西村先生の訃報に接して

元大蔵省の銀行局長で早稲田大学名誉教授の西村吉正先生が亡くなりました(8日)。
西村さんといえば、住専問題の国会答弁という印象が強いかもしれませんが、私にとっては大学院時代の恩師として、大変お世話になったかたです。

私は2005年から2008年にかけて西村ゼミに所属し、先生に保険会社の破綻研究の指導をしていただきました。
ゼミでは毎回持ち回りで発表者を務めることになっていて、なんと先生もそのローテーションに入るという貴重なゼミでした。
そういえば2007年の春だったと思いますが、麻疹(はしか)が大流行して大学閉鎖となり、先生の自宅でゼミを行ったこともありました。

他にもいろいろと思い出がありますが、まずは先生のご冥福を心からお祈りします。

金融行政の敗因

西村先生の著作といえば、やはり1999年に出た「金融行政の敗因」を挙げたいと思います。
不良債権問題と対峙した金融行政の当事者が、退職のすぐあとに自らの体験を振り返るというのは、そう簡単ではなかったはずです
(成功体験なら別でしょうけど)。
しかし本書では、自らが関わった大和銀行事件についても、住専処理についても、きちんと振り返り、かつ、反省すべき点を整理しているところがすごいです。

久しぶりに読み返してみると、生保に関連して次のような記述がありました。

「あまり気づかれないが、このこと(=低金利政策)によって生命保険の仕組みに無理が生じていることは非常に重要な問題である。(中略)短期間ならともかく、こんなに長期にわたって異常な金利水準が続くと運営に支障を生じるのは当然である。」

「逆ざやによって生命保険会社の経営は危機に瀕しているが、これも低金利政策の副作用である。それによって経営が破綻し、保険加入者が損害を受けるならば、金融システム維持という根拠とは別の理由で、政策責任者たる国家が何らかの対応を迫られる問題である。」

当時の保険行政は大蔵省銀行局のなかにある保険部が担っていました。
生保の連鎖的な経営破綻は本書が出た後の2000年前後に起きるのですが、1994年7月から2年間銀行局長を務めたかたが「低金利政策の副作用」という言葉を使い、「国家が何らかの対応を迫られる問題」とまで語っているのは、考えてみれば相当踏み込んだ記述だと思います。

もっとも、当時の保険部は銀行局のなかにあったとはいえ、「関東軍」などと揶揄されていたことを踏まえると、別の見方もできるのかもしれません。
結果としては、銀行とはちがい生損保の破綻に公的資金が使われることはなく、しかも「異常」という認識だった低金利はより低い水準で常態化してしまいました。

※写真は2011年3月の最終講義です。
 「なまはげ」はゼミ仲間の懇親会だったかな…

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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