05. 金融・経済全般

資産運用成果の報道

GPIF 昨年度の運用実績 過去最大45兆4000億円余の黒字に(NHK)

昨年度のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用実績が45.4兆円の黒字だったという報道です。国内債券はマイナスでしたが、内外株式の時価上昇が大きく寄与しました。ちなみにGPIFの2023年度末の運用資産額は246兆円です。

「大学ファンド」昨年度純利益 1000億円超の黒字 文科省やJST

国が重点的に支援する「国際卓越研究大学」などへの財源として、国が10兆円規模で運用している「大学ファンド」の運用による純利益が1167億円の黒字だったという報道です。こちらはGPIFとはちがい、実現損益に注目していることになります。ちなみに2023年度の大学ファンドの運用実績は9934億円でした。

たまたま情報を入手しやすいNHKニュースを取り上げていますが、他の報道機関も概ね同じ傾向です。同じ資産運用の成果を報道しているのに、どうしてGPIFでは2023年度の収益額(=運用実績)を報道し、大学ファンドでは運用実績ではなく当期純利益(=実現損益)を報道するのでしょうか。大学ファンドの運用成果を知りたいのであれば、実現損益に意味があるとは思えません。売却すれば実現益はいくらでも「操作」できますよね。

私は農林中金の一連の報道にも強い違和感を感じました。農林中金は総資産の6割を占める「市場運用資産」の約7割を外国債券と海外クレジット投資に振り向けた結果、期待に反し、海外金利の上昇で時価が下落してしまいました。すでに2022年度末には時価下落(=運用の失敗)がわかっていたにもかかわらず、大きなニュースになったのは、農林中金が多額の含み損を処理するとなってからでした。
しかし、重要なのは損失の処理ではなく、損失の発生だと思うのですね。実現損益を出さなければ問題にしないのは、会計の呪縛としか言いようがありません。

それとも読者は実現損益を知りたいのであって、こんなことを書く私が少数派(=そういう人は自分で調べればいい)ということなのでしょうか

※韓国・大邱は教会の町でした。

 

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「モノ言う株主」の株式市場原論

2024年6月18日の週刊金融財政事情の書評(一人一冊)をこちらでもご紹介します。今回取り上げた書籍は丸木強さんの『「モノ言う株主」の株式市場原論』です。先週の株主総会関連ニュースと合わせてご覧ください。
文体がいつもとやや違うのは、私が間違えて「ですます調」で原稿を出してしまい、それを編集で直していただいたためです。

時代がアクティビストに追いついてきた

「個人的な見解ではあるが、PBR(株価純資産倍率)が1倍割れしていなければそれでいいとは思っていない」。

誰の発言だろうか。アクティビストにも思えるが、実は金融庁の栗田照久長官。5月に埼玉大学で開催された日本金融学会春季大会の特別講演での発言だ。
東京証券取引所は昨年3月、すべての上場会社を対象に、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応を要請し、特に「PBR1倍割れは、資本コストを上回る資本収益性を達成できていない、あるいは、成長性が投資者から十分に評価されていないことが示唆される一つの目安」とした。要請を受けた多くの企業が自社株買いなどでとりあえずPBR1倍超えを目指している現状を踏まえ、その場しのぎの対応に走るのではなく、資本コストを意識した持続的な収益成長が重要だと警鐘を鳴らした。
本書の「はじめに」には「時代がアクティビストに追いついてきた」とあるが、まさにそのことを印象付ける発言だった。

アクティビストは「モノ言う株主」とも称される。著者の丸木氏はあえて書名に使ったのだと思いつつ、評者はいい加減やめたほうがいいと考えている。スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードで株主と経営者の対話を求めるようになってもう10年も経つ。政策保有に代表される「モノを言わない株主」のほうが問題だ。
とはいえ、アクティビストとはどのような投資家で、どのような考えに基づいて活動しているのかを知る上で、アクティビストファンドの当事者による本書は貴重である。読者は、「金の亡者」の自己主張ではなく、資本主義の本質や日本企業の課題を気軽に学ぶことができる。

ただし、著者は株主価値を毀損させる存在には容赦なく切り込んでくるため、読者は覚悟が必要かもしれない。例えば、アクティビスト対策を指南すると喧伝している証券会社や信託銀行等のフィナンシャル・アドバイザー、経営コンサルティング会社、弁護士などについては手厳しい。アクティビストのみならず一般株主の利益にもまったく寄与しないアドバイスを行い、高額の報酬を受け取る「資本市場の寄生虫」だと指摘する。
読者諸氏の仕事は、果たして顧客企業の株主価値向上に寄与しているだろうか。再確認してみてはいかがか。

※この花、最近よく見かけるような気がします。

 

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ライフマネジメントに関する高年齢層の意識調査

「保険学セミナー・保険学セミナー懇談会」(大阪開催・運営は生命保険文化センター)にオンライン参加して、福岡大学出身の大学院生の報告とともに、生命保険文化センターが3年おきに実施している「ライフマネジメントに関する高年齢層の意識調査」について興味深く話を聞きました。

直近(2023年度)の調査結果は昨年12月に公表されています。60歳以上の男女約2000人に対し、「健康状態」「性格特性・リスク意識・金融保険リテラシー」「家族・人とのつながり」「就労」「家計」「生活保障意識」「生活満足度」と広範な調査を行い、報告書にまとめたものです。

例えば「生活満足度」の章では、人生全般に関する「後悔」に関する調査結果が出ています。
「もっと○○すればよかった」という質問に〇をつけてもらう調査で、「そう思う」「まあそう思う」の合計が5割を超えた、つまり、回答者の半分以上が後悔していると答えた項目は、「もっと学べばよかった(57.1%)」「もっと貯蓄を行えばよかった(54.2%)」の2つでした。この2項目は男女差があまりなく、特に60代の「後悔」割合は6割を超えています。

調査ではさらに、1つでも後悔していると答えた人に「どれか1つやり直せるとしたらどれを選ぶか」とも聞いていて、その結果は「学び」が24.7%、「貯蓄」が19.1%、「やり直したい事柄はない」が11.9%の順でした。
シニア層の多くは、高校や大学を卒業し、職場でのトレーニングや資格取得などを行う若い時期を過ぎてしまうと、何かを学ぶ機会がほとんどなかったのかもしれません。あるいは、社会人になっていろいろな経験をしたからこそ、あらためて学びたいという気持ちが強くなるということもありそうです。

なお、「性格特性・リスク意識・金融保険リテラシー」の章に、シニア層のリスク意識をとらえるため、次のそれぞれのケースについてどちらのクジを引きたいかという質問がありました。

99%の確率で3万円当選し、 1%の確率で0円になる/必ず1万円もらえる
90%の確率で3万円当選し、10%の確率で0円になる/必ず1万円もらえる
80%の確率で3万円当選し、20%の確率で0円になる/必ず1万円もらえる
60%の確率で3万円当選し、40%の確率で0円になる/必ず1万円もらえる
30%の確率で3万円当選し、70%の確率で0円になる/必ず1万円もらえる

3万円当選の確率が低いほど、必ず1万円もらえるという回答の割合が多くなるという結果が示されています。ただ、以前も同じようなことをどこかで書いた気がしますが、そもそもリスク意識をとらえるのに適切な質問なのかどうか、私には疑問です。
30%のケースを除けば、いずれも前者の期待値が1万円を上回っているとはいえ、クジを引けるのは1回だけです。何十回と引けるのであれば話は別ですが、1回だけなのであれば、これはリスク回避傾向というよりも、ギャンブル志向かどうかを調べたことになってしまうのではないでしょうか。
投資のリスクとは一か八かのギャンブルをしたいかどうかではなく、分散効果の活用などでうまくコントロールするものと理解しています。ですから、シニア層の金融に関するリスク意識をとらえるのであれば、設問にもう少し工夫が必要ではないかと思いました。

※新学期が始まりました。

 

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『財閥のマネジメント史』

2024年2月20日の週刊金融財政事情の書評(一人一冊)をこちらでもご紹介します。今回取り上げた書籍は武藤泰明さんの『財閥のマネジメント史』です。「はじめに」にあるように本書は論文ではなく、マネジメントを専門とする著者が日本企業を独自の視点で解説したものです。

企業集団のルーツに日本企業の本質

本書は、日本企業について理解の深まる労作である。バブル経済の崩壊後、大手銀行が三つに集約されてからは、6大企業集団という言葉を目にすることはほとんどなくなった。それでも依然、巨大企業の4分の1程度が企業集団に属しており、韓国やASEAN諸国の財閥ほどではないにしても、日本経済におけるその存在感は大きい。本書は、「三井」「住友」「三菱」の3大財閥に焦点を当て、その歴史を通じて近代日本の経営史を記し、日本の企業集団の本質に迫ろうとしている。

明治期の財閥は非関連分野の多角化を一気に進めた。現在の発想だと、関連する事業に進出した方がリスクは小さく、シナジー効果も得られると思ってしまう。ところが当時の日本企業には技術やノウハウがないので、すでに海外で起きたイノベーションを導入すれば参入リスクはそれほど大きくなく、つまるところ「多角化していく分野は何でもよかった」。むしろ非関連分野の多角化を進めた方が、戦争に伴う景気変動や恐慌などに耐えることができたという。途上国ならではの経営戦略といえよう。

非関連多角化を進めるには潤沢な資金が必要となる。3大財閥はそれぞれ銀行だけではなく鉱業という資金源を持っていた。政府との距離の近さも、財閥形成期には強みとなった。これに対し、新興財閥の場合には多角化の度合いが低く、グループ内の「機関銀行」に資金調達を依存するケースも多かった。恐慌の際には銀行と事業会社が共倒れとなるリスクを抱えていたわけで、実際そうなったケースも目立つ。

とはいえ、3大財閥は政府に近いが故に、都合よく使われた歴史もある。2021年のNHK大河ドラマ『青天を衝け』では、三井の大番頭だった三野村利左衛門が主人公の渋沢栄一と対立する悪役として描かれていた。
しかし本書によると、三井は政府によって散々振り回されたことが分かる。公金取り扱いの問題(戦費調達のため急な返済を求められた)で経営危機に追い込まれたり、政府から中央銀行の設立を頼まれ、わざわざ祖業の越後屋を切り離して準備したにもかかわらず反故にされたりしている。
三井はその後、渋沢栄一(当時は大蔵省にいた)に言われて第一国立銀行を設立したのにオーナーシップを取れず、別途に三井銀行を設立することになった。ドラマとは違い、財閥が政府との関係維持に苦労してきた姿を見てとれる。

※いつも羽田でお世話になっている電車です。

 

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大手損保のカルテル事件

私のゼミでは年に数回、金融・保険分野の実務家をゲストとしてお招きしています。
先週(22日)は福岡財務支局の永松さんに金融リテラシー向上をテーマにした授業をお願いしました。その様子がニッキンオンラインで紹介されています(こちら)。
グループワークには福岡信用金庫の若手職員にも加わっていただき、中身の濃い授業になりました。関係者の皆さま、ありがとうございました。

さて、東急向けの保険契約で保険料の調整行為が行われていたというカルテル事件が発覚しました。
幹事会社である東京海上日動をはじめ、共同保険に関わっていた保険会社が関与を認め、リリースを公表しました
三井住友海上あいおいニッセイ同和損保ジャパン)。

共同保険とは、複数の保険会社が分担してリスクを引き受けるもので、保険会社は引受割合に応じて責任を負います(連帯責任ではありません)。顧客の意向で入札が行われるのが一般的で、本件では顧客が入札時の保険料水準に疑念を持った(4社の保険料が同水準だった)ことを契機にカルテルが発覚したそうです。

東京海上日動によると、複数の社外弁護士を起用した特別調査委員会を設置し、事実関係の確認に努めているとのことです。
現時点でわかっていることとして、4社とも東急の株式を政策目的で保有し、最も保有数が多い東京海上日動が主幹事を務めているという話があります。ただし、上位10社を占めるほどの大株主ではありません。

東京海上日動 4,388,338株(2023/3末)
三井住友海上 1,467,105株(2022/3末)
あいおいND   913,814株(2022/3末)
損保ジャパン 3,235,785株(2023/3末)

ところで、各社のリリースにも報道にも「代理店」が出てこないのはどうしてなのでしょうか。
一般的には大企業向け保険の多くが直扱い、すなわち、保険会社が企業に直接販売する、というのではなく、企業がグループ内に設立した企業代理店(機関代理店)を通した契約となっています。東急グループにも東急保険コンサルティングという専業保険代理店があり、2022年3月期の売上高は17.4億円に上ります。
保険料率が自由化される以前であれば、大企業といえども保険会社と価格交渉する余地がなかったので、企業は代理店を作り、保険会社から代理店手数料を受け取るのが合理的だったのかもしれません。しかし、料率が自由化された今では、価格交渉によって保険料が減ると、企業代理店の収入も減ってしまいます。もちろん企業からすれば、優先すべきは自らのリスクマネジメントを効率的に行うことであり、そのための専門人材(リスクマネジャー)も必要なのですが、他方で企業代理店は総じて企業OBの受け皿となっていて、専門的な仕事は保険会社の営業担当社員や保険会社からの出向者が行っていたりします(東急グループの話ではなく、あくまで一般論です)。
このような市場慣行があるなかで今回の件が生じたのかどうかはわかりません。ただ、大企業向け損害保険の世界は外部から見て謎が多いのは確かです。

※写真は東京・新橋駅です。

 

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韓国信用市場の動揺

今月に入りIMFは最新版の国際金融安定性報告書(GFSR)のなかで、保険会社を含むノンバンク金融仲介機関の脆弱性が増しているという報告を行いました。報告書の2章を確認したところ、ケーススタディとして「2022年の英国年金基金の流動性危機」「Commodity-trading firms」「Private Credit Markets」とともに、「最近の韓国で生じた信用市場の動揺」というトピックが載っていました。
恥ずかしながら最近の韓国で金融市場の動揺があったことをフォローしていなかったので、IMFの報告書のなかで、昨年11月から12月にかけて、短期の信用スプレッドが200ベーシスを上回ったというグラフを見つけて驚いた次第です。これはリーマンショック以来の高水準となります。

私が「低金利下における生命保険会社の金利リスク対応ー日本・台湾・ドイツ・韓国の事例から考える」を論集に発表した2020年ころまでの韓国は、金利水準の低下局面が10年以上も続いていました。しかしその後、0.5%だった政策金利の引き上げが2021年8月から始まり、直近では3.5%となっています。
そのような金利上昇局面で起きたのが「レゴランド問題」です。エコノミストOnlineの記事によると、テーマパーク(春川のレゴランド)建設の資金調達にプロジェクトファイナンスを活用していたところ、債務保証をしていた地方政府が、いざ履行が必要となった際(2022年9月)に履行しないと言い出したことで、金融市場は大混乱に陥りました。大型開発案件の資金調達が厳しくなっただけではなく、優良企業の社債市場にも混乱が波及し、政府が社債やCPを買い入れるという、緊急の資金供給を実施するに至りました。

日本は金利上昇局面に入ったとまでは言い難い状況ですが、米国のシリコンバレー銀行の破綻を含め、金融市場が大きく動いた際には、何も起きないということはまずないと考えておくべきなのでしょう。

※写真は福岡・大濠公園です。

 

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クレディ・スイス

経営危機に陥り、同じスイスを拠点とするUBSに買収されることとなったクレディ・スイスの報道を見ていると、この銀行の投資銀行部門が荒っぽいビジネスを行うのは30年前と全く変わっていないことがよくわかりました。
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クレディ・スイスでは近年、ブルガリアの麻薬組織によるマネーロンダリング(資金洗浄)を巡る有罪判決、モザンビークでの汚職への関与、元従業員と幹部が関与したスパイ・スキャンダル、顧客データのメディアへの大量リークなど不祥事が相次いでいた。
これに加え、破綻した英金融ベンチャー、グリーンシル・キャピタルの創業者レックス・グリーンシル氏や、破綻に至ったアルケゴス・キャピタル・マネジメントとの関係が明らかになったことで、内部統制の甘さが浮き彫りになった。この結果、多くの顧客が同行に見切りをつけ、2022年後半に前例のない規模の顧客流出が進んだ。
2023年3月16日のBloombergより)
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30年前のほうは、一昨年に話題となった『金融庁戦記 企業監視官・佐々木清隆の事件簿』にいろいろと記述がありますので、一部を引用しましょう。

「(1999年に不良債権の『飛ばし』スキームについて調べたところ)一番派手にやっていたのがクレディ・スイス・グループだった。(中略)英当局が自慢した収益力の源泉は『飛ばし』の幇助によるものだった」(66ページ)

「クレディは山一や長銀、日債銀など大手の金融機関に売り込む一方、国際証券グループを手足に使って列島の隅々まで『飛ばし』デリバティブを売りつけた」(73ページ)

「二月に入って、三重県信用組合が国際証券の仲介でクレディの『飛ばし』商品を買っていたことが明らかになった。含み損のある7億円余の株式を飛ばしたのだが、それが二十億円以上の損失になって舞い戻ってきて、三重県信組は債務超過に陥った。損失を隠すつもりが、結局、自らの首を絞めることになった」(74ページ)

「(金融庁がCSFPの銀行免許を取り消したことを受けて)クレディ・スイス・グループの社員の多くがこのとき退職を迫られた。だが、儲かる日本を彼らがみすみす見逃すはずはなかった。一部は香港やシンガポール、スイスに散り、日本向けビジネスの捲土重来を期すことになった」(81ページ)

当時のクレディ・スイス・グループの事例では、株主はむしろ執行サイドの食い物にされたというべきかもしれません。支配株主が存在するからといって、株主からの経営への規律付けが働くとは限らないわけでして、とりわけ金融ビジネスでは健全な企業文化を育てることが重要なのだと思います。

※4月ですね!

 

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出生数半減の衝撃

この20年間で、宮城県を除く東北5県の年間出生数がほぼ半減したという、ショッキングなデータを見ました。
全国平均は2000年⇒2021年で▲32%、東京都だけが出生数をほぼ維持できている(▲5%)という状況です。人口動態リサーチャーとして引っ張りだこのニッセイ基礎研究所・天野馨南子さんのレポートに載っていました。

天野さんはこのところ、合計特殊出生率を地方自治体における少子化対策のベンチマークとする過ちについて、繰り返し述べています。
東京都の出生率は全国で最下位ですが、それは少子化が進んでいるというのではなく、20代前半のほぼ未婚の女性が毎年大量に流入し、出生率の分母となる女性の独身割合が高まるためです。別のレポートで天野さんは、東京への人口集中はどの世代にもまんべんなく起きているのではなく、10代後半から20代までの若者の移動が東京の人口一極集中のすべてであることも明らかにしています。

つまり、地方における少子化とは、既婚女性が子供を産まなくなっていることによるものではなく、地方に住む若い男女(特に女性)が就学や就職の機に地元を離れ、東京に行ってしまうことが原因なのです。そうだとすると、地方の少子化対策として優先すべきは「子育て支援」「婚活支援」ではないのは明らかです。
少なくとも異次元の少子化対策として、全国一律に「子育て支援」を行うような政策は的外れということになりますね。

※写真は同志社大学&同志社女子大学です。

 

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高校生の金融教育

私は大学で「保険論」「リスクマネジメント論」を担当しています。今年のゼミ生の卒業論文には金融教育に関するものが3つもありました(全部で10のうち)。保険も広い意味では金融ですので違和感はありませんが、3人とも金融機関への就職を予定しているので、関心がそちらに向いたのかもしれません。
ご参考までに論文のタイトルは次の通りです。

「金融教育の実用性と効果」
「沖縄県の金融リテラシー」
「なぜ『貯蓄から投資へ』が進まなかったのか」

いずれも金融教育が重要だと考えている点では共通していて、昨年4月から高等学校で金融教育が必修となったことをポジティブに受け止めていました。

金融教育の必修化といっても、新たに「金融」という教科ができたのではありません。学習指導要領の改訂により、「高等学校の家庭科と公共の授業において、金融機関の役割や金融商品の特徴、資産形成について学ぶこととなったのが、大きな特徴」(日経ビジネスより引用)です。成人年齢の引き下げとあわせ、ニュースでも時々取り上げられてきました。

高校生がなぜ金融?(NHK)

ただし、こんな話も聞こえてきます。最近たまたま家庭科を担当する現役の高校教員(かつてのクラスメート)と話をする機会がありまして、昨年4月からの金融教育について話を向けてみました。すると、「これまでの授業内容に上乗せされた形なので、時間を確保するのが難しい」「内容を紹介することしかできていない」といったコメントがありました。
時々報じられるように教育現場の実態は厳しく、文部科学省も教師不足について実態調査を行うに至っています(2022年1月公表)。調査によると、2021年度の始業日時点で家庭科担任が1人もおらず授業を行えていなかった高校が3校あったとのことです(担当外の先生が臨時で担当しているケースを除く)。

※年末に四万温泉(群馬県)に行ってきました。

 

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金融リテラシー調査

日本銀行が事務局を務める金融広報中央委員会では、個人の金融リテラシー(お金の知識・判断力)の現状を把握するため、3年に1度のペースで金融リテラシー調査を行っています。
最新の調査結果(2022年版)は7月に公表されており、論文指導の関係でデータを確認する機会がありました(私のゼミでは金融教育に関心を持つ学生が多いのです)。改めて感じたのは、同じ若年層だからといって、大学生と若年社会人を一くくりにしてはいけないということです。

金融リテラシーの正誤問題は、年齢層が高いほど正答率が高くなる傾向がきれいに出ています。本調査での若年社会人は18~29歳、学生は18~24歳で、正誤問題の正答率はそれぞれ42.4%、40.8%でした(若年社会人 > 大学生)。
どこで差がついたのか内訳を確認すると、生活設計を問う質問と、金融知識を問う質問のうち「保険」「ローン・クレジット」「資産形成」の正答率に差があるとわかりました。当たり前といえば当たり前ですが、社会に出ているかどうかの違いがこの結果に表れているのでしょう。

他方でこんなデータもありました。正誤問題の正答率と金融知識についての自己評価をそれぞれ指数化して、「金融リテラシー・ギャップ」(客観的評価と自己評価を比較)として示したものを見ると、若年社会人が▲23.7、学生が▲13.0と、若年社会人の「自信過剰」が際立っていました。金融トラブルを経験したことのある割合も、若年社会人の9.0%に対し、学生は2.5%にとどまっています。
なかでも衝撃的だったのは、金融教育を受けた経験があると答えた若年社会人の金融リテラシー・ギャップが▲41.9と大きく(学生は▲5.2)、金融トラブル経験者の割合も大きい(17.4%)という結果です。自己評価だけが高まってしまうと、かえってトラブルを招いてしまいやすいのでしょうか。この調査だけで判断するのはやや乱暴ですが、形だけの中途半端な金融教育はむしろ害になりかねないことを示唆しているように思えます。

※二条城に行ってきました。歴史を感じますね。

 

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