05. 金融・経済全般

大学での保険の講義

今年もいくつかの大学で学生の皆さんに講義をする機会がありました。
テーマは「生命保険会社のリスク管理」「保険会社ERMと経営情報の開示」といった、かなり専門的な分野なので、いきなり本題に入るのではなく、身近なリスクとリスク管理の話をしたうえで、保険会社がどのようにしてリスクと向き合っているかを伝えるようにしました。

今年はこんな話をしてみました。
ある会社では、保険金額1000万円、保険期間10年の定期保険を月額保険料は920円(20歳男性)で提供しています。保険会社に支払う保険料は10年間で合計110,400円ですが、当然ながら、亡くならないかぎり保険金を受け取ることはできません。
それでも、「掛け捨ては損」という意識の人も多いとはいえ、「11万円も払ったのに保険金を1円ももらえないなんて、保険会社はボロ儲けだ!」と怒る人はさすがに少ないと思います。11万円が高いかどうかは別にして、10年間の保障(=死亡リスクへの対応)を得るには何がしかのコストがかかるのは理解できるからです。

次に、50歳から20年間で合計1151万円の保険料を支払い、70歳から亡くなるまで毎年60万円を受け取ることができるという、長生きリスク対応の保険を取り上げ、「1151万円も払ったのに、平均寿命(男性81歳)で亡くなったら660万円しか受け取れないなんて、保険会社はボロ儲けだ!」という批判が実際にあったことも紹介しました。
同じように考えれば、平均寿命を超えて長生きするリスクへの保障を得るのにもコストがかかるとわかるので、「平均寿命で亡くなったら少ししかもらえない」といって批判するのは筋違いだと理解できます。

学生の皆さんがどこまで理解してくれたかはわかりませんが、大学での保険の授業は単に保険という特定の分野を学ぶというだけでなく、保険の勉強を通じて「リスク」や「コスト」といった、社会人として不可欠な概念を学ぶことができますね。

 

※いつものように個人的なコメントということでお願いします。

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金融法制の見直し

業態別の金融法制の見直しを議論する、金融審議会「金融制度スタディ・グループ」が19日に中間報告を公表したので、さっそく読んでみました。
金融庁のサイトへ

今の金融規制体系は基本的に銀行、証券、保険といった業態ごとに業法が存在しています。
これを機能別・横断的なもの、すなわち、同じ機能や同じリスクには同じルールを適用し、同じ機能でもリスクが小さければ規制を軽くする、こうした規制体系にしていこうというものです。

「金融の『機能』の分類」という図表には、「保険業法/保険会社」⇒「リスク移転」とあるだけで、これだと業態別でも機能別でも変わらないように見えます。
ただし、本文のリスク移転のところを読むと、

「信用保証やデリバティブ取引、保険は機能的に類似する側面があるが、信用保証については特段の業規制は設けられておらず、また、デリバティブ取引を業として行う者については登録の対象とされているにとどまる」
「これに対し、保険を業として行う者については免許の対象とされ、当局による商品認可も求められているとの違いが見られる」

という記述がありました。もっとも、第4回の討議資料にはもっと論点が書いてあり、議事録によると、委員の皆さんもいろいろと発言されているのですが、うまくまとまらなかったようです。

あと、特に保険について言えば、海外では民間の保険会社が担うこともあるような機能、例えば年金や健康保険など社会保障の補完といった役割も視野に入れた議論が必要だと思いました。現在、長生きリスクへの備えは主に公的年金と個人の預貯金となっていますが、10年後の姿はどうなっているでしょうか。

※豊洲移転まであと4か月を切りました。

 

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問題は含み損なのか

いろいろあって週末にブログを更新できなかったので、遅ればせながらちょっとだけ。

18日のロイター記事「金融庁、地銀に有価証券運用の含み損の適切な処理を要請=関係筋」をみて、違和感を覚えました。

記事には、「金融庁が、全ての地方銀行に対し、外債などの有価証券の運用で抱えた含み損を放置せず、適切に処理するよう求めたことがわかった。複数の関係者が18日、明らかにした。同庁は、有価証券運用の含み損を自己資本や年間コア業務純益などの期間収益の範囲内にとどめることが望ましいとの見解を伝えている」とあります。
確かに、2月に開かれた金融庁と地銀・第二地銀との意見交換会には、主な論点として「含み損に対する対応が検討されていない例が見られた」「中には、今期(30年3月期)のコア業務純益予想額に匹敵する水準まで評価損が拡大している銀行も見受けられた」「(前略)含み損に対する対応が十分に検討されていない例があるとすれば、問題であると考えている」とありました。

しかし、資産運用によるリスクテイクと言ったときの「リスク」とは、含み損の発生ではなく、保有資産価格の変動です。取得価額がいくらであろうと、含み損があろうとなかろうと、資産価格が10%下がれば、それは損失の発生です。
含み損はリスクテイクのバッファーである「経営体力」の一部なので、含み損を抱えていても、経営体力全体としてリスクテイクできる状態であれば、問題はないはずです(地銀の「自己資本」に含み損益が入っていない可能性はありますが…)。

「健全性を維持できるよう、リスクテイクに見合った運用・リスク管理態勢の構築に向けた対話を行う」のはいいとしても、銀行勘定の金利リスクに関する新規制が始まろうというなかで、本当に報道のとおり、有価証券の含み損に焦点を当てた対話を行い、損切りを促すのでしょうか。
まさかとは思いますが、ALM目的で多額の超長期債を保有する生命保険会社にとっても、これは他人事ではありませんね。

※写真は台湾大学(旧台北帝国大学)です。台湾生保では外国証券が保有資産の5割以上を占めています。

 

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海外M&A研究会報告書

経済産業省の「我が国企業による海外M&A研究会」(座長は早大の宮島英昭教授)の報告書が公表されたので、さっそく読んでみました。
報告書の概要と、重要ポイントをまとめた「9つの行動」もあわせて公表されていますが、本文のほうが具体的にいろいろと書いてあり、参考になりそうです。
経産省のサイトへ

以前私は、東洋経済の特集号で保険会社の海外M&Aについて書いた際、M&Aそのものがゴールではなく、1)そもそも海外事業で積極的なリスクテイクを行うという経営判断がいかになされたのか、2)海外大型M&Aの実行、3)買収先をグループのメンバーとしていかに経営体制に組み込むか、の3つの局面について述べました。
この報告書でもM&Aの実行局面のみならず、「前」と「後」の重要性を踏まえ、「海外M&A成功に向けた3つの要素」として次の3つに整理して説明しています。

・M&A戦略ストーリーの構想力
・海外M&Aの実行力
・グローバル経営力

日本企業による海外M&Aの特徴

日本企業による海外M&Aを扱った報告書なので、日本企業を意識した記述をいくつかご紹介しましょう。

「いきなり大きな案件や複雑な案件に取り組むのではなく、ある程度小型の案件で自社の海外M&Aの経験値を高めてから、より複雑な大規模案件に取り組むという戦略的アプローチを意識的に実行している海外企業は多い」(p.18)

「特に投資銀行等の外部からの持込案件については、戦略より案件が先行し、準備期間が短く、結果として買収前の想定と、買収後明らかになった実態との乖離が大きいケースがある」(p.27)

⇒ 日本企業は身の丈に合った海外M&Aではなく、特に外部からの持込案件などで、対応可能範囲を超えたリスクを伴う案件や、買収金額が高すぎる案件に乗り出してしまう可能性が高いということかもしれません。

「日本企業の中には、交渉の場に大勢の関係者が参加するが、結局意思決定を行える者が誰なのかよくわからないケースや、交渉の場で提起された論点についてその場で決定せず持ち帰るケースがある。こうしたケースでは、売り手からすると意思決定者が誰かわからず、疑念が増し、信頼感を損なうことが懸念される。さらに最悪のケースは、条件交渉をFAや投資銀行の担当者に全て任せてしまうことである」(p.50)

⇒ 実感としてはケースバイケースのように思いますが、このような事例も多いのかもしれませんね。

「日本企業では『飲み会』や企業をあげた地域行事への参加など、業務時間外で従業員同士が集まる機会も多いことから、企業の価値観や風土融合を重視するのは日本企業の特徴と思われがちであるかもしれない。しかし、欧米企業でもPMIにおけるチームビルディングを通じて信頼関係を構築する取組みが行われており、また日本企業が欧米企業を買収する場合にも風土融合の施策に積極的であるという事例もみられた」(p.66)

⇒ 企業の価値観や風土融合を重視するのは日本企業だけの特徴ではないという指摘は、当然と言えば当然ですが、興味深いです。

「日本企業は、欧米の買収者に比べ相手企業の既存経営陣への依存度が高く、買収後も経営陣が買収前に有していた権限を害しないように独立した会社として運営する傾向が強いという指摘がある。しかし、経営ビジョンや価値観を共有できない場合や買収先のさらなる成長を目指すうえで経営者として実力や倫理観が不足と判断される場合には、躊躇なく買収前の経営陣を交代させることも必要である」
「企業価値を創出するのは買収者であり、買収者たる企業自身で主体的に買収プレミアムの回収を可能とする業績向上策に取り組むべきものであり、買収先の経営陣にその全てを任せていても、買収プレミアムの回収は担保されない」(p.68)

⇒ 「企業価値を創出するのは買収者」というのは重要な指摘ですね。

「海外M&A は買い手にとっても変革を実現する絶好の機会でもあり、海外M&A によって自身をグローバル化していくことも海外M&A の成果の一つである」
「欧米企業は、リスクは顕在化した時点で対応すればよいという姿勢である一方で、まだまだ日本企業はリスクを過度に回避しようとする傾向が強いとされる。過度のリスク回避、慎重さは、成長阻害要因であり、可能な限りの準備をして実施し、リスクが顕在化したらそれに全力で当たるという姿勢が重要ではないだろうか」(p.87)

⇒ M&Aにかぎらず、リスクテイクを促すのであれば、失敗に寛容な企業文化や社会風土(メディアを含む)が必要ですね。

ヒアリング協力企業の顔ぶれを見ると、金融・保険業は含まれていませんでしたが、実際の体験を踏まえた記述も多く、参考になると思います。

<ヒアリング協力企業>
 旭化成、亀田製菓、関西ペイント、グローリー、小松製作所、サトーホールディングス、サントリーホールディングス、ダイキン工業、電通、ニコン、日本板硝子、日本たばこ産業、日本電産、日本電信電話、日立製作所、ボッシュ パッケージング テクノロジー、丸紅、リクルートホールディングス

※写真は浜離宮です。

 

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監査事務所のレポート

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公認会計士・監査審査会が昨年に続き、
監査事務所の状況等をまとめたレポートを
公表しました。
「平成29年版モニタリングレポート」

前回に比べると、分量の多さに圧倒されます
(前回:全28ページ ⇒ 今回:全83ページ)。

ざっと読むと、大手監査法人とそれ以外では
単に規模だけでなく、顧客基盤も事業構造も
全く異なると言っていいほど違うのですね。

例えば、グループ全体の業務収入のうち、
準大手では監査証明業務の収入が大半を
占めるのに対し、大手では非監査証明業務の
収入が5割を超えています。

今回のレポートでも、監査人が変わると報酬が
減る傾向が示されています(69ページ)。
監査報酬は大半がタイムチャージ方式ですが、
次のような事例紹介もありました。

「大手監査法人同士の異動のうち、初年度監査
 や会計基準の変更に伴い監査時間が増加する
 ことを反映しないで監査報酬を見積り提案して
 いる事例があった」

「当該事例では、前任監査人と比較して監査報酬
 が減少しており、その後の実際の監査時間は
 見積時間を大幅に超過していた」

高い品質を求められる一方、4社の寡占市場にも
かかわらず、報酬引き下げ圧力にさらされ続け、
非監査証明業務への依存度を強めているという
大手の姿が浮き彫りになっています。

※写真は静岡鉄道です。
 駿府城の近くにターミナル駅がありました。

 

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金融システムレポート

 

19日公表の日本銀行「金融システムレポート」
(2017年4月号)を見ると、

「金融機関は充実した資本基盤を備えており、
 当面収益力が下押しされるもとでも、
 リスクテイクを継続していく力を有している」

という記述に続き、

「今後、金融機関のポートフォリオ・リバランスが、
 経済・物価情勢の改善と結びついていけば、
 収益力の回復につながっていくと考えられる」

とあり、ちょっと首を傾げてしまいました。

例えば、ポートフォリオ・リバランスということで
地域金融機関の貸出金は確かに増えていますが、
その多くは不動産業向けです(17ページ)。

有価証券については、地域金融機関が保有する
外債と投資信託の残高が急増しています。
投信の半分は海外金利系とのこと(44ページ)。

これらを踏まえると、ポートフォリオ・リバランスで
将来の収益力回復に期待できるというよりも、
日銀のマイナス金利政策実施から1年たって、
副作用として金融システムの脆弱さが増した
と見るのが自然ではないでしょうか。

マイナス金利政策が金融システムに悪影響を
及ぼしているのは生保セクターも同じです。

レポートには、機関投資家等の資金運用動向
として生命保険会社の話も出ているのですが、
外債投資の増加と超長期国債投資の減速しか
言及がありません。

本来、分析すべきは、ALMのミスマッチを抱える
生保がマイナス金利政策により、どんな状況に
なっているかを見るべきだと思うのですが…
(各社のEVや金融庁フィールドテスト結果など
 分析のための素材も多少はありますよね)

なお、参考までに、レポートの27ページにある、

「外債の運用比率が上昇している背景には、
 国内債との利回り格差があるが、2010 年度に
 改正されたソルベンシー・マージン規制において、
 外貨建て債券のリスク係数が引き下げられたこと
 も影響しているとみられる」

という記述は、残念ながら誤解です。

外貨建て債券のリスク係数が 5%から 1%に
下がったことを見てのコメントかと思いますが、
改正前の「5%」は為替リスクを含んだもの、
改正後の「1%」は為替リスクを含まないもので、
為替リスクは別途に反映するようになりました。

合わせて為替ヘッジの反映方法も見直され、
改正前に見られたヘッジ効果の過大反映が
改正により解消されました。

つまり、規制としては厳しくなったのですが、
それでも生保各社は長引く低金利のなかで、
海外金利リスクやヘッジコストの変動リスクが
あるのを承知のうえで(だと思います…)で、
外債投資に注力しているという状況です。

※写真は愛宕山のNHK放送博物館です。

 

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「こども保険」への違和感

 

先週は3月最終週だったためか、発表ものが
いろいろとありました。

金融庁関連をいくつか紹介しますと、28日に
経済価値ベースの評価・監督手法の検討に
関するフィールドテストの結果について」の公表、
30日には「顧客本位の業務運営に関する原則
の確定とパブコメ概要の公表がありました。

後者については、「原則」を採択し、取組方針を
策定・公表した金融事業者のリストを6月末から
金融庁が公表するそうです。
果たしてどのような顔ぶれになるのでしょうか。

28日に報道された標準生命表の見直しの件も
日本アクチュアリー会が31日に改定案を公表し、
意見を募集しています。

この4月から標準利率が引き下げられたので、
2年連続で標準責任準備金の基礎率が変わる
ことになります。

ただし、3月までの各社の料率改定をみると、
予定利率を引き下げただけではなさそうなので、
1年後の各社の対応も、標準生命表の見直しを
単純に反映したものとはならないのでしょう。

「保険」関連で私が最も気になったニュースは
自民党・2020年以降の経済財政構想小委員会
が29日に発表した「こども保険」の創設です。

いろいろと報道されていますが、発表資料
見つけたので、こちらを見てみましょう。

概要資料によると、子どもが必要な保育・教育等
を受けられないリスクを社会全体で支える
「こども保険」の創設を提言するとのことです。

保険料は厚生年金・国民年金等の社会保険料に
上乗せして徴収します。
つまり、厚生年金では事業者と勤労者から、
国民年金では加入者からとることになります。

「全世代型社会保険」の趣旨はよくわかりません
(今の社会保険も全世代型のような...)が、
少子化対策の財源をどこに求めるかという話で、
税でも国債でもなく、保険方式を打ち出してきた
ということなのでしょう。

「子育てを終えた世代や子どもがいない人は
 負担するだけで、給付の可能性が全くない」

という批判に対しては、少子化対策の財源を
社会全体で負担するという考えに立てば、
これは理解できます。

どうにも違和感があるのは、少子化対策の
財源が社会保険料の上乗せというところです。

概要資料の8ページの「こども保険」「消費税」
「教育国債」の比較表にも書いてあるように、
保険方式の利点は給付と負担の関係が明確
というところだと思います。

でも、「こども保険」はそうではありません。

年金、医療、介護では、社会保険料の負担者と
給付を受ける可能性がある人が一致しています
(外国人などの例外事例はあるにせよ)。

今回の「こども保険」の場合、財源は現役世代
と事業者、給付も基本は現役世代ということで、
事業者を除けば一致しています。

しかし、「こども保険」の直接的な給付対象は
現役世代だとしても、その恩恵を受けるのは
現役世代だけではなく、全ての国民ですよね。
ここが違和感のもとなのでしょう。

つまり、どうして少子化対策のコストを現役世代
だけで賄わなければならないのかという疑問です。
不公平感の源は「子供がいる・いない」ではなく、
広く国民が負担する仕組みではない点にあります。

先ほどの資料には、経済・財政への影響として、

・消費税は負担増が目に見えるため、必ず消費に
 悪影響を及ぼす
・教育国債は国債発行が拡大するため、財政再建
 目標の実現が困難になる
・「こども保険」は保険料率が低い限り、経済への
 影響は少ない。財政再建目標と整合的

と書いてあります。

給付額が同じであれば、消費増税と「こども保険」
導入の影響は経済的には同じはず。
増税は難しいけど、社会保険料の引き上げなら
実現可能ということなのでしょうか。

※写真は井の頭公園です。

 

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顧客は事業者を選べるか

 

保険流通の業界誌「インスウォッチ」2月13日号で
「顧客本位の業務運営に関する原則(案)」について
書きました。

金融事業者自身が主体的に創意工夫を発揮して、
顧客本位の良質な金融商品・サービスの提供を競い、
より良い取組みを行う事業者が顧客から選ばれる。

金融庁は、こうしたメカニズムを実現するため、
「顧客本位の業務運営に関する原則」を策定し、
事業者に受け入れを呼びかけ、より良い金融商品
・サービスの提供を競い合うよう促そうとしています。

インスウォッチでは、この原則が保険業界にも
関係があるということを示しました。

もっとも、先のメカニズムがうまく機能するためには、
事業者が顧客本位の業務運営に努めるだけでなく、
顧客がより良い取組みを行う事業者を選べるような
環境作りが不可欠です。

この点に関し、12月公表の金融審WG報告書では、

 (1)金融事業者の取組みの「見える化」
 (2)顧客の主体的な行動
 (3)顧客にアドバイス等を行う担い手の多様化

をあわせて実行していくことが適当としています。
(1)は原則そのものですので、あとは(2)(3)を
どう実現するかです。

金融審WGでは(2)のなかで、

「有識者等で構成される第三者的な機関が、金融
 事業者全般あるいは各金融事業者の取組方針や
 取組状況を顧客の立場から評価し、評価結果を
 公表するといったメカニズムが存在すれば、顧客が
 金融事業者を選別するうえで参考になるのではないか」

という論点が挙げられ、注目していました。

ところが、報告書を見ると、「第三者的な機関」が
「第三者的な主体」に修正されるとともに、続けて、

「例えば民間における自発的な取組みとして形成され」

という文言が加わっていました。

議論の結果、当局主導で第三者的な機関を作るのを
断念したのか、あるいは初めからそのような考えは
なかったのかもしれませんが、残念に思います。

金融事業者には顧客本位の取組みを強力に促し、
あとはマーケットに委ねるということになりますが、
果たしてそれでこのメカニズムが確立・定着するのか。
かつての「(保険の)比較討論会」を思い出します。
「保険の比較情報」はどうなったのか?

※鹿児島の市電です。軌道の緑化を進めているとか。

 

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顧客本位の業務運営原則

 

19日の読売新聞「保険料手数料開示 説明不足?
金融庁が批判」という記事のなかで、私のコメントが
掲載された模様です。

「手数料開示は、銀行が保険以外の金融商品も含めて
 平等な提案をするいいきっかけになるのでは」

このようなコメントでした。

ところで、22日公表の金融審議会WG報告書では、
金融商品の販売手数料や商品説明、利益相反の
管理等に関する議論を行った結果、ルールベース
での対応を重ねるのではなく、プリンシプルベース
のアプローチを用いることが有効と述べています。

そのうえで、当局が策定する原則(プリンシプル)に
盛り込むべき事項を示しました。

そのなかには、

Ⅳ.金融事業者は、名目を問わず、顧客が負担する
 手数料その他の費用の詳細を、当該手数料等が
 どのようなサービスの対価に関するものかを含め、
 顧客が理解できるよう情報提供すべきである。

Ⅴ.金融事業者は、顧客との情報の非対称性が
 あることを踏まえ、上記Ⅳに示された事項のほか、
 金融商品・サービスの販売・推奨等に係る重要な
 情報を顧客が理解できるよう分かりやすく提供
 すべきである。

とあり、Ⅳは顧客が負担する手数料等の情報提供を、
Ⅴでは「重要な情報」として、第三者から受け取る
手数料など、顧客との利益相反の可能性がある
情報を提供すべきとしています。

さらに注記を見ると、

「複数の金融商品・サービスをパッケージとして販売・
 推奨等する場合には、個別に購入することが可能で
 あるか否かを顧客に示すとともに、パッケージ化する
 場合としない場合を顧客が比較することが可能となる
 よう、それぞれの重要な情報について提供すべき」

「顧客に対して情報を提供する際には(中略)顧客に
 おいて同種の金融商品・サービスの内容と比較する
 ことが容易となるよう配慮すべき」

という記載もありました。金融庁のサイトへ

ルールではなく原則ですし、報告書の「金融商品」
「インベストメント・チェーン」に保険商品・チャネルが
どれだけ該当するかには議論の余地があるでしょう。
ただ、顧客本位の業務運営が求められるという点は
保険も例外ではありません。

先の保険業法改正ではルールベースの対応が
求められましたが、プリンシプルベースの対応とは、
「決まりだからやる」「他社もやっているからウチも」
というのではなく、何が顧客のためになるのかを
事業者自らが考え、実行することです。

「これまでだって顧客のためにやってきた」という
声も聞こえてきそうですが、この一連の動きは、
保険流通を取り巻く環境変化としても
押さえておいたほうがよさそうですね。

 

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訪日外国人2000万人突破

 

2016年に日本を訪れた外国人旅行者の数が
10月時点で2000万人を突破したそうです。

NHKニュースでは「国土交通省が発表」と
報じていたので元データを探したところ、
日本政府観光局(JNTO)のサイトにありました。

年間1000万人の達成が2013年ですから、
ここ数年の増加は目を見張るものがあります。
確かに先週末の京都も、外国人観光客と
思われる人たちで賑わっていました。

国・地域別の内訳をみると、圧倒的に東アジア
(中国、韓国、台湾、香港)が多く、全体の3/4を
占めています。
特に中国だけで全体の1/4を上回っていて、
訪日数の増加の牽引役となっています。

JNTOによると、中国人旅行者の訪問先上位は
タイと韓国に次いで、日本となっているようです
(台湾やシンガポール、米国、ベトナム等も上位)。

訪日中国人は男性よりも女性が多く(55%)、
20代と30代が全体の6割を占めています。

2015年に初めて日本に来た人は63%なので、
リピーターもそこそこ増えている模様です。
団体旅行が観光客の56%というデータもあり、
おそらく初めての人は団体旅行、リピーターは
個人旅行という傾向なのでしょう。

日本での訪問先も分散しつつあるようです。

中国のSNSを分析したトレンドExpress社の
調査によると、日本旅行で行きたい場所として
東京、京都、大阪のほか、奈良や鹿児島、福岡、
兵庫、北海道という回答もある程度見られます。

中国人観光客というと、団体で買い物旅行という
イメージが強いですが、リピーターが増えるにつれ、
だいぶ変わってきているのかもしれません。

※日本保険学会の年次大会(10/30)に
 ちょっとだけ参加しました。

 

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