03. 保険市場の動向

マイクロ保険

10月28日から29日にかけて、日本保険学会の年次大会がありました。今年度は久しぶりに懇親会も開かれ、にぎやかな大会となりました。

初日のシンポジウムのテーマ「先端医療と保険」には、報告者として同僚の伊藤先生が登壇したにもかかわらず所用により私は参加できず(すみません)、2日目の共通論題「マイクロ保険の現状と課題」に参加しました。
マイクロ保険(マイクロインシュアランス)について私はあまり馴染みがなかったのですが、ニッセイ基礎研究所の片山さんの資料によると、2022年現在、加入者は34か国、2億人超で、導入する地域が増えているとのことでした。

報告を聞いて、私は次のような理解をしました。正しいかどうかは自信がありません…

・マイクロ保険も通常の保険もしくみは同じ
・マイクロ保険は低所得者・貧困層などを加入対象としており、通常の保険にはない存在意義を持つ
・加入対象の特性から小口かつ保険料滞納リスクなどがあり、さらに保険事業への理解も低いことから、極力コストを抑えつつ、加入者を引き付ける(引き留める)ための工夫がないと持続可能な事業になりにくい

事業者目線からすると、「採算ベースに乗りにくい保険事業が技術革新によって実現できるようになった」というのはわかります。
他方で「採算ベースに乗らない保険事業をあえて行う」というのはどう考えたらいいでしょうか。他の事業があって、社会貢献あるいは市場参入のためのコストとしてとらえればいいのでしょうか(株主など他のステークホルダーが許容する範囲において)。こちらを保険事業と言っていいのか、私には疑問です。

複数の先生が「アグリゲーター」と呼ばれる非保険業の事業体について触れていました。この事業体が関わるマイクロ保険と、無尽や頼母子講といった共同体の互助金融を比べた議論はありそうですね。

※写真は会場の京都産業大学です。

 

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近況報告

佐賀で出張授業(10月20日)

佐賀市にある県立高校の1年生に出張授業で「リスクと保険」の話をしてきました。
高校に入学してまだ半年の生徒でも「ビッグモーター」事件は浸透しているのですね(スライドを見せたら「わぁ」と声が上がりました)。
ただし、事件を知っていても「車をわざと壊して不正にお金を受け取った」くらいの理解ですので、保険のしくみを説明したうえで、ビッグモーター事件のどこが問題なのかをお話ししました。

佐賀は博多駅から特急で40分という近さにもかかわらず、町の中心部に行ったのは今回が初めてでした。
駅から30分ほど歩くと佐賀城跡があって、本丸御殿が再建されています。写真のレトロな洋館は旧古賀銀行の本店です。現在は歴史民俗館・カフェレストランとして使われています。

RIS九州ブロック中間報告会(10月22日)

西南学院大学で九州の4大学のゼミが報告会を行いました。
今の植村ゼミ3年生は、2年生の12月に学内の報告会を経験しているとはいえ、他流試合は初めて。しかも、研究はどの班もまだまだゴールが見えない状況です。それでも他大学の報告を目の当たりにしたり、実務家からアドバイスをいただいたりしたなかで、何かを得ることができたのではないかと思います。ここからの約1か月が勝負なので、がんばりましょう。

RIS2023の全国大会は12月2日、3日に福岡大学で行います。今回は対面のみの開催で、久しぶりに懇親会もあります。
申し込みが始まりましたので、リスクと保険を学ぶ学生にご関心のある方はぜひご参加願います。お申し込みはこちらです。

東洋経済『生保・損保特集』に寄稿

毎年恒例の週刊東洋経済の臨時増刊『生保・損保特集』が本日発売されたようです。
今回は久しぶりに執筆しました(新しいソルベンシー規制について)。業界人だけではなく、保険業界に関心のある学生にも理解できるように書いたつもりなのですが、どうでしょうか。

 

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平成時代の社会変化と生命保険のニーズ

寄稿の紹介が続きますが、今週の保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1204(2023.10.16)に寄稿したものです。

<参考資料>
グラフで見る世帯の状況 ※最新版は有料のようです
専業主婦世帯と共働き世帯
50歳時の未婚割合の推移

なお、日本の未婚化について、ニッセイ基礎研究所の天野さんによるレポートを見つけました。ご参考まで。
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世帯構造の変化

皆さんにいくつか質問です。まず、現在の日本では何人世帯が最も大きな割合を占めているかご存じでしょうか。
正解は2人世帯でして、世帯数全体の約3割を占めています。次に多いのは1人世帯で、全体の4分の1くらいです。1970年代から80年代にかけて最も大きな割合を占めていたのは4人世帯だったので、これだけでも平成時代の30年間に日本の世帯構造が大きく変わったことがわかります。

次の質問です。2022年現在、専業主婦世帯と共働き世帯の割合はどの程度でしょうか。
正解は約3:7で、共働き世帯が多数派となっています。1980年代までは共働き世帯のほうが少数派でしたが、90年代に両者の割合がほぼ同じとなり、2000年代以降、共働き世帯の割合が高まりました。
もっとも、女性雇用者の約5割が非正規雇用であり、年齢が高いほど非正規雇用の割合が高まる傾向にあります。

もう1つ質問です。2020年において、50歳時の男性の未婚割合、つまり、50歳時点で一度も結婚をしたことのない人の割合はどれくらいでしょうか。
正解は28.3%です(計算方法の違いにより25.7%という数字も公表されています)。ちなみに女性は17.8%です。30年前の1990年には男性が5.6%、女性が4.3%でして、年々割合が高まり、今や4人に1人を超す男性が50歳時点で結婚経験がありません。
日本は婚外子の割合が2%強と少ないので、結婚しなければ子どもが生まれないということになります。

生命保険の事業環境は激変

いかがでしょうか。平成という時代は、日本の世帯構造が大きく変化した時代だったことが改めてわかります。
これらの影響を多くの産業が受けているのですが、とりわけ生命保険業界には猛烈な影響がありました。遺族保障のニーズが強いであろう夫婦2人・子ども2人で妻が専業主婦の4人世帯は、もはや少数派となってしまいました。シニアの2人世帯は「そろそろ生命保険から卒業」でしょうし、共働きの2人世帯では、普通に考えれば、子どものいる専業主婦世帯に比べて遺族保障のニーズは小さいはずです。1人世帯にいたっては、親が受取人となる生命保険に加入する人は少ないでしょう。

他方で、どの世帯においても、老後の生活保障ニーズはますます強まっていると考えられます。他の金融機関・金融商品との激しい競争を覚悟したうえで魅力的な資産形成手段の提供に活路を求めるのか、あるいは、生命保険会社が得意としている(はずの)死亡率等を使った長生きリスクへの対応を強めるのか。
いずれにしても事業環境の激変に対し、生命保険会社が国内でできることはまだまだあると思います。
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※福岡タワーの影が砂浜に!

 

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損保の価格調整問題

大手損害保険会社が企業向け保険で保険料の事前調整を行っていたという問題について、9月29日のBloomberg記事「損保4社が報告書提出、調整行為の範囲など金融庁が実態解明へ」に私のコメントが載りました。

<以下引用>
福岡大学の植村信保教授は、報告書の提出を受けて調査が進めば「個社の問題ではなく、業界の問題ということが明らかになるだろう」と期待する。損保の担当者に「法令違反をしているという意識はなく、取引慣行として長年行われていた可能性がある」とみており、「経営陣が何も知らなかったということはないのではないか」と指摘。保険市場を「より透明性の高い環境に変えていくべきだ」と話す。
<引用終わり>

実のところ、取材では損害保険業界の問題だけではなく、顧客である大企業についても辛口のコメントを出しています。
というのも、ビッグモーター問題とは違い、こちらの保険契約者は企業のリスクマネジメントの一環として保険を活用してきた、いわばプロであるべき契約者だからです。なかでも、より高いガバナンス水準が求められる東証プライム市場に上場するような会社であれば、保険のことは企業内の系列代理店(実質的には特定の保険会社とその出向者?)に任せっきりというのは本来許されることではありませんし、特定の保険会社と優先的に取引してきたのであれば、その理由を株主などに合理的に説明できなければなりません。

価格調整が取引慣行として長年行われてきたのは保険会社の都合だけなのでしょうか。企業代理店が価格調整の存在をある程度知っていたケースも多いのではないかと思いますし、そうだとすると、企業サイドも好都合と考えていたのではないでしょうか。
あるいは、企業サイドが価格調整の存在を全く知らなかったとしても、料率の本格的な引き上げ局面になるまで問題が発覚しなかったのは、保険をリスクマネジメントの手段というよりは、単なるコストの一項目くらいにとらえてきたということなのでしょう。

例えば再保険市場で料率が大きく上がっても、大手損保は長年の取引関係を考慮し、元受保険料に全面的に転嫁するような対応をしてきませんでした。寡占市場といっても、例えばブローカーを使って外資系などこれまで取引のない保険会社から保険を手配することは可能でしたが、そのような動きは一部を除き、聞いたことがありません(おそらく外資系のほうが総じて料率が高いのではないかと思いますが…)。

もっとも、保険を手配するコストを抑えることができていたとしても、その代償として、企業に保険に通じた人材が育たず、総務部や人事部を窓口にして、工場や建物に財物保険をかけておしまい、といったことになっている企業が多いのではないでしょうか(統計などがないので断定はできませんが)。

保険会社の事前価格調整は許されるものではありませんが、大企業のリスクマネジメント意識の低さが、今回の問題の背景にあると私は考えています。

※日本金融学会の秋季大会が九州大学で開催されました。

 

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損害保険代理店統計

今週の保険代理店向けメールマガジンInswatch Vol.1196(2023.8.7)に寄稿したものを本ブログでもご紹介いたします。
業界データという点では、業界紙にももっと頑張っていただきたいですね。
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代理店数の減少傾向が続く

日本損害保険業界はこの7月末に、2022年度の損害保険代理店統計を公表しました。
22年度末の代理店実在数は15.6万店(前年度末比▲2.7%)と、このところ年3%程度の減少が続いています。新設・廃止の状況を見ると、コロナ禍で廃止数が増えたということはなく、新設数が少ないことが全体の減少に影響しています。
他方、22年度は損害保険の募集従事者数が7.9%も減り、200万人を割り込みました。ただし、減少した15.8万人のうち10.4万人が運輸・通信業なので、何か特殊要因がありそうです。

種目別・チャネル別データの開示が不十分

このところビッグモーター問題などでメディアの取材を受ける機会が増えています。そこで感じるのは、記者さんの多くが残念ながら保険代理店についてほとんど知識を持っていないという現実です。
例えば、「日本では損害保険(元受正味保険料)の9割を代理店が販売している」「保険販売を本業とするプロ代理店と、他に本業があって副業として保険販売をしている代理店がある」「特定の保険会社の商品しか扱わない専属代理店と、複数の保険会社の商品を扱う乗合代理店がある」といった説明をしたうえで話をしないと、ビッグモーターが保険代理店の象徴のように取り上げられ、「消費者の知らないところで保険会社と代理店が好き放題やっている」というトーンで報道されかねません。

ところが私が、「自動車保険を販売しているのはビッグモーターのような自動車関連業の代理店だけではなく、保険専業の代理店の販売シェアも大きい」と説明したくても、この代理店統計に載っている保険募集チャネル別のデータは代理店数と募集従事者数だけで、扱保険料がありません。代理店数で見ると自動車関連業の代理店が全体の5割強を占めているのですが、このなかには小規模のモーターチャネルが数多く含まれているのでしょうから、扱保険料でも5割強ということはないでしょう。
他方で「専業・副業別」「法人・個人別」「専属・乗合別」という統計には代理店数、募集従事者数に加えて扱保険料データも出ています。数のうえでは8割を占める副業代理店が扱保険料の6割を占めていることや、数では23%しかない乗合代理店が扱保険料の7割を占めていることはわかっても、もう少し代理店の属性や種目を細分化していただかないと、保険市場の現状がよくわかりません。

業界全体が不審の目で見られかねない

現在、個社で販売チャネル別の収入保険料データを示しているのは、私の知るかぎりでは東京海上日動(東京海上ホールディングス)だけです。全種目合計ではありますが、22年度の保険料(営業統計保険料)のうち、ディーラーが19%、整備工場が8%でした。
SOMPOホールディングスは2017年度まで損保ジャパン日本興亜(当時)の販売チャネル別・種目別の営業成績(収入保険料)を公表していました。これによると、自賠責保険ではディーラーが42%、整備工場等が45%を占め、自動車保険ではディーラーが23%、整備工場等が16%となっていました。
こうした情報開示がないと、メディアの注目を集めるような現場情報に世の中が左右されてしまい、場合によっては大混乱を招くような規制が導入されてしまうことにもなりかねません。損害保険業界として静観するのではなく、まずは情報開示を進めるのが得策ではないでしょうか。
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※今年もオープンキャンパスで講師を務めました。

 

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ビッグモーター事件

中古車販売大手ビッグモーターの保険金不正請求問題が連日のように報道されています。
調査報告書を見ると、確かに信じられないようなことがいくつも載っています。
不適切な保険金請求の中身もすごいですが、従業員が5000人を超える大企業にもかかわらず実態はA社長の個人商店のままで、例えば取締役会が開催されていないとか、「経営陣の判断一つで、ある日突然降格処分が下される」とか、少なくとも問題は不正請求に手を染めた板金部門だけではなく、経営組織全体にあることがわかります。

保険会社にとってビッグモーターは、交通事故を起こした保険契約者の自動車を修理する整備工場というだけではなく、自賠責保険や自動車保険を販売する保険代理店でもあります。
販売チャネルに関する情報開示が限られているなかで、損保ジャパンは2017年度まで販売チャネル別・種目別の営業成績(収入保険料)を公表していました。データを見ると、ディーラーと整備工場等が自賠責の9割弱、自動車保険の約4割を販売していました。参考までに、保険専業の代理店の販売シェアは自賠責で6%、自動車保険では4割弱でした。

自賠責・自動車保険は損害保険会社の収入保険料のうち6割弱を占める中核的な種目なので、自動車関連の販売網は保険会社にとって重要な存在であることがわかります。自動車関連の代理店には零細なところも数多くある一方、会社の規模が大きく、多額の保険を取り扱う代理店もあります。そのような副業代理店に対し、保険会社は保険専業の代理店と同じような管理・指導を行っているのでしょうか。
先日問題が発覚した大企業向け保険の世界とともに、古くて新しい問題なのかもしれません。

※旧大和生命ビルは解体工事中でした。

 

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金融庁の保険関連レポート

6月30日は金融庁の事務年度末ということで、金融庁のサイトにはなんと30以上の新着情報が並びました。保険関連のレポートもいくつか公表されましたので、ごく簡単に紹介します。

新ソルベンシー規制の検討状況

経済価値ベースのソルベンシー規制等に関する基準の最終化に向けた検討状況について

金融庁は新たなソルベンシー規制を2025年度に導入しようとしています。このレポートは基準の最終化に向けての論点およびその検討状況を示すものです。例えば、以下について暫定決定したとのことです。

・2026年3月期から新基準に基づくESR(経済価値ベースのソルベンシー比率)の計算・報告を開始(年度末のほか、中間期末にもESRを報告)
・各社の「保険数理機能」が「保険負債の検証レポート」を年1回作成し、取締役会と当局に提出(保険数理機能の責任者は保険計理人でなくてもいい)
・各社の「ESR検証機能」が「ESR検証レポート」を年1回作成し、取締役会と当局に提出
・ESR=100%で監督介入を開始し、ESR>0%のどこかで最も強い監督を発動する方向
・実質資産負債差額の取り扱いを廃止する方向(会計上の債務超過リスクや流動性リスクは第2の柱で捕捉)
・法定開示はSMRと同じ年1回、年度末から4か月以内とする方向

なお、関連情報としてIAISが「規制資本としてのICSの最終化に向けた案」を公表したというアナウンスもありました。

保険モニタリングレポート

『2023年 保険モニタリングレポート』の公表について

金融庁による保険行政を総括したレポートで、金融庁は2021事務年度から公表しています。

個人的に興味深かったのは、11ページの図表「(参考2)家計火災保険の料率世代別の構成割合の推移」です。かつての個人向け火災保険は最長36年、あるいは2015年10月から2022年9月までは最長10年だったので、2025年になってもこれらが5割は残っているという試算結果が示されています。料率引き上げは既契約には適用されないので、なかなか厳しいですね。

新型コロナ関連の多額の給付金発生について何かコメントがあるかと探したところ、事実を示しているだけでした。2023年3月期には生命保険業界だけで約1兆円もの支払いが発生したのですから、本来はリスク管理上の何らかのコメントがあってしかるべき。あえて触れるのをやめたのでしょうか。
他方で28ページからは、金融庁が相互会社の契約者配当に関する情報提供のあり方やガバナンス向上について問題意識を持っていることが示されています。

営業職員チャネルや代理店チャネルに関する記述も多いので、業界関係者のかたは一読するのをお勧めします。

本質的な話ではないのですが、実はいきなり4ページめの図表「(参考)三利源及び逆ざやの推移」で引っかかってしまいました。「利差損益」と「逆ざや」は同じものだと思うのですが、上の図と下の図で金額が違うようです。何か理由があるのでしょうから、注記してほしいですね。

リスク性商品販売のモニタリング結果

リスク性金融商品の販売会社における顧客本位の業務運営のモニタリング結果

ここで言う「リスク性金融商品」とは投資信託、ファンドラップ、仕組債、そして外貨建て一時払い保険のことです。金融庁がモニタリングした金融機関は主要行等、地域銀行、証券会社等となります。

保険に関して言えば、注目は7ページの図表12~15です。主要行等も地域銀行も継続的に一時払い保険を販売してきたにもかかわらず、主要行等の一時払い保険の預かり資産残高はほぼ横ばい、地域銀行も微増です。資産形成機能があるとはいえ、販売会社は保険の魅力で提供しているのですよね。これって、かなりまずい状態ではないでしょうか。

※博多は夏祭りシーズンとなりました。

 

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台湾のコロナ保険

昨年11/27のブログ「コロナと損保決算」で台湾損保の話にも触れましたが、ネットで調べてみたところ、コロナ保険のリスクマネジメント失敗によって、日本の入院給付金の急増よりもはるかに深刻な事態に陥ったことがわかりました。

主な経緯は次の通りです。

・2020年12月:台湾産物保険が発売した「コロナ保険」が大人気となり、他社も相次いで販売
・2022年4月:台湾政府がゼロコロナ政策から転換し、感染者数が急増。各社の保険金支払いも急増
・6月:コロナ保険の販売を全面停止(販売停止の動きは4月から)。各社が増資を発表
・8月:東京海上グループが新安東京海上産物保険に追加出資し、子会社化
・12月:コロナ保険の年間支払いが約9000億円に(保険料収入は250億円程度)

台湾損保のコロナ保険は主に「防疫保険」と「ワクチン保険」です。防疫保険ではコロナ感染で治療を受けた場合の補償のほか、隔離対象(濃厚接触者を含む)となった場合にも補償があります。ワクチン保険はワクチン接種による副反応の治療費を補償します。
大人気となった台湾産物保険の商品は、約2000円の保険料(年間)を支払うと、隔離対象となったら約20~40万円の給付金を受け取れるというものでした。台湾の人口は約2300万人なので、業界全体で数百万件(1千万件という報道も!)も売れたコロナ保険の人気は相当のものだったようです。

日本のコロナ保険や医療保険では、みなし入院でも入院給付金を支払うとした「判断」が裏目に出ました。これに対し、台湾損保のコロナ保険では、隔離に対する保険金の支払いが大きかったのではないかと思います。そもそも、コロナ政策の優等生と言われた台湾政府が2022年4月に突然ウィズコロナ政策に転じるとは、現地の保険会社でも予想できなかったのでしょう。
ただ、未知の感染症に対する多額の補償を短期間で急速に積み上げてしまった点をはじめ、保険会社や政府の対応としてよくわからないところがありますね。

※つばめグリルではありません。東洋亭です。

 

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保険ショップは代理店

大学の講義ではどうしても私が一方的に話をすることになるので、確認のために小テストを頻繁に行うようにしています。紙ベースではなくFormsを使っているので、あまり手間をかけずに管理できます。
確認テストなので9割以上の受講生が正答となるように問題を作っているつもりなのですが、たまに半分くらい間違えていたりすると、こちらの伝え方が悪かったのではないかと凹みます。

正答率が低い問題の代表例がこちらです(正誤問題)。

「複数の保険会社の商品を取り扱う来店型保険ショップは保険代理店ではなく、保険仲立人(保険ブローカー)である」

来店型保険ショップは保険代理店です。保険の流通市場(=誰が保険を販売しているか)の話をした後のテストなのに、ひどいときには半分以上の受講生が「正しい」を選んでしまいます。代理店と保険ブローカーの違いを板書しながら説明したり、乗合代理店の例として保険ショップの具体名を挙げて紹介したりしても、なぜか結果はあまり変わりません。
「複数の保険会社の商品を取り扱う」⇒「中立的な存在」⇒「仲立人」となってしまうのでしょうか。

大学で教えるようになって気がついたのは、同じ若年層でも大学生と社会人を等しくとらえるべきではないということです。個人差はあるにせよ、飲食店でのアルバイト経験くらいでは社会人と同じようなリテラシーは身についていないと考えるべきなのでしょう。特に私のような実務家出身の教員は、自分の話が学生に伝わっていない可能性を常に意識する必要がありそうです。

※学問の神様にお参りしてきました。

 

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地震保険の加入状況

今週のInswatch Vol.1164(2022.12.12)に寄稿した拙文をこちらでもご紹介します。ご協力いただきました皆さま、ありがとうございました。
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地震保険の付帯率

福岡大学・植村ゼミでは全国学生保険学ゼミナール(RIS)という、リスクと保険を学ぶ大学ゼミの交流組織に参加し、全国大会での発表を3年生の活動の柱としています。今年のRIS全国大会(12月3日~4日、慶應義塾大学)では13大学16ゼミが研究成果を発表し、大学を超えた学生間の交流も見られました。
たまたま植村ゼミの1つのチームが「地震保険の付帯率(住宅物件の火災保険に地震保険が付帯されている割合)」をテーマに据えて、「付帯率が上がれば、35%程度にとどまっている世帯加入率も高まるはず」と考え、研究を行いました。私としても改めて地震保険の普及の難しさを知るいい機会となりました。

都道府県別に特徴がある

全国レベルで見ると、地震保険の付帯率は概ね直線的に高まっています。しかし、都道府県別の推移を追うと、付帯率の水準がバラついているだけでなく、過去の推移にも都道府県ごとの特徴があるとわかりました。
例えば、2016年の熊本地震で甚大な被害を受けた熊本県の付帯率は、震災後に急上昇して、その後も上がり続けています。これに対し、南海トラフ巨大地震の発生で大きな被害が想定されている静岡県では、保険料率の上昇が続いたこの5年間は付帯率があまり高まらず、ついには全国平均を下回ってしまいました。他方で高知県のように、保険料率の上昇が続いても高水準の付帯率を維持している県もあります。
地震保険の普及を進めるには、リスク認知の状況をはじめ、地域の実情に合った取り組みが必要ということを改めて確認できました。

販売の担い手は誰か

ゼミの研究では地域の実情を少しでも探るため、ある静岡県の保険代理店(プロ代理店)にインタビューを行わせていただきました。そこで出てきたのが「来る来る詐欺(=子どものころから大地震が来ると脅されてきたけど一向に来ない)」「金融機関が地震保険を積極的に勧めない」という話です。うちの学生は「来る来る詐欺」のほうに強い関心を持ったようですが、オブザーブ参加していた私には後者が引っかかりました。住宅向けの火災保険を販売しているのは誰なのか。恥ずかしながらこれまであまり意識したことがなかったからです。

残念ながら、保険種目別にチャネル別の業績を公表している会社はなく、業界団体の統計も見当たりません。SOMPOホールディングスが2017年度末までチャネル別営業成績を種目別に公表していたので、そのデータを確認したところ、金融機関の販売シェアは全種目合計では7%、火災保険では18%となっていました。この「火災保険」には企業物件や工場物件なども含まれるので、住宅物件に限れば金融機関の販売シェアはさらに高い可能性があります(データをご存じのかたはぜひご教示ください)。
現場の声とはいえ、1つの代理店の見解だけで決めつけることはできません。しかし、金融機関やハウスメーカーといった兼業代理店が地震保険をどの程度重視しているかというのは、注目に値するポイントだと思います。
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※京都で「朝のおつとめ」に参加しました。浄教寺にて。

 

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