険会社の健全性を確保することはできないという考えが国際的な潮流となっていて、各国の当局がこうした自己規律を活用した規制を導入しています。

メリットとともに副作用にも留意

リスクマネジメントにおいて、保険はリスクが顕在化した際の備えとして機能しています。これに対し、リスクそのものを小さくしようというのがロスプリベンションで、先ほどの事例では保険会社による健康増進活動のサポートだったり、金融庁によるERM高度化の促進だったりします。
こうした予防活動がリスクマネジメントにとって重要なのは確かですが、本来は自律的に行うべきことを第三者が促すとなると、いわば「自己規律の強制」がもたらす副作用の可能性にも目を配る必要がありそうです。

ご参考ですが、9月3日(月)の夕方に損保総研の特別講座「知っておきたい保険関連の健全性規制の背景と方向性」で講師を務めます。先に述べたような自己規律を活用した健全性規制の話もしますので、ご関心のあるかたはぜひご参加ください。
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あくまで自分の健康増進や企業価値の維持・拡大が重要なのであって、保険料割引や特典獲得、監督当局からの高評価が目的となってしまっては本末転倒ということかと思います。

※暑い日はカレー料理がいいですね。

 

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テレビ「保険の賢い見直し術!」

8月7日の夜、BS11(イレブン)の「報道ライブ インサイドOUT」という番組に、FPの内藤眞弓さんとともに生出演してきました
(21日までこちらで視聴できます)。

今回お声掛けいただくまで知らなかったのですが、この番組は「キャスターがゲストに話を聞く」に徹した番組でした。ニュースや天気予報といった保険以外の時間はほとんどなく、VTRも入らず(CMは何回かありました)、ひたすらキャスターの問いかけにゲストが応じるというものでした。
ついでに言うと、進行表があるとはいえ、覚悟していたとおりキャスターからアドリブの質問もバンバン来ました^^

そもそもテーマが「保険の賢い見直し術」なので、こちらを専門分野としている内藤さんとは違い、私の立ち位置は微妙ですよね。
しかも、「保険業界にとって低金利の影響は?」という最初の質問で、いきなりつまづきました。私が生保経営の大変さについて「二つあります!」といって説明しようとしたところ、一つを説明しただけでキャスターが次に進めてしまうというハプニング。まあ、誰も気にしていないとは思いますが…

とはいえ、岩田キャスターは長年テレビ報道の世界でやってきたかたですし、世間の空気を知るうえでも、このような番組出演は参考になります。
視聴者は「低金利で保険料が上がった」「長寿化で保険料が下がった」「健康増進型保険とか認知症保険とか、最近は新しい保険が出ているらしい」といった情報を、意外なほど知っている(聞いたことがある)のですね。でも、あくまで断片的でバラバラな情報にすぎず、全体として何が起きているかという視点はないし、それが自分とどうつながっているかも、なかなか想像してもらえないようです。
ですから「健康増進型保険や認知症保険に入れば、老後は大丈夫なのか?」という質問があって、思わずゲスト2人とも固まってしまいましたが、視聴者目線に立つと、これはいい質問だったのだと思います。

番組では損害保険にも話題が及びました。西日本豪雨(7月豪雨)による損害保険会社への影響を聞かれ、「おそらくワースト5に入るくらいの支払額になるのでは」「でも、この規模の保険金支払いであれば経営が揺らぐなんてことはない」と言い切ってしまいました。
3メガ損保が10日に発表した7月豪雨による支払見込額の合計は約1500億円とのことで、かなり大きな金額になるようです。火災保険の支払いが多いのは当然として、自動車保険の支払いが多いのが今回の特徴かもしれません。

※BS11オンデマンドの写真も張り付けておきましょう。

 

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人口増加の恩恵がなくなる

7/17付の保険毎日新聞に、先日開催されたRINGの会オープンセミナーの全面記事が掲載され、私がコーディネーターを務めた第1部パネルディスカッション「自由化後20年 保険ビジネスはどこに向かうのか」の詳細な紹介もありました。
コーディネーターではありましたが、パネルの最初のほうで話をしたので、記事には次のようなコメントが載っています。

<以下引用です>
植村氏は、日本におけるこれまでの20年と今後の人口の変化について説明し、「少子高齢化は進行しつつあるが、会社を引退しても社会生活を送ることから、保険の顧客が増えてきたことが、代理店がこれまで生き残ってきた最も大きな背景にあるのではないか。今後は確実に総人口数が減少することから、こうした状況を理解したほうがいい」と訴えた。
<引用おわり>

読んでもいまひとつピンとこないと思いますので、グラフを見ながら解説しましょう。
下のグラフは高齢社会白書(平成29年版)の「図表1-1-6 高齢世代人口の比率」で、よく見るグラフとは反対に、高齢層から順番に積み上げてあります。

過去20年間の動きをみると、15~64歳のいわゆる生産年齢人口は減っていますが、65歳以上の人口が増えたので、保険加入の対象となる人口は微増から横ばいといったところでしょうか。
さすがに80歳以上になると自動車にもあまり乗らなくなり、保険加入の対象というには厳しいかもしれませんが、65歳で仕事を引退しても普通は家に引きこもるのではなく、自動車にも乗り続けるでしょうから、保険加入の対象であり続けます。つまり、過去20年間は、少なくとも人口面にかぎればマイナス成長ではなかったということです。

しかし、これからの20年は違います。生産年齢人口が本格的に減っていくので、高齢者が増えても追いつきません。
「自由化で大変と言われていても何とかやってこれたので、これからも大丈夫だろう」という考えは、特に都市部の場合、人口増加に支えられていた面もあるので、さすがに甘いのではないか、会場ではそのようなことを申し上げました。

それにしても、出生率の低下は世界的な現象とはいえ、ここまで人口減が見込まれる先進国は日本だけ。政治の役割は大きいはずなのですが、ため息が出てしまいます。

 

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金利リスク対応の違い



前回のブログ
ではソウルの写真だけでしたが、ソウルで開かれた韓国金融学会で、日本金融学会からの派遣者として報告をしてきました。

韓国での発表なので、世界的な超低金利のなかで、日本、台湾、ドイツ、そして韓国の大手生命保険会社の経営行動を探るというケーススタディにしました。
発表内容はどこかでお伝えする機会があると思いますが、なぜこの4か国かというと、いずれも生保市場の規模が大きいうえ、長期にわたり利率を保証する商品が生保市場の中心だったため、保険会社が資産と負債のミスマッチを抱えやすいという点で共通しているためです。

日本の大手生保が提供する主力商品は、かつてに比べると終身部分が非常に小さく、総じて期間10年程度の保障性商品の組み合わせとなっています。ただし、過去に獲得した契約による影響が依然として大きいので、金利リスクを抱えた状態が続いているのですね。
他方、今の金利上昇が長続きしないとなると、他の3か国はより深刻な状況に見えます。ドイツでは会計上も追加責任準備金の負担が年々膨らみますし、台湾では外資系生保の撤退や中小生保の経営破綻が相次いでいます。韓国は2000年代以降、利率変動型商品にシフトしてきたのですが、これらには最低保証があり、過去の高利率契約とともに生保の負担となっているようです。

こうして国際比較をしてみると、限られたディスクロージャーからでも経営行動の違いが見えてきて、興味深いです。

※写真は全州の韓屋村です。路地に入ると静かな世界が広がっていました。

 

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日本の世帯構造の変化

台湾の保険コンファレンスではアジアの人口構成の急激な変化への対応もテーマの一つでした。
足元では65歳以上の人口割合は日本が26.6%とダントツで高いのですが、今後は韓国、シンガポール、タイ、そして中国が急速に追いついていくと見込まれています
(図表にはありませんが、台湾は足元の14%から急上昇し、なんと2055年には日本を抜いてトップに立つとみられています)。


内閣府「高齢社会白書(平成29年版)」より

各国の高齢化が進むスピードは日本を上回るので、生命保険市場はもちろん、社会全体に大きな影響を与えるのは間違いありません。低金利とともに、日本の経験が役立つこともありそうです。

もちろん、現時点では日本が世界有数の高齢社会となっていて、同時に世帯構造も大きく変わってきています。
9日に公表されたニッセイ基礎研究所・久我尚子さんのレポート「増え行く単身世帯と消費市場への影響(1)」によると、高齢化や未婚化などにより家計消費における単身世帯の存在感が高まっているとのことでした。

夫婦2人と子どもから成る、いわゆる典型的な核家族の割合が小さくなっていることはよく知られるようになりました。直近の実績値である2015年をみると、夫婦2人と子どもの核家族世帯は全体の26.8%にすぎません。これに対し、単身世帯はすでに34.5%を占め、2040年には全体の4割を占めるようになります。
「単身世帯」というと若年男女、つまり結婚前の独身男子や女子というイメージが強いかもしれません。しかし、本レポートによると、若年層(=35歳未満)が単身世帯の過半数だったのは1980年代までで、すでに2015年の時点で60歳以上の高齢世帯が単身世帯の4割強を占め、さらに20年後には過半数を超えます。

これだけの変化が起きているのですから、保険市場への影響もはかりしれません。
というか、かつて日本で死亡保障を中心とした生命保険が売れたのは、生産年齢人口が増えるとともに、夫を稼ぎ手とした夫婦2人と子どもの核家族が世帯の中核を占めていて、かつ、死亡リスクがそれなりに意識されていた(1950年代ぐらいの日本人の寿命は諸外国よりも短かった)、といった好条件が重なっていたからなのでしょう。
これらの条件がすべて変わってしまっているなかで、当時のビジネスモデルが通用しなくなっているのは当然かもしれません。

久我さんのレポートは第一弾とのことなので、さらなる単身世帯市場の分析が楽しみです。

※写真は台北郊外の深抗老街です。
 ここは豆腐料理で有名なところで、週末は大勢の人でにぎわいます。

 

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自由化後の自動車保険

直近の「損害保険研究」(第79巻第4号)に「損害保険自由化20年目の検証」という、自由化後の自動車保険の推移に関する論文があり、興味深く拝読しました。筆者は元損害保険料率算出機構職員の大島道雄さんです。

自由化で保険料は下がらなかった

本稿で大島さんは、各種統計資料データから自由化後の自動車保険の推移を調査した結果、期待された事業費率の低下や保険料単価の低廉化は認められず、両者はむしろ上昇傾向にあることを指摘しています。

大島さんによる主な考察結果は次のとおりです。

<事業費率>
・自動車保険の事業費率は算定会料率時に比べ一時的であっても低下することはなく、2005年以降は逆に上昇している(損害調査費率の上昇が主因)。
・損保事業全体の事業費率の低下は、もっぱら保険会社の人件費削減によって賄われ、代理店手数料費率の低下には及んでいない。

<損害率>
・自動車保険の特約部分はどの年次においても極めて高い損害率を示し、全体の損害率の悪化を招いている。

<保険料単価>
・自由化以降、保険料単価を切り下げる競争が展開されたが、下押し効果は全体で見れば数%と推定される。
・他方、特約が多数販売され、自由化による保険料低減額以上の収入が得られている。
・年齢構成や車齢の伸びなど、自由化とは関係なく参考純率を押し下げる要因も長期にわたり認められる。

とりわけ、「インシュアランス統計号(=特約を含む保険料・保険金)」と「損害保険料率算出機構統計集(=参考純率に対応する保険料・保険金)」の差に着目することで、特約部分の単価や収支を分析しているのが素晴らしいと思います。

ダイレクト自動車保険の普及ペースが緩やかだったこともあり、単純な料率競争による収支悪化よりも、むしろ特約競争による収支悪化を招いたというのは、私の認識とも同じです。
しかし、特約競争による収支悪化も、本来必要な保険料をとれていなかったという意味では実質的に料率競争と同じですし、(大型再編もあって)人件費や物件費を引き下げたからこそ、この程度の料率引き上げで済んでいる可能性もあるので、保険料単価が自由化直後と同じ水準に戻ってしまっても、自由化の効果が全くなかったということではないかもしれません。

ただし、ここ数年にかぎれば、事故あり等級の導入によって、かつての自動車保険とは違い、実質的に少額損害をカバーしない保険に変わっています。自由化後の市場で担保範囲の半強制的な縮減が起きたことをどう捉えるか、という議論はありそうです。

企業代理店の存在

ところで、本稿では日本の損害保険販売網についても分析し、「根幹をなす大規模乗合代理店をはじめとする大規模代理店の存在が、代理店手数料費率の低下の阻害要因となったと考えられる」としています。数では全体の1/4弱にすぎない乗合代理店が、扱い保険料で70%を占めていることから、主に企業代理店(いわゆる機関代理店)であるとしているのですが、ここはちょっと違和感を感じました。

例えば、販売チャネル別営業成績を開示している損保ジャパン日本興亜(決算データ集を参照)では、企業代理店の収入保険料は全体の19%、自動車保険だけだと13%にすぎず、他方で専業プロが29%、自動車保険だけでは39%を占めています。市場全体でも「根幹をなす」と言うほど機関代理店の存在は大きくないかもしれません。

自動車保険では企業代理店よりもディーラー代理店が気になるところですが、何かを語れるほど公表データがないのが残念です。

※写真は井の頭公園です。池の水を戻しているところでした。

 

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