05. 金融・経済全般

韓国信用市場の動揺

今月に入りIMFは最新版の国際金融安定性報告書(GFSR)のなかで、保険会社を含むノンバンク金融仲介機関の脆弱性が増しているという報告を行いました。報告書の2章を確認したところ、ケーススタディとして「2022年の英国年金基金の流動性危機」「Commodity-trading firms」「Private Credit Markets」とともに、「最近の韓国で生じた信用市場の動揺」というトピックが載っていました。
恥ずかしながら最近の韓国で金融市場の動揺があったことをフォローしていなかったので、IMFの報告書のなかで、昨年11月から12月にかけて、短期の信用スプレッドが200ベーシスを上回ったというグラフを見つけて驚いた次第です。これはリーマンショック以来の高水準となります。

私が「低金利下における生命保険会社の金利リスク対応ー日本・台湾・ドイツ・韓国の事例から考える」を論集に発表した2020年ころまでの韓国は、金利水準の低下局面が10年以上も続いていました。しかしその後、0.5%だった政策金利の引き上げが2021年8月から始まり、直近では3.5%となっています。
そのような金利上昇局面で起きたのが「レゴランド問題」です。エコノミストOnlineの記事によると、テーマパーク(春川のレゴランド)建設の資金調達にプロジェクトファイナンスを活用していたところ、債務保証をしていた地方政府が、いざ履行が必要となった際(2022年9月)に履行しないと言い出したことで、金融市場は大混乱に陥りました。大型開発案件の資金調達が厳しくなっただけではなく、優良企業の社債市場にも混乱が波及し、政府が社債やCPを買い入れるという、緊急の資金供給を実施するに至りました。

日本は金利上昇局面に入ったとまでは言い難い状況ですが、米国のシリコンバレー銀行の破綻を含め、金融市場が大きく動いた際には、何も起きないということはまずないと考えておくべきなのでしょう。

※写真は福岡・大濠公園です。

 

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クレディ・スイス

経営危機に陥り、同じスイスを拠点とするUBSに買収されることとなったクレディ・スイスの報道を見ていると、この銀行の投資銀行部門が荒っぽいビジネスを行うのは30年前と全く変わっていないことがよくわかりました。
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クレディ・スイスでは近年、ブルガリアの麻薬組織によるマネーロンダリング(資金洗浄)を巡る有罪判決、モザンビークでの汚職への関与、元従業員と幹部が関与したスパイ・スキャンダル、顧客データのメディアへの大量リークなど不祥事が相次いでいた。
これに加え、破綻した英金融ベンチャー、グリーンシル・キャピタルの創業者レックス・グリーンシル氏や、破綻に至ったアルケゴス・キャピタル・マネジメントとの関係が明らかになったことで、内部統制の甘さが浮き彫りになった。この結果、多くの顧客が同行に見切りをつけ、2022年後半に前例のない規模の顧客流出が進んだ。
2023年3月16日のBloombergより)
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30年前のほうは、一昨年に話題となった『金融庁戦記 企業監視官・佐々木清隆の事件簿』にいろいろと記述がありますので、一部を引用しましょう。

「(1999年に不良債権の『飛ばし』スキームについて調べたところ)一番派手にやっていたのがクレディ・スイス・グループだった。(中略)英当局が自慢した収益力の源泉は『飛ばし』の幇助によるものだった」(66ページ)

「クレディは山一や長銀、日債銀など大手の金融機関に売り込む一方、国際証券グループを手足に使って列島の隅々まで『飛ばし』デリバティブを売りつけた」(73ページ)

「二月に入って、三重県信用組合が国際証券の仲介でクレディの『飛ばし』商品を買っていたことが明らかになった。含み損のある7億円余の株式を飛ばしたのだが、それが二十億円以上の損失になって舞い戻ってきて、三重県信組は債務超過に陥った。損失を隠すつもりが、結局、自らの首を絞めることになった」(74ページ)

「(金融庁がCSFPの銀行免許を取り消したことを受けて)クレディ・スイス・グループの社員の多くがこのとき退職を迫られた。だが、儲かる日本を彼らがみすみす見逃すはずはなかった。一部は香港やシンガポール、スイスに散り、日本向けビジネスの捲土重来を期すことになった」(81ページ)

当時のクレディ・スイス・グループの事例では、株主はむしろ執行サイドの食い物にされたというべきかもしれません。支配株主が存在するからといって、株主からの経営への規律付けが働くとは限らないわけでして、とりわけ金融ビジネスでは健全な企業文化を育てることが重要なのだと思います。

※4月ですね!

 

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出生数半減の衝撃

この20年間で、宮城県を除く東北5県の年間出生数がほぼ半減したという、ショッキングなデータを見ました。
全国平均は2000年⇒2021年で▲32%、東京都だけが出生数をほぼ維持できている(▲5%)という状況です。人口動態リサーチャーとして引っ張りだこのニッセイ基礎研究所・天野馨南子さんのレポートに載っていました。

天野さんはこのところ、合計特殊出生率を地方自治体における少子化対策のベンチマークとする過ちについて、繰り返し述べています。
東京都の出生率は全国で最下位ですが、それは少子化が進んでいるというのではなく、20代前半のほぼ未婚の女性が毎年大量に流入し、出生率の分母となる女性の独身割合が高まるためです。別のレポートで天野さんは、東京への人口集中はどの世代にもまんべんなく起きているのではなく、10代後半から20代までの若者の移動が東京の人口一極集中のすべてであることも明らかにしています。

つまり、地方における少子化とは、既婚女性が子供を産まなくなっていることによるものではなく、地方に住む若い男女(特に女性)が就学や就職の機に地元を離れ、東京に行ってしまうことが原因なのです。そうだとすると、地方の少子化対策として優先すべきは「子育て支援」「婚活支援」ではないのは明らかです。
少なくとも異次元の少子化対策として、全国一律に「子育て支援」を行うような政策は的外れということになりますね。

※写真は同志社大学&同志社女子大学です。

 

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高校生の金融教育

私は大学で「保険論」「リスクマネジメント論」を担当しています。今年のゼミ生の卒業論文には金融教育に関するものが3つもありました(全部で10のうち)。保険も広い意味では金融ですので違和感はありませんが、3人とも金融機関への就職を予定しているので、関心がそちらに向いたのかもしれません。
ご参考までに論文のタイトルは次の通りです。

「金融教育の実用性と効果」
「沖縄県の金融リテラシー」
「なぜ『貯蓄から投資へ』が進まなかったのか」

いずれも金融教育が重要だと考えている点では共通していて、昨年4月から高等学校で金融教育が必修となったことをポジティブに受け止めていました。

金融教育の必修化といっても、新たに「金融」という教科ができたのではありません。学習指導要領の改訂により、「高等学校の家庭科と公共の授業において、金融機関の役割や金融商品の特徴、資産形成について学ぶこととなったのが、大きな特徴」(日経ビジネスより引用)です。成人年齢の引き下げとあわせ、ニュースでも時々取り上げられてきました。

高校生がなぜ金融?(NHK)

ただし、こんな話も聞こえてきます。最近たまたま家庭科を担当する現役の高校教員(かつてのクラスメート)と話をする機会がありまして、昨年4月からの金融教育について話を向けてみました。すると、「これまでの授業内容に上乗せされた形なので、時間を確保するのが難しい」「内容を紹介することしかできていない」といったコメントがありました。
時々報じられるように教育現場の実態は厳しく、文部科学省も教師不足について実態調査を行うに至っています(2022年1月公表)。調査によると、2021年度の始業日時点で家庭科担任が1人もおらず授業を行えていなかった高校が3校あったとのことです(担当外の先生が臨時で担当しているケースを除く)。

※年末に四万温泉(群馬県)に行ってきました。

 

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金融リテラシー調査

日本銀行が事務局を務める金融広報中央委員会では、個人の金融リテラシー(お金の知識・判断力)の現状を把握するため、3年に1度のペースで金融リテラシー調査を行っています。
最新の調査結果(2022年版)は7月に公表されており、論文指導の関係でデータを確認する機会がありました(私のゼミでは金融教育に関心を持つ学生が多いのです)。改めて感じたのは、同じ若年層だからといって、大学生と若年社会人を一くくりにしてはいけないということです。

金融リテラシーの正誤問題は、年齢層が高いほど正答率が高くなる傾向がきれいに出ています。本調査での若年社会人は18~29歳、学生は18~24歳で、正誤問題の正答率はそれぞれ42.4%、40.8%でした(若年社会人 > 大学生)。
どこで差がついたのか内訳を確認すると、生活設計を問う質問と、金融知識を問う質問のうち「保険」「ローン・クレジット」「資産形成」の正答率に差があるとわかりました。当たり前といえば当たり前ですが、社会に出ているかどうかの違いがこの結果に表れているのでしょう。

他方でこんなデータもありました。正誤問題の正答率と金融知識についての自己評価をそれぞれ指数化して、「金融リテラシー・ギャップ」(客観的評価と自己評価を比較)として示したものを見ると、若年社会人が▲23.7、学生が▲13.0と、若年社会人の「自信過剰」が際立っていました。金融トラブルを経験したことのある割合も、若年社会人の9.0%に対し、学生は2.5%にとどまっています。
なかでも衝撃的だったのは、金融教育を受けた経験があると答えた若年社会人の金融リテラシー・ギャップが▲41.9と大きく(学生は▲5.2)、金融トラブル経験者の割合も大きい(17.4%)という結果です。自己評価だけが高まってしまうと、かえってトラブルを招いてしまいやすいのでしょうか。この調査だけで判断するのはやや乱暴ですが、形だけの中途半端な金融教育はむしろ害になりかねないことを示唆しているように思えます。

※二条城に行ってきました。歴史を感じますね。

 

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『決戦!株主総会』

話題の書籍『決戦!株主総会 ドキュメント LIXIL死闘の8カ月』を読みました。
LIXILの件は全くフォローしていなかったので、本書を読んで、ワンマン実力者の影響力を排し、コーポレートガバナンスを機能させるのがいかに難しいかを思い知らされた気がします。

<以下ネタバレあり>

東芝もそうでしたが、LIXILもガバナンスが機能しやすいとされる指名委員会等設置会社でした。しかし、指名委員会や取締役会のメンバーを自分に近い人材で固めることで、創業家出身の実力者は思い通りにならないプロ経営者の首を切ることができてしまいます。
株主総会で会社提案および株主提案の取締役候補を選ぶとした場面でも、ISSやグラスルイスといった議決権行使助言会社は独立社外取締役の数が多いほどいいといった、形式面を重視する姿勢を示しました。

政府主導のガバナンス改革により、2014年には約2割しかなかった「2名以上の独立社外取締役を選任した上場会社」が、短期間のうちに100%近い水準となりました。指名委員会等設置会社は引き続き少ないものの、今や全体の6割以上の上場会社が指名委員会を設置しています。
とはいえ、「社長やCEOが意中の人物を呼び出して、『後は君に任せるから』と言い、それを取締役会が追認する。日本企業の後継者選びはほとんどがそんなプロセスを辿るのだろう」(本書342ページ)というのは、例えば日経新聞の「私の履歴書」を見ていてもうかがえます。当たり前なのかもしれませんが、形だけではガバナンスは機能しないということですね。

「あとがきに代えて」で著者は、2019年の株主総会後にLIXILのガバナンス改革が進んだ要因として、次の3つを挙げています。

・創業家出身の実力者に連なる取締役が一掃されたこと
・「名ばかり社外取締役」ではなく、役割を正しく理解し、自ら手足を動かす社外取締役の存在
・指名委員や社外取締役を、執行部を含む従業員が信頼していること

問題を抱えた会社では、まずは1つめをどうやって達成するか、ですねの。

※写真は「海に最も近い駅」と言われる島原鉄道・大三東駅です。

 

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ゼロゼロ融資・42兆円の反動

元首相の銃殺というショッキングな事件が起きてしまいました。ご冥福をお祈りするとともに、私たちの社会が妙な方向に進んでいかないことを願います。

さて、以前から親交のある一橋大学の安田行宏先生がNHKクローズアップ現代に出演するということで、なぜかドキドキしながら番組を観ました
(放送は7/6でした。13日まで見逃し配信中です)。

番組の概要はこちらのサイトのとおりですが、政府による異例の中小企業政策(特に2020年5月に民間金融機関まで広げたこと)が企業と金融機関のモラルハザードを引き起こし、結局のところ国民が負担する可能性が高いのだと理解しました。

「企業にとっては借りやすい分、本来の身の丈に合わない額まで融資を受けてしまう可能性があるといいます。金融機関にとっても、確実に融資を回収できて利子も稼げるので、今の低金利時代においてゼロゼロ融資は“恵みの雨”といえます」
(安田先生のコメント部分を引用)

番組では、大阪信用保証協会による経営サポートの取り組みや、金融機関どうしの連携で貸付先の経営改善を図る動きを紹介していました。とはいえ、コロナ前から総じて経営状態の厳しい金融機関を、全くリスクを負うことのない形でゼロゼロ融資に参加させたことが危機対応として正しかったのか、国民負担が実現してしまった際には検証が必要でしょう。
そもそも長年にわたり法人税を払わないような中小企業が数多く存続できているというのが正常ではないと思います。番組でも「ゾンビ企業」というワードが出ていましたね。

※JR九州の特急「A列車で行こう」に乗りました。

 

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最新の金融システムレポート

日本銀行が21日に公表した「金融システムレポート」に、ウクライナ情勢が日本の金融システムに及ぼす影響というBOX(巻末のコラム)がありました。
本邦金融機関のロシア向け与信残高は71億ドルと限定的(トップ3はフランス、イタリア、オーストリア)で、ドルを中心とした外貨資金繰りに特段の問題はみられず、ロシア関連の債券・株式の保有も少ないことから、現時点では影響は限られているという結論でした。
もちろん、先行きには大きな不確実性があるとも述べていて、サイバー攻撃の増加にも注意が必要とのことでした。

レポートの本編で今回私が気になったのは、地域金融機関が投資信託の残高を引き続き積み増していることと(本編19ページ)、今さらではありますが、上場銀行のPBRが0.5倍を下回る水準で低迷していること(同70ページ)、つまり、株式市場からの評価が極端に低いことの2つでした。

投資信託のうち、増加が目立つのは「マルチアセット」だそうです。レポートによると「保有投資信託のうち5割程度が、海外金利系投資信託と海外金利を主たるリスクファクターとするマルチアセット型投資信託となっている」「(マルチアセット型は)リスク量の変動を適時に把握することが難しいほか、市場の変動が大きいストレス局面では、必ずしもリスク分散の効果が十分に発揮されなかった事例もみられている」とのことで、「利息配当金の増収を企図して」という発想だとしたら、ちょっと心配ですね。

金融システムレポートには「ハイライト」や「概要」もあり、本編の全体像を知りたい方はこちらが便利です。金融分野の勉強をしている学生の皆さんにも、このレポートは(簡単ではないけど)おすすめです。

※藤の花がきれいでした。

 

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日経フィナンシャルほか

連日のウクライナ危機のニュースには心が痛みます。保険会社への影響ですが、経済制裁は補償の対象外でしょうし、保険会社のロシア向け与信が大きいとも考えにくいので、まずは、金融市場動揺による影響が気掛かりです。

日経フィナンシャルに投稿

金融ビジネス向けの有料媒体である日経フィナンシャル(NIKKEI Financial)に寄稿した記事が3月8日に掲載されました。題名は「生保決算報道、『真の経営状態』に軸足を」です。

・新聞は生保決算の何を報じてきたか
・「保険料等収入」「基礎利益」が意味するもの
・誰のための報道なのか

本ブログの読者にはこれらの見出しだけでも概ね内容がわかってしまうかもしれません(笑)
とはいえ、これまでの日経フィナンシャルへの寄稿(3回)のうち、「新聞報道を批判する記事をよく日経が載せましたね」などと、これまでで反響が一番多かったです。機会がありましたらぜひご覧ください。
果たして5月の各紙の生保決算報道はどのようなものとなるのでしょうか。

決算公告の実施会社「わずか1.5%」

東京商工リサーチによると、2021年に官報で決算公告した株式会社は全体の1.5%だったそうです。
株式会社は会社法で毎年、決算公告を行う義務があります(罰則規定もあります)。ところが、254万社ある株式会社のうち、わずか4万社しか公告を行っていないというのですね。資本金の小さい株式会社の公告割合が極端に低いことから、東京商工リサーチは「小規模事業者の情報開示への認識が低い」としています。
すべての中小企業に決算公告の義務を課すべきかどうかという議論はありそうですが、少なくとも今の法令で決まっているにもかかわらず、法令違反を当局が何年も黙認しているのはどうしてなのでしょう。
この話(法人税のいびつな構造)とも関係しているのでしょうか。

※八女(やめ)福島の町並みです。静かなところでした。

 

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国民健康保険の発祥地

日経新聞の電子版で、国民健康保険のルーツが福岡にあるという記事(「健康保険、江戸期の互助が源(有料会員限定)」を読み、散歩がてら訪れてみました。場所は福岡市からほど近い、福津市です。

こちらのコラム(「発足80年を迎えた国保の大改革」)によると、国民健康保険の発祥地とされている場所は福津市のほか、埼玉県越谷市、山形県戸沢村にもあり、それぞれ由来があるとのこと。共通しているのは、昭和の初期に当時の内務省社会局が農村の支援策として公的医療保険の整備を検討していた際、これらの地域にはすでに相互扶助の取り組みが存在していて、内務省はこれらを参考にしたということです。

福津市など宗像地区には定礼(じょうれい)という仕組みがありました。福津市の図書館で見つけた「やさしい福間町の歴史」によると、この仕組みは、医者に定まった収入を約束して無医村となるのを防ぎ、貧しい人でも治療代の支払いを心配しないで医者にかかることができるようにするために始まったもので、江戸時代後期の天保年間(1830~43)までさかのぼれます。
内務省が調査した昭和初期の定礼は、各家から玄米を集め、それを診療所の医者に差し出せば、1年間無料で治療を受けられました。村のほとんどの人が加入していて、豊かな人は多くの米を提供し、貧しい人は少しの米を出せばよかったとか。

同じ定礼でも地区によって多少の違いがありました。写真の石碑がある手光・津丸地区では、明治時代に地区の人々が米を出し合って村立の医院を作り、医者を招いたそうです。他にも次のような記述がありました。

「明治時代から昭和時代にわたる60数年間、定礼医として親子2代の医師が、貧しさに耐えて医療奉仕をしてくれました(畦町地区)」

「他のほとんどの地区には1人の定礼医がいたので、村人は自由に医者を選ぶことができませんでした。しかし、内殿地区は無医村のため、他の地区の好きな医者を選んで診てもらうことができました」「他の地区のように米を出し合って治療代を負担してもらうのではなく、お金を出し合った中から自分の治療代の3割を補助してもらい、残りは自己負担でした」

(いずれも「やさしい福間町の歴史」より)

定礼は村人どうしの相互扶助というだけではなく、医師の生活保障という面もあったと考えられます。国民健康保険のルーツの1つがこのような制度だったとは、大変興味深いですね。

 

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