3月31日に金融庁が火災保険水災料率に関する有識者懇談会の報告書を公表しました。
保険料率を決めるのは金融庁ではなく保険会社(参考純率は損害保険料率算出機構)なので、本報告書は「損保料率機構及び損害保険会社による適切な検討を促すため」に「様々な分野の有識者から聴取した意見を取りまとめたもの」という建て付けになっていて、メンバーの皆さんには申しわけありませんが、何とも不思議な報告書となっています。
すでに料率細分化を行う前提であれば、主要な論点は、高リスク契約者の保険料は高くなるので、どうやって高リスクであることを理解してもらうか(&どこまで保険購入可能性に配慮するか)。そして、水災補償を外す傾向が強い低リスク契約者に対しては、ある程度リスクに応じた料率になるなかで、どうやって補償のメリットを感じてもらうか。この2点に尽きるのはないかと思いますし、具体的な案(通常は複数)をもとに議論しないと一般論から先に進めません。
ただ、資料や議事録を見るかぎり、有識者懇談会では具体的な案について検討した形跡はなく、報告書にも「どの程度の料率較差が望ましい」といった具体的な指針は示されていません。
他方で、3月11日の日経電子版(有料)は「2024年度から導入する個人向けも1.5倍程度の差がつく見通し」と報じました。日経が勝手に数字を作ったとは考えにくく、おそらく業界のリーク情報なのでしょう。読売も3月8日に「損害保険業界は2024年度から新たな区分に基づく保険料を導入する方向で調整」と報道しているので、業界ではすでに準備が進んでいるとうかがえます。
気になるのは懇談会での議論です。業界からの情報提供がなかった(したがって何も議論していない)というのであれば、私がメンバーだったら納得いきませんし、もし懇談会で業界案について議論したのであれば、資料を公表し、報告書に反映すべきです。どうもすっきりしないですね。
ちなみに同じ日経記事に、「保険はリスクの異なる契約者が大量に加入することで保険金を支払う確率が均一化する『大数の法則』が根幹になる」とあります。こんな大数の法則の定義は聞いたことがありませんし、ここで問題となるのは大数の法則ではなく、保険の相互扶助性をどう考えるかです。授業のネタとして取り上げようかな。
※花筏や桜吹雪を楽しみました。