03. 保険市場の動向

保険料率の納得感

今週のInswatch Vol.1132(2022.4.11)に寄稿した記事をご紹介します。
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水災料率の細分化

これまで全国一律だった火災保険の水災料率が、リスクに応じた料率に細分化される見込みです(2024年度から導入と報道されています)。水災リスクが低いにもかかわらず、高リスク契約者と同じ保険料率を負担するのは確かに納得感がなく、結果として低リスク層の水災補償離れが進み、付帯率は年々下がっています。
リスクに応じた料率を導入しても、そもそも火災保険は強制加入の保険ではなく、低リスク層の水災補償離れに歯止めをかけるのは簡単ではないかもしれません。家森信善教授が実施した意識調査によると、住宅購入前にハザードマップ等で自然災害のリスクを確認したという回答が全体の8割に達しており、水災リスクを確認したうえで住宅を購入するという行動はかなり定着している模様です。付帯率を下げ止まらせるには、料率をハザードマップ等とリンクさせることに加え、低リスクであっても無リスクではないことを住宅保有者に理解してもらい、加入を促す取り組みが求められます。

「一律掛金・一律保障」共済の場合

リスクの異なる加入者が同じ料率というのは、低リスク加入者が高リスク加入者を支えているということなので、強制加入でもないかぎり、このような仕組みは長続きしないはずです。
ところが探してみると、死亡率や入院発生率の異なる加入者が同一の掛金で同一の保障を得られる仕組みがあります。それは生協共済の「一律掛金・一律保障」タイプの商品です。
例えば、福岡県民共済の総合保障2型の場合、死亡保障や入院保障などのパッケージの月掛金は、18歳から60歳まで一律2000円となっています。18歳から60歳までの死亡リスクや入院リスクが同じはずはなく、若い加入者がシニア加入者を支えていることになります。それでは、加入者の多くがシニア層かといえば、少なくとも数年前に全国生協連を取材した時点では、そのようなことはありませんでした。
比較的若く、低リスクであるにもかかわらず、多くの人が自発的にこの共済に加入する理由はよくわかっていません。共済を提供する協同組織は相互扶助を理念としていますが、その理念に共感した加入者が多いとも考えにくく、つまるところ、月々2000円という掛金の絶対水準の魅力が大きいのではないでしょうか(他にも「割戻金が期待できるから」「長く続ければ自分が支えられる側に回るから」「保険会社は利益優先だと思うから」といった理由も考えられます)。この金額であれば、厳密に考えると不利だとわかっても、納得感があるということではないかと思います。

自動車保険の等級制度の場合

他方、個人向け自動車保険はご承知の通り、「ノンフリート等級制度」や「型式別料率クラス」などにより、リスクに応じた保険料率に近づける仕組みとなっています。
とはいえ、等級制度が本当にリスクに応じた料率を実現しているかといえば、少し考えればそうではないとわかります。運転者のリスクが毎年変わるということはなく、ただ、保険会社には運転者のリスクがよくわからないので、実際にリスクが顕在化した(=保険金を請求した)かどうかに基づいて料率を動かす仕組みとしています。ですから、事故を起こしやすい高リスク運転者によるものであっても、慎重なドライバーがたまたま巻き込まれてしまったものであっても、事故が発生し、保険金を請求すれば等級は同じように下がります。それでも等級制度が長年続いているのは、この仕組みが社会から相応の納得感を得られているためではないでしょうか。

納得感のある料率を実現できるか

以上のように、「一律掛金・一律保障」共済やノンフリート等級制度のように、保険の原理としてはリスクに応じた料率が望ましいとしても、納得感があると考えられているのであれば、必ずしもそうではない料率の仕組みであっても長続きしている事例があるとわかりました。
低リスク層の水災補償離れに歯止めがかかるかどうかは、低リスク層にとって納得感のある料率(あるいは仕組み)となるかどうかにかかっていると言えそうです。
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※写真は長府の功山寺。高杉晋作が挙兵したところだそうです。

 

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契約内容の変更

今回は保険約款に基づいて契約内容を変更する(した)というニュースを2つ取り上げます。

総合医療保険の保障内容変更

少額短期保険のjustinCase(ジャストインケース)は4月6日、「コロナ助け合い保険」をはじめ、同社が販売した全ての総合医療保険において、みなし入院の保険金額を10分の1に減らすと発表しました(7日から適用)。
ニュースリリースはこちら
よくあるご質問

保険会社が既契約の保障内容を変更できるという内容を約款で定めているのは今回のジャストインケースだけではありません。ただし、この条項が発動され、契約者に不利益な内容の変更が行われた事例はこれまで聞いたことがありませんでした
(契約者に有利な内容の変更が行われた事例は耳にしたことがあります)。

ニュースリリースの下のほうにある「保険料収入と保険金支出の推移」を見ると、オミクロン株の爆発的な感染拡大を予測できなかったというよりも、おそらく逆選択を避けられなかった、つまり、濃厚接触者になったらこの保険に加入する、PCR検査を受ける予定の人が先にコロナ保険に加入しておく、といった動きを読めなかったのではないでしょうか。

保険会社にとってコロナ感染症に関連する保障(補償)の提供は、感染症なのでリスクが独立していない(=大数の法則が働かない)ということだけみても取り扱いが難しいとわかります。ジャストインケースはもともと、エッセンシャルワーカーなどの不安解消を念頭に、2020年5月という早期にコロナ助け合い保険を発売しており、善意が悪意に打ち負かされてしまったようにも思えます。
とはいえ、抜かずの宝刀が抜かれてしまった影響について、保険業界としてはしばらく注意してみていく必要があるかもしれません。

団年一般勘定の予定利率引き下げ

ん?と思った方がいるかもしれませんが、団体年金一般勘定の予定利率見直しは、約款に定める基礎率変更権に基づくものです。日本生命は4月6日、予定利率を現行の1.25%から、2023年4月1日から0.50%に引き下げると発表しました。

すでに2021年10月に第一生命が予定利率を引き下げているので、NHKをはじめ、ここまで多くのメディアが取り上げるとは思いませんでした。日本生命が何かをしようとすると、メディアにニュースバリューが大きいと見なされてしまうので、これでは機動的な動きがとりにくく、この点は経営者に同情してしまいます。

もっとも、2020年12月20日のブログで書いたように、今の団体年金一般勘定はリスクに見合ったリターンが得られにくく、ALMも難しいと考えていますので、タイミングとしても、0.50%という水準にしても、もう少し説明してほしいというのが率直な感想です。

団体年金一般勘定の資産構成をサイトで公表しているのは第一生命だけのようです。各社とも契約者向けの公表資料を作成していて、古巣のR&Iがこの資料をもとにニューズレター『年金情報』で時々取り上げています。これによると、日本生命は第一生命よりも「外国公社債」の割合が低く、「貸付金」「外国株式等」の割合が高いとのこと。詳細は『年金情報』2021年6月21日号をご覧いただければと思いますが、それなりに資産運用リスクを抱えているのは間違いなさそうです。

※写真は長府毛利邸(山口県下関市)です。ミツバツツジがきれいでした。

 

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水災料率の細分化

3月31日に金融庁が火災保険水災料率に関する有識者懇談会の報告書を公表しました。
保険料率を決めるのは金融庁ではなく保険会社(参考純率は損害保険料率算出機構)なので、本報告書は「損保料率機構及び損害保険会社による適切な検討を促すため」に「様々な分野の有識者から聴取した意見を取りまとめたもの」という建て付けになっていて、メンバーの皆さんには申しわけありませんが、何とも不思議な報告書となっています。

すでに料率細分化を行う前提であれば、主要な論点は、高リスク契約者の保険料は高くなるので、どうやって高リスクであることを理解してもらうか(&どこまで保険購入可能性に配慮するか)。そして、水災補償を外す傾向が強い低リスク契約者に対しては、ある程度リスクに応じた料率になるなかで、どうやって補償のメリットを感じてもらうか。この2点に尽きるのはないかと思いますし、具体的な案(通常は複数)をもとに議論しないと一般論から先に進めません。
ただ、資料や議事録を見るかぎり、有識者懇談会では具体的な案について検討した形跡はなく、報告書にも「どの程度の料率較差が望ましい」といった具体的な指針は示されていません。

他方で、3月11日の日経電子版(有料)は「2024年度から導入する個人向けも1.5倍程度の差がつく見通し」と報じました。日経が勝手に数字を作ったとは考えにくく、おそらく業界のリーク情報なのでしょう。読売も3月8日に「損害保険業界は2024年度から新たな区分に基づく保険料を導入する方向で調整」と報道しているので、業界ではすでに準備が進んでいるとうかがえます。

気になるのは懇談会での議論です。業界からの情報提供がなかった(したがって何も議論していない)というのであれば、私がメンバーだったら納得いきませんし、もし懇談会で業界案について議論したのであれば、資料を公表し、報告書に反映すべきです。どうもすっきりしないですね。

ちなみに同じ日経記事に、「保険はリスクの異なる契約者が大量に加入することで保険金を支払う確率が均一化する『大数の法則』が根幹になる」とあります。こんな大数の法則の定義は聞いたことがありませんし、ここで問題となるのは大数の法則ではなく、保険の相互扶助性をどう考えるかです。授業のネタとして取り上げようかな。

※花筏や桜吹雪を楽しみました。

 

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大規模事故の増加

日本損害保険協会が3月10日に「企業向け火災保険の大規模事故が年々増加(自然災害以外)」として、保険金支払額が5億円以上の大規模事故に関するデータを公表しています。
ただし、公表したデータは大規模事故件数の実数ではなく、2015年度を1とした過去5年の比率値だけ(2020年度は2.94)です。

損保協会は事故が増えた背景として、「設備の老朽化が進む一方で、熟練工の大量退職や人手不足により、技術の伝承や暗黙知の共有が困難となっていることも一因」と説明しています。でも、公表された数字は「5年で約3倍」です。大規模事故がそんなに増えていたら、もっと社会問題になっているようにも思うのですが…

引き受けを増やしてきた

そもそも保険金支払額が5億円以上となるような高額契約は多いのでしょうか。
調べてみると、件数ベースでは小さくても、保険金額ベースでは大きいことがわかりました。損害保険料率算出機構によると、一般物件のうち5億円超の新契約は件数ベースで1.3%にすぎませんが、保険金額ベースでは66.0%となります。工場物件では件数ベースで12.6%、保険金額ベースで96.0%です(いずれの2020年度)。
保険金額ベースでは、一般物件と工場物件の高額契約が火災保険全体の6割を占めていますので、高額契約が保険会社の損害率に与える影響は大きいと言えます。

他方で、保険金支払額が5億円以上となるような高額契約が、2015年度に比べるとかなり増えていたこともわかりました。2020年度の高額契約の新契約(保険金額ベース)は、一般物件が2015年度対比で1.44倍、工場物件が同1.63倍です。高額保険金の支払いが増えたのは、保険業界が高額契約の引き受けを増やしたことも一因でした。保険業界の取り組みのほか、企業のリスクマネジメント意識の高まりもあるのかもしれません。
なお、高額契約の引き受けのピークは2019年度で、2020年度は引き受けを抑えた模様です。

発射台が低かった

もう一つ指摘すべき点があります。今回のデータの起点となっている2015年度は、この10年間で火災保険の発生保険金が少なかった年度のようなのですね。
例えば、東京海上日動とあいおいニッセイ同和が公表している火災保険(自然災害を除く)のEI損害率は、2015年度が最も低い数値でした(三井住友海上は2016年度がボトム)。自動車事故に比べると、火災保険の大規模事故の発生は振れが大きいでしょうから、低いところを発射台にすれば、当然ながら足元の比率値は大きく見えてしまいます。
今回のデータも2016年度を起点にすると1.73となり、「5年で約3倍」に比べると、ややマイルドになります。

こうした要因を考慮しても、おそらく高額契約の損害率は上昇傾向にあり、さらなる料率引き上げが必要なのでしょう。とはいえ、もう少し情報を出してくれないと、損保業界は(その意図がないとしても)都合のいい数字だけをピックアップして、保険ニーズの喚起を行っていると思われてしまいます。

※大濠公園の夕日(スタバのそば)です。

 

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『図説 生命保険ビジネス【第2版】』を読んで

2月に出たトムソンネット編『図説 生命保険ビジネス【第2版】』を読みました。1つのテーマが見開き2ページで完結していて(左が図表、右が文章)、これだけ多くの図表を用意するのはさぞ大変だったのではないかと思います。

数ある図表のなかで私にとって興味深かったのは生命保険市場に関するのもので、なかでも目を引いたのは「会社グループ別死亡率(契約高ベース)推移」と「第三分野支払給付金の発生率推移」でした(いずれも178ページ)。

まず、生命保険会社の死亡保険金支払額が保有契約高に占める割合を伝統系(日本生命など)、分社系(伝統系のグループ会社)、外資系、損保系、異業種系で比べた図表では、伝統系が着実に上昇しているのに対し、外資系と異業種系はほぼ横ばいとなっています。本書では、伝統系の上昇を「若年層顧客を外資系以下の3つのグループに奪われたことによる保有顧客の相対的な高齢化によるもの」と推測しています。契約高ベースなので、伝統系が死亡保険重視から第三分野重視に移行してきた影響も大きいのでしょうね。
ちなみに分社系と損保系は近年になって上昇していますが、特定会社の影響が大きいのかもしれません。

もう1つの第三分野の支払給付金は、2020年度に発生率が下がったものの、傾向としては徐々に上がってきているようです。ただし、上がったといっても、経過保険料に対する発生保険金額の割合が30%ちょっとということで、いくらなんでも発生率が低すぎるように思えてしまいます。
本書では「高齢化により、特に終身保障のある保険で将来的な発生リスクの増加が懸念されている」と解説しています。とはいえ、賦課方式ではないので、この図表の発生率がどうなるかは別として、個々の契約者の年齢上昇は保険料に織り込まれていて、保有顧客の高齢化はあまり問題がないように思います。むしろ心配なのは、環境変化などにより発生率のトレンドが変わってしまうことでしょう。そのリスクと今の発生率の低さをどう捉えるべきかは悩ましいところですが、終身保障を提供するのがいいのかという疑問にたどり着いてしまいます。

他にも興味深い図表がいくつもあり、勉強になりました。

※写真は糸島(福岡県)です。

 

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相互宝の運用終了

加入者どうしがリスクをシェアし、万一の際には助け合うという仕組みをネットの世界で実現したP2P保険の成功例として紹介されてきた中国の相互宝が、1月28日をもって運営を終了するそうです。詳しくは片山ゆきさんによるこちらのレポートをご覧ください。

2018年のサービス開始からわずか1年間で1億人の加入者を集めたというのもびっくりしましたが、中国当局がオンライン金融事業への規制を強めるなかで、運営終了に追い込まれてしまったというのも驚きです。
片山さんはレポートのなかで、中国当局が昨年になってオンライン金融事業についても既存の金融機関と同様の規制を適用する姿勢を示したなかで、相互宝が保険商品と同様の規制や、保険会社のような厳しい監督・管理を受けていなかった(そもそも当局が保険として認めなかった)ことを述べたうえで、「従来より官(主務官庁)と足並みを揃え、厳しい規制の中で成長した保険会社(民)と、莫大なユーザーを背景に異業種から参入したITプラットフォーマー(民)では、官(主務官庁)との協働関係のあり方に本質的な違いがあったのであろう」とコメントしています。中国ビジネスにおける政府リスクの存在を見せつけられた感があります。

最近のニッセイ基礎研レポートといえば、前金融庁長官の氷見野良三さんが総合政策研究部エグゼクティブ・フェローとして書いたこちら(「金融機関のシステム障害」)も興味深く読みました。
某社のシステム障害についてコメントしたものではなく、「剛構造主義」「ゼロ許容度」から「柔構造主義」「オペ・レジ主義」への転換について述べたものです。私もリスクマネジメントを検討するなかで同じことを時々考えますが、氷見野さんのおっしゃるとおり、社会全体で変わっていく必要があるでしょうね。前回のブログで示したように、そう簡単なことではなさそうですが。

※筑後川昇開橋です。なんと係のかたが橋を動かしてくれました。

 

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損害保険ダイレクト事業に関する考察

土曜日(12月11日)は日本保険学会の九州部会例会が対面で開催され、福岡大学に約40人の研究者や保険関係者が集まりました。報告テーマは「生命保険の自殺免責について」「地震インデックス保険」で、どちらも興味深い内容でした。
今回も残念ながら懇親会はありませんでしたが、久しぶりに同業の皆さんと直接お会いして、意見交換などをすることができました。オンラインの学会では報告や質疑応答はできても、オフィシャルではない情報交換が難しいのですよね。

※同じような構図でも前回ブログの写真とは雰囲気がだいぶ違いますね^^

自動運転と等級制度

損保総研の専門誌『損害保険研究』の直近号(2021年11月)に掲載された、損害保険料率算出機構OBである大島道雄さんによる論稿「損害保険ダイレクト事業に関する考察」を興味深く拝読しました。
自動車保険を中心としたダイレクト事業の現状を公表資料から詳細に分析し、今後の動向や市場への影響を探った力作です。

大島さんが本稿で提案している「国内損保・外国損保の区分なく一つの市場と捉えること」「損害保険市場の新たな区分が必要であること(=個人市場および企業市場の区分を設けること)」は私も同感です。前者は保険業法の問題というよりは、業界団体が2つに分かれていることから統計が一本化されていないということかもしれません。後者は格付アナリストの時代から業界にリクエストしてきた話でして、大島さんも「損害保険の事業分析も企業向けと個人向けとに分けて行うほうが、より市場特性とその市場に対する個々の企業の対応が明確に把握できる」と述べています。

先週のRISで植村ゼミの学生が発表した「自動運転」に関する話もありました。なかでも、事故防止機能の普及・進化がノンフリート等級別料率制度に影響を与えるというのは、近い未来の話として大きなテーマではないかと思います。
この制度では事故の有無(保険金請求の有無)をもって運転者のリスクの大小とみなしていて、結果として事故を未然に防ぐ機能があります。ところが、レベル3以上の自動運転車が自動運転中に起こした事故は運転車の責任ではなく、原則としてシステムの責任となります。現時点で保険会社はレベル3以上の自動運転中の事故を等級制度の対象外としているようですが、自動運転が広まっていくと、運転者のリスクはどんどん小さくなり、等級制度が不要となるのかもしれません。
大島さんは「高度の事故防止機能を備えたASV等を被保険車両として初めて自動車保険を契約する場合、果たして現在の6等級から開始し、無事故であれば1年毎に等級を挙げるという制度が車の事故防止機能に適合的といえるかどうか」「完全自動運転車に近づくほど20等級以上の安全運転の能力を有している車も発売されるであろう」と述べています。

1年経てば損保総研のサイトから無料でアクセスできるようになるのですが、すぐにご覧になりたいかたは損保総研にオーダーしていただくか、図書館などで探していただければと思います。

※旧プールの跡地に「向月台」ができていました。

 

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東洋経済の保険特集号

この週末(10月30日)、RIS(全国学生保険学ゼミナール)の中間報告にあたる「九州ブロックリスクマネジメントゼミ報告会」があり、九州にある3大学の学生(8グループ)が研究成果を報告しました。
中間段階ではありますが、研究の方向性が見えているグループもあれば、まだ着地点が見えないグループもあり、あと1か月でどこまでたどり着けるかですね。参加した学生にとって今回の報告会がいい刺激になればいいのですが。

「生保・損保特集」

先週発売の臨時増刊『生保・損保特集』を読みました。今年の特集は「保険会社のSDGs」ということで、大手生損保がSDGsにこのように向き合っていますというレポートと、保険会社のトップインタビュー(22社のうち10社は2ページ、12社は1ページ)が中心です。私のような業界人ではない一般読者には正直あまり面白くないのですが、トップが出ると雑誌が売れるのかもしれません。

それでも今回は読んで面白い記事があるほうだったと思います(個人の感想です)。

・「金融サービス仲介業」期待と不安の船出
・乱立する「就業不能保険」 難解な商品を徹底解剖
・自動運転社会の到来と損保ビジネスの変化

いずれも外部の専門家によるもので、旬のテーマを取り扱っています。
私にとって読んで面白い記事とは、旬のテーマだから、読んで新しい知識が得られるからではありません。そのテーマに関する筆者の考察が示されていて、いわば筆者と対話ができるような記事です。「A社は○○を新設し、××を行った」「B社は○○を設定し、××に取り組んでいる」という紹介だけでは対話のしようがありません。

例えば「乱立する『就業不能保険』」では、開発ラッシュ状態にある就業不能保険の全体像を詳細に示した労作で、働けないリスクへの関心が高まっていることが伝わってくる一方、これだけバリエーションが多いと消費者は選びようがないという状態に陥っていることがよくわかりました。筆者の森田さんは「これほどまでに商品を複雑化することが、はたして『顧客本位』と言えるのだろうか」と疑問を呈していて、確かに何らかの環境整備が必要ではないかと思えます。

「自動運転社会の到来と損保ビジネスの変化」では、自動運転が普及すると自動車保険市場が縮小するという通説に反し、筆者の八幡さん(東京海上日動)は、マーケットの縮小は緩やかなものとなるだろうし、新たな移動サービスに関する補償や自動運転に伴う新たなリスクへの対応など、これまでになかった役割もあると主張しています。新たな役割がビジネスとしてどの程度有望なのかによるとはいえ、保険会社が自動運転をはじめとした移動サービスに積極的に関わろうとしているのは確かで、将来に向けた経営の意思を感じます。

売れなければ特集号を出し続けることができないという事情を理解したうえで、来年以降も読んで面白い記事が多く掲載されることを期待したいです。

※大宰府を守る水城の跡にコスモス畑がありました。

 

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保険学会の全国大会で報告

10月23日から24日にかけて、日本保険学会の全国大会がオンラインで開催されました。
オンライン開催なので、懇親会等での非公式な意見交換ができないのは残念なのですが、大会に参加しやすいというメリットはありますね。私も福岡にいながらにして報告を行うことができました。

情報開示とメディア

私は3月の九州部会に続き、全国大会でも保険会社の経営情報の伝達について報告しました。
過去20年間の決算報道を調査したところ、平時における報道内容が固定化していることを「発見」したので、その理由を探るため、主要保険会社の広報部門(およびメディア関係者)へのインタビューを行いました。その結果、報道固定化には「メディア自身によるニュースバリューの判断」「報道機関固有の事情」が影響していることが見えてきました。
報告の詳細は今後どこかでご覧いただけるかと思います。

地震リスク

今回の大会では土曜日のシンポジウム、日曜日の共通論題がいずれも地震リスクに関するものでした(金融庁の栗田監督局長による特別講演でも自然災害リスク関連の話がありました)。
シンポジウム「レジリエンスから見た地震リスクと地震保険」は個人の地震リスクと家計向け地震保険についての発表とディスカッション、共通論題「地震リスクに対する企業保険制度の課題」は企業の地震リスクとその対応状況についての発表とディスカッションという内容で、特に後者は知る人ぞ知るという内容だったかもしれません。

共通論題を聞いたうえでの私見ですが、企業の地震リスク対応が進んでいない根底には、日本企業に資本コストを意識した経営が浸透していないことや、そもそも大企業と言えども実質的に事業部門の集合体で、コーポレート部門の機能が弱いという問題があるのだと理解しました(共通論題ではそこまで突っ込んだ議論にはなりませんでしたが)。

なお、シンポジウムではお二人の先生が、地震保険の危険準備金取り崩しをもって「破綻の危機」「財政に懸念」とおっしゃっていて、この点はよくわかりませんでした。
民間準備金が取り崩されてから、官民負担スキーム修正(民間負担分を下げる)までのタイムラグの問題があるとはいえ、地震保険は超長期の収支均衡を意識したプライシングがなされ、政府が再保険というかたちでバックアップするしくみです。もし民間準備金が枯渇し、新たな準備金の蓄積まで政府負担が大半を占めるスキームになったとしても、それをもって「破綻」とみなすのは私には抵抗があります。この保険の存続可能性を問題視するのであれば、論点はリスクに応じたプライシングがなされているか、ではないでしょうか。

※ハロウィンまであと1週間ですね。

 

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生命保険の年齢別・男女別統計表

代理店統計を確認しようとインシュアランス生命保険統計号を見ると、巻末に「年齢階層別・男女別統計表」が載っているのに気が付きました(2016年から載っていたようです ^^;)。元データは生命保険協会の統計みたいですね。
生命保険の加入者は、どちらかと言えば男性のほうが多いというイメージですが、過去5年の個人保険・新契約件数の男女比は概ね半々でした。

  年度  男性の割合
 2015年度  49.6%
 2016年度  49.8% 
 2017年度  49.9%
 2018年度  50.8%
 2019年度  51.9%

生命保険協会の統計を20年前までさかのぼると、2008年度までは新契約件数の53~56%を男性が占めていました。その後女性の割合が高まったのは、統計にかんぽ生命が加わったことのほか、銀行窓販の終身保険や、医療・がん保険の販売が影響していると考えられます。足元で男性の割合が高まっているのは、かんぽ生命の営業自粛が効いているのかもしれません。

統計表には新契約高(保険金額ベース)も載っていて、こちらは男性が67.2%を占めています(2019年度)。新契約高は死亡保障を中心とした指標なので、主に20代から40代の男性が遺族のために保障を買っているという構図は今でも続いているとうかがえます。

年齢階層別データを合わせて見ると、女性は60代以降の層が生命保険を最も購入しているようです(件数ベース)。先に挙げた「かんぽ生命」「銀行窓販の終身保険」「医療・がん保険」のいずれも、販売の中心は高齢女性となっているのでしょう。

※来週から賑やかなキャンパスが戻ってきます。

 

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