大学生と保険行政

 

ある大学の保険の授業で次のような課題が出ました。

「あなたが金融庁で保険行政を担当しているとします。
 最近の金融情勢を踏まえたうえで、
 いま行政官として何をするのが望ましいと思いますか。
 あなたの考えを自由に述べなさい。」

「最近の金融情勢を踏まえて」とあり、かつ、授業の内容に
どうしても影響されるので、「経営破綻を防ぐ」とか
「保険会社の監視を強める」といった回答が多いのは予想通りです。
ただ、なかには具体的なものもあり、なるほどと思いました。

・保険会社の経営者を、企業経営・経済学などの
 幅広い学習ができるスクールに参加させる。
 >>保険の知識だけでは不十分ということなのでしょうね

・経営者だけではなく、会社の内面をよく知っている従業員や
 関係者にインタビューして、会社をより理解する。
 >>経営者から話を聞くだけでは不十分との指摘でしょうか

・投資家と協力して保険会社のガバナンスを強化する。
 >>確かに行政と市場のコラボはもっとあっていいかもしれません

・保険会社への検査の頻度を増やす。あるいは、
 検査を第三者機関に委託する。
 >>たぶん今のままではダメという、なかなか厳しい意見です

あと、「若い世代が積極的に払うような年金制度を作る」
「高齢社会に合わせた年金商品の拡充を指導する」といった
年金に関する回答も目立ち、このテーマへの関心の高さが伺えます。

 

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不払い問題の収束

 

金融庁は16日、生保10社への不払い問題に関する
業務改善命令を解除しました。
金融庁のHPへ

2005年からの保険金不払い・支払漏れ問題という
「事件」はこれで一応の収束となりますが、
事件前と後で保険業界はどう変わったのでしょうか。

日本の保険業界が今後どのような経営を行い、
どのような商品・サービスを提供していくのか、
引き続き注目したいと思います。

ところで報道によると、このところ米国の生保業界でも
保険金支払いに関する問題が持ち上がっているようです。

米国では従来、保険会社は契約者からの死亡通知を受け、
死亡保険金を支払ってきました。通知がない場合には、
被保険者が100歳+αになるまで保険会社が管理し、
その後は未請求の財産として州当局に移すのだそうです。

ただ、米国には公的な社会保障データベースがあります。
保険会社はこれを年金保険の支払い管理のために活用し、
被保険者の死亡がわかりしだい、年金の支払いを止めているとか。

このような死亡保険と年金保険の取り扱いの違いが
最近になって問題視されました。

すなわち、年金保険では社会保障データベースを確認して
年金の支払いを速やかに止めているのだから、
死亡保険でもデータベースを確認し、被保険者の死亡がわかれば
保険金を速やかに支払うべき、という話なのでしょう。

詳細はよくわかりませんが、ニュースを見る限りでは、
そのように言われても仕方がないように思います。

※恒例の町内会もちつき大会に行ってきました。

 

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欧州債務危機の現状

 

日本の不良債権問題は1990年以降のバブル崩壊で顕在化し、
解決には2000年代半ばまでかかりました。
特に1997年以降は信用収縮の傾向が顕著となりましたが、
大手銀行への二回の資本注入や企業向け支援策などもあり、
ようやく危機を脱することができました。

他方、米国発の金融危機は、米住宅バブルの崩壊に端を発し、
証券化商品等を通じて大手投資銀行を経営危機に追い込み、
世界的な危機に発展しました。
米国政府(TARP)による大手銀行等への資本注入もありましたが、
FRBによる住宅ローン担保証券の購入も大きかったように思います。

日米ともに大手銀行等への資本注入だけではだめで、
例えば不良資産の買い取りや企業向け支援など、
金融機関のバランスシートの両側に対する対策が必要でした。

今回の欧州債務危機を日米不良資産問題になぞらえると、
先週のEU首脳会議や銀行の資本不足額公表等を見るかぎり、
「資本注入」も「不良資産買い取り」もこれからということなので、
解決にはまだまだ時間がかかると見るべきなのでしょうね。

※左は慶大日吉キャンパス、右は横浜・日本大通りです。

 

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今年の重大ニュース

 

早いもので今年も「重大ニュース」や「10大ニュース」
などを見かける季節になりました。

某学習塾が中学入試の社会科対策として選んだ
最重要ニュースは次の6つだそうです
(他に12の注目ニュースも載っていました)。

1.東日本大震災...自然と生活の関連
2.福島第一原発事故...日本のエネルギー問題
3.震災復興と新内閣の誕生...日本の政治
4.小笠原諸島と平泉が世界遺産に登録...自然や文化の保護
5.アジア諸国の躍進と日本の地位...世界経済の動き
6.世界人口が70億人を突破...日本と世界の人口問題

確かにいわゆる時事問題がこの中から出そうな感じがしますね。

※左の写真は戦時中に使われていた軍票です。
 本物かどうかはわかりません...

 

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FP深田晶恵さんの新刊

 

同世代の売れっ子FP深田晶恵さんが、
「『投資で失敗したくない』と思ったら、まず読む本」
という本を出版しました。

投資デビューする前に読む入門書なのですが、
「ある程度売り手の事情を知っておいたほうがいい」
という深田さんの主張に思わずうなずいてしまいました。

例えば本書には、「金融機関で言ってはいけない言葉」
「窓口で使える言葉」がリストアップされています。

ネタバレになるので多くは書きませんが、例えば、
「そこそこ増える商品を選んでほしい」
「今、売れている商品は何ですか?」
は禁句なのだそうです(理由は本書に書いてあります)。

保険関連では一時払終身保険の話が載っています。
「一見おトクそうに見える一時払い終身保険」ということで、
「貯蓄目的であれば普通の貯蓄商品を使えばよく、
 わざわざ保険を買う必要はない」
というのが深田さんからのアドバイスです。

ところで、私の単なる知識不足だったのですが、
個人が買える国債は「個人向け国債」だけではなく、
本来の国債(「新型窓販国債」と言うそうです)も
購入できるのですね。

個人向け国債は中途解約時の額面保証がある代わりに
通常の国債よりも利率が低く、これしか選択肢がないのは
変だなあと思っていたので、私には目からうろこでした。

金融用語にはそれなりに通じているつもりですが、
実際には知らないことばかりだなあと、つくづく思います。

※写真はマラッカのチャイナタウン(?)です。

 

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古都マラッカ

 

マレーシアからの帰国前に強行軍でマラッカに行ってきました
(帰国便の出発までに時間があったので)。

世界地図を見ると、いかにも重要そうなところってありますよね。
アジアとヨーロッパの接点であるイスタンブールや、
大西洋と地中海をつなぐジブラルタルなどがその典型でしょうか。
マラッカもそのような位置にあります。

古くは明の永楽帝の時代(15世紀)に中国からアフリカまで遠征した
鄭和(ていわ)の艦隊もマラッカに寄港していますし、
日本にキリスト教を伝えたフランシスコ・ザビエルは、
マラッカで日本人ヤジローと出会い、日本行きを決めました。

そのような重要な場所なので、重層な歴史を持っています。

14世紀末にマラッカを建設したのはマラッカ王国です。
東西貿易で栄えた国のようで、15世紀にイスラム化していますが、
中国(明)に朝貢していており、影響を受けていたようです。

その後、16世紀初頭にはポルトガルがマラッカを征服、
以来、ヨーロッパ勢力の支配下に置かれることとなります。
17世紀にはオランダ(東インド会社)が占領し、
19世紀半ばからはイギリス領の拠点都市となりました。
数年間ですが日本の軍政下に置かれた時代もあります。

こんな歴史を持っている都市ですから、
歩いていて楽しくないはずがありません。
19世紀からはシンガポールが台頭したためか、
古い町並みが残っているのも魅力的です。
ごく短時間の滞在でしたが、歴史好きにはたまらないところでした。

※写真は16世紀にポルトガルが建てたカトリック教会の跡です。
 ザビエルが布教活動を行っていたそうで、像が立っていました。

 

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中央銀行の協調策

 

日米欧の中央銀行(日銀、米FRB、ECB、英、スイス、カナダ)が
協調して欧州危機への対応策を打ち出しました(11/30)。
国際金融市場へのドル資金供給を充実させることで、
市場の緊張を和らげようというものです。

2008年のリーマン・ショックの経験を生かした対応として
前向きにとらえることもできますが、事態の深刻さも伺えます。

日本にいると、あくまで欧州問題のように見えますが、
このままではリーマン・ショックに匹敵するような事態になりかねず、
もはや誰にとっても対岸の火事ではないということなのでしょう。

確かにリーマン・ショックでは、震源地の米国だけではなく、
世界経済が大幅に失速しました。

日本銀行の白川方明総裁は会見で次のように話しています。

「この欧州のソブリン問題は、流動性の対策だけで解決する
 問題ではありません。流動性の供給策は、あくまでも時間を
 買うという政策であり、時間を買っている間に、経済・財政の
 構造改革に取り組むということがないと、問題は解決しません」

今回の中央銀行の協調策が、次の対応につながることを
期待したいものです。

※写真はマレーシアの古都マラッカです。

 

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生保の中間決算から

 

前回の損保に続き、生保の中間決算についてのコメントです。

欧州のPIIGS向け投融資の動向に注目が集まり、
決算そのものの報道が少なかったように思います。

データを見ると、基礎利益の不思議な動きが気になりました。

「5社減益、三井は赤字」(25日の日経)とありますが、
変額年金の最低保証リスク対応を除けば、多くは増益です。

決算資料とBloombergの記事などからざっと計算してみると、
大手4社合計で約570億円の増益となっています。
このうち逆ざや額の縮小が約370億円とのことなので、
残りの約200億円は保険関係の差益が増えたことになります。

保有契約の減少が続いているのに差益が増えるとは、
これまでとトレンドが変わったのでしょうか?

ヒントはこの記事です↓
毎日新聞のHPへ
読売新聞のHPへ

つまり、東日本大震災の支払見込額が5月時点から減ったため、
「戻り益」が発生したのですね。具体的には、

 日本 426億円 → 335億円
 第一 305億円 → 163億円
 住友 273億円 → 170億円
 MY  295億円 → 174億円

ということで、この差額(4社計で457億円)が
基礎利益の押し上げ要因になったというわけです
(ただし、全額が押し上げ要因となるのかどうかは不明)。

問題は通常の公表資料だけではこれらのデータがとれない
ということです。

東日本大震災の支払見込額や公表逆ざや額は
「決算記者会見資料」に載っています。
しかし、この資料をHPで公表しているのは、どういうわけか、
第一生命やT&Dホールディングスなど上場会社だけで、
第一を除く大手3社などはHPを探しても見当たりません。
第一生命の決算記者会見資料

今回はたまたま読売新聞が「25日わかった」という報道
(正確には「25日に気がついた」だと思うのですが^^)
をしたので、データを入手できました。

しかし、決算記事では各社の支払見込額の報道はなく、
毎日や産経の記事を見て特殊要因の存在を知っても、
あるいは、T&Dの決算をみて「戻り益」に気づいても、
読売の記事が出るまでは確認のしようがありませんでした。

他社も記者会見資料をHPに掲載できないものでしょうか。

ちなみに大手損保は以前から決算記者会見資料を
HPで公表しています
(もっとも、すべて上場持株会社の子会社ですね)。

 

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3メガ損保の中間決算

 

マレーシア出張中に大手損保の決算発表がありました
(18日)。
ポイントは自然災害による影響だと思うのですが、
「V字回復シナリオは見事に崩れた」(日経)とか言われても
今ひとつピンときません。

データを拾ってみましょう。

まず、各社の損害率が大きく上昇しているのが目に付きます。
損害率を高めた主な要因は東日本大震災です。
支払保険金が拡大し、損害率が急騰しました。

しかし、家計向け地震保険では保険金支払いが危険準備金の
取り崩しと相殺され、収支への影響はありません。
企業向け支払い(支払見込額は3メガ計で約2000億円)も、
すでに昨年度決算で支払備金として計上されていました。

したがって、この損害率上昇は見かけだけの話であって、
収支への影響はほとんどありません。

今上半期の決算に影響を与えた自然災害は、
主に台風によるものです。自然災害関連の支払見込額は
3メガ損保合計で1414億円に上りました(正味ベース)。
大半は未払いなので損害率にはあまり影響しませんでしたが、
支払備金の繰入として決算上の負担になります。

さらに通期ではタイの洪水に伴う支払見込額2600億円
(グループ正味ベース)が加わります。

通期で約4000億円の支払見込額をどう見るか。
決して小さくはないものの、過去に比べて突出してはいません。
例えば台風損害が集中した2004年度の支払見込額は
当時の大手5グループ合計で5246億円でした(正味ベース)。
今回はそこまで大きくありません。

会社価値へのインパクトという点では、昨年度決算と同様に、
株式など有価証券の下落のほうが大きかったと言えます。
参考までに、この半年間で3メガ損保の有価証券含み益は
7385億円も縮小してしまいました(単体合算ベース)。

自然災害を除いた保険収支が低迷しているなかで
多額の保険金支払いが発生し、株安や円高にも見舞われ、
損保にとって厳しい経営環境となったことは確かです。

とはいえ、純資産や異常危険準備金の規模(約6.3兆円)、
あるいはソルベンシー・マージン総額(約7.8兆円)を踏まえると、
この程度の支払いで経営が揺らぐようなことは、
まず考えられないでしょう。

※写真(左)はマレーシアの中央銀行(バンク・ネガラ)です。
 保険監督もバンク・ネガラが担っています。

 

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マレーシアの国際性

 

2010年のマレーシア保険市場の規模は約118億ドルで、
日本のわずか2%にすぎません(スイス再保険「シグマ」より)。
生命保険の普及率も4割程度と聞きます。

そのマレーシアにMII(Malaysia Insurance Institute)という
非営利組織があり、ここの活動が国際的で驚きました。

MIIは保険会社や代理店等のトレーニングを担う組織で、
いわば日本の生保協会と損保協会から教育・研修・研究機能を
取りだして集約したところのようです。
マレーシアの保険当局とも連携して活動を行っているとのこと。
セールス関連だけではなく、各種コンファレンスの開催や
リスクマネジメント資格などにも力を入れている模様です。

本来、MIIはマレーシアの保険産業のための組織だと思うのですが、
それだけではなく、国際的なプレゼンス向上にも注力しています。
なかでもアジア・アフリカの新興国へのサポートに力を入れており、
各国から研修生を受け入れてもいます。

もちろん、熱意がなければできない活動ではあるものの、
考えてみればマレーシアには様々な条件が整っているのですね。

例えばマレーシアは旧英領だったこともあり、英語が普通に通じます。
高等教育も英語で行うのが一般的だそうです。
つまり、欧米に留学するよりもずっと安く、英語で高等教育を
受けることができるというわけです。

イスラム教が国教なので、イスラム圏の人々には安心です。
とりわけ食事の問題は簡単に解決できます。
さりとて中華系やインド系も多く、他宗教に寛容な雰囲気を感じます。

そして何より治安がよく、かつ、清潔です。
近年になってインフラ整備が進んだからかもしれませんが、
「快適さ」という点で日本に通じるものがあります。

今回の出張で、同じ東南アジアだからといって一くくりにしては
いけないと痛感しました。

 

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