05. 金融・経済全般

地銀経営の厳しさ

日銀の金融システムレポート

先週24日に日本銀行が半期ごとの「金融システムレポート」を公表しました。
今回のレポートでは定例のマクロ・ストレステスト(目先のストレス発生を想定したテスト)に加え、今後10年間に金融機関が経費削減、非資金利益の拡大といった経営効率の改善に向けた取り組みを行った場合、どの程度の効果が見込まれるかというシミュレーションを行っています。

結果としてはこうした取り組みが行われることの重要性が示されているのですが、特に非資金利益を増やすのはそう簡単ではないこともうかがえます。
レポート(73ページ)によると、コア業務粗利益に占める非資金利益の割合は、地域銀行は概ね横ばいで推移しているのですね。近年の地銀は投資信託や一時払い保険の販売に力を入れていると思っていたのですが、大手行とちがい、右肩上がりではありません。

投信から保険へ

他方でこんなデータもあります。
金融審議会「市場ワーキング・グループ(第25回)」資料によると、金融機関による投資信託の販売額は2017年度に増えて、2018年度は前年割れとなりました。預り残高もやや減り気味です。

     2016 2017 2018
主要行等 3.8  5.0  2.7 兆円
地域銀行 1.7  2.0  1.3 兆円

これを補うようにして伸びたのが外貨建て一時払い保険です(残高も右肩上がりです)。投信よりも手数料率が高いので、見掛けよりも銀行経営には貢献していそうです。

     2016 2017 2018
主要行等 1.1  1.2  1.4 兆円
地域銀行 0.5  0.7  1.0 兆円

非資金利益を伸ばせるのか

このような状況のなかで、外貨建て保険をめぐるトラブルが問題となっているわけでして、金融機関が非資金利益を増やしていくにはハードルがあることもはっきりしてきました。
銀行は商品を提供するだけなので、為替変動や保険会社が破綻するリスクを負っていないのは確かですが、広い意味での経営リスクを抱えるということかと思います。
まさに経営陣によるリスクアペタイトの設定と、その実行が求められているのではないでしょうか。

※水曜日は娘とここでデートでした♪

 

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独自の利益指標

9月20日の日経新聞に「増える独自の利益指標(リンクは有料会員限定)」という記事が載りました。IFRSを採用する企業で「事業利益」「コア営業利益」といった独自の利益指標を開示する企業が増えているというレポートで、武田や三菱ケミカル、アサヒグループなどの事例を紹介しています。
ただ、「比較しにくい難点も」「市場関係者からは懸念の声が上がっている(経営者にとって都合の良いものができる、など)」「IFRSを策定するIASBも企業間で指標を比較しにくいのは問題だとして、対策に乗り出した」など、なんだか否定的なトーンなのが気になりました。

記事をよく読むと、「会計原則に基づかない独自指標を開示する会社が増えている」という話と、「IFRSでは損益計算書のフォーマットを細かく規定していない(原則主義なので)」という話がごっちゃになっているのですね
(全体として「細則主義の日本基準がいい」と主張しているようにも読めます)。

独自指標の開示について、市場関係者は本当に懸念しているのでしょうか。
会計上の指標では事業特性をうまく説明できないということは、IFRSでも日本基準でもよくある話です。身近なところでは損保の「グループ修正利益」がありますね(6月のブログで取り上げています)。
投資家が知りたいのは期間損益そのものではなく、企業価値を評価するうえでの手掛かりです。記事中のコメントにあるように「会社によっては利益を良く見せたいとのインセンティブが働くので見極める必要がある」というのはそのとおりですが、会計ベースの指標しか信じられないということはないと思います。

後者の「原則主義と細則主義のどちらがいいか」という話については、確かに原則主義のIFRSでは企業の裁量に委ねられるところがあるため、開示にばらつきが出るのはデメリットと言えるのかもしれません。しかし、細則主義はルールが詳細に決まっているからこそ、形式さえ整えればいいという発想になり、かえって本当の姿を示さなくなるという欠点があることを忘れてはならないと思います。

※バンコク高架鉄道の優先席です。イラストがかわいいですね。

 

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西村先生の訃報に接して

元大蔵省の銀行局長で早稲田大学名誉教授の西村吉正先生が亡くなりました(8日)。
西村さんといえば、住専問題の国会答弁という印象が強いかもしれませんが、私にとっては大学院時代の恩師として、大変お世話になったかたです。

私は2005年から2008年にかけて西村ゼミに所属し、先生に保険会社の破綻研究の指導をしていただきました。
ゼミでは毎回持ち回りで発表者を務めることになっていて、なんと先生もそのローテーションに入るという貴重なゼミでした。
そういえば2007年の春だったと思いますが、麻疹(はしか)が大流行して大学閉鎖となり、先生の自宅でゼミを行ったこともありました。

他にもいろいろと思い出がありますが、まずは先生のご冥福を心からお祈りします。

金融行政の敗因

西村先生の著作といえば、やはり1999年に出た「金融行政の敗因」を挙げたいと思います。
不良債権問題と対峙した金融行政の当事者が、退職のすぐあとに自らの体験を振り返るというのは、そう簡単ではなかったはずです
(成功体験なら別でしょうけど)。
しかし本書では、自らが関わった大和銀行事件についても、住専処理についても、きちんと振り返り、かつ、反省すべき点を整理しているところがすごいです。

久しぶりに読み返してみると、生保に関連して次のような記述がありました。

「あまり気づかれないが、このこと(=低金利政策)によって生命保険の仕組みに無理が生じていることは非常に重要な問題である。(中略)短期間ならともかく、こんなに長期にわたって異常な金利水準が続くと運営に支障を生じるのは当然である。」

「逆ざやによって生命保険会社の経営は危機に瀕しているが、これも低金利政策の副作用である。それによって経営が破綻し、保険加入者が損害を受けるならば、金融システム維持という根拠とは別の理由で、政策責任者たる国家が何らかの対応を迫られる問題である。」

当時の保険行政は大蔵省銀行局のなかにある保険部が担っていました。
生保の連鎖的な経営破綻は本書が出た後の2000年前後に起きるのですが、1994年7月から2年間銀行局長を務めたかたが「低金利政策の副作用」という言葉を使い、「国家が何らかの対応を迫られる問題」とまで語っているのは、考えてみれば相当踏み込んだ記述だと思います。

もっとも、当時の保険部は銀行局のなかにあったとはいえ、「関東軍」などと揶揄されていたことを踏まえると、別の見方もできるのかもしれません。
結果としては、銀行とはちがい生損保の破綻に公的資金が使われることはなく、しかも「異常」という認識だった低金利はより低い水準で常態化してしまいました。

※写真は2011年3月の最終講義です。
 「なまはげ」はゼミ仲間の懇親会だったかな…

 

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金融行政方針ほか

出張前ということで、今週公表された金融庁と厚労省の資料から手短にコメントします。

金融行政の実績と方針

金融庁は28日に「利用者を中心とした新時代の金融サービス~金融行政のこれまでの実践と今後の方針~(令和元事務年度)」を公表しました。
本文をみると、金融行政の重点施策として最初に「金融デジタライゼーション戦略の推進」を挙げているほか、地域金融について20ページもの記述があります。

保険関係では、「顧客本位の業務運営の定着」「持続可能なビジネスモデルの構築」「ガバナンスの機能発揮」とありますが、保険販売に関わるかたはこちらよりも、27ページからの「販売会社による顧客本位の業務運営」に注目したほうがいいかもしれません。

今回のキーワードの一つは「心理的安全性」ですね。
本文87ページのコラムによると、心理的安全性とは、「一人ひとりが不安を感じることなく、安心して発言・行動できる場の状況や雰囲気」だそうです。もともとは職場等でのチーム構成員とリーダーとの対話場面を想定しているようですが、「金融機関と金融庁の対話に当たっては『心理的安全性』が重要である」と、立ち位置の違いはあるもののフラットな対話を心掛けているとしています。

厚労省若手チームの提言

厚労省は27日に「将来の公的年金の財政見通し(財政検証)」を公表していますが、こちらのレポート(厚生労働省の業務・組織改革のための緊急提言)も興味深く読みました。

2017年に経済産業省の次官・若手プロジェクトが社会構造の変化と中長期的な政策の考え方を示したことがありました。
資料はこちら(PDF)
今回の厚労省若手チームの提言はそうした政策提言ではなく、働き方改革の旗振り役による、自らの改革の必要性を問うものです。別の言いかたをすれば「ブラック企業における現場の悲鳴」でしょうか。
とはいえ、この提言も正式に公表されたものですから、実情はもっとひどいと思って読んだほうがいいのかもしれません。

「国会答弁資料については、国会開会中はほぼ毎日、深夜に全ての部局が作成をした後、各部局の書記室や大臣官房総務課において、質疑者順・質問順・質問ごとに並べ、場合によっては全部で1,000ページ超に及ぶ資料組みを行い、かつ、資料ごとに問番号等を記載したインデックスを付けるという作業を行っている」(本文28ページ)

「厚生労働省においては、平成30年に1,569回の審議会、検討会等を開催しており、この数は、他省庁と比べても圧倒的に多い。この審議会等の会場設営、受付、資料配布などは、各部局の担当者や、担当ラインではない現業業務のある職員の協力により行われている」(29ページ)

「現在、厚生労働省には、ひと月に平均で10万件を超える電話が寄せられてきている。このうちの相当数は、国民の皆様からのご意見、ご要望等であるが、現在の厚生労働省の『国民の皆様の声受付窓口』の体制では、ひと月に千数百件程度しか対応できておらず、残りは全て、本省内で該当政策の企画立案等を担当する職員がその応答等を行っている」(31ページ)

金融庁に在籍していたときに、いろいろと驚いている私に周囲の皆さんが、「他の省庁に比べて金融庁はずっとマシ」と話していたのを思い出しました。
いずれにしても、このままではいけないでしょう。

※娘がついに20歳になりました。
 父と孫娘の誕生パーティーです。

 

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保険の対象となるリスク

7月20日に日本保険学会・九州部会の25周年記念大会が福岡大学で開かれました。
10月の全国大会で登壇することもあり、大雨の九州に杖を持って出かけてきました。

当日は石田重森先生の記念講演、シンポジウム2つという構成で、シンポジウムのテーマは「保険・保険業の過去・現在・未来を考える」。
たまたま重なったとのことでしたが、石田先生と福岡大学の伊藤豪先生のお二人が、公的医療保険における高額な医療・医薬品の問題を取り上げていました。

石田先生によると、「本来、保険の対象となるリスクは、同種・同質性のリスクで、大数の法則が機能し、リスクの分散、リスクの平均化の図れるもの」「高度医療・高額薬のようなごく少数で高価格のリスクは保険システムとして不適当である」と説明したうえで、どこまで保険適用にするのか、その基準をどこで誰が決定するのかという問題を指摘していました。

他方、伊藤先生はケースごとに検討を行い、(価格が下がる前に)利用が進めば、医療費の拡大や保険料負担の増加につながるとしつつも、医療技術や情報技術の革新は医療費を減らす効果が期待されるものもあることを示しました。

確かに、技術革新によって高額な医療・医薬品が出現し、それが保険適用となって利用が増えると、医療保険財政を圧迫することになりえます。
とはいえ、過去の事例を見るかぎりでは、技術革新は価格引き下げにもつながると考えられますし、伊藤先生が指摘するように、技術革新は高額な医療・医薬品を生み出すだけでなく、無駄な医療を排除したり、効率化を進めたりもします
(部外者から見た医療の世界は不透明な部分が多いと感じるので、後者の技術革新には大いに期待したいです)。

保険の加入者にとっては、処方箋があったほうが湿布を安く入手できるといったことよりも、万一の際に高額な医療・医薬品を使えるほうが重要です。
自動車保険でも、かつては想定されていなかった億円単位の損害賠償に対応すべく、対人無制限の補償が一般的になっています。それに、高価格といってもほとんど発生しないのであれば、リスク量としては限られるはずです。

ただし、医療技術の革新がこれまでの延長線上ではなく実現し、低頻度高価格のものが、急に高頻度高価格になったりすると、収支バランスが崩れ、保険システムの限界という状況になるのかもしれません
(だからこその公的保険なのかもしれませんが)。

他にもいろいろと刺激を受けた記念大会で、福岡まで遠征した甲斐がありました。

※写真は軍艦島です。

 

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高齢社会における資産形成・管理

このタイトルの金融審議会・市場ワーキンググループ(WG)報告書が非難されています。
高齢社会において個々人は何を求められ、それに対して金融サービスの提供者はどうあるべきかという議論を取りまとめたものが、ご承知のとおり「老後に2000万円必要」という数字が一人歩きしてしまいました。

「2000万円」の根拠

メディアや野党が飛びついた「2000万円」を確認してみると、分析結果というよりは、「こうだったらこうなる」という単純な計算によるものでした。
厚生労働省が4月12日のWG会合で示した現在の高齢世帯の収支不足額(月5.5万年)をもとに、「毎月の赤字額は自身が保有する金融資産より補填する」「不足額約5万円が毎月発生する場合には、20年で約1300万円、30年で約2000万円の取崩しが必要になる」というのが、今回の「2000万円」です。

4月12日の議事録によると、厚労省の課長から「今後、実収入の社会保障給付は低下することから、取り崩す金額が多くなり、さらに余命も延びることで取り崩す期間も長くなるわけで、今からどう準備していくかが大事なことになります」という説明があった模様です。

しかし、現在の高齢世帯の収支はそれなりの金融資産を保有していることが前提です(平均純貯蓄額2484万円とあります)。貯蓄が少ない高齢世帯は、同じ収入であれば、もっと支出を抑えているはず。さすがにこの約5万円を使って「30年で約2000万円の取崩しが必要」と書いてしまうのは無理がありますね。
数字を出すにしても、「今の高齢世帯は平均して約2500万円の貯蓄があるので、月5万円の収支不足でも30年以上は大丈夫(だから若い世代も金融資産を形成しましょうね)」という話にすればよかったのだと思います。

民間保険の役割は?

保険アナリストからすると、報告書に民間保険の役割がほとんど出てこないのも気になりました(49ページの注記くらいでしょうか)。
資産形成が大事だとわかっていても、病気で働けなくなるリスクもあるでしょうし、反対に保険料負担が資産形成の妨げとなっているケースもありそうです。

何より不思議に感じたのは、社会保障の補完としての民間保険の役割について記述がないことです。
私の勝手な推測ですが、公助の部分をどうするかという議論はWGのテーマではないため、社会保障に関する議論は対象外、記述もできるだけ避けるということなのかと思いました。

もっとも、同じく4月12日の議事録には、次のような発言が見られます。
「(中長期的な年金給付の水準が減ることについて)はっきり言うべきことははっきり言わなきゃいけない【池尾委員】」
「(マクロ経済スライドと非消費支出の増加により)月々の赤字は5.5万円ではなくて、団塊ジュニアから先の世代は10万円ぐらいになってくるのではないか【駒村委員】」
「自助と公助がある中で、自助の割合を高めていくことの必要性を、強いメッセージとして出していく必要があると思っております【永沢委員】」

委員からは公助の限界を示すべきという声が出ていたことがわかります。

報告書のメッセージは「長寿化に応じて資産寿命を延ばすことが重要」なので、高齢世帯の収支が厳しいことをもって金融庁を責めるのは筋違いです。
でも、図らずも年金制度に社会の関心が向かうことになったのは、悪い話ではないかもしれません。今年は5年に1度の財政検証もあることですし。

※地下鉄博物館に行きました。

 

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地銀の資産運用

前回のブログで日銀「金融システムレポート」に「益出し」という言葉が14回も出てきたと書きました。
改めて最近のレポートを確認すると、次のような結果となりました。

2015年 4月号: 0回
2015年10月号: 0回
2016年 4月号: 0回
2016年10月号: 0回
2017年 4月号:28回
2017年10月号: 3回
2018年 4月号:15回
2018年10月号:33回
2019年 4月号:14回

益出しで会計利益を下支え

「地域金融機関を中心に預貸金収益と役務取引等利益では経費を賄えない金融機関が増加しており、(中略)有価証券の益出しで利益水準を維持している先も少なくない」【2017年4月号】

「⾦融機関の中には、株式や投資信託の益出しと再投資によって、保有有価証券の簿価が切り上がってきている先がみられる」【2018年10月号】

「地域⾦融機関を中⼼に、有価証券の益出しで利益⽔準を維持してきた先は少なくないが、度重なる益出しと簿価の切り上がりから、益出し余⼒はこのところ低下してきており、その⾦融機関間のばらつきも⼤きくなっている」【2019年4月号(今回)】

こうして見ると、近年の地銀の資産運用とは、投資信託の購入などで積極的なリスクテイクを行いつつ、会計上の利益を「つくる」ため、益出しにより実現損益を計上するという、一般的な資産運用業務とはかけ離れたものであることがわかります。

しかし、今回の日銀の分析によると、株式市場参加者が金融機関の将来的な収益性を評価するに当たって、益出しで下支えされた当期純利益の水準ではなく、基礎的収益力の趨勢的な低下傾向に注目しているとのこと。
それでも地銀は益出しによる当期純利益のお化粧を続けるのでしょうか
(大株主としての生保の見解も知りたいところですね)。

生保の運用計画の報道

地銀の投資信託の残高はここ数年で急増しています。単なる資産運用のリスクテイクというよりは、私募投信の配当や解約益が業務純益に反映される点が魅力なのでしょう。1990年代前半に、決算対策として各種の証券を購入していた生保業界を彷彿させます。

生保業界のほうですが、今年度の資産運用方針をメディア向けに説明しているようです。
報道によると、オープン外債(為替ヘッジをしない外債)への投資を増やす方針の会社が多いようです。4月25日の日経には、「『オープン外債』なら為替リスクは負うが利回りは確保できるため」なんて書いてありましたが、ここでいう利回りとはいったい何なんでしょうね。
日経「生保の運用、外債軸に」
ブルームバーグ「主要生保は海外クレジット物で収益確保、円高ならオープン外債へ」

※写真はみなとみらいです

 

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第三者委員会の報告書

ネットで「第三者委員会」と検索すると、NGT48(AKB48グループ)の暴行事件に関する調査報告書が出てきたので、読んでみました。

AKB商法の一端が示される

新潟のNGT48のメンバーがファンの男性から暴行被害を受けたという事件について、運営会社のAKSが第三者委員会を設置し、事実関係や会社関係者の関与、発生原因を調査したものですが、不祥事といっても身内が絡んでいるかもしれない暴行事件ですし、かつ、実行犯の協力も全く得られていないので、事実関係の解明ができたとは言えそうにない報告書でした。

運営会社が所属アイドルの安全確保にあまり気を使っていないことはよくわかりました。
AKB48グループは「会いに行けるアイドル」がコンセプトで、ファンとの接触が多いので、ファンとのトラブルも起こりやすく、実際、数年前には傷害事件も起きています。
それにもかかわらず、総選挙などでアイドルを競わせ、握手券のまとめだし(=お金を出せばファンは特定のメンバーと長時間接触できる)を認め、結果として一部ファンとの私的つながりを持つメンバーが少なくとも12名も存在することが判明した一方で、安全確保は基本的に本人任せという実態が記されています。
事件の根本的な原因はAKB48のビジネスモデルにあるようには感じました。

原因究明には事業の理解が不可欠

不祥事を起こした企業等が第三者委員会を設置し、再発防止に務めようとする動きは、ここ数年でかなり一般的になりました。
ただし、第三者委員会による調査は法的な強制力を持つものではなく、警察による捜査や金融庁の金融検査とは違うので、調査先の全面的な協力が得られなければ、限界があります。

さらに言えば、委員会を弁護士の先生が主導しているためか、もっと経営分析を行えば、より内面に迫れるのではないかと感じることが多いです。
全ての第三者委員会報告書を読んだわけではありませんが、その企業や組織のビジネスモデルや経営環境への深い理解がなく、結果として表面的な原因の発見にとどまっていたり、「ガバナンスの欠如」「企業文化の問題」といった一般論にとどまっていたりする報告書も目立つようです。

例えば、スルガ銀行が昨年9月に公表した第三者委員会調査報告書を見て、確かに不正行為の数々を浮き彫りにしたという点では高く評価できるとはいえ、スルガ銀行のビジネスモデルならではの原因究明が弱いように感じました。
もっとも本件に関しては、金融庁が10月の行政処分のなかで、より踏み込んだ原因究明を行っています。

※写真は浜離宮です。春ですね♪

 

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日本人の海外旅行

少し前に、2018年に日本を訪れた外国人が3119万人に達したというニュース(16日に日本政府観光局が発表)がありました。短期間でここまで増えるとはすごいですね。

出国者も過去最高を更新

ところで、この日本政府観光局の資料をよく見ると、日本から海外に出かけた人数も1895万人と、2012年の1849万人を超え、過去最高を更新しています。
過去の推移を確認したところ、2000年の1781万人までは概ね右肩上がりで増えていましたが、その後は増えたり減ったりという感じです。2012年は円高が後押しとなり、2013年からは反対に円安が足を引っ張ったようです。ここ数年の増加は為替要因ではなく、後述する世代要因が大きいのかもしれません。

訪問先は大きく変化

興味深いことに、海外旅行の訪問先は2000年頃とはかなり異なっていることがわかりました。出国者数に占める主な訪問先の割合を2000年と2016年で比べると、次のとおりです
(各国統計の寄せ集めなので、あくまで参考としてご覧ください)。

中・韓・台・香港   
37% ⇒ 44%

米国(ハワイを含む) 
28% ⇒ 21%

欧州(7か国)    
25% ⇒ 15%

東南アジア(8か国) 
21% ⇒ 28%

要するに欧米が減って、アジアが増えたということですね。
ドイツは当時の6割、フランス、イタリア、イギリスは当時の5割まで減っています(スペインは増加)。昨年私たちが訪れたスイスは、かつては100万人近い日本人が旅行していたそうですが、近年は20万人前後です。
リゾート地として落ち込みが激しいのが北マリアナ諸島(サイパンなど)で、当時の2割弱の水準です。グアムも当時の約7割。ハワイは当時の8割強で、近年は回復基調です。

他方で2000年に比べて増加が目立つのは、何といっても台湾です。いまや200万人近い人が訪れています(当時は90万人程度)。中国と韓国はいったん増えて、その後もとの水準に戻っています。
東南アジアではベトナムの増加が目立ちます。当時の15万人から最近は80万人にまで急成長しました。書店に行くとベトナムのガイドブックをよく見かけるようになったので、ビジネスだけでなく、観光客が増えているのでしょう。

若者は海外に行かなくなったのか

ところで、ひところ「若者が海外に行かなくなった」という話をよく耳にしました。20代の出国率をみると、確かに1990年代後半から2000年代にかけて低迷が目立ちました。
ところが、2010年代はむしろ回復傾向で、2017年は過去最高を更新しています。

1990年代後半から2000年代前半はちょうど就職氷河期にあたり、非正規雇用も増え、海外に行きたくても行けなかった20代が多かったのではないでしょうか。企業が出張費を抑えたということもあるでしょう。これに対し、2010年代は就職面では売り手市場が続いていますし、企業の海外進出(特にアジア)も拡大しています。LCCの相次ぐ就航も出国を後押ししているかもしれません。
さらに、親子の年齢差を30歳くらいとすると、今の20代の子どもを持つ親は50代ということで、自分たちが20代のときに海外に出かけたり、子どもと一緒に海外へ行ったりした経験が、それ以前の世代よりも多いと考えられます。

いずれにしても、20代人口の絶対数が減っているので目立ちませんが、総論としての「若者が海外に行かなくなった」という認識は改めたほうがよさそうです。

※ミャンマーへの日本人旅行者も急増しています

 

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コンプライ・アンド・エクスプレイン

5月26日のブログのなかで、コーポレートガバナンス・コードの実施状況に関して、

・一部の原則を除いて圧倒的に「コンプライ」が多い
・98%がコンプライでも、実態は違っているということもある
・コンプライでもエクスプレインが必要ではないか

といったことを書きました。

その後、東証のコーポレート・ガバナンス白書(直近は2017)を確認する機会があり、業種別の実施状況を見たところ、全原則実施という回答が最も多かった業種は「銀行」「保険」でした。なかでも銀行は8割を超えていることがわかりました。

いかにも金融機関らしい感じがしますが、これをどう考えるかです。
コードへの対応という点では進んでいると言えるのかもしれません。でも、本来は形式よりも中身が問われるなかで、独自の考えに基づく対応が全くないというのはどこか引っかかります。
日本の金融機関のガバナンスはそれほど画一的なのでしょうか?

ちなみに全原則実施だと、各社のガバナンス報告書には「コーポレートガバナンス・コードの各原則につきまして、全て実施しております」と書かれるだけで、対話のきっかけや材料にはなりません。
逆に言えば、全原則実施であれば、開示項目(この部分はコンプライ・アンド・エクスプレイン)だけに対応すればいいので、余計な作業をしなくてもすみますね。

※築地場内のイタリアン「トミーナ」の桃の冷製パスタです♪

 

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