03. 保険市場の動向

台湾のコロナ保険

昨年11/27のブログ「コロナと損保決算」で台湾損保の話にも触れましたが、ネットで調べてみたところ、コロナ保険のリスクマネジメント失敗によって、日本の入院給付金の急増よりもはるかに深刻な事態に陥ったことがわかりました。

主な経緯は次の通りです。

・2020年12月:台湾産物保険が発売した「コロナ保険」が大人気となり、他社も相次いで販売
・2022年4月:台湾政府がゼロコロナ政策から転換し、感染者数が急増。各社の保険金支払いも急増
・6月:コロナ保険の販売を全面停止(販売停止の動きは4月から)。各社が増資を発表
・8月:東京海上グループが新安東京海上産物保険に追加出資し、子会社化
・12月:コロナ保険の年間支払いが約9000億円に(保険料収入は250億円程度)

台湾損保のコロナ保険は主に「防疫保険」と「ワクチン保険」です。防疫保険ではコロナ感染で治療を受けた場合の補償のほか、隔離対象(濃厚接触者を含む)となった場合にも補償があります。ワクチン保険はワクチン接種による副反応の治療費を補償します。
大人気となった台湾産物保険の商品は、約2000円の保険料(年間)を支払うと、隔離対象となったら約20~40万円の給付金を受け取れるというものでした。台湾の人口は約2300万人なので、業界全体で数百万件(1千万件という報道も!)も売れたコロナ保険の人気は相当のものだったようです。

日本のコロナ保険や医療保険では、みなし入院でも入院給付金を支払うとした「判断」が裏目に出ました。これに対し、台湾損保のコロナ保険では、隔離に対する保険金の支払いが大きかったのではないかと思います。そもそも、コロナ政策の優等生と言われた台湾政府が2022年4月に突然ウィズコロナ政策に転じるとは、現地の保険会社でも予想できなかったのでしょう。
ただ、未知の感染症に対する多額の補償を短期間で急速に積み上げてしまった点をはじめ、保険会社や政府の対応としてよくわからないところがありますね。

※つばめグリルではありません。東洋亭です。

 

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保険ショップは代理店

大学の講義ではどうしても私が一方的に話をすることになるので、確認のために小テストを頻繁に行うようにしています。紙ベースではなくFormsを使っているので、あまり手間をかけずに管理できます。
確認テストなので9割以上の受講生が正答となるように問題を作っているつもりなのですが、たまに半分くらい間違えていたりすると、こちらの伝え方が悪かったのではないかと凹みます。

正答率が低い問題の代表例がこちらです(正誤問題)。

「複数の保険会社の商品を取り扱う来店型保険ショップは保険代理店ではなく、保険仲立人(保険ブローカー)である」

来店型保険ショップは保険代理店です。保険の流通市場(=誰が保険を販売しているか)の話をした後のテストなのに、ひどいときには半分以上の受講生が「正しい」を選んでしまいます。代理店と保険ブローカーの違いを板書しながら説明したり、乗合代理店の例として保険ショップの具体名を挙げて紹介したりしても、なぜか結果はあまり変わりません。
「複数の保険会社の商品を取り扱う」⇒「中立的な存在」⇒「仲立人」となってしまうのでしょうか。

大学で教えるようになって気がついたのは、同じ若年層でも大学生と社会人を等しくとらえるべきではないということです。個人差はあるにせよ、飲食店でのアルバイト経験くらいでは社会人と同じようなリテラシーは身についていないと考えるべきなのでしょう。特に私のような実務家出身の教員は、自分の話が学生に伝わっていない可能性を常に意識する必要がありそうです。

※学問の神様にお参りしてきました。

 

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地震保険の加入状況

今週のInswatch Vol.1164(2022.12.12)に寄稿した拙文をこちらでもご紹介します。ご協力いただきました皆さま、ありがとうございました。
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地震保険の付帯率

福岡大学・植村ゼミでは全国学生保険学ゼミナール(RIS)という、リスクと保険を学ぶ大学ゼミの交流組織に参加し、全国大会での発表を3年生の活動の柱としています。今年のRIS全国大会(12月3日~4日、慶應義塾大学)では13大学16ゼミが研究成果を発表し、大学を超えた学生間の交流も見られました。
たまたま植村ゼミの1つのチームが「地震保険の付帯率(住宅物件の火災保険に地震保険が付帯されている割合)」をテーマに据えて、「付帯率が上がれば、35%程度にとどまっている世帯加入率も高まるはず」と考え、研究を行いました。私としても改めて地震保険の普及の難しさを知るいい機会となりました。

都道府県別に特徴がある

全国レベルで見ると、地震保険の付帯率は概ね直線的に高まっています。しかし、都道府県別の推移を追うと、付帯率の水準がバラついているだけでなく、過去の推移にも都道府県ごとの特徴があるとわかりました。
例えば、2016年の熊本地震で甚大な被害を受けた熊本県の付帯率は、震災後に急上昇して、その後も上がり続けています。これに対し、南海トラフ巨大地震の発生で大きな被害が想定されている静岡県では、保険料率の上昇が続いたこの5年間は付帯率があまり高まらず、ついには全国平均を下回ってしまいました。他方で高知県のように、保険料率の上昇が続いても高水準の付帯率を維持している県もあります。
地震保険の普及を進めるには、リスク認知の状況をはじめ、地域の実情に合った取り組みが必要ということを改めて確認できました。

販売の担い手は誰か

ゼミの研究では地域の実情を少しでも探るため、ある静岡県の保険代理店(プロ代理店)にインタビューを行わせていただきました。そこで出てきたのが「来る来る詐欺(=子どものころから大地震が来ると脅されてきたけど一向に来ない)」「金融機関が地震保険を積極的に勧めない」という話です。うちの学生は「来る来る詐欺」のほうに強い関心を持ったようですが、オブザーブ参加していた私には後者が引っかかりました。住宅向けの火災保険を販売しているのは誰なのか。恥ずかしながらこれまであまり意識したことがなかったからです。

残念ながら、保険種目別にチャネル別の業績を公表している会社はなく、業界団体の統計も見当たりません。SOMPOホールディングスが2017年度末までチャネル別営業成績を種目別に公表していたので、そのデータを確認したところ、金融機関の販売シェアは全種目合計では7%、火災保険では18%となっていました。この「火災保険」には企業物件や工場物件なども含まれるので、住宅物件に限れば金融機関の販売シェアはさらに高い可能性があります(データをご存じのかたはぜひご教示ください)。
現場の声とはいえ、1つの代理店の見解だけで決めつけることはできません。しかし、金融機関やハウスメーカーといった兼業代理店が地震保険をどの程度重視しているかというのは、注目に値するポイントだと思います。
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※京都で「朝のおつとめ」に参加しました。浄教寺にて。

 

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RIS2022全国大会に参加

この週末(12月3日、4日)は全国学生保険学ゼミナール(RIS)2022全国大会でした。今年は13大学・25チームが研究発表を行い、福岡大学の植村ゼミからも2チームが登壇しました。3年生ゼミの活動の柱がこのRIS全国大会での発表だったので、教員としては何とかここまでたどりつくことができて、ホッとしています。

植村ゼミの報告テーマは「地震保険の加入動向」「コロナで苦しむ学生向けの保険」でした。せっかくなので、それぞれについて簡単にご紹介します。

1.地震保険の加入動向

もともとは「地震保険の普及率が低いのはなぜか」という素朴な問題意識から始まりました。まず、火災保険付帯率の都道府県別データに加え、損害保険料率算出機構・日本地震再保険のご協力で入手した地方別データをいくつかの切り口で分析したところ、全国平均とは大きく異なる推移をしている県を見つけました。

・熊本県:震災後に付帯率が急上昇
・静岡県:地震リスクが大きいのに付帯率が停滞
・高知県:保険料が上がっても高水準の付帯率

そして、これらの原因を文献だけではなく、保険の販売現場への質問やインタビューなどを通じて探りました(ご協力いただいた皆さん、ありがとうございました)。リスク認知の難しさや保険販売者(銀行やハウスメーカー)への働きかけの重要さなど、私も勉強になりました。

2.コロナで苦しむ学生向けの保険

「うちの先生(植村)が言うように、コロナは深刻な病気ではなくなったので、保険金(給付金)を支払わなくて当然なのかもしれないけれど、今でもコロナにかかって経済的に苦しくなる学生はいるはずで、このままでいいのだろうか」という私への反発(?)がこのテーマを選んだ動機のようです(多少盛っています)。

保険会社が撤退したコロナ保険を学生が実現しようというのですから、保険としての突っ込みどころは満載です。それでも、対象となる福大生100人にニーズ調査を行い、他大学の感染データを調べることで福大データが異常値ではないと確認し、さらに、可能なかぎり安く補償を提供するために大学とのタイアップを考え、学生課に突撃(インタビューを実施)するなど、がんばって行動してくれました。

ゼミ生たちは他大学との質疑応答や実務家からのアドバイスなど、この2日間で多くの刺激を受けたのではないでしょうか。対面参加だったので、他大学との交流も多少はできたのかもしれませんね。4年生もオンラインで討論者の役割を果たしてくれて、助かりました。

※会場は慶應義塾大学の三田キャンパスでした。

 

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2022年版の生保・損保特集号

週刊東洋経済の臨時増刊『生保・損保特集』2022年版が出ました。
例年どおりの社長インタビューに加え、生保・損保ともに金融庁レポートの解説があり、もう少し中村記者の面白い(鋭い)記事が読みたかったというのが全体としての感想です。この媒体では難しいのかもしれませんが…

そのなかで、ややマニアックではありますが、今回のイチ押しは、トムソンネットの板倉さんによる「世界市場で進む標準化 再保険ビジネスの展望」でした。この20年間で世界の再保険ビジネスがどのように変化し、日本の損害保険会社(元受会社)が現在どのような状況に置かれているかということを、なんと8ページにわたって述べています。
例えばこんな記述もありました。

「(再保険市場で生じた詐欺事件に関連して)再保険のように保険のプロ同士が相手にリスクを転嫁することで自社の財務保全を図るシステムは、もともと逆選択リスクを取引するババ抜きゲームであることを肝に銘じるべきだ」(85ページ)

「日本の損保市場の縮小が続く中、再保険市場から見れば、十分な保険料を得ることができない割には、大規模自然災害で巨額の再保険金を払わされる市場という印象を持たれても仕方がない状況ともいえる」(89ページ)

「アジアにおける再保険を含む外国系損保会社の出先機関のハブは、ほとんどの場合、東京ではない。(中略)東京は、アジアの保険市場のハブとはなりえないということを見せつけられている現象である」(同)

他の記事では、生保の乗合代理店の評価制度を取り上げた「代理店業界の注目集める業務品質評価制度の行方」が、部外者(=私)にも読みやすい記事でした(44ページ~)。
そもそも「業務品質」を評価できるのかという疑問はさておき(業界の自主規制のようなものと考えればいいのでしょうか?)、評価基準を作るうえで契約継続率について保険会社と代理店で意見が分かれ、結果として「(継続率を)定期的に把握・分析し、解約理由・経緯等を踏まえ、必要に応じて改善策を実施している」という評価基準に落ち着いたとのこと。
代理店側の主張は「毎年数多くの新商品が発売される環境で、継続率を気にするあまり、保障内容が見劣りする商品の契約を放置しておくのは、顧客本位に反する」というものだそうですが、顧客からするとやや違和感があります。

例えば定額の保険料を支払い続ける終身医療保険の場合、若いうちはリスクが小さいので、いわば割高な保険料を支払っている状態が続き、保険期間全体でバランスがとれるようになっています。ですから途中で解約してしまうと、確実に損をすることになるはずです(特に解約返戻金がない場合)。顧客本位ということであれば、解約・新規ではなく、既存の商品に新たな保障を追加するのが本来あるべき姿だと思うのですね。
まずは商品を提供するメーカー(保険会社)の問題ではありますが、代理店がそこまで踏まえたうえで主張しているのか、議論のなかでそのような話はなかったのか、知りたいところです。

※キリンコスモスフェスタに行ってきました(先週の写真です)。

 

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新型保険の加入率

お仕事の関係で、テレマティクス自動車保険と健康増進型保険がどの程度売れているのか調べてみたところ、次の資料を見つけました。備忘録代わりにこちらに記しておきましょう。

テレマティクス自動車保険

矢野経済研究所が「国内テレマティクス保険市場に関する調査」を実施していて、2021年度の個人向けテレマティクス保険の市場規模は2260億円。自動車保険料全体に占める割合は5.3%と推計したそうです。まだまだ普及率は低い状況のようですね。

気になる記述も見つけました。

「現在、テレマティクス保険の提供方法としては、大手損害保険会社を中心にドライブレコーダーを提供する形の商品が主流となっている。しかし、将来的にはコネクテッドカーの普及に伴い、OEM(自動車メーカー)側がコネクテッドカーに搭載したカメラや各種センサーを通じて直接データを取得する仕組みが整うことが想定される。そうした状況から、事故対応に必要なデータを損害保険会社側で直接収集できなくなる可能性がある」(プレスリリースより引用)

健康増進型保険

生命保険文化センターが3年ごとに行っている「生命保険に関する全国実態調査」のなかで、2021年度から健康増進型保険・健康増進型特約の加入率が公表されています。世帯加入率は4.2%です。医療保険・医療特約の世帯加入率が93.6%ですから、こちらも普及が進んでいるとはまだまだ言えない状況です。
世帯主年齢別の加入率を見ると、29歳以下の加入率がダントツで高くなっています。興味深い結果ではありますが、今回が初めての調査なので、次の実態調査を待ったほうがいいかもしれません。

※写真は東寺(教王護国寺)です。中には入れませんでした。

 

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金閣寺のファイアマーク

金閣寺に行く機会があり、ようやく入口(総門)にある東京火災保険会社の鳶口(とびぐち)マークを確認することができました。
これはいわゆる「ファイアマーク」と呼ばれるもので、火災保険に加入していることを示す証として、明治から大正にかけて建物の目立つところに掲げられていたものです。ご存じのかたも多いと思いますが、ルーツはロンドンの火災保険会社にあります。19世紀半ばまでロンドンの消火活動は専ら火災保険会社の消防隊が担っていて、ファイアマークが消火活動の目印になっていたのです。
1888年に日本初の火災保険会社として創業した東京火災保険会社も自前の消防団「東京火災消防組」を持っていたそうですが、その後(1894年?)こうした私設の消防組は府県知事の傘下に入ったようで、東京火災消防組が保険会社の消防組織としていつまで活動を続けていたのかは定かではありません。

鳶口マークといえば安田火災でして、東京火災は現在の損保ジャパンの前身となった会社です。
安田火災がなくなってからすでに20年がたち、このマークを知らない保険会社社員や代理店のかたも増えているのでしょうね。

 東京火災
  ↓
(1944年に帝国海上などと合併)
  ↓
 安田火災
  ↓
(2002年に日産火災と合併)
  ↓
 損保ジャパン
  ↓
(2010年に日本興亜損保と経営統合)
(2014年に日本興亜損保と合併)
  ↓
 損保ジャパン日本興亜
(2020年に商号変更)
  ↓
 損保ジャパン

※絵葉書のような写真が撮れました。

 

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入院給付金の見直し(続き)

コロナ「みなし入院」による入院給付金支払い対象の見直しについて、9日に多くの保険会社がニュースリリースを公表しましたので、確認してみました。
9月26日以降の診断から、重症化リスクの高い「みなし入院」の加入者(=発生届の対象)のみに入院給付金を支払うという内容は各社共通ですが、説明内容はいくつかのパターンがありました。

・政府が発生届対象を限定した
・政府による発生届対象の限定で、入院が必要な状態と判断できなくなった
・発生届の対象外の人は入院の定義から外れる
・発生届が出ないと感染症法上の「健康観察」の対象とならない
・入院の必要性が低い感染者が増えたうえ、政府による発生届対象が限定された

発生届に関する政府の対応に伴う措置という説明だけではなく、実態として入院の必要性の低い感染者が増えたという趣旨の説明をしているのは、私が確認したなかでは第一生命、ソニー生命、オリックス生命、大手損保4社と損保系生保だけでした。この点に触れないと、これまでは政府に言われたから支払っていて、今般は政府が方針を変えたから見直すという説明に見えてしまうように思うのですが…
なお、「加入者間の公平さを欠いている」「モラルの低い加入者が増えている」といったところまで踏み込んだ記述は見当たりませんでした。

以下、大手生保を中心に10社ほどのリリースの概要を記しておきます(11日時点で未公表の会社もあるようです)。

日本生命
見直しの背景として、これまでは約款上の定義には該当しないものの「入院」と同様に取り扱ってきたが、今般の政府による発生届対象の限定により、今後は「新型コロナウイルス感染症に罹患したことのみをもって『常に医師の管理下において治療に専念』し『入院が必要な状態』と判断できない」と説明しています。

第一生命
これまでは、約款上の「入院」の定義に該当しないものの、社会情勢を踏まえた時限的な措置として実施してきたが、感染者数が増加するなかで、「(入院の必要性が低い)軽症・無症状の割合が高まっていること」「政府が発生届の対象を限定すること」の2つにより見直すと説明しています。

住友生命
「新型コロナウイルス感染症の発症状況が変化しつつある中、政府における措置などの状況変化を踏まえ、今後は、重症化リスクの高い方の宿泊療養・自宅療養を『みなし入院』による入院給付金のお支払対象とするもの」と説明しています。

明治安田生命
今回の対応の背景として、これまでは入院が必要である「みなし入院」の方に支払ってきたが、「今回の政府における措置に伴い、発生届の対象とならない方は『常に医師の管理下において治療に専念している』とはいえない」ため見直すと説明しています。

かんぽ生命
これまでは「お客さま保護の観点から、約款上の『入院』とみなして」きたが、「新型コロナウイルス感染症に係る発生届の範囲を全国一律に重症化リスクの高い方に限定する旨が公表されたこと等を踏まえ」見直すという説明です。

大樹生命
約款に関する記述はなく、今般の見直しの理由として、「発生届の対象外となる方については、『常に医師の管理下において治療に専念』していると判断できず、新型コロナウイルスに感染したことのみをもって『入院が必要』な状態と判断できないため」と説明しています。

朝日生命
やはり約款云々という記述はなく、政府の決定により、「発生届の対象外となる方については、常に医師等の管理下で治療に専念している状態にはないこととなり、新型コロナウイルス感染症に罹患したことのみをもって入院治療が必要だと判断できなくなります」と述べています。

太陽生命
これまでは保険約款を柔軟に解釈した特例措置をとってきたが、「発生届の対象とならない方を新型コロナウイルス感染症と診断されたことのみをもって『医師の管理下における治療に専念』し『入院が必要な状態』と判断できない」ので、見直すとしています。

富国生命
政府から示された方針を受けてという説明です。

オリックス生命
政府の方針見直しのほか、「新型コロナウイルス感染症の発症状況が変化しつつあり、必ずしも入院を必要としない軽症・無症状の割合が高まっている状況にあります」と述べ、入院の定義から外れるとしています。なお、ニュースリリースではなく「おしらせ」に出ています。

アフラック生命
発生届が出ないと感染症法上の「健康観察」の対象とならず、入院給付金の支払要件に該当しないという説明です。

メットライフ生命
「今回の取扱変更に至る経緯」という説明があり、「発生届を提出する対象とならない方については、感染症法上の『健康観察』(健康状態を確認する)の対象から外れるため、保険約款上の『入院』の要件である、『常に医師の管理下において治療に専念すること』には該当しない」ので取り扱いを変えるとしています。

あんしん生命
「新型コロナウイルスの感染者数が増加する昨今の状況においては、重症者の割合がこれまでと比べて低い水準であり、軽症・無症状の方の割合が高まっております」「発生届の対象とならない方については新型コロナウイルスに感染したことのみをもって入院が必要な状態と判断できない」の2つを挙げています。

ひまわり生命
「新型コロナウイルスの感染者数が増加する昨今の状況にあっては、重症者の割合はこれまでと比べて低い水準であり、軽症・無症状の方の割合が高まっている状況」「政府において、新型コロナウイルス感染症に係る発生届の範囲について、2022年9月26日以降、全国一律に、重症化リスクの高い方に限定」の2つを挙げています。

※写真は熊本・山鹿温泉です。

 

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入院給付金の見直し

前々回のブログでご紹介した8月20日前後のメディア対応に続き、9月1日から4日にかけて、NHK(夜9時のニュースなど)をはじめ、掲題のテーマでいくつかのメディアに登場しました。共同通信の取材にも応じたので、静岡新聞などいくつかの地方紙にコメントが出たそうです(知人に教えてもらいました)。

その共同発のコメントですが、前半部分に訂正があります(申しわけありません)。

「みなし入院給付金の特例は、新型コロナウイルス感染症が未知の病気で社会的に深刻だったタイミングで、医療機関の逼迫(ひっぱく)を回避するために保険業界が社会貢献のような形で導入した」

ではなく、

「みなし入院給付金の特例は、新型コロナウイルス感染症が未知の病気で社会的に深刻だったタイミングで、医療機関が逼迫(ひっぱく)して自宅療養者が出るなかで、保険業界が社会貢献のような形で導入した」

というコメントをしたつもりでした。これは記者さんのせいではなく、私の確認ミスです。

ちなみに後半部分はこうなっています。

「最近は軽症や無症状の感染者も多く、本来は給付金を受け取る対象か疑わしい人も受け取っていることが問題になっている。保険は加入者がお金を出し合って、いざという事態に備える仕組みだ。みなし入院の感染者全てに支払いを続けると、新規で医療保険に加入する人の保険料が値上がりしたり、販売停止につながったりして、加入者が不利益を被る恐れがある」

NHKのコメントは動画のほか、こちらで確認できます。

NEWS WEB「コロナ自宅療養で“入院保険”これからどうなる?」(9月1日更新)
サクサク経済Q&A「【詳しく】新型コロナ 入院給付金見直しって?」(9月1日公表)

コメントの中核部分はこちらになります。

「保険会社が『みなし入院』でも給付金を払うと決めたときはまだ、コロナがどんな病気で、どれくらい深刻なのかが分からなかったため、こうした対応が社会にとって役立つと考えていたのだと思う。しかし、今は症状が重くなくても、陽性と判定されればそれだけで給付金がもらえてしまう状況で、給付金をもらうためにあえて保険に加入する人も出てきている。入院給付金の原資は契約者が払う保険料で、保険料を払っている人と給付金を受け取っている人のバランスが崩れ不公平な状況になっており、正常な状態に戻すという話だと捉えるべきだ」

後段の「保険料を払っている人と給付金を受け取っている人のバランスが崩れ不公平」というのはちょっと変ですが、「保険料と給付金のバランスが崩れているうえ、保険料を負担している人たちのなかで不公平が生じている」と捉えていただければ幸いです。

ちなみに同じNHKでもNEWS WEBとサクサク経済Q&Aは別の取材でして、これは本人でないとわからないかもしれません。

念のため、今回の見直しに関する資料を挙げておきましょう。

1.金融庁「入院給付金の取扱い等に係る要請」(9月2日公表)

生命保険協会、日本損害保険協会、外国損害保険協会、日本少額短期保険協会にあてたもので、「貴協会におかれては、会員各社において、医療機関や保健所の負担軽減に十分配慮しつつ、政府による検討の方向性を踏まえた上で、いわゆる『みなし入院』による入院給付金の取扱い等について、支払対象も含め、可及的速やかに検討が行われるよう周知していただきたい」とあります。

2.生命保険協会「新型コロナウイルス感染症による宿泊施設・自宅等療養者に係る療養証明書の取扱い等について

上記の金融庁要請を受けて、「生命保険各社においては、医療機関や保健所の負担軽減に十分配慮しつつ、いわゆる『みなし入院』による入院給付金の支払対象も含めた取扱い等について、 検討が行われるよう周知しています」とあります。日本損害保険協会のリリース文も、この部分に関してはほぼ同じです(「周知」ではなく「依頼」となっていますが)。

各社の対応はおそらく検討中で、まだサイトでは確認できませんでした(5日現在)。

※熊本城の修復もだいぶ進みましたね。

 

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活版印刷の発明と海上保険

この週末(25日)は日本保険学会九州部会の例会があり、福岡大学での対面&オンライン(zoom)開催でした。こちらから当日のプログラムやレジュメをご覧いただくことができます(確か期間限定だったと思います)。

2人の報告者のうち、最初に登壇した神戸大学の若土先生の報告「活版印刷技術が及ぼした中世海上保険証券への影響」は、『海事交通研究』第70集に掲載されたこちらの論文(PDF)のアップデートだったようです。中世イタリアをはじめ、スペイン、ポルトガル、オランダ、ドイツなど、これだけの古文書(主に保険証券)を発掘するにはかなりの労力がかかったのではないでしょうか。

『海事交通研究』の論文を拝見したところ、15世紀にグーテンベルクが発明した活版印刷技術が、それまで全て手書きだった海上保険証券の定型部分に導入されていったことを、文献だけではなく、若土先生自らが収集した史料をもとに検証したものでした。

グーテンベルクの活版印刷技術は火薬、羅針盤とともに「中世の3大発明」の1つと言われ、その後のヨーロッパ社会に大きな影響を与えました。この技術を使えば写本よりも早く、安く、大量に読み物を作ることができるので、情報が広く一般に普及するようになります。確かにこれは革命的です。
ただ、海上保険の保険証券を早く、安く、大量に印刷する必要はなさそうなので、両者がどう結びつくのかが疑問でした。これに対し、本論文では16世紀末のアムステルダムで保険証券の定型部分に活版印刷が利用されたことについて、2つの理由を挙げています。

「登記の手間の削減や保険手続きの簡素化や迅速化といった時代のニーズに対応できるよう、恐らく証券書面の統一化を図るため証券上の定型的な部分に活版印刷技術を導入していったのではないかと筆者は考えている」

「取引市場のエリアが拡大し(中略)有力商人たちは企業化しネットワーク網が広がり、契約した重要な補償内容を現地・本部のいずれでも確認できる需要が強まり、証券の定型部分を活版印刷によって記載する動きに繋がったのではないかとみている」

いずれもまだ仮説のようですが、興味深いですね。僭越ながら研究が進み、活版印刷技術と保険の関係がより明らかになることを期待しています。

※アジサイにもいろいろな種類があるのですね。

 

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