11日の日経1面で「投資家指針、ESG明記」とあるのを見て、思わず首を傾げてしまいました。
記事には金融庁が、機関投資家の行動原則を定めたスチュワードシップ・コードを2020年春に改訂し、ESG(環境・社会・統治)投資を重視する内容を初めて明記するとあります。でも、私は2014年のコード策定時からESGに関連する記述があったと思っていたので、記憶ちがいかどうか過去の資料を確認してみました
(今はこういうことが簡単にできて、便利になりました)。
確認すると、やはりコード策定時の原則3(機関投資家は、投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を的確に把握すべきである)の指針に、ESGに関連する記述がありました。
<指針3-3>
把握する内容としては、例えば、投資先企業のガバナンス、企業戦略、業績、資本構造、リスク(社会・環境問題に関連するリスクを含む)への対応など、非財務面の事項を含む様々な事項が想定されるが、特にどのような事項に着目するかについては、機関投資家ごとに運用方針には違いがあり、また、投資先企業ごとに把握すべき事項の重要性も異なることから、機関投資家は、自らのスチュワードシップ責任に照らし、自ら判断を行うべきである。(後略)
この時点ではEとSはリスク要因としての位置づけですが、2017年の改訂版では次のように、ESG要素がリスクだけでなく収益機会であることを意識した記述になりました。
<指針3-3>
把握する内容としては、例えば、投資先企業のガバナンス、企業戦略、業績、資本構造、事業におけるリスク・収益機会(社会・環境問題に関連するものを含む)及びそうしたリスク・収益機会への対応など、非財務面の事項を含む様々な事項が想定されるが、特にどのような事項に着目するかについては、機関投資家ごとに運用方針には違いがあり、また、投資先企業ごとに把握すべき事項の重要性も異なることから、機関投資家は、自らのスチュワードシップ責任に照らし、自ら判断を行うべきである。(後略)
加えて、注記ではありますが、「ガバナンスと共にESG要素と呼ばれる」という記述も加わり、ESGが明記(?)されました。
今回の改定案では、指針3-3は「運用方針」が「投資戦略」に改められただけですが、原則1(機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、これを公表すべきである)の指針1-1で「ESG」が明記され、確かにこれまで以上にESGの要素を重視する記述となっています
(ここで「ESG」と明記しているので、指針3-3の注記はなくなっています)。
<指針1-1>
機関投資家は、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解のほか投資戦略に応じたESG要素を含む中長期的な持続可能性(以下、「サステナビリティ」という。)の考慮に基づく建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント)などを通じて、当該企業の企業価値の向上やその持続的成長を促すことにより、顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図るべきである。
もっとも、今回の改訂ではESGがキーワードというよりは、(ESG要素を含む)サステナビリティの考慮が強調されていると理解すべきなのでしょう。
蛇足かもしれませんが、指針1-1や3-3を改めて読むと、ESG(特にEとS)であれば何でもいいのではなく、企業価値の持続的な向上につながるかどうかという視点での記述になっていて、ちょっと安心しました。
※写真は「みなとみらいぷかりさん橋」です。