05. 金融・経済全般

高齢社会における資産形成・管理

このタイトルの金融審議会・市場ワーキンググループ(WG)報告書が非難されています。
高齢社会において個々人は何を求められ、それに対して金融サービスの提供者はどうあるべきかという議論を取りまとめたものが、ご承知のとおり「老後に2000万円必要」という数字が一人歩きしてしまいました。

「2000万円」の根拠

メディアや野党が飛びついた「2000万円」を確認してみると、分析結果というよりは、「こうだったらこうなる」という単純な計算によるものでした。
厚生労働省が4月12日のWG会合で示した現在の高齢世帯の収支不足額(月5.5万年)をもとに、「毎月の赤字額は自身が保有する金融資産より補填する」「不足額約5万円が毎月発生する場合には、20年で約1300万円、30年で約2000万円の取崩しが必要になる」というのが、今回の「2000万円」です。

4月12日の議事録によると、厚労省の課長から「今後、実収入の社会保障給付は低下することから、取り崩す金額が多くなり、さらに余命も延びることで取り崩す期間も長くなるわけで、今からどう準備していくかが大事なことになります」という説明があった模様です。

しかし、現在の高齢世帯の収支はそれなりの金融資産を保有していることが前提です(平均純貯蓄額2484万円とあります)。貯蓄が少ない高齢世帯は、同じ収入であれば、もっと支出を抑えているはず。さすがにこの約5万円を使って「30年で約2000万円の取崩しが必要」と書いてしまうのは無理がありますね。
数字を出すにしても、「今の高齢世帯は平均して約2500万円の貯蓄があるので、月5万円の収支不足でも30年以上は大丈夫(だから若い世代も金融資産を形成しましょうね)」という話にすればよかったのだと思います。

民間保険の役割は?

保険アナリストからすると、報告書に民間保険の役割がほとんど出てこないのも気になりました(49ページの注記くらいでしょうか)。
資産形成が大事だとわかっていても、病気で働けなくなるリスクもあるでしょうし、反対に保険料負担が資産形成の妨げとなっているケースもありそうです。

何より不思議に感じたのは、社会保障の補完としての民間保険の役割について記述がないことです。
私の勝手な推測ですが、公助の部分をどうするかという議論はWGのテーマではないため、社会保障に関する議論は対象外、記述もできるだけ避けるということなのかと思いました。

もっとも、同じく4月12日の議事録には、次のような発言が見られます。
「(中長期的な年金給付の水準が減ることについて)はっきり言うべきことははっきり言わなきゃいけない【池尾委員】」
「(マクロ経済スライドと非消費支出の増加により)月々の赤字は5.5万円ではなくて、団塊ジュニアから先の世代は10万円ぐらいになってくるのではないか【駒村委員】」
「自助と公助がある中で、自助の割合を高めていくことの必要性を、強いメッセージとして出していく必要があると思っております【永沢委員】」

委員からは公助の限界を示すべきという声が出ていたことがわかります。

報告書のメッセージは「長寿化に応じて資産寿命を延ばすことが重要」なので、高齢世帯の収支が厳しいことをもって金融庁を責めるのは筋違いです。
でも、図らずも年金制度に社会の関心が向かうことになったのは、悪い話ではないかもしれません。今年は5年に1度の財政検証もあることですし。

※地下鉄博物館に行きました。

 

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地銀の資産運用

前回のブログで日銀「金融システムレポート」に「益出し」という言葉が14回も出てきたと書きました。
改めて最近のレポートを確認すると、次のような結果となりました。

2015年 4月号: 0回
2015年10月号: 0回
2016年 4月号: 0回
2016年10月号: 0回
2017年 4月号:28回
2017年10月号: 3回
2018年 4月号:15回
2018年10月号:33回
2019年 4月号:14回

益出しで会計利益を下支え

「地域金融機関を中心に預貸金収益と役務取引等利益では経費を賄えない金融機関が増加しており、(中略)有価証券の益出しで利益水準を維持している先も少なくない」【2017年4月号】

「⾦融機関の中には、株式や投資信託の益出しと再投資によって、保有有価証券の簿価が切り上がってきている先がみられる」【2018年10月号】

「地域⾦融機関を中⼼に、有価証券の益出しで利益⽔準を維持してきた先は少なくないが、度重なる益出しと簿価の切り上がりから、益出し余⼒はこのところ低下してきており、その⾦融機関間のばらつきも⼤きくなっている」【2019年4月号(今回)】

こうして見ると、近年の地銀の資産運用とは、投資信託の購入などで積極的なリスクテイクを行いつつ、会計上の利益を「つくる」ため、益出しにより実現損益を計上するという、一般的な資産運用業務とはかけ離れたものであることがわかります。

しかし、今回の日銀の分析によると、株式市場参加者が金融機関の将来的な収益性を評価するに当たって、益出しで下支えされた当期純利益の水準ではなく、基礎的収益力の趨勢的な低下傾向に注目しているとのこと。
それでも地銀は益出しによる当期純利益のお化粧を続けるのでしょうか
(大株主としての生保の見解も知りたいところですね)。

生保の運用計画の報道

地銀の投資信託の残高はここ数年で急増しています。単なる資産運用のリスクテイクというよりは、私募投信の配当や解約益が業務純益に反映される点が魅力なのでしょう。1990年代前半に、決算対策として各種の証券を購入していた生保業界を彷彿させます。

生保業界のほうですが、今年度の資産運用方針をメディア向けに説明しているようです。
報道によると、オープン外債(為替ヘッジをしない外債)への投資を増やす方針の会社が多いようです。4月25日の日経には、「『オープン外債』なら為替リスクは負うが利回りは確保できるため」なんて書いてありましたが、ここでいう利回りとはいったい何なんでしょうね。
日経「生保の運用、外債軸に」
ブルームバーグ「主要生保は海外クレジット物で収益確保、円高ならオープン外債へ」

※写真はみなとみらいです

 

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第三者委員会の報告書

ネットで「第三者委員会」と検索すると、NGT48(AKB48グループ)の暴行事件に関する調査報告書が出てきたので、読んでみました。

AKB商法の一端が示される

新潟のNGT48のメンバーがファンの男性から暴行被害を受けたという事件について、運営会社のAKSが第三者委員会を設置し、事実関係や会社関係者の関与、発生原因を調査したものですが、不祥事といっても身内が絡んでいるかもしれない暴行事件ですし、かつ、実行犯の協力も全く得られていないので、事実関係の解明ができたとは言えそうにない報告書でした。

運営会社が所属アイドルの安全確保にあまり気を使っていないことはよくわかりました。
AKB48グループは「会いに行けるアイドル」がコンセプトで、ファンとの接触が多いので、ファンとのトラブルも起こりやすく、実際、数年前には傷害事件も起きています。
それにもかかわらず、総選挙などでアイドルを競わせ、握手券のまとめだし(=お金を出せばファンは特定のメンバーと長時間接触できる)を認め、結果として一部ファンとの私的つながりを持つメンバーが少なくとも12名も存在することが判明した一方で、安全確保は基本的に本人任せという実態が記されています。
事件の根本的な原因はAKB48のビジネスモデルにあるようには感じました。

原因究明には事業の理解が不可欠

不祥事を起こした企業等が第三者委員会を設置し、再発防止に務めようとする動きは、ここ数年でかなり一般的になりました。
ただし、第三者委員会による調査は法的な強制力を持つものではなく、警察による捜査や金融庁の金融検査とは違うので、調査先の全面的な協力が得られなければ、限界があります。

さらに言えば、委員会を弁護士の先生が主導しているためか、もっと経営分析を行えば、より内面に迫れるのではないかと感じることが多いです。
全ての第三者委員会報告書を読んだわけではありませんが、その企業や組織のビジネスモデルや経営環境への深い理解がなく、結果として表面的な原因の発見にとどまっていたり、「ガバナンスの欠如」「企業文化の問題」といった一般論にとどまっていたりする報告書も目立つようです。

例えば、スルガ銀行が昨年9月に公表した第三者委員会調査報告書を見て、確かに不正行為の数々を浮き彫りにしたという点では高く評価できるとはいえ、スルガ銀行のビジネスモデルならではの原因究明が弱いように感じました。
もっとも本件に関しては、金融庁が10月の行政処分のなかで、より踏み込んだ原因究明を行っています。

※写真は浜離宮です。春ですね♪

 

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日本人の海外旅行

少し前に、2018年に日本を訪れた外国人が3119万人に達したというニュース(16日に日本政府観光局が発表)がありました。短期間でここまで増えるとはすごいですね。

出国者も過去最高を更新

ところで、この日本政府観光局の資料をよく見ると、日本から海外に出かけた人数も1895万人と、2012年の1849万人を超え、過去最高を更新しています。
過去の推移を確認したところ、2000年の1781万人までは概ね右肩上がりで増えていましたが、その後は増えたり減ったりという感じです。2012年は円高が後押しとなり、2013年からは反対に円安が足を引っ張ったようです。ここ数年の増加は為替要因ではなく、後述する世代要因が大きいのかもしれません。

訪問先は大きく変化

興味深いことに、海外旅行の訪問先は2000年頃とはかなり異なっていることがわかりました。出国者数に占める主な訪問先の割合を2000年と2016年で比べると、次のとおりです
(各国統計の寄せ集めなので、あくまで参考としてご覧ください)。

中・韓・台・香港   
37% ⇒ 44%

米国(ハワイを含む) 
28% ⇒ 21%

欧州(7か国)    
25% ⇒ 15%

東南アジア(8か国) 
21% ⇒ 28%

要するに欧米が減って、アジアが増えたということですね。
ドイツは当時の6割、フランス、イタリア、イギリスは当時の5割まで減っています(スペインは増加)。昨年私たちが訪れたスイスは、かつては100万人近い日本人が旅行していたそうですが、近年は20万人前後です。
リゾート地として落ち込みが激しいのが北マリアナ諸島(サイパンなど)で、当時の2割弱の水準です。グアムも当時の約7割。ハワイは当時の8割強で、近年は回復基調です。

他方で2000年に比べて増加が目立つのは、何といっても台湾です。いまや200万人近い人が訪れています(当時は90万人程度)。中国と韓国はいったん増えて、その後もとの水準に戻っています。
東南アジアではベトナムの増加が目立ちます。当時の15万人から最近は80万人にまで急成長しました。書店に行くとベトナムのガイドブックをよく見かけるようになったので、ビジネスだけでなく、観光客が増えているのでしょう。

若者は海外に行かなくなったのか

ところで、ひところ「若者が海外に行かなくなった」という話をよく耳にしました。20代の出国率をみると、確かに1990年代後半から2000年代にかけて低迷が目立ちました。
ところが、2010年代はむしろ回復傾向で、2017年は過去最高を更新しています。

1990年代後半から2000年代前半はちょうど就職氷河期にあたり、非正規雇用も増え、海外に行きたくても行けなかった20代が多かったのではないでしょうか。企業が出張費を抑えたということもあるでしょう。これに対し、2010年代は就職面では売り手市場が続いていますし、企業の海外進出(特にアジア)も拡大しています。LCCの相次ぐ就航も出国を後押ししているかもしれません。
さらに、親子の年齢差を30歳くらいとすると、今の20代の子どもを持つ親は50代ということで、自分たちが20代のときに海外に出かけたり、子どもと一緒に海外へ行ったりした経験が、それ以前の世代よりも多いと考えられます。

いずれにしても、20代人口の絶対数が減っているので目立ちませんが、総論としての「若者が海外に行かなくなった」という認識は改めたほうがよさそうです。

※ミャンマーへの日本人旅行者も急増しています

 

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コンプライ・アンド・エクスプレイン

5月26日のブログのなかで、コーポレートガバナンス・コードの実施状況に関して、

・一部の原則を除いて圧倒的に「コンプライ」が多い
・98%がコンプライでも、実態は違っているということもある
・コンプライでもエクスプレインが必要ではないか

といったことを書きました。

その後、東証のコーポレート・ガバナンス白書(直近は2017)を確認する機会があり、業種別の実施状況を見たところ、全原則実施という回答が最も多かった業種は「銀行」「保険」でした。なかでも銀行は8割を超えていることがわかりました。

いかにも金融機関らしい感じがしますが、これをどう考えるかです。
コードへの対応という点では進んでいると言えるのかもしれません。でも、本来は形式よりも中身が問われるなかで、独自の考えに基づく対応が全くないというのはどこか引っかかります。
日本の金融機関のガバナンスはそれほど画一的なのでしょうか?

ちなみに全原則実施だと、各社のガバナンス報告書には「コーポレートガバナンス・コードの各原則につきまして、全て実施しております」と書かれるだけで、対話のきっかけや材料にはなりません。
逆に言えば、全原則実施であれば、開示項目(この部分はコンプライ・アンド・エクスプレイン)だけに対応すればいいので、余計な作業をしなくてもすみますね。

※築地場内のイタリアン「トミーナ」の桃の冷製パスタです♪

 

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大学での保険の講義

今年もいくつかの大学で学生の皆さんに講義をする機会がありました。
テーマは「生命保険会社のリスク管理」「保険会社ERMと経営情報の開示」といった、かなり専門的な分野なので、いきなり本題に入るのではなく、身近なリスクとリスク管理の話をしたうえで、保険会社がどのようにしてリスクと向き合っているかを伝えるようにしました。

今年はこんな話をしてみました。
ある会社では、保険金額1000万円、保険期間10年の定期保険を月額保険料は920円(20歳男性)で提供しています。保険会社に支払う保険料は10年間で合計110,400円ですが、当然ながら、亡くならないかぎり保険金を受け取ることはできません。
それでも、「掛け捨ては損」という意識の人も多いとはいえ、「11万円も払ったのに保険金を1円ももらえないなんて、保険会社はボロ儲けだ!」と怒る人はさすがに少ないと思います。11万円が高いかどうかは別にして、10年間の保障(=死亡リスクへの対応)を得るには何がしかのコストがかかるのは理解できるからです。

次に、50歳から20年間で合計1151万円の保険料を支払い、70歳から亡くなるまで毎年60万円を受け取ることができるという、長生きリスク対応の保険を取り上げ、「1151万円も払ったのに、平均寿命(男性81歳)で亡くなったら660万円しか受け取れないなんて、保険会社はボロ儲けだ!」という批判が実際にあったことも紹介しました。
同じように考えれば、平均寿命を超えて長生きするリスクへの保障を得るのにもコストがかかるとわかるので、「平均寿命で亡くなったら少ししかもらえない」といって批判するのは筋違いだと理解できます。

学生の皆さんがどこまで理解してくれたかはわかりませんが、大学での保険の授業は単に保険という特定の分野を学ぶというだけでなく、保険の勉強を通じて「リスク」や「コスト」といった、社会人として不可欠な概念を学ぶことができますね。

 

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金融法制の見直し

業態別の金融法制の見直しを議論する、金融審議会「金融制度スタディ・グループ」が19日に中間報告を公表したので、さっそく読んでみました。
金融庁のサイトへ

今の金融規制体系は基本的に銀行、証券、保険といった業態ごとに業法が存在しています。
これを機能別・横断的なもの、すなわち、同じ機能や同じリスクには同じルールを適用し、同じ機能でもリスクが小さければ規制を軽くする、こうした規制体系にしていこうというものです。

「金融の『機能』の分類」という図表には、「保険業法/保険会社」⇒「リスク移転」とあるだけで、これだと業態別でも機能別でも変わらないように見えます。
ただし、本文のリスク移転のところを読むと、

「信用保証やデリバティブ取引、保険は機能的に類似する側面があるが、信用保証については特段の業規制は設けられておらず、また、デリバティブ取引を業として行う者については登録の対象とされているにとどまる」
「これに対し、保険を業として行う者については免許の対象とされ、当局による商品認可も求められているとの違いが見られる」

という記述がありました。もっとも、第4回の討議資料にはもっと論点が書いてあり、議事録によると、委員の皆さんもいろいろと発言されているのですが、うまくまとまらなかったようです。

あと、特に保険について言えば、海外では民間の保険会社が担うこともあるような機能、例えば年金や健康保険など社会保障の補完といった役割も視野に入れた議論が必要だと思いました。現在、長生きリスクへの備えは主に公的年金と個人の預貯金となっていますが、10年後の姿はどうなっているでしょうか。

※豊洲移転まであと4か月を切りました。

 

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問題は含み損なのか

いろいろあって週末にブログを更新できなかったので、遅ればせながらちょっとだけ。

18日のロイター記事「金融庁、地銀に有価証券運用の含み損の適切な処理を要請=関係筋」をみて、違和感を覚えました。

記事には、「金融庁が、全ての地方銀行に対し、外債などの有価証券の運用で抱えた含み損を放置せず、適切に処理するよう求めたことがわかった。複数の関係者が18日、明らかにした。同庁は、有価証券運用の含み損を自己資本や年間コア業務純益などの期間収益の範囲内にとどめることが望ましいとの見解を伝えている」とあります。
確かに、2月に開かれた金融庁と地銀・第二地銀との意見交換会には、主な論点として「含み損に対する対応が検討されていない例が見られた」「中には、今期(30年3月期)のコア業務純益予想額に匹敵する水準まで評価損が拡大している銀行も見受けられた」「(前略)含み損に対する対応が十分に検討されていない例があるとすれば、問題であると考えている」とありました。

しかし、資産運用によるリスクテイクと言ったときの「リスク」とは、含み損の発生ではなく、保有資産価格の変動です。取得価額がいくらであろうと、含み損があろうとなかろうと、資産価格が10%下がれば、それは損失の発生です。
含み損はリスクテイクのバッファーである「経営体力」の一部なので、含み損を抱えていても、経営体力全体としてリスクテイクできる状態であれば、問題はないはずです(地銀の「自己資本」に含み損益が入っていない可能性はありますが…)。

「健全性を維持できるよう、リスクテイクに見合った運用・リスク管理態勢の構築に向けた対話を行う」のはいいとしても、銀行勘定の金利リスクに関する新規制が始まろうというなかで、本当に報道のとおり、有価証券の含み損に焦点を当てた対話を行い、損切りを促すのでしょうか。
まさかとは思いますが、ALM目的で多額の超長期債を保有する生命保険会社にとっても、これは他人事ではありませんね。

※写真は台湾大学(旧台北帝国大学)です。台湾生保では外国証券が保有資産の5割以上を占めています。

 

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海外M&A研究会報告書

経済産業省の「我が国企業による海外M&A研究会」(座長は早大の宮島英昭教授)の報告書が公表されたので、さっそく読んでみました。
報告書の概要と、重要ポイントをまとめた「9つの行動」もあわせて公表されていますが、本文のほうが具体的にいろいろと書いてあり、参考になりそうです。
経産省のサイトへ

以前私は、東洋経済の特集号で保険会社の海外M&Aについて書いた際、M&Aそのものがゴールではなく、1)そもそも海外事業で積極的なリスクテイクを行うという経営判断がいかになされたのか、2)海外大型M&Aの実行、3)買収先をグループのメンバーとしていかに経営体制に組み込むか、の3つの局面について述べました。
この報告書でもM&Aの実行局面のみならず、「前」と「後」の重要性を踏まえ、「海外M&A成功に向けた3つの要素」として次の3つに整理して説明しています。

・M&A戦略ストーリーの構想力
・海外M&Aの実行力
・グローバル経営力

日本企業による海外M&Aの特徴

日本企業による海外M&Aを扱った報告書なので、日本企業を意識した記述をいくつかご紹介しましょう。

「いきなり大きな案件や複雑な案件に取り組むのではなく、ある程度小型の案件で自社の海外M&Aの経験値を高めてから、より複雑な大規模案件に取り組むという戦略的アプローチを意識的に実行している海外企業は多い」(p.18)

「特に投資銀行等の外部からの持込案件については、戦略より案件が先行し、準備期間が短く、結果として買収前の想定と、買収後明らかになった実態との乖離が大きいケースがある」(p.27)

⇒ 日本企業は身の丈に合った海外M&Aではなく、特に外部からの持込案件などで、対応可能範囲を超えたリスクを伴う案件や、買収金額が高すぎる案件に乗り出してしまう可能性が高いということかもしれません。

「日本企業の中には、交渉の場に大勢の関係者が参加するが、結局意思決定を行える者が誰なのかよくわからないケースや、交渉の場で提起された論点についてその場で決定せず持ち帰るケースがある。こうしたケースでは、売り手からすると意思決定者が誰かわからず、疑念が増し、信頼感を損なうことが懸念される。さらに最悪のケースは、条件交渉をFAや投資銀行の担当者に全て任せてしまうことである」(p.50)

⇒ 実感としてはケースバイケースのように思いますが、このような事例も多いのかもしれませんね。

「日本企業では『飲み会』や企業をあげた地域行事への参加など、業務時間外で従業員同士が集まる機会も多いことから、企業の価値観や風土融合を重視するのは日本企業の特徴と思われがちであるかもしれない。しかし、欧米企業でもPMIにおけるチームビルディングを通じて信頼関係を構築する取組みが行われており、また日本企業が欧米企業を買収する場合にも風土融合の施策に積極的であるという事例もみられた」(p.66)

⇒ 企業の価値観や風土融合を重視するのは日本企業だけの特徴ではないという指摘は、当然と言えば当然ですが、興味深いです。

「日本企業は、欧米の買収者に比べ相手企業の既存経営陣への依存度が高く、買収後も経営陣が買収前に有していた権限を害しないように独立した会社として運営する傾向が強いという指摘がある。しかし、経営ビジョンや価値観を共有できない場合や買収先のさらなる成長を目指すうえで経営者として実力や倫理観が不足と判断される場合には、躊躇なく買収前の経営陣を交代させることも必要である」
「企業価値を創出するのは買収者であり、買収者たる企業自身で主体的に買収プレミアムの回収を可能とする業績向上策に取り組むべきものであり、買収先の経営陣にその全てを任せていても、買収プレミアムの回収は担保されない」(p.68)

⇒ 「企業価値を創出するのは買収者」というのは重要な指摘ですね。

「海外M&A は買い手にとっても変革を実現する絶好の機会でもあり、海外M&A によって自身をグローバル化していくことも海外M&A の成果の一つである」
「欧米企業は、リスクは顕在化した時点で対応すればよいという姿勢である一方で、まだまだ日本企業はリスクを過度に回避しようとする傾向が強いとされる。過度のリスク回避、慎重さは、成長阻害要因であり、可能な限りの準備をして実施し、リスクが顕在化したらそれに全力で当たるという姿勢が重要ではないだろうか」(p.87)

⇒ M&Aにかぎらず、リスクテイクを促すのであれば、失敗に寛容な企業文化や社会風土(メディアを含む)が必要ですね。

ヒアリング協力企業の顔ぶれを見ると、金融・保険業は含まれていませんでしたが、実際の体験を踏まえた記述も多く、参考になると思います。

<ヒアリング協力企業>
 旭化成、亀田製菓、関西ペイント、グローリー、小松製作所、サトーホールディングス、サントリーホールディングス、ダイキン工業、電通、ニコン、日本板硝子、日本たばこ産業、日本電産、日本電信電話、日立製作所、ボッシュ パッケージング テクノロジー、丸紅、リクルートホールディングス

※写真は浜離宮です。

 

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監査事務所のレポート

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公認会計士・監査審査会が昨年に続き、
監査事務所の状況等をまとめたレポートを
公表しました。
「平成29年版モニタリングレポート」

前回に比べると、分量の多さに圧倒されます
(前回:全28ページ ⇒ 今回:全83ページ)。

ざっと読むと、大手監査法人とそれ以外では
単に規模だけでなく、顧客基盤も事業構造も
全く異なると言っていいほど違うのですね。

例えば、グループ全体の業務収入のうち、
準大手では監査証明業務の収入が大半を
占めるのに対し、大手では非監査証明業務の
収入が5割を超えています。

今回のレポートでも、監査人が変わると報酬が
減る傾向が示されています(69ページ)。
監査報酬は大半がタイムチャージ方式ですが、
次のような事例紹介もありました。

「大手監査法人同士の異動のうち、初年度監査
 や会計基準の変更に伴い監査時間が増加する
 ことを反映しないで監査報酬を見積り提案して
 いる事例があった」

「当該事例では、前任監査人と比較して監査報酬
 が減少しており、その後の実際の監査時間は
 見積時間を大幅に超過していた」

高い品質を求められる一方、4社の寡占市場にも
かかわらず、報酬引き下げ圧力にさらされ続け、
非監査証明業務への依存度を強めているという
大手の姿が浮き彫りになっています。

※写真は静岡鉄道です。
 駿府城の近くにターミナル駅がありました。

 

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