02. 保険会社の経営分析

生保の第3四半期決算

 

主要生保の第3四半期決算(2013年4-12月期決算)が
出そろいました。

新聞は相変わらず「基礎利益が増えた」という分析です。
9月末と12月末を比べると、日経平均株価が1800円も上がり、
ドル円相場も97円から105円と円安が進んだのですが、
どちらも基礎利益にはほとんど反映されません。

ただ、上場保険グループはEVを公表しているので、
こちらを見ると、EVが9月に比べて12%も増えた第一生命、
2.4%の増加にとどまったソニー生命、というように、
各社の違いを知ることができます。

第一生命ではEVのうち修正純資産の増加が目立ち、
内外株価の上昇や円安進行の恩恵を受けた模様
(言い換えれば、株式や為替リスクがそこそこ大きい)です。

足元の資産構成はほとんど変わっていなかったので
(あえて言えば、公社債が微減、株式が微増)、
ポートフォリオ・リバランス効果というわけではなさそうです。

これに対し、ソニー生命は株式や為替リスクが小さいので、
新契約の獲得がEV増加の主な要因となっています。
ソニー生命はリスク量の内訳を公表しているので、
金利リスク以外の資産運用リスクが小さいと確認できます。

四半期ごととは言いませんが、全ての主要生保で
EVを開示してほしいのですね。

※中2の娘が友チョコを大量に持ち帰ってきました。
 今はそういう時代なのですね。

 

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生保の資産・負債ギャップ

 

先日、2014年度の国債発行計画についての報道があり、
30年債の発行を増やすとありました。

これに関連して、先月のものではありますが、財務省のHPに
生保の資産・負債ギャップに関する資料を見つけました。
超長期国債の需要がまだあることを示すものです。
国の債務管理の在り方に関する懇談会(第26回)議事要旨
(資料4が「生命保険会社の投資動向について」です)

資料のなかに、「資産および負債の金利感応度」がありました(P2)。
第一、住友、明治安田が開示しているEVを基にした試算によると、
金利水準が50bp低下すると、資産が2.2兆円増えるものの、
負債は3.0兆円も増えてしまうことが示されています。

EVの開示では、前提条件を変更した場合の感応度が示されていて、
・修正純資産の変化≒資産の変化
・保有契約価値の変化≒負債の変化
としている模様です。

「金利が下がると生保経営は厳しい」と単に言われるよりも、
「資産は増えるけど、負債はもっと増えてしまう」と示されるほうが、
理解しやすいかもしれませんね。

※写真は汐留のイルミネーションです。

 

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生保の資産構成

 

前回は生保上半期報告そのもののコメントをしなかったので、
日銀の異次元緩和を受けた資産運用の動きを見てみましょう。

結論から言うと、いわゆる「ポートフォリオ・リバランス」は
総じて見られないようです。

この上半期の生保資産構成(一般勘定)を確認すると、
株式ウエートが高まっているように見えますが、
残高を増やしたというよりは、時価上昇による影響が大半です。

外貨建資産を増やした会社はそこそこあったようです。
ただ、同時にヘッジポジションも増えています。

他方、公社債については、引き続き長期化を進めた会社と、
様子見だった会社に分かれたようです。
「その他有価証券区分」の公社債残高を減らす動きは、
この区分の残高が大きい会社で引き続き見られました。

なお、生保からの資金流出ですが、生保協会データによると、
保険金・年金・給付金と解約返戻金・その他返戻金の合計は
収入保険料を下回っています(43社合計)。

個別に見れば、過去に銀行を通じて変額年金や外貨建年金等を
積極販売した会社の解約返戻金が高水準で推移しています。
これをもって「保険から投信へ」とまで言えるかどうか。
こちらも引き続きウォッチしていきましょう。

※写真はどこかの紅葉の名所みたいですが、実は日比谷公園です。

 

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大手損保の中間決算発表

 

3メガ損保の2013年度第2四半期(4~9月期)決算が
19日に公表されました。

自動車保険の収支改善や自然災害の損害額減少が
注目されているようなので、私もデータを眺めてみると、
いくつか発見がありました。

まず、自動車保険では、大手5社とも増収ですが、
内容はやや異なるようです。

東京海上は契約台数が増え、単価は横ばいなのに対し、
他の4社は契約台数が横ばい(または減少)で、
単価上昇により増収を果たしていました。

単価については値上げ時期の違いが影響しているのでしょう。
東京海上の台数増は生保提携効果が続いているのか、
それとも「超保険」効果なのか、詳細はわかりませんが、
他の2グループとはやや違う結果となっているようです。

自然災害についても、確かに前年度に比べれば
損害額は大きく減っています。

ただし、自然災害が少ない年度とは言えなさそうです。
3メガ損保の損害額は1000億円を超える見込みで、
2007年度(約400億円)や2008年度(約400億円)、
2009年度(約700億円)とは違います。

他にもいろいろありそうですが、まずはこんなところで。

※写真は靖国神社の青空骨董市です。
 毎週日曜日に開催されています。

 

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生保の2013年4-6月期決算

先週末に生保の4-6月期決算が発表されました。

注目の「ポートフォリオ・リバランス」はと言えば、
株式は実質的に横ばい、外国証券はやや増加
(ヘッジ外債が多いと思いますが、詳細は不明)
といったところでしょうか。

公社債は、様子見モードが強かったなかで、
会計上の金利上昇リスクを意識してか、
「その他有価証券区分」の公社債を減らし、
「責任準備金債券」を増やす動きが目立ちました。

今回の注目は「解約返戻金」かもしれません。
前年同期と比べると、大手では住友生命、
外資系等ではメットライフアリコやジブラルタ、
ハートフォード、三井住友海上プライマリーなどで
解約返戻金が大きく増えています。

これらの会社に共通するのは、銀行を通じた
変額年金または外貨建年金の契約が多いことです。
株高や円安が進み、低迷していた運用実績が回復。
解約すると利益が出るようになったのでしょう。

実はこの傾向はすでに1-3月期から見られますが、
変額年金で最大手だったハートフォード生命
(現在は新規販売を休止中)の解約返戻金は、
4-6月期だけで期首総資産の7%強に達しました。

※いただいた鰹節を実家で削りました(家には削り器がないので)。

 

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2012年度の損保決算

 

タイミングが合わず、損保決算をスルーしてしまいました。
まあ、先週から今週にかけて3メガ損保の投資家向け説明会が
開かれていることもあり、いまコメントしても遅くはないでしょう。

全体としては、株高や円安の影響はプラスに効いているものの、
国内損保の収支改善は道半ばであり、国内生保と海外事業に
支えられている姿が鮮明だったと言えそうです。

ここから先は多少アナリストっぽい(?)話を。
各社のコンバインドレシオを見ると、2011年度よりはマシとはいえ、
こんなに高いのかと思われたかたがいるかもしれません。

 TM  99.7%(前年度は113.5%)
 MS 105.7%(同118.1%)
 AD 104.5%(同114.8%)
 SJ 103.4%(同113.6%)
 NK 109.7%(同119.7%)

実態としてはここまで収支は悪くありません。
タイの洪水など2011年度に発生した多額の保険金が
実際に支払われたのは2012年度だったためめ、
正味ベースの損害率が上がってしまったのですね。

ざっと見たところ、実質的な保険収支はプラスに転じた会社が
多いのではないでしょうか。

他方、大手5社の当期純利益はいずれも黒字となったものの、
こちらにも「異常危険準備金の取り崩し」という特殊要因があります。

異常危険準備金も保険金の発生ではなく、支払いに連動します。
すなわち、発生保険金がかさんだ2011年度ではなく、
それが支払いに転じた2012年度に取り崩しとなっており、
損益にプラスに寄与するというわけです。
5社合計で800億円ほどのプラス効果(税引前)と思われます。

しかし、火災保険の異常危険準備金の残高を見ると、
いくつかの会社ではピークだった2010年度から半減しています。

支払余力全体で考えれば健全性に問題はなさそうですが、
自然災害対応の規制もあるので、そのままというわけにはいきません。

※週末に横浜中華街で高校時代のクラス会がありました。
 クラスの半数以上が横浜市に住んでいることが判明。
 地元の県立高校とはいえ、ちょっと驚きました。
 なお、写真は横浜3塔の2つ、「キング」と「ジャック」です。

 

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2012年度生保決算の感想

 

主要生保の2012年度決算が出そろいました。

「少子高齢化で保険料収入が伸び悩んだ」
「円安・株高の追い風で逆ざやが縮小し、増益となった」
「国内債、国内株、外国証券の含み益は6年ぶりの高水準」
「金融市場の混乱で資産運用が難しくなっている」

新聞報道は総じてこんな感じでしょうか。

まず、今回の保険料収入の伸び悩みをもって、
少子高齢化の影響と言ってしまうのは、飛躍しすぎでしょうね。
確かに少子高齢化や若年層の保険離れといった構造問題は
生保にとって重要な課題ですが、それを伺わせるような
データを示さなければ、単なる作文になってしまいます。

次に、毎度のことですが、金利変動の影響を
もっとしっかり見てほしいものです。

2012年度は長期金利が大きく下がったため、
円安・株高がなければ企業価値が縮小したであろう会社も
いくつか見られました。
「逆ざやが縮小してよかった」なんて状況ではないのです。

生保にとって金利水準の変動が何を意味するのか、
なぜ生保が超長期国債にせっせと投資しているのかなどを
おそらく理解していないのでしょうね。
ご参考(4/13のブログ)

報道によると、明治安田生命の殿岡副社長は、
「今の水準なら日本国債に資金を振り向けられる」と語り、
住友生命の松本運用企画部長も、
「今の水準が続けば、国債を増やし外債の残高を
据え置くこともできる」とコメントしているようです。
日本生命の大関財務企画部長のコメントは
「今は流動性が少し落ちており、一般的に国債に手を出しにくい」です。

日銀が異次元緩和で長期金利の低下をターゲットにしたため
(少なくとも当初は)、これは大変なことになる心配したところ、
金利は反対に3月末の水準よりも上がったので、とりあえず安心。
ただ、実際に超長期債を買おうとすると、日銀と取り合いになり、
マーケットを変に動かしかねない...

私が勝手に解説すると、こんなところでしょうか。
だれも「金利が上がると困る」とは言っていませんので、
誤解なきように。

※写真は福島交通の電車なのですが、よく見ると、
 昔、東横線で走っていた電車を改造したものです。
 走り出すと懐かしい音がしました。

 

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生保の第3四半期報告

 

主要生保の平成24年度第3四半期報告
(≒2012年4-12月期決算)が出そろいました。

現行会計の下で、3ヶ月ごとに基礎利益や
保険業績の傾向が大きく変わることはまずない
(累計ということもありますしね)ため、
自ずと金融市場変動による影響に目が行きます。

ということで、ソルベンシー・マージン総額や
有価証券含み損益の動向をみると、
前期末に比べて概ね増加していました。

「株価回復のため」と言いたいところですが、
12月の時点では、株式含み益が前期末の
水準を上回るところまで回復した会社は少なく、
それよりも円安等による外国証券の時価上昇が
効いているようです。

ソルベンシー・マージン比率も前期末に比べ、
各社とも軒並み上昇しています。
分母のリスク相当額の動きよりも、
分子のソルベンシー・マージン総額の増加が
影響したようです。

資産含み益の回復に加え、基金や劣後債務など
外部調達を実施した会社で上昇が目立ちます。

もう少し時間があれば、四半期ごとの業績動向なども
確認したいところですが、取り急ぎ今回はこんなところで。

※週末は保険流通の勉強会に出席。
 現場の生の声を伺うことができました。

 

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米国生保の資産運用

ニッセイ基礎研究所の松岡博司さんが、
「米国生保の経営は日本化するか」
というレポートを発表しています。よくまとまっていて参考になります。
ニッセイ基礎研HPへ

「(規制強化で)株を買えない生保」と、事あるごとに
日本の生保は株を買うべしと言わんばかりのキャンペーンをする
どこかの経済紙がありますね。
このレポートによると、米国生保の株式保有はわずか2.3%です
(一般勘定)。しかも、以前から株式保有は多くありません。

「生保は公社債投信になりさがっている」といった声も
時々銀行系のかたから耳にします。米国生保も同じです。
一般勘定資産の7割が内外公社債なのだそうです。

どうも日本では生保を長信銀などと同じ目線で見る向きが
いまだに多いようです。
生保が株式市場などに長期資金を供給するのは
あくまで副次的な役割であって、保障の提供こそが
生保が社会に存在する意義だと思います。

そして、予定利率が固定された長期の保障を提供するのは
日本でも米国でもそう簡単ではないということなのでしょう。

ところで、レポートに次のような記述がありました。

「保有公社債の平均残存期間は 9 年~10 年程度と長い。
 残存期間 20 年超という、たいへん期間の長い公社債が
 約 20%を占める」

気になったのは、米国生保の負債構造がどうなっているかです。

実は日本の大手生保の公社債残存期間も同程度なのです。
しかし、負債が長いので、金利リスクを相殺しきれていません。

米国生保は金利リスクをとらず、信用リスクでリターンをえる戦略
(金利リスクを本当にとっていないかどうかは別として)
と言われますが、日本の生保より一般勘定の負債が短いのでしょうか。

保有契約ベースであれば、依然、終身保険も大きいように思います。
期間の短い団体年金などで打ち消されているということなのか、
終身保険とはいえ、解約してしまうのが一般的なのか...

ご存じのかたがいらっしゃれば、ご教示いただきたいです。

※写真は錦糸町駅です。

 

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逆ざやと株式保有

 

10月28日のブログで日銀「金融システムレポート」の
生保に関するコラムについて、次のようにコメントしました。

 筆者の意図がどうであれ、このコラムの読者が、
 「生保の金利(上昇)リスクは銀行よりも大変」
 といった誤った印象を持たないことを祈ります。
 業態別の金利リスク量

しかし、案の定、今回の生保決算報道のなかで、こんな記事が。

 生保各社の9月中間決算では株式の運用リスクが鮮明に
 なった半面、歴史的な低金利が続く国債の含み益が
 財務基盤の健全性維持に貢献した。

 ただ衆院選後に発足する新政権の政策で、財政赤字に対する
 市場の懸念が高まれば国債価格が下落(金利上昇)し、
 一転して含み損が膨らむ危うさも抱え込んでいる。

 (中略)

 日銀の試算によると、国債の金利が1%上昇した場合に
 発生する評価損は、国内銀行・信用金庫の計5.3兆円に対し、
 生保は8兆円で、国債の保有リスクは国内金融機関の中で最大。
 金利が上昇に転じれば財務状態は急激に悪化する可能性がある。
 (SankeiBiz 11/28)

金利低下で逆ざやが拡大し、生保経営を苦しめているという見方が
一般的ななかで、この記事はむしろ金利は下がったほうがいい、
金利が上昇に転じれば財務状態が急激に悪化する可能性がある、
日銀もそのような試算をしている...

少し考えれば変だということがわかりそうなものですが...

その「逆ざや」ですが、一部で
「株式から公社債へのシフトが逆ざやを拡大させている」
という論調を耳にしました。

おそらく、日本生命と明治安田生命が「順ざや」なので、
そのように考えたのでしょう。

公表される「逆ざや」は、利息配当金収入を中心とする基礎利回りと
平均予定利率から計算しますので、確かに株式配当金が減れば、
逆ざやが拡大する要因となります。

でも、利息配当金収入に占める株式配当金のウエートは
大手4社で最も大きい日本生命で11%、明治安田生命が10%
(2011年度)と、そもそもあまり大きくありません

それではなぜ両社が「順ざや」なのでしょうか。
中間期のデータはないので、2011年度のデータを見てみましょう。

    基礎利回り 平均予定利率
 日本  2.69%    2.61% 
 第一  2.38%    2.73%
 住友  2.51%    2.89%
 明安  2.33%    2.25%

日本生命が順ざやなのは、4社のなかで基礎利回りが高く、
平均予定利率もやや低めであること。
明治安田生命は平均予定利率が低いことが主因です。

日本生命の基礎利回りが高いのは、外貨建資産のウエートが
高いことが効いているようです。ヘッジポジションも大きいのですが、
ヘッジコストは基礎利回りに反映されません。
あと、公社債に占める国債のウエートが第一と明治安田よりも
日本、住友は低いので、この影響もあるのかもしれません。

明治安田生命の平均予定利率が低いのは、
一つは団体年金一般勘定のウエートが大きいことがあります。
ただ、その分を考慮しても他社より40~50bpほど低いようです。
追加責任準備金の集中的な積み立てによる効果のほか、
そもそもの負債構造が違うのかもしれません。

参考までに、公表されたEEVをみると(日本生命は非公表)、
明治安田生命の保有契約価値が小さいので疑問に思ったところ、
第一と住友のリスクフリーレートが国債利回りなのに対し、
明治安田は金利スワップレートを使っているためとわかりました。

ということで、少なくとも「株式が多いから順ざや」といった
単純な話ではないということですね。

※写真は横浜市資源循環局(=ごみ処理を担当)のマスコット
 左が「イーオ」、右が「ふや星人ゴミーヨ」だそうです。
 ほかにも「へら星人ミーオ」「ふや星人ゴミーナ」がいました。

 

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